Deprecated: Function get_magic_quotes_gpc() is deprecated in /home/thewaterducts/www/php/waterducts/imta/req/util.php on line 270
『産廃SSこんぺ 「摂理」』 作者: ニトレタ

産廃SSこんぺ 「摂理」

作品集: 5 投稿日時: 2012/11/19 10:06:19 更新日時: 2012/12/18 15:48:05 評価: 13/13 POINT: 750 Rate: 11.07
それは帰宅の途中だった。空から降りてきた者が彼女の進む道を塞ぐように立つ。直視することすら憚られる。近づくだけで、自分が崩れ落ちてしまうような気さえした。
「かわいい魔女さんね。……本当に、かわいい。」
蝙蝠の羽を生やした少女はゆっくりと手を伸ばし、彼女の頬にそっと触れた。たったそれだけの行動に、命の危険を感じる。そんな彼女に、少女は自らの唇を近づける。
「……っ!やめて。」
両手で力一杯少女を突き飛ばした。力の差から出た恐怖なのか、単に人と触れ合うことに慣れていないだけなのか。
突き飛ばす。その冷静さを欠いた行動をとったことを、半ば蔑むような目で見る。そんな少女の視線に堪えきれなくなり、そっぽを向いた。
多少の罪悪感もあり、そそくさとその場を立ち去ろうとしたが、後ろからの呼びかけに歩みを止める。
「私に『出逢って』名乗らずに帰るつもり?それでもいいけれど、帰るべき場所はなくなるわよ?」
明らかな脅し。名前を教えることがどれだけ危険なことなのか、彼女はそれこそ身をもって知っている。だがしかし、断れなかった。断るという選択肢が存在していなかった。
「……パチュリー・ノーレッジ。」
久しく口にしていない自分の名前。忘れているかと思っていたが、案外身についているものだと自嘲する。
少女はパチュリーの目を奥深くまで覗き込み。満足したのかふと笑みを漏らした。
「へえ。いい名前ね。私はスカーレット家当主、レミリア・スカーレットよ。よろしくね、パチェ。」
吸血鬼か。厄介なものに出逢ったものだ。この場からは早めに退くことが何より大切だろう。暇潰しに街一つ潰すような輩に、好き好んで関わるほどおかしくは無い。
「ええ。よろしく。」
社交辞令を済ませ今度こそ帰ろうとしたが、またしてもレミリアに止められる。
「ねぇ、あなたとの出逢いを祝って、うちでお茶でもどうかしら。」
ここでついて行かなければ、何をされるかわかったものではない。だが、相手の自陣に入り込むことほどに危険だろうか。それに先程のような精神的圧迫感も無い。とりあえず一度断って、それでも食い下がるようなら行くしかないだろう。自分だって魔女だ。吸血鬼を討伐できるとは思えないが、ただ逃げることもできないわけではない。
「残念だけれど、今日は遠慮しておくわ。」
とたん、レミリアの顔が暗い笑みで溢れる。思わず身構えたが、ひとつ瞬きをしたあとにはもうその笑みは消え去っていた。
「そう。それは残念ね。それじゃあまたの機会にでも。」
「ええ。それじゃあ。」
レミリアに背を向け、不自然に思われない程度の速度で彼女はその場をあとにした。できれば、『また』会うことは避けたいが。
レミリアはその背中を、見えなくなるまで見つめていた。






書物をあさり、魔方陣を描き、新しくスペルを組む。そんな毎日の習慣に、ひとつの変化が生じた。
かびくさく、空気も湿っている地下室。パチュリーはそこで、新たな魔法の研究をするのが日課になっていた。地下室は頑丈で防音にもなっており、このような作業によく向いている。
「パチェ。そろそろお茶にしないかしら。」
魔法の使えないレミリアにとっては、見ていて面白いものでもなかったのだろう。
部屋の隅でパチュリーを眺めていた彼女が待ちくたびれたかのように言う。
「最近、人間をメイドにしたの。なんでかわかる?」
人間のメイド。人間ならば、単純作業だけでなく、脳を働かせてより技術的にも効率的にも妖精より優れているであろう。だがなぜ人間。レミリア程の力をもってすれば、その辺の妖怪程度なら簡単に一生の忠誠を誓うだろう。もし仮に裏切られたとしても、レミリアがその程度の輩に遅れをとることもないだろうに。今に始まったことではないが、時々彼女の考えていることがわからなくなる。
わざわざ手元に置いておくということは、人間にしておくには惜しいほどの逸材なのだろうか。だとしたらそれは研究対象だ。髪の先から脂肪の一粒まで、余すところなく解体しよう。
心躍る解剖を妄想しているパチュリーは、ティーセットを用意している銀髪の少女を見て、改めて不思議に思った。なぜこんな人間を?
「紹介するわ。新しくメイドとなった、十六夜咲夜よ。」
片手間に、いかにも億劫そうに紹介を済ませる。
「紹介にあがりまし……。」
「堅苦しい挨拶は抜きにして、早くお茶にしましょう。」
自己紹介をしようとした咲夜を片手で制す。パチュリーはなぜレミリアが咲夜をメイドに迎え入れたのか、結局わからなかった。

