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『「マキャベリにして曰く『あらゆる手段は目的のためならば正当化される』」』 作者: 穀潰し

「マキャベリにして曰く『あらゆる手段は目的のためならば正当化される』」

作品集: 4 投稿日時: 2012/08/24 16:50:50 更新日時: 2012/09/08 03:55:57 評価: 6/7 POINT: 610 Rate: 15.88
「秘術『グレイソーマタージ』!!」

高らかに響く声。その声を媒介にして現人神の少女―――東風谷早苗が自身の持つ力を発動させる。
それは今正に彼女に飛びかかろうとした巨猿に着弾すると、彼女の倍はあろうかと言うその巨躯を弾き飛ばす。
最後の悪足掻きか、耳が痛くなるような断末魔を残しその身を弾けさせる巨猿。
自身の頭上から降り注いでくる肉片と爆風に、しかし眼は逸らさず険しい視線を向けたままの早苗。
降り注いだ残骸が砂となって消えて、彼女は初めて肩の力を抜く。

「ふう……」

重い溜息と共に、御幣を下ろす。彼女の特徴的な衣装は至る所が裂けており、またその柔肌も無傷とは言い難い状態だった。
そして何より、いくら人を襲う妖怪とは言え『命を奪う』事は、つい最近までただの女学生だった早苗にとって、予想以上に精神力を消耗する行為だった。
周囲へと札を飛ばし、簡易的な結界を作り出してその中で人心地付くが、流石に疲れ切ったのか、その場へとへたり込む早苗。

「気が抜けてるわね」

そんな彼女に掛けられる声。ふと視線を向ければ上空から彼女の傍に降り立ってくる影。
特徴的な、そして早苗と同じく脇が開いた巫女服。しかし彼女と違うところはその衣装が紅と白に染められていること。

「あ、霊夢さん」

自身の傍らに降り立った少女に、早苗は声をかける。その声に応えず、霊夢はただ彼女をちらりと見るだけ。
その視線に様々な感情が込められていることに早苗は気づけたか。

「また、あんたの方が先だったわね」
「勿論ですよ」

ぼそりと呟いた霊夢の言葉を、ただの確認だと思ったのだろう。疲れにいくらかの得意さを混ぜて早苗が表情を作る。
幻想郷にきてまだ日の浅い早苗にとって、先輩とも言える霊夢より先に動けるのはそれだけで自慢になる。ましてや厳密には違うとは言え、彼女達は似たり寄ったりの職種。おのずと相手に対し『負けてなるものか』なんて思っても仕方の無いことだ。
さらに早苗は霊夢と違い、『信仰を得る』ことに執着している。それ故人一倍行動にも力が入るという物。

「こちらにもだいぶ慣れました。妖怪退治をすれば、私の修行にもなりますし、信仰も増えて一石二鳥です。」

土を払って立ち上がった早苗がふふん、と自慢げに霊夢に視線を送る。必然的に上背のある彼女を見上げる形となった霊夢は、ただ冷ややかな視線を向けるだけ。

「なにごとも、ほどほどにしておきなさいよ」

それだけ言うととん、と地面を蹴り空へと消えていく霊夢。その言葉をただの負け惜しみと取ったのだろうか、彼女の姿が視界から消えるまで、早苗の得意げな表情は消えることはなかった。


「と、そんなことを言われたのですが……」
「まぁあの巫女も本職だからね。こう言っちゃ何だけど、新参の私達に横から仕事をかっさられればいい顔もしないさ」

家事を片付けながらの早苗の言。それに応えるのは幼い少女の声。

「しかし私達は里の人達から頼まれて動いているのですが……」
「まぁそれだって、早苗の方が頻繁に里に行くから頼みやすいってだけだからね。立地条件で頼み込むって考えればどっちもどっちだよ。それにあの巫女はそうそう簡単に動くわけにはいかないんじゃない?」
「そう、でしょうか……」

