Deprecated: Function get_magic_quotes_gpc() is deprecated in /home/thewaterducts/www/php/waterducts/imta/req/util.php on line 270
『穢れの化身』 作者: まいん

穢れの化身

作品集: 1 投稿日時: 2011/09/30 13:27:46 更新日時: 2012/01/21 01:01:57 評価: 3/9 POINT: 430 Rate: 9.10
注意、この作品は東方projectの二次創作です。
   オリ設定、オリキャラが存在します。





「さぁて、盆栽盆栽っと」





「え〜いりん! 何か手伝う事はあるかしら?」





「イナバ! さぁ、御飯の支度をするわよ」





「因幡? 今日は何処へ行くのかしら?」










「師匠、最近姫様が明るくなりましたね?」

「そうね、幻想郷の住民に見つかってから色々あったけど、それが良い結果に転んでくれて良かったわ。 それに……」

「それに? 何ですか?」

「ふふっ、なんでもないわ。ただ、どうしてもっと早くこうしなかったのかな?って思ったのよ」

「へぇ……師匠でも後悔する事があるんですねぇ……」

「ウドンゲ、私をからかうとは良い度胸ね? 後でお仕置きね」

「ひぃっ、ごっごめんなさい師匠! 許してください」

今日も竹林に叫び声が響く。永夜異変から多少の違いはあれど毎日変わらない日々。竹林に存在する永遠亭、そこの姫は従者の一言により永遠に続く人生に転機が訪れた。

最初は盆栽の世話(監視)だけであった、そのうちに従者…永琳の手伝いを始めた。そして家事全般の手伝い、竹林の見回り(散歩)もするようになった。それでも宿敵との殺し合いは欠かしたことが無い。

永遠を生きる彼女にとっては暇つぶしの一つかもしれないが、彼女もこの生活には満足していた。これから先も自分や永琳は死ぬことは無い、でもイナバ達はいつか死ぬ。それまではこの生活を続けたい。せめていつか訪れるであろう、その日までは……










「因幡! 今日も竹林の見回りを始めるわよ!」

「はぁ〜い」

彼女…輝夜より小さい妖怪兎の彼女…てゐはやる気無さそうに返事をした。

「じゃあ、私はあっちを周るから、貴女はそっちをお願いね」

「はいはい、解りました」

ぴょ〜ん、と長い跳躍で跳んでいく兎の彼女を見送り自分も歩き始める。

永遠亭から人里に続く舗装された道、永夜異変の後開業した永遠亭の診療所へ続く道、迷いの竹林を迷わずに永遠亭へ行く為に造られた道、この道はそういう目的で作られた。

その道をとことこと歩き、竹林の入り口まで来た為戻ろうと思った。その矢先向かい側から全身黒尽くめの人物がやってきた。

「……こんにちは……」

「こんにちは」

人物の声は男の声のようだ、声は酷くかすれていたが威厳があった。

挨拶をされた為返す、このあたりは流石姫であった。

「すまない竹林の姫君、永遠亭はこの先でよろしいかな?」


???


質問をされた為答えようとしたが、何かがおかしいと思い彼女は答えなかった。

何故彼は私を姫と知っているのか? 会った事は無い筈なのに。その一瞬の思考の後、男から大きく距離を取る。

「貴方、会った事の無い私が何故姫と判る? 大方妹紅の刺客か何かね?」

長い袖に両手を隠した後、びしっと彼に指を差す。

ふと、指先が軽い事に気付く。





「お探しの品はこちらかな?」

いつも彼女が持ち歩いている神宝、蓬莱の玉の枝が彼の手にあった。

あっけにとられている彼女であったが、それに追い討ちをかけるように男が動く。眼前に居なかった彼が一瞬で眼前に迫る、彼女はこの世のものでは無い何かを見る眼で固まっていた。