この日もいつものように、パチュリーとレミリア、そして最近加わった咲夜の三人でティータイムを楽しんでいた。近頃やっとパチュリーからの信頼を得たと確信したレミリアは、かねてよりの計画を実行に移した。カップを置き、肘をつく。
「ねぇ、パチェ?」
「……なにかしら、レミィ。」
改まって声をかけてきたレミリアを警戒し、無意識のうちに声のトーンを落とすパチュリー。この感じは大方頼み事だろう。レミリアからの頼み事だ。無理難題に違いない。パチュリーは気を引き締め、レミリアが口を開くのを待った。
「―――うちに、住まない?」
「え?」
「ああ、いや、その、そんな無理にとは言わないけれど……。」
一瞬何を言っているか理解できなかった。呆けた返しをしてしまったことに少しばかり気恥ずかしくなる。
なかなか魅力的な提案だった。しかし彼女には自分の家がある。正確には、とある城の部屋のひとつを借りているだけだが。
返事を渋るパチュリーに、レミリアは慌てて付け加える。
「じ、実は図書館も造ろうと思っているの!咲夜の能力は空間にも応用できるらしくて!」
「住まわせてもらおうかしら。」
新しい図書館と聞いて動かないわけにはいかない。図書館だけでなく、それ以外の環境も整っている。この屋敷の地下室は頑丈だし。メイドの解体くらいしても、声が漏れたりはしないだろう。喜ぶレミリアをよそに、パチュリーの興味の大半は、いかにしてレミリアに気付かれずに咲夜を解体するかだった。





咲夜の能力を利用して造ったこの図書館。あの人間は空間を操ることが出来るのか。
―――空間操作。並大抵のものじゃない。……欲しい。だがそのためには準備が必要だ。部屋は地下室でも使わせてもらえばいいとして、作業は恐らく力仕事だ。レミリアが手伝うとは到底思えないし、美鈴は論外だ。屋敷の妖精でもいいが、どうせなら賢い方がいい。
ちょうどいい。昔住んでいた城の悪魔を呼ぼう。賢すぎるのも……まあ悪くはない。
逸る気持ちを抑え椅子や机を少し動かし、魔方陣を描き短く読唱する。途端にそれが輝きだし、目を覆うまでになる。その光の中にいる何者かが、彼女に声をかける。
「やってくれますねぇ?」
頭と背中から羽を生やした少女が、にやにやと虫酸の走るような笑みを浮かべこちらの様子を窺う。パチュリーは、昔と変わっていない彼女を見て少し安堵し、すぐにその思いを打ち消した。
「相変わらず、そんな態度なのね。」
「あなたに対してだけですよ。なんていったって、特別な方ですから。」
「面白いジョークも言えるようになったのね。とても愉快だわ。」
くだらない軽口の応酬。主従の関係でここまで近しいのは異端といえるだろう。
そして、その異端な関係をよしとしない者がいた。
「ごきげんよう。」
椅子に腰掛け、床に着かない足をぶらぶらと揺らすレミリア。自分達に圧力をかけに来たのだろうかという考えが頭をよぎる。
レミリアと衝突することはなんとしてでも避けたい。彼女を敵に回したら、それこそ命がいくつあっても足りないだろう。今はここからレミリアを追い出すことだけを考えよう。パチュリーは怯えているのを隠しながら、努めて平静に声をかける。
「レミィがここに来るなんて珍しいわね。なにか探し物でもあるのかしら?」
「ありがとうパチェ。でも今はいいわ。それよりも……。」
早速本の整理を始めていた小悪魔を見据える。一瞬それだけで殺されるともわからない程の悪意を感じた彼女は、ゆっくりと振り返る。しかし彼女はレミリアと目を合わせ、愛想笑いをしてのけた。
使い魔、それもただの小悪魔という下等な種族に嘗められていることに激昂しかけるが、レミリアは椅子の縁を握りしめ必死で冷淡な態度を貫こうとする。
「……あなたも、主従関係くらいはわきまえなさい。それだけ言いに来たの。」
「肝に命じておきますよ。私とて、命は惜しいものなので。」
軽く鼻をならし、ぴょんと椅子から飛び降りてゆっくりと図書館の出口に向かう。今訊かなければまた改めて、一人で彼女に話をつけなければならない。微かに怯えている自分に呆れながらも、パチュリーはその小さな背中に声をかける。
「地下室って、今空いているかしら?」
驚いたように足を止める。図書館が造られて以来あそこには足を向けていないが、この屋敷では最も長くいたこともあって僅かながらの愛着を持っていた。
図書館で済ませることも出来るが、その場合血の臭いが残りかねない。様々な点を考え地下室を使うことに決めたが、地雷を踏んだのかもしれない。緊張の面持ちでレミリアが口を開くのを待つ。
「地下室を何かに使うの?今あそこは……『物置』にしているけれど。」
俯き、微かに笑みを浮かべ、散らかっていてもいいなら今すぐ使えるけれどと付け足す。
パチュリーは近々使わせてもらうといった内容のことを簡潔に伝え、レミリアもそれを快諾した。地雷かとも思ったが、どうやらそんなこともなかったらしい。
計画が着実に進んでいることを改めて感じ、パチュリーはほくそ笑んでいた。






薄暗い見慣れた廊下。だんだんと目が慣れてきて、ここは地下室へ続く廊下だと理解する。黴臭く、埃を吸い込みそうな、動きの少ない空気に呼吸を少しばかりためらう。
自分がここにいる理由がわからない。給仕用のカートもなしにここに来る用事などない。お嬢様―――レミリアに何かを頼まれたわけでもないのに、なぜこんなところに来ているのだろうか。
紅魔館の従者、十六夜咲夜は自分の記憶を探る。……思い出せない。なぜここにいるのかだけではない。それより前、ここに来る前自分は何をしていたのか。そうと分かった途端、動悸が激しくなる。わからない。なぜここにいるのか。ここに来て何をするつもりだったのか。
帰らなければ。どこに?帰り道がわからない。だが、このまま正面へと突き進むのは本能が畏怖している。今までにもこの感じを味わったことがある。
自身の記憶と本能を信じ咲夜は振り返る。そしてゆっくりと足を踏み出した。一歩。もう一歩。もう一歩。進んでいるのか?先程と一切変わらない周囲に、叫び出したい衝動にとらわれる。一歩踏み出しただけでその足音が反響し、至る方向から襲い掛かる。歩けば歩くほど大きく響くその音に怯え、歩みを止めてしまう。思わず辺りを見回し、一人であることを再認識させられる。……止まっていても仕方ない。自らを叱責し、走り出す。だがしかし、咲夜自身もある程度は予測していた通り、この長い廊下を抜けることはできなかった。
方向を間違えている?その至極単純な可能性に気付く。なぜそんな簡単なことを見落としていたのか。軽く自嘲し反対を向いた。
わからないという恐怖。それは記憶という媒体を潰し、神経を尖らせる。それは本能による自衛手段であったが、この場合はそれが身を滅ぼすことになった。

