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『産廃創想話例大祭C『リトライ貫き少女』』 作者: 仙人掌うなぎ
本当にどうしてなのか自分でもわからないんだけど、私は多々良小傘が鍛えた針で、多々良小傘を貫きたくてたまらなくなる。
どこかで手に入れた陰陽玉やお札や針で戦う私には霧雨魔理沙が八卦路を使い十六夜咲夜がナイフを使うような、武器に対するこだわりはなかった。それは暴れるお祓い棒だって同じ。
だけど小傘の針は違った。小傘が拵えた針で何かを貫くのは、歯車が噛み合うというか、腑に落ちるというか、なんというかすごく自然な感じなのだ。
小傘の針ではじめて刺したのが小傘。小傘にボロくなった針全部鍛えて貰った後になんとなくその針で小傘を刺したほうがいい気がして、軽い品質検査のつもりで針を投げてみたら思いのほかストーンと小傘の身体を貫通して、そのときとても「上手くいった」と思ったのだ。
それから妖怪騒ぎがある度に小傘の針を使って妖怪を刺しまくる。でもやっぱり小傘を貫くときの感覚が一番落ち着く。他の妖怪では小傘のようにはいかない。
「いや霊夢ちょっと頭おかしいよそれ。疲れてるんじゃないの? 戦ってばっかりで寝てないんでしょう」
小傘は既にお札で四回ほどぶちのめしてやったばかりだというのに妙に態度がでかい。
弱いくせにタフなやつなのだ。
「私この後よそで商売あるのよー」
契約が、生活が、と小傘が私の部屋をごろごろ転がる。両手両足の動きは封じてあるんだけど、口も塞いでおいたほうがよかったかもしれない。いや封じたって術とかじゃなくて普通に何本か骨折っただけなんだけど、まあしばらく動かせないはず。
「あー足が痛い、腕が痛い! 痛い痛いよー霊夢酷いなー酷い。さでずむだぁ」
うるさい。しかもうざい。
ので早速小傘を刺すことにする。
当然、小傘が鍛え直した特製の針だ。
まずは一本、小傘の頭を掴んで左頬にぶすー。
針が小傘の皮膚を破って肉の中にするするっと入る。
「ぃにゃっ」と小傘が短く呻く。
にしてもずいぶん簡単に貫くことができた。もっと硬いかと思ってた。
この針を鍛えた鍛冶屋は本当に良い仕事をしてる。小傘だけど。それに刺されるほうも肉がもちもちぷにぷにだ。小傘だけど。
歯を食いしばったりするかと思ったけど刺した痛みで一瞬麻痺したのか、硬直してる間に左頬から入った針は小傘の肉を貫いて口の中を通って右頬から出てくる。出てくるときにほんの少し血が出たけれど、本当にちょっとだけだ。
「あ、刺さった」
あっさり行きすぎて当たり前のことを言ってしまった。
「痛い!」と小傘もようやく当たり前すぎる感想を述べる。
「そりゃ刺したんだから痛いでしょうよ」
「痛いってこれマジで痛いよ、あ、ヤバ痛い痛い!」
そんなに喋ると余計に痛くなるんじゃないか。小傘は痛い痛い痛い痛いと喚きながら身体をくねらせてばたばたするけど手足がまだ回復してない。でも変に暴れられて壁を壊されでもしたら困る。私の部屋はそんなに広くないのだ。
「少しおとなしくしなさいね」
私は小傘の頭を床に押しつけ、仰向けに固定する。でも動こうとするので頭をそのまま床に叩きつける。でも小傘は痛い痛い痛い痛いってそればかりだ。他に何か言えないのかこいつ。
ああでも、少し聞き取りづらいけどちゃんと喋れるみたいだ。針が口を横切ってるんだから、もっとほっぺた引っ張ったみたいな間抜けな感じの声になるかと思った。
私はさでずむじゃなくて小傘に針を刺したい、というか刺さなきゃいけないだけだから別に痛がってる小傘は心の底からどうでもいい。
