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『私のチョコはどこだっ!?』 作者: NutsIn先任曹長

私のチョコはどこだっ!?

作品集: 2 投稿日時: 2012/02/13 17:14:44 更新日時: 2012/02/25 21:20:26 評価: 5/11 POINT: 610 Rate: 11.55
2月14日。

聖バレンタインデー。

愛しい人、親しい人にチョコレートを送る日、だとか。

外のセカイのそれが、商業主義に踊らされた淑女が紳士から頂く見返り目当ての、
大量購入した廉価な菓子を用いた『撒餌』の日であるのに対し、
幻想郷では、恋人、あるいは世話になった人に精をつけてもらうために西洋菓子を送る、
純然たる親愛と慰労を行なう日である。



これは、とある大妖怪に淡い恋心を抱く可憐な少女の、特別な一日の物語である。





〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜





「無い……!? 無い、無い……、無い無い、な〜〜〜〜〜いっ!!!!!」

博麗神社。

そこに住まう楽園の素敵な巫女、博麗 霊夢は何やら探し物をしているようだ。
茶器が乗ったちゃぶ台の上及び下を舐めるように見、台所の冷蔵庫や戸棚、はては鍋の中まで覗き込み、
再びとっ散らかった居間に戻り、その中心で前述の台詞を叫んだ次第である。



博麗 霊夢は乙女であった。

彼女は幻想郷の管理人である妖怪の賢者、八雲 紫に恋をした。

幻想郷では種族性別年齢を問わず、恋愛は自由である。

しかし相手は大妖怪。
地位も力も美貌もある。
人間の少女など相手にはされないかもしれない。
紫はちょくちょく霊夢の元に訪れるが、あれは『博麗の巫女』に用があるのだろう。
それでも、霊夢は紫に恋心を伝えたくて、バレンタインデーなるこの日に賭ける事にした。

霊夢は手作りをするような冒険を避け、大枚をはたいて人里の洋菓子店でチョコレートを購入していた。
その値段は、立ち食い蕎麦屋の藍スペシャル――大盛りきつねうどん揚げ二枚乗せ+稲荷寿司二個
――と同等であったが、安い投資と割り切った。

なのに、ちゃぶ台に置いていたはずのそれが、消えてしまったのだ。



盗まれたか――!?

真っ先に思い浮かんだのは、窃盗壁のある黒白装束の友人。
だが、霊夢は霧雨 魔理沙の名を容疑者リストから外した。

今日、魔理沙は、人形遣いの技巧派魔法使いアリス・マーガトロイド及び、
紅魔館の主の友人にして相談役、地下の大図書館の館長である魔法使いパチュリー・ノーレッジと、
魔法研究の発表という名のお茶会を催すそうである。

霊夢は三人の魔法使い達から直接話を聞いたし、その内二名の種族魔法使いとは、
魔理沙の身に何が起きても霊夢は一切介入しない旨の密約を、相応の見返りと引き換えにしていた。

確か、小悪魔がパチュリー達の『小鳥が鳥篭に入った』とのメッセージを携え、
密約の確認をしに来たときには、ちゃぶ台にチョコレートの包みは、あった。

うん、小悪魔が帰った後、お茶を飲んで……、その時もまだあった。
お茶菓子を買うお金が無いから、チョコの包みを見ながら一服したからよく覚えている。

で、その後、小一時間ほど境内の掃除をして、素敵な賽銭箱が空なのを嘆き、
干していた布団を取り込んで、居間に戻ってきたら――、
もう無くなってた。

境内には霊夢がいたから、外部からとは考えられない。
だいたい、博麗の巫女の目をかいくぐって神社に侵入するなんて、
大物妖怪だったら直ぐに察知できるから不可能だ。

そこで、霊夢ははたと、気が付いた。
じゃあ、相手が小物だったら、どうだろうか?



霊夢の脳裏に浮かんだ、三人の妖精。

口元の八重歯が愛らしい、尊大な態度を取る妖精。
慎重派なのに直ぐに転ぶため、逃げ足は一番遅い妖精。
三人の中で一番家庭的で狡猾な妖精。



霊夢は、博麗の巫女であるにもかかわらず、彼女達に散々虚仮にされてきた。

だんだんむかっ腹が立ってきた。

霊夢は居住部に戻ると、私室に入り、片隅の洋服箪笥を開けた。
中には霊夢の巫女服以外の普段着が入っているが、用があるのはそれらではない。

霊夢は漆塗りの小箱を取り出し、表面を一撫でした。
すると、電卓のような文様が浮かび上がった。
霊夢が現れたテンキーを叩くと、電卓の表示部分に相当する箇所に数字ではなく、
アスタリスクが表示されていった。

霊夢の指の動きが止まった。
すると小箱の蓋が自動的に開き、中身の紙束が露になった。
その紙束には霊夢が普段使っている護符のように呪言が書かれていた。
ただ、その紙の形は、人の形をしていた。