こんなにも短かったのかと呆れるほど簡単に、反対側に辿り着く。重たそうな石の扉に、ためらうことなく手を掛ける。肩を押しあて、体全体を使って奥へ開く。
薄暗く、奥の壁は見えない。つんと鼻をつく、そして喉を刺激する匂い。床には液体が零れていて、足を置くと、ぴしゃりとかわいい音がした。部屋の奥の方で何かがもぞもぞと動いていて、興味を持った咲夜は歩を進める。
立っていられないほどの目眩がした。次いで内側から圧迫されるような頭痛。病に伏しているときのようなころころとした感じではなく、掌で外側に向かって押し出すような疼痛。
身体の力が抜け、膝を折りうつ伏せに倒れる。強く頭を打ち、その衝撃でどこかを切ったのか口の端から唾液や血液を溢れさせながら、視界が紅くなっていることに気付く。床に零れていたのは血液なのだなと、五感で理解する。肘をつき身体を起こそうとするが、痛みが振り返し気が狂いそうになる。身をよじらせ、ところかまわず爪を立てる。石の床に指を立てたせいで数本がひしゃげているが、そんなことも気にせずに床を強く打つ。むき出しになった骨がこつんこつんと石を叩く。獣のように咆哮し、床に頭を打ち付ける。数本の歯が欠け、口内を切り裂きぽろぽろと転がり落ちたが、それに気付く様子はなく、なおも床を殴る。喉のどこかを傷つけたのか、乾いた咳と共に泡の混じった血液を吐く。
『手』を動かしていて。自らの醜悪さに気付いた。手がない。手首から骨が覗き、そこから先が床に転がっている。すっと体温が下がったような気がした。
胃の腑からなにかがせり上がってくる。無意識に叫び続けていたせいで、吐瀉物が咽喉でごぼごぼと音をたてた。そこで上がってきたものは一瞬止まったが、後続により勢いを増して襲ってきた。口腔鼻腔を酸で満たし、激しく噴き出す。気道を奪われ、意識が遠のく。咄嗟に喉に触れるが、それは気休めにしかならなかった。






痙攣の止まった身体に触れる。呼吸も脈もない。恐らく死んでいるだろう。その言葉に無言で頷き、近くの蝋燭に火を灯す。
エプロンの裏をあさる。しまってあったナイフから一本を手に取り、そこで動きを止める。服の襟を持ち上げ、腹部ほどまでをナイフで切り裂いた。白い肌によく映える、少々地味な下着も裂き、形の整った謙虚な乳房を露出させる。
一息つき、その背に人差し指を置くようにナイフを持ち変える。鳩尾の少し上辺りに刃を滑らせた。すぐに細く赤い線が現れる。そこから刃を抜き指を差し込む。
空いている方の手で乳房を押さえ、しっかりと握りしめた肉をびりびりと引き剥がす。どさり。血液が塊となって落ちてくる。熱い。零れ出した血を浴び、この肉塊がついさっきまで生きていたことを改めて実感する。脇腹までに広がった傷からどぼどぼと血液を落とし続ける。
「今日はここまでにしましょう。」
血抜きをするのを忘れていた。今更になって気付いた。とりあえず首を落とし、逆さ吊りにしておけばすぐだろう。そう考え、小悪魔に斧を持ってくるように命令する。
ナイフを持ち、鼠径部と腋の下に切れ目を入れる。描かれた線がどんどんと太くなり、やがて血が溢れる。
ゆっくりと染められていくその淫靡な姿に、ある種の欲望が沸き立つ。
パチュリーは小悪魔の担いできた斧を見て息を呑んだ。胸の高鳴りを必死で抑える。
「首を落として。」
「はい。」
小悪魔が、両手でしっかりと柄を握り、体の右側を通して得物を振り上げる。
ぶおん。どす。がこん。ぐわん。ぐわん。ぐわん。ぐわん。
斧が石の床を強く打ち、その音が反響する。鼓膜を突き刺し、意識が飛びそうになる。思わず膝をつく。紅になった咲夜を見るため視線をあげる。すぐそこには、こちらをじっと見つめる双眸。思わず笑みがこぼれた。顔にかかった血が垂れ、視界が赤く染まる。自分の口から笑い声が漏れていることに気付いた。一瞬意識が飛び、ふらふらとやがて暗転。それでもパチュリーは笑い続けた。






