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『産廃SSこんぺ「Go to the DEVIL BATTLE!!」』 作者: 突然の衰微絶滅しろニルさん

産廃SSこんぺ「Go to the DEVIL BATTLE!!」

作品集: 5 投稿日時: 2012/11/21 06:23:51 更新日時: 2012/12/17 13:48:31 評価: 9/11 POINT: 780 Rate: 13.42
幻想郷は平和であった。

これはまだスペルカードが制定される前、そのずっと前、『先代巫女』なるもの、当時の『博麗の巫女』がまだ"先代"ではなかった頃のお話。

今日は身の程知らずの妖怪共が100匹程無惨に死んだ。面倒臭そうに当時の博麗の巫女は散らばる肉片をかき集めて今晩の食事にでもしようかとぶっきらぼうに考えていた。

「今日も殺したの?」

適当に成人男性ぐらいの肉片を玩具のように遠くにぶん投げているといつものように縁側から幼い声がかけられる。これこそが次の時代の博麗の巫女になる少女"霊夢"である。まだ先の時代程大人びた少女の顔つきといった程もない。まだあどけなさが残るその表情を眺めながら博麗の巫女は突如肉片を蹴り上げ、銃弾のように霊夢へと向けて蹴り放った。肉汁と血飛沫を纏わせた新鮮な肉の弾丸は縁側でくつろいでいた霊夢の方へと弾丸と同等の速度で頭部めがけて飛んできた。だが、霊夢はそれを蚊か何かをうっとおしく避けるかのように頭を横にずらし縁側から中に肉片は吸い込まれていき、台所へと突き刺さったかのように収まった。

「・・・。」

「今殺そうとしなかった?」

霊夢の突っ込みに博麗の巫女は何も答えず、残りの肉片を片づけ始めた。

幻想郷は平和であった。











「ここは?」

幻想郷は平和であった。

「ねぇ、ここは?」

幻想郷は平和であった。

後ろを見る。

幻想郷は平和であった。

神社から出る。森を走る。夜言い渡された言葉、紡ぎ出す記憶。

幻想郷は平和であった。

息も切れよう、汗も流れよう。転げよう。頭から血も滲みよう。

幻想郷は平和であった。

眼前に立ちはだかる三日月のような狂った笑みで出迎えるソレ

幻想郷は平和であった。

霊夢はそこで、博麗の巫女から聞かされた言葉の意味を理解したのである。

幻想郷は平和で"あった"

「Go to The Devil Battle〜♪」

闇夜にその汗を引かせるような冷たい風がひとつ吹いた。
共に横薙に飛んできた白刃がその思考を見事すっぱりとかき消した。土に染み込む博麗の血と脳髄、そしてそれを斬った血に塗れた白刃、それを見て狂気に笑うもう一人の―――

「はっひゃっひゃひゃっ・・・これで私が・・・私がぁぁぁ!!!」

刀を手にしたソレの笑い声を切り裂くかのように1回、爆発が鳴った。一直線、その死の鉛玉は狂気に笑い狂う刀を持ったソレの頭を綺麗に吹き飛ばした。刀と共に斬った霊夢の体に重なるように新鮮な血と眼球と脳漿をまき散らした。

「ふぅ・・・」

拳銃と呼ばれるものを握り、この場合は刀方から見ては後方の林の陰より狙撃に成功したその少女は、2人のソレが倒れたのをしっかりと確認すると、銃の動作をチェックした。問題はないようで、前に構え、周囲を見回す。

「しっかし・・・」

薄暗い森の中、その周囲では悲鳴と、幾度かの連続した発砲音、そしてまた悲鳴。溜息つきたくなる状況に肩を鳴らす。がさりと草をかき分ける音が後ろから2、3度微かに鳴ったのを察知した。

「死ねぇぇぇえ!!!」

その声の主は大鉈を握りしめ血走った目で脳天めがけ薪割りのように振り下ろしてきた。それの大仰な風切り音を書き換えるかのように発砲音を重なった。大鉈は折れるように地面に落ち、それを追うように、血塗れの腕が落ちた。

「ぐうぅぅぅああああぅぁああああ・・・!!!」

これは不味い、一撃で倒したと思ったのにと追加で息の根を止める為に銃口を向けようと思ったが、指先を離した。発砲音はあまりにも響きすぎる。血塗れの大鉈を拾って、首筋にぷっつりと大根でも切るかのように引き抜いた。
頸動脈から抜ける大量の血を浴びないように退いた少女はその場をすぐに離れ、銃と大鉈を片手に森を駆けた。

「まさか・・・」

進む先の林の陰から、槍を持った"少女"が殺意が籠もった目で進路を塞ぐ。だが左手に持っていた大鉈を見切りよくぶぅんと投げると回転して飛来する大鉈を頭に受け、槍はぽとりと力なく落ちた。突き刺さった大鉈を見捨て、新品同然の槍を左手に握り込み。また前に進む。

「"私"以外に"博麗の巫女"が居たとは・・・」

話は少し遡る。
博麗の巫女であった女性は我が子である霊夢が次代の博麗の巫女になる事は明白であった。だがそれは"本来なら"の話である。博麗の巫女は1人ではなかったのだ。そもそも、現在の博麗の巫女を担う博麗の巫女が生んだであろう博霊の巫女はただ単にその巫女の子孫であるという事だ。この幻想郷、博麗神社の博霊の巫女を担う巫女を選別する方法は通例普通は行うであろう"世代交代"を"世襲"で行わないのだ。そもそも博麗家は一家だけではない。隠れ住むように博麗の巫女争いに破れ"分家"となった者達がその"時"を待つのだ。それが今日であり、それを博麗の巫女は自分の娘に教えていない。教えられないのだ。それが幻想郷でのルール、『博麗の巫女選別の儀』である。
つまり、この博麗選別ルールに打ち勝つ事が出来れば分家であった者が『本家博麗の巫女』となれるのだ。



