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『秋姉妹と初詣』 作者: おにく

秋姉妹と初詣

作品集: 1 投稿日時: 2012/01/01 09:59:27 更新日時: 2012/01/01 23:02:30 評価: 5/11 POINT: 570 Rate: 10.82
「誰か来るといいね、お姉ちゃん」
「そうね、誰か来るといいわね」
一月一日、元旦。朝十時、気温は例年よりやや低めである。
神社と言うか小屋というか、あまりにもこじんまりとしたぼろの秋神社の社では、
秋を司る二人の神様が、賽銭箱の前に立ち、これまた小さな鳥居を見つめながら参拝客を待ち望んでいた。
二人はきてくれる人をもてなそうと、朝早くに起き、やきいもを焼いていた。
そのうえ今年はじつに二皿六十個という大盤振る舞いである。

しかし、誰も来ない。冬の凍て付くような冷気が二人の柔肌を痛めつける。
ぼろぼろに痛んだ社が、風に煽られてぎしぎしと悲鳴を挙げている。
去年は誰も来なかった。一昨年も誰も来なかった。五年前に最後の初詣客が現れてから、ずっと途絶えている。
二人は口にこそしなかったが、考えることは一緒だ。今年もきっと誰も来ない。
もうすぐ正午。焼き芋はとうに冷え切ってしまっていた。

穣子の肩が震える。涙がぽろぽろとこぼれてくる。
「なんでだろうね、私たち、頑張って神様してるのにね」
悔しさで赤く染まった頬に、涙が一粒伝う。
「おいしいごはんのために頑張ってるのにね」
いや、一粒ではすまなかった。止めようとしても止められない。
「やめてよ、泣かないでよ、私だって泣きたくなっちゃう」
静葉も泣いた。ぽろぽろ泣いた。参拝客の一人も得られない情けなさと、
妹を泣かせる自分のふがいなさに、声を漏らしながら泣いたのであった。

しかしそのときである。秋神社の小さな小さな鳥居に、数えきれないほどの人影が見えたのだ。
穣子も静葉も、はじめは気が付かなかった。涙で視界がにじみ、なにもわからなかった。
それでもだんだんと影が大きくなると、それがたくさんの人であることが分かる。
五人、十人、いや二十人はいるだろう。
「あ、あれ、お姉ちゃん、人だよ、人が来てるよ!」
「本当だ、たっくさんの人……」
袖口で涙をふくと、幻のようなその光景があった。参拝客が鳥居をくぐっている。
秋神社がこのように賑やかになったのは何十年ぶりだろうか。
ともあれ、折角来てくれたのだ。もてなさなくてはなるまい。
静葉と穣子は、焼き芋がいっぱい盛られた皿を抱え、一番乗りである屈強な男に近づいていった。
「ぐす、皆さん、ありがとうございます」
「これおいもです。少し冷めてますけど、私達の気持ちです」
二人の目はいきいきとして、光を取り戻しつつあった。こんなに楽しい元旦は、久しぶりだった。

しかし、人間たちの目には、二人への信仰の思いなど全く灯っていなかった。
「はぁ? 何いってんだこのガキ」
「退けよ、工事の邪魔だ」
先頭を歩いていた男は、穣子を片手で振り払った。
「きゃあっ!?」
バランスを崩し、地面に崩れ落ちる。朝早くから焼いた芋が、ぼろぼろと地面に落ちてゆく。
後続の人間たちは、その芋たちをまったく省みること無く、踏みつぶしながら境内に入っていた。

「オーライ、オーラーイ」
突然爆発するようなエンジン音がする。
なんと、重量16トンもの巨大ブルドーザーが鳥居の反対側から無理矢理入り込んでいたのだ。
幻想郷にあるだけあって、燃費の悪い旧式だ。しかしパワーはかなりのものだ。
もくもくと油混じりの煙をあげながら、秋神社の木々を薙倒し、草花を踏みつぶしてゆく。
その中には、緑色の髪をした山の上の現人神、早苗が乗り込んでいた。
「えへへ、ロクヨンのゲームを思い出します。実際にやってみたかったんですよね、こういうの!」
エンジンが龍のように唸り声をあげる。するとまたキャタピラーが回り始め、今度は秋神社の社そのものを破壊しはじめた。
ブルドーザーが体当りするたび、木片が舞い、柱の折れるパキパキという音が鳴る。
少し押しただけで、ピサの斜塔のように斜めになって、これ以上押すと、直ぐにでも倒壊してしまいそうだった。

「嫌ああああああ!! やめてえぇ!! 私達の、私達の神社になにするのよっ!?」
静葉はブルドーザーを止めようと、果敢にかけより、近づいてゆく。
「むむっ、お邪魔キャラ登場ですね!」
ブルドーザーは静葉の挑戦を受け取り、方向を転換した。
そしてエンジンを全開にし、体当たりを試みる。静葉は避けようとしたが、なにもかもが遅すぎた。
前方に取り付けられた排土板が、か細い体を激突する。
「がはっ!?」
骨にヒビが入ったのだろう。静葉からくしゃりと嫌な音がした。
静葉は口から血を吐き、鼻血をだし、鼓膜が破れたのか耳からも血を流してその場に倒れた。
「お姉ちゃん!? お姉ちゃんしっかりしてよぉ!?」
穣子は、呆然と立ち尽くしていたが、すぐに我を取り戻し、静葉にかけよる。
静葉は口をぱくぱくさせ、ぐりんと白目を向いた。半数の臓器はすでに破裂しており、助かる見込みはなかった。
そのまま気絶し、まるで人間のように、弱々しく痙攣し、動かなくなった。
「お姉ちゃん! お姉ちゃん、起きてよ! 死んじゃやだ! お姉ちゃん! お姉ちゃん!!?」
肩を掴みがぐがぐと揺らすが、それはすでに死体であった。

