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『メビウスの腕輪』 作者: まいん

メビウスの腕輪

作品集: 2 投稿日時: 2012/01/28 14:03:27 更新日時: 2012/04/13 19:49:54 評価: 8/11 POINT: 740 Rate: 15.30
注意、この作品は東方projectの二次創作です。
   オリ設定、オリキャラが存在する可能性があります。





「ゴホッ、ゴホッ、ゴホッ!」

ホコリっぽい図書館に乾いた咳が響く。
紅い館の図書館、その主パチュリー・ノーレッジは持病に喘息を持っている。 そして、図書館がホコリっぽいとあれば……住人であっても、いつもの事と思ってしまうだろう。

「パチュリー様、今日は特に体調が優れないようですね……少し空気の良い所で養生なさってはいかがでしょう?」

パチュリーの使い魔、小悪魔。 彼女は主であるパチュリーの体調を心配し自身の仕事を中断して薬湯を差し出した。

「大丈夫よ、ゴホ……、貴女は自分の仕事に戻りなさい。 ……そうね、貴女には図書館の掃除を任せようかしら、私は貴女の言うように図書館から出るわ……今日はレミィとお茶会があるから丁度良いし……」

そう言うとパチュリーは自身が一番大事にしている分厚い魔導書を一冊持ち、図書館を後にした。 彼女を見送る小悪魔の顔は少し悲しそうであった。

図書館から出てすぐに咲夜に出会った。 普段図書館から出る事の少ないパチュリーを不思議に思った様だ。 パチュリーは咲夜に今日から暫く客室で生活すると言う。 咲夜はただちに準備をすると空いている部屋へと案内をした。



その日は満月でも半月でも三日月でも新月でも無い中途半端な月の日、あらかじめ言われていた様に二人のお茶会が開かれた。
その席でパチュリーはいつもの口調で話を切り出した。

「ねぇ、レミィ? 吸血鬼は天国へ行けると思う?」

「いつも唐突ねパチェ。 転生を繰り返す私達吸血鬼は天国どころか、あの世へ行く事も無いだろうから、天国へは行けないと思うわ」

その返答にそう、と特に感情を込めずに言葉を返し、さらに次の質問をした。

「魔女は天国に行けると思う?」

「どうかしら……運命によれば、行けないと出たわ」

レミィと呼ばれた吸血鬼の少女、レミリア・スカーレットは運命を操る程度の能力を持つ。彼女にかかればこの程度のことは造作も無かった。

「最後にもう一つ良いかしら? もし、もしよ、私が貴女の敵となり襲い掛かったら……貴女はどうするかしら?」

ふふっ、と不敵にレミリアは笑い答えた。

「パチェは私の親友よ、そんな事が起こる筈が無いわ」

その答えにも特に表情を変えずに、そうとパチュリーは答えた。

そこからのお茶会はいつも通り、レミリアが自慢話をしてパチュリーが相槌を打つ、パチュリーは視線を合わせずに本を見て、話を合わせる。
全くいつも通り、そう、いつも通り……。

〜〜

相も変わらずパチュリーは本を読む。
場所が図書館から客室に変わっても、変わることの無い日々だった。 時々、本を読む場所が食堂だったり居間だったりと場所が変わる事はあったが、概ねいつも通りである。

「パチュリー様! 図書館の掃除が終わりました!」

大声を上げて小悪魔がパチュリーの元を訪れた。
当のパチュリーは表情をあまり変えずに、そうと言い図書館へ戻って行った。
戻る途中でパチュリーは小悪魔に話しかけた。

「小悪魔、仕事が終わったばかりで悪いけど……使い魔の契約期間が終了するわ……図書館に戻ったらただちに……」

「嫌です!!!」

パチュリーが淡々と説明する言葉を遮って、小悪魔は叫んだ。 次いで彼女の目からは一筋の涙が流れた。

「お願いします。 私はパチュリー様の使い魔です。 せめて、せめて最後まで……」

その言葉を今度はパチュリーが遮る。

「答えはNoよ」

パチュリーは小悪魔の手を引く。 小悪魔は静かに泣き、俯いたまま彼女について行く。

図書館に魔方陣が敷かれ、その中心には小悪魔が座らされた。
パチュリーは魔法を詠唱し、小悪魔を送還した。
最後にパチュリーに何かを叫んでいたが、彼女にその言葉は届かなかった。

「もし、縁があればまた会いましょ……ゴホッ!ゴホッ!ゴホッ!ゴホッ!ゴホッ!……ゴボォッ!!!」

ビシャ! ビチャビチャビチャ!!!

先程まで小悪魔が居た魔法陣、その中心に真紅の化粧が施される。
別段、苦しむでも慌てるでもなく、パチュリーはいつもの机に座り、一番大事な分厚い魔導書を広げた。

「………………………………」

〜〜〜

次の日、パチュリーは死んでいた。
大事にしていた魔導書は真っ赤に染まっていた。
彼女を発見した人物は咲夜である。 いつもの様に食事の時間に呼びに来た所、既に事切れていたパチュリーを発見したのだ。

彼女はただちに死化粧を施され。 ベッドに眠る様に寝かされた。
彼女が親友と対面したのは、その後であった。

「パチェ……」

抜け殻となった親友と対面したレミリアは親友の愛称を一言呟いた。
彼女の表情は変わらない、涙を見せる気配も無い、だが先程呟いた言葉に動揺が無いかと言われれば嘘になるだろう。
そっと首筋に触れる。 吸血鬼である彼女は体温が低い、その彼女でさえ親友の亡骸を冷たいと感じた。
表情はやはり変わらない、彼女は親友の亡骸に背を向け歩みだし、そして走り出した。
途中、咲夜に出会った。 咲夜はいつもの言葉を主に向けて言う。

