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『産廃SSこんぺ「その瞳から見えた手は ただひたすらに夢となる」』 作者: 雨宮 霜

産廃SSこんぺ「その瞳から見えた手は ただひたすらに夢となる」

作品集: 5 投稿日時: 2012/11/25 11:06:45 更新日時: 2012/12/17 01:05:15 評価: 10/15 POINT: 1040 Rate: 13.31
Prologue.



「痛い、いたいよぉ……」

 綺麗な声音が、私の頭を揺さぶりました。
 女の子の、可愛らしく弱い女の子の、涙混じりの悲痛な声は、私の耳にあまい響きをもって入ってきます。
 
 外は深夜。きんと冷えた空気が、布団から這い出た私の全身を包みました。
 フローリングに足を乗せると、まるで水の中に入れたかのような刺激と特有の悪寒が背中まで伝わります。
 ふつうなら一声かけるだけで、あるいは気持ちよく眠っていたところを起こされた理不尽に起こってから再び二度寝へとなるでしょうけれど。
 そんなことをしている場合ではありません。この時間こそ、私が待ち焦がれていたものなのですから。

「どうしました、魔理沙さん」

 がちゃり。たった扉一枚で隔てられた、私と魔理沙さんの空間がつながりました。

「こぁ、こぁ……うでが、てが、いたいの」

 顔を涙で飾って、不安で歪めて。痛みになんとか声を絞り出して、彼女はそう言いました。
 可哀想に。このまま眠り続けられれば、こんなにも、たくさんに怯えることはなかったでしょうに。

「大丈夫、だいじょうぶですからね。本当は痛いものなんてないんですよ」

 私はそっと、魔理沙さんを座らせて、ぎゅっと後ろから抱きすくめました。
 ちいさなちいさな少女の流した滴を、そっと拭いとって。手を前に回して、流れるように囁きました。

「あなたの手は、私の手。私の手は、あなたの手ーーー










 そもそも、事の発端は数日前。
 魔理沙さんが種族魔法使いになった、そのしばらく後の秋の日のことでした。

「邪魔するぜー。……あれ、パチュリーは?」
「パチュリー様なら、貸本屋さんにお出かけになりましたよ。ご用件は何ですか?」
「んー、地下実験室を貸してほしいんだけど」

 かつかつ、重そうに膨らんだ風呂敷を背負って魔理沙さんは歩きます。中身は前回のように、本。具体的に説明すると、前にこの図書館から大量にかっさらっていった一部。
 「死ぬまで借りるだけ」の言い訳が通らなくなったからか、はたまたそれは本当の言葉だったのか。とにかく魔理沙さんは盗んだ本を返すようになりました。
 素行がまともになったのは良いことですけれど、恒例の騒ぎがなくなると少し寂しい気もしますね。
 パチュリー様も割と甘い人なので、本を返すならとの条件付きで余った実験室を開放したりしています。
 そんなわけで、魔理沙さんはやっぱり繁く図書館に通っているのでした。私にとっては嬉しい限りです。

「はい、どうぞ。使ったら私かここぁちゃんに返してくださいね」
「ん、わかってる」

 わが主人の机の前にどさどさと本を置いた魔理沙さんに、合い鍵を渡します。
 彼女は元気よくそれを受け取ると、自前の道具を持って飛び去っていきました。

 申し遅れましたが、私はこぁ。パチュリー様に仕える小悪魔四人のうち、一番大きい個体です。
 
 今日は主人もいないし、お留守番を任されているだけであとは自由。
 私はようやく式神と言いますか分身と言いますか、とにかく使い魔のようなものが完成しましたので、それで実験でもしていましょうか。



「こぁさんこぁさん」
「あら、どうしたんですか?」

 数十分ばかり経って、私がのんびりとおやつの時間にしていたところ。妖精メイドの一匹が声をかけてきました。
 その手には、余ったお菓子と分けた紅茶を乗せたトレイ。つい先ほど、魔理沙さんにお裾分けをしようと持って行かせたものです。

「これ持っていったんですけど、ノックしても返事はないし、扉も開かないし。わたしが食べちゃだめですか?」
「言いながら半分くらい無くなってるじゃないですか、クッキー」

 残っている自分のお皿からつまみ食いされたぶんを追加して、パチュリー様の机から実験室の合鍵を取り出しました。
 いつもなら、お菓子と聞けば飛びつくほどの魔理沙さんが全くの反応を示さないのは奇妙な話です。
 今は私の実験が成功しましたし、何ら不自然なことは無いのですけれどもね。むしろ当然と言って良いでしょう。

「私が届けてきますから、あなたはもう自由にしてていいですよ。つまみ食いは厳禁ですけれども」
「ごめんなさーい」

 悪びれもなく口だけを動かす彼女をスルーして、図書館の地下へと続く扉を開けます。
 さて、魔理沙さんはどんな表情をしているでしょうか。どんな顔をして、私を見てくれるでしょうか?