お邪魔キャラを退治すると同時に、秋神社の破壊はすすめられた。
ほんの数分だった。数分で、数百年に及ぶ秋姉妹の信仰が、ただの木クズとゴミクズになった。
早苗は一仕事終えたというような、自信に満ちた顔つきでブルドーザーから降りる。
「皆さん! これでまた一つ、幻想郷から邪教が滅び去りました! 守矢神社の分社をたて、この地を浄化しましょう!」
神奈子様、諏訪子様、早苗様! 人間たちが声を上げる。
ここにいる人間たちはみな、今年のうちに守矢神社に鞍替えをした信者たちであった。
いずれもかつては、多種多様な神を信仰していたものたちだ。その中には、元来、秋姉妹を信仰していた農民の姿もある。
早苗はその信仰心に、満足そうな笑みで応えた。そして、地面をみやる。
視線の先には、静葉の死体と、地べたに這いつくばって、心神喪失している穣子があった。

「祟ってやる……、みんな祟ってやる……!」
穣子の声には、恨みがこもっていた。みんなのために豊穣の神として振る舞ってきた穣子である。
それに対するしうちがこれか、怒りと絶望で、その心は真っ黒に染まっていた。
その声は涙に濡れていたが、吠えるような凄みがあった。
しかし、早苗はその宣言に噴きだしてしまう。
「へへぇ? あなたが? 信仰も集められないあなたが、まともに祟ることなんてできるんですかぁ?」
信者たちは、早苗にならい、大声で侮辱するように穣子を嘲笑した。

「まぁ、なんにせよ、祟ることすらできません。あなたはここで始末されるんですから」
信者たちは、早苗の目を見るやいなや、穣子の体を地面に抑えつけた。
信仰を失い、力をなくしていた。もはや人間相手に満足に暴れることもできない。
「離せっ! 離せよっ! 祟ってやる! 祟ってやるぞ!」
穣子の白い首に太い斧があてがわれる。その柄はもっとも屈強な信者が握っていた。
彼はそれを天まで持ち上げ、そして一気に振り下ろす。
わずかな悲鳴もなく、可愛らいい秋の神様の首が、ころころと飛んで転がってゆく。
首の断面からは、異様な量の血液がばしゃばしゃと噴水のように吹き出していた。
「あはは! いい気味ですね!」
静葉の首も、念のためはねられた。静葉は死んでいたので、抵抗は全くなかった。

首を失った二人の体は、ハダカにされ、神社のそばの大木に吊るされた。
二人の首は、盗まれぬよう透明なショーケースに入れられ、木の台の上で虚空を見つめている。
邪教の首謀者を晒し者にしたわけだ。
秋姉妹の死体はすぐに死姦マニアに犯され、肉便器マニアに落書きされるなど悲惨な状況になったが、
邪神にふさわしい末路であるので、そのまま放って置くこととされた。

いっぽう秋神社の跡地には、ピカピカで、コンクリート造りで、地上三階建ての、守矢ミラクル分社が建立された。
建物の中央は吹き抜けになっており、5メートルにもおよぶ早苗の銅像が飾られている。
晒し者にされた秋姉妹とともに、この地方の名物になっているという。

初詣は守矢神社、もしくはお近くの守矢神社分社へどうぞ
あけましておめでとうございます。
ハッピーニューイヤー!!!!
おにく
作品情報
作品集:
1
投稿日時:
2012/01/01 09:59:27
更新日時:
2012/01/01 23:02:30
評価:
5/11
POINT:
570
Rate:
10.82
分類
秋姉妹
初詣
早苗
新春あけおめSS
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0. 110点 匿名評価 投稿数: 5
2. 100 名無し ■2012/01/01 22:44:44
数年も初詣が無いのに存続できたのは
信仰していた者が居たからなのに、その信仰していた者の近くに
移らなかった危機能力の低さが姉妹の死に繋がったのだな。
数百年もダラダラと生きるのは辛いだろう?
その苦悩を楽にしてやるとは早苗さんは優しい人だな。
3. 70 名無し ■2012/01/02 02:56:27
排土板と鞍替えは男の浪漫です。
6. 100 NutsIn先任曹長 ■2012/01/03 11:51:43
みんな、見た目が派手なほうに鞍替えするんですね。
いずれ早苗さんのメッキが剥げた時、彼女は因果応報という言葉の意味を噛み締める事になりそう……。

秋姉妹は……、いるだけで良いですから、無理しないで。
8. 100 名無し ■2012/01/04 17:51:06
安心の早苗
9. フリーレス 3 ■2012/01/07 03:23:18
産廃の基本なのに評価されないのはおかしい。
10. 90 名無し ■2012/01/13 22:36:49
良作でした
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