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『花と人形のポイズンテール』 作者: IMAMI

花と人形のポイズンテール

作品集: 3 投稿日時: 2012/03/25 13:38:46 更新日時: 2012/03/25 22:38:46 評価: 1/4 POINT: 190 Rate: 8.60
新徒・産廃創想話22集で公開されている拙作、哀れな哀れな毒人形のifストーリーに当たる作品になります。
アレな文章力に加えてとても長いです、
http://thewaterducts.sakura.ne.jp/php/waterducts/neet/?mode=read&key=1291863656&log=22


















「もしもしお花の妖怪さん?」

「………何かしら?」

太陽の畑の幽香の図上に現れたスキマから顔を出すスキマ妖怪、八雲紫に対して幽香はあまり会いたくない相手に使う笑顔で答えた。

「ちょっとお話があるのよ」

「上から話す相手とは話せないわ。おとといきなさい」

幽香は笑顔のまま答える。

「あら、ごめんなさい」

するとスキマから紫が飛び出して、花を踏まないように地面に降り立った。

「む…」

いつものこの妖怪ならこんなことはしない。何かあるのだ。
幽香は真剣な顔を作った。

「メディスン・メランコリーのことよ」

予想だにしない名前が紫の口から飛び出した。

「あの子がどうしたの?そっとしといて欲しいわ」

魔理沙とアリスから性的な暴行を受け、塞ぎ込んでいたはずだ。魔理沙を慕う者から嫌がらせも受けているらしい。

「ええ。そのことなんだけど、



彼女を処刑するわ」



「──何の冗談かしら?」

幽香の目に殺気が帯びる。
メディスンを処刑?なぜ被害者が処刑されなくてはいけないのか。

「魔理沙を慕う娘は多いの。その中に博麗の巫女、霊夢がいるのよ」

「だから?」

「霊夢が人里、正確には上白沢慧音にメディスンを処刑するよう圧力かけたの。それでさっき慧音が折れたわ。
私達がメディスンを拐ってくる手筈になってるの」

「そう──」

幽香はゆっくりと傘を構えた。

「あなたから私に殺されにくるなんていいことね」

その殺気は、ただの人間なら殺さんばかりのものだが、紫はたじろぎすらせずに首を振った。

「私は拐うなんて言ってないわよ。──藍」

紫が再びスキマを展開する。すると、そのスキマからその件のメディスンを抱き抱えた紫の式、八雲藍が現れた。

「眠らせてあります」

「ご苦労様。
幽香。しばらく彼女を保護しなさい」

と、紫はメディスンの金髪を一本だけ引き抜いた。

「これでメディスンのコピー、身代わりを作るわ。それを処刑してもらうの。記憶と人格はコピーする必要ないから簡単に出きるし、どうとでも誤魔化せるわ。じゃあお願いね」

藍がメディスンを差し出す。幽香はメディスンを抱き抱える。なんて軽さだろう。メディスンは本当に小さな女の子なのだ。

「じゃあね」

それだけ言い残して紫はスキマへと消えていった。

















メディスンの意識が戻ったのは夜になってからだった。

「………幽香?」

メディスンは幽香のベッドに寝かされていた。たしか自分は鈴蘭畑に居たはずだが──

「幽香の家だよね?なんで私幽香の所にいるの?」

ベッドから起き上がり、部屋を調べる。調度品から幽香の部屋に間違いない。

「メディ!」

そんな気配を悟ってか、部屋の外にいた幽香がドア越しにメディスンに話しかけた。

「メディ!起きたの?開けるわね」

「あっ、幽香?いいよ」

幽香はメディスンのいる自室のドアを開いた。

「幽香……何かあったの?私なんで幽香の所にいるの?」

「………」

やはり最初にメディスンが訊いたことはそれであった。幽香は言い澱んだ。本当のことを言うべきだろうか。

「前の魔理沙とアリスのこと?それは私は悪くないもん。違うよね?」

「メディ。よく聞きなさい」

幽香はメディスンにありのままに全てを話した。
メディスンの処刑を博麗の巫女が請願したこと、人里の守護者がそれを庇おうとしたこと、やがて処刑されることになったこと、それを良しとしないスキマ妖怪が式を使ってメディスンを拉致したこと、だから変わりにメディスンのクローンが処刑されることになったこと───

「メディスン。だから、しばらくはあなたは外に居れないわ。だから私と暮らしましょう」

幽香はメディスンに目線を合わせてそう締めくくった。だが──

「どうして?」

メディスンの口からは涙と共にそんな言葉が出てきた。

「メディ──」

「どうして、私が処刑されるの?私、悪いことしてないよ?」

メディスンはポロポロと鳶色の瞳から涙を溢す。

「悪いのは、魔理沙とアリスだもん!」

「うん………それは私はよくわかってるわ」

「どうしてよ……どうして!そんなに私が悪いことしていたの!?人形を解放するのがそんなにダメなことなの!?何かにつけて始末されなきゃいけないようなことなの?」

「……」

幽香は何も言えない。

「……私帰る!じゃあね幽香」

「ダメっ!もし誰かに見つかったら……」

「私悪いことしてないもん。処刑されるいわれなんてないから!」

メディスンは幽香を押し退けて、寝室から出て玄関のドアを開けた。

「メディ!」

幽香は慌てて外へ飛び出したメディスンを追いかける。

「メディ!待ちなさい!」

「こないで!」

そんな二人を闇に溶けかけた向日葵だけが見つめる。否──

『カシャッ!』

見つめていた者はもう一人いた。

「──えらい写真が撮れましたね」

逢魔の中で写真機を構えた少女はそう呟いた。

「!!」

メディスンが自らの姿を撮られたことにより立ち止まり、幽香に追い付かれる。

「あんたは……!」

「どうも。清く正しい射命丸です」

烏天狗 射命丸文が幽香と相対する。

「驚きですね。人里でついさっき処刑されたはずのメディスンさんがこんな所にいるとは」

「………その写真はどうする気かしら?」

幽香が文を睨むが文は意に介して風もなく答えた。

「もちろん、新聞に載せますよ。これは大スクープですから」

「………」

幽香の目に殺気が宿る。この天狗を始末してしまおうか。死体なんて焼き付くして残さなければいい。

「言っておきますが、写真を撮った以上は私とカメラを始末しても無駄ですよ。サイコグラフィストが烏天狗の中にいますから。
それに、私を殺したら制裁を受けますよ」

「ぐっ……!」

不適な文。幽香は唇を噛んでうつむく。

「もう行きますね。印刷間に合わなくなるので」

「……あなたも、メディが悪いと思ってるの?」

一度背を向けた文に幽香はそう訪ねた。

「はい?」

「メディが処刑されることになった経緯は知ってるのでしょう?」

「………ええ。魔理沙さんとアリスさんを殺害した。と」

「メディがただそんなことをすると思ってるの!?」

「妙なことを言いますね。風見幽香さん」

文は幽香の正面へ降り立った。

「妖怪が戯れに人間を襲って場合によっては殺害する。これは何のこともない普通のことです。
あなたは私と同じく人里とは有効な関係を築いていますが、それはお忘れなきよう」

「……」

「いいですか?もう行きますよ」

「待ちなさい!まだ話は終わっていないわ!」

幽香が文を怒鳴り付ける。

「……なんですか他には」

すると幽香は文の前に跪いた。

「何をなさって──」

そして身体を折り曲げ、手と頭を土の地面にすり付けた。

「ちょっと幽香さん!?あなた──」

「──お願いします!写真を……写真を乗せないでください!」

最強とまで歌われた妖怪が、一介の烏天狗に土下座したのだ。

「止めてください!そんなことしても──」

文は幽香を起こそうとする。

「止めないわ。あなたがその写真を取り消すまで止めない。だから写真を乗せないで!」

土下座したままの大勢で懇願する幽香。文もやがて幽香から離れた。

「──はぁ、わかりました」

文が写真機からフィルムを取り出し、それを引き延ばした。その音で幽香は顔を上げる。微笑む文がそこにいた。

「これでいいですか?とは言ってもカメラを壊すようなことは出来ませんが。
フィルムは適当に燃やすなりしといてください」

「あなた……」

「あなたのような方に土下座されては仕方ありませんよ。それにまだ私は死にたくありませんし」

「……ありがとう。本当に」

「いえ、いいですよ。はたてにも伝えておきますし、基本的に天狗は人間と有効な関係を築いても肩入れはしません。でも他の広報の烏天狗には注意してくださいね?あまり親しくない方には強く言えないので」

「ええ…ありがとう」

と、射命丸は翼をはためかせて夕暮れの闇に溶けていった。
そこで幽香は気付いた。

「メディ……?」

メディスンが居なくなっている。
「メディ!メディ!」

先ほどのやり取りで二人とも目を離してしまっていた。メディスンは錯乱してどこかへフラフラと行ってしまったらしい。

「メディ……!」

幽香は向日葵の迷路の中へ飛び込む。まだ遠くへはいっていない筈だ。もしかしたら空を飛んだのかもしれない──いや、そうなればさすがに自分でなくとも射命丸が気付く筈だ。
だが、地上のメディスンを空から探すとして太陽の畑にいたら小柄なメディスンは見つからない。加えて今は夕暮れである。

