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『幻想の残滓』 作者: NutsIn先任曹長

幻想の残滓

作品集: 2 投稿日時: 2012/02/05 16:00:56 更新日時: 2012/02/25 20:47:25 評価: 9/11 POINT: 860 Rate: 14.75
博麗神社。

境内に麗らかな春の日差しが降り注いでいた。



楽園の素敵な巫女、博麗 霊夢は居間でお茶を啜っていた。

ほぅ……。

両の掌で湯飲みの温もりを感じてはいるが、愛らしい顔は憂いに満ちていた。
が、寒空の中に綻ぶ桜のつぼみの如く、霊夢の顔に、かすかに笑みがこぼれた。

「あ……、茶柱……」

ささやかな幸せ。
が、少女の笑みは、歴戦の戦士の緊張に満ちた貌に取って代わった。



湯飲みを持ったまま霊夢は境内に飛び出し、鳥居の向こうを睨みつけた。

「まさか……、そんな……」



誰かが石段を登ってきて、鳥居をくぐった。

博麗神社の数少ない常連の参拝客である猟師達だ。

幼少、先代の博麗の巫女がいた時からの付き合いである彼らは、
気さくで、しばしば霊夢に獲物を分けてくれたり、妖怪退治を手伝ってくれたりした。



だがしかし、彼らを見た霊夢の顔には怯えが垣間見えていた。



ばうっ!!

吼え声。



がちゃんっ!!



霊夢の手から湯飲みが滑り落ち、石畳の上で粉々になった。

おかげで、霊夢は茶柱が横倒しになって沈んだのを見ずに済んだ。





〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜




我が国の上空にUFO出現!!

それを追うは、鋼鉄の翼を持った二羽の鷲。

空の守り人の駆るジェット戦闘機は、電探(レーダー)で捕捉できない飛行物体を目視確認した。



尾翼に意匠化したイヌワシが描かれた二機のF−15J改戦闘機は、
朽ちた木造船にしか見えない国籍不明機に徐々に近づいていった。

不明機は無線に応じないし、レーダーにも映らない。
まるで、空飛ぶ幽霊船だ。

ばかばかしい。

飛行隊長は被りを振って馬鹿げた妄想を頭から追い出し、
木製ステルス機に部下の機と近づいていった。



ぬっ!!



突如、二羽の鷲と幽霊船の間に割り込む雷光。

F−35 ライトニングU。

西側諸国の主力戦闘機を、少なくともカタログスペック上は陳腐化させ、
メーカーが売り込み攻勢をかけている最新鋭機。

我が国も採用を決定し、調達を開始しているが、
現在までに導入された機数は、大人の事情で未だ二桁に満たない。

現れたF−35は我が国の所属機ではなく、我が国に駐留する外国軍のものだった。
しかも特徴的な風貌(顔つき)の風防(キャノピー)をしていることから、
我が国が採用した(どういうわけか海軍向きの)C型ではなく、
結局試作機を数機作っただけで製造中止となった、短距離離陸及び垂直着陸可能なB型だと分かった。



このF−35Bは外国軍の海兵隊所属機だと、機体にかかれた文字と無線は言っている。
駐留外国軍が我が国の要請で今回の『異変』を仕切ると、
あちらさんからの無線と『お家からの電話』は言っている。

F−15Jのパイロット達は、傍若無人な外国軍の越権行為に少しムカつき、
でも厄介事を引き受けてくれて助かったとばかりに盛大なバンクを見せて帰投した。



F−35Bは、空飛ぶ船の背後に付いた。
索敵システムは正常に機能しているが、全く船影を捕らえていない。
分かっていたことだが、レーダー誘導のAMRAAM(中距離空対空ミサイル)は使えない。

使用武器を機銃に切り替え。
F−35Bのパイロットは機体に内蔵された25mm口径機関砲の狙いを船に定めた。



操縦桿のトリガーにかかったパイロットの指に力がこもり――、

指を離した。

攻撃の必要は無くなった。



船は、崩壊を始めた。

ボロボロと飛び散る破片。
破片の幾つかは、後方を飛ぶF−35Bに直撃した。
――が、破片は光の粒子となって消え、機体には何の影響も無かった。

空飛ぶ木造船は、駐留外国軍が設定した『封鎖区域』を出る事無く、跡形も無く消え失せた。

まるで、存在自体が幻想だったかのごとく。



F−35Bの下方を、やはり外国軍海兵隊所属の航空機が一機、飛行していた。

ずんぐりした双発プロペラ機。

MV−22B オスプレイ。
固定翼航空機とヘリコプターの両方の特製を兼ね備えた輸送機。



オスプレイの下方に、集落が見えてきた。

田畑と点在する民家がちらほら。
町だろうか、建物が密集している場所があった。

そこからは、幾筋もの白煙、黒煙がたなびいていた。

オスプレイは集落の外れにある、うっそうと茂った森のほうに開けた場所を見つけると、
両翼端の回転翼を斜め上方に傾け、静かに降下して行った。





兵器類に知識があるものなら、不審に思っただろう。

通常のF−35B戦闘機には、機銃は内蔵されていない。
専門書の写真と照らし合わせれば分かることだが、機体の細部の形状も異なっている。
鳥居に狐をディフォルメしたパーソナルマークが描かれた、このF−35Bは、
徹底的にカスタマイズが成されていた。

それに、飛行しているオスプレイ。
あまりにも静か過ぎる。
回転翼の風を切る音も二基の発動機の駆動音も、極めて小さかった。
注意して空を見上げていなければ、その存在に気付かないだろう。