「いってらっしゃいませ、お嬢様。 お帰りになられる頃に食事を温めなおしておきます」

その言葉を彼女は聞かずに屋敷を飛び出した。

〜〜〜〜

少し、昔話をしよう……。
時は19世紀後半……。
場所は倫敦……。

数世紀前、羅馬尼亜からの移民が居たそうだが、そんな数世紀も前の事を覚えている人間は居ない。
霧の都、倫敦に赤い煉瓦造りの屋敷があった。
そこの門にはレッドコートに身を包み、騎兵隊の銃を持った亜細亜系の女性が門番として立っていた。 頭の帽子には盾と龍がエンブレムとして描かれていた。

そこの館から出てくる者は初老の女性、名は……この地方の人々には発音が難しかったらしく、イザークと呼ばれていた。
愛称が男の名であったが、彼女は気にしなかった。
彼女は一日二回、朝と日が沈んだ夕頃に屋敷から買物に出てきたそうだ。

そんな、彼女に声を掛けるものが居た。

「やぁ、イザークさん。 こんな時間に買物ですか?」

男は近所の者であった。

「そうなんですよ。 旦那様は病気を患っておりまして……病状が落ち着く、この時間しか外に出られないのです」

物腰が柔らかく、優しい口調で彼女は言った。

「そうなのですか、貴女も大変ですね。 おっと、そうだ、最近この辺で女性が切り裂かれる事件が多発しているそうだ。 貴女も注意して下さい」

彼女は柔らかな表情になり……。

「まぁ、怖い、わざわざありがとうございます」

と礼を述べて去って行った。



霧の都、こう聞かされれば、何と幻想的な場所だと思う人が大半であろう。
しかし、実態は大気汚染のスモッグが立ち込めているだけである。

その大気汚染に塗れた町を出歩く少女が居た。
いでたちはナイトキャップにナイトドレスの様な姿、外を出歩く格好とは思えない。
手には分厚い辞書の様な本を大事そうに抱えていた。

彼女は、ゴホゴホと咳をしながら歩いて行き、噂の赤い煉瓦の屋敷の前で足を止め、入口の門に手を掛けようとする。

中に入ろうとする彼女を騎兵銃が妨げた。 妨げているのは当然、レッドコートの女性である。

銃に行く手を遮られ、溜息を一つ吐く。
すると突然、レッドコートの女性は倒れた。 少女の手には竜巻の様なモノが纏わり付いており、それで銃に触れた為その振動が女性に伝わり気を失ったと思われる。



彼女は屋敷の門を開け、扉を開く。
中に入った所で扉が勝手に閉まり鍵が閉まる音が聞こえた。 彼女は屋敷に閉じ込められてしまったのだ。

屋敷の中は暗闇であった。 その暗闇からは聞いた事の無い声が多々聞こえた。
夜目に慣れた彼女が見た者は植物、獣、異形、悪魔、全てが明確に彼女に向けて悪意を、敵意を向けていた。

獣と思われる生物が火蓋を切り、彼女に襲い掛かると玄関に集まった全ての生物が彼女に襲い掛かった。



結果は彼女の圧勝であった。
彼女は自身の持つ曜日に関係する魔法を駆使し異形を完全に沈黙させた。
そんな彼女に拍手を送る人物が居た。

「ははっ、私の僕を全滅させるなんてやるじゃない」

現れた女性、いや少女は蝙蝠を思わせる大きな羽を楽しそうに動かし、真紅のドレス、真紅のハイヒール、真紅の絹手袋に身を包んで侵入者を出迎えた。

「ゴホッ! ゴホッ!」

「あら? 僕にやられたのかしら? いいわ、知識人、貴女がここに来る事は運命が教えてくれた……さぁ、貴女の口から訪れた理由を聞かせて頂戴!金や名誉なんかよりも素敵な言葉を教えてくれるでしょう? さぁ、望みはなぁに?」

大業に振舞う真紅の少女は運命と言う言葉を多用して尋ねた。
そんな事は関係無しに侵入者は自身の望みを言う。

「私がここに侵入した理由は簡単よ……私の親友になって頂戴……」

その答えを聞いて、真紅の少女は笑い出した。

「あははははは、知っていたとはいえ、やはり直接言われると面白いわね……あはは」

その笑い声に表情を変えずに真紅の少女を見つめる。

「ふふ、気に入ったわ、パチェ。 今日からこの屋敷に住みなさい……書斎を一つ貸し与えよう。 貴女が好きな物を集めて、自分の世界を作ると良い」

侵入者は少し考えたが相手から愛称で呼んできたのだ、このまま住み込んでしまおうと考えた。

「よろしくね、え〜と、レミリア?」

「少しは親友らしく愛称を考えたらどうだ?」

う〜んと悩み、レミィと彼女は呼んだ。



ドドドドドドドドドッッッ!!!

大きな音を響かせて走ってくる者がいる。

「レミリアお嬢様! 申し訳ありません! 賊の侵入を……」

突然レッドコートの女性が玄関から入って来た。 別段慌てる様子も無くレミリアは話しかけた。

「あら、メーリン。 紹介するわ私の新しい友人パチュリー・ノーレッジよ」

メーリンと呼ばれた女性は腰に差してある剣を抜くと、首に刃を当てた。

「お嬢様の友人の来訪を妨害するとは万死に値します。 ここに自決しお嬢様への忠義を示します!」

その行動にもレミリアは動じず、一瞬でメーリンに近づき彼女を殴った。

ドガッ!