「メディ!メディ!」

幽香は向日葵を傷つけないように掻き分けてメディスンを呼ぶ。太陽の畑に幽香の声が響く。

「メディ……!」

十数分はしただろうか。だがメディスンどころか自分以外の気配すらない。絶望し、膝を折ろうとしたとき、背後からいきなり声をかけられた。

「……幽香?」

「!?」

振り向いたらそこには、Yシャツにネクタイ姿の宇宙兎、鈴仙・憂曇華・イナバがいた。
彼女の胸には探していたメディスンが抱き抱えられていた。

「メディ!」

「ええ。八雲紫から訊いたわ。貴女が無理なら永遠亭で保護するつもりで来たんだけど錯乱してたみたいだから瞳術で眠らせたわ」

鈴仙はそう答えてメディスンを幽香に差し出した。

「幽香。メディスンを永遠亭で保護するわ。あなたもわかるでしょう?今のメディスンは危険よ。私に攻撃してきた」

「そう…わかったわ」

仕方がない。自分ではメディスンを保護出来ない。幽香はメディスンを抱き抱えた。

「見つかったらまずいから、ちょっとステルスするわ」

鈴仙が眼から赤い波を放つ。

「これで私達は他の人から見えない。でも音は聞こえちゃうから、飛んでいくわ」

幽香は黙って頷き、三人はそっと飛び上がった。

















数日後。

「メディスン。ご飯だよ」

メディスンの病室に、竹林の兎の長、因幡てゐが盆を持ってきた。

「今日は鱚と山菜の天ぷらと芋の煮転がしと麩の味噌汁だよ」

「……」

上体を起こしたメディスンはてゐを見つめる。

「自分で食べる?」

「……」

「わかった」

てゐは器用に天ぷらを橋で切ってメディスンの口元に運んだ。メディスンはゆっくり咀嚼する。

「どう?」

「おいしい…」

小さな小さな声。

「よかった!てゐちゃん付きっきり看病オプションあーん付きなんて3両はとってるよ!友達価格で無料にしたげる!」

「ねぇてゐ」

「ん?」

「私、いつ出られるの?」

「……」

明朗なてゐもその問いには顔を曇らせた。

「スーさん壊されちゃったし、みんな私を殺そうとしたし、もう嫌だ……!」

「メディ……」

「人形だから、人形のくせに大それたことするから……」

「メディ……ご飯冷めちゃうよ」

「うん」

てゐはメディスンに夕食を食べさせ終えると、それじゃ。と声をかけて病室を後にした。

「あっ、てゐ!」

廊下で人里に薬を売りに行ってた鈴仙と会った。

「おつか鈴仙。人里はどう?」

「うん。八雲紫がメディスンそっくりの式を作ったから問題はないみたいみんなメディが死んだと思ってるけど…。
あ、そうだお土産。てゐの分」

鈴仙が紙の包みを渡す。

「お稲荷さんだって。橙が来たらお礼言いなさい」

「はーい」















「どうもこんにちは」

妖怪の山辺りで修行をしていた八雲の式の式、橙に一人の烏天狗が声をかけた。

「だれ?」

「清く正しい射命丸です!」

「橙です」

疲れているため橙の反応は薄い。

「何か藍様か紫様に用あるのですか?」

「私はあなたにちょっとお訊きしたいことがあるのですよ」

「私に?あのー、私はまだ全然結界とか式とかわからないから……あんまり面白いこと話せないですよ」

「いえ、橙さんのことを記事にしようかと思いまして。」

「私を?」

「はい。結構天狗の間では話題になってるんですよ!」

主に外の世界の電脳街を歩いても違和感のない風貌と言動の天狗に。とはもちろん文は言わない。

「じゃあとりあえずいくつか答えて「私が先よ」」

第三者が突然文を遮った。

「私が先よ。いいでしょ?」

その突然空から飛んできた第三者、博麗霊夢はいきなり橙の頭の猫耳を掴んで恫喝するように訊いた。

「メディスン・メランコリーの居場所、知らないかしら」

「「!!」」

橙と文はその名前に反応してしまった。

「……この前処刑され──」

「て、ないのよ。こっそり死体を調べたけど、紫が複製したメディスンの人形だったのよ!
もう処分されてるからそんなの証明の仕様がないけどね!」

霊夢は耳を引っ張る手に力を込める。抵抗しようにも力が全く入らない。

「や、やめてよ……知らない───あぎっ!?」

霊夢は橙の顔面に拳をねじ込んだ。

「痛いよぉ!やめてぇっ!」

「霊夢さん!何をするんですか!」

たまらず見兼ねた文は霊夢と橙の間に割り込む。

「何よ。まだ質問は終わってないわよ」

霊夢は文を振り払って橙の腹部を殴打した。

「ほら、神社に連れ帰って熱湯でもかけられたいのかしら?」

「ぐっ……知らない!知らないったら!」

「ちょっと痛め付けてやる必要が───っっ!」

文は真空刃を放ち、霊夢の橙を掴む手の甲を切り裂いた。解放された橙が霊夢から離れる。

「………ふーん。いいのそんなことして。天狗と博麗の繋がりはあんたもよくわかっているんじゃないのかしら?」

文を睨む霊夢。

「……ははは、見逃して頂けますかね?傷は残りませんよ」

「………いい死に方出来るとは思わないことね」

そう捨て台詞を残して霊夢は日が暮れ始めた空に飛び去っていった。

「……さ、居なくなりましたよ」

「……ありがとうございます。文さん……」

「痛む所はありませんか?」

「はい……なんとか」

橙に駆け寄り文は木綿のハンカチを渡した。

「酷いことするもんですね…」

「……あっ!」

橙がある一点を指差した。そこは彼女の主人公が買い物袋を下げてたっていた。

「橙!今日も修行をしていたのか。ずいぶん傷だらけだぞ。顔なんて殴られたみたいに腫れてるじゃないか」

式に駆け寄る八雲藍。

「あっ、実は「ごめんなさい。転んじゃったんです」」

文を遮って橙は藍に説明した。隠したのだ。

「む……そうか。気を付けるんだぞ。今日は先に帰ってなさい」

「はーい」

橙は藍に言われた通り素直に八雲の巣の方へ帰っていく。それを見届けたあと藍は手頃岩へ腰を下ろした。

「なぁ、烏天狗」

「ひゃっ!」

あまり穏便でない声で話しかけられ飛び上がる文。

「別にとって食うつもりはない。紫様より私の方が胸が大きいと新聞に書いたことは把握してるがどうこう言う気は今は無い」

「……はぁ」

「……お前、親はいるか?」

なんだこの質問は。と文は面食らうが一応正直に答えた。

「いるんでしょうけど親の顔は覚えてないですね……
烏天狗は物心つく前に親と離れますから家族間の繋がりはありません。白狼天狗はどうかわかりませんが」

「そうか。
……前に私の主人に言われたことがあるんだ。私は橙に大して母のように接していると。たしかに私はそのように接していると言う自覚があった」

「……」

「ならば私は、母親失格だ………!」

ポタポタと藍の膝の上の握りこぶしに涙が落ちた。

「見ていたよ。霊夢のこと。橙を殴っていた。メディスンの事を聞いていたことも聞こえた。
……なのに私は、止めに入らなかった!怖かったんだ!あの巫女が……
紫様すら持て余す力を持った霊夢が怖かった……」

「あなたの私は、立場が違いますから……八雲紫さんの耳にあなたが危害を加えたことが入ったらあなたはどうなるかわかりません。だから、あなたの行動は正しかったと思いますよ。あなたが居なくなったあとの橙さんのことを考えると」

文はそう言って藍に背を向けた。

「いい母親か、は私はわかりませんが、いい主人だとは思いますよ。それでは」

「待ってくれ」

藍は気を利かせて立ち去ろうとした文を呼び止めた。

「……はい」

「礼を言う。何かあったらいつでも言ってくれ」

いつも通りの藍の凛々しい声を聞きながら文は思う。
その何かは近いだろうと。
















「夢美ー?入るよー?」

「お邪魔するよ」

人里の外れに停めてある夢美の船に二人の来客が現れた。諏訪子とにとりだ。

『うん。入っていいわよ』

どこからか夢美の声がしたため二人は長い廊下を歩く。

産業開発が進む妖怪の山では人手があるのだが技術がなかった。停滞が始まった頃にそこに現れたのが夢美だった。

『技術なら渡してもいいわ。軸が違うから競争になんかならないし。でもそのかわし妖怪のことを教えてくれないかしら?』

産業開発の指揮を取る神奈子と諏訪子はこれを二つ返事で受けた。こうして夢美と妖怪の山の交流が始まったのだ。

「……なんだろうねこれ」

諏訪子は手に持った茶封筒を眺めて言った。船の船体に立て掛けてあったのだ。

「夢美宛てのものでしょう?開けるのはまずいかと」

「そうね」

二人はやがて夢美の私室についた。

「よう夢美」

夢美はブラウス姿で魔道書を読んでいた。

「お邪魔されます」

魔道書を閉じて夢美は二人と向き合った。

「そういやちゆりの姿が見えないけど」

「うん。ちょっと前から行方不明なのよ……」

夢美が答える。

「でもあいつはあれで結構つよいし賢いから、その内フラッと帰ってくるわよ。そのときはお仕置きね」

「…そう。
あっ、そうだこれ」

諏訪子は夢美に茶封筒を見せた。

「外にあったから夢美宛てだよ。差出人も何も書いてないけどさ」

「あら、本当?」

夢美は諏訪子から茶封筒を受け取って開いた。中からは一本のビデオテープとさらに小さな封筒があった。

「…なにこれ」

「再生してみようよ」

「その前に封筒ね」

夢美は封筒を開ける。出てきたのは一枚の地図だった。位置的には神社と人里の間ぐらいの場所だろうか。そこに点が打ってある。

『夢美だけで来るように。16:00〜18:00』

点の下にはそう書いてあった。

「………?」

「なんだろう。心当たりないの夢美は」

「全然。諏訪子。再生お願い」

諏訪子がビデオテープをデッキに挿入して、リモコンで再生ボタンを押した。






『がぁぁぁぁぁぁぁぁっ!いぎぃぃぃっ!』

三人に飛び込んで来たものは果たして絶叫だった。

『うぁぎっ!ああああああっ!』

テレビの中で顔を奇妙な面で隠した何者かに全裸にされて磔にされたちゆりが焼けた鉄棒を全身に押しつけられていた。

『あぐぅぅっ!やめろぉっ!ぎゃあぁぁぁぁぁっ!』

皮膚が溶かされ、煙が立ち上る度にちゆりが人間のものとは思えない悲鳴をあげる。他にもちゆりの身体には針を撃ち込まれた穴や鞭で打ちのめされたと思しき裂傷が刻まれている。