そしてある夜更け、その儀が行われる事になったのだ。




「何よ何よ、何が博麗の巫女よ・・・まったく・・・」

己が手で殺したのが現在の"本家"の霊夢である事をまったく知らない霊夢は自分と殆ど瓜二つの顔をした有象無象をここまで5人殺した。今日の夜に唐突にこの事を聞かされ、放り出され、武器を拾い"敵"である同じ顔面を鈍器で何度も何度も息の根が止まるまで殴りつけた頃には、これの意味を悟った。
つまりは幻想郷は弱肉強食でありこれぐらいで死ぬ存在では幻想郷を守る事は出来ないと霊夢は思ったのである。いや、そう悟るしかこのおかしなというより狂気の行いの答えは見つからなかった。平静を保ちたい。幾度と見た発狂している自分と瓜二つの顔を見て、ああ狂ってしまえば必ず最後に殺されるのは自分だと分かってしまったからだ。
何とか冷静に落ち着いて行動しなければと銃と槍を持った霊夢は身を隠しやすい森の中を走っていた。だがこれは失策であったと痛感していた。ほかの霊夢達も同じ考えであったようで、この森の中に入ってから3人程殺している。
そして虎の子である強力な武器、この闇夜と同じくらいに黒い拳銃の残弾は僅かに4発と6発しかなかった。霊夢はこれを触ったのは初めてに近いが狂気や緊迫がすぐに体を慣れさせた。この武器は6発だけ弾が入り、撃ちきった場合は新しく弾を詰め直さなければならない面倒臭い仕様であった。しかしそれ以上に遠距離から一方的に叩きのめす事が出来るという点と殺傷力が刀と同等以上であるという点には霊夢はこのリボルバーという銃に信頼に近い感情を抱いていた。
だが、その銃も10発しかないというとかなり心許ない。残りの生存者が幾らいるか分からない状況で弾薬を1発1人と使ってしまえばかなり損になるからだ。先程の槍を使っていた奴のようにほかの武器でとどめを刺せれば良いのだが、同じような遠距離から一方的に攻撃できる武器、所謂今持っているリボルバーのような銃器に類するものを他の誰かが持っていないとは言い切れない限りは銃器は絶対的に有利を得ている訳ではない。そしてこの暗がりだ、視界の問題でほぼ無音の刀などの刀剣類の方が分がある部分もある。とにかく霊夢は一端隠れれそうな横穴に慎重に入り込み、休むことにした。何事も緊張しっぱなしではいつか壊れてしまう。使ってしまった弾薬をおぼつかない手つきでシリンダーから抜き取り、新しい弾薬を詰め直す。これでバラの弾薬は4発となりその4発を大事に懐へと忍ばせた。

このまま朝日を待っても良いが、そうもいかない。がさりとしたかと思って耳を立てた霊夢は銃を片手に横穴から少しだけ顔を出した。予感的中、誰かが木々の合間からこちらを見ている。だが伺っているだけで、手を出してこない所を見ると相手が持っているのは刀剣か鈍器、もしくは何も持っていないかという事になるか、それとも射撃による攻撃が無難ではないと思っているかだ。
横穴から必要以上に顔を出さないようにのぞき見る。上は小高い山のようになっていて今の霊夢の横穴からはある意味で崖のようになっていた。その山から土を踏みしめ蹴り出す音が聞こえた。誰かが飛んだのだ。それと同時に連続した発砲音が耳の上で響いた。どうやら近くで聞こえるがこちらに向けて撃たれたものではないと悟った霊夢は焦らず銃を構えつつのぞき見る。見ればそこにはこちらをのぞいていた霊夢が銃声に驚きこちらの監視を止め、逃げ出している光景であった。こうなってはもう助からない。狩る側と狩られる側が定まった瞬間である。もう一度、発砲音が紡がれ空気が盛大に抜けるかのようなうめき声と木々を削く音が聞こえ、発砲音は止んだ。殺されたのは明白である。だが他人の心配はしていられない。そのこちらの銃の数倍は性能が良いであろうモノを持った霊夢がこちらに来ないとは言い切れないからだ。息を潜め、他に行く事を願う霊夢。汗が滝のように流れ、真っ白な巫女服は土と汗でべとべとになっていた。

どうやらこちらへと向かってくる足音、そして漏れるように笑い声が聞こえる。その笑い声は普通ではない。

「ふっはっはっふっはっ・・・あッふっふっふハハっはははァはっはっふっふっふ・・・ふふふ・・・ははっはははははは・・」

明らかに常軌を逸した笑い声にたらりとまた汗が伝う。落ち葉を踏みしめる音が気持ち強く聞こえる。もしかして臭いでこちらへと近づいてきているのでないかと疑心に陥る程、こちらへと正確に近づいてきているのである。どんどんとその狂気の相手の姿が闇夜に移る、しかも最悪な事に相手は木々を避けて歩いているようでその自然の障害物を上手く活用しているようでこちらからでは射線をとる事が難しく一か八かで撃ってもかなりの確率で当たらない事は明白であった。

発砲音が鳴った。死んだか?と思ったがそう思考できているという事は自分が生きているという証拠である。
相手は気づいていなかったようだ。相手が見ていたのはこの横穴の上、銃を持っているソレが降りてきた所から隙を伺っていた霊夢を撃ち殺しただけであったのだ。前のめりに倒れ、その死体は横穴に丁度ずり落ちてきた。その混濁していく眼と眼が合う。

気づけば銃を持った狂気の相手は視界から消えていた。死体と一緒に落ちてきた手斧を槍と交換する。槍は背中に背負い何かあった時の為に備えた。しかし、まだ敵は近くにいるかもしれないと思った霊夢は10分程心の中で数えてから反対の方へと向かった。

森は逆の意味で危険と悟った霊夢は、右手に銃、左手に手斧という格好で森から抜け出した。まだ朝には遠く暗い夜の内に隠れる場所を探さなければならない。小屋などはまず無理であり同じ考えの者がくる可能性がある。ならば、何処か最適かを考えている刹那、森を抜け、遙か前方遠くまで広がる田園風景のその脇の脇にちょこんとあったそれを眼をつけた。
農道用水路である。普通考えもつかない場所であり、しかもギリギリ人1人が中腰で入れる箇所で水も流れる環境最悪の所であるが、逆に近づかない場所であるというのは確約されているようなものだ。