そんなことより一回刺しただけじゃ全然足りなくて、だから次にどこを刺すのかが問題だ。
……と言っても、針は百本以上あるから、どこから刺しても変わらないんだけど。
小傘の鍛冶屋はなかなかにそれなりな値段設定なので、それはもうキツい出費だった。
さて、頬に刺したから次は……顔のどこかか。
小傘の顔を眺めると、印象的なのはやはり小傘の数少ない特徴の一つ、左右で色の違う眼。
青い右眼と赤い左眼。本人は一ツ目のつもり、らしい。
「小傘、右眼と左眼どっちからがいい?」
「何が?」
「刺すの」
「は?」と小傘はよくわかっていないような反応を見せた後、「え? あぁ、いやいやいやいやどっちも嫌、眼はまずいでしょ」
「どっちも嫌って両方刺すんだけど。順番どうするっての話」
「そこ気にするのって絶対おかしいですよ」
小傘がごちゃごちゃ言うたびに口を貫いている針を噛むからカチカチ音がする。
カチカチカチカチカチカチカチカチやかましい小傘が質問に答えてくれないので青い右眼の瞳の真ん中の黒い部分をぶち抜く。私は百発百中なので正確に真っ直ぐ刺さる。当然だ。
小傘が「んにぁーっ」と叫ぶ。とんでもなく下手な猫の鳴き声の真似のようだ。
その「んにぁーっ」を何回か繰り返した後急におとなしくなる。結構長い針だから、脳まで行ったかもしれない。まあ死なないだろう。いつもの異変じゃもっとたくさん投げて投げて投げているのだ。それで今まで死んだ妖怪はいないし、魔理沙とか人間だって腐った佃煮のようなドロドロにしても死ななかった。咲夜あたりが死んでたかもだけどよく覚えていないからたぶん記憶違いだ。
さて、続けて左眼……と、ここで少し思いとどまる。一本だけでいいのか? 左右の眼に一本ずつって、少し地味すぎやしないか?
うーん……? いや地味かどうかはどうでもよくて、ただ何かまだ足りない気がする…………。
だから右眼にもう何本か刺しておく。青いところにぶすー。ぷつりと眼球の表面が裂けて針がすとんと落ちていく。
もう一本ぶすー、さらにもう一本ぶすー。とやったらミスって瞼の上から刺してしまったけど引き抜いたら眼球か脳の中身が出てきそうだしそのまま。
そんなことより刺して刺して刺して刺して刺して刺して刺して…………。
でも何かまだ違うような……。何だろう?
考えながら刺していたら右眼にもう刺せるところがなくなっている。
ので今度は左眼。既に生気がない赤い瞳に針を刺す。
ずがんずがんずがんずがん。
ちょっと腕が疲れてきたから適当になってしまった。何か硬い感じあるし、これたぶん頭蓋骨当たってる。
それがダメってわけじゃないんだけど。ただ、針を新しく買っているとお金が足りなくて、つまり後で全部引き抜かなきゃいけないわけで、だからあんまり深く刺して抜けなくなったら困る。
でもそんなことより刺すことのほうが大切。
眼球の柔らかさと骨の硬さが混ざる。でもそれってつまり眼球の水分が出てクシャクシャになったりしないで丸いまま中身が詰まってるってことだ。眼って頑丈なんだな……。
気がついたら左右ともに小傘の眼は針で埋め尽くされていて、青も赤もない。
少し離れてみて見ると、顔の下半分を横切る針と、上半分は両眼を覆う針。
ちょっとシュール。もう少し何かのオブジェみたいにして、曰く付きの場所にでも飾っておいたら猟奇的な殺人事件と勘違いされたりするんじゃないだろうか? そんな小説を鈴奈庵から借りて読んだ記憶がある。
……ん? 殺人?
あ、もしかして小傘死んでる?
「小傘ー。こーがーさー」
べしべし叩いたり眼の針の束をぐりぐりしたりするけど反応がない。
いつの間に死んだんだろう?