データ上にしか存在しない機体番号が書かれた駐留外国軍の軍用機達。

F−35Bは高空を舞い、オスプレイは大地に降り立った。





〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜





幻想郷の管理人、八雲 紫は、死んだ。



冬眠明けで体調が万全でない時に、たちの悪い風邪に罹り、
三日三晩高熱にうなされ、式神達の看病の甲斐なく、逝った。



紫の死は、幻想郷の全住民が直感的に知ることができた。
なんせ、幻と実体の境界が崩壊し、理論と現実が支配する世界に幻想郷が出現したのだから。
住民達の心から曖昧で胡散臭い存在が払拭され、無意識に感じていた支配の枷が外れたようだ。



現実世界の洗礼を受け、八雲 紫という管理が無くなった人間の大部分は、獣と化した。

獣の餌食となるのは、身体的、幻想的能力を失い、
人間並みかそれ以下の力しか出せなくなった妖怪達だった。

人里のそこかしこで妖怪達の悲鳴が響いた。
白昼に人間達に紛れて歩いていた彼らは人里のルールを遵守しており、何の落ち度も無かった。
ただ、妖怪だから。
その事実さえあれば、人々が彼らを犯し殺す理由になるらしい。

獣の牙は、同胞である人間にも向けられた。
理由は親妖怪派だから、あこぎな商売をしているから、気に入らないから、ただなんとなく……。
要するに、とにかく暴れたいようだ。



人里から離れていた妖怪達は助かったかというと、そういうわけでもないようだ。
なにしろ超常的な力をいきなり失ったのだ。ただで済むわけはなかった。

妖精達や神々は自我を失い自然に溶け込むように消滅した。

妖怪の山では天狗達が超常能力と理性を失い、かつての仲間同士で殺し合いを始めた。
全滅するのも時間の問題だろう。
河童達もそのとばっちりで屍の山を築くことになった。
ある河童の少女は、恋仲で肌を合わせたこともある白狼天狗に喉笛を食いちぎられ、
痛みよりも哀しみに涙して事切れた。

山の頂上付近にある神社では、祀られた二柱の神が消滅し、
残された風祝は奇跡を起こす力と正気を失った。
現人神でもあった風祝の少女は火をつけた御幣を持ち、神楽を舞った。
狂気の舞は炎を巻き起こし、少女もろとも神社を焚き上げた。

とある自称仙人の道場では、片腕の女性が家族同然に面倒を見ていた猛獣に残った左腕を食い千切られ、
猛禽に舌と目玉を啄ばまれ、騒音同然の悲鳴を上げていた。

地底世界は落盤で壊滅し、仙界は幻想郷へ出現できなくなり、邪仙は石の中にいる!!
冥界や三途の川へも行けなくなり、天人くずれの少女は注連縄を巻いた巨石に押しつぶされていた。





そして、博麗大結界も消滅し、特殊能力も失った博麗 霊夢は、

もはや博麗の巫女ではなくなった。





巫女じゃないから、そんな格好する必要ないよな。

神社裏手の倉庫に連れ込まれた霊夢は、
下等な妖怪程度なら簡単に食い殺せる猟犬を従えた猟師達にそう言われ、
変形巫女装束を、リボンを、髪飾りを脱がされ、剥ぎ取られ、引き裂かれた。

かくして、霊夢は博麗の巫女から、ただの人間の少女となった。



はぁ……はぁ……、俺達、前からあんたのことを犯りたいと思ってたんだ……。

倉庫の埃っぽい床に押し倒された霊夢は、
従えた猟犬よりも獣じみた形相の猟師達にそう言われ、、
サラシを無造作に毟り取られ、慎ましやかながらも形の整った胸のふくらみを揉みしだかれ、
伸びた無数のごつごつした手によってドロワーズは引き裂かれ、乙女の隠しどころは露になった。

かくして、霊夢は少女から、性欲のはけ口となった。



霊夢は一応は抵抗したが、それには必死さというものが感じられなかった。

男達に組み敷かれ、敏感な箇所を舐りまわされ、撫で回され、
霊夢は呻き声を漏らし、嫌悪と若干の艶を帯びた表情を浮かべたが、
その根底に諦観が見て取れた。



霊夢を贄とした淫欲の宴が始まったが、

霊夢は、『終わった』と思っていた。





〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜





ザザッ……。

ブゥン。

一瞬のノイズと共に、画像が表示された。



キィィィィィ……ン……。

何かが高速で回転する機械音が聞こえる。

乗り物の中だろうか、駐留外国軍の兵士の格好をした一団が長椅子に座っている。

『どう?』

ハスキーな女性の声で、撮影者は真向かいの席の小型端末を見つめている兵士に話しかけた。

『バッチリ映っていますよ、隊長』

撮影者のことを『隊長』と呼んだ兵士は、親指と人差し指で輪っかを作ってスマイル。



ポーン。

『間もなく着陸地点』

ウィィィィィン……。

チャイムの音とアナウンスの後、映像が右のほうを向くと、
撮影者と同じ長椅子に座っている兵士の頭越しにハッチが開くのが見えた。

『総員、出ろ!! ほら、急げ急げ急げ!!』

ぶれる映像。

慌しく、それでいて整然とハッチから飛び出していく兵士達。

最後の兵士の背中を映像が追いかけていく。

跳躍、そして着地。

映像は振り返り、先程まで乗っていた乗り物をアップで映した。
乗り物は、地面まで2メートル弱の位置に浮かんでいた。
短い両翼の端に付いた発動機が真上を向き、それぞれ回転翼を回すのに躍起になっていた。