「ひのふのみ〜……」

霊夢は慎重に数えて、合計十枚の人型護符を取り出すと、小箱の蓋を閉め、箪笥に戻すと、
霊夢は境内に戻った。

印を組み、何やら念じながら霊夢が件の護符を投じると、それは十人の少女になった。
霊夢のものとは異なる、普通の巫女服を纏い、霊夢にどことなく似た顔立ち。

彼女達は、霊夢の式神である。
式神には霊夢の知識がコピーされており、オリジナルよりは劣るが霊夢と同じ術や技が使えるのである。
ただ、八雲 紫のように常時使役できるような物は霊夢には作れないので、
これらはせいぜい一昼夜しか保たず、
また、霊夢のコピーである式神が悪用されたら事なので、これらは厳重に保管されている。



霊夢は、そんな物騒な式神を十体も投入して、することは――、



「あんたたち、ええっと……、
 ハニーミルク、ルナマイルド、スタースクリーム……だっけか?
 ともかく、こいつらを探し出して――」



――極めて単純。



「――殺しなさい」



名前が間違っていても、霊夢の知識から標的は光の三妖精だと理解した式神達は、
軽く頷くと、あっという間に姿を消した。





〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜




霊夢は静かになった、相変わらず誰も訪れない境内で、物思いに耽っていた。



あれは所用で守矢神社を訪れ、風祝の東風谷 早苗と駄弁っていた時のことだ。

博麗神社と違い、お賽銭を投じて参拝を済ませた二人連れが早苗達に一礼をして帰路についた。

あれは霊夢も知っている。
人里で評判の熱々カップルだ。
家柄の違いで結ばれないかと思われたが、苦難を乗り越えて見事に婚約し、
祝言まで秒読み段階になっていたはずだ。



「良かったですね、ちゃんと両方の親に認められて」
「……ええ、そうね」

早苗も霊夢も微笑を浮かべ、二人を祝福した。

「田吾作さん、頑張りましたからね」
「与平さん、大店の令嬢との婚約を蹴って、親と大喧嘩したってねぇ」

カップルのうち、身長二メートルを越す筋肉質の巨漢が田吾作さん、
もう一方の、女と見間違うような優男が与平さんである。



幻想郷では種族性別年齢を問わず、恋愛は自由である。

当然、男同士も可、である。



与平さんが、田吾作さんの毛むくじゃらの腹に耳を押し当てて微笑んだ。

田吾作さんのお腹には筋肉の他に、二人の愛の結晶が息づいていた。



早苗は幻想郷に来た当初、人間そっくりの妖怪を退治した時や、
あのような相思相愛の同性カップルを見た時、
トイレに駆け込み、汲み取り式便所の深淵に嘔吐したものである。

やがて、幻想郷では常識にとらわれてはいけない事を理解だか誤解だかした早苗は、
今では嬉々として命乞いをする妖怪をなぶり殺しにし、
眼前で涎を垂らしてニヤける大男の口元を舶来のハンケチで拭いてあげている色男のノロケに、
苦笑と祝福を授けるようになった。

ちなみに、守矢神社の便所は水洗、局部洗浄シャワー付きとなった。



「よしっ」

霊夢は出された茶菓子を頬張り、お茶で腹の中に流し込むと、元気良く立ち上がった。

「お帰りですか?」
「ええ、ご馳走様」

霊夢は手を振る早苗に見送られ、幻想郷の空を飛翔した。



私だって、恋の試練に立ち向かって、紫と結ばれてやる!!

あの、田吾作さんと与平さんのように!!





〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜




よしっ!!

パンッ!!

霊夢は両手で頬を叩いて気合を入れると、居住部に向かった。



アクシデントで失われた、必殺武器のチョコレートを再び調達に向かうのだ。

実弾(お金)は……、食費を切り詰めれば何とかなるだろう。

恋する乙女は、しばらくご飯のオカズが塩になっても挫けないのだ!!

外界のレートで換算して数百円で一、二週間食いつなげる霊夢は居住部の玄関に入り、
勢い良く居間の襖を開けた。



がらっ!!



「お邪魔してるわよ、霊夢」



「ゆ、ゆ、紫ぃっ!?」
「あら、ご挨拶ね」

居間でくつろぎ、狼狽する霊夢を愉快そうにくすくす笑う女性こそ、

八雲 紫その人であった。



「ゆ、紫、あのね、その、チョコがね、え〜と、塩ご飯で、田吾作さんと与平さんがチュッチュ……」

「???」

挙動不審になった霊夢の態度にきょとんとした紫であったが、何か合点がいったようだ。

「クスクス、はい、チョコレート」

紫はす、と取り出した包みを霊夢に差し出した。

「え!? ありがとう!! で、でも、私が紫にあげるヤツが……」

立ち食い蕎麦だったらトッピング全部のせと同等の価値があるチョコをもらい、
霊夢は申し訳なさそうな顔をした。



「『紫、私、貴方の事を幻想郷の管理人とか、大妖怪とか、そういうのじゃなくて、
 大事な、愛しい存在だと思っています。貴方は私のことをどうお思いですか?』
 ――だったかしら? くすくす」

「はぅあっ!?!?!? なぜにっ!? どうじでっ!?」

顔を真っ赤にして驚愕の霊夢に、紫は一枚のカードを見せた。

そこには霊夢の筆跡で、先ほどの文言が書かれていた。

「さっきお邪魔した時に頂いたチョコレートの包みの中に入っていたの。
 でね、この質問状の回答だけれども……」



ドキッ!!