殴った衝撃でメーリンの首から剣が離れる。

「貴女はしっかりと門番をしているわ……今回はこちらのミスよ。 お詫びに三日間の休暇をあげるわ。 しっかり休んで、これからも私達を護って頂戴」

「ははっ、ありがたき御言葉……」

レミリアに感謝を述べて、メーリンは命令通り奥の部屋に戻っていった。



侵入者のパチュリーと呼ばれた少女は奥の客室に招待された。

「イザーク、紅茶を二つ、お願い」

「お嬢様、私の名前はイザ……」

「早くお願いね」

畏まりました、そう言葉を残し彼女はお茶会の準備をしに行った。

「お互いの名前は知っていると思うが、一応自己紹介をしておこう。 私はこの館の当主、レミリア・スカーレットだ。 運命を操る事が出来る」

平らな胸を張り自己紹介をした後、対面の少女に自己紹介を促した。

「私はパチュリー・ノーレッジ、齢100を超えたばかりの新米魔法使いよ。 得意魔法は……全部」

大した自身だと思ったレミリアにパチュリーは本音を何も包まずに言う。

「貴女、本当は未来どころか運命なんて見えないんじゃないの?」

レミリアは怒らずに少し声を張り話し始めた。

「新米魔法使いが吠えるわ! 私の実績を教えてやる。 人を魅了し商売を始めたら大成功、一代にして巨万の富を得る。 他の妖怪の追随や侵入を許す事も無く、人々に看破されずに人間社会に溶け込み、裏から操る。 のみならず、破壊と殺戮の運命に支配された妹を封じ込める事に成功、これから段々と妹に力の操作を教えるの……これらの実績からどうして運命を操れぬと言うのか?」

ふふっ、小さく笑い。 自信満々に再び胸を張る。

「私がもし、貴女の屋敷に忍び込み暗殺を企てる人物だとしたらどうするの?」

「貴女如きに遅れを取る事は無いけど……貴女が行動を起こしたら容赦なく殺してあげるわ! 安心してね」

そう、と小さくパチュリーは答えた。

そこからは平和な日々が暫く続いた、門番は相変わらずに冷酷な表情で煉瓦造りの屋敷を護った。
執事長は変わらずに彼女達の世話をした。 出かける時間も毎日変わらない。
パチュリーは毎日本を読んでいた。
レミリアはパチュリーの元を訪れては自慢話をしていた。

彼女達が居る国は南の国と戦争になった。



彼女達が出会って何日が経ったか? イザークと呼ばれた女性は新しいイザークに変わっていた、若く、銀髪で、時々赤い目に変わる魅惑の少女。

ある日、門番のメーリンが居なくなった。

屋敷は人の気配がするが、時間に忠実だったイザークが出てこなくなった。

やがて、南から鉄の雨が降ってきた。
南海岸は鉄の雨に降られ焦土と化した、一本だけ鉄の雨が流れ飛んで来た。
雨は真紅の煉瓦屋敷を直撃した。

既に人々の記憶から煉瓦屋敷の住人は居なくなっていた。

人々は被害者が居なくて良かったと嘯いた。

これが外の世界の彼女達であった。

〜〜〜〜〜

レミリアは紅魔館を勢いに任せて飛び出た。 空を飛ぶ、烏天狗や普通の魔法使いも敵わない速さで飛び続けた。

昼だったので日の光は容赦なく彼女を照りつけた、冷たい、冷たいと呟きつつも彼女は構わずに飛び続けた。 目指す場所は白玉楼、死者の魂が最初に辿り付く場所である。

門に到着した彼女は庭師の制止を無視し気配を頼りに目的の人物を尋ねた。

「こんにちは、亡霊の姫君……」

そう呼ばれた女性は背を向けたまま返事をした。

「こんにちは、紅魔の主。 こんな辺鄙な所に一体何用で……?」

「私の親友、パチュリーを取り返しに来た」

ふふっ、と袖で隠して笑っていたが後ろからでは丸分かりである。

「あの子なら、ここに着ていないわ。 可能なら彼岸を尋ねた方が早いわよ」

「そうか……突然の来訪すまない。 次回来る際に改めて詫びよう……」

そう言い、レミリアは足早に去ろうとした……。

「幽々子様から離れろ!!!」

先程の庭師が襲い掛かってきた。 彼女の瞳は主を護る一点を愚直に貫こうとした。 当然、その目はレミリアを見、レミリアは彼女の瞳を直視した。

「がっ!!!」

突然、庭師は減速して自身の得物である長刀を放しながら転倒する。

ザクッ!!!

幽々子の少し後ろに彼女が放した刀が刺さる。

レミリアは彼女の背中を思い切り踏みつける。

ゴキゴキゴキッ!!!

「くあああああ!!!」

庭師は叫び声を上げ、海老の様に身体を反らす。
レミリアは怒りを露にして、彼女を踏みつけたまま説教を始めた。

「貴様は愚直に突っ込んで来てなんなのだ? あの刀が貴様の主を貫いたかも知れないのだぞ? 大体、武術か何かは知らないが……吸血鬼の私の目を見たまま攻撃を仕掛けるとは戦術以前の問題だ! 半人前が! 基本からやり直せ!!!」

くすくすくす……。
笑い声が聞こえ、レミリアはハッとして声の主を見て言う。

「……亡霊の姫君、重ね重ね無礼を失礼する……」

「いえいえ、貴女から直接指導が頂けるとは……妖夢は良い剣士になれるわ」

半人前の泣き声を後ろに聞き、レミリアは彼岸に向けて全速力で飛び続けた。

〜〜〜〜〜〜

痛い、冷たい、太陽の日差しを受けたまま彼女は墓地も再思の道も無縁塚も中有の道も飛び去る。

三途の河に到達して、少し考えたが我武者羅に飛んだ。
距離が無限と謂われる三途の河を考え無しに飛ぶ。 およそカリスマとは程遠い行為、そのまま一生飛び続けても彼女は彼岸には到着しないだろう。
しかし、彼女は僅かな時間で彼岸に到着した。
到着した彼女は無為無策で閻魔の裁判所へ突撃した。
はたして、そこに居たのは自身の親友パチュリーだった。

