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『産廃創想話例大祭C『厄神様の剪定作業』』 作者: 音丸
春の陽気が心地よく、木々の緑が目に優しく萌える、そんな日の朝のことでございます。
それまでくるりくるりと回っていました厄神様も、お疲れがでたのでしょう。今は木漏れ日の射す岩の上、うとうととしております。
...あやや、申し遅れましたね。わたくし、天狗の射命丸文と申します。
普段は"文々。新聞"という新聞を書いている記者でしてね。ええ、清く正しく美しくをモットーにしてますよ。
ただ、まぁ、この頃は特に異変も何も無くてねぇ。そんなところに厄神様ですよ。普段誰とも関わらないあの人の一日なんて、ちょいと"みすていりあす"でいい記事になりそうな気がいたしましてねぇ。
「それで朝の着替えのしぃんからこうしてきゃめらに収めているわけでごふぅおあぁ...!!?」
「文さん!?」
目の前に突如として現れた超大型弾幕に鴉天狗は為す術もなく、
側で控えていた白狼天狗の能力範囲よりも外へぶっ飛んでいったのであった。
「...相変わらず物騒だねぇ。」
「あら、いつからいたの?」
天狗を千里以上吹き飛ばした彼女にそういって近づく人参を模ったネックレスをした妖怪に対し、厄神こと鍵山雛は特に驚かずに振り向いた。
「あんたが仕事やめて弾幕の力溜めだした時。」
「あら恥ずかしい。」
「何いってんだお前」
地下で"太陽"と呼ばれたという八咫烏のそれに匹敵するような弾を打った厄神に、少し呆れながら因幡てゐは続ける。
「別に良いじゃないか。天狗の一匹や二匹いなくなったところで幻想郷は変わらないさ。何で遠ざける。」
「因幡さん。例えば百匹の天狗が一度にいなくなったとしても、確かに幻想郷は変わりません。でも、わたしには非の無い命を無下にはできませんからね。」
「そうさね。確かに非の無い命は無下にしないんだろうさ。」
てゐはそういって、背中に担いでいた木製の十字架を降ろす。
「ほら、今週の"贄"だよ。」
「いつもありがとうございます。」
「半ば強制的にやらせといてその台詞かい?」
それには答えず、雛は十字架に掛かっている男に触れる。
「...厄いわね。」
「そりゃあとびっきりだよ。この仕事させられてから一番の奴だと自負できる。」
「十二でこじらせて一家五人を惨殺、その後は知恵をつけ、三十二までに四十五人殺してる。そんなところかしら?」
「ご名答。ちなみに強姦致死がそのうち二十、最後の一人は骨までバラされて絵に飾られてた。」
「うわぁひくわぁ」
棒読みしながら、雛は十字架から男を外しててゐに預ける。
よっと。などと声を上げながらてゐは自分よりも図体のでかい彼を受け取ると、少しその匂いに顔を顰めながら言う。
「連れて来る時に川をくぐらせればよかった。」
「禊と目覚ましも兼ねて、滝壺に放り込みましょう。」
雛の方まで匂いが届いてるのだろう。心なしか顔を歪ませながらそう言った。
−−−−−−−−−−−−−−
「もがぁっ!???」
滝壺に放り込まれた男は突然起きたことに自分の理解が追いついていないようだが、何とか生にしがみつこうともがく。
「まるで"みにくいあひるのこ"だね。」
「鶏とか水に沈めるとあの様な感じになるのでしょうか?」
その憐れな様子を少しばかり滑稽に思いながら、可哀想な彼を岸に上げる。
「おいっ!おめえら何もんだっ!俺が誰だか分かってやってんのかぁ!!?」
まぁ、分かってなきゃやらないし、などと思いながらてゐは彼を羽交い締めにする。
自分よりも小さいように見えるとはいえ、二千も生きている妖怪の力だ。しばらくの間暴れていた男も、力では敵わないと悟り大人しくなる。
「さて、始めようか。厄神様。」
「そうしましょう。」
格好からして人間離れしている二人の会話に、男は恐怖を覚えた。
「俺は守屋神社の信者の一人だ!お前ら妖怪だろ?俺に手を出せば八坂様が黙ってなぃ..
「うるさいねぇ。あんたの目の前に立ってんのも幻想郷の神が一人よ。だいたい、信者として何かしたことでもあんたにはあるのかい?」
尋ねながら、てゐは今折った腕をさらにもう一折りする。
男は声にならない悲鳴をあげているが、それには構わずに雛は何かを詠唱していた。
元々彼女の周りには、色で例えるなら黒と紫を合わせたような、そんな"おうら"が漂っていたが、今ではそれが雛の顔ぐらいの大きさまで凝縮され、見るからに不気味な球体となっている。
「...なにを......するんだ...」
男はぜえぜえと息を吐きながら、なんとか喋る。
「そうら。よおく見ておきな。あんたの最期に見る景色なんだから。」
てゐはそう言うと男の目線を雛の方へ正す。
目の前の厄神はくるりくるりと回っていた。
男は昔、父親から教えられたことを思い出す。それまでそんなもの信じてはいなかったが...