珍しく部屋で睡眠をとるパチュリー。あのあと、気を失った彼女を小悪魔が部屋まで運んでくれていた。
いくら睡眠が必要ないといっても、疲労は身体に蓄積される。そのせいか、いつも以上に深い眠りに落ちているパチュリーには、部屋に入ってくる者の気配に気付くことが出来なかった。
気だるげに、力の抜けたように身体を引きずりながらベッドの脇に立つ。眠っているパチュリーに馬乗りになり。
「…………んうう!?ん……!うあ、ん…。」
「お目覚めかしら?眠り姫。」
パチュリーの体にまたがっていたのは、この屋敷の主である、そして咲夜の主人であるレミリアだった。見ると、この暗がりのなか、レミリアの唇が月の光を反射して妖しく煌めいている。パチュリーの気道を塞いでいたのは、恐らくその唇なのだろう。まだ眠っている頭でそんなことをぼんやりと考えながら、疲労感の消えないパチュリーは大した抵抗もしないまま、また睡眠をとろうとする。
その態度を了解ととったのか、一呼吸おいたレミリアは体勢を整え、パチュリーの下腹部にそっと手を伸ばす。そうして彼女は、再びパチュリーと唇を重ねた。
「ふあっ…!う……やめてっ!」
彼女の軽い体はパチュリーに簡単に突き飛ばされる。パチュリーが拒むことを予想していなかったレミリアは、一瞬なぜ自分が突き飛ばされたのか疑問に思っていたが、次の瞬間には猛々しい憤怒と嫉妬に全てが覆い尽くされていた。
床を蹴って立ち上がり、認識できないような速さで距離を詰める。そしてベッドに横になっているパチュリーの胸ぐらを掴み、殺意を感じるほどの勢いで壁に叩きつけ、早口で捲し立てる。
「ねぇ!?どうして?パチェは私のこと好きよね?どうして咲夜を選んだの?どうして咲夜を?なんで私じゃないのよ!ねえ、ねえ!」
壁に頭を打ち付けられたときに切ったのか、口から血が溢れ出しているパチュリーに、その質問に答えるすべはなく。そして。
「違う。違うの。まだまだこれからよね。そう焦る必要はないの。一つずつ、一つずつ。パチェの為ならなんだってできる。パチェのことならいつまでだって待てるわ……。」
自分に言い聞かせるようにぶつぶつと唱える。レミリアに対する恐怖をなぜ忘れていたのか。覚えていたらこんなことにはならなかったかもしれないのに。
パチュリーは今更になって思い出した自分を責める。いつもの冷静な彼女なら、そんな不毛なことはしないであろう。しかし、今この瞬間にも砕けてしまいそうな錯覚に陥っているパチュリーには現実から目を背け、あったかもしれない日常、正解を選んだ未来を見ることでしか自身を保てそうになかった。
動こうとしないパチュリーを見て、慈しむように頬を撫でる。少し冷えた指先が気持ち良い。その手は少しずつ降りていき、首、肩、二の腕とゆっくりなぞっていく。
肘に走る鋭い痛み。直後、それより先が痺れる。見ると、レミリアがパチュリーの肘に指を突っ込んでいる。彼女のきれいな爪は筋肉を少しずつ裂いていき、やがて骨に当たる。その部分をさらに切り開き、パチュリーにも視認することが叶うようになる。露になった骨を握りしめ、捻りを加えつつ下へ折り曲げる。ぼきんという音が、振動と一緒に身体中に響き渡った。肘から先がぷらぷらと揺れているのを見て、痛みよりも先に、自らが異形になったという恐怖を感じた。
声をあげようにもレミリアの右手が首にかけられ、呼吸すらままならない。息苦しさに無我夢中で手足を振り回すパチュリー。そんなちっぽけな抵抗を意に介さず、レミリアはその爪で二の腕から肩まで、細い傷をいれそこに数本の指を捩じ込む。皮膚の内側を動き回られる形容しようのない不快感。筋肉を直接揉まれ、腕が痺れる。それにより痛みを感じなくなったが、その事がさらにパチュリーに恐怖を与えた。掻き回していた指が、身体の内側から肩を掴み。そこで動きを止めた。
「パチェ?……ごめんね?」
「―――ッ!がっ!ああああああああああああああああああああ!!!!」
何かが外れる音がした。膜が張ったように視界がぼやける。
「静か、にっ!」
更なる首への圧迫により脳に酸素が届かなくなる。脳幹を突き抜けるような痛みと共にパチュリーの意識は吹き飛んだ。

ずりずりと振動が骨を通して伝わってくる。パチュリーは天井を眺めながら、不愉快な振動と共にある、痺れるような痛みに顔をしかめる。
「ごめんねパチェ。すぐに治してあげるからね?」
縄と呼んでも差し支えないようなものを、膝に開けた小さな穴を通して、それより下の部分と縫う。筋肉を貫き、血管を締め上げ、神経を断ち切る。うまく穴に通せたのか、どこか満足そうな表情を浮かべるレミリア。二本の縄をしっかりと手に絡ませ、勢いよく引いた。
「がぁっ、うぇっ…あああああぁぁぁぁ……。」
縄が傷口に擦れざりざりと音をたてる。その縄が微かに動くたび、パチュリーは肉の裂かれる痛みを味わっていた。荒縄が肉を削り、火傷しているような感覚。細切れになった肉が、血液とともに床にぽろぽろと落ちていた。
消毒も行っていない縄でレミリアは傷口を塞ぐように、血の通っていない『それ』を縫い付けようとしていた。
しかし、折れた骨同士がぶつかり合い、元通りになることを拒む。苛ついたレミリアは、接ぐかのようにして『それ』をパチュリーの膝に叩きつけた。
「あ゛あ゛ア゛ア゛ッ!?がっぐぅぇ…うぇぇ……。」
痛みのあまり吐き気を催す。しかしパチュリーは自らの体勢を考え、それは危険だと判断する。
拘束され、身動きのとれないこの状況だと喉に逆流して窒息する可能性がある。だがこのままだと口の中が唾液と血液で溢れることになるだろう。必死に身体を捩らせ拘束を抜けようとするが、それはレミリアにはまた別の意味に見えていた。
作業をやめ、見た目相応に笑うレミリア。その小さな体は余すところなく血に染まっていたが、レミリアの意識は、虫のように無様に、虫のように生に執着するパチュリーに向けられていた。
笑っているレミリア。その眼をパチュリーが見るのは三度目。パチュリーは諦めたように息を吐いた。
「好きよ。パチェ。」
たったの一言。その一言を受け入れてもらうための『行為』。すでにパチュリーには断る気力は残っていなかった。
「そう……。」
レミリアはそっけない返事に少々呆れながら、パチュリーに覆い被さる。
パチュリーは自分の上で動き続ける少女を、ただ気だるげに見ているだけだった。