「パチェ!!!」

堪らずに彼女は叫ぶ。

突然の侵入者に衛兵が拘束に入る。 いくら吸血鬼が幻想郷で一、二を争う程の強者といえど彼岸では大した力は出せなかった。
乱入者を無視して閻魔は判決を確定させる門に誘う。

「待って! パチェ! 迎えに来たわ一緒に帰りましょう」

パチュリーは一歩踏み出す。

「せめて、せめて話だけでもしたいの、お願いパチェ!」

更に一歩を踏み出すパチュリー。

「……くっ、貴女の言う通りよ、私は未来を、運命を操ることなんて出来ない! だから貴女が必要なのパチェ!」

パチュリーは門まで後一歩の所で止まる。 そして静かに話し始める。

「レミィ、貴女は素晴らしい能力を持っているわ……確かに貴女は運命を操れるのよ……」

その言葉を聞き、レミリアは涙を流しながら叫び始める。

「そんなの嘘よ! 親友になって欲しいって言った貴女の願いも叶えていないじゃない」

「いいえ、確かに貴女は私の親友になってくれた」

その言葉にやや錯乱してレミリアは叫ぶ。

「嫌、言わないで! 止めて、取り消して!」

願いが叶った為に何処からか契約の証が焼け落ちる。
遂にレミリアは泣き崩れ、その場に座り落ちる。

「レミィ、貴女は自身の考える……思いつく最良の手段をとれば良いの……」

パチュリーは門に足を掛ける。
レミリアは泣き声交じりで叫ぶ。

「パチェ!!!」

「レミィ、貴女の運命、さながら呪いの様ね……」

パチュリーは門に消えて行った。
そこから先の事をレミリアは覚えていない……気付いたら失意のまま紅魔館に戻っていた。

〜〜〜〜〜〜〜

虚ろな瞳、抜け殻の様な体躯、彼女は確かに紅魔館に戻ってきた。

咲夜は主人の身体を労わり、濡れた箇所を優しく拭いた。
そして、小食の主の為に暖かいスープを差し出した。

一口、二口、スープを鮮やかに飲み込み……。

カシャァン!

スプーンを落としたレミリア。 近づこうとした咲夜に小さな声が響く。

「さくや、さ……くや、この……スープ、しょっぱいわ、しょっぱい……うううっ、……」

その声を聞いて、咲夜は静かに声を発し消えて行った。

「申し訳御座いません、お嬢様、ただちに作り直して参ります……」

レミリアは生まれて初めて、死に対して哀悼の感情を露にした。



パチュリーが死んでから数十年、その間は何も起こらなかった。
咲夜は日々レミリア達を世話する、美鈴はサボりながらも門番をする。

食事は妖精メイドも含めて大勢で食事を取る。

でも、その中にパチュリー・ノーレッジとその使い魔の姿は無い、あの日から主のレミリアは元気が無くなったままだ。
レミリアは妹のフランドールとお茶を飲む機会が増えた。
紅魔異変の後、気が振れていると謂われていたフランは随分と落ち着く様になった。
いつもなら、ずっと話し続けるレミリア、だがあの日からあまり話す事が少なくなった。

フランは優しくなった、姉の気晴らしになる様に本で学んだ知識を色々と話した。

レミリアは優しい表情で手招きをした。
何の事かと思い、フランは姉の元へ近づいた。
レミリアはフランを抱き寄せ、静かに泣き続けた。
フランは妹と思えぬ母性でレミリアの頭を撫でた。

〜〜〜〜〜〜〜〜

五十年程が経過し、パチュリーに続き咲夜が寿命で死んだ。

彼女の能力で館の内部は大きく空間が拡げられていた。 だが彼女が死んだ為に館が急激に収縮し爆発四散した。
館に住み込みで働いていた殆どの妖精は爆発に巻き込まれ消えて行った。
その異常事態に真っ先に気付き、姉妹を助けたのは門番の美鈴であった。

レミリアは瓦礫と化した紅魔館跡を見て、両手を握り締めて蹲った。

「さ、さく……や」

無意識に出た言葉は半世紀に渡り、館を支えた従者。 使い捨てと心の中で思い続けた人間の名前であった。

「フラン!!!」

思い出した様に妹の名前を呼ぶ。 彼女の身体からは太陽の日差しを受けて煙が上がっている。

「妹様は無事です、すぐに仮のテントを建てますので今しばらく辛抱を……」

美鈴は四散したカーテンを集め、日除けとしてフランドールの身体に巻きつけていた。
レミリアの心は深く沈んだ。
親友のパチュリーが死んだ、代わりの利く筈の無い愛する従者の咲夜が死んだ。 これから私は何を生きがいに生きればいい。
そう思うレミリアの見る先に放射状に本が散乱した。

ばさっ、ばさっ、ばさっ……

「パチェ? 私に生きろと言うの? どうして? 私は死にたい! 死なない、生き続ける、この身体が怨めしい! ……良いわ、親友の貴女が言うのだもの……当面の生きがいにさせてもらうわ……」

既にレミリアの顔は失意に沈んでいた、虚ろな瞳で身体から煙を上げ、寒い寒いと呟きながら、今は亡き親友が集めた本を回収していった。

「……お嬢様……」

呟く美鈴の脇を一人の人間が通り過ぎる。
レミリアの側まで来た十歳程の人間は日傘を広げて自己紹介をした。

「はじめまして、お嬢様。 私はイザークと申します。 これから私を、お嬢様の忠実なメイドとしてお側に置いて下さい」

顔を向けずに答えるレミリア。

「勝手にしろ……」

「しかし、お嬢様! もしこいつが暗殺者だったら如何いたします!」

レミリアの言葉に真っ向から反対する美鈴、その美鈴にレミリアは言う。

「それを防ぐのがお前の役割だ……」

その言葉に跪き自身の役割を復唱し思い出す。

「不肖、この紅美鈴! お嬢様の忠実な盾として一命を掛けて御護りする所存でございます!!!」

その言葉に表情を変えずに一言付け加えてとレミリアが促す。

「はっ! 畏まりました! 私は一命を掛けお嬢様と妹様と自身の命を護り通します!!!」

その言葉を聞いた後レミリアは美鈴を呼ぶ。
はっ、何で御座いましょう、と問う美鈴に屋敷、森、里と虚ろに話した。
美鈴は叫び生き残った妖精メイド達に指示を出す。彼女の指示に生き残りは従う。
行動の前に美鈴はレミリアに一言伝えた。

