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『ゲーム2』 作者: pnp

ゲーム2

作品集: 1 投稿日時: 2011/10/07 12:38:02 更新日時: 2011/12/11 16:55:24 評価: 14/24 POINT: 1640 Rate: 14.48
 大きな紙袋を抱えて地上から帰ってきた妹を見て、古明地さとりは首を傾げた。
「こいし。その袋は何?」
 呼び止められた古明地こいしは、袋の口を広げて中身を姉に見せて、自慢げな口調で言った。
「本だよ。借りてきた」
「誰から?」
「魔理沙」
「そう。借り物なんだから、丁寧に扱うのよ」
 さとりの注意に、はーいと間延びした声で返事をして、こいしは自室へと歩んで行った。
 小さくなっていくこいしの背中を、安堵と喜びの表情を以って眺めているさとりに、火炎猫燐が歩み寄ってきた。
何を嬉しそうに見ているのかと、さとりの視線の先を眺めてみて、すぐに燐はさとりの心情を理解した。
「こいし様、以前より元気な感じがしますね」
「ええ。まだ心は読めないけど、分かるわ」
 こいしはその昔、他者の心を読んでしまう第三の目を閉じ、同時に心も閉ざしてしまった。
それが原因で無意識を操る能力を身に付けた。そして、彼女自身も知らぬ間に、自分で意識しない行動を取っていることが多々ある。所謂、徘徊だ。
 彼女の心を開く方法を、さとりは長らく考えてきた。
自分なりに努力して話をしてみたり、沢山のペットを飼ってみたり、いろいろなことをしたが、効果はいまひとつだった。
だが、燐が地底の異変を地上へ知らせる為に、怨霊を間欠泉に仕込んで地上へ送り込んだ一件で知り合った人物が、さとりの願いを叶えることとなった。
その名を霧雨魔理沙と言った。
地上で出会ったその人間と交流を深めて行く内にこいしは、少しずつ、閉じた心を開き始めたのだ。
地底と言う限られた世界と、そこでの生活だけでは経験できない『人間との交流』が、どうやら解決の鍵となったようだ。

「たまには騒ぎも起こしてみるもんですね!」
 燐はどこか自慢げに言った。
 さとりも肯定を示すようにこくりと頷き、
「確かに、あの異変が無ければこいしは変われなかったかもしれない」
 こう言ったものだから、得意になった燐は調子に乗って、
「そうでしょう、そうでしょう」
 薄かった笑みを深めてこう言った。
 しかし、
「けれど、私はペットの管理をきちんとしろと二重に注意を受けてしまったわ」
 この一言で、燐の熱が一気に冷却されてしまった。
「そ、それは、お気の毒に……」
 これで異変のことはチャラになるかと期待していた燐だったが、さとりはあの一件を気にしているようだった。
「きちんと相談してくれればよかったのに」
 さとりが、どこか物悲しげにぽつんと呟いた。
苦笑を浮かべていた燐は、この一言を突き付けられ、言葉と笑顔を同時に失った。
 燐が地底の異変を、此の地を統治している存在のさとりに秘密のまま地上へ助けを求めたのは、燐の中の一抹の不安が原因だった。
異変の内容と言うのは、地上の神様から強力な力を授かった地獄烏、霊烏路空の異常であった。
さとりに相談したら、空は処分されてしまうかもしれない――燐はこの事態を恐れ、地上へ助けを求めたのだ。
 勿論、さとりは空を処分する気などない。皆、彼女の可愛いペット達であり、家族なのだから。
彼女なりに愛を注いできたつもりではあった。だが、それが伝わっていなかった、若しくは伝わり切っていなかったことを、この一件で痛感した。
注意を受けたとかそういうことより、不信感を抱かれている事実に気付かされたのが、さとりにとって一番つらいことであった。
 物悲しげな一言の後は、暫く二人とも何も言わず、その場に立ち尽くしていたが、
「ごめんなさい」
 しょんぼりと項垂れた燐が、蚊の鳴く様な声でこう漏らした。
 それを聞いたさとりは、どことなく苦しげに微笑み、項垂れる燐の頭を撫でた。
「私こそ、ごめんなさいね。あなた達に信頼される主を目指してがんばるわ」
「あ……う……」
 燐は何か言おうとしたが、上手く言葉にすることができず、項垂れたままじっとしていた。
さとりはそっと燐の頭から手を離し、
「分かってるわよ。あなたは私を好いてくれてるってこと」
 そう言い残して去って行った。




 さとりらがそんなやりとりをしている頃、こいしは自室のベッドの上に借りてきた本を並べ、何から読もうかと手を迷わせていた。
怪しげな魔法や呪術の書籍から、料理のレシピ、果ては虫や草花や木の実の図鑑など、ジャンルに一貫性が見られない。
彼女にとって、借りた本が楽しいかつまらないかは二の次で、親しい者から何かを借りると言う行為ができただけで満足であったのだ。
 ベッドの上に広げられた本の内、魔術の類の本の多くは、黒地に白色や金色でタイトルが記されているだけと言った、飾り気のない表紙が多い。
これは魔理沙のポリシーで「チャラチャラした魔導書ほど胡散臭いものはない」とのことだった。これを聞いてこいしは、彼女の使う魔法は、目に悪いくらいに煌びやかなのに、と思った。
 料理のレシピは、それとは正反対の雰囲気を持っている。
可愛らしい字体で書かれたタイトルに、見ているだけで食欲が湧いてくるような料理の写真が貼ってあって、本で学べる様々なことを簡素に説明した短い文が散りばめられてある。
どこに目をやっていいのか分からないほどだ。
 図鑑はと言うと、魔導書寄りのものと、レシピよりのものの二つに分かれている。きっと読ませたい目標が違うのだろう、とこいしは解釈していた。

 そんな本の海の中、一際彼女の気を引く、異質な本があった。
 表紙は赤を主としたタータンチェック。しかし写真なんかは無くて、白く塗りつぶされた四角く縁取られている部分にタイトルが書いてある。
料理レシピの可愛らしさと、魔導書の飾り気の無さを足し合わせた、異質な雰囲気の本だ。
魔理沙の言う「チャラチャラした魔導書」かとこいしは思ったが、タイトルは『あなたもしらない あなたのせかい』。とても丁寧なひらがなでそう書かれていて、魔導書独特の荘厳さや威厳が微塵にも感じられない。
仮にこの本が魔導書であったとしても、タイトルだけでは一体どんな魔法を学べるのか、どんな魔法の研究をまとめた書物なのか、察することができない。
内容があまりにも幅広すぎる魔導書は、一見して有益か無益かを判断できる本が好かれるから、タイトル勝負なことが多い――これも魔理沙の入れ知恵だ。
この本が魔導書ならば、魔理沙の言う魔導書の常識に真っ向から反していることになる。
 そんな多くの謎を秘めた本だが、そんな造形のことより、彼女がこの本に興味を持った理由がある。
それは、こんな本を借りた覚えが全くない、と言うことだ。
 魔理沙の家の本棚を漁っている間、意識が無くなった形跡は全くない。
自分でこの本を手に取った覚えはないし、魔理沙にこの本を勧められたり、渡された覚えもない。いつの間にか自分の手に渡っていたのだ。
 こいしは魔法にも、料理にも、草花などにも大して興味がなかったので、この謎の本を一番初めに読んでみることにした。


 そっと表紙を摘まんで、はらりとめくる。
 分厚い表紙の先の頁に表れたのは、魔法の施錠だった。
真ん中に複雑な魔法陣が描かれていて、その真下に『魔力を流すことで錠が外れ、先へ進むことができる』と書いてある。
「なんだ、ただの魔法の本なのか」
 少し期待外れだった感じが否めなかったが、まだこの本への好奇心は絶えない。
この先に、まだ何かがあるかもしれない――有無のはっきりしない魅惑に期待しながら、こいしはそっと、魔法陣に触れた。
 途端に、ぱぁっと魔法陣が光を放った。黒い線で描かれた魔法陣が、見る見る内に赤色に変色していく。こいしの流し込んだ魔力が、魔法陣の中を駆け巡っているのだ。
まるで空っぽの血管を、鮮血が駆け巡っているかのような光景だ。
 “血”が全域に巡り切ったその瞬間、まるで骸が蘇生するかのように、本が完全な姿に蘇った。
すぅっと光が消え失せて、ブロックのように固まっていた後続の頁に切れ目が入り、放置されている辞書の様に、ずるりとずれが生じた。
「意外と短い本なのね」
 そう言いながら、こいしは頁を捲り、次の頁に書かれている文字を声に出して読み出した。
「ルール。このゲームは実在する筈のキャラクタを動かし、敵を殲滅するゲームです」




*



 枯れて落ちた竹の葉が敷き詰められている竹林を駆け抜ける少女がいた。
名前はメディスン・メランコリー。元人形で、現付喪神だ。
元人形であるが故に、身長は驚くほど小さく、関節部分は所謂『球体間接』と呼ばれるもので、妖怪化した今もまだ人形の名残がある。
そんな体ではあるものの、人間くらいになら勝らずとも劣らない身体能力を持っている。
 視界の悪い竹林を駆けている彼女は、小さな肩掛け鞄を襷掛けしている。
一歩進む毎に鞄は大きく揺れて、彼女の体にばしばしとぶつかってくる。
そんなことは厭わず、彼女は目的地――永遠亭を目指してひた走っていた。おつかいの帰り道なのだ。

 竹林の奥まった場所に建ち、月の民が隠れ住んでいる『永遠亭』。
薬を買い求めて稀にやってくる客人用の入口とは別の、所謂関係者用の入口に着いたメディスンは、荒れる呼吸を深呼吸して整えた。
走る彼女のすぐ傍で飛んでいた、御供である小さな人の型をした者に疑問を投げかける。
「こんなに走って、本当に体力が付くのかしら?」
 問われた人の型は、分からない、と言う意思を身振り手振りで伝えた。
それを見たメディスンは、「だよねぇ」と、苦笑いして答え、すぐに「ま、いいや」と立ち直り、戸を開いて、自身の帰還を中にいる者に知らせた。
「ただいま!」
 整い切っていない呼吸のまま放たれた大声は、語尾で少しだけ掠れた。
すぐには返事が返って来ず、暫くの間、静かな空間の中でメディスンの息急き切る音だけが響いていた。
 その数秒後、建物の奥から「おかえり、メディスン」と言う声と一緒に、ぱたぱたと足音が聞こえてきた。
それを聞いたメディスンは、
「ただいま! 永琳!」
 と、再び大きな声で言って、足音の主――八意永琳の方へと駆け出した。

 玄関に上ると同時に、手を使わずして器用に靴を脱ぎ捨て、姿を現した永琳に飛び付いた。
「おかえり。次からは靴をちゃんと揃えて上がるのよ」
「はーい」
 口ではそう言っているが、きっと彼女は永琳の注意など聞いていない。
 八意永琳は蓬莱の薬を服用して不老不死となった月の民だ。
メディスンとの出会いは花の異変の際のことで、当時は互いの腹の内を探っていたものの、時と共に解消していき、今では人嫌いのメディスンが懐いている数少ない人間の一人となっている。
メディスンにおつかいを頼んだのも、勿論彼女だ。と言うより、メディスンは永琳の言うことくらいしか聞こうとしない。
 飛び付いたメディスンを抱きあげていた永琳は、そっと彼女を降ろして問うた。
「ちゃんと買って来てくれた?」
「勿論。はい」
 メディスンは肩掛け鞄を外し、永琳に手渡した。
受け取った永琳はありがとう、と礼を言い、メディスンは得意げに笑んでうんと頷いた。
「今日は鈴蘭畑に帰る?」
「もうちょっとここにいたい」
「そう。それなら、姫様の所に行くといいわ」
「分かった!」
 メディスンはばたばたと廊下を駆けて、姫様こと蓬莱山輝夜が遊んでいる部屋へ向かった。
輝夜が遊んでいるものとは、外界のテレビゲームと言うものである。
普段から一人でも遊んでいるが、ギャラリーがいると燃えるらしく、よく暇そうな者を見つけては部屋に招いていた。
メディスンはコントローラに触れたこともないが、ゲームの画面を見ているだけで楽しかった。
輝夜も、ゲームの画面を見て純粋に驚いたり喜んだりしているメディスンがいると幾らかゲームが盛り上がる為、積極的に彼女を部屋に呼んでいる。