「魔理沙さーん、少し休憩にしませんかー?」

 こんこんとふたつノックをして、大きな木の扉を響かせます。
 どうせ反応が返ってこないことは分かっていますが、一応は。誰がどこで見ているかわかりませんし。

「おいしいクッキーもありますよー。お返事くださらないなら私が食べちゃいますよー?」

 こんこんこんかん。小刻みに軽く目の前の木を叩きながら呼びかけます。いつもなら、「そこ置いといてくれー」とか、「ちょっと待ってて!」なんて元気のよい声が聞こえてくるはずなんですけどもねぇ。

 うふふ。

「魔理沙さーん?まーりささん?何か言ってくださいな」

 返事が全くありませんね。これは様子がおかしいと判断してもいいですよね。
 はやる気持ちが現れようとするのを押さえて、私は鍵穴に銀色をさしいれました。
 がちゃり。
 重厚な扉が、ゆっくりと荘厳とも言える響きを伴って開いていきます。
 薄暗い室内に、廊下の明かりが差し込んで。魔理沙さんに意識があれば、救いの光にでも見えているんでしょうか。

「入りますよー」

 私を支配するほの暗い高揚に任せて、そっと足を踏み入れて。つり上がる口元を引き下げて、私は床に目を落としました。もちろん、後ろ手で扉を閉めることも忘れずに。

 いた。
 いました。

 血だまりの中に、ほんの少しの光を受けて煌めく金髪と。悲痛に歪んだまま固まり、輝きを失った瞳と表情。極めつけは、本体を離れて転がっている柔らかそうな肌色の棒に、脇腹がどす黒く染まり、
 四肢全てが切断された魔理沙さんそのものが。

 うふ。うふふ。うふあははははっ。

 実験、もとい作戦、あるいは願望のまず最初は成功です。思ったより出血量が多いようですが、彼女はつい最近から人間ではありません。この程度では死なない、いえ死ねないでしょう。
 ともかく、ここでしくじる訳にはいきません。
 私は練習通り、即座に、あたかも悲劇を目撃した生娘のような顔を作り、声音に驚愕と困惑をたっぷりと混ぜて叫びました。

「魔理沙さん!?」

 そのまま走って駆け寄り、表情はそのままに顔を寄せ抱きかかえます。彼女の視線がかろうじて、私に向くのが感じられました。

「魔理沙さん、魔理沙さん!しっかりしてください!」

 表情はそのまま、声に必死さを加えて。だいじょうぶですかすぐたすけをよびますからもうすこしのしんぼうですよ。とりあえず状況に合いそうな言葉を片端から並べ立てます。
 べちゃり、膝や腕に生温い血の感触。それに構わず、というか気にもならないのですが、ぎゅうとだるまさんもとい魔理沙さんを抱く手に力を少し加えます。物理的に小さくなってしまった彼女は、私の腕の中にすっぽりと収まりました。
 助けが来た、とでも感じ取ったのでしょうか。魔理沙さんは糸が切れたように、ふっと意識を失ってしまいました。

「……っふ、ふ」

 私は役者では無いので、こちらの糸も切れてしまったようです。

「うふ、く、あはははははっ!」

 即席の仮面はあっという間に崩れさり、素の私がぼろぼろと姿を現します。
 どうしましょう。しばらく笑いが止まりそうにありません。
 やりました。私自身がやったと悟られずに、魔理沙さんの手足を切断することに成功したのです。
 これで、とりあえずの段階はクリアーです。この後、咲夜さんや来客のお人好しのアリスさんに見つからなければ事はうまく運べるでしょう。幸い、メイド長はこの図書館区画にはあまり来ませんし。面倒が増えるのは勘弁してほしいですからね。
 閑話休題。この状態であまり長く居るのも不自然なので、魔理沙さんをさっさと私の部屋に運び込むとしましょうか。