いまだ不満げな早苗の声に、苦笑を混ぜた少女―――洩矢諏訪子。その瞳はむくれる幼子を見る表情そのもの。

「まぁ私は『早苗が頑張ってくれれば』それで十分だけどね」
「有難うございます。……しかし、最近になって妙に妖怪が活発になってますね。私達が来た時分にはこれほどでは無かったと思いますが……」
「そうだねぇ……まぁ暴れてる妖怪も殆どが土地に関与した奴らばかり。人間達との住み分けが上手くいってないのかもね」
「そうなると私達の領分ではないと思いますが……話し合いの段階は過ぎているのでしょうか」
「こういっちゃ何だけど、私にとっちゃやっぱり信仰してくる側の方が大事だからね。それが妖怪にしろ人間にしろ。慈善事業じゃ腹は膨れないのさ」

根が真面目故に、簡単に割り切ることの出来ない早苗が眉を顰める。人と神の意識の差か、彼女からすれば諏訪子の思考は冷たいとまで言える。

「まぁこの辺りが分かればちょっとは成長するだろうね。ああ、そうだ早苗。今日はちょっと付き合って欲しい所あるんだけど、いいかな?」
「はい? それは構いませんがどちらまで?」
「ん、ちょいと天狗の集落にね」

そう言った諏訪子の瞳がぬらり、と光を反射した。


天狗の里、白狼天狗の集落。そこに一際大きな屋敷が一つ。他の屋敷から幾分か離されて建っているその屋敷―――蔵と言った方が近いか―――の前で諏訪子と早苗は白狼天狗の一人に出迎えられた。

「お待ちしておりました、洩矢様。本来なら里を上げて歓待させて頂くところを、このような始末にて申し訳ありません」

族長とおぼしき雄の白狼天狗は、言葉を体現するかのように頭頂部の耳を垂れさせる。それにぱたぱたと手を振ることで応える諏訪子。

「何の何の。急に話を振ったのはこちらさ。むしろよく準備してくれたよ。それじゃあ悪いがそのまま続けてくれ。新鮮な方がいい」
「では、失礼を」

諏訪子に頭を下げると、挨拶もそこそこに各自散っていく白狼天狗達。彼らの姿は一様に汚れている。山伏に似せた衣装の所々に紅い斑点をつけた者も居れば、上半身をさらけ出し、口元を布で多い汗を拭う者も居る。さらに屋敷から出てくる者と言えば、どこか目の据わった物騒な連中ばかり。その腰や手に巻きつけてある布が紅く汚れていることに早苗が不審の声を上げる。

「諏訪子様……彼らは?」
「ん? ……ああ、早苗は知らなかったのかい? 白狼の連中には私達の贄の仕込みを頼んでるのさ。祭事を取り仕切るのは早苗の仕事だけど、材料の仕入れまでは手が回らないからね。私ら自身が出張るのも何か風が悪いってことであいつらに任せてるんだよ」
「初めて聞きますが」
「だって早苗に言うと自分からやりますって言うだろ? でもそれじゃ駄目なんだよ。贄ってのは弾幕ごっこで仕留めるような物じゃない。ちゃんと殺し殺される覚悟を持った上で手に入れるものなのさ。言葉は悪いけど、そういう点で見れば早苗はまだまだ子供だからね。それにそうやって仕留めたほうが色々と都合がいい」

子ども扱いされたと思った早苗が唇を尖らせる。その分かりやすい反応に肩を竦める諏訪子。
そんな二人に何かを抱えた族長が近づく。

「諏訪子様、こちらを」

そう言って白狼天狗の一人が差し出したのは一抱えほどもある桶。その中にはそれとわかるほど臓物やら血やらが押し込められている。まるで毛皮の代わりに桶で包みましたといわんばかりの量。見た目はもとより、そこから漂う一層の臭気に早苗が顔を歪める。
だがそんな彼女とは裏腹に諏訪子は嬉々としてその桶に近づくと、躊躇うことなく手を突っ込み、内容物を引き上げる。

「おおう、こりゃこりゃ。中々に立派だねぇ」

どこか恍惚とした表情。その言葉に白狼天狗が頭を下げる。

「御山の北谷の『巨大な雌猿』です。土地では主として崇められるほどでした。仕留めるのに十人がかり、内三人が返り討ちにあっております」
「それは残念なことだ。だがなるほど、言うだけの事はある。こいつは随分と、『詰っているね』」
「は」

諏訪子の言葉に神妙に頭を下げる天狗。彼女の言葉を図り損なった早苗が一人怪訝な表情を作る。

「早苗を連れてきたのはこれを見せるためでもあるんだ。いつまでたってもおんぶに抱っこじゃ駄目だろう? いざと言うときには自分でも仕込めるよう今のうちに慣れてもらおうと思ってね」