周囲を見渡し、水路の中へと入る。冷たい水の中に足を浸からせ、夜目が効いている事に感謝しながら中腰の状態で奥へと進む。先へと進むと予想通り、土が溜まった一種の陸が出来てる所にぶつかった。こういう水路は殆ど整備がなされず、雨風の影響で土が溜まりやすいのである。汚く冷たいが横になって体力を回復させる点と安全であるという最大の利点には変えられないと霊夢は横になった。
水の音は絶え間なく続く、だが眠りについた霊夢を襲う者は誰一人といない。









殺し合いが始まって半日経った。何人もの"霊夢"が死に至ったかは定かではない。そもそもこの殺し合いは・・・
数時間か睡眠を取った霊夢はすっかり冷たくなった体を起こして頭が痛くなったのを感じた。それもそのはずである。劣悪な環境で横になったとして布団のような安眠が得れる訳はない。頭は早鐘のように反響し続ける為、思考が鈍る。しばしうずくまるように膝を抱えて平静を取り戻す。数分後、頭の痛みは引いてくる。思考がはっきりとし始めようやく睡眠がある程度取れた事を実感する。寝る前よりも思考が巡っている。まずやるべき事は簡単だ。銃を器用に右腰に収めた霊夢は手斧でなく槍を両手に握り水路から慎重に這い出るように辺りを伺った。太陽はしっかりと顔を出し、もう昼になろうとしている時間帯、視界良好過ぎる田園風景には1人とて映らない。敵がいない事を確認すると、霊夢は持っていた槍を水路から出たすぐの割と深い川へとぶっきらぼうに投げつけた。ぶっきらぼうではあるがその投擲は胴体ぐらいなら軽々と貫通しそうな勢いの速度で、川に大きな波紋を作る。にやりと口元を釣り上げた霊夢は辺り一応警戒しながら川に突き刺ささり微かに震える柄を引き抜く。その穂先には逃げようと必死にもがいている魚の姿があった。

食料の問題である。この殺し合いは長期的になると考えた霊夢はまず始めに見つかりにくい場所の確保を先決に動いていた。それが叶った今は長期的に動けるように食料を手に入れなければならない。だがその問題も簡単に解決した。持っていたのは槍で即席の隠れ家のすぐそこにほぼ危険なく川が存在しているのなら、魚や貝はてまた蟹などの生物を視界が取れる内に穫っておけばよいのだ。
何度も槍を川に突き立てては引き抜きある程度食料の確保に満足した霊夢は新鮮な魚を水路へと運んでいった。
手斧で内蔵をはぎ取り頭と骨と肉だけになった魚数匹が並んだ。火などない。むしろ火があったとしても煙で居場所を悟られる可能性は大きい事からそんな馬鹿な事は行えない。つまり、簡潔的に
かぶりつく、ただそれだけだ。魚を選んだのも殆ど生食での害の無さを考慮してである。栄養価は大幅に偏るが腹は膨れないのはあまりにもアドバンテージがなくなる。この殺し合い、最後に立っている者はこういう地味な事をやり続け最後まで生き残れるものか、それともその巫女としての最大の力を最初から最後まで出し切って生き残るかの2択なのだろうが、この霊夢は前者を選択した。それは霊夢自身の身を持って分かりすぎる事で自分を殺すという事は自分を相手にすることと同義である。どうにかよく分からないが本家を含む分家の今回の霊夢達は慎重差や体格はまちまちだがその顔立ちは模写した絵画のように瓜二つだ。その事から多少の差はあれども同じレベルの体力身体能力の持ち主であることは薄々考えつく、3人殺した上での判断であるが、どれの霊夢もすさまじい程の潜在能力を持っていると言えた。
ならば不特定多数の霊夢達を自分の手で殺さなくとも勝手に殺し合って貰えば自ずと減っていくのではないかと言うのが1つの生存方法だ。これならば危険に身を晒す事はない。

僅かばかりの土地の上で座って瞑目する。少しでも体力を温存するためだ。

「は〜〜〜〜ろ〜〜〜〜〜♪」

はっ、と眼を開けた霊夢が見たのは水路の入り口からこちらを見ている何かの"先"であった。交差したその黒く丸い簡素なソレは幾つかの小さな爆発と音を水路に響かせた。薄暗かった水路がまた同じ薄暗さになり、その獲物の所有者が顔を出して水路を伺う。殺害対象が遠目から見ても息をしていないのを確かめると、水路に降り立ち、右手に持つ簡素で無骨な銃、所謂殺された霊夢の方も持っていた銃と同じ部類ではあるが、こちらは少し勝手が違う。これは銃としては分類が違うのだ。殺された方が持っていたのは拳銃であり、今生きている方が持っているのはそれよりも遙かに素早く撃つ事が出来る強力な銃である短機関銃であり、近距離であれば敵無しなほどに多量の弾を文字通り雨のようにばらまく事が出来る。
実の所、この霊夢は横穴付近で出会った霊夢であったのだが、生存している横穴から這い出てきた霊夢を発見し安全に倒せる場所に来るまで追跡していたのだ。そしてこの水路に来て安心した所を殺した訳である。実際相手も警戒していたはずなのであるが、遠方ばかり警戒していて付近の警戒を怠ってしまったのがこの霊夢の敗因であろう。
死体を探り、回転式の拳銃とバラ弾4発、手斧と槍が見つかったが、その中から拳銃と槍だけを手に取り、槍を背中に背負い、拳銃を懐に収める。強力な武器である短機関銃を持っているのだ。その前では槍も拳銃も備えの為の武器に過ぎない訳である。
始末を終えて、水路から出る霊夢。言動は壊れたソレだが、行動はしたたかで確実なものであった。この霊夢は今ままでに6人の霊夢を殺しているのだから殺し方も安全なものを選んでいる。しかし殺す事を積極的に選ぶのは1人殺せば驚異が1つ減る。驚異が1つ減れば後々自分に降りかかる驚異が相対的に減るという長期的な見方である意味では理にかなっている。理にはかなっているのだが、この霊夢はそれを盾に殺しというものを楽しんでいる節がある。その眼は血走りを覚え、その銃口は次の標的を探している。
田園地帯を抜けた霊夢は夜にならない内に場所を移動する事にした。日中であれば同じ考えの弱腰の霊夢達を一方的になぶり殺す事が出来るはずだからだ。それには相応の危険も伴うだろうが、そんな事は今の霊夢にとっては些細な事だ。