「魔理沙さん、傷はすぐに治してあげますからね。っく、大丈夫ですよぉ、私が看病して差し上げますから。そばにいてさしあげますから。ずっと!」

 片手でぼろぼろの少女を抱えて、腕と足を拾い上げて。ずっと高笑いを続けていた顔を先ほどのものに戻して、私は駆けだしたのでした。
 心の中はうきうき笑顔、こんな高揚は何年ぶりでしょうか。
 もうすぐですからね、私の愛しい魔理沙さん!
 

 それから私は魔理沙さんを自室に連れ込み鍵を掛けると、治療を始めました。
 自分の尻尾を魔力供給用コンセントに挿して、彼女に睡眠の魔法をかけます。……よし、これで何をしても起きないはず。
 そしてあらかじめ用意しておいた鉄板を炎で熱し、魔理沙さんの腕の断面に押し当てました。
 じゅう、と肉の焼ける音がしたのを聞いて、もう片方の腕へ。いちおう消毒のつもりです。熱しておけば細菌は死ぬでしょうし。
 ひととおり処置のようなものを終えたら、次はまた別の鉄板を今度は冷気で冷やします。氷以上に、痛いくらいに冷たくなったらまた先ほどのように、両手両足押しつけました。これは止血のつもり。 
 ほんとのことを言ってしまうと種族魔法使いも妖怪であることに変わりはないので、魔力さえ与えていればあとはほっといても治るんですけれどもね。
 あとは脇腹の切り傷を丁寧に縫い合わせた後、魔法で強引に治癒させて抜糸し、処置は完了です。念のため、後で永遠亭で化膿防止薬をもらってくることも忘れずに。
 以上、妖精でもできる、簡単だるまりさちゃんのレシピでした。

「その他の欠損部分はお好みで追加してくださいね、と」

 私はお顔や女の子の部分には手を出しませんでした。あくまで手足を落とすだけでいいのです。お腹の傷は少し制御を間違えた結果でしたが、傷自体は浅かったので痕はあまり残らないでしょう。

 私は、そうして完成した四肢の無い魔理沙さんの姿を見ました。
 とても大事に扱われている、柔らかな金髪と。幼さとあどけなさがまだ残る整った顔に。あるべきものを失った、未発達の平坦な体。
 じっと見つめていると、とうとうこのいたいけな少女を私の毒牙……いえ、刃にかけてしまったという実感がひしひしと沸いてきます。
 ですがそれは罪悪感など微塵も伴ってはいません。あるのはただ高揚と興奮と、これから始まることへの期待。 
 魔理沙さんを一目見た時からの切望が、いまから達成されようとしているのです。
 うふふ。


 魔理沙さんを見ているのは、たとえ何の反応も動きもない時であっても素敵なことでした。ただ夢中になって、彼女の体に視線を落とし続けていた、
 そんな時。
 魔理沙さんの瞼が少し動いたかと思うと、ぼうっとした瞳が顔を覗かせました。

「おはようございます。気分のほどはいかがですか?」

 そう声をかけても、彼女はただ焦点のあってない目を私のほうに向けるだけ。ただ単に寝ぼけ眼なだけかもしれませんが。
 数秒経って頭に血液が流れたのか、急に瞳孔が一点を捉えました。私の目です。

「こあ……くま……?」
「はい、小悪魔です。魔理沙さん、気持ち悪かったり、頭が痛かったりしませんか?」

 また数瞬して、ゆっくりと首が横に振られます。となれば、傷口から雑菌が入ったとかは無さそうですね。
 またしばらくぼーっとしている魔理沙さん。私としてはせっかく目を覚ましてくれたのですし、寝ている彼女を見る以外のこともしたいのですけれども。軽く頬でもつねってみましょうか?
 そう思っているうちに、魔理沙さんが腕を、その根本から断たれた腕の残った微量の筋肉を、動かそうとしていました。
 しばらく手と足とが本来あるべく空間に働きかけようとしても、布団がめくれることもありませんし、起きあがることもありません。
 そして。
 先ほどの出来事を思い出した魔理沙さんの表情が、真っ暗な色に染まりました。
 