そう言って諏訪子がはい、と持っていた桶を早苗に向ける。そこから漂う強烈な臭気と何より目に厳しい物体に早苗が思わず唸り上体を引いた。

「あ、あの、諏訪子様のお気遣いは大変有難いのですが……その」
「大丈夫だって。噛つきゃしないよ」
「そ、そういう問題では……」
「まぁまぁそう言わず。早苗も慣れることは重要だよぉっとぉッ!?」

桶を抱えたまま近づいた諏訪子が何かに蹴躓いた。結果彼女が持っていた桶は放り出されることとなり、その終着点には腰の引けていた早苗が。

「きゃぁっ!?」

避ける間もなく、全身に臓物と錆び臭い液体を浴びる早苗。それを引起した諏訪子はあー…と呟くだけ。

「う、うわぁ……!! ひ、酷いですよ、諏訪子様ぁ!!」
「いやぁごめんごめん。思ったりよ中身が多くてさぁ」

口の中に飛び散った血やら肉片やらを吐き出しながら恨めがましく諏訪子を睨む早苗。それにさしたる誠意も込めず、半笑いで謝る諏訪子。
すっと近づいてきた天狗が、手拭を差し出す。

「東風谷殿。その姿では何かと差し支えます、湯を準備しますので一度お流しください」
「え……あ、有難うございます。でも代えの服が……」
「それは我々の物でご容赦を。お召し物が乾き次第お届けにあがります」

まるで準備していたような手際のよさ。だが自身に降りかかった災難に辟易している早苗はそのことに気付く余裕がない。

「え、いえ、そこまでして頂かなくても……」
「これも守矢の巫女様を思えばこそ。どうかご遠慮なさらず」
「いいじゃん、早苗。ここはお言葉に甘えとこうよ。素っ裸で歩き回るわけにもいかないでしょ?」
「全部諏訪子様の所為なのですが」
「あはは、ごめんごめん」

反省した色を全く見せない諏訪子に、もはや呆れ声も隠せない早苗。だが流石に身の汚さの方が上回ったのか、天狗に礼を言うとそそくさと湯殿へと案内されていく。
その後ろ姿を見ながら諏訪子がぼそりと呟いた。

「いやぁ……可哀想なことをしちゃったねぇ」


それからしばしあり。今日も今日とて早苗は妖怪退治に勤しんでいた。
今日の相手は里に近い森に住む大百足。もとが蟲だった所為か、それと気付かれることなく街道を行く人間を捕食していた狡猾な妖怪である。自身の大きさとある程度の知恵が回ることからそれなりに生きてきた妖怪であることは分かる。
だが、そんな妖怪も『神の力を借りる』早苗の前には今一歩だった。今やその長大な体躯は節々で引き千切られ、小汚い体液を垂れ流している。

「はぁっ……はぁっ……!!」

しかし早苗の方も随分と消耗が激しい。『予想以上に力を使ってしまった』ことに表情を歪めつつ、早苗がふと気を抜いた瞬間。

ぞるるるるるるるるるる!!

気が悪くなるような音を立てて百足の頭部が早苗へと飛び掛る。完璧に倒したと思っていただけに早苗もその奇襲に対応しきれず。

「!? あ゛っぁあああ゛あ゛ああ!!」

思わず身体を庇ったその柔腕に、深々と牙を差し込まれる破目となった。激痛と、それ以上に「妖怪に噛み付かれている」という事実に涙を浮かべつつ、それでも歯を食いしばり、反撃する早苗。
だが彼女の攻撃が炸裂するより早く、腕に噛み付いていた頭部がぼとりと落ちた。
最後に一矢報いてやったと言わんばかりに塵となって消えていく残骸に怨めがましい視線を向ける早苗。かと言って彼女の憤りを向ける相手はもう居ない。
だからこそ。

「ご苦労様」
「おや、霊夢さん。随分とゆっくりしたご到着で」

おそらく早苗を同じ仕事を請け負ったであろう霊夢に、棘のある言葉を吐いてしまっていた。
その言葉に、僅かに眉を上げる霊夢。
だが、痛みと憤りに支配されている早苗にそこまで気遣う余裕は無い。

