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『学は友、恋は敵』 作者: 天狗

学は友、恋は敵

作品集: 2 投稿日時: 2012/03/02 02:38:25 更新日時: 2012/03/03 09:32:07 評価: 3/5 POINT: 300 Rate: 16.25
 魔法というのは突き詰めても奥の深いもので、果てに出口というものは存在しない。如何にして使用者の得意な領域において極めていき、その極意を学んでいくかが重要となる。
「ふーん…この本によると私は五行について極めているらしいけど、正直それ以外も学んでみるのもアリよね」
ここは紅魔館に存在する大図書館。ここに存在しない本は無いと言われており、それを管理しているこの少女は、今日も魔法について研究していた。
「今興味がそそられるのは…やっぱりあの子みたいな能力ね」
読んでいた本を閉じ、一息つく。傍らにあったペンをくるくると回し弄びながら、使用人を呼ぶ。
「御呼びですか? パチュリーさん」
「少しお願いがあってね? この手紙を渡してきてほしいのよ」
質素な手紙を手渡し、パチュリーは紅茶の入ったカップを口に付ける。使用人である小悪魔が入れてくれたハーブティーは今日もよい香りを部屋に満たさせてくれた。
「分かりました、では失礼します」
一礼し、小悪魔は大図書館から出ていく。同時に溜息をついたパチュリーは何処か複雑な顔をしていた。


 所代わってここはとある森。最近ここに引っ越してきた少女は今日も建築作業に勤しんでいた。
「うーん、何か足りない気がするのよねー」
建築しているのは少女ではなく、小さな人形達。目を凝らして見れば、人形には糸が繋がっており、それは少女の指へと繋がっている。
「そうだ! キノコの栽培場とかあったら魔理沙が喜ぶかもしれないわね」
頭の中で色々と妄想しているのか、その顔は緩みきってニヤニヤしている。そんな少女の元にメイド姿の妖精がやって来る。
「アリス様ですか?」
「え? ええ、そうだけど」
「こちら、パチュリー様からの手紙となっております」
手渡された手紙の封を開け中身を確認する、そこには只こう書かれていた。
【大図書館に来て、聞きたい事があるの】
「こんな事手紙にするまでもないでしょうに、まあ一息つくつもりだったからちょうど良いかしらね」
手紙を届けに来た妖精に行く旨を伝えたアリスは、部屋に戻り身支度を整える。一体私に聞きたい事とは何だろうか? 様々な考えを巡らせながら、彼女は紅魔館へと向かう。


 紅魔館に入るのは至難である、と誰かが言った気がする。昔、大地震を起こそうとしたオオナマズを倒した者が、その門を守っている為並大抵のものは入れないと。ひとたび、無理に通ろうとすれば、戦闘は避けられないと言う。
「まあ、寝ていたら意味無いわよね」
アリスは平然としながら大胆に寝ている門番の横を通っていく。噂に尾ひれが付き、それにまた尾ひれが付いて、大げさになったのだろう。
「えーっと、大図書館に行くにはどうするんだっけ?」
やたら広いわけではないのだが、あまり行った事は無いので道が分からない。案内人くらい用意しておいてほしいと思っていると、目線の先からメイドが歩いてくる。
「アリスさんですね? パチュリー様から聞いております、どうぞこちらに」
紅魔館のメイド長、十六夜咲夜その人である。ここ紅魔館を裏から操っているという噂もちらほら聞かれるほどであるが、実際のところは、自身のお嬢様に忠誠を誓っているメイドという事を、アリスは魔理沙から聞いていたので、特に警戒もしていなかった。
「急な呼び出しに関わらず、よく来てくれましたね?」
「別に構わないわよ」
基本的にアリスは他人には高圧的で、冷めている態度をとる。これが原因でよく一人ぼっちなのだが、当の本人に直す気はないようである。だが、魔理沙にだけはそんな態度を取らないのは、つまりはそういう事であろう。


 手紙を出してから一時間は経っているだろうか? いつまでたってもアリスは来ず、パチュリーは少し苛々としていた。来たら何て言ってやろうか? 少し意地悪をしようか? と考えているとガチャリという音が聞こえる。
「パチュリー様、アリスさんが来ましたよ」
「そうありがとう咲夜。というか遅すぎよ! 一体何をしてい…た、の?」
勢いよく振り返りながら人差し指を突き出したパチュリー。メイドである咲夜の隣には確かにアリスがいた、いたのだが、その格好はどこからどう見てもメイドの格好である。何故どうして? アリスがメイド? え? 夢? ドッキリ?
 何が何だか分からないパチュリーは人差し指を向けたまま固まってしまった。
「えーとですね、ちょっとこれには訳がありまして」
「まさかこんな姿を見られるなんて、なんていう屈辱かしら」
ワナワナと震えながらアリスは、握りこぶしを作っていた。この状況を説明するには少し時間をさかのぼる事になる。というのも、大図書館の道に案内されていたアリスは本来ならもっと早くここに着いていた。しかし、とあるメイド妖精が掃除中にバケツに入った水を思いっきりアリスにぶっかけてしまったのである。
 当然びしょ濡れになってしまったアリスは、服を着替える事になったのだが。
「ですが、アリスさんの着られるサイズの服が私の予備の服しか無くて」
「それで、その格好を?」
「そうよ、流石に風邪は引きたくないからね」
咲夜は申し訳なさそうにアリスに謝りながら、大図書館から出ていった。

