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『アンチ秘封倶楽部 初めてのスナッフビデオ  〜痛みで示せる絆もきっとある〜』 作者: R

アンチ秘封倶楽部 初めてのスナッフビデオ  〜痛みで示せる絆もきっとある〜

作品集: 4 投稿日時: 2012/07/05 18:28:16 更新日時: 2012/07/06 03:28:16 評価: 6/6 POINT: 580 Rate: 17.29
 
 
 
 
 じー。
 じー。
 じー。ぴぴぴ。


 え、も、もう撮ってるの?
 うん。じゃ、カメラに向かってご挨拶、しよ。
 ちょ、ちょっと待ってよ。まだ心の準備が……


 かちり、と音がして、私は薄目を開いて世界を見た。
 私は世界を見るのが好きだ。世界を見、覚えるのが。私が見る世界は、また誰かを喜ばせることだろう。
 私は目を開いた。
 広い部屋だ。ものは極限に減らされていて、部屋の広さはそれほどでなくても、広々とした印象を受ける。
 中心にいるのは二人の少女だ。一人は紫の服を着、帽子を被った少女。もう一人は黒い服を着て、同じように帽子を被った少女。

「じゃ、行くわよ」
「う、うん」
「メリーと」
「え、れ、蓮子の」
「ほら、遅いわよ。もっかい行くわよ。せーの、メリーと、」
「れ、蓮子のー」
「いちゃいちゃ動画ー! ほら、蓮子遅れた−。ちゃんとしないと駄目じゃない」
「そ、そんなこと言ったって」
「ね、蓮子、これは大切なことなのよ。私達の初めてなんだから、ちゃんと残さないと。ほら、あっち見て。ちゃんと、撮ってるんだから」

 私を指差し、メリーが蓮子に語りかける。部屋の中央、椅子に座っている蓮子は、肘置きに手を固定され、足もまた、椅子の足下で拘束されている。肩口から胸にかけて、その部分もまたベルトのようなもので、縛り付けられている。

「メリー、あの……私、分からないのかもしれないけど……どうして、私、こんな風になってるの? こんなままで、するものなの?」
「当たり前じゃない。暴れるんだから、ちゃんと固定してないと」
「あ、暴れる?」
「そうよ。蓮子ってば痛がりなんだから。きっと怖がって、逃げようとするかもしれないわ。私、そんなの、嫌だもの」
「そんな。私、メリーがそのつもりだったら……ちゃんと、受け入れるわよ。だから、こんなのは嫌だわ。……ね。メリー」

 蓮子の思慕は、メリーに向かっているらしい。メリーもまた、にこにこと笑って、蓮子を見返している。その笑みが、蓮子には理解しがたいらしい。

「ねぇ、どうして笑ってるの。私、楽しくないわ。こんなことされたくらいで、メリーのこと嫌いになったりしないわ。でも……」
「ね、メリー。いちゃいちゃ動画なんだけど」
「その言い方も嫌」
「サブタイトルがあってね」
「……何よ」
「『初めてのスナッフ』っていうの」
「何よ、それ」
「見る?」

 メリーがごそごそと、テレビのチャンネルをいじっている。ややあって、部屋の隅のテレビ、私の背後から、女性の悲鳴、奇声、蛮声が聞こえてくる。だが、私が捉えていたのは、蓮子の表情の変化と、声なき声だった。
 まさか、と言うような、冗談を見るような目。さっきまでの戸惑いが、消えてゆく。ちらり、と一瞬仰ぎ見るメリーの表情。メリーの表情は、にこにこと変わらない。恐怖に引きつり、笑って見せようとするも、その頬はひくひくと動くだけで、命令系統が狂ってしまっている。蓮子は、目の前にいるのがメリーでなければ、叫び、喚き立てていたに違いない。目の前のメリー。しかし、蓮子の目の前にいるのは、蓮子の思う、以前のメリーであろうか? 最早、別人ではないのだろうか。そこに何があったのか、蓮子にはおそらく分からない。蓮子は狂気を孕んではいない。だが、もうすぐだ。もうすぐ、メリーと同じ瞳の色合いになる。