「私は暫く昔の私に戻ります、お嬢様……お嬢様の命令に背く事をお許し下さい……」

そう残し、美鈴は屋敷再興の任務に赴いた。

運命の悪戯かレミリアの能力か? 彼女の指示は的確であった、指示の場所には彼女達が望む物が必ずあったのだ。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜

数日で屋敷は再興された。 フランはテントから屋敷に移され、日差しの脅威から逃れる事が出来た。
その屋敷はいつか見た煉瓦造りの紅い屋敷であった。
レミリアは落ちている本を拾う、側にはイザークが日傘を差している。
その屋敷を護るのは紅美鈴、柔らかい物腰は無く、近づく者を容赦無く殺す冷たい眼で辺りを警戒していた。



紅魔館が爆発四散したという一大出来事はあっという間に幻想郷に広がった。
気が振れ、本を拾い続ける当主レミリア、その姿を確かめようと報道初日は沢山の人が集まった。
人々、妖怪達は彼女を笑い者にしようとしたのだ。
その群集に対して無差別に虐殺を始めた者が居た。 嘗て紅魔館のサボり門番といわれた美鈴、その人である。
外の世界でレッドコートを着て侵入者等に容赦無く罰を加えた人物の如く罰を加えた。
逃げられた人は零だった。 辺りには紅魔館に相応しい赤絨毯が出来た。 彼女は特に気にする事もなく元の場所に戻って門番を続けた。
レミリアは辺りを気にせずに本を拾う。側にはイザークが日傘を差している。



元紅魔館の門番が人々を虐殺した、その報せは八雲紫の耳にすぐ入った。
紫は自身の式の藍に討伐を命じた。
早々に帰ってきた藍を見て、自身の軽々しく出した命令を恥じた。
片腕をもがれ、片目は抉られ、脇腹には大きな穴が開いている。

藍の言葉は主に対する謝罪の言葉だけである。
紫は後悔した、自身が初めから出ていれば、この様な事態にはならなかった。
後悔を孕みつつも紅魔館へ向かう、目標は門番、紅美鈴である。



新紅魔館の門に立っているのは紅美鈴、近づく者に一様に同じ言葉を威圧的に掛ける。

「ここは、紅魔館の敷地内だ! 主を笑い者にする者はこの場で大地に帰ってもらおう!」

その言葉を無視して紫は美鈴に声を掛ける。
だが、その暇も無く美鈴は攻撃を仕掛ける。
拳法を極めた妖怪、紅美鈴。しかし相手は妖怪の大賢者、攻撃は悉くかわされ……遂に美鈴は首を摑まれ吊り上げられる。
その状態に苦しむでもなく抵抗するでもなく美鈴は遠くを眺める。
唐突に独り言の様な会話を始める。

「なぁ、八雲さんは自分の一番古い記憶は思い出せるか?」

その言葉に紫は答えず、更に首を片手で絞める。

「私はさぁ、滝壺の下で必死に飛び跳ねる映像が一番古い記憶さ……」

なおも強く首を締める紫、それに堪えもせずに美鈴は話を続ける。

「ある日、飛び跳ねて滝を登ったんだ……気付いたら私は長い鯰髭を生やし、蛇の様な外観になっていた……」

紫は美鈴を殺す為の努力を続けていた。

「確か意識が顎の逆立った鱗に移って、まもなく私は落下したんだ、気付いたら全裸の人型さ……」

美鈴は紫に首を握られ吊り上げられている……なのに、必死になっているのは紫で……冷めた眼差しで話しているのは美鈴である。

「日々、喧嘩に走って、酒に溺れて、博打を打って、下らない男を殺して、女を犯して……私は堕落に埋もれていく筈だった……」

紫は殺せぬと思い、美鈴を放り投げた。

ブンッ! ゴギッ!!!

投げられ受身を取らずに転がって行く。 首の辺りから骨が折れる大きな音が聞こえた。

「……それを、お嬢様が救って下さった!」

「黙りなさい! 一人一種族の下等妖怪が!!! ただの門番である妖怪が私の高尚なる目的の邪魔をするな!!!」

その言葉に氷の如き門番の目に炎が灯る。

「門番? そうだな、私はただの門番だ。 だが……」

首が折れ、寝転がったままだった美鈴が起きて、紫に向き合い構え叫んだ。

「聞け! 大賢者よ! 悠久の命を手に入れた貴様に私を倒すことは出来ない! 必死となり、背水の陣を敷いた私はお嬢様を守る為なら何でもするぞ!!! 私が突破されたら後は無い! お嬢様の親友パチュリー様は既に亡く、咲夜さんも居ない! 居るのは気の振れた敬愛するお嬢様、破壊と殺戮を忘れた妹様だけだ! もし右手が無くなれば左手で貴様の腹に穴を開けよう! 右目が無くなれば左目で貴様を睨み殺そう! 眼が潰されたら、呪詛で呪い殺そう! 身体が無くなれば憑き殺してくれよう! 肉体も精神もお嬢様の為に捧げる! その私を突破出来るものなら……ただでは済まさんぞ!!! 過去、現代、未来! 全てをかけてかかって来い!!!」