「ぁ……」

 これ。これです。普段気丈に振る舞っているこの子の、素の負の感情が溢れだした顔。美しすぎて涙と涎と鼻血がすべて吹き出てしまいそうです。これだけでも、苦労して遠隔操作できる使い魔を召還したかいがありました。

「うぁ……、ぁ、わたし……」
「魔理沙さん……」

 同情と憐憫の色を露わにして、いかにも気の毒そうな声をかけます。言葉を強める意味で、柔らかいタッチで髪を撫でながら。

「て……ては?わたしのても、あしも、どこ……?」

 あっと言う間に瞳にたまった宝石のような涙。それをぼろぼろとこぼしながら、魔理沙さんは言います。私に、懇願するように。あってほしいと。
 でも残念ですね。あなたの手足は私の胃の中にもうすぐ入っちゃいますから。

「……ごめんなさい。あなたの手足は、もう、ありません」
「ぃ、あ……」

 悲鳴とも、拒絶ともとれない呻きを発して、さらに心を黒く染める魔理沙さん。とっても気の毒、とっても可哀想。
 しかし私がすべきは努めて淡々に。ただ、事実を伝えなくてはなりません。

「……魔理沙さん、少しだけ、あなたの身に降り懸かった事故を説明しますね。聞き流していただいても、かまいませんから」

 目を見開いて、口を歪ませて、口をふるわせて。発散できないパニックに支配されている彼女を、そっと撫でて。私は、言葉を続けました。

「あなたは、実験の失敗により別の世界の化け物を召還してしまいました。おそらく食人する種族だったのでしょう、あなたの腕と足は食べられてしまいました」

 うそです。正確にはこの後ハンバーグにでもする予定です。
 一瞬よだれが出そうになるのを押さえて、練り出した言葉を続けます。

「残念なことに、パチュリー様のお力をもってしても完全に消失した手足を再生するのは不可能だそうです。おそらくは、もう……」

 実に辛そうに、相手に伝えるかどうか悩んだ末、苦肉の決断をした……というような顔で、私は言葉を紡ぎ、途切れさせました。
 私のやるせなさと悲しみに襲われているような表情に、魔理沙さんの表情がひきつった混乱から、静かな絶望へと変わっていきます。
 そして。
 数秒のうちに、彼女はふっと気を飛ばしてしまったのでした。




「……落ち着きましたか?」
「……」

 再び目を覚ましたと思えば、パニックを起こして暴れようとした彼女をなだめて小1時間ほど。
 持ってきた食事にも口をつけず、茫然自失状態の魔理沙さん。無理もないとは思いますが、その一瞬にしてあるべき手足を失ったその姿はやはり可愛らし……気の毒ですね。
 時刻は夕方。そろそろ出かけていたパチュリー様と咲夜様も戻り、お嬢様方も起床する頃です。
 パチュリー様は自分の研究とアリスさんしか眼中にない方なので、この状況がバレてもどうってことないんですが。咲夜様とレミリア様、妹様は少々不味いです。
 咲夜様は趣味、もとい性癖が多少特殊な方なので、小柄つるぺた体型の魔理沙さんをいたく気に入っております。それにレミリア様とフラン様にとって魔理沙さんはお気に入りのおもちゃ。
 つまり、この方達に私特製だるまりさちゃんを見つかるわけにはいかないのです。何をどうされるかわかったものじゃありませんから。
 こんな場合、さっさと紅魔館裏口からとんずらするに限ります。

「……魔理沙さん。そろそろおうちに帰りませんか?ここにいても気が滅入ったままでしょうし。私が身の回りのお世話などはしてあげますから」
「……いや……」

 体を屈めて、視線を合わせてできるだけ優しく言ったところブロックされてしまいました。
 あれでしょうか。こんな状態になっても、食事から排泄まで全て他人にやってもらうのは抵抗があるんでしょうか?
 思わぬ抵抗に、どうやって言うことを聞かせてやろうかとほんの少しだけ、わるい思考がよぎりました。

「いや……おうちかえるの、いやぁ……」

 しかしたどたどしく、怯えるように彼女が絞り出した言葉は考えと真反対のものでした。
 はて。自分の家に帰りたくないとは。
 確か魔理沙さんの家は乱雑極まりない、五体満足の人でも苦労するようなそんな場所だったはず。でも、散らかってることだけが理由ではないでしょう。