何度となく来た森を抜け、霊夢が目指すは人里だ。人里は身を隠す場所が多い。身を隠す場所が多いという事は生存者はここで夜を待っている可能性がある。
森と人里の境界線、小高い丘から人里を見下ろす霊夢。見下ろした先の人里では散発的な悲鳴と銃声が聞こえる。思った通りと、愉悦の笑みが零れ出す。
丘を駆け下り、人里へと降り立つ霊夢。眼前に映るは満身創痍の敵、こちらに銃口を向けるがあまりにも遅い、それよりも先に連射音が景気よく聞こえ、数発の弾丸が満身創痍の体を穿ったかと思うと、地面へと這い蹲らせた。
短機関銃の音に気づいたのか、家屋の脇から生存者が飛び出してくる。意味不明な行動だと鼻で笑いながら、その動きを銃口で指し示すかのように追って引き金を3度程引いて同じように地面へと倒れさせる。丁度弾が切れたようで、カキンという音が銃本体から鳴り、面倒臭そうに空の弾倉を詰め替える。それを狙ってか、隠れていた霊夢が薙刀を両手に構えてこちらへと突進してくる。
全力の疾走に意も介さず詰め替えを放棄し、左手で懐から拳銃を抜き放つ。それと共に火花と弾丸が突撃する霊夢へと飛ぶ。
なんという心眼か、それとも奇跡か、その一発目の弾丸は薙刀の刃に弾かれる。いや弾かれるというよりこれは斬られたというべきか。しかしその驚きも次弾で終いだと、引き金を引く。
だがその引き金よりも刹那、本当に刹那と呼べる時、引き金よりも速く力良く上段から降り出された薙刀の刃が2発目の銃弾を阻止していた。撃たれるより速く、拳銃をたたき落としていた。焦りの色と相対した薙刀の主は刃をくるりと返した石突と呼ばれる柄の先の固まりで鳩尾を深く突き込む、動きが止まり、吐瀉物を吐き出す霊夢に畳みかけるようにもう一度くるりと反転した刃が頸動脈をすぱりと一撃で切断していた。慢心故かどうかは分からないが血を吹き出す霊夢のその顔は苦悶の表情ではなく、救われたような顔であった。
血を吸った薙刀を構えていた霊夢は今の数瞬の戦いでかなりの霊夢が減った事を感じ取っていた。まず目の前で3人、周りの悲鳴から4人は死んでいるだろう。それが対一によるものであればまだここには4人いるという事になる。しかしどうだろうか、今倒れ伏した霊夢のような強力な武器を持った霊夢がまだここに存在するのであれば、一人で複数を殺す事ぐらい造作のない事だろう。ともあれ武器を確保することに成功したとばかりに、詰め替え終わっていない短機関銃を完全に弾倉を詰め替える。残りの弾倉は2つしか無く、生存者の総数が分かっていない今、少々心許ないが、強力な武器を持つ事はそれだけ優位に立てるのだから、持っている事に越した事はない。

辺りは静かになっていた。殺し合いが一時的に治まったのだ。つまりは何らかの方法で決着が付いている訳で生存者は残りの生存者を狙っているに違いない。

とりあえず霊夢は薙刀を捨て、短期間銃を両手に構え、腰に拳銃を差し込んで家屋に進入して辺りを伺う。隠れるつもりではない。これは残存している生存者が何処にいるか確認しているのだ。事前に相手の装備を知る事が出来ればやり過ごすか不意打ちを仕掛ける事も可能であるし、撤退も可能だ。しかしここは危険地帯のようで、長居は危うい。しかしどうであろうか、散発的に銃声は聞こえたが、それらはどれもが繋がっては聞こえなかったではないか、つまりは今握っているソレと違い単発式の銃器であり連射が出来る分こちらが有利である。だがここは冷静に攻勢には出ない。実際単独で戦うのであれば身体能力と武器の優劣からこちらの勝利は濃厚だろう。だがもしも、この極限状況下であり得るとは思えないがもしも、2人以上の霊夢が協力している可能性があるのなら、こちらは圧倒的に不利になるだろう。だからこそそのもしもの為にこうやって事前に偵察している訳だ。
窓から割れた硝子越しにこちらが見えないように手で硝子を動かし辺りを見回す。辺りは明るい為外の景色は割と見やすかった。
しばらくそうしていると奥の家屋群から押しのけるように霊夢が顔を覗かせた。硝子を動かし相手の装備を確認する。両手で握り込んでいるは自分が持っているソレよりも横に長い両手で構えないといけないような形をしていた。そして引き金とは別に握り手には少し浮いたように色が違う取っ手のような所を右手で握りしめていた。
その形状から今持っている短機関銃のような強力な武器である事に気づく霊夢。しかし相手はこちらに気づいていない。今横合いから掃射を仕掛ければ容易に倒せるだろう。そう考えた霊夢はゆっくりと家屋から抜けだし、不意打ちを仕掛ける為に家屋の外へと出た。

「・・・。」

一瞬何が起こったか分からなかった。中腰で扉を開けた霊夢に合わせるようにその頭に硬い何かが押しつけられていた。しまったと上を見ようとするがもう無駄であった。
銃を持ち上げるより先にその頭蓋を一発の弾丸が撃ち抜いた。そして倒れ伏す亡骸の短機関銃を奪い取った霊夢は、外に居る一人の霊夢へと攻勢を仕掛けた。水平に振り上げ引き金を引くと共にばららとまるで無尽蔵に高速を越えた弾が次々と火花を散らす。
広がった弾の嵐は直撃したかに思えた。しかしそれよりも速く、行動していた敵の霊夢は両手の銃を放り投げるように横へと飛んでいた。そして射線から離れてしまったのを引き金を引くのを止めた霊夢は前へと乗りだし追撃を加えようと引き金を引きつつ路地を飛び出した。

カシュンという歯切れのよい音が鳴ったと思うと、引き金を引く力がふっと抜けた。そしてなんと馬鹿げた事かと自分の体が路地の壁に打ち付けられる。思い出したように痛みが腹部を中心に広がり、確認すると、霊夢は短機関銃を力なく投げ捨て事切れた。