紫はその言葉を透かし、指をパチンと鳴らす。
瞬間、彼女のスキマが美鈴を覆い飲み込もうとする……。

「かかったな! 阿呆が!!!」

叫んだ美鈴の両手両足が虹色に発光する。 彼女は、受け止められる筈の無いスキマの口を受け止め耐える。

「大賢者よ……私はこの命を懸けてお嬢様を護る。貴様と相打ちでお嬢様を護れるなら本望だ!!!」

スキマを支えたまま美鈴は紫に飛び掛る。 当然、紫はスキマを消し反撃を試みるだろうと美鈴は考えていた。
予想に反した為、美鈴はスキマを投げつけ、紫は自身のスキマに飲み込まれた。

疑問に思う美鈴を他所に紫はスキマに消えて行った。
美鈴は首をゴキゴキ鳴らし、元の位置に戻って門番を続けた。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

今日も彼女は日に照らされながら本を拾う、そんな彼女にイザークと呼ばれた少女は日傘をかざす。

今日も明日も明後日も……。

寝る時はレミリアもフランドールもイザークも一緒である。
そんな彼女達を護るのが美鈴である、妖精の活動時間に仮眠を取り、夜は寝ずに主を護る。
時々、一緒に寝て主を安心させたりもする。
やがて、数年かけて本が全て回収される。



人の成長は早い、レミリア達の姿は変わらないのに、あっという間にイザークは老人になった。
その日、レミリアは居間のソファーに腰を掛けていた。 レミリアにもたれ掛かって眠っているのは妹のフランドールである。
咲夜が死んだ日からレミリアは虚ろな目のままだった、フランドールは何かに怯え、姉が屋敷に戻ってくれば子供の様にくっついたままだ。
イザークは紅茶をレミリアに差し出した。 眠っているフランの分は机に置いた。
一口飲んだレミリアは唐突に話しかけた。

「咲夜、何か話をして頂戴」

「私の話など博識なお嬢様のお眼鏡に叶いますかどうか……」

「何かあるでしょう?」

「では……お嬢様、運命について話しましょう」

「運命を操れない私をからかうのか?」

レミリアは怒るでもなく感情無く聞き返す。

「いいえ、お嬢様は運命を操れます。 妹様の破壊と殺戮の運命を変えたではありませんか」

「フランは自分で変わった、監禁したのは私だが……あの時は悪い事をしたな」

虚ろな瞳に後悔が陰る。

「堕落に沈む筈だった美鈴を救ったではありませんか」

「彼女が私達を救ってくれている事には感謝しているが、あれを拾ったのは気まぐれだ」

昔を思い出し、レミリアの表情が少し晴れた。

「初対面でパチュリー様の名前を知っていたではありませんか」

ふふっ、と笑い、あの時は、と話し始める。

「私の屋敷はあの地方では有名だったからな、屋敷の事を探ろうとする者は、すぐに判る、調べ上げる事も簡単だ……私が頼んだとはいえ今日は良く喋るな」

イザークは主の言葉を否定する。 続けてレミリアに話しかける。 その言葉遣いは優しかった。

「お嬢様は意識していないから気付いていないだけなのです。 お嬢様は運命を操り、操られた者は呪いにかけられた様になります。 妹様はお嬢様が望んだから、あの様に変わり妹様も運命を受け入れたのです。 美鈴を救った事は気まぐれかもしれません、しかしそのおかげで美鈴には運命が微笑みかけたのです。 私も運命に導かれ色々な記憶を持ったまま、お嬢様の下に辿り着く事が出来ました」

イザークはレミリアの少し後ろに居る。 レミリアは顔を向けず、感情の無い声で話し続ける。

「驚いたな、パチェの本でも読んだのか?」

「いいえ、全てはお嬢様が無意識に運命を操っただけ……それにこの位で驚いてしまったら、私の本名を聞いた途端、どうなってしまうのやら……折角ですので、お聞き下さい、私の本名はイザ……」

レミリアは止まった言葉の先を聞こうとした……。

「……そうか、人間の人生は短いのだったな……」

冷めた紅茶を少し飲み、更に一言呟いた。

「この紅茶も気に入っていたのに……」

フランドールは目を覚まし、姉に問い掛けた。

「お姉さま? 泣いているの?」

レミリアは寄りかかっているフランの頭を抱き寄せる。

「フラン、私は……あと幾つ大切なモノを喪えばいいの……」

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

イザークが亡くなって、再びメイド長が居なくなった。
その日から人間であっても長いと思わぬ、とある日……。

その日は霧が出ていた。 立ち込めたモノは太陽の日差しを弱くし吸血鬼が日傘を差さずに外に出られるようにした。
珍しくレミリアは門の近くに居た。 彼女の表情は変わらず遠くを眺めている。
美鈴は主を気遣いつつも辺りを強く警戒していた。
その時、もやから少女と思わしき者が現れた。 服はボロボロ、肌はガサガサ、手入れをすれば美しいであろう銀髪もボサボサ、髪伸び目線を完全に隠していた。

美鈴は少女に警告をする。 構わずに少女は近づく。
美鈴は間合い内から渾身の蹴りを放った。
辺りに爆音が響く。
手応えあり。 そう思った彼女の後ろから声がする。

「哀れな乞食に御座います。 どうか食事をお恵み下さい」

美鈴の主人であるレミリア。 その数歩前に跪き、地面に額を擦り付けて話す者、先程一撃で美鈴が蹴り殺した筈の少女がそこに居た。
少女の雰囲気をおかしく思ったレミリア。先程の美鈴の蹴りの風圧で少女の前髪が少し浮く。

「咲夜!」

少女の顔を見て、レミリアは叫ぶ。 少女の前に膝立ちとなり、その手を取る。
乞食にすがる主を見て美鈴は拳を強く握り少女達に近づく。

「咲夜さん、咲夜さんって、咲夜さんは死んだんだ! そんな乞食が咲夜さんの訳がない。 くそっ! くそっ! お前が! お前がお嬢様を誑かすから!」

ドガッ!