彼は外衣(マント)を広げ、輝夜を包もうとした。不意に後ろから声がする。

「姫様〜!」

「因幡? いっなっ……」

彼女は外衣に包まれ、意識を失った。










目が覚めると殺風景な部屋の中に居た。目の前には例の彼も居る。怒り心頭の様子で彼に言った。

「こんな所に連れ込んで、一体何をするつもりなのかしら? そして貴方の目的は?」

姫の威厳は健在である、事実彼女が本気を出せば自身の神宝など無くても敵う者いない。正気を取り戻し冷静になった彼女は目の前の男が取るに足らない者だと思えたのである。

「よろしい、説明しよう」

男は何ら取り乱す事なく彼女に話し始める。

「昔々ある処に肌の青い者が居た。最もこの時の彼は赤い肌をしていたがね……彼には暗闇を漂う事しか許されなかった、来る日も来る日も……」

疑問を浮かべながらも話を聞く輝夜。

「ある日彼にぶつかった者がいた、白い肌の彼女である。彼女がぶつかった事により彼と彼女の一部はバラバラになってしまった。幸いにもそのバラバラになった部分は彼と彼女の一部に戻る事が出来た」

「彼と彼女はその日から一定の距離を置いて添い遂げる様になった。彼も彼女も声こそ掛け合わなかったが幸せであった」

「ある日青い肌の彼に寄生する者が現れた。寄生する者は青い肌の彼を不浄の大地と呼んだ。やがて寄生する者共は白い肌の彼女に移り住んだ、寄生する者共は彼女を高貴なる大地と呼んだ」