「聞いてますか? この妖怪、子供を5人も食べてたようですよ。慧音さんはともかくとして、調停者である霊夢さんにしては随分とのんびりした対応ですね」

たかが一妖怪に苦戦した不甲斐無さと、負傷した痛みと、霊夢がもう少し早ければこの怪我もなかったという理不尽な怒り。そのすべてがごちゃ混ぜになって早苗の口から八つ当たりと言う形で飛び出す。

「ちょっと大結界の方に綻びがあってね、そちらが予想以上に手間取った所為よ。文句なら冬眠してる紫に言って」
「まずは目の前の懸念事項を片付けてから仕事をして貰いたかったですね」
「別にいいじゃない。早苗一人で十分片付けられたんだし」
「ッ!!」

冷めた、というより小馬鹿にしたような霊夢の台詞に早苗が眼をむく。普段は温厚な彼女とは言え、自身の柔肌に傷を付けられ、なお人を擁護できるほど成熟していない。

「ま、早苗と口喧嘩しにきたわけじゃないし。片付いているのならお先に失礼するわ。……ああそれと」

視線だけ向けた霊夢がそう言い放つ。

「気をつけなさい、早苗。あんた相当『汚く』なってるわよ」
「すみませんね、何処かの巫女さんと違って忙しかったものですから!!」

いまだ興奮冷めやらぬ早苗が皮肉に返す。それにただ溜息をついた霊夢は静かにその場から去っていった。


「全く……あの人は……」

憤り冷めやらぬ頭のまま、早苗は空を飛んでいた。あの後―――霊夢の八つ当たりした―――人里に一応の解決を伝え、そのまま帰路に着いたのだ。

「そもそも霊夢さんがもっと早く来てくれていれば私だって……」

そう言って自身の腕を見る早苗。あのムカデに負わされた傷は布を巻いて応急処置をしてあるが、それ以上は行えていない。
全ては里人達に負傷したことを隠したことに起因している。
もっとも隠した理由も『負い目に感じさせたくない』や『いらぬ気遣いをさせたくない』などという殊勝な心がけではなく、ただ単に『格好悪い』といらないプライドが働いた所為であるが。

「……痛いなぁ」

今更のように呟く早苗。噛み付かれた場所がじくじくと焼けるように熱い。
毒でも持っていては事だ、早く帰って治療しないと。
僅かに焦った彼女は徐々にその速度を上げ。

「あがっ!!」

唐突に背中に走った衝撃に空気と一緒に声を吐き出した。
付いていた慣性をすべて下向きへと変えるほどの衝撃。そんな物を背中に受けたのだから当然早苗の意識も急転直下である。
辛うじて視線を上方と捻った彼女の視界が捕らえたものは特徴的な山伏のよな衣装。
それだけを頭に焼付け、早苗は遅い来た衝撃に意識を手放した。


「……うぅ……」

自身の呻き声で意識を取り戻した早苗。次第に明確になる視界と、逸れに伴って襲い来る全身の痛み。
特徴的な衣装が仇となり擦り傷、切り傷、打撲はもはや数えるのも嫌なほど。骨折などの重傷が無いのが不思議なほどである。
何とか立ち上がって辺りを見渡せば、空には既に星の姿。里を出たのが夕刻過ぎだったから随分の間眠りこけていたようである。

「何で……」

彼女の口から漏れたのはそれだけ。先程―――といっても随分前だが―――自身を叩き落した者の正体に首を捻る。
顔までは確認できなかったが、あの特徴的な衣装は天狗の一派。しかも単機となるとそれなりに腕の立つ輩であることがわかる。
だが理由がわからない。むしろ山の神の巫女である早苗に手を出すなど、それこそ諏訪子と神奈子に対して喧嘩を売っているようなものだ。弱きを挫き、強気に媚びる天狗のやることとは思えない。

『早苗、随分と帰りが遅いようだけどどうしたの?』

思考の海に沈んでいた早苗を引き上げる声。それは自身の髪飾りから響いている。

「諏訪子様……申し訳ありません。少々厄介なことに巻き込まれたみたいで……」

二柱との通信機の役割を持つそれに応える早苗。それにややあって諏訪子からの声が戻る。

『……厄介なこと?』
「はい。先程里からの帰路で……」

そこまで声を発して早苗はふと気配を感じた。そしてそこでようやっと現状を理解するとともに、彼女の顔面から血の気が引く。
何せ彼女は『妖怪の跋扈する時間帯に、これまた妖怪の跋扈する場所で暢気に立ち話をしていた』のだから。