図書館でいつものように一日を過ごす魔女。だがしかし、いつものように誰かが来ることをパチュリーは恐れていた。日頃から、平穏な代わり映えのしない、それでいて有意義な日常を望んでいたパチュリーだが、今日ばかりはそうもいっていられない。誰かが来てはまずいのだ。
正直、パチュリーは自身の身体の異変を隠し通せる気がしていなかった。だがしかし、隠すしかない。気付かれないようにするしかない。
レミリアは危険だ。そんなこと、最初に会ったときから分かっていたはずなのに。
「用もなく入ってこないでくれるかしら。」
トレードマークともいえる、その大きな帽子を外しながら本を値踏みする少女。パチュリーは敵対心を露にしながら声をかけた。
「つれないなあ。魔法使いが遊びに来たっていうのに。」
魔法の森に住む普通の魔法使い、霧雨魔理沙だ。この図書館には何度も窃盗に来ている。
何とかして追い出さなければ。彼女の勘の鋭さは、それこそ魔法かなにかと疑う程の正確さを誇る。いつものことだが、やはり魔理沙は来てほしくないときを狙ってきているのだろうか。
「本は貸さないし、あなたに読ませるものなんてないわ。早く消えて。」
パチュリーの鋭い言葉に、図太い魔理沙もさすがに少したじろぐ。
「おいおい。そんな言い方はないだろう。もっと頼み事をするときの態度が必要だぜ?」
「いいから早く出ていって。あなたがいるだけで不愉快なの。」
魔理沙は不思議そうな表情をパチュリーに向け、言葉の意味を理解したのか肩を落としてゆっくりと出口へ向かう。
「そういえば、今日顔色悪いな。どうしたんだ?」
突然振り返った魔理沙はパチュリーを見つめながら、ゆっくりと距離を詰めてくる。
そういう奴だった。色々引っ掻き回して人の邪魔をするくせに、肝心な場面ではお得意の勘が働いて人を助ける。お節介にもほどがある。
「こないで!」
「おい、落ち着けって。体調悪いなら部屋まで運んでやるから。」
四肢の『付いている』パチュリーは満足な抵抗もできず、魔理沙が近づいてくるのを止めることができない。必死に肩を揺すぶるが、椅子ががたがたと音をたてるだけだった。
もしも魔理沙が異変に気付いて余計な手出しをしたら、レミリアは間違いなく魔理沙を殺すだろう。魔理沙の素質や交友関係を考えるとただ殺すのは無駄な要素が多すぎる。
「そんな動くなよ。部屋に運ぶだけだからさ。」
椅子の背とパチュリーの間に手を差し込み、もう片方の手を太ももの下に入れる。その時、魔理沙はパチュリーの身体の異変にようやく気付く。
魔理沙が太ももに手を伸ばした際、膝とそれより下とを固定している麻縄に触れたのだった。びくりと指が震えたのがわかる。色白の脚に恐ろしく不釣り合いな、血に染められた荒縄。怯えた表情でパチュリーに問うた。
「おい……!これ、なんなんだよ……!」
パチュリーのローブをたくしあげ、膝の部分を見て声を震わせる。膝より下は紫を通りすぎて白くなり始めており、とても人の肌とは思えない。傷口には蛆が湧き、肉を喰い千切られていたのか紅い部分が広がっていた。
「ごきげんよう。魔理沙。」
後ろから声をかけたのは元凶であるレミリアだった。
終わった。パチュリーはそっと目を閉じる。
「私のパチュリーになにか用かしら?」
「……お前か。これ、どういうつもりだよ……。お前のパチュリーって、どういう事なんだよ……!」
パチュリーを突き飛ばしてレミリアに肉薄する。パチュリーの四肢に刻まれた凶行の痕に動揺を隠しきれず、その感情をレミリアにぶつける。冷静さを失った一介の魔女を殺めるくらい、レミリアには造作もないことだった。
軽い紙箱を落としたかのような音がしたあと、パチュリーは魔理沙の肩に刺さっているものが光になっていくのを見た。
「パチェに感謝するのね。パチェはこんなことにならないように、貴女を追い出そうとしていたのよ。」
肩を貫かれた勢いで床に激しく叩きつけられる魔理沙。どすと鈍い音がして口から血を吐いた。
「殺さないで殺さないで殺さないで殺さないで殺さないで殺さないで殺さないで殺さないで……。」
圧倒的力量差から、実体をもって間近に迫ってきた死への恐怖から遠ざかろうとする。糞尿や血液を撒き散らしながら四つん這いになってレミリアから逃げる魔理沙。しかしレミリアは魔理沙の脇に立ち、右足をあげ、そのまままっすぐ足を下ろし髪と耳を削いだ。しゃくりと小気味良い音がする。陰惨な場面であるはずなのに、思わず凝視してしまう。魔理沙が避けたことに苛立ちを覚えたのか、空いている左足で魔理沙の腹を突く。魔理沙は戻しそうになったがレミリアの追い討ちによってそれも許されない。前頭部と顔面を踏み潰され、視界を失った魔女。レミリアは止めを刺すため、またも足を持ち上げる。
「命乞いよりもパチェに感謝するのが先でしょう?そんなこともわからないのかしら。」
レミリアが口を閉じたときには、もうそこには紅い石ころのようなものしかなかった。