「言葉は言霊となり実現する、やがて彼と彼女の間には黒い霧が立ち込める。彼らは酷く悲しんだ、黒い霧も私さえ居なければと、己を恨む様になった……」

「つまり、何が言いたいのかしら?」

「昔話に理由を求めるのは野暮というものだよ、姫君。そうだな……これを思いっきり握ってみてくれないかな?」

投げ渡されたのは硝子のコップであった。

輝夜は違和感を感じつつもコップを握る。

「これが一体何だというのかしら?」

コップを放り返し彼女は言う。

「理由など言わなくともこれから解る事だ」

そう言いながら彼は輝夜に近づきながらコップを握る、バリッ、ゴリッ、等という音が聞こえながらコップは彼の手の中に消えていく。

彼は輝夜の胸倉を掴み口を無理矢理口を開かせ、彼女の口に先程の硝子の欠片を放り込む。

「ムーッ! ムーッ!」

彼女はその異物を吐き出そうとするが、彼が口を押さえているので吐き出すことは出来なかった。

「では姫君、良い人生を……」

そう言うと彼は思いっきり彼女の顔を殴りつけ、笑い声を上げながら霧の様に消えていった。




当の彼女は殴られた衝撃で口の中一杯に鉄の味を覚えた。

「おげええええええええええ! うぐぐっ! げえええええええええええ!」

大量の硝子片と共に大量の血を吐く、舌も口中もズタズタになり喋る事すら困難であった。それでも彼女は明確な言葉で恨み言を言った。

今に見ていなさい、必ず後悔させてやるわ。










次の日は体中を刃物で切られた。

その次の日は爪を剥がされ片目を抉られた。

その次の日は腹を捌かれ内蔵をぶちまけられた。

その次の日は刃物で体中を突かれ抉られた。

その次の日は腕と脚を寸刻みで輪切りにされた。



蓬莱人とはいえ暴力を振るわれれば痛いし、殺される時は筆舌に尽くし難い苦しみが襲う。とはいえ永い時を生きる彼女にはこの程度はどうということも無かった。

既に彼女は勝ち誇っていた、意気込んでいた相手が万全の手を尽くしても自身には手も足も出ない事を理解させる、これこそが彼女にとっての最高の勝利であるから。






今日も飽きずに男がやってくる、そう思いながら今日は何をされるのかと思い、彼を見る。

「今日も飽きずによく来るのね……あら? 貴方の身体消えかかっているわよ? そんな身体で大丈夫かしら?」

勝利を確信している彼女からは相手を気遣う余裕さえある。

「くっくっくっく」

男は彼女の気遣いを含み笑いで返し話を続ける。

「まさか気付いてなかったとは恐れ入るよ。確か君たちの人種は、穢れ、というものに当てられると、その能力を失うと聞いていたのだがね……」

「どういう事なの?」

男は近づき彼女の胸倉を掴み上げる。

「まっ、まさか。 離しなさい無礼者、そのような汚らわしい身で……」





『貴女の様な高貴な者達に私は死にも勝る屈辱を頂戴した』

どこかで聞いた声に輝夜は驚いた。この声は月を隠した時に……紅白巫女と一緒に居た……

『気付いていながら、貴女は私を見逃した。おかげで良い物が手にはいったわ〜』

「しっ、知らない! 私は貴女の企みなんて知らない!」

亡霊の姫の声に彼女は拒否の言葉を上げる。

『貴女は言ったわね、私達に下賤の民と……確かに貴女の言った通り月の都は地上に無い華やかな所でとても綺麗な場所だったわ。でもね……私はその高貴な者達に、地上に帰るまでの間ずっと陵辱されていたのよ、私達が考え付かない様な犯され方をずっと強要されたの……』

「止めて! 私はそんな事知らない。命令した覚えも無い。私のせいじゃないの! 許して」

博麗の巫女の声、その言葉一つ一つが心に突き刺さる、彼女は耳を押さえ許しを請う。

「どうした? 姫君。地上の記憶がそんなに怖いのか?」

男のそんな声を聞いて、反射的に殴りかかる。しかし、彼女の拳は虚空を切る。

「酷い姫君だ……」

男はその言葉を吐き捨てるや、手を離す。

「あっ……」

突然支えを失った輝夜の身体は落下する、その落下の途中、彼女の顔に豪腕が振るわれる。

バギィ!

「あぐっ!」

殴られた勢いで彼女の身体はゴロゴロと転がっていく。聞こえているか解らない彼女に男は声をかける。

「それでは姫君、良い人生を」

またも、男は霧の様に消えた。

















『姫様、起きて下さい、姫様』

「ううん、因幡、後五分」

睡眠延長のお決まりのセリフを言う輝夜、違和感を覚えて目を覚ます。

「いっ、いやああああああああああああああああああああああ!」

「そんなに驚くことは無いだろう? 流石の私も傷つくよ」

彼女はいつの間にか椅子に座らされていた。

「先程の声は気に入って頂けた様だね。折角だからもう少し話をしようかな」

「そっ、その悪趣味な性格を治すなら聞いても良いわよ」

強気な姿勢を崩さない輝夜であるが、知り合いの声と寝起きの回らない頭で非常に混乱していた。先程の会話も言葉が上ずっていた。

『しかし、姫様も酷いなぁ、私はお師匠様と姫様を隠す為に契約を結んでいるのに……まるで自分の部下の様に扱うんだもの……』

更に男は声を変えて話を続ける。

『姫様! 見てください! 荒事と狂気は私に任せてくれると仰いましたね。今日も沢山の人間と妖怪を仕留めました、見てください彼らの体液を私の目の様に綺麗ですよね……私は月から逃げてきて正解でした。 穢れに塗れた私は今とても幸せです、穢れに塗れば昔を忘れられる。だから姫様御命じ下さい、狂気と本能の赴くままに戦い血を浴び続けろと……』

彼女の奥歯はガチガチと震えていた、彼女がこんなセリフを言うわけが無い。彼女は普通の日常で満足している、している筈であると……しかし彼女の考えを肯定する者も否定する者もこの場には居ない。

そして、彼女の考えていた最悪の声が聞こえた。

『姫様、姫様? そんなに汗をかいてどうしたのですか?』

「あっ、ああっ……」

『そんなに穢れてしまいまして不憫に思えます。その身体はもう御捨て下さいませ』

そう言うと男は鋭利な刃物を取り出す。勿論声は永琳のままである。

本当の永琳であれば主の為苦しみを極力与えない様にしただろうが、生憎彼女の眼の前に居るのは目的の理解できない不逞の輩である、永琳の声で近づく彼に一切の抵抗が出来ぬまま彼の余興に付き合わなければならなかった。