「なんだよこれ……!」

最初に声をあげたのは諏訪子だった。

「ちゆり……!」

夢美がガタッと立ち上がる。にとりはそれを見てテレビを消そうとしたが諏訪子はリモコンを押さえてそれを制した。

「ちょっと!」

「……だめ。手がかりがあるかもしれない」

にとりはそう言われて手を引っ込めた。夢美は口元を押さえながら駆け出して部屋を後にした。

「あっ、夢美……」

「……諏訪子様も早苗がああなったら同じようになるだろ?」

「…そうね」

テレビの中のちゆりの肌は既にズタズタに焼け爛れ、無事な箇所がほとんど残っていない。ちゆりが意識を失うと何者がちゆりに何かの薬品を注射し、意識を覚醒させる。

ブツン

10分程映像が流れた所で唐突にテープが終わった。嫌な空気が室内を流れる。

「……ねえ。この地図」

諏訪子は先ほどの地図を示した。

「夢美だけで来るようにって……」

「夢美に行かせるしかないわよ」

と、諏訪子。

「わかってる。すごく危険。こんなことをする送り主だから夢美にも危害があるかもしれない。
だからって、このままこれを無視してどうにかなるなんて話もないわよ。………そうでしょ?夢美?」

にとりが振り向くとソファーの後ろに夢美が立っていた。だが顔色は真っ青で目には涙が浮かんでいる。

「……行くわよ。今から。時間内につきそうだし」

夢美がそう絞り出す。

「大丈夫なの?私達もついてくよ」

「ダメだよにとり。下手なことしたらちゆりがそのまま殺されちゃうかもしれない。すくなくともこんなことするってことはちゆりは生きている」

「……マント。とってくれる?」

にとりは壁にかかっていたマントを黙って取って夢美に渡した。

「じゃあ、行ってくるから」
















「約束通り来たわね」

指定された場所につくと後ろから声をかけられた。この声には聞き覚えがあった。

「紫と違ってあんまり上手くないから時間がかかるわよ」

「……巫女ね!?」

「振り向きざまに撃つのは勝手だけど、私がその不意打ちで殺せるとは思わないことね」

夢美が振り向いた先には霊夢がいた。

「それに私が死んだら、人質はビデオの中程度のことじゃ済まないわよ」

「ちゆりを返して!」

夢美は霊夢の肩を掴み怒鳴り付ける。瞬間、夢美は体が浮き上がる感覚に囚われた。

「………!?」

気づいたら夢美は霊夢と共に薄暗い何処かの空間にいた。洞窟の中だろうか。冷たい岩肌に囲まれている。

「現世から浮いた亜空間よ。誰も干渉出来ないわ」

「……ちゆりが居るのね!?」

「ええ」

やがて二人は奥の鉄格子の前についた。そこには……

「ちゆりっ!」

鎖に繋がれた全裸のちゆりがいた。

「ちゆりっ!ちゆりぃっ!」

鉄格子を叩く夢美。全身には鞭による裂傷と焼きごてを押し付けられた跡が痛々しく走っている。

「うるさいわね。死んでないわよ」

「ちゆりを解放して!」

「条件付きよ」

「呑むわ!言いなさい!」

夢美は霊夢の肩を砕かんばかりに掴む。

「どんなことでもするわよ!ちゆりと代わってあげても……!」

「やめろっ!」

そのとき、ボロボロのちゆりの怒声が響いた。

「やめるんだ。ご主人様……
霊夢はご主人様に殺しをさせようとしている!」

「るっさいわね……」

夢美の手を振り払った霊夢はちゆりに針を投げつける。霊力を込めた針はちゆりの下腹部に深く刺さった。

「びぎぃぃ!」

「やめてっ!
………誰を殺して欲しいのよ!八雲紫?八意永琳?」

「やるの?」

「当たり前よ!ちゆりを解放してくれるならなんでも……」

すると霊夢は懐から写真を取り出した。癖のある金髪の少女が写真の中にいた。

「メディスン・メランコリー。以前処刑された筈だけどまだ生きてるわ。紫あたりが細工したんだろうけど」

「この子を、殺せばいいのね?」

「ええ。私の占いによると永遠亭にいるわ。私がやってもいいんだけど、竹林全体が結界に守られてる。月の都製だと思うわ。ともかく私じゃ破れないの」

「やめてくれっ!」

するとまたちゆりの鋭い声が響いた。

「ご主人様にそんなこと出来るわけないだろ!」

「でもあの時夢美は殺したじゃない」

霊夢はそう返して壁に寄りかかった。

「あれとは勝手が違うだろ!」

「……ちゆり。あなたを救うためですもの。殺すわ」

「バカご主人!やめろっ!
もし殺したら、解放されても真っ先にご主人様を殺してやるぞ!」

「ちゆり。私は大丈夫だから………!
霊夢。準備させて。明日やるわ」

夢美はそこで霊夢に向き直る。

「グッド。楽しみに待ってるわよ」

















「飛べないって不便ねぇ」

一人の大天狗に連れられて永琳は雨の降りしきる妖怪の山を歩く。急に山の天狗からかなりの額での仕事の依頼が入ったのだ。浪費癖がある永琳のために永遠亭の経営状況は決して良好ではないため、永琳は仕事を請け負った。ある者の処刑の立ち会いとのことだ。

「今飛んだら大天狗の対空真空波でバラバラにされますよ。厳戒体制を敷いてますからね」

大天狗が永琳の言葉に応える。

「飛んでる者はとりあえず落とすってことかしら?天狗の癖に野蛮ね」

「私が決めたことではないですよ。これは極秘で行われる実験ですから広報の天狗に知られて流されても困るのでね」

「へぇ。信用していただいてるのね」

───パシャッ!

そのとき、茂みから激しい光とそんな音が響いた。

「!?」

永琳はとっさに傘を放り出して和弓を構えた。

ドサッ──

しかし大天狗の男はその場に力無く倒れた。まるで──

「魂が抜かれたかのようね。
何が目的?私の命を狙うならそれより無駄なことはないわよ」

光が飛んできた位置にあたりをつけて矢をつがえる。

「射命丸文?言っとくけど薬を使えばこの辺りを薙ぎ払うことも出きるわよ。騒ぎになって大天狗を殺したとなったら大変よ。
出てきなさい」

すると襲撃者は観念したかのように木の陰から姿を表した。すっかりずぶ濡れになった紫を基調とした装いのツインテールの烏天狗、姫海堂はたてだ。

「……何が目的なのかしら?」

「……お願い。引き返して」

はたては永琳に向かって初めて口を開いた。

「引き返して。って私に振られた仕事ってそんなにヤバいものなのかしら?処刑の立ち会いを頼まれたんだけど?」

「………その処刑されるのが、文に、射命丸文になる予定なのよ!」

「あの烏天狗が!?どういうことかしら?」

どうやら深い何かがあるようだと永琳は追求する。

「文が少し前でっち上げで、大天狗共に捕まったのよ!天狗の裁判も無しに死刑になって……その方法が新しいものだから文はその実験台になったのよ!」

「まさか、射命丸はその実験の為に殺されるの?」

はたては首を振る。

「それはないと思うわ。天狗社会に都合悪いことをしたんじゃないかしら……
八意永琳。あなたが行かなきゃ文の処刑までに時間が出来る。そうすれば文は助かるかもしれないの」

「……その処刑法ってわかるかしら?

「……イスに縛り付けて、電気を流して感電死させるって聞いたわ」

電気椅子か。月にもそんな処刑法があったと永琳は思い出す。

「お願いします!文を……助けて!新薬実験や生体実験に私を使ってもいいから……」

「しないって……」

どんなイメージ持たれているんだ。と永琳は肩を落とした。

「文は本当に悪くないの!あの巫女が文を嵌めたのよ!文から聞いたの!いつも妖怪の山に修行に来てる妖獣を助けただけなの!」

「なんですって?」

霊夢が文を嵌めた。つまり、文がこうして死刑にかけられることになったのは霊夢の仕業から来ているということだろうか。

「その妖獣って、八雲の式の式のことよね?」

「そう……
でも、私が引き返したら彼女が助かるって、具体的な案はあるのかしら?」

永琳はそこで弓の構えを解いた。

「霊夢の圧力で彼女は殺されるんでしょう?仮に今私が引き換えしても、明日、ううん、今日中に殺されることも考えられるわ」

「……」

そう言われてはたては黙り込んでしまう。たしかにその通りだ。先ほどは文が助かると言ったがそんな筈はない。

「……私を信じてくれるなら、貴方が変わりに案内なさい?」

永琳は薬瓶を取り出して大天狗の男にかける。たちまち男の死体が溶けて気体と混ざってゆく。

「私なら彼女を助けることが出来るわ」

「でもっ!」

「良く聞きなさい。処刑の立ち会いということは死ぬ寸前の射命丸に触れる機会があるはずよ。つまり、電気を流す椅子に縛りつけられた射命丸にね。その時に暴れるのを防ぐための筋肉弛緩剤だと偽って彼女にする毒薬を注射するわ。そのあと電気を流されるショックで彼女は息を吹き返すはずよ。そうしたら今度は仮死状態にする薬品を打ち込むわ。彼女が埋葬されたら、あなたは彼女の『死体』を永遠亭に持ってきなさい。蘇生手術をするわ」

