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『信仰と革命の果てに』 作者: まいん

信仰と革命の果てに

作品集: 5 投稿日時: 2012/09/24 14:40:02 更新日時: 2012/09/30 18:52:14 評価: 4/8 POINT: 440 Rate: 10.33
注意、この作品は東方projectの二次創作です。
   オリ設定が存在します。





「やぁ、おはよう! 今日も一日頑張ってくれよ!」

人々の雑踏が聞こえる一区画に寂しさを含んだ元気な挨拶が木霊する。
もし、知る人が彼女の居る場所を見れば疑問を問いかける事は想像に難くない。
挨拶を掛けられた人はそれぞれが一様に同じ格好で仮面を被った表情で軽い会釈をしていた。
日々繰り返される当たり前の日常に彼女がどう感じているかと考える事はそれぞれの自由であるが、
その表情からは満足や嬉しさといった明るい感情は読み取れない。

本来ならば、美しいブロンドをたなびかせる祟神や光の加減で緑色に見える髪を持つ現人神が
彼女の傍に居る筈だがその姿は見えない。 見えない、見える筈が無い。

早朝の勤勉な人々が行き来する場所は一応の静けさを取り戻した。
ムワッとした湿度に顔を少し顰めるも辺りを見回し表情を元に戻す。

「やる事が無くなってしまったねぇ」

何となしに独り言をつぶやく少女、いや神様。 正しくは皆の心の拠り所の神様。
平地の少し小高く設置された、元の姿とは似ても似つかない本殿に腰を掛ける。
何もする事は無い、何もする必要が無い。

必要な事は早苗がすべてしてくれる。 すべては……。

「早苗〜。……ああ、そうだった、早苗は、早苗は……」



幻想郷に産業革命を起こした守矢神社の神様、名を八坂神奈子と言う。
豊かな暮らしを求める事と元々の神様の気位が彼女に産業革命を起こさせた。

だが、彼女は忘れていた。 産業革命の後に来るものの事を……。
そして遠い昔、彼女達……八坂神奈子と洩矢諏訪子に訪れた悲劇を……。

産業革命を妖怪達の間に起こして数十年。
外の世界で何が起こったかは知る由も無い。
だが、確実に幻想郷の現実として幻想入りした学問があった。





それが、科学と工学。
嘗て神奈子と諏訪子が消滅する危機を迎えさせた学問である。

〜〜

胸に手を当てれば暖かさがあり、額に手を当てれば熱がある。
胸からは鼓動が聞こえ、手首や首からは脈が聞こえる。

だが、どちらも本物とは思えない。
見た事の無い、知って居る筈の無い記憶が彼女の考えを拒絶させる。

「はぁ〜、今いる場所を見れば当然だけどねぇ。
住んでいた場所とは似ても似つかないし、何より早苗や諏訪子が居ない」

神は人を助け、育て、学ばせ、発展させる。
そんな考えがそもそもの間違いだった。

神奈子は強く目を瞑り悔しがるように奥歯を強くかみしめた。

〜〜〜

「見てよ、神奈子。 まるで昔の再現をしているみたいじゃないか?」
「そうだね、諏訪子。 我々の知識を受けて人々が発展する、実に嬉しい光景だ」

神奈子と諏訪子は人里を一望できる場所で嬉しそうに会話をしている。

早苗のお蔭で信仰は順調に集まり、何より産業革命を起こして
電気の技術を広めた事が人間の目に大きく映っていた。

平等を唱えるだけの尼公や自身の格を上げる為に弟子を顧みない聖人に比べれば、
人間に利益をもたらす神を崇めない理由が無い。

人々の間に科学が浸透しても信仰は減る処か増える一方である。
それは、嘗ての彼女達の危機を忘れさせるには充分であった。

「産めよ増やせよ、学べよ伸びよ。 はっはっは……」

山に愉快な声が木霊した。
人里の周辺では森の伐採が今日も行われている。

〜〜〜〜

ゴウン、ゴウン、ゴウン……。

神社の周りに植林された木々が低い唸り声を響かせる。
若干ではあるが、重々しい空気が軽くなったように感じた。

「馬鹿だった、調子付いていた……」

強く目を瞑ったまま、神奈子は呟いていた。
その内容は過去の自分と今の自分の境遇を天秤にかけた結果ともいえる。

背中に背負っていた茅野輪は今は無い、神力の強力な力を顕現させる事も出来ない。
境内から出る事は出来ない、自殺する事も出来ない。
瞑っていた目を開き、空を仰ぎ見る。
空気自体に涼しさはあるが、空に輝く太陽は強い日差しを容赦なく降り注がせていた。