"妖怪の山の奥には、絶対にいってはいけねぇ。"
"そこにおはす厄神様にあったら最期。"
"二度と生きて帰ってはこれねぇぞ。"
くるりくるりと厄神が回る。これから死ぬ男の脳裏には、かつての父親の言葉がべったりと張り付いていている。死ぬのはまだ怖かった。死にたくない。いやだ。死ニタクナ...
「アジャラカモクレン!!」
「...は?」
恐怖に囚われていた男の緊張に、一瞬隙がうまれる。目の前ではドヤ顔でディスコの決めポーズみたいな格好をして、片手を腰にあて、もう片方で宙を指している厄神様。
だが男にそれが何かを考える余裕など無かった。それまで厄神の周りを漂っていた禍々しい球体が男の口に入り込む。
ごばぁ。などといいながら、男は苦しさに悶える。もはや走馬灯を見る暇も無い。ただひたすらに苦しい。
"いやだ"
球体は男の体の都合など考えない。
"だれか、たすけてくれ"
男にひたすら苦しみを与える
"なんでこんなめに"
苦しい
"いままでのおこないが"
苦しい苦しい
"かえってきたのか"
苦しい苦しい苦しい
"ごめんなさい、すみませんでした、たすけて"
苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい
"もういやだ、これまでのことはすべてあやまるから、だから"
苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい
「助けてください神様ぁぁ!!!」
−−−−−−−−−−−−−−
皆が寝静まった夜。少年は包丁を片手に家族を見ていた。
昨日は彼の十二歳の誕生日だったが、だれも彼の欲しいおもちゃはくれなかった。
寺子屋では一番の成績で、全員が自分のことをすごいと褒めてくれる。
なのにこの家族ときたら、俺に逆らうのだ。なんでだ。納得がいかない。そんな奴らいなくても...
包丁を振りおろす手を止めたのはカタリと音がしたからだった。誰かに見つかったかと音がした方を見ると、木製の小さな額縁が倒れている。
少年は何かに取り憑かれたように額縁に引き寄せられる。
そこには、新聞記事の切り抜きが入っていた。
"文々。新聞主催、大衆俳句会。テーマは大切な人!"
大賞の欄に、自分の名前と、家族の詩がある。横には家族の写真がある。
少年は包丁を元に戻し、自分の寝床に戻り、そして泣いた。
もしあそこで自分が違う行動をしていたら、と恐ろしい想像に背筋を凍らせながら、その恐怖に怯えて、泣いた。
朝が来たら家族は何も知らずに自分を起こしにくるであろう、その毎日を自分が消そうとしたことに、泣いた。
−−−−−−−−−−−−−−
「うまくいったようだねぇ。」
自分達の半径五めぇとる以内からはすべての生物が消え去っている。
「そうですね。ありがとうございました。」
その光景に、少し胸を痛めて二人はその場を後にする。
この世界は絶えず分岐する。
ただし、あくまでもそれは人間の話であり、特に神が一人である雛には関係ない。
よって少しばかり世界線は越えられるのだ。
男が緊張を解いた瞬間、世界は分岐した。
そこに彼の願いを神の力と厄と少しの幸運で湾曲させ、違う世界線を通って最初の大きな分岐点まで彼を戻した。
神の力の越権だと言われればそうかもしれないが、堕ちていく人間を、元人間として鍵山雛は見捨てることは出来なかった。
「ん、どうした?」
上手くいったはずの厄神の曇り顔にてゐは尋ねる。
「いえね。あの時、わたしは笑わせようと思ったのですよ。」
「アジャラカモクレンかい?」
「面白くなかったですかね?」
そう言うと、かつて竜宮の使いがしていたぽうずをまねる。
「...まぁ、二番煎じだしねぇ。」
「困りましたねぇ。最期くらい笑わせたいのですが...。」
「それまで恐怖の真っ只中にいた人間を、いきなり笑わすのは厳しいものがあると思うが...。」
少しの間二人で俯き、ふっと顔を見合わせて、くすりと笑いあった。
「さて、来週もお願いします。」
「そろそろ仕事もなくなるかねぇ。」
「だといいですね。」
二人が別れた時には、まだ春の陽気を帯びた太陽は真上にいた。
そのひかりを受けてぽかぽかとしている人間の里を見ながら、たまには里に降りようかなどと思った。
今なら厄は出し切っており、人間に近づいても大丈夫だろう。
着替えるかー、などと伸びをしながら、厄神様はその場を去る。
春の陽気が心地よい、木々の緑が目に優しく萌える、そんな日でございました。
はじめまして、音丸といいます
初投稿でお祭り遅延ってどういうことだよぉ...
音丸
作品情報
作品集:
12
投稿日時:
2015/07/05 11:44:42
更新日時:
2015/07/05 20:44:42
評価:
8/11
POINT:
780
Rate:
13.42
分類
産廃創想話例大祭C
鍵山雛
因幡てゐ
初投稿かつ遅延
少し寂しい感覚に襲われました。
運命のセカイ呪の選定も楽じゃない。
幸福兎と若干の“ゆぅもあ”で厄は落とされたようで、めでたしめでたし☆