まだ全然終わってないのに。
小傘、復活。
小傘の傘のほうも小傘の本体。ということは傘が無事なら人のほうが死んでも半分しか死んでないという扱いになるようだ。
ちなみに傘のほうをべきばき折ったこともあるけど、「針だってすぐ直せるんだから傘も直せます」とすぐ回復してしまった。なぜか傘の修理費は私持ちになった。
「少し気になったんだけどさ」
復活した小傘の手足をまたべきべき折って部屋に転がしてから私は言う。
「何にだって限界ってものがあるのよね」
「なんですか、もう」
「スペルカードだって枚数に限度があるでしょ? 何十枚もぽかぽか使えたら強いけど使えないでしょ?」
「そんなことになったら終わらないですからねぇ」
「一つのスペルは何十秒かで終わるようになってるわ」
「そうそう、墓場の屍とか回復するからすぐタイムオーバーになっちゃうのよね」
あれは回復させないように戦えばいいだけ。
「でも体力勝負にしたら相手次第じゃ終わらなくなっちゃいます」と小傘は右眼を閉じながら、「それがどうかしたの?」
「いや、こないだ針を豆腐に刺していったら、うちでいつも食べてる豆腐だと三十二本が限界だったの」
「はあ」
「いや、結構大きめの豆腐だったんだけど」
「……はあ」
「たぶん、あんたの心臓と同じくらいあったわ」
「……………………はあ?」
「心臓見たことないけど。でも小傘の心臓って何本まで刺さるかなーって」
「うっわ、何その発想。怖!」
「というわけで今回はまず腹を開きます」
「いやいやいやいやいやいやいやいやいや」小傘が喚く。「それマジ死ぬから。ヤバいから。死ぬ!」
死ぬといってもどうせ一時的なものなんだから言い訳になっていない。
「何も針で腹を切り開くわけじゃないわ。安心しなさい」
私は咲夜から借りたナイフを取り出し、小傘に見せる。咲夜に事情を適当にぼかして話したら(さすがにそのまま説明するのは恥ずかしかったので「斬って刺したいヤツがいる」と言った)、初心者にも扱いやすく簡単に肉を斬れるというナイフを用意してくれた。
だって心臓を直接刺すなら、針だけじゃ無理だろう。
「私、そこそこ長生きだしいろいろ酷い目にもあってきたけど、こういうのははじめてですよ。ていうか生きたままやるんだ?」
「でないと死後硬直ってのがあるじゃない」
死んだ後しばらくすると硬くなる。針が刺さるかどうかわからない。
「それってそんなすぐとかじゃなくて、何時間かかかるんじゃないの」
「そうだっけ?」
「いや私も知らないけど。たぶんそう」
「まあでも死んだ身体弄くり回すの気持ち悪いし」
「生きてても気持ち悪いからやめといたほうがいいですよ」
でも仕方ないのだ。前回はまだ何かおかしかった。
眼を刺すのがおかしいなら、他の場所を刺さないと。
私は仰向けにした小傘の首を右手で抑え、左手で胸から腹にかけてナイフを入れてまず服を斬る。思いっきりやったら私の顔に血がかかる。皮膚ごと裂いてしまった。
「痛い!」とまた小傘がそのまんまなことを言って身体を振るわせる。
服を引っ張って左胸を露出させてさっそく肌を斬ろうとすると小傘がばたばた動く。
心臓がどの辺りにあるのか、鈴奈庵でそこのところの詳しい本を借りようかと思ったんだけど、店番の本居小鈴がやたらこういう話題に食いついてくる質なので厄介事になりそうでやめた。
だから心臓を斬ってしまわないように、気持ち大きめに想定しておく。だけど小傘が変に動くから慣れないナイフでは狙いが定まらない。
「ちょっと小傘動かないでよ危ないわよ」
「危ないのはあなたですってば」と小傘はさらにばたばた。
小傘の抵抗が想像以上に激しい。やはりナイフは好きではないようだ。私だって本当は針がいいんだけど、でも針だけで心臓を引っ張り出すことはできない。
今回は一度完全に動きを止めたほうが良さそうだ。
こういう使い方はしたくなかったんだけど。
一旦ナイフを置き、針で小傘の右肩を突き刺す。貫通してそのまま床に刺さる。
びいいいいいいいいいいんと針が揺れる。
「あ…………」小傘が硬直する。
それから右肘、左肩、左肘と貫いて、足も腿と足首を刺す。両手両足が床に縛りつけられる。私の針は結構長い。簡単には抜けないはずだ。
…………これくらいならまだ死なないだろう。
手足が血だらけで、眼だけじゃなくて小傘の全身が青と赤。
「ふーーっ」と深呼吸みたいな声しか出なくなった小傘の胸をようやく切り裂ける。
左胸に手を当ててみたけど心臓の位置はわからなかった。とりあえず胸の真ん中にナイフを入れる。
さくっと入る。すごい斬れ味。骨まで斬れる。手を放したら刃が背骨まで落ちてしまいそうだ。
切れ目を入れて肉を持ち上げてべろーんとめくってみると中身は肉と骨に覆われている……というか血で真っ赤。何も見えない。
心臓って鼓動で見ればわかるのかと思ってたんだけどさっぱりだ。
とにかく肉と骨の山みたいなのをどかしてみようとしてナイフでごりごりやってみると血がじゃぶじゃぶで私も血まみれになる。小傘は腹裂いたあたりで既に動かなくなってる。たぶんもうほとんど死んでるんだろう。だから急がなきゃいけないんだけど斬れば斬るほどドロドロのベタベタな何かの塊をかき混ぜてるだけになってる。どうしたらいいんだろう。
骨がバラバラになって肉を千切って捨てて、すると虚しくなる。
私は小傘に針を刺すだけだったはずなのに何でこんなことしてるんだろう?