「けど、その格好…っふふ」
「なによ! しょうがないでしょ! というか、元はといえばアンタが呼ばなければこんな事にはならなかったのよ!」
顔を真っ赤にしながらアリスは立ち上がり、パチュリーに言い寄る。しかし、その格好はメイド姿であって、その状況がパチュリーを更に笑わせてしまう。
「っ! ふふふ! ちょっと待って、その格好であんまり詰め寄らな、ごほっごほっ!」
「ちょっと、あんた喘息持ちでしょ? だから気をつけなさいよね」
アリスは背後に周り、パチュリーの背中を優しくさする。普段から口喧嘩の絶えない二人だが。それは逆転させれば本音を言い合える仲だからであろう。こういう時には、お互いは優しくなり合えるという事である。
「げほっ! あ、ありがとう」
「全く、それで? 私に聞きたい事って?」
「あ、ああそうだったわ」
落ち着いてきたパチュリーの対面に座り直し、アリスは話を聞く事にした。


 貴女の魔法を教わりたい。最初は何かの冗談かと思ったが、その目が真剣だったので、アリスは茶化す事無く、パチュリーに教えていた。いつもなら教えるなんて事はしないのだが、あまりにも真剣だった為に教える事にしたのである。
「ふう、貴女の魔法って疲れるわね」
「そう? 慣れればこんな事も出来るわよ?」
 そう言うとアリスは、一つの玉を取り出す。それはピンポン玉の様な物で彼女はそれを左右に配置した人形の片方に投げた。
「よいしょっと」
すると、なげられたピンポン玉を右の人形が左の人形に打ち返す、打たれたピンポン玉は左の人形が右の人形へと打ち返し、また元の人形へと戻される。まるで、人形が卓球をしているようである。
「……悲しくならないかしら? それ」
「うるさいわね! 只の見本よ! べ、別に家に一人でいて寂しい時にこんな事をしている訳じゃないからね!」
真っ赤になりながらアリスは反論するが、それでは認めているようなものであった。そんあアリスを見て、自然とパチュリーは笑顔になっていた。
「なに笑っているのよ?」
「別に? 貴女が家でそういう事をやっているのを想像していた訳ではないわ」
「しているじゃない! どう考えても!」


 それから数時間後二人は庭に出ていた、そこには二人以外にも、メイド、門番、使用人、紅魔館の主がいた。どうやら、パチュリーが今日学んだアリスの魔法を披露するとの事で、こうして集まったようである。
「それで、何が出来るんですか?」
「気になりますね?」
「まだ簡単な事しか出来ないのだけれど…人形を動かしてちょっとした事が出来るくらい」
「それでも見てみたいです、パチュリー様の違った魔法も」
門番は待ちきれない様子で、目をキラキラさせながらアリスの持っている人形――クマを見つめていた。一方咲夜は日傘を持ち、主の日陰を作っている。
「それじゃあ見せて頂戴パチュリー?」
主――レミリアの合図と共に、周囲は静かになる。何だか大事になってきて少し緊張してきたパチュリーは顔が強張っていた、そんな彼女を見てアリスは、
「アンタなら出来るわよ、さっきは出来たでしょ? 自身持ちなさいよ。だって、私が教えたんだからね」
変わらずメイド姿のアリスに言われ、笑みがこぼれたパチュリーは自分の中で「よしっ」と言い、気合を入れた。
「じゃ、じゃあいくわね」
パチュリーは目をつぶり、遠くに置かれた人形に向かって手を向ける。アリスとは違い、木符で作った紐で直接自分の霊力を注ぎ動かそうとする。感覚を人形に合わせ、一致させ、自分があの人形に入ったかの様に動かす。先程アリスに言われた事を思い出しながら、集中する。
「ふう…よし! えい!」
パチュリーが目を見開き、手を大きく振り上げると、人形は宙に浮き始めた。
「おお!」
「わあ!」
「凄いですね!」
「あら? やるじゃない」
紅魔館の住人は、その浮かんだクマを眺め驚いていたり、喜んでいたりしていた。
パチュリーはそれから、人形に注いだ霊力を用いて、人形から花びらを出させる――桜、冬には珍しいそれが、風に靡かせられながら宙に舞う。すると、霊力が切れたのか、人形は地上に落ちてしまう。数分の事だったが、そこにいる誰もがその光景に釘付けになっていた。
 ぱちぱちと皆が拍手をしてくれる、パチュリーは笑顔だが、その目からは涙が出ていた。
「ちょっと、何泣いているのよ?」
「私の使った魔法が、初めて誰かを笑顔にしたから…嬉しくって」
アリスは、『全く』といった表情でパチュリーの頭を撫でていた、この子は確かに魔法の腕に関しては私も感心する、けど彼女の魔法は戦う為の魔法が主だった。だからだろうか? 私の魔法を学びたいと言ったのは? なら、教えたかいがあったかな? とアリスは思っていた。
 紅魔館の住人達は皆笑顔で、パチュリーの元へと集まって来た。門番は拍手を続け、使用人は「凄かったです」とパチュリーを褒めちぎる。メイドと主は笑顔を浮かべパチュリーを見つめている。
「ありがとう、アリス」
「な、別にお礼なんていらないわよ。その代わり、今度はアンタのも教えて貰うからね!」
「ふふっ」
「あはは」
桜の花びらが舞う中、二人は互いに笑いあって握手をしていた。
二人は確かに、仲が良い訳ではないのかもしれない。しかし、それはライバルであるからなのだろう。一人の想い人である魔理沙を取り合う事に関しては、いがみ合う事もあるかもしれないが、こうして手を取り合う事も出来るのだと。