 メディスンが長い廊下の闇に掻き消えて行ったと同時、真反対の戸――メディスンが入って来た扉がぴしゃりと音を立てて閉まった。
「戸を閉めない」
 メディスンが開け放った戸を閉めた少女は、不機嫌そうに呟いた。
続いて目線が足元に行き、同じようにため息をついた。
「靴も揃えない」
「許してあげなさい、ウドンゲ」
 メディスンと入れ違いで永琳の前に姿を現したのは、鈴仙・宇曇華院・イナバ。彼女もまた、月の住民である。
永琳の元で薬剤のことについて学んだりしている。
 彼女は永琳と異なり、メディスンのことをあまり良く思っていない。
出会ったのは永琳と同じ、花の異変の際だ。同じ、と言うより、鈴仙が永琳にメディスンのことを報告し、永琳が実際にメディスンに会いに行ったのだ。
不思議なことに、出会った時期はほぼ一緒だと言うのに、二人の間には彼女に対するイメージに大きな差異がある。
メディスンの方は鈴仙にそれほど嫌悪感を抱いている訳ではないが、鈴仙はどうしてもメディスンへの不信感が拭い切れないらしい。
「大丈夫なんですか? あいつを簡単に姫様の所へ通して」
「安心なさい。姫様も喜んでいるし、死ぬ訳でもないし」
「死ぬ訳じゃないって、そういう問題ですか」
「極端に言えばそうなるんじゃないかしら」
 だったら蓬莱人である輝夜の元へは誰を通してもいいことになるではないか――なんて言っても無駄なので、そっと心中に秘めておいた。
結局鈴仙は、永琳らの意向に従うしかないのだ。
 敵意にも似た、根拠のない不安を抱えながら、脱ぎ捨てられた小さな靴をそっと整えた。


*


 化け兎の因幡てゐは、妙に騒がしい永遠亭の一室の戸を少しだけ開き、中を覗いてみた。
室内では、引きこもりがちなお姫様と、快活な毒人形が、壮大な音楽と大袈裟な効果音を鳴り響かせる箱型の機械の前で、わあわあと騒いでいる。
「失礼しまーす」
 どうせ聞いてしないだろうと、普段より適当な挨拶をし、てゐも室内に入り込む。
目線は箱型の機械――てゐは知らないが、テレビと言う――に向けたまま、輝夜が「いらっしゃい!」と、妙に気合いの入った声で挨拶を返した。
それに釣られてメディスンも「こんにちは!」と異様な覇気で挨拶をする。
ゲームに向けている情緒と、客人に向けるべき情緒がごっちゃになっている。勿論、輝夜もメディスンもそれに気付いていない。
「今日も精が出ますね」
 言いながらてゐは、メディスンの横に座った。彼女の前に置いてある和菓子に手を伸ばしたが、メディスンはそれは見逃さずに妨害した。めざとい、とてゐは思った。
 てゐはメディスンに対し、それほど大した感情を抱いていない。永琳や輝夜のように好んでいる訳でも、鈴仙のように嫌っている訳でもない。
いるならいるで賑わうし、いなければいないで静かだし――その程度のものだ。
 てゐも一緒に画面を見てみた。
テレビの中で、厚いのか薄いのか判断し難い鎧を身に纏った男が、巨大な赤くて刺々しい鳥のような生き物と戦っている。
 てゐはメディスンと異なり、見るよりも実際に自分が遊ぶのを好んでいる。
他人が遊んでいる画面を見るのはさほど好きではないので、すぐに席を立ち、自分が楽しめる事柄を探し始めた。

 こんな時、彼女は大抵、本に手を出す。月の姫の私室の本棚なんて、聞いているだけで掘り出し物が見つかりそうだ。
あくまで見つかりそうなだけであって、実際は至って普通な本しか置かれていない。
それはもう知っていることだが、暇つぶしにはなるので、今日も彼女は本棚へ歩み寄った。
 背表紙を指でなぞりながら、読んだ記憶の無い本を探していると、一つ、特異な本を見つけた。
 白と黒のストライプで、題名が表記されていないと言うものだ。明らかに容姿が変で、しかもそれ以外何の情報も得ることができない。
手に取って表紙を見たが、やっぱり題名がない白黒ストライプ。
 てゐは訝しみ、輝夜に問うた。
「姫様、この本、何ですか?」
 白黒ストライプの本をぶんぶんと振って問うたが、輝夜はテレビから目を離さない。
「え? ごめんなさい、今ちょっと目を離せないの! ええい、空の王だか何だか知らないけど! 月の姫たる私に逆らうなんて一億年早いわ!」
「わー! また火吐いた!」
「当たらなければどうと言うことはないわ!」
 ゲームが佳境に差し掛かっているのか、二人は増々ヒートアップしている。
 いつ終わるか分からないゲームの終わりを待つ気はさらさらないてゐは、百聞は一見に如かずを実行することにした。

 適当な頁を読んでみようと、半ばで開いてみると、現れたのは白い紙面一杯を利用した黒字の魔法陣と、「魔力流入で解錠」と言う簡素な説明文。
魔導書なのか、とてゐの中で解決した。
試しに魔法陣に触れずに次の頁を捲ってみると、先ほどと全く同じ内容が現れた。何度捲っても結果は同じだった。
魔力を流入しない限り、内容を読み進めることはできないらしい。全く同じ頁が続く様は、何とも薄気味悪い。
 魔法で施錠されたこの本の全貌を、てゐは知りたくなった。
それこそ、何か知られてはならないことや、大いなる秘密が隠されている可能性があるからだ。最悪、輝夜の私物である可能性もある。
 知ってはいけないことを知ると言う罪悪感を、好奇心が上回った。
そっと、魔法陣の中心に手を触れる。
 黒字だった魔法陣が、中心から広がるように白色に変わっていく。簡単な説明文はぱっと消えて無くなった。
紙も白色である為、まるで魔法陣が紙の中へ沈んでいくようにも見えた。


 魔法陣が完全に掻き消え、適当に開いていた頁の本来の姿が現れた。
 それは、まるでチェス盤だった。その上で、「Please Wait」と言う青い文字がくるくると回転している。
 チェス盤の外側――頁の余白に、五つの小さな小さな人型があった。その小さなと言ったら、五つ全員てゐの掌に乗せられそうな程小さい。
チェス盤のような頁のマス目に、丁度一体がぴったりと収まるくらいの大きさだ。
 五つの人型は、背伸びをしたり、腱を伸ばしたり、シャドウボクシングをしたりしている。
それを見ていると、この五つの人型は、これから体を動かそうとしていてい、今は準備運動をしているのだろうと察することができた。
おまけに人型は、全員見覚えがある者達だった。
 全く意味が分からないので、てゐは一頁目からしっかりとこの本を読んでみることにした。




 テレビ画面の中で、巨大な赤くて刺々しい鳥のような生き物が倒れて、動かなくなった。
同時にメディスンはわあーと歓声を上げ、輝夜は勝鬨を上げる。
「よしっ! あー、やっと終わったわ! ところでてゐ、本が何とかと言っていたっけ?」
 やっとの思いでテレビの中の難題が解決したらしい輝夜が、ようやくてゐの方へ目をやる。
しかしてゐはそれに反応せず、開いている本に目を落とし、ボーっと突っ立っている。
 他人の声が届かなくなる程、てゐを熱中させる本の正体を突き止めようと、輝夜がてゐの持っている本に目をやる。
そうするのと、てゐの手から本が落ちるのが、ほぼ同時だった。
晒された表紙を見て、今度は輝夜が訝しむ。
「そんな本、持っていたかしら」
 いろいろな本を読んできた輝夜も、見覚えの無い本だった。
忘れているだけかもしれないが、白黒のストライプなんて珍妙なデザインのものは、嫌でも記憶に残ってしまうものだろう。
 だが、輝夜がこの本を知る筈がない。
この本は、この永遠亭は愚か、幻想郷、地底界、冥界、果ては外界にさえ、正式な所有者はいないのだから。

「姫様、私、どうすれば……」
 てゐは震える声を漏らした。


*


 地霊殿は静まり返っていた。時々、どこかから動物の鳴き声が聞こえてくる以外の音がほとんどない。
 何の気なしに開いた本に生命を脅かされる羽目になったこいしは、不安げな表情を浮かべながら項垂れている。
その横でさとりが、本の中に秘められていた死のゲームのルールを黙読している。
ルールを読み始めた時は、信じられないと言った表情をしていたが、読み進めている内にその表情は驚愕から憎悪へと変化していった。
 粗方ルールを確認すると、さとりは本をテーブルに叩き付けた。
そんなに厚みの無い本はばしん、と快音を鳴らす。項垂れていたこいしがびくりと肩を震わせた。
燐はさとりの顔色と本を交互に見比べた。今のさとりは、非常に声を掛け辛い状態なので何も言うことができず、とりあえずルールを確認しようと本を手に取った。
その後ろから空も一応ルールに目を通す。彼女は物ごとを覚えることが苦手なので、見ても仕方が無いような感じもする。
 体験したことの無いあまりに特異な状況に、さとりは怒り方を模索していた。一体、どのように怒ればいいのかさっぱり分からなかった。
大好きな妹の命を奪おうとしているらしいこの魔導書を憎まずにはいられない。
だが、本にいくら文句を言っても、本は何も喋りはしない。物に当たるのはあまりに滑稽だ。
ただの子ども騙しな本ならまだしも、これは魔導書だ。馬鹿げたゲームでも、鼻で笑い飛ばすことができない。
「この本も魔理沙が?」
 言葉に迷った挙句さとりが問うと、こいしはさっと頷いた。そして慌てて、
「でも、魔理沙は悪くないの。これは魔理沙に勧められたものでもないし、そもそもこんなの借りた覚えがないもの」
 こう付け加えて魔理沙を擁護した。
魔理沙は悪くない、と言う事実にさとりは喜んだ。ようやくできた妹の友人だ。失うのは惜しい。
しかし喜んだのも束の間、またも怒りの矛先を失ってしまい、さとりはため息をついた。
「とにかく、ゲームに勝てばこいしは死なないのね」
「どうやらそうみたいですね」
 ルールの頁を読みながら、燐が返事をした。
さとりがゲームの攻略を始める様子を察し、燐はテーブルに本を置いてチェス盤のようなデザインの頁を開く。
その頁には五体の小さな人形のようなものがいた。
幻影、とでも言えばいいのだろうか。存在はするが、手で触れることができない。まるで映写機から映し出される映像のように透けてしまうのだ。
 盤外で忙しく動き回る五体の人形を見て、空が目を丸くした。
「みんな知っている人達だね。あ、私もいる」
「『キャラクターにはそれぞれ個性がある筈です。それは、あなたの交流している他者によって様々です』って書いてあっただろ? きっとこいし様の魔力を通じて記憶を読み取って、それでキャラクターが決まったんだよ」
 燐が補足の説明を入れると、空はなるほどと呟いて、よくできた人形達を物珍しげに眺めていた。
 こいしの味方となる人物は、『古明地さとり』『霊烏路空』『火炎猫燐』『ゾンビフェアリー』『黒谷ヤマメ』の五名である。
さとり、空、燐は同じ屋根の下に生活する者達であるので、記憶を要因とした選考で選ばれるのは当然と言えよう。
ゾンビフェアリーとは、名の通り死した妖精のことで、燐の部下のような存在である。地霊殿には多くのゾンビフェアリーが眠っていて、燐の一声で一斉に目覚めるようになっているのだ。
黒谷ヤマメとは、地底と地上を結ぶ風穴の付近に住まう土蜘蛛だ。地底の妖怪にしては気さくで人気者である。
こいしもしばしば彼女と出会い、言葉を交わすことがあった。その際のヤマメの物腰の良さなどがこいしには心地よかった為か、彼女は記憶に新しかったようで、今回の出陣となったらしい。