その乗り物――MV−22B オスプレイ――は、ハッチを閉じつつ舞い上がり始めた。

画像はその様子を全て映すことなく、離れた場所に固まっている兵士の一団に切り替わった。

兵士達は、機関部が銃把より後方にある、いわゆるブルパップ・ライフルを油断なく構え、
周辺を警戒している。

この突撃銃は、イスラエル製の『タボール』と呼ばれる銃の、
短銃身モデルである『CTAR−21』である。
この銃はイスラエル軍で採用され、通常銃身モデルよりも多く使用されているが、
駐留外国軍では使用していないはずである。

それに先程から、彼らは流暢に我が国の言語で会話していた。
映像の兵士達の顔立ちも東洋系が殆どである。

『よし、ポイント・ワンに向かう!!』

一体彼らは何者なのか。
この些細な疑問に誰も答える事無く、撮影者の号令で兵士達は眼前の森に入っていった。



薄暗い森に差し込む陽光。
そよ風にさらさらと鳴る木の葉。
マイナスイオンが画像から伝わってくるような、快適なハイキングコース。

立ち止まった兵士が見ている地図のアップが映し出される。
よほど高性能のカメラを使っているのか、地図に細かく書かれている地名もくっきりと表示された。

『魔法の森』というのが、この森の名称のようだ。



『隊長、宜しいですか?』

映像は地図から、撮影者の側に来た深刻な表情の兵士に切り替わった。

『どうした?』
『こちらへ』

兵士の後を映像が追う。

『これを』

兵士が指差したほう。
大木の根元に、つばの広い、白いリボンが巻かれたとんがり帽子が落ちていた。

リボンに赤い染みが付いている。
染みは降って来る赤い雫によって、どんどん広がっていった。
映像は木の上方に向け移動していった。

枝に、木製の柄の箒が引っかかっていた。

さらに上方に移動。



木の頂点に、人が突き刺さっていた。



画像は拡大されていった。

刺さっていたのは、まだ年端の行かない少女だった。

黒と白のエプロンドレスを纏った身体は木に貫かれ、
揉み上げの片方を三つ編みにした金髪が垂れ下がってその顔を隠していた。

画像はさらに拡大され、苦悶の表情で絶命した、そばかすを浮かべた少女の顔を何とか確認できた。
口の端から血が滴り落ちていた。

画像の隅に小さな画面が現れ、そこに先程落ちていた帽子をかぶった金髪少女の笑顔が映し出された。
テロップで表示された『霧雨 魔理沙』というのが、二つの画面に映っている少女の名前らしい。



兵士達と撮影者はしばし合掌した後、移動を再開した。



森を抜けて直ぐの場所にある一軒の商店。
海外のニュース映像のように、そこからテレビやラジカセを略奪した暴徒が出てきた。
茂みに隠れて彼らをやり過ごした後、そっと店舗内を映し出す映像。
羽毛布団でも引き裂かれたのか、無数の鳥の羽が何冊もの本と共に床に散らばっていた。
映像は壊されたレジが置かれたカウンターの奥、居住部もしくは従業員の休憩室らしき部屋を拡大した。
割れた眼鏡をかけた全裸の青年が、のろのろと褌を身に着けている最中だった。
映像はあさっての方角を向いた。
画面いっぱいの霞がかった青空。



湖のほとりの紅い瓦礫の山を迂回し、
微かに聞こえる歓声、悲鳴、怒号、銃声をBGMに、
ついに兵士達は、目標地点である『ポイント・ワン』に到着した。



長い石段。

その先にある鳥居の映像が拡大され、

『博麗神社』と書かれた額束(がくづか:看板のようなもの)がはっきりと映し出された。





〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜





男が連れてきた若い猟師仲間達は満ち足りた顔で、
倉庫に大量にストックされている酒をかっ喰らっていた。

霊夢は皮手錠によって後ろ手に拘束され、
首には猟犬用のごつい首輪をつけられ、
それと倉庫の柱は鎖で繋がっていた。

股を広げた状態で足を棒で固定され、尻を突き出した状態でうつ伏せになった霊夢は、
便所の手拭用、いや尻拭きに使ったのではないかと思うような手ぬぐいで猿轡をされ、
口からは荒い息を、股間の二つの肉穴からはとろとろと白濁を、それぞれ漏らしていた。



じゅぶっ。

霊夢の開ききった秘所が、また肉棒で栓をされた。

今度の刹那の良人は、毛深かった。



ぶちゅっぶちゅっぶちゅっぶちゅっぶちゅっ!!

はっはっはっはっはっ!!