「眩しいねぇ、あれの所為で余計に日差しが強くなっているんじゃないかい」

目を細めたまま誰とも無しに呟くも、その言葉に帰す者は誰も居ない。
眩しさに耐えきれず顔に手をかざし、目線を落とす。
神社の周辺の道路には代わり映えの無い格好で人が移動している。

人々を見た神奈子は出来の悪い我が子を見る様な表情に変わるのだった。

〜〜〜〜〜

突如、人々は妖怪達に襲いかかった。
被害に遭ったのは嘗て魔法の森と呼ばれていた場所に住んでいた妖怪達。
今は森など殆ど無い、人が切り開いたからだ。

襲われた妖怪は人里の中でルールを守り、住んでいただけであった。
そのすぐ後に永遠亭が襲撃された。

まさか、蓬莱人達が負けるとは誰も思わないだろう。
永琳は最後に人の姿を捨て、畜生以下に成り果て、それでも襲い来る人に打ち勝つ事は出来なかった。

次に天狗、河童、寺衆に道教衆。
人に近い所から確実に倒されていく。
破滅に向かい無限に成長する人の探求心は妖怪に止める事は出来なかった。

遂に神々の番となった。
人々が敵対し信仰を失った神々に力なぞ無いも等しかった。

私は覚えている。
神殺しの機械を繰り出し、次々に両断される同胞の姿を……。
腐敗ガスと腐臭の混じる中、その装軌車が次々に同胞の亡骸を蹂躙する様を……。
必死の抵抗も虚しく、遂に私の番が来た。
体を掴まれ身動きの出来なくなった所を真一文字に両断された。

己の血とグチャグチャに散らばった内臓に沈み、意識の薄れる中に見た光景は、
腐れ縁の切れなかった諏訪子が生きたままミンチにされ断末魔の雄叫びを上げる姿と
自身の最後に泣き叫びながらも信頼し続けた私達に助けを求める早苗の姿であった。

………………

妖怪の大半を滅ぼし、残る掃討も消化試合になった人間の次の目標は人間であった。
嘗て異変の解決人として活躍した人々は同じ人々に捕えられ裁判にかけられた。
と言っても裁判とは名ばかり、魔女裁判と言っても良かった。

あの気丈であった少女達も三日三晩の拷問で嘗て自身が振るっていた人の恐ろしさを身をもって知る事になる。
拘束されている牢に血と欲に飢えた人々が入ってくれば、顔面蒼白になり失禁する程だったそうだ。

七日七晩の後の処刑。
処刑前の措置に体中に釘が打たれ、服の下はなます切りにされ、町中を引き回された。
磔にされて、後は生きたまま火炙りさ。
戦って死んだ方がまだ楽だったろうに……。

当然だが、戦えも戦わせてもくれなかったと思うがね。
幻想の大半を失い普通の女性である彼女達が科学で武装した人間達に勝てる道理も無い、
妖怪は人間に退治されるモノと思っている彼女達が妖怪側に付く事も無かっただろうね。

ここまでで不思議に思った事があるだろう、幻想郷の危機にある人物が何故出張って来ないか。

戦乱の最中に八雲紫が人々の中に消えたと聞いた者がいた。
彼女にどの様な策や思惑があったか今となっては闇の中だ。

だが、ふふっ。 知っているかい?
あの聡明な妖怪の賢者が回る頭でその最後を知った時、
まるで生娘の様に怯えていたのだよ?
その後に彼女を襲った責苦は、想像の何倍も何十倍も何百倍も酷いモノだった。