ぐるるるるるるる……

直にその場を去ろうとした早苗の背後からうめき声が聞えた。思わず振り向く早苗。
ここで彼女は一つミスを犯す。それはわざわざ動きを止め、声の主を確認しようとしたこと。
もし呻き声を無視し、そのまま空へと飛び立っていれば、今後の展開も少しはマシになっていたかもしれない。
だが結果として早苗は逃げるタイミングを逸し、その声の主と対面する破目になった。
ガサガサと茂みを掻き分け彼女の前に姿を現したのは人間の子供ほどの大きさの猿。ただしその四肢は棍棒のように太く、全身を覆う黒い毛は針金のように鋭い。そして極め付けば紅く光る双眸が、その猿がただの動物ではないことを如実に語っていた。
どこかで見たことがある、そう考えた早苗の思考の隙を突き、猿が地面を蹴る。
その速度、人間が見切るには過ぎたる物。早苗が慌てて弾幕を展開しようとして。

「え?」

何も起きなかった。普段見慣れた鮮やかな弾幕は一発たりとも生み出されなかった。
しかし早苗に原因を理解する暇は与えられなかった。

「あぐっ!?」

懐へと飛び込んだ猿がそのまま早苗の腹部にタックルをかます。柔らかい腹部に衝撃を受けた早苗が吹き飛び、背後の立ち木へと激突。前後からの衝撃によって情報伝達が一瞬途絶えた体から力が抜ける。
その隙を逃さず、猿は早苗の身体を引き摺り倒し、そのまま仰向けにした彼女の上に圧し掛かる。

「ひ……ぃ」

ロクに体を動かせない早苗から漏れる小さな悲鳴。彼女の動きを封じた猿が、べちゃりとその下で早苗を舐める。

「ぃやぁ……!!」

顔面に掛かる生臭い息と生理的嫌悪感を感じる感触に、早苗が涙を浮かべ。
ふと彼女は気付いてしまった。

「……ぇ」

自身に圧し掛かっている猿、その股間から一本の杭が立っていることに。

「……うそ」

いや、杭などと遠回しな表現は辞めよう。つまるところその猿は早苗に発情しているのだ。
まるでそれに早苗が気付くのを待っていたかのように、猿は雄たけびを上げる。
その遠吠えに「幾つもの声が返ってきた」ことに早苗の表情が絶望に染まる。
まさか。
あたって欲しくない予感に突き動かされ、視線だけで周囲を見渡せば。

「は……は……」

こちらを覗く無数の『紅く輝く双眸』。これから起こるであろう事態を察した早苗はただ歯を鳴らすだけ。その内心を絶望が染め上げる。
そんな彼女を見下ろして猿が、ふと唇の端を吊り上げた。

「いや……」

弱弱しい悲鳴を皮切りに周囲から姿を現す猿、猿、猿。その全ての個体の股間から脈動する肉棒が立ち上がっている。

「いやぁ……いやぁ!! 誰かぁっ!! 誰かぁぁぁあああっ!!」

最後の力を振り絞って吐き出された悲鳴は、誰にも届かなかった。



「遅いなぁ……早苗」

境内内をあっちにうろうろ、こっちにうろうろしているのは諏訪子。数刻前に早苗から少し連絡が入ってきて以来何の音沙汰も無い。
探しにいこうにも彼女がどういうルートで帰ってきているか分からない以上、下手に神社を空ければすれ違いになる可能性がある。
狭いようで広い幻想郷。いくら土地神とはいえ、その全てを把握できるわけでない。
彼女に出来るのは土地に干渉し『土地の境界を弄る』程度だ。
そんなことを考えていた諏訪子の耳に、じゃり、と地面を踏みしめる音が届いた。
視線を其処に向ければ、何時からいたのだろうか、まるで幽鬼のように佇む早苗が。
慌てて近づいた諏訪子は、暗がりから進み出た早苗の姿に息を呑む

「そんな……早苗……」

辛うじて服だったと分かる程度の襤褸切れを纏い、顔や体中を痣や切り傷で彩り、口内や股間や全身から生臭い臭気を漂わせている彼女は、その空ろな目を諏訪子へと向けると酷く弱々しい笑みを浮かべ。