ふうと息を付いて、両手に握ったその獲物をもう一度カシュンと鳴らし、生き残った霊夢は立ち上がった。その隙を付いて短刀片手に突っ込んできたのを横目で対処した。
まるで獣の叫び声のような声と共に同じように吹き飛ばされ追いかけるように爆音が一発鳴った。そしてもう一度同じ行程で前後ろと動かす。
周囲を確認し、周りに気配を感じない事を察すると、霊夢はその両手の散弾銃の弾倉に新しい弾薬を叩き込んだ。
この銃、単純明快な性能を持っている。まずは拳銃のように薬室を持ち、それを手前の取っ手を動かす事で装填と排莢を行う。まどろっこしい事この上ないだろうが、それを補う程の能力をこの銃は持ち合わせている。
叫び声を上げて拳銃を乱射しながら突っ込んでくる霊夢を見て、距離を再確認して引き金を引く。この銃は発射と同時に小さな弾が前方に瞬く間に広がりそれは距離に応じて広がる。遠ければ遠い程広がってしまうが、それと同時に殺傷力は下がってしまう。しかしながらこの拡散力は身体能力が極めて高い霊夢を一撃でしとめるには有効であった。
発射された弾薬はみるみる内に畳のように広がり、黒い霧は突っ込んでくる霊夢の柔肌を屑肉をぶっきらぼうに加工するように引き裂いた。
複数の死体の臭いが充満するのを気にとめず。排莢を終え、死体から拳銃だけを抜き取ると霊夢は散弾銃を両手に人里を走る。
大分殺したようで残った霊夢達は殆どが強力な武器を持たない雑魚ばかりであった。4人程散弾の餌食にした所で、辺りは暗く、日を段々と落としてきた。

<はぁい、おはようございます〜おはようございます。生き残りの皆様方いかがお過ごしでしょうか?>

夜となった時、森の中で休憩しながら散弾銃のチェックをしていた霊夢の耳に聞いたことのない声が聞こえた。

<あ、あれですよ。あれ、これは生存者の皆様方の脳内に直接語りかけています〜みたいな調子でお願いしますね。まぁ前置きはおいておいて、現在なんとなんと生存者の皆様は約10人を切りました!わーぱちぱちぱち、たった一日で90人近くが死ぬなんて私達は思いもしませんでした!すごいすごい!>

<で、生存者の皆様に大ヒントを差し上げます!博麗神社に皆様集合される事をおすすめしますよ!あー、それはなんでですかって?この特別に作られた殺戮舞台の境界を狭めるからでーす。なんでそんな事するかって?そりゃ、あれですよ。少ないからさっさと終わらせる為でーす。税金対策節税赤字対策とは言ったもんです。じゃそういう事なので、言うことは聞いた方が良いですよ?それじゃあまた生き残ってお会いしましょう!>

聞き慣れない声が数度脳内で響いた後、ぷっつりと消えた。
ふざけた声であったが、言っている事は分かった。つまりは残りが10人程になったからさっさと決着をつけろという事だ。博麗神社に集まれと言うのは博麗神社を中心に外側からどんどんと結界が狭まってくるからだろう。その外側に残ればどうなるかは言葉にするまでもない。
さてどうするか、静かな森の中で思考を巡らせる。生き残った10人の性能は今まで殺した霊夢の中では強い方だろう。そんな奴らをしとめるには先手を打つ方法がある。しかしそれは他の者達も考えている事だろう。焦って博麗神社に行く者を道中待ち伏せして殺す事は誰でも考えられる。つまりは最後に博麗神社に着く方が安全だ。でも他の者達がそこに行かなければ死の危険性は遙かに増す。鉢合わせにならないようにするにはやはり誰よりも先に博麗神社に着いて待ち伏せするしかない。
そう決めた霊夢は散弾銃を背負い、拳銃を片手に森の中を走り出した。


思ったよりも誰も攻めてこない。驚くほど安全に博霊神社に着いた。着いたと同時に拳銃から散弾銃に切り替え警戒しながら銃を構える。
だが何の気配もない。明らかにおかしい。銃声も悲鳴も息づかいすら聞こえない。
もしかして計られたのか?と思ったがあんな芸当を他の霊夢が出来るとは思えない。思考を続けながら境内を歩くと、ふと異変に気づく。風に乗って何度も嗅いだ血の臭いが乗ってきた。死体があるという事は誰かがやった事になる。誰かが待ち伏せしている。あちらこちらに銃を向けながら霊夢は慎重に移動する。

「…。」

そこに居た。笑ってしまう程にあっけらかんとそこにたたずむようにソレは立っていた。しかし霊夢ではない。それよりも少し大人びた感じだ。

「…。」

それは無言でこちらを見ていた。暗闇というのに目が闇夜の獣のように煌めていた。
おかしい事に相手は何も持っていない。素手なのだ。暗がりに慣れた眼でもはっきりとそれはわかり、幾分だらりと肩を下げてこちらを見ている。

銃をさっと上げ、構える。だが相手は何もしてこない。引き金を引いて見たが、その爆発の音よりも前に横へと淀みのない動きで眼前のソレは回避した。簡単な原理だ、夜目がある程度効くなら相手の引き金にかける力を注視するだけで大体いつ撃ってくるか分かる。だが混乱している霊夢はそれに気づかない。数発立て続けに撃ち続けるがことごとく回避される。

カキンと嫌な音が境内に響いた。同時に冷や汗と地面を強く蹴る音が聞こえた。咄嗟の判断で散弾銃を前に投げる。どうせ弾が入っていない銃など鉄の棒に過ぎない。投げつける事で若干間を外す事に成功した霊夢は間一髪でその魔手を避けた。

「!」

気づいてしまった。目の前に居るのは霊夢ではない。同じような巫女装束をしているが服装の形状は大きく違った。
間を取って、冷静に相手を見る。再度確認して合点がいく。目の前に居るにはやはりーーー

「―――いかにも」

眼前のソレが万年開かなかったかのように重い口振りで声を発する。

「―――現博麗の巫女である。」

心を読むかのようにこちらの疑問に解答をぶつけてくる。その眼は未だ静かな殺意がこもった獣の眼をしている。

「―――よくぞここまで生き残った よくぞ生き残った 残りの9人はもはやこの世界に存在せぬ 安心するがいい お前こそが選ばれた生き残ったのだ。」

おかしな事を言う。つまりはこの目の前のソレが残りの9人を殺したとでもいうのか、いやそうなのだろう9人と確証ある言葉とたっぷり9人分はあるだろう充満した血の臭いが物語っている。