 同じ頃、地上にある竹林の中の永遠亭でも、地霊殿と同じような暗澹たる空気の中、計五名の人間、妖怪が、テーブルに置かれた魔導書を囲んでいた。
ぐずぐずと泣いている因幡てゐ以外の誰もが、開かれた魔導書のチェス盤のような頁の余白にいる“自分達”を見やっていた。
「この妙なゲームに勝てなきゃ、イナバが死んでしまうのね?」
 本へ視線を落したまま蓬莱山輝夜が忌々しげに言うと、傍にいた八意永琳が「そういうことみたいですね」と、輝夜と同じような視線のままで呟いた。
酷く落ち着き払った様子であまりにも悍ましい、そして馬鹿げたことを言い合っている二人を見て、鈴仙・宇曇華院・イナバは、本から目を離して二人を見やり、言った。
「死ぬって……どうしてこんな本でてゐが死んでしまうんです」
「そうよそうよ!」
 鈴仙の言葉を肯定するようにメディスン・メランコリーも声を荒げる。
しかし、
「精巧な魔導書みたいなのよ。てゐの魔力で封が解かれてる。この出来だと、悪戯じゃ済みそうもないわ。全く、いつの間に私の私室に紛れこんで来たのやら。……まあ、そう言う密行機能も含めて精巧な魔導書なんだけど」
 それに言葉を返した輝夜の声は、やはり酷く落ち着いていた。激昂しても、激情に身を任せても意味が無いことを分かっているからだ。
今、彼女はてゐを生き長らえさせる為に、このゲームに勝利することに専念しようしているのだ。
ゲームで勝利するには感情的になってはいけない。落ち着いてやるべき行動をとることが、ゲームを制する術だ――遊び呆けている毎日の中で学んだことが、まさかこんな所で役立つとは、本人でさえ思っていなかった。
「イナバ、キャラクターの能力は見れる?」
 突然輝夜に問われ、てゐはいささか驚いたが、言われた通りに能力を参照しようと本に手をやった。
「能力? えっと、能力……」
 各キャラクターの能力が記されている頁を探す為、本を捲ろうと手を動かす――それよりも早く、チェス盤の頁の空中に枠が生じ、キャラクターの能力が映し出された。
てゐが何かした訳ではないのに、勝手に表示されたのだ。その証拠に、てゐ本人が酷く驚いている。
 これを見た輝夜はふっと笑みを浮かべた。
「本を開いた者の意思に反応したのかしら? 処刑道具には勿体ない出来栄えね」
 嘲りの意を含んだ口調で毒づきながら、輝夜はてゐの操作する人物五名の能力を見やる。
 てゐの味方となる人物は、この場にいるてゐ以外の人物――『八意永琳』『蓬莱山輝夜』『鈴仙・宇曇華院・イナバ』『メディスン・メランコリー』の四名に、竹林に住まう蓬莱人『藤原妹紅』を加えた計五名である。
誰も彼も永遠亭やその周辺で交流している者ばかりである。地霊殿で本を開いたこいしと同じく、てゐも記憶の中からキャラクターが選考されたのだから、この五名は至極自然な選択と言えるだろう。
「敵の能力も見れたりするのかしら」
 永琳が呟く。てゐは言われた通りに『敵の能力を参照したい』と考えてみると、途端に仲間の能力が書かれた枠が消え、入れ違いで敵キャラクターの能力が書かれた枠が現れた。
枠には『古明地さとり』『霊烏路空』『火炎猫燐』『黒谷ヤマメ』『ゾンビフェアリー』と言う五つの名前が書かれている。
「てゐ、この者達を知ってる?」
 永琳が問うた。てゐは当然、首を横に振る。この場にいる全員、地底にいる妖怪のことなど知る筈がなかったのだ。
しかし、名前からその正体を察することができる者が一人だけいる。“さとり”である。
目を凝らして盤上のキャラクターを見てみると、その胸には確かに、眼を模った赤いオブジェクトがぶら下がっている。
「この“さとり”と言う者は、もしかして『覚妖怪』なのかしら」
 永琳が何の気なしに呟いた。
覚妖怪と言えば、嫌われ者の代名詞の様な存在で、今は地底の奥部下に追いやられている――と言う話を聞いていた。
この永遠亭の面々で、実際に地底へ赴いたことがあるものはいない為、真偽のほどは定かではないが、もしも永琳の推測が事実だとすれば、敵陣営はなかなか恐ろしい相手と言うことになる。
「なんでそんな恐ろしい妖怪とこんなゲームをしなくちゃいけないんでしょう」
 鈴仙が憤りと畏怖の念を抱いた口調で言う。彼女はこの敵に恐怖しているのである。
「有無のはっきりしない者と殺し合って、負けたら死ぬだなんて、随分えげつないルールだこと」
 一層嘲りの色を濃くした輝夜の声が、しんと静まりかえった永遠亭内に響き渡った。


 外界の発達したテレビゲームに慣れ親しんだ月の姫に言わせてみても素晴らしいインターフェースを誇るこの魔導書。
こう言ったゲームに馴染みの無い者でも直観的な操作で楽しめるようできている親切な設計と褒められるべきであろうか。
若しくはどんな者も殺し合いの場に行き着かせるようにできている悪魔のような設計と恐れられるべきであろうか。
何はともあれ、この易しい設計のお陰で、比較的外界の進んだ技術なんかと縁の薄い地霊殿の妖怪達も、全てのキャラクターの能力を知ることに成功していた。
「味方キャラクターの中で一番強いのは空なんだね」
 能力を見比べた上で燐が言うと、空は驚いた様子で、能力の表示されている枠を見やった。
「神様を取り込んだお陰なのかな」
 強力であると認識されていることは嬉しかったが、状況が状況であるので喜ぶに喜べず、空は渋面を作った。
 “空”は山の神様から得た力を利用して、敵味方の区別を無視する広範囲攻撃を放つことができるようになっている。
使用回数の制限や、使用後に動けなくなると言った制約はあるが、高い能力値もひっくるめて考えて、こいし陣営の中核となるキャラクターであることは間違いない。

 先攻は敵陣営であったので、相手が動かない限りこちらも手の出しようがなく、さとりはルールや各キャラクターの能力を熟読し、戦略を練っていた。
こういう遊びに慣れている訳ではないが、この地霊殿でまともにこのゲームで遊べるのは自分であると言う自覚があったし、実際の所その通りであった。
そして何より、こいしの命をこんな書物に奪われてたまるかと躍起になっていた。ルールや能力を見るさとりの目は怒りに満ちている。
その怒りは勿論、このふざけた書籍に対して抱いている感情であるのだが、怒れる姉のことを見たこいしは居た堪れない気持ちになってしまい、しょんぼりと項垂れてしまうのであった。
面倒事に巻き込んでしまった罪悪感、とでも言えばいいのであろうか。普段の彼女には疎い感情であった。
死を目前にしてようやく、遥か昔に閉ざしてしまった心が、所謂『心らしさ』を取り戻したとでも言えばいいのであろうか。
それとも、死を目前にして姉への迷惑を省みている彼女は、まだまだ異常なのであろうか。
ちらりと横目に姉を見やり、本を睨むその凄まじい剣幕に気圧され、こいしは慌ててまた足元へ視線を戻す。
その直後であった。「がらん」と、神社の鈴でも鳴らしたような音が本から発せられた。
足元に目を落としていたこいしも、そっぽを向いていた空も、椅子に座って目を閉じていた燐も、一斉に本を見やった。
 鈴の音は、開戦を告げる号砲であったらしい。
こいしのキャラクターのいる余白とは反対側の余白にいたキャラクターの一人が、チェス盤のような頁のマス目の上に立っているではないか。
白い長髪と、同じく白いシャツ、それから炎のように赤い袴を身に着けた人物である。
「“妹紅”……だったわね」
 しっかりと頭に叩き込んでおいた敵キャラクターに関する記憶を掘り起こしたさとりが、盤上に進み出て来たこのキャラクターの名前を呟き、忌々しげに舌打ちを打った。
“妹紅”は、戦いで傷つき倒れても、一度だけ蘇ることができるという特性を持っているのだ。
 永遠亭の者達が地霊殿の住人のことを知らないのと同じように、さとりらも、敵陣営の妖怪のことなど少しも知らない。
どうしてこの“妹紅”が、蘇生なんて能力を持っているのか……そんなことは知る筈もなかったし、さとりは知りたいとも思わなかった。
倒してもあまり意味が無いので、早々に出て来られると非常に厄介な敵、くらいの認識しかなかった。

 遂にゲームが始まってしまった。こちらも全力で戦わなくてはいけないと、さとりも気を引き締め、自陣営の初手を思案する。
 このゲームには『一週間』と言う制限期間が定められていて、勝負がつかないままこの期間が過ぎると両プレイヤーが敗北とみなされ、どちらも死んでしまう。
このルールを目にした時、まさか一週間もの時間を戦い続けることはないだろうとさとりは思っていた。
だが、こうしてゲームが始まって、実際にキャラクターを動かす時が訪れてみたら、どうだろう。
茹だる熱湯の中の泡粒みたいに次々と頭の中に浮かんでくるありとあらゆる一手が、尽く間違いに思えてしまうのだ。
どんな手を打っても結局後悔してしまいそう――レストランで食事を注文する時のようなジレンマだ。
これは命を賭けたゲームなのだ。軽率な行動はとれない。しかし、失敗を恐れて動かないでいたらゲームが進まない。ゲームが進まなければ、確実にこいしは死んでしまう。
 ミスを恐れてばかりではいけないと自身を鼓舞し、さとりがそっと口を開く。
「こいし、ゲームが始まってしまったわ。準備はできている?」
 まるで、朝がきたから目覚まし時計が鳴った、とでも言うかの如く、あまりにもあっさりと自身の生存を賭けたゲームが始まったことに、軽い憤りと呆れを感じていたこいしが、さとりの声で覚醒した。
びくりと体を震わせた後、
「まだ、よく分からない」
 小さな声でこう返事をした。さとりは少し目を見開き、更に問う。
「覚えていないことがあるの?」
「うん。ルールとか、能力とか、なかなか頭に入って来なくて」
「そう。……それじゃあ、私の指示に従ってゲームを進めて頂戴。お燐を繰り出せるかしら?」
「分かった。お燐ね」
 姉の言った一手をわざわざ反芻し、本を操作して、“燐”を盤上へ送り出す。
“燐”は倒した敵をゾンビにし、仲間として使役することができる他、場にいる限り“ゾンビフェアリー”を蘇生させる特性を秘めている。
猫らしいすばしっこさを表現したものであろう、機動力――盤上を動き回る力――がかなり高めに設定されている。
倒しても復活する“妹紅”は、果たして倒せばゾンビと化してこちらの味方になるのかがいまいち分からなかったが、一先ず無難な戦闘能力を持っている“燐”を送り出したのである。


