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『一日の終わり』 作者: ラビィ・ソー

一日の終わり

作品集: 1 投稿日時: 2011/10/15 15:58:00 更新日時: 2011/10/16 00:58:00 評価: 4/8 POINT: 340 Rate: 12.17
水曜日の午後11時。さとりはベッドのなかで本を読んでいた。寝室は
薄暗く、電気スタンドのオレンジの光が文字を追う視線の先を照らす。

眠くなってきたわね。そろそろ寝ようかしら

パタムとB5の分厚い本を閉じ、電気スタンドの傘から垂れるひもをプチリと引っ張

って
目を閉じた。瞼の裏には紫や緑の光がモヤモヤしている。

「今しがた読んだ 風博士 、面白かったわァ。大真面目にして大袈裟、
そして支離滅裂なのに読後に漂わせるものの哀れと登場人物への尊敬。
不思議な効果の追求は、文学でありながら科学的な楽しみでもあるのね・・」


頭の中の音楽が小さくなっていき、意識がしあはせに薄くなっていく。



ブブん・・ブブブん・・・・ブンブブ・・


?なにかしらこの音は。
少女は気になったが、いまさら休めた体を起こすつもりはない。
体はそのまま睡眠させ、意識を化身として外へ飛ばし、音の正体を
突き止めることにした。

ボウ・・ッ

半透明のさとりの化身が本体から離脱する。化身を飛ばして
外を見て回る快感は何にも代えがたいものがある。普段自分の足で
歩いているときの、障害物から身を守らなければならない注意の意識、
たとへば車にはねられないようにとか、パイナップルが落ちていると思ったら
それは亀で、吃驚して尻餅をついてしまわぬようにとか、
そういったものに一切心煩わさずに済むのだ。
その為、いつもより視覚に図太く注力でき、思わぬものを発見する楽しみ
もある。ほうら、言ったそばからあやしいものを見つけたぞ。


黒ヤギと白ヤギの子ども一頭ずつの目前にぬえが体をくの字に曲げ、
しりをヤギに向けて自分の股の間からこの獣の仔をにらみつけている。

「おまえはここで終わりだがな! おまえはここで終わりだがな!」

そうぬえは叫ぶと、尻を突き出して頭が地面につきそうなその姿勢のまま、
ピョコピョコと5cmほど飛び跳ねるのであった。

「おまえはここで終わりだがな!おまえはここで終わりだがな!」


仔ヤギ2頭は、ゆっくりと音もなく地面に生える夜露に湿った苔をふみしめつ

つ、
ぬえへと向かっていく。そしてその足の運びはやがて弾力を持って跳ねた。


「おまえはここで終わりだがな!おまえはここd・・はうぅーんッ!」

2頭のヤギはぬえの尻めがけて突っ込んだ。体を2つに折り曲げた姿勢によっ

て、
存分に伸ばされた尻の肉めがけて。




さて、茶番の見物はこのくらいにして、ブンブブブンブブという音の出所
へと急ぐことにしますわ。さとりはなおも歩を進め、やがて
国道に出た。ガソリンスタンドの赤色の照明が道へと漏れ、昼の喧騒から
寝静まった国道をやさしく照らしていた。



ブンブブブブンブブブ・・・


いるわいるわ。オートバイの群れ。これが珍走団って奴ね。
巨大権力へのアンチテーゼを若さに乗せて歌いまわる。
しかし跨るものは巨大権力の産物という、悲しい非勝利を運命付けられた
ものたち・・・。


さとりは思った。これを根絶やしにしてはならないと。
これは現実の詩だ。これを見て楽しむことは私が化身で散歩する楽しみ
ににている。しかも化身を飛ばせないものも楽しめるのだ。
水槽の熱帯魚が共食いするのを眺める残酷な楽しみ・・


さとりは疾走するオートバイに併走した。化身なので自由自在だ。
さとりはライダーの心を持ち前の能力によって読んだ。


「・・俺は狼だ。闇夜に突き抜ける一陣の疾風(かぜ)だぜ・・」 ・・ぶっ

(笑)


スロットルを楽器のように煽る。

ブーン・・ブン! ブン! ブイーーーン!!

「この獣の咆哮こそが俺の魂の叫び・・・!この命、今の一瞬にかけてみせる

!」  ・・・ぶぁっはっは(笑)


先頭の一台がマンホールですべり、転倒をこらえようとして足を着いてしまっ

た。すねの前方の骨が皮膚を突き破っている。興が起こったさとりは、
結局転倒したそのライダーの元へ向かう。そして道路でのた打ち回る彼の
思念に語りかけた。

「2輪乗りってのはピンキリだねえ。物理として理解し沈着をもって御するも

の、音や非日常に圧倒されてポエムの登場人物に落ちるもの・・。
でも、よかったね。君の怪我はロッシと同じだ。君がバイクで味わえる
唯一彼と同じものだよ。」


さとりの心はパァッと晴れ渡った。今夜はぐっすり眠れそうだ。
ラビィ・ソー
作品情報
作品集:
1
投稿日時:
2011/10/15 15:58:00
更新日時:
2011/10/16 00:58:00
評価:
4/8
POINT:
340
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1. 50 NutsIn先任曹長 ■2011/10/16 05:39:04
眠りに落ちる時、夢と現の境界を越えて、外の世界に意識が飛んだのかな?
人様の迷惑を顧みず、己の夢に生きる若者に現実ってヤツをおしえてあげた、と。

外界の世間の皆様の心はパァッと晴れ渡り、ぐっすり眠れる事でしょう。
3. 80 んh ■2011/10/16 23:34:12
本当に神霊廟のぬえは何がしたいのかわからなかった
4. フリーレス ラビィ・ソー ■2011/10/17 01:35:03
>>Nutsin先任曹長さま

事故が起きたときの騒然として気の弱い人が泣きそうになってる
あの空気、僕は最高に落ち着くんですよね。


>>んhさま

小傘とぬえは緊張感をしらけさせる効果抜群でしたね(笑)
見知らぬ土地にわくわくして行ったらそこに知り合いがいて
いつもどおりの雑談になっちゃった的なw
5. 100 名無し ■2011/10/23 02:43:30
こういう、個性的な作品を埋もれてさえてしまうのはもったいない。
6. フリーレス ラビィ・ソー ■2011/10/23 07:40:25
>>5

あなたが読んでくれたんだからそれで十分です^^b
7. フリーレス 名無し ■2011/12/13 17:02:54
また面白い作品書いてください!
8. 100 レベル0 ■2014/07/24 12:20:08
ぬえw
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