「―――何故という顔をしているな?そもそも博麗の巫女とはこの幻想の地を守護する者、それは代々受け継がれてきた。そう、そうだ。お前が手をかけた全ての同一存在達はこの為に存在している。疑問に思わなかったのか?思いもしないだろう。何故100人とも同じ霊夢なのか、ふっ・・・は、は、は。」

眼前のその女のような形をした狂気の塊はその言葉に似合わない美しく透き通る声で言葉を続ける。

「―――は。は、はは。は、は。私は考えた。この幻想の地は日に勢力が変わりつつある。不変でありながらも全てを受け入れる矛盾の末路だ。だからこそ私は考えた。この継承の儀を何かに使えないかと、そして考えた末に今こうなっている。お前が私の目の前に現れたのも全ては、今日の日という為にある。100人居た理由か?考えても見ろ。無から有は作り出せぬ。そうだ、産み落としたのだ。理解したか?しただろう?は、は、は。ありえぬと?存外今置かれている状況を理解してから思考した方が良い。ここは幻想の土地。摂理とはかけ離れておる。私が100の子を順々に孕んだとしてもおかしくはあるまい。そしてそしてだ。栄えあるこの日にその我が子が一人になるまで知略と暴虐を尽くして生き残ったのだ。あぁ我が子よ私は嬉しいぞ。嬉しい。時間をかけた甲斐があるというものだ。何故こうまで遠回りなことをしたか、博麗には本家と別に分家がある。だがそれは本家のバックアップに過ぎん訳だ。だからこそこの取るに足らん分家を有用に使おうという訳だ。確かに分家も次代の博霊の巫女を教育していた訳なのであるが、それらは今はこの世に存在せぬ。そして我が肉体から生まれた博麗の後継者達『霊夢』が分家に行き渡った訳だ。必死だったであろう。本家に取って代わろうと各々まるで憎悪の如き執念で『霊夢』を育て上げたに違いない。お前がどの分家から出てきた者かは知らんが、その点においてはその分家はよくやったと誉めてやろう。話は逸れたがそして生き残った霊夢の一人は自動的にその100人の中で最強という事になる。最強とは良い響きだ。そうだ、最強。それこそ私が思い描いた筋書きだ。私が先代から博霊の座を受け継いだ時、私は思った。弱いと、分家と当時の本家をこの手で屠って力量が全てが足らぬと痛感したのだ。これでは次代の博麗の巫女が私以下であった場合は、この幻想の地の未来を託す事は私は出来ぬ。ならば……ならばこそだ。我が血肉より生み出した子は私に至らずとも強者として生まれるのではないかと、その結果だ。今その結果が我が眼前に広がっている。出来損ないは数あれど、正真正銘強者だ。おめでとう祝福する。だからこそお前は…―――」

紡ぎ終えた旋律を止めるように長々と喋った口がはたと止まった。それと同時か拳が霊夢の頬を掠める。少し反応が遅れていればその刃物以上の切れ味を持つであろう手刀が顔を真一文字に切り裂いていただろう。振り切れた指先は空を切り風を巻き起こす。隙を生まぬように振り切ったのに合わせて地面が強く前に踏み込まれ後ろに飛ばれる。
また一定の間がおかれるが、こんな短い距離はこの幾多の妖怪を狩ってきたソレにとって間合いですらないだろう。

「だからこそ、殺す。その強者であるお前を倒して、私はまた博麗の巫女の座に戻る。私を越えぬ限りは未来を託せる博麗の巫女とは言えぬ。何簡単だ。また分家を叩き起こして育てさせれば良いのだから。」

今度は槍のような蹴りが飛んでくる。刹那、遅れて足を振り上げ霊夢はその蹴りを逸らす。逸らした後、その反動を利用し、反対の足でがら空きの体を蹴ろうと宙で体をひねる。しかし、その蹴りを受け止めるように出てきた手に受け止められその衝撃は格段と軽減され、逆に弾き飛ばされる。

「博麗の巫女は強者でなければならない。しかし、その強者とは何なのか、私は考えた。博麗の巫女は冷静であり、利己的であり、現実主義であり、強靱であり、冷血であり、保守的であり―――」

僅かに見えるその手元から何かが煌めいた。紙一重でそれを避ける。注意がそれに逸らされ、拳が腹部を狙って来ているのに気づくまで大幅な時間を使ってしまった。

「つまりは、だ。今の私が博麗の巫女として不完全ならば、ここで私は敗れ去る。だがもしもここで私がお前に勝つことがあれば、私はまだ博麗の巫女として有り続けよう。ここでそうなったとしてもその次かはてまたその次の博麗の巫女の『候補』が私を倒す時までな」

押しつけるように掌が霊夢の腹部にめり込む。いやこれはもはやめり込むという表現が間違いかのように異常に沈んでいた。

体の内側から洪水のような血がせき止められる事なく溢れ出て、体が脳の指令を無視してがくりと落ちる。一発の掌底で霊夢の身体機能の殆どが機能停止まで追い込まれていた。無理もない話だ。眼前に居るその未だ博麗の巫女として座しているソレは今まで数え切れない程の有象無象の殆どをその肉体のみで打ち破っているのだから。

「お前はよくやった。しかし、これだけでは私はこの幻想の地を任せれるとは思えぬ。さらばだ。」

慈悲か、岩すら砕くその拳は頭部を正確に捉えていた。












「終わりか・・・」

血溜まりの上に、その博麗の巫女はまだ立っていた。何かを待っているような。そんな顔すらあった。その眼は何処を見ているか分からない。しかしその耳は、しっかりと何かが居る音を感じ取った。

確かに100人全ては死んだはず。

「…。」

音のする方向へとゆっくりと振り向く。居る。確かにそこに”ヒト”が立っている。薄暗がりで誰だか分からないが確かにそこに存在しているのだ。

お互いの距離はかなり離れている。会話はないが気配だけは伝わってくる。この程度の暗がりは博霊の巫女にとって何の制約ですらない。間合い、地形、空気、それは五感全てを使い完全に把握している。視力の問題で相手の顔が分からないのが難点であるが、何の問題もない。