霊夢の心臓が、強烈な一鼓動。



その刹那に、紫はやすやすと霊夢の間合いに入った。



チュッ!!



次の刹那で、霊夢は唇に温もりを感じた。



次の刹那には、何も起こらなかった。



だが、そのまた次の瞬間、霊夢は紫に抱きつき、泣き出した。



「私、八雲 紫は、博麗 霊夢を、生涯愛することを、誓います」

それは、誓いの言葉。

「わだっ、わだじ、はぐれいれいぶも、グスッ、やぐぼゆがりを゛、
 ズズッ、あ゛、あいじばずぅっ!!」

聞き苦しいが、それもまた、誓いの言葉だった。



紫は霊夢をお姫様抱っこすると、寝室に向かった。

霊夢は、布団を干しておいて良かったと思った。





〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜





朝。

博麗神社。



八雲 紫は、焼き魚と味噌汁の、食欲をそそる匂いで目が覚めた。

脱ぎ散らかしたドレスを羽織り、寝ぼけ眼で居間に向かう。
そこから台所に目を向けると、霊夢が鼻歌を歌いながら料理を作っていた。

下着――サラシと膝丈のドロワーズだが――の上にエプロンを身につけた霊夢は、
くるりと紫の方を向き、朝の挨拶をした。

「おはよう、紫」

バッチリ目が覚めた紫も挨拶を返した。

「おはよう、霊夢」



台所に差し込む朝日の中、舞うように調理を続ける霊夢。



こういうのも良いものだ。

紫はしみじみとそう思いながら座布団の上に座り、
やがては毎日のように賞味することになる、霊夢手作りの朝食を待ち焦がれるのだった。





〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜










博麗大結界の側。

そこに、外界から取り込まれた大木が生えていた。

その根元に、人の形に切ったような何枚かの紙切れが落ちていた。



赤黒い塗料のようなものがベッタリと付いた十枚の紙切れが風に舞い、

役目を果たしたそれらは、やがて細かい繊維となり、幻想郷の大地に還っていった……。




 
はい、今日はバレンタインデーですね。
チョコ食って乳繰り合う日だとか。
すいませんね、西洋の催しに疎くて。


2012年2月25日:コメントに対する返答追加。

>ギョウヘルインニ様
幻想郷の恋人達、お幸せに!!

>糞団子様
幻想郷の存亡に関わる重要人物である霊夢に無用な混乱を与える行為は、万死に値します。
男性には、何でも肛門内に精子が注入されると卵子を放出する器官があるとか。

>マイキー様
恋する乙女は、必死なのさ!!

>6様
今だけは、声を出して泣くがいい。

>8様
三月精はしばらく『休暇』を楽しんでもらいましょう。
ゆかれいむに幸あれ!!

>kyoune様
ゆかれいむといたずら妖精に死の制裁を加える事がお好きとは、良い趣味です。
NutsIn先任曹長
http://twitter.com/#!/McpoNutsin
作品情報
作品集:
2
投稿日時:
2012/02/13 17:14:44
更新日時:
2012/02/25 21:20:26
評価:
5/11
POINT:
610
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11.55
分類
霊夢
ゆかれいむ
早苗
熱々カップル
大切なものを強奪した者には死を
バレンタインデー
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0. 110点 匿名評価 投稿数: 5
1. 100 ギョウヘルインニ ■2012/02/14 02:52:17
霊夢さん、紫さんお幸せに、そして与平さん田吾作さんもお幸せに!
3. フリーレス 糞団子 ■2012/02/14 17:09:23
三妖精さんカワイソ
つーか与平さん田吾作さんどうやってガキ作ったんだろ?
4. 100 マイキー ■2012/02/14 17:24:16
こりあ凄い!
必死さがひしひしと伝わった。
6. 100 名無し ■2012/02/14 22:08:33
泣ける
8. 100 名無し ■2012/02/15 18:53:11
妖精さんはすぐに復活するから無問題だね。
ゆかりん、霊夢といつまでもお幸せに。
10. 100 kyoune ■2012/02/16 11:40:21
らぶらぶちゅっちゅの純愛ゆかれいむとか私得。

クソッタレ妖精どもの謂れ無き残虐皆殺しとか私得。
名前 メール
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