その生存が確認されたのは最後の魔女裁判が終わる直前、
火炙りにされている女性の前に瀕死の状態で放り出されたのが彼女の最後だった。

皆、死んだ。 皆、みんな、み〜んな。

妖精も妖怪も妖獣も
天狗も河童も鬼も
誰も彼もみ〜んな

残ったのは人間だけ。

〜〜〜〜〜〜

ピピッ、記録ノ再生ガ終了シマシタ。
神奈子の頭に電子音が響いた。

「ああ、知っているよ、覚えているよ。 忌々しい、死んだ後に脳まで利用するなんて
ここまで恐ろしい奴らを保護していたと思うと、過去の自分をぶん殴ってやりたくなるよ」

人々を見ていた神奈子はいつの間にか眉間に皺が寄り目つきも鋭くなっていた。
それに気付くと、ふーっと一息吐き肩の力を抜く。

目線を地平線に向けると、そこには木々も山も無い不毛の砂漠が広がっている。
手前の人々に目線を戻すと、防護服と防護マスクを被った人々が極彩色に染まった水の処理作業をしている。

境内の四隅の御柱、つぎはぎだらけの鋼鉄の筒。
ご丁寧に人の目線には”御柱に貨幣をうちこまないで下さい”という看板が貼ってある。

「ふっふふ、ここに来る人なんていないのに、つまらない所は再現してあるのね……何で私が……」

人々は文化も文明も大半を捨て去り、自身の脅威となる妖怪達を排除した。
すべてが終わり、復興を始めようという段になり人々は得体の知れない恐ろしさを覚えた。
人々の間で無用な争いが起こり、あわや戦争寸前になった。

そこで記録用の生体コンピューターから作為的に選ばれた個体があった。
それが、嘗て八坂神奈子と呼ばれていた神様。

人間はこの危機を脱する為に信仰による統一を図ったのだ。
この目論見は成功し、彼女は人々の信仰を一身に受ける事となった。

だが、その役目は傀儡よりも酷い。
周りに生を感ずる者はおらず、人の住めない場所に神社を建てられた。
行事以外で境内から出る事は出来ず、24時間体制で監視がされている。

“死ねない”とはそういう意味である。
自殺を図った事は一度や二度ではない。
その度に自分が自分で無くなる様な手術、いや修理を受け元の場所に祀られる。

「昔、自身の境遇と重ねて、車と電車の部品を半々に使って直した場合、
車と電車のどちらの名称で呼べば良いと悩んでいた者がいたな……」

彼女は目頭が熱くなる感覚を覚えた。
涙は出ない、不要な機能は既に淘汰されている。

「……もうやだ、死にたい。 静かに死なせて欲しい。
信仰なんて要らない、諏訪子も早苗も居ない世界なんて生きていても意味が無い」



ゴーン、ゴーン、ゴーン。

半球状のドームにけたたましいチャイムが鳴る。

[皆様、今日の勤労もご苦労様です。
第一工業地帯、高濃度汚染処理施設の作業終了の時間となりました。
これより夜間は作業禁止です。 皆様、作業お疲れ様でした]

〜〜〜〜〜〜〜

「また、夜が来た。 聞こえるのは水の音だけ……寂しい、寂しいよ」

一部屋しかない境内で横になる神奈子。 当然だが睡眠という不要な機能は淘汰されている。
体を丸め、寂しさに耐える彼女の耳に小さな声が聞こえた。
その声に懐かしさを覚え体を起こすも、すぐに幻聴だと諦めようとする。

だが、声は小さくなる所か段々と近づいて来た。
堪らず、覗き込む形で来客者を確認する事にした。

「文ちゃん、本当にここに神様が居るんですか?」
「そうだよ、椛。 大人が言っていたんだもん間違いないよ」
「でもでも、ここ立入禁止って書いてあったけど良いのかな?」
「早苗、神様が見たく無いの?」
「見たいけど……諏訪ちゃん、そんなに急ぐと……あっ」
「……うううっ……うわ〜ん」
「ああ、だから言ったのに、ほらほら泣き止んでね」