「そんなむちゃくちゃな!」

声を上げるはたて。

「……たしかにむちゃくちゃもいい所よ。成功率は五分あるかないか」

「ふざけないで!」

「でも、このままじゃ十分殺されるわよ間違いなく。
だから私に賭けて?───」













時は遡り迷いの竹林。

「たくさん採れたね!」

竹林の素兎が籠一杯の筍を背負って隣を歩きながらメディスンに言う。

「うん。もう暗くなってきたし、雨がふりそうだから帰らない?」

「そうしよっか」

二人の素兎はメディスンを間に挟んで永遠亭へと向かう。

「今日はエイリン様が居ないからあんまり筍料理には期待出来ないねー」

「えっ、そーなの!?なーんだ」

「うん。妖怪の山に用があるってさ」

「輝夜も鈴仙もいるから大丈夫だよ!幽香もいるんだし!」

そう言うメディスンの鼻先に水滴が滴り落ちた。

「雨だよ!」

「大変!帰らなきゃ!」

二人の素兎は走り出すが、メディスンはなぜか動こうとしない。

「メディちゃん?」

「……ねぇ?ここって人が入ってこれない所だよね?」

メディスンは素兎に訊いた。

「うん。エイリン様とカグヤ様の術でそうなってるよ?」

「………じゃあ、あいつは何?」

「……!」

メディスンの指差した方向を慌てて二人の素兎が見ると、そこには一人の女が立っていた。赤いマントに赤い髪の見たこともない女。手には何か小さな物が握られていた。

「うそっ……!気配なんてしなかったのに……」

「あなたがメディスン・メランコリーね」

赤い髪の女が右手の塊をメディスンに向ける。

「っっ!」

その物体と女から放たれる気配を察知して、赤い髪の女に向かって素兎は体当たりをかました。
物体から放たれた光弾が僅かに反れてメディスンの頭部のすぐ横の竹の一部を消失された。

「逃げてっ!」

「メディちゃん!」

もう片方の素兎が動けないでいるメディスンを引っ張って逃げ出す。

「邪魔しないで!」

赤い髪の女が光弾を素早く二発、体当たりした素兎の脚部を撃つ。

「うぎっ……!」

すぐぬ踞る素兎を蹴り倒してメディスンを追う。

「……メディちゃん!一人で逃げて。食い止める!」

素兎は立ち止まって赤い髪の女を見据える。

「えっ……!」

「あいつの狙いはメディちゃんだから。永遠亭まで逃げればカグヤ様とてゐ様がいるから!」

そして服の下から薬品が入った試験管を取り出す。

「早く!」

「……うん」

メディスンは激しくなり始めた雨足の中、永遠亭へと走り出した。

「あんたの相手は私だよ!」

素兎が赤い髪の女に向かって試験管を投げる。が──女はそれを難なく空中で掴んで受け止めた。

「……なるほど」

そしてそれを上へ高く投げて光弾を撃った。すると爆発音と共に試験管がはぜた。

「浅知恵ね」

光弾が素兎の大腿部を貫く。

「いぎっ……」

「目立つ色で助かるわ」

赤い髪の女は緑の竹の中でメディスンの服の色を追う。

「あっ………」

やがてメディスンは泥濘に足を取られて転んでしまった。すかさず赤い髪の女はメディスンの側まで近寄った。

「手間かけさせたわね」

「やっ、やめろっ!」

メディスンは転んだ体勢のまま毒霧を放った。しかし女はそれにまかれても平気な顔でいる。

「あなたを始末に来たのよ。対策してないはずないじゃない」

「あっ、あっ……」

「しかも空も飛べない事情もある。詰みよ。
じゃあ、死んで」



「刻よ止まれ!」

刹那、そんな声が聞こえたと思ったら、メディスンは泥濘から消えていた。

「なっ!?消えた!?」

「やってくれるわね。岡崎夢美ぃっ!」

「っ!」

声がした方へ光線銃を向けるが、光線銃はその声を発した人物の傘によって粉々に砕かれた。そしてそのままうつ伏せに組み伏せられ、マントを剥ぎ取られる。

「もう大丈夫よ。メディスン」

一方メディスンは輝夜によって服が汚れるのも躊躇わずに抱きくすめられていた。

「因幡、てゐの方が爆発音が聞こえたって言ったから幽香とその方向に行ってみたんだけど、間に合って助かったわ。久しぶりに時間止めちゃった」

「輝夜ぁ……」

メディスンも輝夜を抱き返す。

「さて、覚悟はいいかしら?」

幽香は拘束を解いて夢美を無理矢理立たせる。

ゴッ……!

幽香は拳を固めて夢美の左頬にそれをねじ込んだ。

「びぎっ!」

「まぁ、死なない程度にはしてあるわよ。楽には死なせないから」

今度は夢美の下腹部、子宮の辺りを打ち据える。

「どう?痛いでしょ?痛いようにやっているんだもの」

「や、やめて……やめてください……」

「嫌」

鳩尾に拳を突き入れる。

「たっぷり可愛がってあげるわよ。岡崎夢美……!」
















「……何かしら?」

深夜、妖怪の山での射命丸文の処刑から帰った永琳は永遠亭の近くの一本竹に何者かが上半身裸で縛り付けられているのを見つけた。

近寄ってその何者かが岡崎夢美であることがわかった。

「………たす……けて」

まだ意識があるらしく、永琳を見つけると夢美は弱々しく助けを求めた。
大きな眼が映えていた小さな顔は殴られて見る影もなく腫れ上がり、腹部にもいくつもの殴打の跡があった。永琳は夢美を竹に縛り付けてた麻縄を解く。

「立てる?」

「ぅく……無理……」

永琳は肩を貸して永遠亭の樋に通し、雨戸を開けた。

「あっ、師匠!」

すると、偶然雨戸の前を通りがかった鈴仙に声をかけられる。

「毛布持ってきてあげて。栄養剤と……救急箱」

鈴仙は一分後、言われた物を持ってきた。

「幽香ね?」

永琳が夢美に毛布をかけて訊いた。

「……はい」

「とりあえず、どういうことか説明──」

「私がするわよ」

突然襖が開き、Yシャツと下着だけの幽香が現れた。

「その小汚ないボロクズのことでしょ?」

幽香は事の顛末を話した。それを受けて永琳は夢美に訊いた。

「なぜメディスンを狙ったの?と、いうより見張りの兎や私と姫の術を掻い潜ってどうやって竹林に入ったの?
──は、あなたの科学力なら無理じゃなさそうかも」

「……ちゆりが、人質にとられてて……」

夢美は話し始めた。

「ちゆりが捕まって、メディスンを殺さないとちゆりを殺すって言われたから……どうすることも出来なくて……
ちゆりは拷問されてて、痛そうで……」

「……霊夢ね?」

永琳が訊く。

「霊夢がちゆりを拉致してるのね!?」

「………うん」

「だからってね、私の友人に手をかけたことは許せないわね。
永琳。まさか許す気?」

幽香が永琳に向かって訊くと、永琳は頷いた。

「憎むべきは霊夢よ」

「………ちっ、竹に縛り付けずに殺しときゃ良かったわ」

悪態をつく幽香。

「泊まってくかしら?個室用意出来るわよ見張り付きで」

「……いらない」

「じゃあ着るものだけでも」

「それもいらないわ。
別に、殺してくれてもいいわ」

「何だって?」

幽香の目に殺意が宿る。

「これでちゆりを解放する手立てがなくなった。ちゆりは殺される。ちゆりが死んだ世界でなんて生きていけないわ」

「じゃあお望み通りぶっ殺してあげるわよ。ハラワタ掻き出してやる!」

「やめなさい!」

永琳が振り上げられた幽香の手を掴む。

「早く行きなさい!」

夢美は闇の竹林を駆け出した。直ぐに背中は見えなくなる。

「……ちっ、ここに匿われてるメディスンに免じて許してあげるわ」

「ちゆりは殺させないわ」

永琳は静かに言った。

「地上人の一番邪悪な姿よ。弱みにつけこんであんなこと。しかも自分は手を直接下さない。許せないのよ」

「でも師匠。その、ちゆりの居場所なんてわからないし、見つかったらそれはきっと殺されてる時だと思います。蓬莱の薬ですら完全に死んだを生き返らせることは……」

「心当たりがあるわ。
もうこうなったらあの連中の力を使うわ」

永琳は決心したように言った。

「博麗霊夢を暗殺する──いろんな事のためにね」















それから数日後、河城にとりが失踪した。

そんな噂が人里及び妖怪の山を駆け巡った。

「天狗様もわからんならあたしもわからんよ」

こちらに流れ着いた朽ち果てた装甲車とにらめっこしながら河童の女が答える。

「どんな細かい情報でも構わないんです!最後に見かけた日とか話してたこととかでも!」

「わからんね」

「お願いします!にとりは私の一番の親友なんだ!」

「わからんといったのは天狗様あんただよ。一番の親友すら行き先を知らんのにあたしらにわかるはずないってんだ」

河童の女はつっけんどんに犬走椛にいい放った。

「……お邪魔しました」

途方に暮れて飛び立つ椛。何人もの河童ににとりのことを訪ねて回ったが情報らしいものは全くない。

「どこに行ったんだ──!」

そのとき、椛の千里眼があるものを捉えた。

「……何かいる」

ここから南西にあるにとりの工房に人影がある。二人。椛は直ぐ様そちらに向かった。

(ちっ、奴ら……!)