「さ、始めましょう」

 メリーが台座を椅子の隣に置き、その上に工具箱を置く。がん、と大きな音を立てる。





 狂演は開かれ、だが、未だその狂気の色合いを、強く表してはいなかった。

「スナッフは指からってのが様式美よね」
「め、メリー」
「なぁに、蓮子」
「嘘よね」
「嘘って?」
「スナッフ、って、そんなこと、本当にする訳じゃないわよね。ね、メリー」

 メリーはにこりと笑うばかりだ。工具箱からニッパーを取り出して、蓮子にかざして見せる。蓮子は、耐えきれなくて泣き出してしまう。

「泣かないで、蓮子。せっかく、初めてなのに、哀しくなっちゃうじゃない」
「や、やだ」

 メリーがニッパーを指先に近づけても、何が行われるか予測している蓮子は、ぎゅっと握って抵抗する。だが、メリーは入念に準備をしていた。指先まで一本一本拘束する器具を取り出して、蓮子の指を留めた。大変な作業だが、ぎゅっと握った手を解体するのよりは、ましだ。

「さ、はじめるわよぉ。ニッパーなんて、小学生の時にプラモデル作って以来だわ」
「やだ、メリー、やめて、ほんとに、私、メリー……」

 ここに至っても、蓮子は声を荒げようとはしなかった。荒い息で、震えてはいたが、メリーを説得しようとしていた。それが喚いても逆効果だと考える冷静さのせいか、メリーを思う友情故か、私には分からない。
 メリーはやがて蓮子の指を、きちんと伸ばすように拘束してしまうと、ニッパーをきゅいきゅいと鳴らした。

「蓮子、爪伸びてるわよ。ちゃんと切らないと」

 ぱちり、ぱちり、と音を立てて、メリーは蓮子の爪を切っていく。かなりのハイペースだ。時に深く刺さり、切りすぎた爪が歪な姿を晒している。音を立てるたびに、や、あ、と蓮子が小さな悲鳴を上げた。
 やがてメリーの動きが少しゆっくりになり、爪と肉の間を、肉の側に強く押しつけ、ぱちりと音を立てた

「ひぃ! ぃ――、あ、あ、あ」

 急激に襲った痛み、だが血は少し膨れあがった程度で、痛い、と叫ぶほどではない……だが、蓮子は恐怖の故に、叫び声を上げた。

「蓮子。血よ、あなたの血」

 メリーが血に触れ、蓮子にかざして見せる。蓮子は呻きながら、いやいやをするように首を振った。メリーのニッパーが、再び指先に向かったかと思うと、中指の頭を切断した。強く握ったせいで、刃はばちんと音が鳴り、今度こそ蓮子は悲鳴を上げた。

「ああああああ! あっ、あ、いぃぃいいいい……! 痛い、ぃぃ……!! め、メリィ、ぃい、やめて、おねが、アっあああ!」

 蓮子の懇願の声は、言い終わらないうちに悲鳴へと変わった。薬指の頭も、失われたのだった。少しずつ、少しずつ、欠損してゆく。殺すことを指向していないのなら、その姿は、凌遅刑に似ている。

「蓮子。蓮子、どう、痛い? もっと、感じてよ、蓮子」
「な、なんで、こんなことするの……! 痛い、もうやめて、メリー」
「まだまだ、まだまだよ。まだ、指先しか痛んでいないじゃないの。もっと。もっとよ。」

 小指の頭が断ち切れる。ニッパーを鋏に持ち替えたメリーが、第一関節に合わせて断ち切ったのだった。

「ぎ、いいいいいい!い、あ、アァ――――ッ! あ、あッ、あううう、うぅ……あ、ア」

 しゃり、しゃり、と音を鳴らして、中途に断ち切られて残っている、薬指の爪に刃を突き入れ、捲りあげた。

「ガ、ッあ、アァァ、は、、う、ぐ、アァ……!」

 は、は、と荒い息をついて、蓮子が俯き、痛みに耐える。全身が緊張し、力が充溢しているのが分かる。メリーが親指の付け根に、刃を合わせた。肉を切るのには向いていない、鈍い、刃。