 ああ、そうでした。
 魔理沙さんにとって自分の家は、魔法のアトリエ兼寝床。いやがる根本の理由はそこ。帰れってしまえば、自分が活力に漲って研究をしてきた、今と対照的な生気に満ち溢れていた記憶がよみがえるからでしょう。
 きっと、昔と対比して惨めな気持ちにしかならないことを無自覚に悟っているのでしょう。

「……そうですよね。やっぱり、つらいですよね」

 あらまずい。また笑いがこみあげてきそうです。
 だって。だってですよ。あれだけ魔法の研究にのみ没頭してきた魔理沙さんが。人間であることを止めてまで魔法使いになった魔理沙さんが。
 その魔法から、今までの生き甲斐から目を背けて、私に縋ろうとしているんです。もう今の魔理沙さんには、早くも、もうすでに私しかいないのです。

 うふ。うふふ。うふふふふふふ。なんて幸せな気持ちなんでしょう。そう頼られてはこの小悪魔、全力をもって応えないわけにはいきませんよね?
 幸い、家が使えない時のプランBも構築済みです。
 私は少々考え込む様子を見せてから、魔理沙さんに向き直りました。

「では、こんなのはどうでしょう。霧の湖のほとりに、紅魔館の長いこと使われていない離れがあるんです。多少奥まった場所にあるので、他の人の目に付くこともありませんよ」

 現在の彼女にとっては、限りなく理想的な提案のはずです。断れるはずがありません。

「そこなら、どうでしょうか。紅魔館の中にいても、皆さんに会うのが怖くて気も休まらないでしょう。魔法の森には戻れません。里はやはり人目が多すぎますよね。……私とそこで、暮らしてもらえませんか?」

 最後の一言だけ見れば、プロポーズのようにも受け取れますね。実際それに近い意味は含まれているのですけれども、それを彼女が知る由もありません。
 大抵の人なら、いきなりそこまで親しくはない人と暮らせと言われても断るでしょうが。
 今の魔理沙さんは、そんな魅惑的な提案を承諾するしかありません。

「……うん」

 案の定、小さくはありますが、しっかりと自分で同意を示してくださいました。

「はい、決まりですね。身の回りのことは、全て私がして差し上げますから。魔理沙さんはゆっくり、心を休めてください。それからふたりで、考えましょう?」

 こくり。力無く、首が落ちると言っても変わらないうなずきをしました。ですが、彼女の顔に以前のあからさまに甚大な絶望と悲観はなく。無表情に近いものになっていました。
 まだ笑ってはくれませんけれど。ちょっとずつ、魔理沙さんを救っていけばいいのです。
 それで私の願望も満たされるのですから。世の中、捨てたものじゃありませんよねぇ?
 うふふ。









 こうして、今に至ります。私は、魔理沙さんを見事監禁し、私に依存するしか生きる術がない状況に落とし込むことに成功したのです。それも、疑念すら抱かせずに。
 きっとこの小悪魔は彼女にとって、、さぞ献身的で聖母のような女性になっているんでしょうね。

 こんなに素晴らしい生活に唯一の欠点があるとすれば、このお腹の底からこみ上げてくる、黒いへどろのような笑いを堪え続けなければならないことでしょうか。
 でも、もう少しの辛抱です。魔理沙さんが完全に私に全てを開くまで。

「ぅえっぐ……うぅああ……」
「ほら、なんてことはありませんよ。あなたの手は、私の手。目の前にあるのは、あなたの手」

 なくなったはずの腕が痛いと泣く魔理沙さん。
 私は彼女の顔をのぞき込んで、できるだけ柔らかく、儚げに微笑みました。

「ですから。ほんのちょっとだけ力を入れて。手をあげてみませんか?」

 私に抱えられてえぐえぐと泣いていた魔理沙さんにも、私の言葉は伝わっていたようで。
 幻影の痛みに苛まれ怯えるだけだった彼女の表情が少しだけ、別の色をもちました。
 そして。
 それは魔理沙さんとぴったり密着しているので、たやすく感じ取ることができました。私の言うとおりに、少し手を動かそうとしたのでしょう。ごく僅かに残った彼女の腕が、ぴくりと動きました。
 私はそうっと、追随するように、魔理沙さんが自ら動かしていると錯覚しやすいように、自分の右手を持ち上げました。