 “妹紅”は果たしてゾンビ化してしまうのか――この疑問は勿論、永遠亭の面々にも分からない。
慎重に様子を見たがる永琳に対し、輝夜はふんと鼻を鳴らし、
「“妹紅”は倒されないんだから、倒したら効果が発揮される“燐”の能力も起こらないに決まってるわ」
 こう断言した。外界のゲームに馴染んできたせいであろう、手早く攻略することに情熱を燃やしているようである。いちいち燐の能力について深読みする間が惜しい様子だ。
てゐの命が懸かっていると言うことは勿論忘れてはいない。しかし、踏んできた場数が違うという事実が、輝夜に絶対的な自信を生み出しているのだ。
 一先ず“妹紅”をもう少し敵地へと歩み進めさせる。どうせ一度は復活するのだから、無鉄砲な行動をとったところで大した弊害は生まれない。
「さて、次はどうしようかしら」
 輝夜はぺろりと舌舐めずりをし、興奮を抑え切れぬようにふーっと熱い鼻息を噴出させる。
その直後に、輝夜の背後に立っていた永琳が口を開いた。
「てゐ、私を戦場に出してもらえる? そんなに動かなくていいから」
 言われるがままに、てゐは本を操って“永琳”を戦場に送り出した。
弓による遠距離攻撃と体力回復という、支援的な二つの特性を持つ“永琳”。普段、輝夜に付き添っている姿がそう言った能力を齎したのだろう。
 輝夜は勝手に戦況を動かされたことが不満なのか、ぐるりと永琳を振り返り、
「ちょっとちょっと、勝手に動かさないでよ」
 こう口を尖らせたが、永琳は微笑み称えて、
「動かしたのはてゐですよ」
 と反論した。すると輝夜の鋭い視線はすぐさまてゐを捉えた。てゐは蛇に睨まれた蛙のように竦み上がった。
しかし、輝夜はすぐにふっと息を漏らし、視線を本へと戻す。
「まー、私と永琳、どっちを信じるかはあなたに任せるわね。それじゃあてゐ、私も“鈴仙”も繰り出してしまいなさい」
 輝夜のこの言葉に、てゐは少し戸惑ったのだが、
「どちらも信じてもいいのよ?」
 という永琳の一言に、すっと胸が軽くなるのを感じた。二人はいがみ合っている訳ではないのだから、どちらの言い分も信じていいのだと、てゐは理解した。
すぐに輝夜の指示通り、“輝夜”と“鈴仙”を戦場へ送り出す。
 “輝夜”はいかにも姫らしく、機動力がとても低い。しかし、その昔彼女が出した『五つの難題』の要求で、敵キャラクターの足止めを行うことができる。
止められたキャラクターは動くことは勿論、攻撃や特性の使用もできなくなる。混戦の最中に大きな効力を発揮するだろう。
 そして“鈴仙”は、平均よりやや高めの能力値に、中距離に効果のある強力な攻撃を放つことができる。
その特性を利用する為、“鈴仙”は戦地に送り出されて早々、盤の中腹の少し手前くらいまで歩を進めた。ここで立ち止まり、迎撃をするのだ。

 戦場で戦う小さな自分の分身を見ていた鈴仙は、ゲームが始まる前に見た自分の能力を思い出していた。
無難に戦うことができるような能力を持つ彼女には、ある欠点が設定されていたのだ。
『劣勢を感じると、能力が著しく低下する』
 初めから少しばかり能力が高めに設定されているのはこの欠点のせいかと、輝夜は何の気なしに言っていたが、鈴仙は何とも居た堪れない気分になった。
何故ならこの欠点は、彼女は月で起こった戦争の最中、仲間を見捨てて命からがら逃げ出してきたと言う苦い過去を模したものとしか思えないからである。
 このゲームのキャラクターは、本に魔力を注入した者の記憶から生成されている。
そうとあらば、てゐは鈴仙に対して、臆病で卑怯な奴だと言う意識を、少なからず持っていることになる。
鈴仙にそれを否定することはできない。逃げてきたのは事実で、もう帳消しにはできないのだから。しかし、いざこうして面と向かってそういう意識を突き付けられるのは、堪え難い屈辱と悲しみがあった。
ゲームの今後の展開についてあれやこれやと協議する二人の後ろで、悔しさを押し殺すようにきゅっと唇を噛んでいたのだが、
「ねえ、私の出番は?」
 場の雰囲気に馴染まない明るい声が、鈴仙を取り巻いていた暗い影を振り払った。
弾かれるように顔を上げて見てると、メディスンがぴょんぴょんと跳ねて、懸命にテーブルの上の本を覗こうとしているではないか。
てゐの扱うキャラクターで唯一戦場に出されていない“メディスン”は、キャラクターに毒を付与してコンスタントなダメージを与える特性を持っている。
だが、他の四名と比べて圧倒的に能力値が低い。てゐは彼女を、他の四名程の強者と見ていないのである。
『死亡時に毒を周辺に散布し、ダメージと毒を与える』と言う能力は、執念深いと言うか、往生際の悪いメディスンの性格をとてもよく表している。
「もうちょっと後でね」
 と永琳に諭されてから、ようやくメディスンは大人しくなった。
 そんな二人のやり取りを見た鈴仙は、妙にむかっ腹が立ってしまった。
キャラクターの欠点による記憶の想起、それが齎した暗澹たる気持ちが、彼女の気分を刺々しくしてしまったのであろう。
命を賭したゲームを展開している最中なのに、どうしてあんなにも軽率な言動がとれるのだ――。
 堪え切れず、つかつかとメディスンに歩み寄り、ひょいと彼女の小さな体躯を抱き上げた。
突然体が浮き上がったメディスンはひどく驚いたようで「わっ」と小さな悲鳴を上げた。
その声に驚いたてゐがさっとそちらを見やった。
メディスンの悲鳴も、てゐを驚かせてしまったことも厭わず、鈴仙は彼女を抱いたままテーブルから遠ざかり、ぽんと地面へ置いた。
「師匠や姫様は考え事してるの。邪魔をしないの」
 鈴仙にこう言われ、メディスンはぶすっと頬を膨らませた。
「私もてゐのこと心配してるのに」
 こう言ったが、鈴仙はふっと息をついて、
「あんたは師匠達の邪魔をしないことが、一番の貢献なの」
 そう告げて、視線をまたテーブルに群がる三人の方へ戻した。この時、まだメディスンを眺めていたてゐと目が合った。
不安げな視線を投げかけるてゐに、鈴仙は無言で頷いて見せた。――師匠を、姫様を信じなさい、と。
 メディスンはまだ何か言いたげであったが、しかし気持ちを言葉にできないようで、鈴仙の言われた通り、その場に座り込んで三人を傍観し始めた。
 すっかり大人しくなったのを見計らって、鈴仙はお茶を入れに台所へ向かった。その隙にメディスンは再びテーブルへ駆け寄った。



*



 夜が訪れた。地底は太陽が見えないし、陽光も差さないが、夜と言う区切りがしっかり存在している。
緊張の糸がぴんと張り詰めっ放しであった日中を乗り切った地霊殿の面々は、憔悴しきった様子で、各々の憩いの場所で羽を伸ばしていた。
勿論、まだゲームは終わっていないし、終わりなどまだまだ見えてこない。
それでも、戦況は激変した。全てのキャラクターが戦場に繰り出され、方々に散らばり、特性を生かして戦いを繰り広げている。
 戦闘が始まったばかりで、敵キャラクターがまだ密集しているのを好機と見て、“空”を繰り出し、強力な広範囲攻撃を放ってやった。
次いで、余白の上で出番を今か今かと待っていた、残りの三名を全員戦場へ送り込んだ。
 地底の入口に住まう土蜘蛛の“ヤマメ”は、“輝夜”と“メディスン”の特性を両方兼ね備えたような能力を持っている。但しその質は二人に劣るし、能力値もそれほど高くない。
地底の妖怪には強力な者が多い。土蜘蛛もその例に漏れない強力な妖怪なのだが、ゲームのバランスをとるために若干弱めになっているのかもしれない。
 地霊殿の主であり、現在地霊殿側のゲームの先導者となっている“さとり”は、敵の特性を真似ると言う特性を持ち、能力値も全体的に高めである。
 そして地霊殿のあちこちにいる“ゾンビフェアリー”は、ゲーム中最低の能力値を持っているが、“燐”が戦場で生存している限り、無限に蘇生する特性を持っている。
“妹紅”と似た特性を持っているが、彼女と違い即時蘇生するので、少々強引に攻めてみたり、盾になったり、いろんな役を担うことができるであろう。
但しその生存は“燐”の存在あってのもので、“燐”が倒れるとこのキャラクターも消えてしまう。
 “空”は特性使用後、放熱のためしばらく動けなくなる。その隙を見計らって繰り出されたのが“メディスン”であった。
輝夜も永琳も、キャラクターが密集している時に“空”の広範囲攻撃が行われることを予測していたのである。
能力値が低めの“メディスン”はそんな攻撃を喰らうと一溜まりもないので、戦場に出る隙を窺っていたのである。
 それからは、今後の戦況の予測をしながら、お互いにキャラクターを動かし合い、ゆっくりと、非常にゆっくりと戦いが進んだ。
気が付けば夜になっていて、少々頭を休めようと、地霊殿側が休憩を始め、一時的な休戦を迎えたのであった。
 しかし言わずもがな、休憩とは名ばかりで、誰も彼も少しだって心は休まらない。
長らく同じ屋根の下で生活してきた愛しい者が命の危機に晒されているこんな時に、どうすればゆっくりとくつろぐことができようか。
燐は居ても立ってもいられず、地霊殿の中をうろうろと歩き回っている。空も自身の寝床で輾転反側しながら眠れぬ夜を過ごしている。
ゲームの攻略には全く役に立てそうもない空でさえその有様だ。
妹を救おうと躍起になってゲームを主導しているさとりに、まさに命を狙われているこいし――この二人の心が安らぐことなどありえなかった。
 休憩を挟もうと提案したのはさとりであったが、言いだしっぺたる彼女は本との睨めっこを止めようとしなかった。
相変わらず忌々しげな視線を本にやりながら、かりかりと爪を噛み、今後の戦いをどう展開していくかを考えている。
考えてはいるのだが、なかなか案はまとまらないし、戦いの中でどんな想定外の出来事が起こるか分かったものではない。
それでも考えずにはいられなかった。とにかくゲームのことが頭から離れないのである。
どうせ何をしていても、瞼や鼓膜に焦げ付いているかのようにゲームのことが想起されるのだから、それならば面と向き合った方が能率的だと割り切り、さとりは一人、ゲームと付き合い続けているのである。
操作はこいしがいなければやることができない。だから、どうやってこの敵らと戦っていくかの戦略を立てるのが、この休憩時間中にさとりがやるべきことであった。

 絶望と悲愴に打ちひしがれ、それによって生ずる焦燥に追われながら、解けない知恵の輪を出鱈目にがちゃがちゃと弄り回すみたいな無意味で進展の無い思考を繰り返す。
用意したメモ帳にああでもないこうでもないと、いろんなことを書き殴っていた、その最中であった。
雑音を入り込ませない為に閉め切っておいた背後の扉が、ひかえめにきぃと音を立てたのだ。
この部屋を支配する耳に痛い程の静寂の中では、そんなひかえめなドアの軋みも立派な騒音だ。
 反射的に振り向いたさとりの視界に入ったのは、大きな扉を押し開けている最中の妹、古明地こいし。
あまりにも過敏なさとりの反応にこいしは些か驚いたようで、少しだけどもった後、おずおずと部屋へ入って来た。
いくらこのゲームの勝利の為に、他を阻害して尽力しているさとりと言えども、こいしを邪険に扱う訳にはいかない。
体ごとこいしの方を向き、ぎこちなく笑って見せた。
「どうしたの?」
 さとりが問うたが、こいしは何も言わず目を伏せた。自分の気持ちをなかなか言葉にすることができないのである。
日中もそうであったように、さとりを面倒事に巻きこんだことを悔いているのだ。
「お姉ちゃん」
 しばらくそうしていた後、こいしが口を開いた。
「何?」
 さとりは首を傾げて見せる。
「その……ごめんなさい」
 口を開いたこいしも大した言葉が浮かんで来ず、今が好機と言わんばかりに、罪悪感が謝辞を吐き出させた。
さとりは少し面食らって目を見開いた後、またもふっと微笑んだ。そして、椅子から立ち上がってこいしに歩み寄り、その体を抱きしめる。
「謝ることなんてないわ。あなたは悪くないもの」
 こう言ってこしいを宥めてはみたが、彼女は全然聞く耳を持たない。
ふるふると首を横に振って、まるで己の哀れさを憤るように、さとりの服を握っている手に一層力を込める。
さとりはゆっくりとこいしを解放すると、じっとこいしの瞳を見据えた。恐怖と不安で潤んだ瞳。
いつしか、どんなにつらいことがあっても泣くことさえしなくなってしまった妹の涙を見るのはあまりにも久しぶりなことであったので、さとりはこんな状況ながら、僅かな感動を覚えていた。
この、いかにも知性を持った生物らしい反応を見せる妹の姿は、あの本なくして見れなかったことを思うと、さとりは自分の不甲斐なさに心を痛めずにはいられなかった。
どうして自分はいつも、こいしに何もしてあげられないのだろう――悔しさはいつしか憤りとなって、心を荒ませる。
だが、今度こそはと、さとりは意気込んだ。今のこいしを救えるのは自分しかいないと、自分を鼓舞した。
「大丈夫。絶対にあなたを死なせなんてしないから」
 そう言い、再びこいしをひしと抱きしめた。