彼は鳩尾から下腹部に至るまで一直線に切れ目を入れた、今まで内部を護っていた表面の膜が力を失った為、内圧からか腸が外に出始める。彼女は無駄と解りつつも腸を押さえこれ以上の流出を防ごうとする。それも徒労に終わる彼は彼女を仰向けに倒し解体を続ける、椅子はいつの間にか無くなっていた。

最初に大胸骨と肋骨はへし折られ心臓や肺が丸見えの状態となった、普段鎧の様な骨や細かい物から護ってくれる皮膚が無くなった事により、少しの振動や息遣いの様な僅かな風でも激痛が走る。

「あ、ああああ、ああああああ」

胸周辺の骨を麻酔無しで折って除ける、常人ならまず耐えられるはずが無い、蓬莱人であるからか彼女は呻き声を上げながらも、生きながらえている。

『姫様、貴女の中が見えますわ、とても綺麗でとても美しい、この様な光景が見れるなんて私はとてもとても幸せですわ』

永琳の声で言った彼は解体を始める、内臓を覆う膜を乱暴に剥がし肝臓に刃を突き立てる、抉って血が溢れた所で切り離し摘出。粘液で刃がうまく突けない小腸や大腸周辺にも乱暴に刃を突きたてる。

ザクッザクッ、という風に何度も何度も。

彼女は何時もの様に意識がすぐに遠のくと思っていた。

しかし、その度に永琳の声で呼び覚まさせる。

『姫様? 大丈夫ですか顔色が優れないようですが』

偽りと思っていても反応してしまう、彼女は懇願する。

「……殺して……早く……殺して」

『姫様、何を弱気な事を仰います』

そう言いながら男は胃から大腸までを乱暴に千切り、投げ捨てる。最早彼女には抵抗の為の声や悲鳴を上げる余裕さえなかった、ただ殺してと呟くだけであった。

その後は彼女にとっては無限に感じる程の長い時間であった、肺を切られ、突かれ抉られ、千切られ、潰され、炙られ、ありとあらゆる痛みを与えられ、摘出された。

もう片方の肺にも先程の二倍の時間を掛けられ同様の処置をされた。

そして最後に心臓を捕まれ、握られた。心臓は握られた力によって徐々に鼓動を弱めていく、しかし弱まると信頼していた従者の声が響く。

『姫様、大丈夫ですか? 姫様』

彼女は瞳から涙を流しながら意識が混濁していく、いつまでもいつまでも従者永琳の声を聞きながら。










『姫様、姫様! 起きて下さい姫様』

「イナバ? 解ったわ今起きるわ……なんていうと思ったかしら?」

鋭い拳筋で声のした方向に拳を入れる。手応えあり、ふっと笑い声を零しその手応えの先を見る。

「やれやれ、酷い姫君だ……」

声は何時もの男の声であったが、その顔は輝夜の見知った顔、鈴仙の潰れた顔であった。

「ああああ、ああああああ!!! ああああああああああああああああああああああ!!!」

なんという事をしてしまった、そう思い、頭が真っ白になる。慌てふためき叫び声を上げ腰を抜かして、後退りをする。その様子を男は軽く笑う。

「この顔は何通りかの可能性の内の一つだ本物ではない。そんなに取り乱すことも無いだろう?」

「あああ、嫌っ! いやああ! あああああああああ!」

しかし、輝夜は普段身近にいる人物を自身で手を下してしまった事で混乱していた。それが偽者だと判っても心は拒否で一杯であった。

『輝夜、そんなに我侭を言わないで下さい。そうです一つ昔話をしましょう』

永琳の声で言われるものだから混乱が更に輝夜を惑わせる。

「止めなさい! その声で喋るのを止めなさい!」

輝夜は男の胸倉に掴みかかろうとした。その瞬間を狙っていたかの様に絶妙のタイミングで男は裏拳を入れる。

ぐげぇ、という声と共に輝夜は殴り飛ばされる。男は近づき輝夜の首を持ち、宙吊りにする。

『昔々のお話です、ある所に竹取の翁と謂う人物がおりました……』

話はおとぎ話の竹取物語であった。男は永琳の声で言いながら、短刀を取り出し輝夜の首筋に当てる。心此処に在らず、そんな状態の輝夜の肌に刃を滑らす、つつつ、と滑らした先からは真紅の雫が結露する。