針を刺さなくてもわかる。これは間違えている。前回よりももっと酷い。
私がやらなきゃならなかったのはこんなことじゃないはずだ。
左胸の周りだけをそっと取り除くつもりだったのに、首もとから腹まで左半分ほとんどミンチにしてしまってて何が何だかわからない。
一応、何だかわからない小傘のグチャグチャしたものに針を突き立ててみる。
「……硬い」
針が曲がるかと思った。
小傘の顔を見る。表情がない。死んでいる。
にしても硬すぎる。刺さらない。
「…………はぁ」
私は脱力して血と肉でまみれた畳の上に倒れ込む。
でも、上手くいかないときってあるのだ。
こういうときは、やり直すしかない。
小傘、再び復活。
こうもほいほい復活すると藤原妹紅がかわいそうだけど、妖怪はみんなそんなものだ。
さて、過去二回の失敗から、小傘の眼や身体の中身を刺そうとしないでもっと普通に刺したほうがいいんじゃないかと考えた。
頬や肩に刺したときは何か上手くいきそうな感覚があったのだ。間違えたのはたぶんその後だ。
そういうわけで、今刺しているのは小傘の左脚。赤い左眼(と傘)以外青白カラーの小傘は脚も白い。しかも柔らかい。食べているものが違うからか。
足首を掴んでぶら下げるようにして持ち、針を刺していく。刺したところから白い肌が赤く腫れて血が流れる。
妖怪が血を流す姿なんて珍しくはない。小傘の血も、何度も見てきた。人間の死体だって、目も当てられないような凄惨なものを見てきた。
それでも今小傘を刺したときの血を見て今までのものと違うと感じる。
今回は上手くいくだろうか。
「れーいむー」
小傘が弱々しく私を呼ぶ。
「そろそろ脚返してほしいんですがー」
「まだ刺してるから無理」
「くっつけてからでいいでしょ」
「くっつくのどれくらいかかるのよ」
「半日くらい?」
「無理」
そんなに待ってたらまたやり直さなきゃいけなくなる。
私が持っている小傘の脚は小傘と繋がっていない。腿までで途切れている。
……違うんだ。やりたくてやったわけじゃないんだ。
前回のナイフ、咲夜から借りたヤツ、そのまま返すのもどうかと思って、折角だから小傘に鍛え直してもらおうと思ったのだ。ただでさえ斬れ味が良すぎて血も付かなくてちょっと怖いくらいだけど、そんなすごいナイフなら小傘が鍛えたらどうなるか、なんて思ってみたりしたのだ。
それで小傘に強化してもらった。針の何十倍どころじゃない金額をふっかけられた。
試しにそのナイフを小傘に向けて軽く振ってみると、ちょっとかすっただけなのに小傘の脚がきれいにとれてしまった。
ただ斬り落としただけというのも小傘に悪いので、今回は脚から刺すことにしたというわけだ。
「……何か違う」
最初は今度こそ上手くいってるような気がしたんだけど、まだ何か……。かみ合っていない。
小傘の脚は貫通した針でトゲトゲの塊になってる。それくらい刺して今更だけど、でも小傘を刺すのは小傘の脚を刺すってことじゃないらしい。
「何かが違うわ」
呟くと小傘が、
「知らないわよ、そんなの」
その声で私は閃く。小傘の脚って小傘の一部だけど、小傘の一部ってだけなら傘のほうの小傘や死んだ小傘や切り刻まれた小傘の残骸も小傘の一部だ。それらに針を刺すのがおかしいように脚も違うのだ。
どこからどこまでが私が刺さなきゃいけない小傘なのかわからない。けどやっぱり小傘が生きてて何か言ってて、その横で小傘の脚だけ刺すのは違うのだ。