工房の鍵が破壊され、ドアが半開きになっている。出入口に張り付き、刀を抜いた。足音が近づき、出て行こうとした瞬間に一人を切りつけ、怯んだ所を峰打ちして情報を聞き出そう。

程なくして、二人分の足音がこちらへ向かってくる。まだだ、もう少し、もう少し──今だ!

「ツァッ!」

椛の刃が侵入者を襲う。だが、それは侵入者を斬り伏せることは叶わなかった。

「おっと危ない」

それはなんでもない、侵入者の剥き身の腕によって防がれてしまった。

「ふふふ、元気でよろしい」

「あっ──!」

侵入者、八坂神奈子はニッと笑って刀を返した。

「構わんよ。職務を全うしている証拠じゃないか」

「神奈子様ったら」

神奈子の後ろから東風谷早苗も現れる。

「失礼いたしました!」

直立不動からの礼。

「いいから顔をあげろ。お前も来るか?」

「へっ……何を?」

「河城にとりさんの失踪に関する重要参考人が浮かび上がりました」

そう言って早苗は椛に何かの塊をつきつけた。これはたしかあの烏天狗が持っていた──

「携帯電話です。はたてさんのとは違うタイプですけど」

早苗は携帯電話を操作し、スケジュール画面を呼び出した。

「にとりさんが携帯の機能を使いこなそうとしてたみたいですね。スケジュールがつけてあります。この日を見てください」

早苗がある日にスクロールする。今日から数日前。そこには『夢美と合う。14時』と書いてあった。

「夢美……?」

「人里にいる大学教授みたいですね。さらに、部屋の中にあった古いパソコンを覗いてみたのですが、文書やスクリプトがこの日の11時頃に上書き──
失礼しました。とにかく、夢美さんとやらに合う直前までパソコンを弄った形跡がありました」

クエスチョンマークを浮かべる椛を察して早苗が説明し直した。

「そしてそれ以降パソコンや機械に触れた形跡が無いのです。
普通に考えたら彼女は鍵を握ってますよ」

「………岡崎夢美は人里のどこにいるんですか?」

椛の眼に力が宿る。

「案内しますよ。一緒に行きましょう」
















「ここです」

妙ちくりんな建造物に案内されて椛は面食らったが、この中ににとりが、あるいはにとりの行方を知る物がいるのだと意気込んで入り口に向かう。

「ここが入り口みたいですが……」

「当たり前のように閉ざされているな。何回か訪れたことがあるが、中のシステムが作動していないようだ。開かんぞ」

「でやっ!」

椛は扉に斬撃を放つが、扉に傷がほんの少しついただけだ。びくともしない。

「どけ」

神奈子が椛を押し退け、扉に裏拳を放つと、扉大きく歪み、潰れた。

「うむ。防犯システムも作動しないらしいな。ついてこい」

扉を引き剥がし、三人は奥に進む。

「ここに普段夢美はいるわけだが……」

「岡崎夢美さん。入りますよ」

ドアを開ける早苗。

「あら、いらっしゃい」

どうやら主はいるらしい。椅子のを回転させて夢美はこちらを見た。

「どうしたのかしら、見かけない方がいるけど?」

夢美にどこも可笑しな様子もない。助手のちゆりもこちらに背を向けてソファーに身を預けている。他の部屋と違って研究機材やコンピュータ等がない、生活するためのこの部屋は少々散らかってはいるが、決してめちゃくちゃではない。

「……犬走椛です。河城にとりが行方不明になったのをご存知ですか?」

「にとりが?」

夢美は首を傾げる。

「……夢美さん。にとりに最後に合ったのはいつですか?」

「……」

「夢美さん!?」

椛が語気を強くして夢美に詰め寄った。

「夢美さん!何黙ってるんですか!?にとりを知っているんでしょう!?」

そんな椛を尻目に早苗はちゆりに声をかけた。

「ちゆりさん。にとりさんご存知ですか?
と、いうより夢美さんがなんかおかしい気が──っ!」

ちゆりの正面に回ってから、早苗は気づいてしまった。何処も見ていない、焦点の定まらぬ瞳、だらしなく開かれた口から垂らされた涎、力が入っていない四肢、ガサガサの肌と金髪──

「──にとり、さん?」

早苗の前でちゆりの姿をしたこの少女こそが、河城にとりだったのだ。ちゆりの服を着せられ、髪を金に染められたにとりがそこにいた。

「えっ……?」

「にとりさんですよね!?」

早苗はにとりの頬に触れた、───瞬間。

「危ないっ!」

「ちゆりに触るなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

夢美は懐から光線銃を取り出し、早苗に向けて引き金を引いた。神奈子がとっさに早苗を突き飛ばすと、光弾は神奈子の胸元に突き刺さる。胸部を破壊しながら光弾は背中から突き付けていった。

「がぁっ──!」

「いやぁぁぁっ!神奈子様ぁっ!」

早苗は泣き叫びながら血塗れの神奈子様に寄り添った。

「つぁぁっ!」

椛は咄嗟に光線銃を握る夢美の右腕を切り飛ばした。

「いぎぃぃぃぃっ!」

早苗の悲鳴に夢美の悲鳴が混じる。からに椛は峰打ちで夢美の頭を打ち据えると、早苗に駆け寄った───















「まったく、バカなことをしたものね。岡崎夢美」

あの後、にとりは永遠亭へ、神奈子は守谷神社へと運ばれた。夢美は切り落とされた腕を縫合されることなく妹紅に焼かれて断面を塞がれ、小兎姫の牢屋へと投獄された。

「……ここままじゃあなたは死刑。免れても妖怪の山や守矢の蛙の方の神によって私刑よ」

夢美は小兎姫の言葉に反応することなく、背を向けたまま動かない。

「………聞いてるの?夢美?
あなたのことは友人だと思ってるんだけど」

ニューナンブの弾薬を弄びながら小兎姫は一人で喋っている。

「霊夢にあなたの助手を人質に取られての犯行なんでしょう?
もちろん霊夢は否定しているし、八雲紫が家宅捜索しても何も出なかったけど」

ドンドン!

「開けろ!」

横柄なノックの音。小兎姫はニューナンブをホルスターに突き刺して嫌な顔をして応対した。

「よう、川向こう」

「あら、川向こうじゃない」

来たのは人里の外の刑務所の監守だった。

「どうだい最近」

「別に?」

小兎姫にとっては嫌な来客らしく、ろくな応対をしようとしない。

「あんたみたいな上玉が入ってきたんだろ?こっちのブタ箱に移しなよ」

監守の男は使われていない事務机を尻で踏み潰して夢美のいる牢屋に目をやった。

「移して何のメリットがあるわけ?」

「あんたが面倒見る必要がなくなるし、こちらの給料も上がる」

いやらしく笑う監守。それだけで小兎姫はこの男の意図を理解した。

「娼婦を使って凶悪犯のガス抜きする経費は安くないから?」

「そこまでわかっているなら引き渡してくれよ」

「くたばれ」

小兎姫はそう吐き捨てる。

「こいつってたしか河童を自分の助手みたくしたんだろ?自分とこに来た河童が自分の助手にちょっとばかし似てたから薬品で思考を破壊して人形にしたんだろ?気狂いだよ気狂い」

「……いいわ」

その声は小兎姫のものでも男のものでもない。

「いいわよ。私を輪姦させる気なんでしょ?いいわよもう、何がどうでも。私をそう使いたいならそう使えばいいじゃない」

ゆらり、と声の主の夢美は立ち上がって牢屋の外を見た。やはり上玉だ。と男は気色ばんだ笑みを浮かべる。

「だそうだよ小兎姫さん」

夢美の目には全く生気がなかった。しかしこれは小兎姫や男が見てきた捕まったことや犯した罪に対してではなかった。

「協力的なら非常に助かるよ。まぁ、一発目は俺が……」

コンッ──

男が再び牢屋の方を向いた瞬間、小兎姫は男の後頭部にニューナンブの銃口を押し付けた。

「帰りなさい」

「いっ……!バカ、やめろよ……冗談だろ?」

ゆっくりと両手を上げる男。

「冗談かどうかはあなたの命で試したら?止めないけど」

小兎姫はニューナンブの引金に力を込めたままさらりと言う。

「この……!
わかったよ帰るよ……」

「そうしなさい。ああすこしでもこちらを向いたら撃つわよ」

男は両手をあげたまま小兎姫の家を後にする。それを見届けたあと、小兎姫は夢美のいる牢獄の鍵を開けて入って行き、夢美の正面に立った。

「二度とさっきみたいなこと言わないように。私の『友人』をそんな目に合わせようなんていう奴は許さないわ」

「許さないで結構よ。もうどうなっても──」

ピシャッ!

小兎姫はそんな夢美の頬を平手で張った。夢美は左腕で頬を押さえ、驚いた顔をしたがすぐに無表情に戻った。

「……あなたにわかるわけないわ。ちゆりが居ない世界には何も価値が無いの」

ピシャッ──!