どの位経ったか、おとぎ話なのでそれほど時は経っていない筈だが、輝夜の肌を滑っていた刃は首筋、首元、左胸、鳩尾、右脇腹、臍、下腹部と滑っていった。



『……そして、月の使者に連れられ輝夜姫は月に帰って行きました。彼女の世話をしていた翁とお婆さん、そして、彼女に目を掛けてくれた皇帝には不老不死の薬が贈られました。めでたし、めでたし』

ようやく男のおとぎ話が終わる、輝夜は切られ続けたためぐったりとしていた。

「だが……姫君はこの先を知っているのではないかね?」

その言葉に、はっとして男の顔を見る。男の顔色や眼は捉えることが出来ない。どこまでもどこまでも続くような深淵の暗闇に彼女は吸い込まれる感覚を覚える。










『……しかし姫様、邪魔をした者だけでなくあの者まで始末してしまって、よろしかったのですか?』

『何? 永琳、私の決定に不服なのかしら』

今、彼女が見ているのは迎えに来た月の使者を皆殺しにした記憶である。ただ、彼女の記憶とは決定的に違う所がある。

『永琳、高貴なる月の民の私が下賎なる地上の民に世話になるなど、人生における汚点。その様な穢れは今ここで断っておく方が良い』

『流石は私の使えるべき姫様、御見それしました』

彼女が意識を失う前に見たのは、自分が好意の感情を寄せていた老夫婦の死体を踏みつけていた自身の姿であった。










眼を覚ます一瞬の時間、輝夜は夢を見ていた。

『婆さん、竹林に光る竹があったんだ。その竹からかわいい女の子が生まれおった』

『お爺さん、ほんに可愛い子ですね。私ら二人で育てましょう』

『うん、この子は輝夜姫と名づけよう』






「……幸せそうに、自身に都合の良い夢はさぞ見心地が良かろう……」

その声に輝夜は全身の毛が逆立つ程の恐怖を覚え眼を覚ます。

「ひっ、いやああああああああああ!」

眼を覚まし逃げる。しかしこの部屋に逃げる切れる場所も無く壁際ですぐに追いつかれてしまう。

男は前日と同じ様に彼女の首を掴み吊り上げる。

『そんなに怯えんでも、此処には貴女に危害を加えるものしかおらんよ』

『そうじゃそうじゃ、折角じゃから楽しもうじゃないか』

声は昨日の老夫婦の声。

「止めろ! 止めろぉぉぉぉぉ! その声で、愛しのあの人達の声で喋るのを止めろおおおお!」

輝夜は涙を流し自身で出るであろう精一杯の声で叫んだ、男の言葉を拒否する様に……

叫んでいたので気付かなかったのか、彼女の鳩尾からやや上方に向けて刃が突き立てられる。

「へぎゅっ!」

奇妙な声と共に彼女の心臓が刃に突かれる、心臓を貫き背骨と肩甲骨の間から刃が顔を出す。

遠のく意識の中、またも男の深い闇に自身の身体が落ちていく錯覚に襲われる。






ひゅんっ! …………バチィッ!