殴られたのは美鈴だった。 殴ったのは虚ろな瞳をしている筈だったレミリア。 美鈴は、
その場で尻餅をつき、殴られたであろう頬は赤く腫れていた。

「美鈴、貴女には見えないのね。 この子は咲夜に間違いない。 目、顔立ち、能力、姿形、そして魂の輝き、間違い無く同じ、今は違っても良いわ。 でもこの子は咲夜にする。 いや、貴女も協力して咲夜にしなさい」

「で、ですがお嬢様……」

光が煌々と輝く紅い瞳に美鈴は見つめられる。

「美鈴! 答えなくて良いわ、考えて頂戴。 貴女の任務は何?」

「あっ……」

「出来るか出来ないかでは無いの、私がやれと言っているのよ? 数年後が楽しみね、さあ今日から忙しいわよ、美鈴!」

「はいっ! お嬢様!」

レミリアに十六夜咲夜と命名された少女は、その日から紅魔館に住み込みで働く事となった。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

更に数年が経過した。
嘗て乞食の姿で流れてきた少女はそこに居なかった。 レミリアに紅茶を差し出す彼女は何処からどう見ても以前紅魔館で働いていた十六夜咲夜その人である。 能力やナイフ投げ等瓜二つと言ってよい程だ。

以前に比べるとレミリアは大分元気を取り戻した。 フランも何かに怯えるという事が少なくなった。



ある日、咲夜が居間で郵便を整理している所にレミリアが入ってきた。

「咲夜、その手紙は何だ?」

「お嬢様、当館には名も知れぬ者から身に覚えの無い手紙がよく来ます。 その手紙を分けていただけです」

ほう、と頷いたレミリアであったが、一枚の手紙が妙に気になった。

「その手紙をこちらへ……」

「お嬢様、名も知らぬ者が図書館の管理人としてくれと申し出るなんて……」

おかしい。 そう言おうとした咲夜の言葉を遮り、手紙を読んだレミリアは不敵に笑う。

「咲夜、貴女の言った事は間違いなかった様ね。 そしてパチェが言っていた意味が漸く解ったわ」

何の事です? そう話した咲夜の言葉を無視してレミリアは咲夜に命令をする。

「その手紙の者を我が紅魔館に招致しよう。 返書を書いて送ってくれ」

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

次の日、手紙を書いた者は紅魔館に招致された。

仰々しく造られた王座の間。 玉座は二つ、一つにはフランドールが座り、もう一つにはレミリアが座っている。
レミリアの服は普段着ているモノではなく、紅いドレスに紅いハイヒール、真紅の絹手袋等に身を包んでいる。
咲夜はレミリアの脇に静かに立ち、美鈴はレッドコートに身を包み儀礼を指揮する。
入口に居る扉の開閉係は来客の登場を叫び、扉を開けた。

現れた者は何処かで見たナイトキャップにナイトドレスの様な格好をしていた。 髪の色は紫、腕には大切そうに分厚い魔導書を抱え、傍らには何処かで見た使い魔を連れていた。
その者は儀礼を受けながらレミリアの下に跪いた。

「レミリア様、私の様な……」

挨拶をする者の言葉を遮り、レミリアは彼女の名前を呼んだ。

「立ち上がってレミィと呼んで、パチェ……」

パチェと呼ばれた女性は立ち上がり、使い魔の顔をチラと見て遠慮混じりに再び挨拶をした。

「レミリ……ただいま、レミィ」

レミリアは涙を流す事を厭わず彼女の元に近寄った。

「おかえり、パチェ!!!」

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

親友同士の再会を見て、美鈴は儀礼隊を退散させた。 咲夜とフランも何時の間にか退散していた。
美鈴は廊下を早歩きしながらレッドコートを脱いだ、側に居た儀礼の者がそれを受け取る。
脱いだ彼女はいつもの中華服に戻っていた。
彼女はいつもの定位置、門の前に戻った。 その顔はずっと前に言われていた、人当たりの良さそうなサボり門番の顔に戻っていた。

一つ、いつもと違う事があった、彼女は紅魔館を背にして門番をしているのだが今日は紅魔館の方角を向いていた。
彼女は胸元に手を掲げ、礼をとった。

「幸福な夢を生きた……」

そのまま彼女は動かなくなった。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

彼女が動かなくなってすぐに彼女は発見された。
美鈴はいつかの光景と同じ格好をされた。
死化粧を施されベッドに眠る様に寝かされていた。
その脇ではフランが号泣し、咲夜が主に申し訳ないと思いつつ口に手を当てて静かに泣いていた。
昨日今日出会ったばかりのパチュリーも悲しい表情を浮かべている。
その中でレミリアだけはひょうきんな表情を浮かべていた。