仰向けにベッドに横たわるパチュリー。身体から雫を垂らしながら、覚束無い足取りでパチュリーに歩み寄るレミリア。ひとつ息を吐くと、どさりとその隣に倒れ込む。レミリアの小さな手が、パチュリーの指に触れた。だが、それに彼女が気付くことはない。レミリアもまた、その冷たい手を長くは握っていなかった。
あれ以来、レミリアは『行為』に及ぶことはないが、毎日のように彼女と身体を重ねていた。抵抗する気もなく、ただ事が済むのを待つのみ。だがそれでもレミリアが彼女を愛していることは事実であり、彼女もまたその愛を拒絶してはいなかった。
いつ目が覚めても、横にレミリアがいる。そのことが段々と自然であるかのように錯覚し、逆に姿が見えないとこの世に殺されてしまうとさえ思い込んでいた。レミリアが彼女に依存しているように、彼女もレミリアを必要としていた。それが愛であるかはわからないが、一緒にいたい、隣にいてほしいという感情が常にある。肉片となんら変わりない自分を愛してくれる人がいる。それがたったひとつの、心の拠り所となっていた。
この部屋から出ることのできない彼女にとっては、レミリアが唯一の外の存在、この世界との繋がりだった。彼女がいなくなったら私は一人だ。世界から切り離され、流れていくこの世界に押し潰されて粉微塵となるだろう。自分の最期を考え、思わず涙ぐむ。そんなときに彼女は現れ、ただ一緒にいてくれる。私を必要としてくれる。レミリアの意図していないところで、彼女はレミリアに依存していた。
二人で生きてゆくことができればそれでいい。決して高望みなどではない、たった一つの小さな願い。そんな些細な願いすらも叶えることを許さないのか。二人で生きていくためなら、それこそなんでもするつもりだった。
彼女の胸に顔を埋める。血の匂いが鼻を突く。咲夜がいなくなり、物理的なものだけでなく、精神的にも磨り減ってきているレミリアは、こうして彼女に甘えることが増えていた。咲夜だけでなく、もうこの屋敷には、この二人しかいないのだろう。それでもいい。ただ二人でいることさえできれば。無防備にパチュリーに身体を預けるレミリア。だが、その小さな背中に腕を回すことはできない。それが少し、心苦しくもあった。
長い間、レミリアはそのままの格好でいた。彼女の身体に回した腕を、より一層強く締める。パチュリーの胸で涙をこぼす。それには気がつかない振りをして目を閉じる。胸に押し当てられた頭に、唇を当てるだけのキスをする。レミリアはぴくりと身体を震わせ、泣き止まないうちに顔をあげた。頭を撫でてあげることすら叶わないのか。動くことのない腕を罵る。
パチュリーの身体を抱き起こし、正面からその目を見据える。
「私が死んでも。貴女は生きて。」
まるでもうすぐ死ぬかのような言い草だ。だがしかし、彼女も心のどこかでわかっていた。二人で生きていくことはできない。なぜだかはわからないが、近づけば近づくほどレミリアは遠く離れてゆく。今二人がお互いに寄り添って生きているのは、長い別れの予兆のようなものだろう。
「ええ。」
震える声で返事をする。無意識のうちに目を逸らしてしまったことを後悔した。レミリアのいない世界は、生きているべきものなのか。そんな世界で生きていくことができるのか。そんな考えがふと頭を過った。
「殺しすぎたんだ。」
誰に向けるわけでもなく、ぽつりと呟く。

大きな音を立て、扉が開け放たれる。薄いその扉を破るかのようにして、部屋に入ってきた二人。何かに怯えているかのように身体を小さくして、陰に隠れようとする八雲紫。そして、いつもの不機嫌な態度を隠そうともしない、仏頂面の博麗霊夢。だがパチュリーの姿を見たとき、その顔が恐怖に歪んだのを見逃すことはなかった。
「藍は……?藍は、どこにいるの?」
所在なさげにあちこちに視線をやっていた紫が、今にも泣き出しそうな表情で唇を震わせる。
「殺した。」
たったの一言。だがそれは、あまりにも残酷だった。取るに足らない些細な出来事であるかのように、そちらを見ようともせずに呟いた。紫の呼吸が荒くなる。胸を押さえ膝から崩れ落ちる。肩を震わせているのがはっきりと見てとれた。
「殺しすぎる。あんたは。」
すぐ後ろから声が聞こえた。溜め息混じりの、どこか呆れたような声。
レミリアの、胸のちょうど真ん中辺りに、輝く数本の針が顔を出した。赤く染まった胸に目を落とす。血が止まる様子はなく、とめどなく流れ続ける。放っておくだけでも死に至るだろう。霊夢はそう言うが、紫の気は収まらない。パチュリーを抱いていて無防備なレミリアの顔を、力強く蹴り飛ばした。次いで傘を振り上げ、身体を両断しようとする。だが紫の鼻先を掠めた光に動きを止める。
「もう彼女は死ぬ。あとは待つだけで十分よ。」
感情に流されそうになる紫を制止する。口を真一文字に結び動きを止めた。そんな紫を鼻で笑い、蔑むような目で見る。明らかな挑発。そんなことはわかっているのに、藍のことを馬鹿にされているような気がして。
「早すぎるが……まあ、仕方ない。」
「……ッ!黙れぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
仕方ない。その一言で全てを片付けようとするレミリアに激昂し、傘を振り上げる。今度はそれを止める者はなく。
「―――殺しているんだ。殺されもするさ。」
諦観に満ちた、そして慈愛に溢れた瞳を潤ませそう言った。ふっと顔を綻ばせ、いつかのように口付けをする。それはあのときとは違い、喉を刺激する血の味がした。背中の大半を削がれ微かな呻き声を漏らす。弾け飛んだ骨の欠片がからからと音をたてる。どろりと紅い塊が傷口から零れる。倒れかかってきたレミリアを支えることが出来ず、仰向けに倒れたパチュリーに覆い被さる骸。その体からこんこんと湧き出す血液を見たとき、自らの思いに気付いた。未だ彼女の温もりを残している鮮血を浴び、レミリアに包まれているかのような錯覚にとらわれる。
―――抱き締めたい。
彼女を抱き寄せようとするが、その2本の腕が動くことはなく。包み込むレミリアに寄り添うことしかできなかった。