「あ! そういえば私の服は!?」
「そういえばそうですね、そろそろ乾いていると思います? …あれ? どうしたの?妖精」
「あ、あのーすいません咲夜さん、実はお客様の服を見習い妖精らしき見知らぬ三人が破いちゃいまして」
「え? 破いた? 一体どういう事なの?」
「よく分かりませんが、私が行った時には既にビリビリのお客様の服があって」
「ビリ…ビリ?」
アリスが茫然とし、口があんぐりと開けている。その様子を見て、パチュリーはまた笑ってしまった。その笑いは門番に飛び火し、使用人、メイド、主へと渡り、遂にはそこにいるアリス以外全員が笑っている。
「わ、笑い事じゃないわよー!」
アリスは空に向かって叫んでいた、端から見れば金髪のメイドさんが叫んでいる様にしか見えないその姿は、確かに笑うしかないものであった。
どうもはじめまして、初投稿となる天狗と言います。
今回はアリスとパチュリーの二人に主軸を置いた話となりましたが
いかがでしたでしょうか?
皆様のお目をお汚しでなければ幸いです
それこそ、この物語を呼んで少しでもクスリとしていただけたなら
それは私の力となります。

咲夜さんの口調等に違和感を感じる方がいるかもしれませんが
すみません、その辺は完全に作者の勉強不足というか
原作では咲夜をあまり使っておらず、その辺りが曖昧なのです。

また機会があれば投稿したいと思います。
それでは、また誰でも受け入れる幻想郷でお会いしましょう。
天狗
作品情報
作品集:
2
投稿日時:
2012/03/02 02:38:25
更新日時:
2012/03/03 09:32:07
評価:
3/5
POINT:
300
Rate:
16.25
分類
アリス
パチュリー
短編
非エロ
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POINT
1. 100 資格トレナーイ ■2012/03/02 23:10:23
何とも微笑ましいお話で御座いました。
飽くなき探求の美徳。
新しい知識の価値。
ああ……なんと美しい…!
思わず笑顔になります。ありがとうございます。
2. 100 名無し ■2012/03/02 23:38:15
随分と暖かな話を書かれるのですね、投稿場所を間違えたなんて事はないですよね。
是非とも、次もお願いします。
3. 100 名無し ■2012/03/03 03:13:21
最近パチュアリにはまっている俺にはこのssは最高だった
>>アリスは、『全く』といった表情でアリスの頭を撫でていた
ここの誤字が不意打ちで笑ってしまった
こういう感じの作品ももっと増えていいんじゃないかと前から思っていたんで
是非また書いて欲しい
4. フリーレス 名無し ■2012/03/03 04:12:54
すまん 二人とも魔理沙が好きって設定だったか
5. フリーレス 天狗 ■2012/03/03 09:41:08
皆さんコメントありがとうございます。
良い評価を頂けて幸いです。
次はこの続きを書こうと考えているのですが
一応リクエストも受け付けています。

誤字は修正しておきました。
二人とも魔理沙が好きという風に感じられるように
書いたつもりです。一応この続きがあるので
そこでハッキリとする筈です。
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