『……ごめんなさい、ごめんなさい……』

最初に見た少女は両手を上で縛られていた。彼女の口から出る言葉は許しを請う言葉だけであった。

『そんなに謝る事はないよ、貴女は悪い事はしていないのだから……』

その声は非常に穏やかであった。だが輝夜が見たその顔は、非常に醜悪で、非常に邪悪で、人という種族が本来持っている狂気を知るにはあまりに凶悪過ぎた。

彼女の目の前で老夫婦は少女を鞭で叩き、棒で殴りつけた。

彼女が意識を失っても、水をかけ、意識を取り戻したら、また叩く……

『輝夜姫、今日はまだ始まったばかり、思う存分楽しもうじゃないか』

輝夜の意識が完全に途切れるまで、過去世話になった老夫婦の声は響き続けた。














「いやああああああああああああああああああああああああ!」

叫び声を上げて、眼を覚ます輝夜。しかし最早最初の威勢は無い。

今まで見ていたのは、男の幻覚、確かに幻覚である。そうその筈、しかしいくら否定しようとも肯定する者も否定する者もこの場には居ない。

いつ終わるとも分からぬ悪夢に彼女の精神は極限まで磨り減っていた。

「随分うなされていた様だな、姫君よ……」

男の声を聞き、その方向に顔を向ける、しかし目線は泳ぎ彼の顔を凝視する事は出来なかった。正気ではなく半狂乱に近い状態であった。

「いやぁぁ……嫌ぁぁぁぁあああ! ああぁぁぁぁああああぁぁぁぁっ……」

男は彼女の叫ぶ姿を無視し、近づき首を掴み吊り上げる、前日と変わらない作業である。

更に取り出した刃物で彼女の気道を真横に切り裂く。彼女の首は半分ほど雑に千切れて骨だけで繋がっていた、噴水の様に真横に血が噴出した。

突如男の手からは炎が上がる、蓬莱人の彼女にとって火あぶりはぬるま湯の様なもの、炎で身体が燃え尽きればそれまでの刑であった。

その炎は彼女にぬるま湯ではなく、本物の灼熱感を与えた。

「ああああああああああ! 熱い! 熱い! あああああああああいいいいっああああ!」

『お前は自分の退屈を紛らわす為に地上に来たらしいな? だがそれがこの様だ! お前のせいで父やその友人は人生の幕を降ろさざるをえなかった。 可哀想に……お前が去る際に置いていった薬のせいで罪も無い男が一人死んだ。 お前に関わっていた為に罪も無い老夫婦は無残な死に方をした』

「あああっ、ぐっ、くふっ」

『いいよな、お前は……お前の傍には必ずお前を思う人がお前を理解する人が居る。だが私にはそんな者は最近まで居なかった。……知っているか? 死ぬことも老いることも無い少女が……いや、化け物が……力が無かったらどんなに無慈悲な事をされるか、どんなに無慈悲な事を受けいれなければならないか』