「い、ぃ、ぁ、あァ――ッ、は、ァ、うう――ッ! う、う、う――ッ!」

 ぶち。ぶち、びちゅ、ぎち。音を立てて、少しずつ、肉が断ち切れてゆく。次第に刃が重ならなくなり、力任せに、押しつけて、悲鳴が強くなる。骨に届いて、力任せに捻ってねじり折った。床に親指が転がる音がする。

「ッが! あ、ぁぁ――――ッッ! ああ! いやだ! いやだ、アァァ! アァ、あ、は、ァ……はぁ、はぁッ、はぁッ……!」

 蓮子が一際大きな叫び声を上げた……メリーが、手の甲に跳んだ血を舐め、俯き、痛みを堪える蓮子を無感動に眺めている。鋏を、持ち手を握り込むようにして、蓮子の手の甲に、力任せに鋏を突き立てた。

「お疲れ様、蓮子」

 メリーが優しく囁く。傍らに跪き、指の拘束を解いてゆく。

「め、メリー」
「もういっかいね」

 そう言って。今度は、左手を手に取った。哀しげに、烈しく、蓮子の喚き声が響き渡った。





 どうしてこうなったのだろうか? 左手にも、右手と同じような苛烈な責めを行い、意識を失ってしまった蓮子の傍ら、白目を剥いてしまった蓮子の目を閉じて、その顔を眺め、汗に濡れているのを楽しげに、頬を染めて見上げるメリー。私は、二人の以前の姿を思い出してみる。私はメリーの手に収まって、様々なところで、二人の様子を撮影した。時には一人、何もない墓を撮影させられながら、二人の囁きを一晩中聞いていたこともある。その関係から、目の前の惨状を想像することはできない。
 思った。メリーにとっては、蓮子の特別になりたかった。蓮子と、特別な時間を過ごしたかった。これだって、特別なことに違いない。
 メリーにとっては……たった一度だけ、この関わりだけで、良かった。私の勝手な想像だ。そうでなければ救いがない。
 いや。蓮子の立場であれば。蓮子がメリーの気持ちに気付き、抱いてやっていれば、こんな風にならなかったのだと思うくらいならば、ただ純粋にメリーが狂ったと思う方が、救いになるのではないか? だが、結局、考えても仕方のない話だ。蓮子がメリーのことをどう思っているかは、私には想像することさえできない。彼女のパーソナルを、私はあまり知らない。そしてこのまま、私は生涯知ることはなくなるだろう。





「蓮子、蓮子、起きて、起きて」

 蓮子は気絶したまま、起きなかった。むー、とむくれ、手に粉末を振りかけた。びくん、と蓮子の身体が撥ねた。

「ぎ! ぃ、あぁ、痛いいぃ!」

 おはよ、蓮子、とメリーがにこやかに言う。その指、傷口に塩を擦り込みながら。

「うぁ! あァああッアッッッ!」
「ほら、まだ終わりじゃないのよ。ちゃんと起きてないと」

 そう言うと、メリーは蓮子の手の先、欠損した指先の前に、ボタンのようなものを置いた。

「これ、分かる、蓮子」

 蓮子は荒い息で痛みに耐えながら、返事をしなかった。メリーは、それに殊更に触れて、示して見せた。

「ほら、これ。蓮子、あなたが、もしもう私とこんなことをするのが嫌で、逃れたくなったら、それを押したらいいのよ」
「……押したら……ッ、……どうなるの」
「枷が外れるようにしてあるわ。あなたは逃げられる。……もし、あなたがそれを選ぶなら、私は死んでも構わないって思ってるの。あなたに殺されてもいいって」