 同じ頃永遠亭の面々も、急に始まった休戦状態に甘んじていた。
硬直してうんともすんとも言わなくなってしまった直後は、誰もがそれはそれは焦燥し、言っても無駄であろうに本に向かって罵詈雑言が飛んだものだ。
あれこれ喚き散らしていた輝夜を永琳が宥め、この世の終わりを目前に控えたように顔を青くしているてゐを鈴仙とメディスンが励まし、再びゲームが動くのを固唾を飲んで見守った・
しかし待てども待てどもゲームは動かず、ならばこちらもこの膠着状態を享受しようではないか、と言う永琳の提案で、永遠亭でも休憩が始まった。
もしもこのまま期限を迎えてしまったらと言う不安はあれども、どうしてもゲームは動かすことができない。だから、この機会に誰もが一度、ゲームから頭を離すことにしたのだ。
地霊殿の住民同様、完全にゲームのことを忘れることなど不可能であったが。
 特にてゐは自身の命がかかっているのだから、不安も一入だ。休戦が始まってからも、淹れ直されたお茶にもろくに手を付けず、じっと本を見やっていた。
ゲームが開始されず制限期間を迎えたら、自分は死んでしまう――とても休もうと思える状況ではなかった。
 混戦極まり始めた戦場の頁を、穴の開くほど見ているてゐを遠巻きに見ていたメディスンが、堪らずとことこと近づき、その肩をとんとんと叩いた。
かなり集中して本を凝視していたと見えて、てゐは寝耳に水が入ったようにびくんと体を震わせて後ろを振り返った。話かけたメディスンの方が驚いてしまった程だ。
「メ、メディスン……どうしたの?」
 少しばかり血走った眼。いつもの快活さがまるで感じられない土色の顔に、少しばかり乱れた髪――いかにてゐが怖い思いをしているか、メディスンにも分かった。
「てゐ、少し休んだ方がいいよ」
 メディスンはこう助言したが、てゐは首を横に振った。
「休んでなんていられないわ。いつゲームが動き出すか……いえ、動き出すかどうかも分からないのに」
 自嘲めいた笑みを浮かべるてゐ。同時に薄っすらと瞳に涙が浮かんだ。
そのあまりにも痛ましいてゐの姿に、メディスンは耐え切れなくなり、どうにかしててゐを休ませたいと考えて、
「じゃあ、私が本を見張っといてあげる。だからてゐは寝てるといいよ」
 こう提案した。てゐは少しだけ目を見開いて、
「いいの?」
「勿論。どうせてゐがいなきゃ動かせないから、勝手なことは絶対にしないよ」
 本とメディスンを見比べた後、ひょいと椅子から飛び降り、
「ありがとう」
 こう礼を言い、覚束ない足取りで自身の寝床へと歩いて行った。
 見張り役と言う役目を得たメディスンは、少しだけ貢献ができたと満足し、先ほどまでてゐが座っていた椅子に乗り、本の変化を見張り始めた。

 メディスンが懸命に見張りをしていたが、結局その日、それ以上ゲームが動くことはなかった。
このことから永琳は、敵陣営が、所謂『人工知能』ではないと推測した。
敵も自分達と同じ生物なのである。だからこうした休憩が必要だし、一手の決定に多大な時間が掛かっているのだ――と言う推測だ。
 更にそこから、次にゲームが動くのは明朝になるのではないか、とも推測した。
だが、この推測は外れた。戦況が動いたのは、人は寝静まり、野生の妖怪が動き出す、真夜中のことであった。


*


 本の変化を見守る見張り役は、前日の二十二時頃に、メディスンから鈴仙に交代していた。
メディスンはまだ起きていられる、大丈夫と言い張ったのだが、半ば強引に鈴仙が交代を命じたのである。
口上では長らく見張りをやったからそろそろ交代するべきだとか、そんなことを言っていたが、鈴仙がメディスンの見張りに少々頼りなさを感じていたことが大きい。
これに関しては輝夜も永琳も同意見であった。まだメディスンは幼いからである。だが、特にそのことについて二人は発言しなかった。
 渋々メディスンが見張り役を離れ、入れ違いで鈴仙が本の見張りを始め、それからおよそ四時間後に事が動いた。
生じた変化を正確に記憶し、鈴仙はばたばたと輝夜らを呼びに向かった。
輝夜、永琳、てゐと言ったゲームの主要人物は、心が休まらないながらも事に備えて眠っていたのだが、鈴仙の喚き声を聞くや否や弾かれたように寝床から飛び出してきた。
 一番初めにゲームの元へ着いたのは輝夜であった。それから僅かに遅れて、他の者を呼び起こしていた鈴仙が戻って来た。
眠ったせいで休戦直前の戦況を思い出せない輝夜は、
「イナバ! どこがどう変わったの!?」
 猛然と駆け付けてきた勢いをそのままに、怒鳴るように問うた。
しかし少々興奮気味の鈴仙は、怒号ともとれるその声を聞いても怖じることなく、記憶していた変化を報告する。
「その、猫みたいなやつ……。そうだ、“燐”が動いたんです! “燐”が師匠を攻撃しました!」
 報告の完了と同時にてゐがやってきたので、早速“永琳”の能力値を参照してみると、確かに若干体力が減っている感じがある。
輝夜は気持ちを落ち着かせる為、まず大きく息を吸った。命のやり取りであると言うことを忘れてはいけないと、自分を宥めすかす。
次いで、急な運動と興奮が齎した額の汗の粒を手の甲で拭い取ると、ふんと不敵に笑って見せた。
「夜襲だなんて、なかなか狡猾な真似をしてくれるわね」
 唐突に再開した戦いに、てゐは戸惑い気味で、休戦前とさして変わらぬ不安げな様子で、黙りこくって考えに耽る輝夜と本を見比べていた。
その頃になってようやく永琳とメディスンがほぼ同時にこの場へ到着した。
永琳の到着に気付いた輝夜が、すぐに彼女を傍まで手招きする。永琳は本を覗きこみ、変化した戦況を確認して、怪訝な表情を見せた。
そんなに深刻な事態になってしまったのだろうか――輝夜と永琳の様子を見た鈴仙は些か不安を覚えた。
彼女はなるべく二人の邪魔をしないよう、議論を交わす二人を遠巻きに見守っていたのだが、そういう配慮をせず、聞きたいことをずけずけと聞く者があった。メディスンだ。
「どうしたの姫様? 大変なの?」
 二人の難解な会話の間に割って入った幼子の声。それだけで二人の会話はぴたりと止まってしまった。
それを見た鈴仙は、怒鳴り散らしたくなるような怒りを覚えたのだが、二人はひどく冷静であった。
「大変なことはない……筈」
 歯切れの悪い輝夜の返答。メディスンは小首を傾げて見せた。すると、永琳がそれに付け加えた。
「こちらにとっては寧ろ好都合な行動だったのだけど、それが逆に怖いのよ」
「この一手の意図が全然読めないって訳。メリットが無くて」
 説明されても、ゲームの局面を見続けてきた訳ではないメディスンには事の重大さは分からなかったが、とりあえず心配する必要はないことが分かり、安堵の表情を見せた。
それと同時にまたも鈴仙がメディスンを乱暴に抱き上げて、本の置かれたテーブルから引き離した。
さすがに地面に下ろす動作は相手の身体を気遣った優しいものであったが、メディスンを叱るその表情は鬼の形相であった。
「あんたは離れてなさいって言ってるでしょう!」
 ひそひそと小さな声だが、容赦なくメディスンを叱り付けている声色であることは明らかだ。
メディスンも負けじと、「てゐが心配だった」とか「何が起きているのか知りたかった」などと反論したが、糠に釘であった。
鈴仙にたっぷりと辛らつな言葉を浴びせられて、さすがのメディスンも悲しくなったようで、それからはほとんど動くことも話すこともなく、テーブルを遠巻きに眺めていた。

 さて、ゲームを主導する月の民二人は、突然動きを見せた敵陣営の行動の意図が読めず、頭を悩ませている。
考えなしに動かしたのか。それとも思考の海を潜水して、ようやく掴んだ一手なのか。
これまでもどちらかと言えば永遠亭有利でゲームが進んでいたが、敵もなかなかのやり手で、月の民二人を唸らせる戦法をとって戦っていたのだから、その怪しさに拍車が掛かる。
 しかし、考えているばかりではどうしようもないと割り切り、無為無策の一手へ対して、輝夜らも一手を仕掛ける。
全く想定していなかった――否、想定する必要が全くなかった筈の戦況での一手は、まるでゲームが始まった直後であるかのような、異常な緊張感を伴った。
自分達は有利は不動なのだと自分に言い聞かせ、敵の動きを固唾を飲んで見守る。
どうしようもなく出鱈目な一手を見せられ、そこから続くゲームの展開や、一手に秘められた真意を知らずに眠るなど、できる訳がない――輝夜は次なる敵の一手が来るまで、いくらでもここに居座り続ける覚悟があった。
 そんな彼女の覚悟は、全く無駄なものとして泡の様にぱんと弾けて消えてしまう。敵側の次の行動は、それはそれは素早いものであった。
あまりの早さに、輝夜が思わず「え?」と声を出してしまった程だ。永琳も驚いたように目を丸くしているし、てゐでさえもぽかんと口を開いている。
迅速過ぎて、困惑を通り越して感心してしまう程早い反撃として繰り出された一手は、やはり月の民二人を、そしててゐをも唸らせるものであった。
一手にほとんど意味が感じられないのである。いや、全く無意味な一手などない。
「一体何を考えているのよ……!」
 突如として鋭敏さをすっかり失ってしまった相手に、輝夜は困惑と失望と苛立ちの混じり合ったような呻き声を上げる。
てゐも敵の異常に気付いたようで、
「なんだか、プレイヤーが代わってしまったみたいですね」
 何の気なしにこう呟いた。確認しようもないことであるが、彼女のこの憶測は大正解であったのである。


*


 こいしの体調を気遣った「続きは明日に持ち越そう」というさとりの鶴の一声でお開きとなったゲーム初日。
二日目となる朝、一番初めに目を覚ましたのは燐であった。地霊殿の中でもかなりまともで優秀な妖怪である燐は、こうして早めに起床し、住民達を叩き起こすことを日課にしているのである。
昨日は夜が遅かったのだが、もう習慣となっている為であろう、この日もかなり早い起床となった。
軽く乱れている長い赤い髪を手で梳かしながら、一先ず水でも飲もうかと、寝床から食堂へ向かって歩き出した。
その道中で、あの嫌なゲームとなっている魔導書が食堂にあることを思い出し、腹の底に粘土の塊でも食ったかのような嫌な重みがずしりと圧し掛かるのを感じ、思わず歩みを遅めた。
どうせ逃れることができるものではないことは分かっているが、なるべくあんな忌々しい物とは関わりたくなかったのだ。
のろのろと歩み、ようやく食堂へ通ずる扉へ到着した燐。やけに到着に時間が掛かった気がするのは、歩みを遅めたことの影響だけではないだろうな、などと考えながら、扉の取っ手に手を掛け、扉を開け放つ。

 見慣れた食堂だが、彼女が起きる時間に既に起きている者は、この地霊殿にはなかなかいない。
それ故に燐にとって、早朝から椅子に座っている者がいる食堂と言うのは、なかなか新鮮な光景であった。
そしてその新鮮な光景は、昨日からの大騒動を一瞬だけ忘れさせる力を秘めていた。――そう、一瞬だけ。
「あれ、こいし様……おはようございます。お早いですね」
 ほんの一瞬、何の狂いも無い日常を垣間見た燐の口から零れた、あまりにも平和で、穏やかな一言。
ある筈のない『平穏な日常』と言う幻想はその一言で脆くも崩れ去った。
次の瞬間、燐は完全に言葉を失い、光の宿っていない瞳でぼーっと魔導書に目を落としているこいしを呆然と見やっていた。
「こ、こいし様?」
 どれくらいそうしていたかどうか分からないが、ようやく燐は我に返って、昨日突如として悲劇のヒロインとなってしまった主の妹の名前を呼ぶ。
それ以上の言葉を出すことはできなかった。こいしの名を出した途端、胸中に芽生えた漠然とした不安――それを鮮明にするのが怖かったから。
 こいしはぴくりと身を震わせてから、錆付いたネジみたいにゆっくりとした動きで燐の方を見やる。
その瞳を、その表情を見た瞬間、燐の胸中に芽生えていた不安は、図らずして一気に鮮明な黒色を得て、彼女の心を、視界を、瞬く間に覆い尽してしまった。
「夢遊病……っ!」
 最悪の未来を想定した燐はぞわわと鳥肌を立てた後、すぐさまこいしの元へ駆け寄った。
 無意識を操り、そして無意識に囚われているこいしは、度々信じられないくらい重度の夢遊病を発症することがあった。
命を賭したゲームのことを胸中に秘めたまま眠ってしまったのだ。ゲームのことが気になって食堂へ来るなど不思議ではない。
そして彼女の前にあるのは、“考える”だけで進行させることができる驚異的なインターフェースを持つゲーム――あろうことかこいしは、夢遊病真っ只中の覚束ない思考のまま、ゲームを進めてしまっていたのだ!