レミリアの血で紅く染まったパチュリーの姿を見て、悔しさと、そして涙を堪えるためにきつく唇を噛み締める。泣くわけにはいかない。殺したのは、私なんだから。
レミリアの下敷きとなっている彼女の身体を起こし、強く抱き締める。パチュリーの呼吸を感じ、堪えていたものが一気に弛緩する。彼女の肩に頭をのせ、年相応に泣きじゃくる。なんのためにここへ来たのだろうか。レミリアを、殺しに来た……?ただ二人で生きていこうとしていただけではないのか。殺しすぎたからといって、それを殺すという手段で止めるのは赦されるのだろうか。―――彼女からレミリアを奪ってしまってよかったのか。
この償いはしなくてはならない。彼女と、共に生きよう。





真鍮で作られた精巧な義肢。森の魔法使いの手になるもので、骨だけなどという無骨なものでなく、柔らかな曲線を主として作られている。これがあれば日常生活にはほとんど支障がないといえるような出来だった。それだけでなく、見た目も一見しただけでは到底義肢だと思えるものではない。だが、それはやはり『冷たかった』。
ゆえに、霊夢がそれを使わせることは滅多になく、いつもは霊夢に身のまわりの世話を焼いてもらっていた。義手義足を着けさせないことを不思議に思う者もいたが、甲斐甲斐しくパチュリーの面倒を見る霊夢の姿に、そんな無粋なことは誰も言えずにいた。
片時もパチュリーから離れることをせず、紫から思えば、過保護であると感じざるを得ない。そんな彼女を訝しむ紫に対しては、レミリアの件の責任を取るためと言っていた。だがしかし、紫はパチュリーが霊夢の温情にすがりついているようにしか見えなく、パチュリーには好意を抱いていなかった。軽い嫉妬というのもあったが、それを認めることはしない。必ず霊夢は自分のところへ戻ってくるという、根拠のない自信に溢れていた。
早朝、まだ夜中とも言えるくらいの時間に神社に足を運ぶ。肌寒く、自然と人の温もりを求めてしまう。輪郭は見えるが、細かな表情までは窺い知ることのできないほの暗さ。それが心地よく、この時間二人っきりで呑み交わすのが好きだった。
境内の中空に開かれたスキマから一歩踏み出す。不用意に出したその脚を、音と熱が貫いた。身体を支えられなくなり、バランスを崩し前のめりに倒れ込む。誰の仕業なのか、視線をあげるとそこには一人の魔女がいた。
霊夢から奪い取ったのであろう封魔針を手に、無表情でこちらを凝視している。その手から針が放たれ、少しの音と空気の乱れを作り出しながら飛んでくる。避けることなどできず、脇腹の一部が抉り取られた。殺されるかもしれないな。早々に逃げるべきか。逃げるべきだ。そうわかっているのに、身体が動く気配はない。きしりきしりと不愉快な音を立て、一歩ずつ歩み寄ってくる。返り血を浴び、そして手には得物を持っている。ただの殺人者だ。
だが彼女から漂う、ある種の芸術のような儀式的な、そして作り物めいた美しさに圧倒されていた。神々しくもあり、狂おしいほど自身が欲している。邪教のような禍々しさ、妖艶なその姿から目を外すことなど、到底できそうになかった。
なんの躊躇いもなくその針を、自らの薄い胸部に突き立てる。地面を這っている賢者を蔑むような目で一瞥する。
体を貫いている針の柄を両手で持ち直し、体内を掻き回す。血液だけでなく、肉片や欠けた骨を撒き散らしながらも、どこか恍惚とした表情で身体を掻き出す。呻き声ひとつ漏らさずに自身の身体をばらまく姿に、紫は今までに感じたことのない恐怖に震える。
明らかに意識の外に追い出された紫は、この身体で逃げることすら可能に思えた。四肢を動かし汚ならしく身体を引きずる。割れた脇腹を押さえながら、正気を失っているであろうパチュリーから遠ざかる。地面に紅い線を残しながら這う。
スキマを展開し、そこに逃げ込もうとする。ふっと意識が飛びかけた。視界がぐるりと回る。一瞬手足が激しく震え、そして。なぜか鳥肌がたった。濡れた服が肌に張り付いたとき、麻痺していた感覚が戻る。巨大な一本の針が身体を通り、そして自身を地面に縫い付けていた。金属の軋む微かな音。自分の呼吸が荒くなっているのがわかる。過呼吸気味になり視界がぼやける。もがいても針が外れる様子はなく、それどころか穴が広がり、自らの血液の温かさを知ることになる。すぐ後ろにいる。彼女に止めを刺されるよりも先に、失血死する可能性もある。はやく逃げなければ命に関わる。
「『殺しているんだ。殺されもするさ』。」
呼吸が止まる。背後を意識することすら憚られる。あのときの、レミリアを削り取ったときのことが脳裏をよぎった。
殺される。私が殺したから。きっと彼女は笑っているのだろう。いや、『彼女達』は、か。我ながら洒落の効いたことを考えるものだ。……もうほぼ確実に死ぬというのに、なぜこんな下らないことを考えているのか。軽い自嘲。長く生きてきた分、それなりに死というものを見てきた。絶望に包まれ、何かを強く恨み、とても醜く生にしがみつく。そうして、美しさなどとは程遠い最期を迎える。それが常だった。だが。諦めとは違う。かといって希望があるわけではない。眠りにつく前のふわふわとした感じ。自分の身体にもう一人が重なっていて、柔らかく温めてくれているような。どこかで冷静に自分を見つめてくれている自分がいる。こんこんと血液をだし続ける自分を、急にいとおしく感じた。自己陶酔にも似た感覚。自分でやったことに背を向けて逃げる。だから今まで見てきた『死』は醜悪だったのか。今更になって悟る。受け入れることをせずに、ただ逃げることだけを考えていた。死ぬときは死ぬんだ。殺したんだから、少し早く死ぬだけのこと。贖罪とでもいうべきか。摂理とでもいうべきか。ひとつ息をつき目を閉じる。