 蓮子は、メリーを下から見上げて、睨み付け、ゆっくりとボタンを撫でて……その指を丸めた。握り込んで。メリーはそれを見て、目をゆっくりと細めた。

「そう。そう……蓮子。……なら、続けましょう」

 そう呟いた。蓮子の髪を撫で、足下に跪くと、苦労して靴を脱がせ、靴下も脱がせた。

「い、やだァァ……! ァ、め、りー、もう」
「いやなら、押したらいいのよ。簡単なことでしょう」

 んー、とメリーは親指ほどの太さの杭を取り出した。先端が鋭く尖っている。

「これ、心臓に突き刺したら、死んじゃうかしら」
「ひ……ッ」
「大丈夫よぉ、そんなことしないわ」

 けらけら笑いながら、メリーは金槌を取り出した。蓮子の足の、親指と人差し指の間に杭を置き、それを叩いた。二度、三度。ゆっくりと先が沈んでゆく。痛みは、ない。指が多少広がる程度で、親指と人差し指の間は、まだ余裕がある。
 完全に、打ち込みはしない。まだより深く刺せる状態のまま、んー、と呟き、メリーは二本目を人差し指と中指の間に置いた。

「や、やだ! メリー! お願い、やめて……い、ッ……!」

 蓮子がようやく起こることに理解が及び、メリーの名前を呼んだとき、打ち込まれた衝撃に蓮子は恐れの声を上げた。まだ、痛みは弱い。悲鳴を上げるほどの強さはない。隙間が、余裕が失われてゆく。めり、めり、と音を立てて、細い指の骨が軋み、蓮子の呻き声と重なって不協和音を奏でてゆく。
 杭が打たれてゆく。蓮子の、裸の指の間に、四本の杭が並んでいる。鋭く尖った先端を、半ばまで床に埋めて。
 メリーは力一杯に、その杭の上を叩き、纏めて打ち込んだ。抵抗が、力任せの打撃で、蓮子の指の間に生まれた。

「ぎ、ッいいいいいいいいあああああああ! あ、あぐ、うあああああ!」

 メリーが金槌を振り上げる度、杭は深く突き刺さり、蓮子の指は醜く歪んだ。メリーが愛した蓮子の一部。可愛らしい指先。撫でて、頬ずりして、舐めて愛おしみたくなるかつての姿は、もうそこにはない。それでも、メリーにとっては愛しいものらしい。一頻り打ち付けてしまうと、メリーは蓮子の指先に触れた。打込が過ぎて荒い息をしている蓮子が呻く。

「どう? もう嫌になった?」

 その言葉に蓮子は答えず、痛みに耐えて俯きながら、傷だらけの指先をぎゅっと握り込んだ。絶対に、何があっても押さないと、態度で示して見せた。
 メリーもまた。その態度に言葉を返すことはなく、天を仰いだ。絶望に身を任せるかのように。そして、振り上げた金槌を、無傷の左足へと振り下ろした。ずしりとした鉄が、メリーの非力な腕力と、振り下ろされる加速度を伴って蓮子の足の甲にめり込んだ。

「、ッああああああ!」

 単純な暴力。メリーが初めて見せた、感情の色。乱暴に、力任せに、痛めつける。

「うるさいなあ」
「痛い……痛い! やだ! やめて、メリーッ! ああ、あぐううぅ……っ!」

 メリーは蓮子の悲鳴を意に介することなく、何度も、何度も、乱暴に、金槌をその重みのままに振り下ろした。涙を撒き散らして喚く蓮子の悲鳴が、一つの線を越えてぱたりと止んでも、メリーはその腕を止めようとはしなかった。
 が、ご、と打撃音と、ぐち、ぶち、と、肉の潰れる音だけが響く。
 が、がつっ、ごつっ。ごっ。
 ぶち、ぐち、どちゃ。

「………………………………」
「はっ、は……は、ぁ、はぁ」

 滅多打ちにしていたメリーが、ぺたりと床にお尻をつき、金槌を持った手を床に下ろした。見上げる蓮子が、気を失っているのを見て、メリーは金槌を床に放り投げて、膝をついたまま、工具箱からカッターナイフを取り出した。かちかち音を鳴らして刃を引き出すと、袖を捲りあげて、力を込めて腕に刃を走らせた。肉を切るように出来てない刃に引かれて、ぶちぶちと音を立てて肉が切れた。斜めに赤い筋が走り、ゆっくりと血が流れ出す。メリーは流れている血さえ見えないかのように二度、三度と刃を引っ張った。そのたびに筋が生まれ、血が流れた。