 こいしの名前を呼びながら肩を引っ掴んで狂ったようにぐらぐらと体を揺する。
赤べこみたいにぐらぐらとこいしの首が揺れる。あまりの脱力感に、このままぽきんと首が折れてしまうのではと思えてくる。
 数秒後、こいしはぱっと目を見開いた。そして驚いたように周囲を見回す。
当然のことだが、本人だってどうして自分がこんな所にいるのか分かっていないので、その驚きは一入だ。
「燐? どうして私はこんな所に」
 きょとんとした瞳を投げかけながら問い掛けてくるこいしに、燐は何の言葉もかけてやることができなかった。
そして、恐る恐る魔導書の戦場となっている頁に目を落とした次の瞬間――視界が一瞬だけ真っ暗になった。
昨晩、戦闘を中断した際の戦況を完璧に記憶しているかと言われれば、燐は首を横に振らなくてはならない。
しかし、全てを事細かに記憶できておらずとも、昨晩とはまるで戦況が変わってしまっていることくらい、一目見れば誰の目にも明らかだ。
現にこいしも、燐に倣って魔導書に目を落として、知らぬ間に激変している盤の状態を見て愕然としているではないか。
全く訳の分からない状況に、こいしまで言葉を失ってしまった。一杯に見開いた瞳に、じんわりと涙が溜まって行く。
「さ、さとり様を呼んできます!」
 燐はそうこいしに告げると、こけつまろびつ、さとりを呼びに食堂を後にした。



 全く意図の読めない夜襲を挟んで訪れた永遠亭の朝は、珍しく極めて遅いものであった。
無理もない。誰もが真夜中に起き出してきて、混迷極める戦況を見守っていたのだから。
 永遠亭の者達には結局、夜襲の意図は分からず仕舞いであった。『敵は夢遊病を発症して、意識の無いままゲームをしていた』なんて、さすがの月の民二人にも想像はつくまい。
迅速に次なる一手を繰り出してくる時もあれば、やたら時間を置いてからの一手もあったりと、夜襲の終わりを確認するのはなかなか難儀なことであった。
「夜襲は終わった」と輝夜が判断を下したのは、午前四時を少し過ぎた頃であった。もしも続くようであっても、恐らく彼女はその日、それ以上の対処を拒んだであろうが。

 時計の短針は「9」を指し示そうとしている頃になって、ようやく鈴仙が起き出して来た。
寝不足の影響であろう、頭がずしりと重たく感じられた。こつこつとこめかみの辺りを叩いて修正を図ってみたが、そんな行為で頭の違和感が消える筈などなかった。
すこぶる不調な体。それでもって思い出されるてゐを取り巻く現状。暗澹たる思いを秘めたまま私室から出て台所へ向かい、その途中で視界に入り込んでくる、テーブルの上の魔導書――陰鬱な気分はどんどん加速していく。
 しかし、彼女の気持ちは、昨晩の夜襲を思い出したことで、若干晴れた。その夜襲は前述の通り、てゐの有利をより濃厚なものにしたからである。
輝夜が敵の一手を待たずしてゲームを中断したのもその影響であろう。益の無い手を繰り返してくれたお陰で、勝利の色は確実に鮮明になった。輝夜の心にも余裕が生まれたと言ったところであろう。

 鈴仙はそっと本を開いて、戦場の頁を見てみた。
当然のことであるが、戦況は昨夜――本日の早朝と言うべきであろうか――から全く変わっていない。
彼女もまた燐と同じように、克明に戦況を記憶していた訳ではないが、視界に焼き付いている就寝直前の戦況と、今視界に映っている戦況が大体一致した。
 いかに夜襲の内容が非効率的と言えども、永遠亭陣営が全く被害のないまま夜襲を乗り越えられたかと言われれば、決してそう言う訳ではない。
二つの陣営の総戦力は、驚くほど均衡して設定されている。どんなに下手糞な攻め方であっても、少々の被害は免れない。
それに、どんなゲームにも所謂プレイヤーが持つ『運』と言うものが確実に存在する。こればかりは『月の頭脳』と謳われる永琳にも予測しようのないことであるし、ゲームの名手である輝夜にも揺るがすことができない。
そして夢遊病で出鱈目にゲームで遊んでいるこいしにも、『運』は等しく振りかかってくれるのである。彼女は昨日、これに救われた。
 敵も味方も巻き込む核爆発攻撃を広範囲に放つ特性を持つ“空”の特性を、“さとり”が模倣して放った。
特性の効果範囲内には勿論、てゐの味方であるキャラクターも数名いたのだが、“燐”と“ゾンビフェアリー”も効果範囲内にいた。
体力の低い“ゾンビフェアリー”は確実に絶命するであろうし、“燐”も体力の残量から察するに倒れるであろう、と輝夜は踏んだ。しかし、予想は外れ“燐”は生き延びた。一桁だけの体力を残して。
同じく“さとり”の攻撃で瀕死の傷を負った“永琳”に、“燐”と、彼女の特性で復活した“ゾンビフェアリー”が攻撃を加えて“永琳”を倒して、おまけにゾンビ化させて味方につけてしまったのである。
優秀な補助役が敵に回されてしまったのは非常に手痛かったようで、輝夜は思わず大きな舌打ちを打った。
 ゾンビ化には能力値の低下や特性使用回数の減少と言った制約はあるが、それでも敵の数が増えることに変わりは無い。
それより先に“ヤマメ”を夜襲の中で倒してしまえていたが、単純にキャラクター数で見れば負けていることになる――この事実が輝夜に火を付けてしまった。
 『運』が離れてしまった後のこいしは相変わらずであったが、のらりくらりと攻防を続け、どうにか昨夜の内の敗北は免れた。

 てゐの操るキャラクターは“鈴仙”“メディスン”“妹紅”の三名が生き残っている。妹紅は一度蘇生した身である為残った体力も少ないし、もう一度倒れてしまえばもう復活はできなくなる。
対するこいしの残存キャラクターは“さとり”“燐”“ゾンビフェアリー”の三名。“燐”はゾンビ化させた永琳の能力を使って一度体力を大きく回復させたものの、その後の無茶な運用によって再び窮地に立たされている。
“ゾンビフェアリー”は“燐”の特性ありきなキャラクターであるから、“燐”の戦線離脱によってたちどころに無力化してしまう。
よって、てゐにとって実質脅威となる存在は、もう“さとり”のみと言っても過言でないだろう。
残存しているキャラクターの数は同じであるが、その戦力差は一目瞭然であった。

 誰かの幸せは誰かの不幸、とはよく言ったものである。
希望の光に照らされる永遠亭。それによって出来上がった日陰の中で、地霊殿は絶望に打ちのめされていた。
どんよりと重苦しい空気が立ち込める地霊殿の食堂。誰一人言葉を発することなく、知らぬ間に激変してしまった戦況を見て呆然としているさとりの姿を眺めている。
こいしの嗚咽が辛うじて無欠の静寂が闊歩するのを妨害しているが、そんな陰鬱な音は無い方がよっぽどましであった。
 さとりが崩れ落ちるように椅子に腰掛ける。ぐらりとテーブルが揺れ、燐が淹れた紅茶の入ったティーカップも同じように揺れる。
事情は全て燐に聞かされていたから、改めてこいしに何があったかを問うまでもない。
何もかも知っているからこそ、さとりは誰も責められないし、誰に文句を言うこともできない。
寧ろ、夢遊病の危険性を予め察知できなかった自分の間抜けさがどうしようもなく悔しかった。自嘲の笑い声すら漏れ出してきそうであった。
 本日の開戦はこいし側の一手からなる。故に、考える時間は山ほどある。だが、もしもこのゲームが命を賭すと言う重大な要素がないのであれば、もはや考えるのが億劫になる程の絶望的な状況であった。
戦況から見るに、もう数手で勝敗は決してしまう。それも、こいしの負け色は、雨上がりに掛かる虹の橋よりもよっぽど鮮明で、色濃いものである。
――この状況を引っ繰り返せと……?
 さとりの口元が遂にひくっと吊り上がった。
「ごめんなさい」
 唐突に静寂を打ち砕いたのは、こいし陰惨な謝罪の辞。場の空気はいよいよその重みを増した。黒い粘土のような固体となって、この場にいる全ての者の肩に圧し掛かってくるような錯覚さえ覚える程だ。
 しばらくさとりは、穴の開くほど魔導書を見やっていたが、不意に昨日と同じように、ペンと沢山の紙を容易し、黙々と字を綴り始めた。
想定できるあらゆる手を書き出そうとしているのである。もうほんの数手でゲームは終わってしまうであろうが、今の彼女にできることはこれしかなかった。
こいしの謝辞には一切反応しない。する必要を感じなかった。こいしは悪くない、謝る必要などないと、さとりは思っているのだから。
 どうしてこいしはこんなに可哀想な目にあっているのか――この問いを、三度自身の胸へ聞いてみた時、彼女は自責の念に囚われた。
こいしは一体何に謝っているのか、さとりには全く分からなかった。
 妹がこんな状態になるまで放置していたのは紛れもなく自分である。破滅の道を歩む妹の手を引いてやることができなかった。
道を誤り始めた妹を、今の今まで、どうしてもさとりは救ってやることができなかった。
手を引いてやれていたら。こいしを救えていたら――。きっと、こんなことにはならなかっただろう。
 半ば思考停止と言った具合に密閉した心に入り込んできた、心の外側の全く新しい空気。
不完全燃焼で燻っていたさとりの闘志と言う炎が、その空気に感化されて、爆発的に燃え上がった。
 文字通り、こいしは『最期』を迎えようとしている。今、こいしを救うことができなかったら、もう彼女を救う機会は二度とやってこない――。
 これは、さとりに与えられた、こいしを救う最後のチャンスであった。
こんな事態に陥らないと妹を救うことができないなんてと、つくづく自身の無能さが恨めしかった。

「お燐」
 紙に目を落としたままさとりが口を開く。
「何でしょう?」
 燐は言下に問い返す。
「朝食の準備を。それから、みんな別の部屋で待機していなさい。……手が決まったら呼びに行くわ」
「かしこまりました」
 いつになく冷酷かつ真剣な口調なさとりに圧倒され、燐は一目散に台所へ向かった。
空はこいしの手を引いて、彼女の私室へ向かおうとしたのだが、こいしはそれを拒んだ。
「お姉ちゃん、お姉ちゃん」
 泣きながらこいしは言う。
「ごめんなさい、本当にごめんなさい」
「謝る必要なんてないと、昨日言ったでしょう」
 さとりはこいしに目もくれずに言う。
冷やかなさとりの態度が余計に不安を煽るのだろう、こいしは増々その場を離れるのを拒み始めた。
あれこれと駄々をこねるこいしに、遂にさとりはペンを置いて振り返る。
「こいし、私を信じて」
 はたと言葉を止め、こいしはさとりの瞳を見やる。
こいしは心が読めない。その昔、第三の瞳を閉じてしまった影響だ。
しかし、今のさとりの目には、心の言葉よりももっと明らかな決意の色が窺えた。
 それ以上、さとりは何も言わないで、再び机に向かい、独り言をつぶやきながら、あれこれ紙に文字を綴り始めた。
 まるで金縛りにでもあったかのようにおとなしくなったこいしを空が抱きかかえて、彼女の私室へ向かった。