「ふっ、く、うぅぅっ……、ぐっ……」



妖怪の情婦(おんな)、か……。

男は、共に修羅場をくぐってきた相棒である猟犬が霊夢とまぐわっているのを見て、
ぼんやりと、そう思っていた。

男がまだ新米の猟師だったころ、先代の巫女に手を引かれていた霊夢は、
幼いながらも母譲りの気高さを持っていたように見えた。
先代とその夫が幻想郷から去り、博麗の巫女を継いでから霊夢は、
妖怪達を神社に招き、よく宴会をやるようになった。

博麗の巫女は妖怪と契り、神通力を得ている。
そんなデマが実しやかに人々の間に流布した。
妖怪寺の住職の生い立ちの話が変質して広まったらしい。

ちなみにその寺は船に形を変え、住職と弟子達と信者である妖怪達を乗せて飛び立ち、
空で崩壊して消え去った。
男達が霊夢を輪姦している間の出来事であった。

一度、妖怪共をたらしこんだ巫女様の『おそそ』を味わってみてぇ。
幻想が崩壊し、博麗の巫女が霊力と妖怪の後ろ盾を失った今、
その虚偽情報に裏打ちされた妄想を暴力で実現することは容易かった。

だが、全然巫女様は乗り気じゃないようだ。
やはり妖怪共のマラでズコバコやっているような淫乱だから、
俺達やお犬様のお上品な逸物じゃ満足なされないらしい。

男は偏見と邪推と悪意に満ちた思考をしながら、手入れの行き届いた鉈をぼんやり眺めた。



唐突に、霊夢を犯していた犬は腰の動きを止め、小刻みに震えだした。



ぐるるるぅ……。

とぷ……どぷ……びゅぶしゅうぅぅぅ……。

「ぐぅ……ふぅぅ、ふぅふぅふぅ……」

ぼた……ぼた……ぼた……。



霊夢の膣内に、溢れるほどの非常識極まる量の精液をぶちまけた犬は、
ペニスを突き立てたまま体の向きを変え、霊夢と尻をあわせた姿勢になった。



順番待ちの犬達が巫女様を犯り終わったら……。

男の鉈がギラリと光る。

次は、連中の食欲を満たしてもらおうか。

大降りの鉈は、少女の肉や骨など易々と叩き切れそうだ。



男の犬が霊夢からようやく萎えたナニをズルリと抜いた。

ボチャッ!! ベチャッ!! ボタタタッ!! ボタッ、ポタポタポタ……。

「くっ、ふうぅぅぅ……、うぅ……」

猟師達が、白濁が霊夢の秘裂からあふれ出す光景をゲラゲラ笑いながら指差している。

そんな時だった。
犬達が一斉に吼え始めた。

バウッ!!
ガウゥッ!!
バウワウッ!!

!!

男は仲間に目配せした。
男達は、自分の猟犬を繋いでいる鎖を首輪から外した。

忠実な猟犬達は徒党を組み、倉庫の扉から飛び出していった。





〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜





画像は、ようやく石段から博麗神社の境内に変わった。

映像は拝殿に向かって音もなく進み、途中で止まり、一瞬地面の瀬戸物の破片を移し、
直ぐに移動を再開した。

拝殿の前では、手入れの行き届いた素敵な賽銭箱が横倒しになっていた。
側に南京錠の残骸と賽銭箱の底部から抜き出した引き出しが落ちていた。
画像は鮮明に引き出しの中を映していたが、どう見ても空だった。
どうやら罰当たりにも賽銭を奪った輩がいるらしい。

画面は拝殿の脇を通り抜ける兵士達の後を付いていった。
撮影者は先行する兵士を待たせ、居住部に上がりこんだ。
障子が開け放たれたままの居間の中は荒らされていた。
ちゃぶ台はひっくり返され、
急須は割られ、茶筒からお茶葉がぶちまけられていた。
箪笥は例外なく引き出しが開けられ、中の衣類が散乱していた。

画像は隣の部屋を映したが、そこも荒れ果てていた。
文房具や化粧品が散らばる畳の画像に撮影者の腕が映りこみ、
その手はガラスが割れた写真立てを拾い上げた。

写真立てには、二人の女性が写った写真が入っていた。
紫のドレスを着た女性と、パッと見が巫女服のようなコスチュームの黒髪少女だ。
二人とも笑顔で互いに寄り添っている。
親子、姉妹、友人、或いは恋人、か――。

撮影者は写真を写真立てから抜き取り、写真立てを投げ捨てた。
写真のほうは手に握られたまま、画面外に消えた。

画面は居住部を出て、建物沿いに移動し始めた。
物干し台、こじんまりとした畑、井戸――。
めまぐるしく変化する映像は、蔵、というより倉庫のような現代的機能性を追及した建物で止まった。



『バウッ!!』
『ガウゥッ!!』
『バウワウッ!!』

何やら動物の吼え声が聞こえてきた。

『頼むっ!!』
『『『了解っ!!』』』

撮影者が兵達に指示を出すと、画像はぐんぐん倉庫へ近づいていった。

目指す倉庫の入り口から、数頭の大型犬が飛び出してきた。
犬達の姿は見る見るうちに画面いっぱいに映し出され――、

パパパンッ!!
『ギャンッ』『キャインッ』『ヒンッ』『キャンッ』

――爆竹のような音と共に、全頭の眉間に穴が開き、画面から消えた。



映像は倉庫の壁に到達したところで、先程犬達が飛び出した扉の左側にそっと寄った。

『はぁ……はぁ……』

撮影者の荒い息遣いが聞こえる。

撮影者から見て左にある倉庫の入り口から、
男が顔を出した。

『!!』
『だれだっ、てめ……(ザッ)、このや……(ザッ)、がっ(ザザッ)』

乱れる画像、ノイズが入る音声。

粗暴そうな男の顔。
画面端にちらりと映った黒い髪。
撮影者にねじり上げられる男の右腕。
一瞬横切る、刃物らしき影。

ダンッ!!
『い、イテェ!! 痛ぇっ!!』

僅か3秒ほどで、男は撮影者によって地面に組み伏せられた。
撮影者は、男を押さえつける役目を駆けつけた屈強な二人の兵士と後退した。

映像は男から外れ、先程まで男がいた倉庫の入り口付近に移動した。
そこでは、全裸の少女が年若い女性兵士に寄り添われており、
そちらから駆けてきた男性兵士は、手に首輪と皮製の拘束具を持っていた。

『隊長、彼女、これを嵌められていました』
『彼にもSMプレイを味わってもらえ』
『了解』

映像の視点が高くなった。
撮影者が立ち上がったようだ。

兵士達が倉庫の中に突入して行った。

パンッ!!
パパパンッ!!