 蓮子が目を開いたとき、メリーはカッターナイフを握ったまま、両手をだらりと下ろしていた。メリーは蓮子が目を開けているのに気付くと、僅かに微笑みかけた。自身切り裂いた傷のせいで、メリーも凄い汗をかいている。
 蓮子は、目を覚ましたお陰で蘇った痛みに耐えながら、メリーに呼びかけた。

「メリーっ……う、ぐ」
「痛いでしょう」
「メリー! 腕、が」

 あぁ、とメリーが歌うように言い、自身の腕を省みた。ぽたりぽたりと、いくつもの筋から流れ出た血が合流して、指先から床へとこぼれ落ちていた。メリーの可愛らしい服も、血まみれだ。

「蓮子は優しいのね」
「当たり前でしょう……っ! お願いだから、止めましょう、メリー……。メリーも、傷付いてるのに……」
「……? 私は、蓮子を痛めつけてるのよ。どうして、私の心配をするの。自分の方が痛くてたまらないはずなのに」
「メリー……? ど、うしたの、メリー……」
「私は。蓮子にとって悪い人でしょう。嫌いって言ってよ。もう止めて、消えてって、どうして言ってくれないの」
「メリー。……メリー。お願い。しっかりして。私、メリーのことをそんな風に思ったことなんて、ないから」

 蓮子は痛みに耐えている。片足は指がばらばらになり、もう片足は金槌で滅多打ちにされた。指は、十指全てがもう、使い物にはならないだろう。……その現状から、蓮子が未来を考えていられるかどうかは、分からない。だが、決まっている。蓮子は元の学生には、戻れないだろう。学業を続けることは可能かも知れない。だが、以前のように大学に通い、自分の足で歩き、自分の指で文字を書くことは、叶わない。かつての蓮子は破壊された。メリーが。蓮子の親友が、そうしたのだ。
 メリーは蓮子の言葉が気に障ったようだった。かっとなると、メリーは再びカッターナイフを手に取った。癒着が始まっている傷痕に、再び突き立てる。

「やめてぇ! メリー! どうして自分を傷つけるの?」
「あなたが……こうしてくれないから……!」

 握り込むようにして、傷口に抉り込むようにして。自身を傷つけるメリー。蓮子はその様子を直視できず、目を逸らした。

「……どうしたら。蓮子は、私のことを嫌いになってくれるかしら。こんな風に、痛めつけても駄目なら」

 メリーは蓮子に近付き、首元にカッターナイフを近付けた。諦めたように蓮子は、メリーを見上げた。声を上げもしなかった。

「………………………………」

 メリーは、蓮子の服の襟元に刃を当て、力任せに引っ張って上着を破いた。肌を少し切って、蓮子が呻いた。

「やだ……メリー、やめて」
「嫌いになる?」
「ならないよ……お願い、メリー」

 メリーは蓮子の下着を切った。破かれた服から、蓮子のおっぱいが覗いている。メリーはカッターナイフを脇に置くと、蓮子のおっぱいを掴んだ。乱暴で、愛情のかけらもなかった。

「ひ! やだ、やめて、メリー」
「なんだ。簡単じゃない。最初からこうすれば良かったんだ」
「やだぁ……やだ、こんなの……こんなの、嫌だ……メリー」
「固くなってきたよ……乳首。こんなことされてるのに、感じてるの?」
「い、やぁ……それ、は……メリー、が……」

 メリーは乱暴に胸を掴んでいた掌を、離してしまった。代わりに、さっと蓮子の胸元にメスを突き刺した。目にも止まらぬ速度。手に取ると、振り向き様に。蓮子ははじめ、痛みも感じなかった。カッターナイフとは違う。細く、鋭く、良く研がれている。肉を切るための刃だ。蓮子の胸に、さっくりと、抵抗感も示さず侵入した。