『もっ、も……こ…………う』

輝夜は自身が燃え尽き、自身の身体を見たところで意識を手放した。










その日から輝夜は変わった。

身近にいた者、いつの間にか知り合った者、かつて世話になった者、それらの声で責め苦を味あわせられるのは彼女の精神を壊すには十分であった。

一日の終わりには狂乱状態になり自身の肉体の終焉と共に一日を終える。

蓬莱人故、次の日にはまともな精神、まともな身体で眼を覚ます。

彼女は精神的、肉体的に抵抗という手段を一切失ってしまった。





その日からも彼は彼女に責め苦を行う。

切る、突く、抉る、斬って、縛って、殴って、叩く。

爪を剥がして、耳を削ぎ、鼻を削ぎ、顔を削ぐ。

全身の皮を剥ぐ、指を潰して、手も足も腕も脚も潰す。

手首を捻じ切る、足首を捻じ切る、肘を肩を膝を各関節を捻じ切る。

股を裂いて、脇を裂いて、肩の骨を抉り出し、脊柱を弄りたおす。

血液を弄り、骨を弄り、脳を弄る。

水に沈め、土に沈め、虫に沈め、動物に沈め、炎に沈める。





『人間って本当に下賎ねこれを見ればその通りだと誰でも理解できるわ』

男は永琳の声で喋る。男の前には様々な器具が所狭しと置かれている。

牛、馬、鳥、棺桶、梯子、花、無花果、茨、車輪、十字架、万力、算盤、洗濯板……

人が考え、人が作り、人を苦しめる為の器具。

男は連日連夜、人の悪意の塊で彼女を責め続ける。













何日経ったか……数日、数月ぶりに彼女は言葉を出す。

「……もう……やだ、…………お願い…………殺して」

男は鼻で笑った。

彼女の後ろには、宵闇の妖怪と、亡霊の姫をかたどった骸骨が佇んでいた。

その骸骨達は本来の声と同じ声で喋り始めた。

「あ〜、今日もお腹すいたわ〜、さぁ〜てご飯ご飯。全部残さず食べなきゃね」

「そ〜なのか〜」

「い……や…………いたい……の…………い…………や……」

男は袖の中が見えない、裾の中が見えない、顔を見ようと覗き込んでも見えない。

骸骨達が輝夜を食べ始めるのを見て満足そうに去っていく。

カツ、カツ、カツ。

「い……か……ない……で………………いや……ふ……じみ……い…………や……」













不死の者が痛み、苦しみを味わう時。

不死身という地獄が始まる。










心行くまで…………










楽しむがいい。








キィィィィィィ、バタン!
カツーン、カツーン、カツーン……

冷たい印象を受ける殺風景な部屋に靴音が響く。

「姫君よ気分はいかがかな?」

永遠に続く地獄の様な日々に輝夜は思考する力を失っている、正しくは思考する事をやめていた。

「私と姫君が別れてから、全ての生物が輪廻を一周する程の時間が経った」

パチンッ!

男は指を鳴らす。そして、テレビの砂嵐の様に周りの景色が変わっていく。男の姿も景色と同じ様に消えていく。
思考をやめた筈の輝夜の目に精気が戻っていく。

「青い彼と白い彼女の仲を引き裂く、私という存在を創った君達を私は決して許さない。そう、決してだ……」

男の笑い声が響く中、彼女は遠い、遠い記憶の元へ戻っていった。彼女が居る場所は彼女にとってはどれ程か昔に住んでいた永遠亭であった。

呆然とその場に立ち尽くす彼女の元に、パッタパッタと慌てた様子の足音が近づいてきた。

「輝夜! 無事ですか? 昨日てゐから輝夜がならず者に誘拐されたと聞いて心配をしてました」

一体どれ程の時間が経ったか? 記憶の片隅にしか残っていないここは何処だったか? 永遠を連れ添った彼女の名前は何だったか? 私はどれ程長い間辛い目に合い続けていたのか?

痛い目に辛い目に苦しまなくて済む安心感と自分が長い間会いたいと思っていた人物と再会した幸福感。そして、今まで使わなかった頭が処理できずに彼女は遂に泣き始めてしまった。

彼女は自身に向かって走り心配をしてくれた者に抱きつき、その胸で周りを気にせずに泣いた。

「ああああああああああああ、うああああああああああああ、あああああああああああああああああああああ」

そんな彼女を抱きとめた、赤と青の服の彼女は彼女の気が済むまでその場で優しく抱きしめていた。











ここまで読んで頂きありがとうございます。

<1様
毎回、コメントありがとうございます。
貴方の感想が適切で今後の励みになります。

<5様
残虐では無いと思います、見ていて痛々しくないでしょう?
輝夜がかわいい?ありがとうございます。

<9様
そんな……もったいない言葉です。
まいん
作品情報
作品集:
1
投稿日時:
2011/09/30 13:27:46
更新日時:
2012/01/21 01:01:57
評価:
3/9
POINT:
430
Rate:
9.10
分類
輝夜
永琳
鈴仙
てゐ
コメント返信
追記
簡易匿名評価
投稿パスワード
POINT
0. 130点 匿名評価 投稿数: 6
1. 100 NutsIn先任曹長 ■2011/09/30 22:52:54
生を実感した瞬間、死を怖れる。
常人なら基本的に一度で済む恐怖を、不死者は永遠に味わう事となる。

このような事象が起こる環境を、専門用語で『地獄』と言います。

そして、『地獄』を知覚できる月の民は、穢れに塗れている。

『地獄』から開放される方法は二つ。

『蓬莱人』をやめるか、

『人間』をやめるか。
5. 100 名無し ■2011/10/01 15:14:50
単なるモノマネでここまで残虐な拷問ができるのとかすごい。
輝夜かわゆすなあ。
9. 100 名無し ■2012/01/20 22:31:58
もっと評価されるべき
名前 メール
評価 パスワード
投稿パスワード
<< 作品集に戻る
作品の編集 コメントの削除
番号 パスワード