突如、暗闇から閃光が2つ瞬いた。それは刹那的に敵の周囲を明るくさせたがすぐに消えた。その光が瞬いて消える頃には、それから放たれた2発の弾丸が博麗の巫女の眉間を貫くように飛んできていた。
首を横に振りその弾丸を回避する。それに合わせて数発撃ち込まれるが全て回避していく。間合いを的確にとりながら暗闇の向こうの敵は精確な射撃を行っていた。博麗の巫女もやられっぱなしではない。敵の弾が切れたのを見計らって丁度地面に倒れ伏していた肉塊の中から素早く首の骨を取り出しそれを即席の投擲物かのように瞬時に投げた。弾丸と同等の速度で飛来する骨を敵は再装填を終えて迎撃する。景気よく骨が弾け飛び、すぐさまその向こうの敵を撃ち殺そうと照準を合わせる。
しかしその照門と照星が捉えたのはまったくの虚空であった。標的を見失い。銃から目を離し周囲を探す。しかし何処にもいない。足音すらないのだ。半秒遅れて理解した。
先に銃口が上を向く。だが遅い。その引き金を引くよりも速く。天から振り下ろされた必殺の蹴りがその銃をたたき落としていた。着地と同時に博麗の巫女の全身が飛び込んでくる。この必殺の間合いの中、懐深く飛び込んだ身体に対し、相手は銃を使う事もできないだろう。繰り出される拳、それは急所を的確に捉え撃ち込まれる。

「―――」

その拳が入るか入らないかの間際頭上で何かの声が聞こえた。













「―――夢想天生」

未だ地面に立っていたその敵の右手に握られた一枚の紙切れは砂のように消え虚空に散った。撃ち込まれたはずの拳は寸前で食い止められており傷一つない。もしも発動が少しでも遅れていれば倒されていたのはこちらの方だろう。

「ぐっが、ああ・・・なに・・・?が・・・?」

拳を撃ち込んだと思った博麗の巫女は逆に遙か遠くまで吹き飛ばされ、身体を地面に這わせていた。だがその身体はそこまで外傷はなく、致命傷にはなっていない。それは敵も事前にわかっていた事だ。あくまで敵が行ったのは自分との距離を離すという目的の為に紙切れを使っただけなのだ。しかしながらその衝撃は傷を与えなくとも一時的に身体の動きを封じる程度の威力は持ち合わせており現に無双の肉体を持った博麗の巫女の身体は満足に動かせていない。

「まぁ、あれよね。」

背中に背負っていた長物の銃器を引っ張り出しながらそう呟くように言ったソレは、呆れているような面倒くさそうなどちらとも言えない顔つきをしていた。それは確かに少女のような顔立ちではあるがどこか大人びたような風貌すら伺える。その服装は博霊の巫女が代々着るような巫女服に酷似しており、動き易さと防御の双方で丁度良いバランスが取れた作りをしていた。だが、その顔は今まで死んだ霊夢達とははっきりと違う別人であった。
まだ動かない身体の博麗の巫女は頭だけ動かしその顔を確認してそれがやはり霊夢達とは違う事を気づき、何故幻想郷から隔絶されたこの空間にコレが存在するのか理解出来ていないようだった。

景気のよい金属音がして、弾が全弾装填されていることを確認したソレはまるで追いつめた獲物を刈り取るような眼で、引き金を―――

















「あ、やっぱり倒しちゃったの?」

「そりゃあね。次代の博霊の巫女を決めるというのなら私だって参加する権利があるわ、っていうかこの博麗神社に最後の生き残り達を集めたのは貴方じゃない」

「その方が何かと終わりますからね。結界の維持って結構大変なんですよ?そして残念ね…この人はとても強かったのに」

「いいじゃない。この人もずっと前から死にたがっていた。強すぎるっていうのも大概寂しいモンよね。しかも妖怪とか化け物じゃないただの人間がね。強いってのも同じ人間から疎まれるって話な訳よ。」

「・・・それでこの人は、どうするの?」

「幻想郷に帰ったら私が丁重に葬るわ。それで彼女も報われるでしょう。ずっと彼女は倒されたかった。自分より強大な力で打ちのめされて、完膚無きまでにね。でも居なかった。未来の吸血鬼も幽霊も閻魔も月人も神も鬼も妖怪も神霊も天人も誰もが敵わなかった。だからこそ、私が倒さなければならない。そうしなければまた未来は、彼女一人を残して過ぎ去っていくのだから。」

「1000年先から来たあなたに言われても困りますわ。」

「貴方だって勝てなかったじゃない。それも肉弾戦で」

「そ、その話はよしましょう。」

「それで結局、私がこれから博霊の巫女って事で良いのよね?」

「えぇそうですわ。名実ともにそして『血統』すらも博霊の巫女として貴方は今存在出来ています。」

「そういえば」

「?」

「私、名前ないのよね。だって未来の幻想郷には名前すらなかったんだもの、しかも生まれてすぐに貴方が来たものね。八雲紫?」

「名前ですか・・・」

「そういえば彼女の名前って何だったの?」

「彼女ですか?そういえば私も聞いたことがありませんでしたね。そういう事は無頓着だったのでしょう。」

「んー、あ、そうだ。閃いたわ。霊夢、確かこの過去で殺し合っていたのは霊夢って名前でしょ?」

「そうですけど?」

「名前は霊夢、それでいきましょう。そして名字は、博麗、つなげて博麗霊夢。どう?」


まぁ、いいんじゃないんでしょうか、と適当に答えた八雲紫と『博麗霊夢』としてこの幻想郷に生まれ出た次代の博麗の巫女は、この後様々な異変や難題に立ち向かっていく事になるのだが、それはまた別の話である。



「そういえば紫」

「?」

「この紙切れ、何かに使えると思わない?」

「はぁ、ただの簡易霊術式が何に役に立つと?」

「これを使って疑似戦闘を行えるようにするのよ、そうね名前は・・・―――」















おわり

























Go to the DEVIL BATTLE…
「そういえば他の人間は先代を『博麗の巫女』と呼んでいたが、余り霊夢のことを巫女とは呼ばない。 まともに仕事しないからであろう。自業自得だ。
しかし、先代は巫女としか呼ばれていなかったのだ。名前も忘れてしまった」






◆◇◆◇◆◇◆
コメント返信

>1様
多分、先任曹長さんであると思いますが早いコメントありがとございました。もうあれですよ最近の作品は銃とか銃とか書いてなかったり戦ってるのを書いてなかったので頑張りました。その面でいえばそういう描写が長くなったせいで冗長になったのは否めません。

>2様
なんでや!名無し関係ないやろ!(33‐4

>3様

次回東方血殺劇…「鬼哭啾啾」

>4様
申し訳ないです。最後は下に書いてあるように後から浮かんでくっつけたようにしてしまったので、話が別々になった感がバリバリでてましたね…。
続きの話、ワンチャンありますよ。ワンチャン…

>6様
この世に巫女はただ一人居れば良い。天を握るは南斗…じゃなくて博麗の巫女よ!!