「……え?」
「……………………」
「あああぁぁぁ! い、いっ、あ……あぁ」

 一瞬遅れて、血が溢れ出て、蓮子は悲鳴を上げた。さっと引き抜く。刃から血が滴り落ちて、血が残っている気配もない。返す指先で腹部を突き刺す。

「うああああああ! 痛いいぃぃい! おねが、メリー……! 死んじゃう、こんな、の! あぁ、あぐぅう……っ!」

 血が、だらだらと流れ落ちている。まだまだ、叫ぶだけの元気があるということは。まだ、死なない。メリーは意志を決めた。心臓の位置を探した。もし心臓に刺されば、そのまま死ぬはずだ。元々、ショック死してもおかしくないほど痛みを与えているのに生きているというのは、蓮子の生に対する意志が強いのかも知れない。
 なら。殺そう。メリーは覚悟を決めた。全てを捨て去る覚悟を。
 メリーに医学的な知識は全くない。ただ、胸にあるということだけの知識で、左のおっぱいの少し上を、メリーは突き刺した。

「あ……? ぐ、ご」

 蓮子が奇妙な声を上げ、喉から血が上がってくる。ごぼ、と声を上げ、蓮子は悲鳴も上げなくなった。二度、三度と突き刺しても、同じだった。蓮子は頭を項垂れ、身体から力はすっかり抜けて、死んでいた。

「あぁ」

 死んだのかな、とメリーは思った。死んだ。私が殺したのだ。私が一人、逃げるために。





 私が見ている前で、メリーは灯油を撒いた。蓮子に振りかけ、部屋にも撒いた。

「素敵な恋人、蜂蜜、溶かしていく、ぅ……」

 古い歌を口ずさみながら、メリーは空になった灯油缶を蹴っ飛ばすと、マッチを擦って蓮子に投げた。灯油を吸っていた服から激しく燃えて、蓮子の身体を炎が包んだ。部屋に撒いた灯油にも燃え広がって、途端にメリーも炎に包まれた。メリーは、痛みも熱さも気にせずに立っている。メリーは息絶えた蓮子に歩み寄り、跪くと、その顔を持ち上げ、胸元に顔を寄せた。その様子を、炎の揺らめきの向こうに、私は捉えている。

「なんだ……」

 私は、メリーの囁きを捉えている。

「最初から、こうしてれば良かったんだ」

 囁き、頽れ、一つになって、二人が炭化を始める。
 私は間もなく、役目を終えるだろう。恨みがないと言えば嘘になる。こんな風に終わるのではなかったと思うと、殊更に。
 だが、今は。私は私の持ち主のことを思いながら、最後の役目を果たしている。この映像は、誰かに見られることはないが、もし誰かが見るなら、けして喜ばない、最低の出来だろう。だけど、私は。どうしようもなく、炎に包まれながら、燃えてゆく二人を映し続けている。
 ひっひっふー。
 どうしてこんな物語になったか自分でも分かりませぬ。思ったよりも純愛風味。
R
作品情報
作品集:
4
投稿日時:
2012/07/05 18:28:16
更新日時:
2012/07/06 03:28:16
評価:
6/6
POINT:
580
Rate:
17.29
分類
メリー
蓮子
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POINT
1. 100 box ■2012/07/06 15:29:17
純愛じゃなくてヤンデレや
間違いあらへん
だが故に素晴らしい
2. 100 名無し ■2012/07/06 23:26:10
よい
3. 100 んh ■2012/07/06 23:33:42
むしろこういうのが正統派秘封だと思うんだ
4. 90 名無し ■2012/07/12 02:32:38
秘封は幻想郷ではなく現実に生きておられる方々で、
後戻りの効かなさは自分達と同じはずなのにこういう行為に及ばれると、
数倍胸にきますね

恥ずかしながら、カメラに意識があることを理解するのにちょっと時間がかかってしまったのです
5. 90 名無し ■2012/07/18 19:55:35
私さん置いてきぼり
過程を気にするなら、用意周到に準備をしないか。
話はよかったがメリーちゃんがアレだったね。
6. 100 レベル0 ■2015/03/20 00:43:29
臨場感バツグンですね。
狂ったメリーこえぇ……
名前 メール
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