「お姉さま! 美鈴が、美鈴が死んだんだよ? 私達をあんなにも支えてくれた美鈴が死んだのに……何でそんな表情で居られるの!」

フランが怒る、続いてパチュリーも疑問をぶつける。

「妹様の言う通りよ、聞けば彼女には相当世話になったそうじゃない。 貴女は一体何を考えているの?」

やや、怒りが混じった言葉にやはり緊張感無く、指折りをしながらレミリアは答える。

「いや、パチェは戻って来るのに百年以上掛かった、咲夜はおよそ五十年程で戻って来る。 なら、美鈴はどれ位か……っと、おいフラン! 出迎えてやれ!」

ガチャ、静かに部屋のドアが開く。 その扉を開けたのは、ベッドで死んだ様に眠っている筈の美鈴、その人であった。

「すみません、恥ずかしながら戻って来ました」

フランは喜び抱きつく、咲夜は静かに泣きながら駆け寄る。
そんな、二人を見ながらパチュリーはレミリアに言う。

「ごめんなさい、レミィ。 私まで早とちりをしてしまった様で……」

言葉の端々に遠慮が見え隠れしながら話し、次いで湧いた疑問を聞いてみる。

「でも、どうして、美鈴が戻ってくる事が分かったの?」

ふむ、と顎に手を乗せ、少し悩んだ後に表情は不敵な笑みに変わり、根拠の無い自信で話しかける。

「当然じゃない、私は運命を操る事が出来るのよ」





変わり行く幻想郷。 その中で真紅の洋館の住人は変わる事が無かった。
主の存在が無くなるその日まで……。
当作品を作るにあたり、影響を受けた作品

NutsIn先任曹長様、”箱庭を手に入れた紅の暴君”
JOJOの奇妙な冒険第6部
よくある咲夜の寿命話

前々作、”……の大切なモノ”
作成後に発見した作品は私の作品の百歩先を行っていた。
おかげで作品を大幅に変更しなくてはならなくなりました。

私の作品を見ている方で見ていない方はいないと思いますが、ここに紹介させて頂きます。
うらんふ様、”すぷーとにく・もみじ”
木質様、” 妖夢も椛も真っ直ぐで良い子だと思う。ただちょっと不器用なだけ”

ここに紹介した作者様申し訳ありませんでした。
不都合があれば作品ごと消す覚悟で御座います。

>1様
お嬢様の望んだ事ですので自己満足の一つの形だと思います。

>NutsIn先任曹長様
貴方様からどんな批判が飛ぶか不安でした。
タグのキャラには見せ場を作ったのでその様に評価していただければ光栄です。
この話しではお嬢様には幸せになって欲しいです。

>3様
申し訳ありませんが深さは意図的に作っている訳ではないですので……。

>さかざき様
何処を縦読みするのか少し悩みました。解らないので、そのまま答えます。
操っても良いではないですか、お嬢様は運命を操る程度の能力を持っているのですから。

>5様
貴方様が感じた事が全てです。 目指したものは無限ループのハッピーエンドです。

>6様
そうです、形は違えど同じ日々が続くはずです。
運命とは、ここではお嬢様の望んだものと思い下さい。

>7様
多元宇宙論の無限の可能性を常に最良な結果に進む、そういう能力だと解釈しております。
どちらにしろ、おぜう様は賢いお方です。

>モガ様
転生できて長命というとなかなかいないと思います。
う〜ん、永遠亭と神霊組とかですか?

>くろきる様
あとがきの作品は天と地ほどの差がありますが、評価ありがとうございます。
はてさて、お嬢様は本当に運命を操ったのでしょうか?
もしかしたら最初から、こういう運命を引いていたのかもしれませんよ。

>11様
主に美鈴を龍の妖怪と勘違いしている私の所為です。
死んでも死ななくても主の元に戻るならどちらでも良いと思います。
この優しい主が彼女の意見を無視出来る筈がありませんしね。
まいん
https://twitter.com/mine_60
作品情報
作品集:
2
投稿日時:
2012/01/28 14:03:27
更新日時:
2012/04/13 19:49:54
評価:
8/11
POINT:
740
Rate:
15.30
分類
レミリア
パチュリー
咲夜
美鈴
紅魔館
運命(笑)
リスペクト
3/7コメント返信
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POINT
0. 30点 匿名評価
1. 80 名無し ■2012/01/29 03:27:34
これはレミリアの自己満足なのでしょうか?
2. 100 NutsIn先任曹長 ■2012/01/29 04:20:26
運命の輪を巡る紅い君主のお話、堪能させていただきました。
苦しくて、悲しい、運命の繰り返し。

かと思ったら、さにあらず。
変わらないのはお屋敷の住人達であって、彼女達の運命は良い方向に変化してきているようですね。
レミリアの運命操作能力のお話、なかなか面白かったです。
拙作をリスペクトしていただき、光栄です。

今回の作品は、レミリアのカリスマ溢れるシーンが盛りだくさんでしたね。
白玉楼で妖夢に『教育的指導』をしたり、幽々子に非礼を詫びるレミリアに、紅魔館当主の品格を見ました。
そして門番の美鈴。
下等妖怪などではなく、紫でも敵に回すのは得策ではないと判断を切り替えるほどの大物だったとは。
レミリアに忠誠を誓う臥龍の凄みが伝わってきました。



運命を手に入れた紅の名君に幸あれ。
3. フリーレス 名無し ■2012/01/29 06:54:04
普段の作品より深みが無いような気がした。
4. 100 さかざき ■2012/01/29 07:34:15
良いっすね
死んでもいずれ戻ってくるって
待つ事は
 でも
やはり運命を操りでもしなければ奇跡は起こり得ないんですかね
5. フリーレス 名無し ■2012/01/29 22:37:41
まとまりがないように感じた。
何を目指して書かれたのかイマイチわからない
6. 50 名無し ■2012/01/30 19:05:30
つまり、繰り替えされ続ける日々?レミリア様が消えるその時まで。
運命とは何なのだろうか。
7. 80 名無し ■2012/01/30 21:18:32
運命とは…定められた未来
それを操作ってことは…アカシックレコードにちょちょいっと手を…?
いやはやれみりゃ様すんごい能力をお持ちで
9. 100 モガ ■2012/02/05 20:12:45
レミリアには新しい友達が必要だ!
10. 100 くろきる ■2012/02/28 12:50:28
泣けました。すごくよかったです。
なつめえりさんの同人誌でも咲夜さんが転生して帰ってくるお話がありましたが、無限の生を持つ者とそうでない者が一緒にいられるために、運命が操れるレミリアならではの解決法なのではと思います。
11. 100 名無し ■2012/03/07 18:39:46
美鈴強い!
咲夜さん本人の意見とか普通に無視して死なないようにしちゃ駄目でしょうか?
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