 永遠亭には比較的穏やかな空気が流れていた。
命を賭したゲームはまだ終わっていない。終わっていないが、勝利は目前だ。
敵がこれからどう動こうが、的確な対処を施すことさえ怠らなければ、何ら問題なく勝利をもぎ取れる自信が輝夜にはあった。
 少し遅めの朝食を摂る。皆口数こそ少ないが、米も卵も野菜も、いつもと同じようにするすると喉を通って行った。
 食事が終わり、食器を洗い終えると、全員でゲームが動き出すのを見守った。
ふわふわと盤上を漂っている“ゾンビフェアリー”、少々苦しげな表情で猫車に腰を降ろしている“燐”、そして胸にぶら下がる眼のオブジェクトを撫でて威風堂々と佇む“さとり”。
この三体を倒しきれば、戦いが終わる。てゐは救われる――輝夜は大きく深呼吸をした。自信はあれど、不備は許されない。いつものテレビゲームのようにリセットは利かないのだから。
食事の準備中に考えておいた戦法をメモした紙を入念に確認し、落ち度がないことを確信する。
 そして、沈黙の只中で待つこと、およそ十五分――。
「あっ、動いた!」
 メディスンの幼げな明るい声が、戦場の変化をいち早く知らしめた。


*


 どう考えみても、真っ当な方法でこの戦いを制することは不可能な状況まで、事態はこんがらがってしまっていた。
それをいくら嘆いてみても、もうそれは変わることのない事象である。
この絶体絶命の状況を引っ繰り返す術を、さとりは死に物狂いで考え、考え、考え――。
考え抜いた挙句に辿り着いた答えは、幸運の女神をも自らの味方に付けねばならないと言う、どうしようもなく絶望的なものであった。
だが、もう引くことに意味などない。前を見据えていくしかない。
妹の命を一か八かに賭けてやるのはこの上なく不愉快であったが、これ以外の勝ち方はもうないと言っていい程の綿密な作戦を立てた。
 こいしら三名を部屋へ呼び出し、ゲームの終焉の幕を切って落とすことを告げると、三名の表情にも緊張が走った。
「こいし。操作をお願い」
 さとりが言うと、こいしは無言で頷いて、椅子に座り、魔導書と向き合った。


 こいしのキャラクターは現在、“さとり”を除いた二人は前線へ赴いて戦っている。
対して敵陣のキャラクターで前線へ出てきているのは“妹紅”のみ。“鈴仙”と“メディスン”は割と敵との距離を置いている。
“鈴仙”は中距離攻撃を所持しているし、“メディスン”はあまりの能力値の低さ故に、前線へ出てた戦ってもまともに機能してくれないからであろう。
効果は極めて薄いが、遠巻きからの弾幕での攻撃で支援するのが、煮詰まって来たこの戦場では精一杯なのである。

 まず初めに動かすのは“さとり”である。“メディスン”の毒を付与する能力を模倣する。
距離を問わずに能力を模倣できるのが、“さとり”の最大の強みである。
毒を付与させるのは“妹紅”。次の敵のターン開始時の毒で、“妹紅”は倒れる計算となっている。
“燐”と“ゾンビフェアリー”は“鈴仙”の元に向かわせて攻撃を加える。しかし、普通に攻撃したのでは“鈴仙”を葬ることはできない。
確率で発生する『クリティカルヒット』なるものの発動を願わなくてはならないのである。これが『幸運の女神を自らの味方に付けねばならない』要素である。
脆弱性だらけの戦略であることなんて百も承知であったが、さとりに残された手はこれだけであった。
 意を決し、この作戦を行動に移す。さとりの指示に従い、こいしが慎重にキャラクター達を動かしていく。
 “さとり”の効果で“妹紅”の頭上に髑髏のマークが浮かびあがり、“妹紅”は顔を青くし始めた。
次いで“燐”と“ゾンビフェアリー”が鈴仙の元へ向かい、攻撃の体勢をとる。
さとりは思わず手を握り合せた。指が互いの手の甲に食い込んでいきそうな程、強い力で。手が震えているのは、何も力でいるが故ということばかりではないであろう。
 “燐”と“ゾンビフェアリー”が、鈴仙に攻撃を加えた。
“燐”には引っ掻くような、“ゾンビフェアリー”には体当たりのような、攻撃のアニメーションが用意されている。
与えたダメージは小さな文字になって、キャラクターの上に浮かんでくるのだが――。

 現実とはやはり非情なものである。さとりの望んだダメージの値には、遠く及ばなかった。
危険な状態までは追い詰めることができたが、やはり倒しきることはできなかった。
 さとりの目の前が真っ白に染め上げられた。握り合せていた手がすとんと腿の横辺りへと落ちていく。
燐はあたふたと周囲を見回す。空は不安げに魔導書とこいしとさとりを見比べる。その瞳は「まだ何か奥の手があるんでしょ?」と訴えかけているようであった。

 この魔導書は、プレイヤーがキャラクターを動かし切ると、自動的に敵のターンに移行すると言うシステムを持っている。
今回も例に漏れず、ターンは移行した。敵陣営の攻撃の番である。
 “妹紅”はターンの開始と同時に毒で倒れた。
“メディスン”が“燐”を仕留めた。“燐”の戦線離脱と一緒に“ゾンビフェアリー”も消え果てた。
こいしのキャラクターは“さとり”のみとなってしまった。
そしてこの“さとり”は、“鈴仙”の特性である中距離攻撃に耐えうる体力を残していない――。
 “鈴仙”が手でピストルの形を作る。人差し指と親指をぴんと伸ばし、他の指はぐっと握り締める。
そして、銃口に見立てた人差し指の指先を、“さとり”へと向けた。
 これから放たれる弾丸が“さとり”の胸を穿ち、“さとり”は倒れ、こいしは敗北となり、死ぬ――。
 目の前で勃発している可愛らしい戦争に殺される自分を思い、こいしは思わずふふっと、変な笑い声を上げてしまった。
 必死に姉が、自分を生かそうと考えてくれた手を最後まで見届けようと、こいしは目を逸らさずに、自分の死が確定する瞬間を待っていたのだが。


 不意に体がぐらりと揺れ、こいしは椅子から転げ落ちてしまった。
何事かと思ったら、さとりがこいしを抱きかかえているのである。
こいしがどう死んでしまうのかは誰も全く分からない。
急に心臓が止まるかもしれない。突然病に冒されてしまうのかもしれない。本から死神が現れて首を刈るのかもしれない。
 別に何だってよかった。否、どうでもいいことであった。さとりはこいしを最後まで守り続けようと決めているのだから。
心臓が止まれば動かす努力をする。病ならばそれを操れる土蜘蛛が地底にはいる。死神が来るのならば追い返してやる――。
固い決意は心と言う狭い場所には収まり切らず、腕力と言う形で表面化された。こいしを抱くさとりの力は、それはそれは力強いものであった。

 こいしはそっと目を瞑る。なんとなく、助からないだろうと思っていた。あの本の精巧ぶりから、もう逃れることはできないであろうと。
 魔導書から流れてくるBGMが耳に入り込んでくる。明るい旋律だが、状況が状況なだけに聴くだけで陰鬱な気分になる。
しかし、そのBGMでさえ、こいしがまだ生きていることを証明する一つの要素となっているのだから、皮肉なものである。
――もう少し、もう少しだけ。この曲を聴いていたい。
 聴こえていると言うことは生きているということ。生きていると、この姉の温もりを感じていられる。
もう少しだけこのままでいたいと、こいしは思っていたが、それの終わりを告げる音が鳴る。散々聞かされてきた、“鈴仙”の放つ銃声だ。
 パァンと、BGMにそぐわない妙にリアルな銃声が、静かな地霊殿の中に轟いた。




*




 寝る際に部屋の灯りを消して、周囲が真っ暗になった時、どこに何があるのかさっぱり見えなくなる――皆さんも経験がおありであろう。
目が闇に慣れない内は、暗がりの中で物を見ると言う動作は大変難しい。
 これは人間のみならず、妖怪にも適応される反応であるらしい。
希望の光を浴び続けてきた永遠亭の住民に、この度の、にわか雨よりも突然降り掛かってきた闇は、あまりにも深く、あまりにも暗すぎた。
絶望の暗闇に目が慣れるまでの間、彼女らは現実を直視することさえままならなくなっていた。
 しかしやがて目は暗がりに順応する。視界はある程度元に戻る。
そして彼女らは現実を再確認するのである。

 “さとり”が、倒れていない。
 少し不快そうに目を細めながら、暑さを和らげるみたいに服の襟首をぱたぱたと仰いでいるのである。

 誰もが愕然と、戦場に目を落としている。
輝夜はぽかんと口を開いたまま、微動だにしない。傍に立っている永琳も、その目を、故郷である月よりもまん丸くしている。
勝利を確信していた輝夜を信じ切っていたメディスンや鈴仙も、どうして戦いが終わらないのか訳が分からないと言った具合に、押し黙って魔導書を見やっている。
そして、生き伸びることができると確信していたてゐ――何故か終わらなかった戦いに、言葉を失ってしまっている。
 重々しい――なんて表現ではどう考えても軽々しい。筆に尽くし難い、何とも言えない、しかしこの上なく陰惨とした空気が、永遠亭の五人を包み込む。


「どうして……?」
 ようやく口を開いたのは輝夜。
「どうして!? どうして“さとり”が倒れないッ!?」
 普段の彼女からは想像もできない激昂ぶりは、鈴仙でさえ思わず身じろいでしまった程だ。
永琳も全く分からないと言った様子で、呆然と首を横に振って応える。
 輝夜は頭をがりがりと掻きながら、頭に叩き込んでおいたキャラクターの能力を狂ったように反芻する。
一字一句違わないで“さとり”の全ての能力値と特性の説明文を口に出して復唱した。
それなのに、止めとなる筈だった“鈴仙”の攻撃ダメージを“さとり”が激減させた理由が全く掴めない。
 その最中に、
「もしかして」
 幼く明るい声。
 およそ、このゲームの攻略には何の役にも立たぬと、誰もが思っていたであろう、生まれたばかりの妖怪――メディスン・メランコリー。
この妖怪が、全ての謎を解き明かしてしまった。
「鈴仙、私のこと嫌いだから……二人でいると怖かったのね?」

 一時、全ての視線はメディスンに注がれていたが、今度はその全てが鈴仙の方へと飛んだ。
一瞬にして全ての視線の的となった鈴仙は、言葉なく、呆然とその場に立ち尽くしている。
 メディスンの言う通りであった。
鈴仙はメディスンを嫌っていた。同時に恐れていた。怪しんでいた。疑っていた。敵意さえ見られた。
花の異変の時からずっと、鈴仙は彼女を危険視し続けていたではないか。
毒を快く譲ってやると言っていた時も、永遠亭に遊びに来た時も、てゐを気遣っていた時も、鈴仙のメディスンに対する態度はそれはそれは冷やかなものであった。
もしかしたら、本人はそんなつもりはなかったのかもしれない。だが、少なくとも『てゐ』にはそう見えていた。
てゐはプレイヤーであり、キャラクターの能力を司る存在である。
そんな崇高な存在である彼女の目に『不仲』と映っていた二人で、手負いのまま未知なる妖怪を相手取る――これで『劣勢』を感じられない筈がない。
 『劣勢を感じると、能力が著しく低下する』
 寛容すぎた月の姫と月の頭脳には、これは予測不能であった。二対一の状況を劣勢などと感ずることがなかったのだ。