「……あ……」
「ほら、できました。左手も、あげてみてください。ちょっとずつで構いませんから」

 今度はためらいの意志はなく、同じように弱々しく腕が上がりました。
 両手を正面に突き出して、さながら操られるキョンシーのようです。見れば滑稽だと笑う人も、いるでしょうか。

「その調子ですよ。では、次は……肘ををゆっくりと曲げて。祈るときのように、手を胸の前で組むように動かしてみてください。まずは右手から、ゆっくり、ですよ?」

 そうっと、真正面に刺さっていた私の手を曲げます。魔理沙さんに、なるべく不自然さを感じさせないように、意識を合わせるように、ゆっくりと。
 いつのまにか大きな泣き声もなくなり、ひっそりとした夜の静けさが戻っていました。

「すごいですよ、魔理沙さん。では同じように、左手も。焦ることはありませんよ、あなたのものなんですからね。あなたの手は、私の手。私の手は、あなたの手」

 繰り返し、刷り込むように。彼女を安心させるように、先ほどの柔らかくて儚い微笑みもつけて。
 ゆるやかに曲げた腕は、しっかりと魔理沙さんの胸の前にたどり着き。私の手のひらは、しっかりと重なりました。
 いつのまにか、とめどなく溢れる泉のようだった瞳は乾き。頬に跡が残っているだけで、もう彼女が痛みを感じている様子もなくなっていました。

「では、最後にぎゅっと、ぐーの形にしましょう。そう、慎重に指を曲げて……」

 言葉にあわせて、指を動かして。魔理沙さんに錯覚させるように、不自然のないように。
 この今までの流れで、ひとまず今回は成功でしょうね。

「……でき、た……」

 ぽつり、魔理沙さんが呟きを落としました。
 必死に縋っていたその目は、私の手を自分の手と見ているようです。
 うふふ。

「どうですか、魔理沙さん。痛いのはなくなりましたか?」

 今までの誘導するための、薄く低い声のトーンをいつも通りにもどして問いかけます。
 はっとした表情をして、驚きを隠せない様子の魔理沙さん。
 そんな可愛らしい彼女に、私は先ほどの笑顔を作り直して言いました。

「驚くことはありませんよ。あなたの手は私の手、私の手はあなたの手。自分の手が考えたとおりに動くのは、ふつうのことですよ」

 ね?と今度はいつもの小悪魔スマイルで笑いかけます。
 魔理沙さんはそんな私を見て、ぎこちなく口の端を持ち上げました。

 ……笑おうとしたんでしょうか、今の。

 しかし彼女はそれだけ見せると、すぐに瞼を落として眠りへ落ちてしまいました。精神の不安定な状態で寝付けなくて、やっと寝れたと思ったら夢と痛みで起こされて。泣き疲れた少女がやっと安心を与えられたのですから、無理もありませんか。

「……おやすみなさい」

 ですが魔理沙さんはこの後しばらく、幻肢痛に悩まされることになるでしょう。一度程度の暗示で、事実を錯覚させるような意識が生まれるはずもありませんから。
 あなたの手は、私の手。私の手は、あなたの手。
 これを無意識のうちに思うようにならなければ、心の中でも起きた体の欠損を埋めることは、できないのですから。


 そうして、私と魔理沙さんの生活は始まったのです。
 最初、魔理沙さんはほぼ全てのことが自力でできないことにどうしようもないもどかしさを感じていたのか、少しばかり意地が残っていました。
 ですが、そんなものは現実の前では役に立たないことをすぐに知ります。いたいけな幼い少女は、私の介護を受けなければただ生きていくことさえできないのです。
 ……そうなるようにしたので当たり前と言えば当たり前ですけれど、ね。







「ね、ね、こぁ!できたよ!」
「おめでとうございます、魔理沙さん」

 私の膝の上、魔理沙さんは嬉しそうに振り返って言いました。
 目の前ではくにくにと曲がっては伸びてを繰り返す、ビーカーに入った細い人差し指が一本。
 体の一部だけではあるものの、それは普通の人間と何ら変わりはなく。まるでたった今切り取ったかのように美しく、自然にそこにあります。本音を言わせてもらいますと少し気持ち悪くてシュールですけれど。