「戻りました……諏訪子様」

そう呟くと同時に崩れ落ちた。彼女の姿を見て全てを悟った諏訪子がその身体を優しく抱きとめる。

「申し訳ありません諏訪子様……私、ちょっと汚れちゃいました」
「いいよ!! そんなことはどうでもいいから!! 本当に……本当に心配したんだから!!」

涙を零さんばかりの諏訪子の声。それだけでささくれ立った早苗の心は穏かになる。
ああ、そうだ。この神様だけは私の幼い頃からこうだった。
何時でも傍にいてくれて、何時でも私を見てくれて、まるで本当の母親のような存在だった。

「諏訪子さまぁ……」

酷く汚されたからこそ、諏訪子の優しさが嬉しかった。だから早苗は諏訪子を安心させようと、笑みを浮かべ。

「本当に、心配したんだよ? だってヤられすぎて死んじゃ意味が無いんだから」

その笑みを凍りつかせた。

「……ぇ? すわ、こさま、今……なんと?」
「ほんとねぇ、妖怪も元気がいいのはいいんだけど限度を知らないからねぇ。前の巫女みたいに壊れちゃ意味が無いのに。まぁその点今回は出来るだけ人間に近い種族を選んだからそこまではいかなかったみたいだけど」

呆れたように呟く諏訪子の言葉は早苗の耳から脳へと到達し、中身をかき乱した。
この神様は一体何の話をしているんだ?
表情を凍りつかせたままの早苗の思考は、その一文で支配されていた。
それがようやっと彼女の表情に出たのだろう、諏訪子がその幼い顔に笑みを浮かべる。

「私達の信仰を集めるにはどうすれば? 地道な信仰布教も大事だけど、根本的なことを忘れてないかな?」

唐突に始まった語り。その真意を取り損ねた早苗に、その口上を止める術は無い。

「私達の巫女が力をつければ、それだけ神徳も奮い易くなるさ」
「じゃ……じゃぁ……」
「でも駄目だね。人間の短い生じゃ高めるにしても限界がある。じゃあどうすればいいか、簡単だよ、私達が濃縮してやればいい」

もはや阿呆のように口を開閉させるだけの早苗に諏訪子が慈愛に満ちた視線を向ける。

「早苗。私の本質を忘れたのかな? 私は祟神、それが求めるのは畏れ、恐怖、穢れ、ありとあらゆる負の要素が私の糧。それら全てが私の力だ。そしてそれを集めて纏めて次の巫女に渡す。それを繰り返せばあら不思議、世代ごとに力を増していくってわけさ」

その口の端が吊り上る。嬉しそうに、楽しそうに。

「早苗はよくやったよ。外の世界ではイジメに、こちらの世界では大量殺人に病の蔓延、妖怪退治ではなく殺し、そして陵辱、おおよそ出来る範囲の汚れは全て受け止めてくれた。だからかな、早苗。私には貴方がとても『旨そう』に見えるよ」

裂けた口から伸びた舌が、べろりと早苗の頬を撫で上げる。諏訪子に抱かれ、ただカチカチと歯を鳴らすだけの早苗。
その瞳から一筋涙が零れ。

「……ふふ」

その乾いた唇から小さく笑い声が漏れた。

「ぁ……ぁあははははははははははは!!」

それはやがて凶笑へと変化した。今まで自身の身に起きた事全てが、自身を破滅させるためだと理解した少女は、ただただ涙を零し絶望の笑い声をあげるだけ。
そんな彼女の眼前に、巨大な大口が開かれ。

「本当に、よく頑張ったよ。早苗」

優しい声。それが彼女の聞いた最後の言葉だった。


数日後、博麗神社の縁側に霊夢と諏訪子の姿があった。

「オマエさんには世話になったね。本来なら自分の受け持ちまであの子の為に回してくれてさ」
「別に。そんな切羽詰って仕事するほど困ってなかったし。無いなら無いで構わないもの」