「やめろって言ってるんだよ!」

小兎姫は大声を張り上げる。

「あなたに何がわかるの?私の何がわかるのよ?」

「黙れっ!黙れぇっ!」

小兎姫の平手打ちが何発も夢美の頬を打ち据えるが、夢美こそがもう何も感じないかのように小兎姫に応え続けた。
















「………お手上げね。どうしようもないわ」

「……!!」

それから永遠亭に運び込まれたにとりの診察をしたあと、永琳は答えた。

「月以上の技術というより遥か未来の科学の力ね。脳機能が完全に壊されて直そうとする動きもブロックされてる」

「………そんな!どうすることも出来ないのですか!」

「残念だけど」

震える椛の傍らでにとりは焦点が合わない眼で虚空を見つめ涎を垂らしている。

「歩くことも出来ないし、話すことも出来ないわ。一生ね」

「うっ、にとりっ!にとりぃぃっ!」

にとりだったものを抱き締めて泣き出す椛。その悲痛な様子に目を反らす鈴仙。

「……ウドンゲ。神奈子知らない?」

「はい。何も一命をとりとめたどころか神力が及ぶ神社の境内ならもう歩き回れるとか」

鈴仙が人里を歩いて訊いた情報だ。流石軍神である。

「夢美は?」

「人里で拘束されています」

「そう」

「永琳!」

そんなことを話しているとてゐが診察室に飛び込んできた。

「姫海堂はたてが来たよ」

「手術室に通しなさい」

どうやらはたては上手くやったらしい。ではさっそく取り掛かるとしようと永琳は椅子から立った。

「緊急手術が入ったわ」

「……にとりを今日だけここに置いてください。明日、にとりの知人を連れて引き取ります」

椛はそれだけ言って診察室から出ていった。

「……それじゃあ行ってくる。助手はいらないから」

「……にとりはどうしましょう」

「空いてる病室に入れてあげなさい」

永琳を見送ると鈴仙はにとりを見つめた。彼女はもう、河童として生きることは出来ないだろう。泳ぐことも物を持つことも、会話することも出来ないのだ。

「鈴仙?」

すると診察室の扉が再び開き、メディスンが入ってきた。

「永琳が出てったの見えたから診察終わったのかなって。
輝夜が呼んでるよ──あっ!」

診察椅子に座るにとりを見て慌てて身を隠そうとするメディスン。しかし鈴仙は首を振って言った。

「大丈夫。もう彼女は何も見えないし何も聞こえないから…」

「えっ?」

メディスンはにとりの前に立った。そして少し考えたあとにとりの頬に触れ、何かを呟いた。するとにとりはゆっくりと目を閉じた。

「診察台に寝かせてあげて」

呆気にとられながらも鈴仙はにとりを抱き抱えて診察台に寝かせた。

「これで大丈夫だよ」

「大丈夫。って………」

「簡単に言うと生き物を人形にする毒だったんだよ。でももう大丈夫。目を覚ましたら元に戻るから」

「嘘……師匠でもダメだったのに!」

「うん。この世界には無い毒だったからね。永琳でもわからないわけ。でも私なら毒の方が手をあげてくれるから!」

得意気にメディスンが言う。鈴仙はにとりの顔を覗き込む。鈴仙の髪がにとりの顔にかかる。すると……

「……んっ」

にとりはくすぐったそうに顔だけ捩らせた。

「………!」

先ほどまで、にとりはあらゆる外界の刺激を受けない状態だった。それが今、微かにだが身体を動かしたのだ。

「こいつ、魔理沙の友達なんだよね」

メディスンは苦々しく言った。

「私が殺されて喜んだだろうなぁ」

「……だったらなんで」

「別に。
何も人形なんかになることはないって思っただけよ」
















バギィッ!

「ぬおっ!?」

「おわぁっ!?」

それからさらに数日後の深夜、宴が終わった博麗神社の床板を貫いて何かが生えてきた。

「うー?えーと、あかしろあかしろ……お前か!」

生えてきた何かは面食らう霊夢と萃香を交互に睨んで霊夢に視線の照準を合わせた。

「なっ、なんだお前は!」

萃香は攻撃体勢を取りながら何かに聞く。すっかり酔いが覚めてしまった。

「宮古よし、まちがえたあかしろを殺しに来た刺客だー!」

床板から上半身だけ出していた状態の刺客、宮古芳香は細かい床板の破片を散らかしながら全身を露にした。

「萃香。叩きだしなさい」

「言われなくともっ!」

萃香は霊夢の指示で拳を固め、芳香を殴り付けた。

「ぐわぁー」

殴り飛ばされた芳香がぶつかった壁にヒビを入れる。

「やったなー!百倍返しだー!」

だが芳香はすぐに体勢を立て直して萃香に飛び付いて掴みかかる。

「ぐっ……!」

(なんて怪力だ!)

組みつかれながらも堪える萃香。この刺客はそこらへんの鬼以上の腕力がある。

「ちっ」

霊夢は萃香に任せて神社から境内へ飛び出そうとする。だが境内には既に見慣れない三人の人物が外で酔いを醒ましていた明羅と向かい合っていた。

「くそったれ!萃香!早くそいつを始末しなさい!」

「ダメだ霊夢!こいつは結構強いぞ!逃げててくれ!」

萃香が芳香を突き飛ばして応えると霊夢は特に躊躇うこともなく神社の裏の森へと逃げ出していった。

「うぉぉおー!」

再び猛烈な勢いで芳香は萃香へと向かってくる。壁に磔にされる萃香。

「うぐぐぐ……!」

芳香の爪が萃香の眼前につき出される。爪から流れ出た液体が床に垂れるとしゅうしゅうと音を立てて煙を吹き出す。手首を掴んで持ちこたえてはいるものの、毒液を吹き出す爪が萃香の体内に捩じ込まれるのは時間の問題だ

「くそったれぇっ!」

萃香は芳香の顎を膝で蹴り上げる。

「どぅえっ!?」

のけ反って萃香を放す芳香。その隙だらけの顔面に萃香は先ほどよりも固く強く固めた拳を捩じ込んだ。頬骨を砕き、脳を潰す懐かしい感触。それから萃香の拳が解放されると、芳香は部屋の雑多なものを破壊しながら床を転がる。

「くそっ、舐めんなコラ!」

「へぇ。腐っても鬼なのね」

すると壁の一部に穴が開き、そこから青髪の女が上半身だけ身を乗り出して現れた。

「ちっ、新手か」

「いやいや、私は肉弾戦じゃあこの子より弱いわよ。起きなさい芳香」

「むぐぐぐ……やるぞこいつー!」

ガラクタの中から芳香が起き上がる。

「ええ。鬼だもの」

新手の女、寉青娥はヤオシャオグイを生成し、芳香に取りつかせた。

「本気でやりなさい」

「合点!」

芳香は萃香に向かって先ほどのような突進ではなく、格闘家の踏み込みのように接近した。

(おっと!)

萃香は芳香の右手の毒爪による突きを察知していなす体制に入る。

ゴギャッ──!

「がっ……!」

それは囮、フェイントだった。
芳香は右手に気をとられた萃香の隙だらけの左足の甲を踏み抜いたのだ。鬼並みの怪力で踏み抜かれた左足は砕かれてしまった。
ヤオシャオグイによって直接芳香を操作したことで成せる技だ。

「えいっ!」

ずぷっ───

今度こそ芳香の爪が萃香の胸元にめり込む。鬼の頑強な皮膚であるため爪先しか入らなかったが、毒を注入するには十分だった。

「がふっ──ぐぅ……!」

即効性の猛毒らしく萃香は急激に体力を奪われていく。

「終わりね」

「ああああ……」

萃香の股間から小便が流れ落ち、目の焦点も合わなくる。

「さて、それじゃあとりあえず神社は制圧したわ。
お茶でも淹れてくるわね芳香」

「食べてもいいかー?」

芳香は既に全身の感覚を失った萃香の角を掴んで訊いた。青娥は物がろくにない神社を家捜ししながら応える。

「いいわよー」
















「すらぁっ!」

ひゅっ!

明羅の放つ14回目の全力で放つ斬撃が空を切る。

「ほらほら、どうしたの?そんなんじゃあ私は剣を抜く気にすらならないよ」

呼吸が乱れ始めた明羅に豊聡耳神子が涼しい顔で言葉を叩きつける。

「このっ、舐めおってぇ……っ!」

(布都と屠自古は大丈夫ですかね……)

明羅の顔を眺めながら神子は先ほど森の中へ消えていく霊夢を居っていった二人のことを考える。霊夢の実力は彼女も自分も知っている。三人がかりでも倒せるかわからないから暗殺という形をとったのだが、早々と失敗してしまった。

(深追いしてなければいいのですが)

「おいっ!いい加減に剣を抜け!」

「………君、ただの人間だね?」

神子は別のことを話した。

「なに?」

「先ほどまで私の傍らにいた物部布都のように命を放り出す覚悟もなく、博麗霊夢と違って天才でもない。東風谷早苗と違って神の血系でもなく、魂魄妖夢のように人間以外の血を引いてるわけでもなく、十六夜咲夜のように強力な能力に恵まれず、そして今は亡き霧雨魔理沙のように努力家でもない」

「なんだと!」

その言葉に吠える明羅。

「次に君はこう言う。
『努力は人一倍以上している。剣でならそこらの妖怪に負けることはない』
その割には博麗の力を手にして楽に強くなろうとしたじゃないか」

「……!」

なぜそれを知っている。と明羅はつらつらと喋る神子に多少の恐怖を感じる。

「ああ。私の能力だ。君のことは筒抜けだよ。
で、ただの人間。霊夢討伐の加勢に行きたいのだがいいかな?これ以上予定が狂うのは不味い。
全く、宴会してるのがわかった時点で引けば良かったのです。一体誰が作戦を続行したのでしょう……」

それは紛れもなく豊聡耳神子であったが、明羅は十の声を同時に聞く程度の能力を持たないため、この場に突っ込みを入れる者はいない。

「……その減らず口を閉じろ」

「私を殺せば閉じますよ」

明羅は刀を片手で構え、懐から短刀を取り出した。

「二刀流……ですか。では私は」

すると神子は両手を大きく広げる体勢を取った。

「どうぞ。好きな所を」

「このっ………どこまで虚仮に……!」

「どうぞ」

「たぁぁぁあああああっ!」

明羅は駆け出し、二本の刀をそれぞれの振り上げて斬りかかる。瞬間、彼女は重力から解放された。

「あっ……?」

神子に足を引っ掛けられた。そう脳が感知した時には、明羅はうつ伏せに転んでいた。咄嗟に地面に突き出した左手に握られた短刀に胸を貫かれて。

「君にはこんな死に方がぴったりだ」

石畳に広がる紅を眺めて神子は言った。

「ここで死ななくても君はいずれ死んでいた。人間は必ず死ぬ。死ぬまでに何ができるか。どうやって生きるかは永遠に生きることよりも余程重要だ。
まぁ君はどう死のうと博麗の力は得ることなく霊夢に利用されるだけだろうがね。魔理沙や神社で恐らく死んでいる鬼のように」
