神奈子が見つけたのは子供、それも六人。
話し声が聞こえなかった二人は見てから気付いた。
それよりも驚いたのは、子供達の容姿だ。

羽や獣耳は無い、服装も現代風になっている。
どこか面影がある、まるで何百年前まで一緒に生活していたかのように。
子供達の姿に懐かしさを覚えて居ても立ってもいられなくなる。

ガタッ

「大丈夫かい?」

努めて冷静に威圧に聞こえない様に注意する、それが為に声は震える。
震えている声は緊張の為もある、何年も何年も待ち続けた会いたい人が目の前に居る。
脚も膝も震えている、重い足音を立てないよう心中を察せられないよう気を付けながら、
冷静に平静を装って近づいていく。

子供達の姿は、早苗に諏訪子、文に椛、雛ににとりと瓜二つであった。

「ほら、やっぱりいたよ」
「お姉ちゃんが神様?」

文の姿の少女が胸を張り、早苗の姿の少女が神奈子に尋ねる。

「そ、そうだよ。 私が神様だよ」

どことなくぎこちない話し口だが、彼女の話を聞いた子供達は
目を輝かせて感嘆の声を上げた。

「じゃあ、じゃあ、この町の歴史とかって知ってる?」
文に似た少女が聞く。

「私、町の発展の事が知りたい」
にとりに似た少女が聞く。

「戦争があったって聞いたけど人は幸せになったの?」
雛に似た少女が聞く。

「あの……昔、人から神様になったって人間のお話を聞きたい」
諏訪子に似た少女と手を繋いだ早苗に似た少女が言った。

目頭が熱くなる。 涙は出ない。 ここに来てから何度も何度も体験した。
それでも、今の彼女に訪れている気持ちはいつもとは違う。
寂しさや悲しさから来るものに打ちひしがれている訳では無い。

「いいぞ! 話してやる。 何でも聞いてくれ」

我先にと手を挙げて迫る子供達。
(こういう子供達がいるのなら、希望を持って生きる事も出来る)
心に込み上げる暖かな気持ちは彼女に希望を与えてくれるようであった。















だが、数時間後の神奈子は再び深い絶望に沈む事になる。

ここは、第一工業地帯、高濃度汚染処理施設。
ここで作業する人間は防毒マスクと防護服に身を包んでいるのだから……。
高度に発達した文明に殺されかけたのに
産業革命して二の轍を踏む神奈子様、まぢドジっ娘。

コメント、評価ありがとうございます。

>NutsIn先任曹長様
おかしいですね、なぜこうなったのでしょう。
愚か者に区別は無いですから、人も神も。

>2様
人は別に記す者がいますが、神は消滅する際に気が付かないですからね。

>3様
産業革命の為に八咫烏を使ったら宗教敵が増え、
ダム計画は計画倒れ、ロープウェーを作っては天狗と敵対。
何かと失敗が多いイメージですから。

>ギョウヘルインニ様
子供達の容体は良くはなさそうです。
そうですか、常識にとらわれてはいけないのですね。
まいん
作品情報
作品集:
5
投稿日時:
2012/09/24 14:40:02
更新日時:
2012/09/30 18:52:14
評価:
4/8
POINT:
440
Rate:
10.33
分類
神奈子
少し未来の幻想郷
ドジっ娘かなちゃん
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0. 90点 匿名評価 投稿数: 4
2. 100 NutsIn先任曹長 ■2012/09/25 01:04:03
こっちのセカイも幻想が滅んでいますか……。

ったく、苦しい時だけ神頼みするなよ。
神殺しの分際で。

過去の失敗から学ぶ事をしない。
人も、神も。
6. 50 名無し ■2012/09/25 08:56:59
人は死して学ぶ魂を持つが、神に死が訪れることはなし
7. 100 名無し ■2012/09/25 23:21:34
かなすわ「その辺はすでに想定済みですよ」
的な考えが絶対あると思うけど、その考えどおりには絶対行かないだろうとも思う。
妖怪や神がぶち殺されまくる作品は大好きです!!
8. 100 ギョウヘルインニ ■2012/09/26 01:24:43
6人の子供たちの安否が気にかかります。
車と電車を合わせたら、多分メデューサになります。
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