 私が魔理沙さんの四肢を切断してこの家に監禁したあの日から、数ヶ月が経ちました。
 昔のようではないものの、私の注いだ愛……もとい献身的な介護により、彼女はある程度明るい表情を取り戻すまでに至りました。
 今ではこうしてにっこりと笑いかけてくれるようになりましたし、嫌がっていた魔法の実験もするようになりました。……相変わらず、外には出たがらないのですけれどもね。


 いま彼女が錬成したのは、魔法で作った指。人工の腕を作るための、最初の一歩といったところです。
 魔理沙さんが魔法と再び向き合うようになってからしようとしたことは、欠損した両手両足を取り戻すことでした。
 私が初め聞いたときは、どうやって止めてやろうかと考えましたが。思い直せばもう魔理沙さんは、もう私なしでは生きられない生活が、習慣として染み着いてしまっているとすぐにわかりました。
 朝から晩まで、いいえ起きてからベッドに入り、その寝ている間さえも。私は魔理沙さんから片時も離れませんし、時折彼女は言うのです。
「もっと、そばにいて」と。
 私はほぼ、傍から離れることはないというのに。日常の中でふと何かに襲われたかのように、魔理沙さんは不安げにそう言うのです。
 その時がくるたび、私は魔理沙さんの依存が深くなっていくことを感じます。彼女が発するその言葉は、確認のため。自分の手が、自分の手であり続けることの。

 あなたの手は、私の手。私の手は、あなたの手ーー

 何度も私が執拗なまでに繰り返した暗示は、彼女にしっかりと刻まれているようでした。
 ですから、魔理沙さんが義手を作ろうと関係ありません。作って自分の意志で動かした腕があろうと、私が例の、あの柔らかく儚い笑顔を見せてさえしまえば、この小悪魔の手が魔理沙さんの手となるのですから。
 私の願いは、監禁して暮らすことだけではありませんからね。

「ね、こぁ。戻るかな?わたしの手」
「はい。魔理沙さんなら、ぜんぶ思い通りに動く手だって作れますよ」

 にっこりと笑って、くしゃりと金色の髪を撫でると。少しむずがゆそうに身をすくめた後、えへへと照れるような、はにかむような素敵な笑顔を見せてくれました。
 他の誰にも見せない、ただ私だけのもの。
 私の大好きな大好きなだるまさん。
 なんだか急に愛おしさが溢れだして、私は魔理沙さんをきゅっと抱きしめました。

「ん……どう、したの?」
「なんでもないです」

 そう言いながらも、なんとなく離す気にはなれませんでした。
 その後ろからお膝にだっこさせたまま、魔理沙さんの髪を撫でたり、軽くくすぐってみたり。そのたびに、彼女はむずがるようにその欠損した体をよじらせました。
 まだ。私の手の中にいます。

「ねぇ、魔理沙さん。魔理沙さんは手と足が治ったら、どうするんですか?」

 私はふと思い立って、言葉をこぼしました。

「……わかんない」

 自分で訊いておきながら。そのあやふやな答えに、どこか安心している私がいました。
 もしかしたら、依存させるのがうまくいってないんじゃないか。一瞬だけよぎった不安は、たぶんそんなものでしょう。

「でも、前みたいに遊んだり、弾幕ごっこしたり、魔法の研究したりして毎日過ごすんだろうなーってのは思うよ。なにをしたいかは、まだ決まってないんだけどね」

 えへへとはにかみ笑いを見せたあと、魔理沙さんは焦点をずらして、まるで遠くを見つめるような目をしました。
 その見ている世界に、私はちゃんと刻まれているのでしょうか。
 いることにはいるでしょう。でも、それだけじゃ足りません。魔理沙さんと、記憶の中、全ての時で一緒にいれたら、どんなに幸せでしょう。もっともっと、依存してもらわないといけません。今の時点で手足を取り戻されては、ほんとうに私が要らなくなるかもしれませんから。
 私は魔理沙さんをそっとこちらに向かせると、もういちどぎゅうっと抱きしめました。

「ん……」

 胸に顔をうずめるかたちになって苦しいでしょうに、彼女はむしろ満更でもなさそうでした。

「……ねぇ、魔理沙さん。それが、完成するまで。あとどれくらいなんですか?」

 んーとね、と少しだけ考えて魔理沙さんは続けます。

「作るのだけは、材料揃えちゃえば一ヶ月くらいかな。それから慣れるのにどれくらいかかるかわかんないけど……でも、どうしたの?」

 少しだけ顔をこちらに向けて、小首をかしげる彼女。
 表に出したつもりは無かったのですが、思いつきで尋ねたものではないと分かってしまったようです。
 できるだけ、しんみりしたような、もの寂しそうな。それでいて、嬉しさの混ざったようなそんな表情を作って、私は言いました。