「むむ……あの巫女はどこに逃げたのか……」

「見失ったわね……」

森の中で布都と屠自古は途方に暮れていた。

「ぐぬぬ……」「むむむむ…」

霊夢は思った以上にすばしっこく、あっと言う間に二人を撒いてしまった。

「撤退したほうがいいかしら」

「うーん……」

「霊夢の居場所ならわかるわよ」

「なに?では早く言え!」

「……今の私じゃないわよ」

憤慨する布都に屠自古が答える。

「私よ」

「!」

ポン。と布都は肩を叩かれて飛び跳ねた。二人で振り替えるとそこには紫色のドレスに身を包んだ金髪の貴婦人が座っていた。気味の悪い何かに。

「うふふ。驚いた?」

「何奴っ!?」

後ろに下がって距離を取る二人。

「あなた達が霊夢の追跡者ね?」

「……なるほど、貴様もあの巫女の手下か」

その言葉で布都はこの女、八雲紫の目的を理解した。

「貴様を痛め付けて巫女の逃げた場所でも聞くとしようか」

「ふふふ、バカな子」

微笑む紫。

「布都。こいつはかなりヤバイわよ……この世界でも最強クラスの妖怪よ!」

「……だから?」

屠自古に対して布都は首を傾げた。

「目の前の敵がいくら強くても、我が主に栄光を手向く為なら戦うしかなかろう」

布都は仙術で矢を生成する。

「最強だか何だかは知らないが、我の前では意味を成さんぞ。妖怪」

矢が紫に吸い込まれるように放たれた。

ザッ───

矢は紫の胸を深々と貫き、紫は力無く地面に倒れた。

「えっ……!?」

「……?」

なんだこれは。いくらなんでも呆気なすぎる。紫はの倒れたヶ所にスキマが生まれると紫はその中へと消えていった。

「気をつけて。油断した所をやってくるわ!」

「いや、彼奴の気配も殺気ももう感じられん」

すると紫が消えたスキマから新たな妖怪が現れた。

「お疲れ様です」

その金髪に青を基調とした導師服の妖怪はあろうことか二人の前に立って労い始めた。

「……これはどういうことだ?」

「紫さまは霊夢の追跡者と交戦し、奮闘の介無く胸を貫かれて倒れた。ということです」

策士の笑みで告げる妖怪、八雲藍。その言葉で二人は全てを理解した。

「うむ。我らは霊夢の腹心の妖怪から逃げ場所を聞き出そうとしたのだが……」

「ああ、そういったことでしたらあなた方の仕事は終わりです。
私はあなた方の捕虜となり、制圧された神社へ連れてかれるとしましょうか」
















「………来ると思っていたわ。霊夢」

土煙を上げて鈴蘭畑に突き刺さる影にメディスンと二人でそっそり永遠亭を抜け出してきた風見幽香はそう投げ掛けた。

「私もよ。あんたが来ると思ったのか私が来ると思ったのか、タマゴとニワトリね。
……で、あんたがけしかけたのかしら?」

神社から逃げてきた霊夢はお祓い棒を幽香に向ける。

「違うよ。永琳」

幽香の傍らにいたメディスンが答える。

「ふーん。じゃあ私の占いはあってたわけだ。特製の殺し屋送ったのに失敗しちゃったけどね」

「……岡崎夢美の助手はどうしたの?」

「殺したわ」

霊夢はさらっと答える。

「死体は一応原型は残ってるけど、アレを夢美が見たらそのままあの世に行っちゃうんじゃないかしら」

「このっ……!」

霊夢を睨み付けるメディスン。

「いいのよそんな顔しなくても。夢美なんかじゃなくて私があなたを処刑してあげるから」

「抜かせッ!」

優香は傘を構えて殺気を放出する。

「へぇ。やる気なの?
私を傷つけたら紫が黙ってない、ううん。動かざるを得ないわよ。そこの糞人形と違って私を傷つけたんだから」

「傷付ける?ふうん。ずいぶん優しい妖怪だと思われてるのね私は───」

ゴオッ──!

霊夢に向かって突き出された傘から極太レーザーが放たれる。中級妖怪ですら一撃で消し飛ぶ威力のそれは鈴蘭を巻き込みながら霊夢を襲う。

「………受け止めてる」

レーザーから傘、そして腕に伝わる手応えで幽香は察した。この威力のレーザーを霊夢は結界を使って受け止めているのだ

「ちっ、人間のくせに……」

幽香はさらに魔力を籠める。押しきってやる。妖怪の名にかけて。

ペタッ

「!?」

そのとき、一枚の札がレーザーを突き抜けて幽香の傘を持つ右手に張り付いた。なんだこれは。霊夢が放ったものではあろうが、特に体の痺れなどは感じない。自分程の妖怪だとこんなもの効くはずが──

ドゴォッ!

──その瞬間、札は爆発した。

「がぁっ!」

札が張り付いていた幽香の右手が四散し、傘が手から離れることによってレーザーが消失する。

「幽香ぁっ!」

あわてて幽香の駆け寄るメディスンだが、それよりも早く霊夢は幽香の肉薄していた。

「さぁ、消毒してあげるわよ、都落ち妖怪」

「こんの、メスガキがぁぁあっ!」

爪で霊夢を粉砕しようと幽香は残った左腕を振り立てる。しかし霊夢はそれを交わすと同時に左腕同じ札をつけた。

「っ──!」

「はい。終わり」

幽香の左腕も霊夢の札の爆発で消滅した。たまらず地面を転がる幽香。

「やめろぉっ!」

「おっとあぶない」

飛び出してきたメディスンに霊夢は札を張り付けた。

「ああ。それは妖怪の動きと能力を封じる札よ。木っ端妖怪ならほとんど動けなくなるわ」

ドン!と霊夢は幽香の頭を踏みつけてメディスンに告げた。

「うぐっ……!幽香……!」

「ねぇ幽香?今からあんたを殺すけど、どう?」

幽香を踏みつけながら霊夢は笑う。

「ぐ……糞ッ垂れ!殺してやる!」

「あはははは!今から糞垂れるのはあんたよ!」

ドシュゥッ!

「あ゛あ゛あ゛ぁぁぁあ!」

霊夢は二枚の札を同時に投げて幽香の両足を破壊した。

「ダルマになっちゃったわねぇ幽香ぁぁぁあっ!あーっはっはっはっは!」

「やめてぇぇぇっ!もう幽香のひどいことしないでぇっ!」

泣き叫ぶメディスン。

「言うこと聞くからやめてっ!お願いしまずっ!」

「はぁ?別にそんなことしなくてもいいわよ。あんたもこの後殺すから」

霊夢は幽香のブラウスを引き裂き、ワインレッドの下着も引きちぎった。

「ふーん。やっぱおっぱいおっきいのね幽香」

こぼれ出た幽香の豊満な乳房を無造作に弄ぶ霊夢。

「ぐっ……やめろっ……!」

「うんわかったおっけー☆」

ブシュッ!

「いがぁぁあ゛あ゛ぁあ゛ああっ!!」

霊夢は幽香の乳房をその霊力を込めた腕の怪力で千切り取った。

「幽香ぁぁっ!」

「はーいメディスンちゃん。幽香ママのおっぱいでちゅよー」

グシュッ ビタビタビタ!

メディスンの頭上で幽香から千切り取った血塗れのそれを握り潰した。

「ひっ、ああああ……」

血と脂肪が混じった液体がメディスンの可憐な顔と蜂蜜色の金髪を汚す。

「ねーメディスン。いいこと考えたんだけどさ」

霊夢は幽香の乳房の絞りカスを無造作に捨てて狂気が浮かぶ笑みを顔面に張り付けて告げた。

「もう一個幽香のおっぱい千切るからさ、そのおっぱい吸ってよ。乳首からさ」

霊夢は身動ぎする幽香の左の乳房に手をかける。

「そしたらあなたは助けてあげる。永遠亭にでも住んでなさい」

「………!」

嘘に決まっていたし、霊夢もメディスンが首を縦に振るとは考えていない。おちょくりたいだけだった。

「ねぇ、どうする?吸うの?」

「………吸うわ!吸うから助けて!」

「………マジ?」

霊夢はその答えに眉を潜めた。

「吸うわよ!吸うから助けて!お願い!」

「……わかったわ」

霊夢は再び霊夢を手に込める。そして小声で既に虫の息の幽香に喋りかける。

「バカねあの人形。友達は選んだら?」

「……」

もはや幽香は返事すら出来なかった。もう時間の問題だろう。

ズシュッ!