どたっばたんっ!!

……。


ほんの少しの騒音の後、静かになった倉庫から、兵士の一人が出てきた。
手にはモノトーンのボールのようなものを持っていた。

『隊長』
『うん、何も感じられない。恐らく全ての道具が無力化しているようね』
『では……』
『焼却処分は予定通り行う。準備を頼む』
『了解しました』

兵士はボールを手にしたまま、倉庫内に戻っていった。
その倉庫の入り口を横切って、少女に使われていた拘束具を持った兵士が映像から消えた。
撮影者の背後に向かったようだ。

『やめ……!!、いて……、殺すぞ……、!! あだだだ……』

押さえつけられているはずの男の罵声と情けない悲鳴が、切れ切れに聞こえてきた。


『さて……』

映像は、女性兵士の持ち物らしいポンチョを羽織った黒髪の少女に近づいていった。



『あ……』

カメラのほう、正確には撮影者のほうを見た少女は、

かすかに声を上げた。





〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜





「あ……」

外の世界の兵士の格好をした女性を見て、霊夢はようやく反応らしい反応をした。

「霊夢……」

兵士は霊夢の名を呼んだ。

「最初に言っておくけれど、私達は貴女を助けに来たのではないから」

兵士の言葉に、霊夢は先程以上の反応は返さなかった。

「この幻想郷は、間もなく崩壊します。それは博麗の巫女……だった貴女が一番よく知っているわね」

霊夢はかすかに頷いた。

「幻想の住人である貴女達は、何の準備もなく現実世界に放り出された。
 その結果、貴女達は……、消滅するわ」

霊夢は理解していた。

「最初に幻想的能力が消え、次に幻想を愛する心……、そして最後に……」
「私達自身が、消える……」

兵士の言葉を霊夢は継いだ。

すくっと、霊夢は立ち上がった。

「分かっていたのね……」
「なんとなく。そうでなければ、私は只の人となっても、どんな辱めを受けても、
 意地でもこの幻想郷を守るわ。あのヒトの愛した、この箱庭のセカイを……」

兵士は突撃銃を手にして言った。

「私達は、この幻想郷の終焉を見届けに来ました。念のために博麗の祭具も処分します。
 霊夢、貴女はどうする?」

霊夢は、笑っていた。
泣きながら、笑っていた。

「う、ふふっ……、ぐすっ、紫ぃ……、貴女のいないセカイなんて……、もう、いやぁ……。
 痛いのも……、気持ち、悪いのも……、本当は、嫌だったの……、うふ、うふふふふっ……。
 嫌、嫌、いやぁ……、紫、紫、どうして死んじゃったの……。
 うふふ、ううぅ……、うぅぅうっ……」



しばらく、気がふれたのかと思うような慟哭をした霊夢であったが、
不意に黙り、ゆらり、と顔を上げた。



「あはっ!! いいわ!! やりなさいよ!! 私も『処分』しなさいよ!!
 ほらぁ!! その鉄砲でズドンとやりなさいよっ!!
 紫のいない、こんなクソなセカイになんてっ、一秒だって……、居たくないわよおぉぉぉぉぉっ!!」



その顔は、他の幻想郷住人と同じく、狂気に取り憑かれた修羅のよう――。



と、いうより、

癇癪を起こした幼子のようだった。



女兵士は、タボール突撃銃を構えた。

光学照準器の光点が、霊夢の額に合わされた。

銃把を握った右手の親指で切り替えレバーを時計回りに回し、『S』から『R』に切り替えた。



引き金に力を込めた。

銃弾が放たれる刹那、

確かに、霊夢は言った。





ありがとう、かあさま。





一発の、銃声。





〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜





『あああああっ!!!!! 殺したっ!? 殺したのかよ!?
 実の娘を、母親が殺したのかよぉ!! この外道めっ!!』

少女の遺体に、先程介抱していた女性兵士が居住部から持ってきたシーツをかけている光景を、
男の罵声と共に、延々と垂れ流す映像。

兵士二名が担架に少女の遺体を乗せると、女性兵士と共に運び去った。

そこでようやく、撮影位置が180度方向転換した。

『ひっ!?』

首輪を嵌められ、後ろ手に拘束され、どういうわけか褌一丁の姿にされている男。
このむさい映像は、被写体の男を兵士達が引っ立てて行ったおかげで長時間見ずに済んだ。



しばらく、周辺の景色と忙しく立ち回る兵士達の映像が流れる。



『準備完了!!』
『……よし、移動する』

終結した兵士達を一画面に収めると、映像は神社から森の中に入っていった。

しばらく移動して、画面いっぱいに立ち枯れた大木を捉えると方向転換、再び兵士達の映像になった。

『やれ』
『了解』

撮影者の指示で、返事をした兵士は手にしたリモコンのスイッチを入れた。

画像は、今まで歩いてきた方角を向いた。



『オオ……、オオオ……』

かすかに、叫び声のようなノイズが聞こえてきた。

煙が二筋、立ち上ってきた。

煙が太くなり、赤い火の粉のようなものまで映像に捕らえられるようになったころには、
もうノイズは聞こえなくなった。



『状況終了!! ピックアップ地点に移動する!!』
『『『『『了解っ!!』』』』』

兵士の一団は森の中を移動し始め、映像はしばらく森の木々となった。



開けた場所に出ると、着陸しているMV−22B オスプレイが映し出された。

兵士達は続々とオスプレイに乗り込み、彼らの後を追う映像は機内を移動して、
ガサゴソという音の後、行きと同じ席順らしく、
映像チェックをしてくれた兵士を真正面に捕らえたところで落ち着いた。