側でごちゃごちゃ言ってる小傘を刺さなくてはならない。
と小傘に説明すると、
「えぇー…………ああもう……もう!」
「何よ」
「霊夢って、面倒くさいなぁ」
と半ば諦めたような小傘。諦めのいい妖怪は嫌いじゃない。
だけど私が今持っている小傘の左脚はどうしよう? その辺に転がしておくのは危ない。と考えて私はまた閃く。
小傘のスペルカードに『傘符「一本足ピッチャー返し」』というものがあって、スポーツはよくわからないけど片足立ちして弾幕を吹っ飛ばすヤツだ。
私は針まみれの小傘の左脚の足首を、自分の手を刺さないように気をつけてしっかり握る。
それを小傘の腹に思いきり叩きつける。
「がふっ」小傘が呻く。ずん、と針が小傘にめり込む。
何本もの針が、一気に小傘の腹に飲み込まれる。
「……あれ?」
私は小傘の左脚を確認する。針はべったり血と脂で光っている。ちゃんと刺さっていたのだ。
それなのに違う感じがする。
これも違うのか?
私はもう一度小傘の腹に叩きつける。
もう一度。もう一度。もう一度。
やはり何かが違う……上手くいっていない。
私は小傘の左脚を振るって小傘の腹を、胸を、腕を、顔を穴だらけにする。
でも違う。
「何でだろう」
「えぇ……。ここまでやっといてそれはないでしょ」
私の呟きに小傘が答えて私はまだ小傘が生きていることに驚く。でもちゃんと生きてる小傘を刺してたってことだ。刺す相手は間違えていない。
刺し方がよくないのだろうか。
こういうやり方なら一撃で何本も針が刺さると思ったんだけど、どうやらそれでもないようだった。
ならば刺し方が悪いのだろうか。
初心に帰って針を投げてみようか。
私は小傘の左脚を床に放り投げる。針が畳に刺さる。
「使わないんなら脚返してよ」と小傘が言うけどそれどころじゃない。
私は小傘に向けて針を投げる。
針が私の右手を貫通する。
「は?」
何が起こった?
私が投げた針が私に当たった。小傘は……何もしてない。
「ちょっと、何やってるの」
小傘が右足だけで立ち上がろうとして転ぶ。
手のひらが熱い。焼ける。溶けそうだ。
「何やってるの、霊夢」
「わかんない。けど私に当たった」
「……今、自分で刺してたじゃん」
そんなバカな。私はちゃんと小傘に向かって投げた。
「もー霊夢、無茶し過ぎだよ」小傘が呆れ顔で言う。「そういうのって自分も傷つけるんだよ。よくないよ? 私を傷つけるのもよくないんだけど」
「もうちょっとで何か掴めそうだったのよ」
「やめといたほうがいいよ。次何起こるかわからないよ」
わからなくていい。
今ここに、私がいて、小傘がいて、針があるのだ。
だから私は針を持つ。
やり直して、考えて、貫いている。
作品情報
作品集:
12
投稿日時:
2015/06/20 17:00:51
更新日時:
2015/06/21 02:12:12
評価:
11/13
POINT:
1070
Rate:
15.64
分類
産廃創想話例大祭C
霊夢
小傘
途中から小傘がゲシュタルト崩壊してしまいました。哲学な内容だ。
なんなんでしょうね、この霊夢の謎の理屈は。
道具だから収めておかないと駄目ということなのかしら。
愛とは違うけど良いこがれい
トライ&エラーで思索に耽る霊夢。
小傘が注意した取り返しのつかない、不可逆の瑕疵――自傷が、霊夢の目指す道か!?
カップリング愛が文面からひしひしと伝わってきます…。