諏訪子の言葉に、お茶を一口啜り答える霊夢。

「……でも、早苗のことは少し残念だったわ」

少し声のトーンを落とす霊夢。それに応えるのは帽子の庇で顔を隠した諏訪子。

「無茶はしないように言い聞かせてきたんだけどね……本来の頑張り屋が仇になったよ」
「まだ見つかって無いんですって?」
「『天狗達も一緒になって探してくれている』けど……妖怪相手じゃ、おそらく見つからないと思う。残っていない、の方が正しいかな」

顔を上げた諏訪子が何処か遠くを見詰めながら言葉を紡ぐ。その横顔が霊夢には随分と大人びて見えたのは眼の錯覚か。

「……私が言うのもなんだけど、冷たいわね」
「何百回と『繰り返せば』自然とこうなるさ。慣れたくはないけどね」
「そう……それで? 守矢神社はどうするの? 私は嫌よ、ここだけで精一杯だし」
「期待はしてないさ。しばらくは氏子と妖怪達が何とかしてくれるよ。それに……」
「それに?」
「そう遠くない内に、新しい巫女も見つかるよ」
「……神様としての予言?」
「まぁ、そんなものかな」

そう言って、諏訪子はそれとさとられないよう『自身の下腹部を優しく撫でた』。


にたり。
まずはここまでお読み頂き有難うございます。筆者の穀潰しです。
地味に連動していたマキャベリシリーズもこれで一旦終了……するわけもないですね、はい。
ただまぁ、今後早苗さんを扱うとすればもう少し違う路線で行きたいと思います。
そう、それこそひたすらの受けか、神すら手玉に取る外道かといった風に。
問題は私の力ではそこまで書けない事なのですが。
あと早苗さんの獣姦シーンは諦めました(キリッ
何にせよ、少しでもお暇潰しになれば幸いです。


>NutsIn先任曹長殿
有難うございます。ほんと、早苗さん使い勝手の良い娘です。
諏訪子様もこういうことして違和感が沸かない辺り、中々のものだと思います。

>ぽちぽちぽーち様
有難うございます。
潰して凝縮して改善してを繰り返す、ある意味職人技ですね。

>キーハック様
有難うございます。盲信は身を滅ぼすという事を来世用に思い知った早苗さんでした。
没落自体は簡単に書けるのですが『出し抜いた上で』というのは私にとっては少々難易度が高いですね。

>5様
有難うございます。使い捨てだからこそ、一瞬が輝くのだと思います。
じゃあ来世で頑張ろうね、早苗ちゃん。
穀潰し
作品情報
作品集:
4
投稿日時:
2012/08/24 16:50:50
更新日時:
2012/09/08 03:55:57
評価:
6/7
POINT:
610
Rate:
15.88
分類
マキャベリシリーズ
東風谷早苗
洩矢諏訪子
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1. 100 NutsIn先任曹長 ■2012/08/25 07:44:09
早苗さんは良い娘ですね。ほんとうに、都合の良い娘ですねぇ。
二重括弧の言葉に、色々と彼女のためにお膳立てがされていることが分かりますねぇ。

獣姦といったら、和姦よりも、やっぱり無理矢理じゃないとね。
これがホントの『猿輪姦(マワ)し』。

神奈子様は直接的な軍事行動向けですから、こういった『仕事』は諏訪子様の十八番です。
早苗は最後まで、その身も命も、神に捧げたのでした。
3. 100 ぽちぽちぽーち ■2012/08/27 02:06:44
成る程、こうして続けていけば一粒で二度美味しいを永遠に繰り返せるんですね、諏訪子の策士め!
4. 100 キーハック ■2012/08/27 15:19:15
早苗の儚い一生に乾杯。
諏訪子を出し抜けるくらいになれればよかったのにねぇ。

神すら手玉に取る、外道な早苗の「没落」も見てみたいです。
5. 90 名無し ■2012/08/29 15:55:57
外道な早苗さんみたいです。
「次」は諏訪子をどうにかできるといいね!
どこまでいっても使い捨ての「早苗」かわいい!
6. 100 名無し ■2012/09/14 20:04:48
何百回って、早苗さん崇神にそんなに食べられているんですか?
それなのにこんなに純粋で無垢で(都合の)良い子なんて信じられない。
7. 90 名無し ■2012/09/15 22:26:54
>6 早苗さんじゃなくて、代々続けてきた行為じゃないの? 先代喰って早苗さんを生み出したとか。
何はともあれ、早苗さん美味しいです。
名前 メール
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