>7様
排水路の霊夢は元々主人公格だったので、その名残りで彼女の描写が一番長かったですね。もしもそのまま主人公であれば、もっともっと殺していたのかも、しれません。

>9様

ありがとございます。やっぱり読みづらかったですよね。投稿した後に修正するのもあれなので、あえて詰め込む事で理不尽さを醸し出す感じでいきたかったのですが、次はもう少しスマートに書きたいと思います。いわば次作です。

>10様
「化物を倒すにはいつだって人間だ。」って奴ですよ。私はあの台詞が好きです。

>11様

ありがとございます。
途中で、続々と視点が変わるので本当に読みづらかったと思います…
□■□■□■□
12/17

突然の衰微死ねニルさん改め、"新徒"の方で色々書かせてもらっているスレイプニルです。知らない人は水銀あげるので覚えて下さい。

喜んでいいのか分かりませんがあんまり話に出ませんでしたね。
バレなかったやったーって思っておきます。

さて、この作品。実際の所は『未完成』なのであります。評価が低いのはその点もあると思っております。
実の所、今作の途中までは別の結末が用意されていてそれに沿ってヒャッハーしていた訳なのですが、最後の最後で結末を変えた為、最初の話がまったくもって意味のなさないものになっています。
これは、前によく書いていた早苗モノと似通い過ぎているという所もあり、「同じような結末じゃ面白くないな」という気持ちと「いいや書いちゃえ(傲慢」という気持ちが合わさり、こう相成った次第であります。

長々と言い訳を書いた訳ですが、私はこちらのイミテーションの方は初投稿で評価されるのも初めてであり、あんまり点数は入らないと思っていたのですが700ちょっとも貰ったので嬉しかったです。

言い訳のようなあとがきを読んでくださって、そして評価期間中もとい後々評価される皆様に最大限の謝辞を。




.。oO(以下、どうでもいいこと)

タイトルの元ネタはパチスロ鉄拳です。プレミアなので引いたことないです。後、私の作品だけがこんぺ投稿作品の中で英語表記でしたね。超浮いてました。

当初の結末はもうなんというか簡単に言うと『代紋take2』みたいな感じです。まんまそんな感じの結末でした。その結末だとあの農業用水路の霊夢が主人公のままでした。先代巫女は出て来ませんし戦いもしませんでした。これでよかったかどうかはわかりませんけどね。








「まだだ!!!まだ物語は終わってはいない!!終わっちゃいないぞ!!!!」


to be continued...?
突然の衰微絶滅しろニルさん
https://twitter.com/_Sleipnir
作品情報
作品集:
5
投稿日時:
2012/11/21 06:23:51
更新日時:
2012/12/17 13:48:31
評価:
9/11
POINT:
780
Rate:
13.42
分類
産廃SSこんぺ
霊夢
先代巫女
バトロワ風
簡易匿名評価
投稿パスワード
POINT
0. 60点 匿名評価 投稿数: 2
1. 80 名無し ■2012/11/21 15:58:54
これほど作者特定が楽な作品もあるまい。
さておき、淡々と進む描写がカルテを診ているようで至極味気なく、しかし濃い印象の文章。
少々冗長な感はあるが、御見事。
2. 60 名無し ■2012/11/21 17:18:39
名無しや
3. 90 名無し ■2012/11/21 21:00:18
血で血を洗うバトルロワイヤル。
勝者は存在しないはずのイレギュラー。
最強を倒した巫女の提唱した不殺の決闘。

悪魔の死闘は淑女の遊戯と化した。
4. 80 名無し ■2012/11/22 17:34:29
明らかに【未だ存在していないはずの霊夢】が過去に干渉していますが紫がなんかしたんでしょうね…。

霊夢が死んでもどうせほぼ同じ人格なんだから別人の霊夢が主観を引き継いでもよい、というのは中々に新鮮な方法だと思いました。
ただ惜しむらくはバトルロワイヤルパートと未存霊夢パートが直結はしていないことです。バトロワは博麗の巫女に繋がり、博麗の巫女は1000年後に繋がるのですが、終盤出てくる霊夢が重要過ぎて、結果として別の話を繋いだように感じてしまいました。設定はとても興味深いので掘り下げた話があるのなら是非読んでみたいです。
6. 90 名無し ■2012/11/26 18:52:33
博麗の巫女はただ一人いれば良いのですね。
7. 80 名無し ■2012/11/29 18:27:58
排水路に潜んでいる霊夢を応援していた。
次点は弾丸を叩き落したカッコイイ霊夢。
9. 60 名無し ■2012/11/30 18:39:39
冒頭がとても良かったです。強さに取り憑かれた先代巫女も、雰囲気があって格好いい。

ただ、読みづらかったです。一つの文に詰め込まれている情報が大変多いためかと思われます。
さらに主語がどれも霊夢な上、動きまわるシーンが多いということもあり、混乱に拍車をかけている気がしました。

もちろんこの文体によって不条理感が増している面もあるので、難しいところですが。
10. 90 名無し ■2012/12/01 23:31:04
敗北を知りたかった強者は敗北を知った。
自分よりも強い者の力によって。
11. 90 名無し ■2012/12/07 01:56:06
こんなにたくさん霊夢がいるのに殺しちゃうなんてもったいない!
一人くらいくれたっていいじゃないか…。

とても霊夢づくしで理解が追いつかない部分もありましたがさくさく読めました。
楽しませていただきました。
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