一瞬、画面がぶれると、機内の甲高い音が一際やかましくなった。

騒音に慣れた頃、兵士達が身体を曲げて窓から外を見た。
撮影者もそれに倣い、外をカメラと共に見てくれた。



あちこちから煙が立ち上る幻想郷。

夢の残滓。

血塗られた非日常の名残は、

すぅ、と消えた。



撮影者の手が映った。

その手には、博麗神社から持ってきた写真があった。

それも光の粒子となり、二人の女性の幸せそうな笑顔は消え失せた。


『……どう、撮れた?』
『バッチリです……、隊長』

その声を聞き、画面は真正面で疲れた笑みを浮かべた兵士を映し出した。

『ふう……、みんな、ご苦労さん。帰り、オゴるわよ』
『やった!!』
『部長、じゃないや、隊長、ありがとうございます』
『たいちょ〜っ!! 愛してる〜』
『馬鹿ッ!! 隊長の旦那に殺されるぞ!!』

『『『『『ワッハハハハハッ!!!!!』』』』』

少し疲れたような、芝居がかったようなバカ騒ぎ。



画面が乱れる。



ブブンッ……。

プツッ。










以上が、株式会社ボーダー商事のCEO(最高経営責任者)、八雲 紫の代理人である八雲 藍が、
配下の民間軍事会社、WATERDUCTS社に命じて派遣させたコントラクター達一個小隊が、
幻想郷を縦断して記録した映像である。

なお、映像には超法規的活動やコントラクターのプライバシーに関する内容が含まれるため、
他言は無用である。

この映像及びその内容が漏洩した場合は、手段を問わず、隠蔽すること。




















〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜





白昼、空を飛ぶ戦闘機。

F−35B ライトニングU。



眼下に牧歌的な原風景が広がっている。

湖のほとりには紅い城のような洋館が聳え立ち、

側の森は、禍々しい木々がうっそうと茂っており、高空まで妖気が漂ってきそうだ。



F−35Bと同じ高度を、巨大な木造船が飛んでいた。

聖 白蓮が住職を務める命蓮寺が変形した、聖輦船だ。

戦闘機と船はしばらく並行して飛行した。

聖輦船は進路を変え、戦闘機の側を離れるとき、発光信号で挨拶をよこした。
なので、戦闘機も航空灯を点滅させて返答した。

良き航海を。



次にF−35Bと並んで飛んでいるのは、箒に乗った少女だった。
低速での遊覧飛行とはいえ、戦闘機と同等のスピードで少女が飛んでいた。

パイロットはコンソールのボタンを一つ押して、無線の周波数を切り替えた。

「魔理沙」

黒白の魔法少女はあたりをキョロキョロしだした。

「帽子の中じゃないか?」

パイロットがそういうと、キャノピーの外の少女は大きなとんがり帽子を取り、
中から人形を取り出した。

『あったあった』

無線から少女の声が聞こえてきた。

「一緒に飛びたいなら、もう少し離れろ。危ないぞ」
『りょーかい』

少女は戦闘機から距離を取った。
あれだけ離れれば、吸気口に少女を吸い込んで、ローストされたミンチをばら撒くことはないだろう。



F−35Bと魔理沙と呼ばれた空飛ぶ少女は、とある神社の上空に来た。

そこで戦闘機は空中に静止した。

推進装置の噴射口は90度曲がって下を向き、
機体の上下のハッチが開き、リフトファンがその姿を現した。

F−35Bは、木の葉のようにふわりふわりと、静かに下降して、
博麗神社の境内に着陸した。


戦闘機のキャノピーが開くのと同時に、猫耳の少女が梯子を持って駆けてきた。

「らんしゃま〜!!」

ヘルメットを脱ぎ、それを操縦席に置くと、金髪の女性パイロットは掛けられた梯子を降り、
ぶるぶると身震い。

にゅっ、と頭に獣の耳が、尻には九本ものふさふさした獣の尻尾が生えた。

パイロットが何やら念じると、その装束はパイロットスーツから導師服になった。

無数の御札が貼られた帽子をかぶり、大きなエコバッグを携え、
パイロット――八雲 藍は、彼女の式神、橙の頭をくしゃくしゃと撫でた。
橙は喉をゴロゴロ鳴らして、主の寵愛を喜んだ。