「……ゴ……ガ……」

もう片方の乳房を千切っても幽香の反応は先ほどと比べると殆どなかった。

「さーメディスン。しゃぶりなさい」

血塗れの塊をメディスンに突き出す。

「ほーら早くなめて私を笑わせてよ」

乳首をメディスンの口元に持って行き、顔をちかづける霊夢。

「さぁ、早くいぎぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ───!?」

そのときを待っていたかのようにメディスンは霊夢の左右の眼孔に向かって親指を突き刺した。勢いでそのまま霊夢を押し倒す。

「うわぁぁぁぁあっ!死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ねぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」

「う゛う゛う゛ぎゃあ゛ぁぁぁぁっ!」

体重をかけ、頭を貫く勢いで眼球を、脳を破壊するメディスン。やがて暴れていた霊夢は小便と緩い糞で股間を汚し、抵抗をやめた。メディスンの体の表面の毒が霊夢の体内に侵入したのだ。

「はぁっ……はぁっ!糞ッ垂れは、あんただったみたいね……!」

皮肉にも霊夢は恋人と魔理沙とその恋人のアリスと同じ死に方をした。

「幽香っ!」

メディスンはその後慌てて幽香に駆け寄った。

「幽香っ!幽香っ!死なないで!幽香ぁぁっ!」
















「"かくして、この幻想郷から博麗の血は断たれた。一人の人形の力と勇気と想いが、その幻想郷の歴史を一変させるであろう───"案外文章上手くないのね文」

「うっさい」

人里の射命丸文の新事務所には二人の天狗の影があった。

「ん。でも一番人に読まれた記事だから相殺ね」

姫海堂はたては新文々。新聞1号を閉じて文に渡す。
永琳によって仮死状態から復活させられた文はその後人里に移り住んだ。一度死んだ身のため山にはもう居られない。
そのため人里で新聞を書いているがこれがなかなか好評で、寺子屋で読み書きを教えるアルバイトも初めて毎日が割りと充実していた。

「で、最近どうなのかしら?」

「特に不自由はしてないけど」

「そう。じゃあもう行くね。何かあったらこっそり呼ぶのよ」

「大丈夫よ。でも来てくれるとちょっと嬉しいかも」

「うふふっ、じゃね」

人里は今日も平和だ。
















「ちょっとメディスンー。幽香様にベタベタしすぎー」

夢幻館の庭で座った姿勢の幽香の手足に包まれ、後頭部で幽香の胸の感触を楽しんでいたメディスンに、くるみが呆れたように言った。

「違うもん。幽香がベタベタしてくるんだもん」

「先輩に口答えするなー!」

「きゃー!」

「ちょっと、いたたた!」

二人にもみくちゃにされながら幽香は幸せを感じていた。
幽香の身体は夢幻世界の二人の悪魔の姉妹によって修復された。命蓮寺の白蓮も助走をつけて殴るレベルの莫大な見返りを要求してやろうと夢幻館に息巻いて向かった悪魔の姉であったが、偶然館にいたメディスンに会いに来た鈴仙を見るなり、『この子と同じ服を貰えればそれで手を打つ』と言ったため、夢幻館は破産を免れた。

「幽香様ーお茶が入りまし──あっ、ずるいわよ二人とも!」

庭のテーブルにティーカップとポットを置いてエリーも幽香に殺到する。

「ちょっ、エリーあなたはいい年なんだから、きゃあっ変なトコさわんないでってやーめーてー!」

夢幻館も平和だった。
















「にとり!」

哨戒天狗の椛が河を眺める友人の名を呼ぶ。

「暇なら遊ばない?軍人将棋っていって将棋とはちょっとちがうんだ!」

「……」

にとりは椛をちらりと見ただけですぐに河に視線を戻した。

「にとり?どうしたの?」

にとりの肩に手をかける椛。

「にとりー?」



「………お姉ちゃん、だれ?」



「……っ!」

にとりの返答に驚愕する椛。

「にとりっ!私だよ!犬走椛だよ!」

「もみじちゃんっていうんだ。わたしはね………えーっとわたしのお名前は……」

「にとりっ!」

また記憶を失ってしまったのか。昨日までは完全に元のにとりとなって将棋を楽しんでいたのだが──

「待ってろ。今すぐまた永遠亭に──」

「あ、うん。じゃあついでに潤滑油も買ってきてくれないかな?」

「………?」

椛はゆっくりとにとりに向き直って見る。

「にひひっ、『にとりっ!私だよ!犬走椛だよ!』ってさ!
あっはははは!椛はかわいいなぁ!あっはははははは!」

ボカッ!

妖怪の山も平和だった。
















隻手となった岡崎夢美は人里を見下ろせる小高い丘に一人佇んでいた。

自分が殺そうとしたメディスンは"死刑"になりながら無罪放免となった。
自分が破壊したにとりはメディスンの治療により、今は元の暮らしを送っている。
博麗神社は外の世界にいたという博麗の分家の少女が引き継ぐことが決まった。

だが、自分は止まった。
ちゆりの死体が神社近くの森で見つかってから、自分はもう前に進むことはなくなった。

夢美は最後の食事となったショートケーキの苺を口に入れて噛み砕いた。ああなんて美味しいのだろうか。

「さようなら、全て」

光線銃を握ってこめかみに銃口を当てる。

「……バカな真似は止しなさい」

ああ、誰かが止めに来た。面倒なことにならない内に逝こう。

「夢美様、やめろっ!」

………!幻聴だろうか、この声は──

「夢美様!おいっ!」

何者かに無理矢理後ろから光線銃を奪われた。いや、何者かなんかじゃない。

「ちゆり……!」

「よう、ご主人様。こんなに会わないことは殆どなかったな!」

殺されたはずの、金髪にマリンルックの助手がそこに立ってた。

「ちゆりぃっ!」

がばっ、と夢美はいとおしい助手に片腕で抱きついた。勢いあまって押し倒したが関係ない。………?

「あー、抱き締めるのは、その、止めた方がいいかも」

「……ちゆり、よね?」

夢美は涙でぐしゃぐしゃな顔のまま、身体を起こした。少しだけ抱き心地が少し違う。それに少し冷たいし妙な匂いがする。

「ああ、そうだ。私は北白河ちゆりで間違いない。んだけどな……」

「死んでるのも間違いないのよ。岡崎センセ」

ちゆりの他に二人の女性がいることに気付いた。陰陽師のような格好の白髪の女と全体的に青い女だ。

「えっ……え?」

「申し遅れました。霍青娥と申します」

「物部布都だ」

「……岡崎夢美です」

一応、自己紹介。

「北白河ちゆりさんですが、今は私の能力で動かしているのです」

「……」

「つまり今の私はその人に操られてるってわけだ」

「そこでだ」

布都と名乗った少女がドヤ顔で言った。

「夢美殿を我が道場に入門させ、仙術を体得していただこうと思う。そうすれば夢美殿はちゆりの主となれるぞ。
……生憎だが、死んでしまった人間を完全に蘇らせることは不可能だし、出来てもしてはいけない。死は絶対だ」

「………」

「多少臭いが気になるかも知れんが、愛情があれば問題ない!死が二人を分かつまでというやつだな。
人形と違って自分の意思もある!ちゆりの頭脳ならバカになることもないだろう」

「そういうことだ。ご主人様。また一緒に居たいぜ」

「あなたならすぐに体得出来るわよ」

選択肢はあってないようなものだった。
















「この度はご協力感謝いたします」

「いいえ。実質私達は失敗しましたし、これを本当に頂いていいものなのか……」

「少なくとも貴女方が居なかったら霊夢は幽香と接触しなかったわ」

「そうですけど……なんて言いますか、失礼な物言いになってしまいますが──」

「?」

「不老不死であなた方は苦しんでいるように見えます」

「……」

「それに、私が不死の身体を手に入れても意味がありません。人間は人間。大地は大地。海は海です。人間が永遠に在り続けようと考えるのは傲りです」

「………報酬は別の物を考えた方がいいかしら?」

「そうですね。今度考えておきますよ」
















「小兎姫……やめろよ、悪趣味だぞ」

「あら、銃は剣より強いわよ」

ニューナンブの弾丸を景気良く射撃訓練用の的にぶちこむ小兎姫に妹紅が言った。

「いや、的の話だよ。なんだありゃ……」

「霊夢の剥製よ」

人里で密かにオークションにかけられた霊夢の死体は小兎姫が競り落とした。
競り落とされた霊夢は小兎姫の手によって剥製として蘇り、今日も元気にニューナンブで穴を開けられていた。

「修理も結構繰り返したからそろそろ捨てちゃおうかしら」

すでに剥製霊夢は小兎姫の虐待によってボロボロに朽ち果てていた。ニューナンブに弾を再び装填する小兎姫に妹紅が割り込んだ。

「その……なんだ」

「?」

「私にもやらせてくれ」

「………悪趣味」
哀れな哀れな毒人形ifストーリーでした 皆様お久しぶりです。こちらの都合で少々作品のデータがいくつか無くしてしまい(侵略記やチラッと話したゆゆみょんいじめSSなど)投稿するのが空いてしまいました。奇跡的に元のデータがあったこちらのSSを1〜10のうちの7あたりから作り直してこちらに投稿させていただきました。
普通にメディスンの話じゃなくなった気がする…
IMAMI
作品情報
作品集:
3
投稿日時:
2012/03/25 13:38:46
更新日時:
2012/03/25 22:38:46
評価:
1/4
POINT:
190
Rate:
8.60
分類
メディスン
幽香
旧作数人
神霊廟組
永遠亭
簡易匿名評価
投稿パスワード
POINT
0. 90点 匿名評価 投稿数: 3
2. 100 NutsIn先任曹長 ■2012/03/26 21:52:42
絶対的な力が暴走した時に備えて、フェイルセーフを設けておけよ。
だから『事故』が起こったら周りに不幸を振りまくし、
止めるために面倒くさい手続きをせにゃならんのですから。



私があの時考えた、お人形さんを助けるハッピーエンドは、本当に、甘かった。
タイムマシンがあるのなら、諸悪の根源である黒白の汚点を取り除けるのに。

毒を以て毒を制すお話、堪能いたしました。



『侵略記』はハッピーエンドになるのかな……?
無理くさいな……。
得物持って介入してやろうかしらん。
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