殺しているんだ。殺されもするさ。
やんでれをイメージして書きました。

ACfAやってたらかっこいいキャラがかっこいいセリフ言っててそれがやりたかっただけなんです。

>わからない
ほんとごめんなさい。すみませんでした。もっと努力します。
ニトレタ
作品情報
作品集:
5
投稿日時:
2012/11/19 10:06:19
更新日時:
2012/12/18 15:48:05
評価:
13/13
POINT:
750
Rate:
11.07
分類
産廃SSこんぺ
簡易匿名評価
投稿パスワード
POINT
1. 60 名無し ■2012/11/19 19:57:41
不快な書きかた、不快な内容、不快な結末。
読み終わって確信しました。
これ、呪詛だ。
2. 80 名無し ■2012/11/19 21:39:43
謙虚な乳房に不覚にも笑った
そしてラストの古王フレーズ
この言葉がこの作品に含まれているのが意図的かは定かではないが、あの言葉は確かに殺人の摂理を的確に言い当てている
個人的にはぐっと来た
3. 70 名無し ■2012/11/20 01:53:30
古王のフレーズはいいけど、口調がそのままだから違和感あり。
というかそのフレーズに無理矢理持っていった感がある。
4. 20 名無し ■2012/11/20 10:43:48
うーん…これは…愛されパチュリー一代記といいましょうか。

読者はパチュリーとレミリアがどういう出会い方をしたかも分からないし、パチュリーが何処の誰かも分からないし、何故レミリアがパチュリーを偏愛しているのかも分からないし、パチュリーが咲夜を殺して何を得たのかもさっぱり分かりません。(咲夜さんカワイソス)
パチュリーがレミリアの偏愛に屈したと思ったら、いつの間にか誰かを殺しまくってたレミリアを倒すべく霊夢と紫が訪ねてきて、レミリアを殺してしまう。(そしていつの間にかいなくなる小悪魔)
すると、何故かパチュリーは霊夢の世話を甲斐甲斐しく受け、紫がパチュリーに敵討ちされて終わってしまう。

…一体何が起こっているのでしょう?

第三者視点描写の更に外側から物語を見たらこうなるんでしょうか。
内情に踏み込まず、人物の思考も窺えず、行為と結果だけが見える。それも室内と神社という限られれた空間の事象のみ。

古王が誰なのか知らないので、元ネタの展開をなぞっているのかもしれませんが、(検索したらACのキャラですか)
ともかく一読者としてはよく分からない、不条理な話でした。
5. 90 名無し ■2012/11/21 01:38:36
色々言われていますが、無理に一本筋の物語だと思わずに、まるで夢のように情景がころころかわるどちらかといえばナンセンス寄りの物語だと思って読めば楽しめると思います。
私はたのしめました。
6. 70 名無し ■2012/11/21 01:39:03
レミリアが病んでるのかなというくらいしか理解は出来なかったが、何と無くこの雰囲気は好きです。
7. 20 名無し ■2012/11/22 22:59:53
ごめん。ぜんぜんわからなかった。ひたすら読みにくい。
8. 70 名無し ■2012/11/22 23:35:25
非常に読みにくく感じましたが
一人にスポットを当てていた前半から
後半は狂気が伝染している様で
淡々とした文から特に印象強く感じました。
9. 30 名無し ■2012/11/26 14:49:14
ストーリー性が全く感じられ無かった為、小説として読むとあまり楽しめませんでした。
10. 60 名無し ■2012/11/26 18:33:52
展開は好みなのですが、詰まり過ぎていて読みづらい文章だったのが・・・。
11. 50 名無し ■2012/11/29 18:13:02
パチュリーに感情移入できなかった。
紫様が落ち込んでいると思ったら急に達観していたり、キャラ視点に問題ありかも?
12. 80 名無し ■2012/11/30 18:44:34
凄いネトネトした文。
行動原理も見えず、ただただ何かが伝染していくのかのような書き方。
ヤンデレっぽさはあまり感じませんでしたが、不条理感に満ち満ちていて引き込まれました。
13. 50 名無し ■2012/12/07 00:26:25
読みにくかったけど病んでる雰囲気が文章全体から感じられた気がした。
名前 メール
評価 パスワード
投稿パスワード
<< 作品集に戻る
作品の編集 コメントの削除
番号 パスワード