「ほら、橙、お土産だ」
「わーい!! 藍様、ありがとーっ!!」

藍から貰った、筍を象ったチョコレート菓子の箱を手に、橙ははしゃいだ。

「よう、藍、私には?」
「ちっ」
「何だよ!? お前のいない間、誰があいつ等の面倒見てたと思ってんだよ」
「橙だろ」
「……」

神社のほうを指差して、自分の功労をアピールする普通の魔法使い、霧雨 魔理沙。

「ほら」

魔理沙にも菓子を放る藍。

「さんきゅ」

キノコを象ったチョコレート菓子をキャッチして、おざなりな礼を言う魔理沙。

エコバッグを手に、神社の居住部に歩を進める藍。





障子は開いていたので、居間の様子はよく見えた。

周辺温度が5度くらい上昇したようだ。

藍は、苦虫の砂糖漬けを咀嚼したような顔になった。





「はい紫、あ〜ん」
「あ〜ん」

ちゅるちゅるりんっ。

居間では、藍の主である八雲 紫が、博麗 霊夢に鍋焼きうどんを食べさせてもらっていた。

アイスホッケーのパックのような分厚いかき揚げ。
これまた分厚い豚のロース肉。
香ばしそうな焦げ目の入った、焼いた切り餅。
だし汁が染み込み、茶色に色づいた蒲鉾。
大胆にぶつ切りにされて投入された長ネギ。
一見熱で固まった様でいて、箸で割ると黄身がとろりと流れる玉子。

それらが煮込まれてもくずれていない腰の強いうどんの上で、食べて食べてと自己主張していた。

紫はその声に応えるべく、具とうどんを霊夢に頼んでお椀を経由して口に運んでもらった。



大き目の土鍋が汁も残さず空になったところで、
藍は霊夢に口を拭いてもらっている紫にようやく声を掛けた。

「紫様、お加減はいかがですか?」
「ええ、貴方達と霊夢の看病のおかげでかなり良くなったわ。少し食欲も出てきたし」

パジャマにガウンを羽織り、頭に愛用の帽子についているものと同型のリボンを結った紫は、
そう答えて微笑んだ。

「霊夢、お前はどうだ?」
「私はすっかり大丈夫よ」

寝巻きに半纏姿の霊夢は、血色の良い、少し赤らんだ顔で元気さをアピールした。

二人とも、すっかり回復したようだ。

藍はホッとした。



八雲 紫は冬眠明けで体調が万全でない時に、たちの悪い風邪に罹り、
三日三晩高熱にうなされ死線をさまよったが、霊夢と式神達の看病のおかげで一命を取り留めた。

ただ、紫が生死の境界の死の側に寄った時に、そのまま死んでしまった場合のIFの世界が、
現実と幻想の境界を越えて具現化してしまったのだ。

藍は直ちにボーダー商事の私兵であるWATERDUCTSのコントラクター達を出動させた。
周辺地域を封鎖し、政治的にも根回しして、完全に虚像の幻想郷が出現した一帯を支配下に置いた。

この『幻想郷』、危機管理の想定事案の参考になる。
『IF』ではあるが、現実の幻想郷が直面するかもしれないのだ。
放っておけば消えてしまう虚像ではあるが、ちと勿体無い。
そう思った藍は、兵士の一部隊を『IFの幻想郷』に派遣した。
元・博麗の巫女を隊長とするこの部隊の任務は二つ。

一つは、魔法の森から博麗神社に向かい、その道中を観察すること。
戦闘は隊長が許可しない限り、可能な限り避けること。

そしてもう一つは、博麗神社の祭具及び巫女の処分である。
幻想郷は、幻想郷の管理人である紫と、博麗の巫女である霊夢で成り立っている。
下手に一方が残ると都合の悪いことになる。

藍の予測では、ほぼ100%の確率で杞憂に終わるが。

では、何故そのようなことを命じたかというと……。

霊夢が、地域住民に暴行を受ける確率が、これもほぼ100%と予測されたのだ。

虚像とはいえ、主の想い人に地獄を見せたくないがために彼女の母親を差し向け、対処してもらう。
残酷なようだが、これが藍にできる精一杯の情だった。

藍自身が飛ばしたF−35Bと地上部隊の撮影した映像によって、
紫の身に不測の事態が発生した場合の対策をより良く修正、変更することができた。

これで、この幻想郷は、しばらくは消えずに済むだろう。

霊夢は紫を想っている。
紫を八雲邸ではなく、博麗神社で静養させることを提案したのは藍で、
霊夢と紫は快諾した。

懸想している者の看病なら、紫の病も早く治るだろうと目論んだからである。

紫の看病疲れで霊夢も病に伏せるというトラブルがあったが、
結果として二人とも早期に快癒しつつあるし、良しとしよう。



「霊夢、差し入れだ。紫様達と食べるがいい」
「あ!! うわ〜!! ありがとうっ!!」
「悪いわね、藍」

藍がエコバックから取り出したのは、アイスクリームの詰め合わせにプリン、ヨーグルト、
ゼリーに橙や魔理沙にやったようなチョコレート菓子といった、外界の甘味の数々だった。

霊夢はそれらを嬉々として台所に持っていった。

「それでは紫様、ごゆるりと養生なさってください。
 御用がございましたら霊夢達にお申し付けください」
「悪いわねぇ、貴女には色々と面倒を掛けたわね」
「いえ……」

ここで藍は紫に一言言うことにした。

「紫様」
「何?」
「霊夢に、甘えてやってください」
「霊夢が、私に甘えるんじゃなくて?」

藍は苦笑した。

「それでも構いませんが……、霊夢、貴女に迷惑を掛けられる事を喜んでいるようですから」
「あらぁ、霊夢ってマゾだったのかしら?」
「だ〜れ〜が〜、マゾですってぇ!?」