 勝利を逃した謎は解明された。
解明されたからと言って、もはやどうすることもできない。
“妹紅”は倒れた。“メディスン”は攻撃し終えて動くことができない。“鈴仙”は“さとり”を仕留め切れなかった。
てゐはこのターン、これ以上動くことができない。自動的に敵陣営のターンへと移行した。
『ENEMY TURN』と言う赤いロゴがくるくると回転し、吸いこまれるように消えて行った。
 ロゴを見送ると、出し抜けにてゐが椅子を立ち、地面を蹴り、鈴仙に飛び掛かった。
呆然としていた鈴仙は、てゐの体当たりに抵抗することもできず、簡単に仰向けに倒れ込んだ。
鈴仙はその上に馬乗りになり、鈴仙の左頬をぶん殴った。唇が切れたのであろう、鈴仙の口から赤い雫がたらりと流れ出てきた。
そんなことは全く厭わず、てゐが怒号を上げる。
「鈴仙ッ!! お前の、お前のせいだッ!」
 激情が作り出したその猛烈な勢いは、先に待つ死が齎す悲しみや恐怖と対峙するや否や、あっさりと白旗を上げてしまった。
次の瞬間、てゐはぼろぼろと涙を零し始めていた。
「お前っ、お前のぉ……! お前のせいだ……! どうするんだよ、どうしてくれるんだよぉッ!」
 てゐは泣きじゃくりながら鈴仙への呪詛を吐き続ける。鈴仙は相変わらず呆然としたまま、てゐの顔を見やっている。
その顔には何の感情もなかった。憤りも、悲しみも、何も。
 てゐがそんなことをしている内に、ゲームはあっと言う間に終焉へ近づいて行った。
“さとり”が“鈴仙”の特性を盗み、“メディスン”を仕留める。
“メディスン”は毒を散布し、戦線を離脱した。
“メディスン”の隣にいる“鈴仙”だけが、その毒の餌食となった。
“鈴仙”はダメージを受けた。敵陣営はこれ以上動くことができないので、自動的にてゐのターンが始まる。
そのターンの開始時に、毒の効果で“鈴仙”は死んだ。

 悲しげなBGMと共に、青色の「YOU LOSE」の文字が現れ、ゆらゆらと漂っている。
メディスンは英語が読めないが、何となくそれが負けを意味する言葉なのだと言うことを理解した。
 負けが決まった途端、てゐの呪詛は、怒りは、いよいよ加速した。
あらん限りの声を張り上げながら、鈴仙の胸元を我武者羅に殴り続ける。咆哮の合間に鈴仙を罵る声がいくつも聞こえた。
輝夜も永琳も、何も言えずにその様子を見守っていた。メディスンは恐れをなして、永琳にしがみ付いた。

 その咆哮も、そう時を待たずして終焉を迎えることとなる。
不意にてゐの暴行が、暴言がぴたりと止んだ。代わりに吐き出されたのは、鮮血。
苦しげに喉を抑えながら、てゐが鈴仙の体の上から離れ、よろよろとその場を歩き始めた。
挙句の果てには目から、耳から、鼻から、股から――全身の穴と言う穴から血が溢れ出てきた。
足元には大きな血溜りができあがり、てゐが一歩足を動かすたびにびちゃりと生々しい水音を立てる。まるで、凶悪な毒でも盛られたかのようである。
 口からの血が呪詛の言語化を遮ってはいるが、てゐの表情を見れば、彼女が鈴仙に呪殺せんと言わんばかりの恨みを抱いているのが分かる。
 しばらくそうやって血生臭いステップを踏んでいたのだが、血で足を滑らせて派手にすっ転んでから、それ以上てゐが動くことはなかった。
しかしそれでも、その目は鈴仙を見据えたままであったが。



 てゐが動かなくなってからようやく、鈴仙が上体を起こした。
鳶座りをして、見るも無残なてゐの亡骸を見やった後、鈴仙は両手を顔に押し付けて泣き始めた。静かな嗚咽であった。
輝夜も、永琳も、メディスンも、かけてやる言葉が見つからず、渋面を作って鈴仙を見やっていた。
 てゐの元の血溜りが、つつと流れて、鈴仙の方へと流れていく。
まるで彼女の血までも鈴仙への執着を捨てきれぬと言った風な、ぞっとするものを感じることができる。
 その血の筋が、鈴仙の膝にぶつかりかけた、その刹那。
 鈴仙が手でピストルの形を作った。人差し指と親指をぴんと伸ばし、他の指はぐっと握り締める。
そして、銃口に見立てた人差し指の指先を、自身のこめかみへと押し付け、
 
 
 
 やっとこさ新天地へ到着。pnpです。

 懐かしの作品(?)のふたつ目を書いてみました。
と言ってもこの話はひとつ目を書いた年には頭ん中で考えついていたものであり、
このSSの初めの方は少しばかり前に書いたものなのです。
当時らしい発想、と言えばそうかもしれませんね。
 それゆえの粗もあるかもしれませんし、良さもあるかもしれません。

 この後地霊殿や永遠亭がどうなったか。
一応物語はありますが、SSとしてはここまでということで。


 ありがとうございました。次回もどうぞよろしくお願いします。
++++++++++++++++++++
>>零雨さん
応援されて地霊殿の皆さんも喜んでいることでしょう。東方二次創作ゲームは買ってもやらない私です。

>>NutsIn先任曹長さん
そうなんです、ゲーム自体は特になんだっていいんです。考えるのも難しいですしね。

>>紅のカリスマさん
心理戦、と言う程心理戦できていない現状。そういうのも書ければもっと楽しくなるんでしょうけれど。

>>名無しさん
書いてはいませんが、私の中では末永く幸せに暮らしますよー。

>>名無しさん
前作との繋がりはありませんので、新しい設定と言っても大丈夫でしょう。

>>木質さん
確かに、命さえかかっていなければ楽しいかも。しかし、人の心の中が見えてしまう恐ろしい本でもあります。

>>名無しさん
続けられたら、続けたいと思います。

>>名無しさん
よかったです。ちょっとこいしらしさが足りない気もしていますが。

>>名無しさん
気付こうと思えば気付けることであったのかもしれませんが、永琳らはいろいろ寛大そうですし。気にしていなさそうです。

>>名無しさん
なるべくメディと鈴仙のフラグは気付かれないのが望ましかったですが、まあそうもいきませんわね´`

>>筒教信者さん
ありがとうございます。

>>名無しさん
前作も読んで頂けたとは嬉しいです。
ゲームそのもののルールについては、たしかご指摘の通りですね……´` 参考にします。ありがとうございました。

>>んhさん
非想天則で二人は会っていますが、ストーリーモードでの邂逅は無かったと認識しているので、会ってないものとして扱いました。

>>名無しさん
ありがとうございますー^^

>>名無しさん
ありがとうございます。緊迫感演出できていたようで、よかったです。

 匿名評価をしてくださった方々、ありがとうございます。是非、ご感想をお寄せ下さい。
pnp
http://ameblo.jp/mochimochi-beibei/
作品情報
作品集:
1
投稿日時:
2011/10/07 12:38:02
更新日時:
2011/12/11 16:55:24
評価:
14/24
POINT:
1640
Rate:
14.48
分類
地霊殿
永遠亭
微グロ
前作からの繋がりは一切ございません。
簡易匿名評価
投稿パスワード
POINT
0. 240点 匿名評価 投稿数: 8
1. 100 零雨 ■2011/10/07 22:21:15
鈴仙の能力がまさかこんな形で発動するとは思いませんでした……。
応援していた地霊殿側の勝利は嬉しいですね。
こんなゲームが売ってたらなぁ……。
3. 100 NutsIn先任曹長 ■2011/10/08 01:18:26
今回のゲームは、両陣営とも死力を尽くしましたね。
この話は、あくまで『ゲーム』のスリルを味わうもので、
魔道書の正体など取るに足らないもののようですね。

このゲームに運命の女神など存在しない。
あるのは、最後の最後までゲームに挑み続けた者達の信念と、
手駒の能力をちゃんと把握していなかった者達の迂闊さだけ。
4. 100 紅のカリスマ ■2011/10/08 01:47:46
まさかのゲーム2・・・!!
前回の孤独な戦いとは違う、集団での心理戦。
途中に地霊殿でプレイヤー側のアクシデントが発生し、危うい状況に陥りましたが、それ以上のイレギュラーな要素が命運を分ける結果になりましたね・・・感情、恐ろしい。
6. 100 名無し ■2011/10/08 04:51:03
面白かったです
前作は勝者側だったので普通でしたが、敗者側の最後はひどいもんですね・・・
残った地霊組には幸せになってほしいです
9. 100 名無し ■2011/10/08 15:56:29
なるほど、こういう仕組みになっていたのですか。単純な実力だけじゃなく
現実における彼女らのキャラクターを深く知ってないと勝てない……面白いゲームです。そして、仲間としての絆が永遠組に勝った地霊組の勝利、と。いい話でございました。
10. 100 木質 ■2011/10/08 21:10:56
両陣営の個性が出た采配と人間模様、
前回の個人対個人とは一味違う展開が非常に面白かったです。

どちらも悪くないのに敗者は死ななければならない不条理さが堪りません。
強制参加というのが鬼畜すぎます。

最後の最後で大逆転、きっとさとりはこいしを全力で抱き締めて勝利と彼女の生存に歓喜していることでしょうね。
命さえ掛かってなければ皆でワイワイできる楽しいゲームなのに…
11. 100 名無し ■2011/10/08 23:50:21
おもしろかった・・・
ゲームシリーズが続くといいなぁ・・・
12. フリーレス 名無し ■2011/10/08 23:58:17
さとりんとこいしちゃん良かったね!
うふふ
14. 100 名無し ■2011/10/09 12:09:31
このゲームのすごい親切設定を考えると、ちゃんと詳細に確認してれば
うどんげの特性もハッキリわかったんだろうなー。うっかりさんめ。
さとり達くらいてゐのために必死になってれば、敗北後でも永遠亭組なら
なんとかできたような気もするし、意気込みの違いが順当に結果に現れたって感じ。
15. フリーレス 名無し ■2011/10/10 23:32:41
地霊殿側に感情移入してたのでかなり嬉しかったりします(ごめんなてゐ……)
家族的な想いが勝利を引き寄せたと感じたい私は非現実的ですね(笑
前半で鈴仙のメディーへの態度からして何かあるとは思ってましたが、このゲーム、粋なことをしやがる。
取り敢えず、このさとりとこいしには幸せになってほしい。
16. 100 名無し ■2011/10/10 23:33:12
点数付け忘れたorz
17. 100 筒教信者 ■2011/10/11 07:59:46
心理描写が上手すぎる…!
19. 100 名無し ■2011/10/15 21:34:55
前作を読み逃していたので、この機に合わせて読ませて頂きました。
前作を読んでいない方へのネタバレになるので細かい事は言えませんが楽しませて頂きました。心配して声をかけたのに暴言を吐かれた「彼女」が一番の被害者かも知れない!

「夜襲で不眠に持ち込む作戦はどうだろう」「無意識でプレイしちゃったら…」「あ、そういや鈴仙の特性…」そういうターニングポイントが、私が思い出すか出さないかの絶妙なタイミングで挟まれていたのでテンポ良くと読めました。
フラグの立ち方が巧妙といいますか全く気が付かずに「ああそういえば」で無く、最初から「うわ、フラグだ」でも無く心地よかった。

ただ瑣末な事なのですが、今回や前回の様に予想外の要因で、気が付いたときには敵のターンで勝負が付いてしまうのなら良いですが、どうあがいても確実な詰みになったら、相手を生かす為に手を進めるプレイヤーはまず居ないでしょうから、時間切れで相打ち確実ではないでしょうか?
自分のターンで時間切れだと死亡(将棋やチェスの持ち時間切れのように)等の方が最期までゲームになるのではないかと気になってしまいました。
20. 100 んh ■2011/10/16 23:40:40
メディスンの使い方が素晴らしいなあ
地霊組と比較して、どっか不和を孕みつつ弛緩した雰囲気の永遠亭組を上手く体現しているような
そんなメディスンに鈴仙が"殺される"というゲームの終わり方もまた綺麗なエンドですよね

でも優曇華よ、お前おくうとは面識あるだろよ。なんか助言してやれよ……
21. 100 名無し ■2011/10/17 22:19:26
やだ、かっこいい…
24. 100 名無し ■2011/12/10 09:53:50
各キャラの個性を活かしまくった内容が凄かったです
どんでん返しの連発で最後までどうなるかわからずにハラハラしましたね
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