いつの間にか、笑顔で怒気を湛えた霊夢が二人の側に立っていた。

「そっそれでは、私はこれにてっ!! 二人とも、お大事に!!」
「「待ちなさい、ら〜んっ!!」」

霊夢と紫のハモッた静止を振り切り、藍は居住部から境内に走り去った。



境内に駐機したF−35Bの操縦席では、魔理沙がパイロット用のヘルメットを被り、
操縦桿を弄っていた。

この戦闘機は生体認証と呪術的プロテクトにより、藍にしか扱えないようになっている。
さらに操縦席内の電子機器も頑丈にできているから、手荒に扱っても、中に爆弾を投げ込まれても、
破損することはない。



藍は拝殿の素敵な賽銭箱の前に来ると、小銭を一枚放り、
賽銭箱に寄りかかって昼寝している橙の隣に腰掛けた。

橙は無意識に藍に寄りかかったが、藍はそのままにしておいた。



藍は、本物の戦闘機で遊ぶ魔理沙を、

その向こうに広がる、幻想郷を、

飽く事無く、見つめ続けた。




 
滅んだ愛するものが愛した滅び行くセカイで、
共に滅び行く彼女に何をしてやれるだろうか。
こうするしかなかった。


2012年2月25日:コメントに対する返答追加。

>ハルトマン様
シミュレーションなど目じゃないIFの世界の有効利用として書いてみました。
幽香は結構逆恨みされていそうですからね〜。
非力な女性となった幽香を、少女の姿を維持できなくなった虫の化け物、リグルが襲い、濡れていない秘所に産卵管を突っ込み……、てな具合ですかね。
地霊殿に行きたいのでしたら、まず埋まってしまった地底への入口を掘り起こしてください。

>ギョウヘルインニ様
救いようのない結末を知ることによって、その事例を回避する手段を模索することができますからね。

>pnp様
普段の神の視点から見た話と、外界から介入した者達が撮影した客観的『映像』を交互に書いたから、混乱を招いてしまいましたか。

>4様
IFのセカイのバッドエンドと、ゆかれいむイチャイチャを書きたかったのです。

>カイエス様
常にひねくれたモノの見方をしているもので……。
『産廃』も『PMCのほう』も愛してください。

>まいん様
救いようのないセカイは、滅びによって救われる。
IFのセカイの出来事だから、そうならないように、それを教訓にできる。

>8様
風邪をナメると、怖いよ〜。
貴方こそ、滅び行く幻想郷に相応しい!!

>金だ様
外界から来た一行のパートは、後日、別の人達が見ている記録映像をイメージして書きましたが、伝わったかな?
楽しんでいただけて光栄です。

>10様
『WATERDUCTS』による記録映像と報告書は、紫と霊夢も見たと思いねぇ。
IFのセカイの悲劇を現実のものとしないために……、紫には藍も見落とすような些細な変化にも気付く伴侶が必要ですね。
NutsIn先任曹長
http://twitter.com/#!/McpoNutsin
作品情報
作品集:
2
投稿日時:
2012/02/05 16:00:56
更新日時:
2012/02/25 20:47:25
評価:
9/11
POINT:
860
Rate:
14.75
分類
霊夢
ゆかれいむ
魔理沙
幻想郷壊滅
陵辱
獣姦
民間軍事会社WATERDUCTS
簡易匿名評価
投稿パスワード
POINT
0. 60点 匿名評価 投稿数: 2
1. 90 ハルトマン ■2012/02/06 01:13:27
IFエンドとは・・・昔は権力者が失脚した時嫁や娘は慰み者にされてたのでしょうか。幻想郷が滅ぶなら、ゆうかりんとかの行く末が気になるところ。何が言いたいのかよくわからなくなりましたが素晴らしかったです。 あと地霊殿部隊は私で←
2. 100 ギョウヘルインニ ■2012/02/06 01:33:07
この話は救いが無く唯滅びる話なのかと読んでいくと、滅びることによって救われる話だったのですね。とても、面白かったです。
3. 90 pnp ■2012/02/06 07:46:03
 話の構造をしっかり理解できない自分の頭の悪さに辟易してる。
 あなたの文章は好きな感じです。
4. 60 名無し ■2012/02/06 21:03:03
バットエンドを期待した私が居る……
理解力が足りないせいかちょっと疑問に感じる部分もありましたがよかったです。
5. 100 カイエス ■2012/02/06 23:18:44
パラレルワールドの具現化…
着眼点がいいなぁ(感嘆
IFの…一世界
また別らの世界
いいもん見せて頂きました!
ますます好きになった!waterducts大好きだー!!
6. 100 まいん ■2012/02/06 23:22:53
バッドエンドかと思ったら、救いのある終わり方で良かった。
恐ろしきはやはり人か、滅ぼす事によって救われるIFの世界が哀れで仕方が無い。
8. 90 名無し ■2012/02/07 00:43:11
風邪で大妖怪が死ぬなよ!と盛大に突っ込み入れたくなりながら読んで、ああIFかと安心しました
その後怖いPMCのお姉さんに殺されるとしても、霊夢を暫く好き放題出来るならIF世界の猟師よ、そこを俺に代われ!
ん?いや、考えようによっては霊夢をヤッた上に、お姉さん達に「SMプレイ」して貰った後、しかも軍用ライフルでの銃殺まで味わえるなんて俺得過ぎるじゃないか!
9. 100 金だ ■2012/02/08 01:17:54
交錯する二つのセカイ
元々の世界に具現化したIFがその視点から混じってて楽しんで読めました!
10. 70 名無し ■2012/02/17 16:15:53
IFっつっても紫ひとり死んだだけでこのありさまじゃあどっちみち前途は暗いね。
これを受けてどうするのかが問題って感じ。
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