「……魔理沙さんがちゃんと手も足も、自由に動かせるようになったら。私の役目も終わりですね」
「あ……」

 考えたこともなかったのでしょう。虚を突かれたその目には、はっきりと戸惑いの色が映っていました。
「いやだ」だとか。あるいはよく口にする「そばにいて」の言葉も出てくることはなく。魔理沙さんは、そのまま俯いて、考え込んでしまいました。

 私はそうっと、切断された彼女の腕、その断面を撫でました。
 本当は。魔理沙さんのお世話をすることがなくなって寂しくなるとか。監禁の継続がしづらくなって不安だとか。そんな理由ではありません。
 私には、もうあまり時間がないようです。
 どうか、魔理沙さんが魔法の手足を完成させる前に。
 私を愛してくださらないと。

「……お茶にしましょうか、魔理沙さん。今日は紅魔館の方から、美味しいケーキをもらってきているんですよ」
「う、うん……」

 魔理沙さんをゆっくりと抱えあげると、私は研究室を後にしました。



「はい、あーんしてください」
「……あ、あーん……」

 小さめの一切れを、頬を少し赤くした魔理沙さんに差し出します。ためらいがちに開かれたお口に、スポンジケーキを入れました。
 普段は何か食べたり飲んだりする時は、私が膝に乗せて、ちょうど後ろから抱いている感じにしているのですけれど。今回は少し趣向を変えてみました。
 私の手に対する暗示はもうしっかりと刷り込まれているはずなので、今度は魔理沙さんの好感度をあげておかなくてはなりません。
 今のままでもそこそこは高いでしょうけど、まだ私を好きになってくれている様子もありませんからね。

「おいしいですか?」
「うん」

 にへーっと、緩んだ笑顔。以前の溌剌とした眩しいものではないですけれど、見ているだけでこちらも和らいでしまうような、そんな暖かい笑顔。私は、こちらの方が好きです。

「もういちど、あーん」
「あー、んむっ」

 一度してしまえば抵抗も少なくなったのか、はたまたお菓子がもっと食べたかっただけなのか。どちらにせよ、いえどっちでもいいです。可愛いから。
 むぐむぐにへらと甘いものを味わう魔理沙さんを見ていると、作っていなくとも幸せで美味しい気分になるようでした。

 お菓子で釣るわけではありませんが。これはいいかもしれません。研究の後の甘いお菓子は格別に美味しいですし、人は美味しいものを食べると気も緩みますよね。魔理沙さんがもっと、私にすべてを開いてくれるように。様々な方向からアプローチをかけてみるのは良いことでしょう。









「これなぁに?毒茸みたいな色してるけど……」
「そのケーキは紅芋といって、外界のおいもから作ったんですよ。せっかく手に入れたのでモンブランにしてみました」
「ふぅん……ん、おいしい」

 数週間もすれば毎回恥じらっていたのも慣れてしまうもので。こうしてお菓子を食べさせるのはほぼ毎日のお楽しみになっていました。

「はい、あーん」
「んむっ」

 ためらいなく私の差し出したフォークをくわえて、にふーととろけた笑顔を見せてくれる魔理沙さん。やっぱり甘いものと女の子の組み合わせは最高だと再認識させてくれます。
 ただただ美味しいものと暖かい場所に囲まれて、ゆったりと過ごすその時間。世間一般にも、幸福と形容されていいんじゃないでしょうか。

 しかし。

 幸せな時間の崩壊なんてものは、突然なもので。
 ガンガンガンガン!と玄関の戸が叩かれました。
 ……来て、しまいました。
 しまった、迂闊でした。ここの家付近の森には鈴をつけた多量のピアノ線を張って、そのうえ人避けの魔術を使っているのですが、まさかその音に気がつかないとは。あるいは、その罠を見破ってすり抜けて来たのかもしれません。
 だとしたら、来訪者はおそらく霊夢さんかアリスさんあたり。どちらも魔理沙さんと親しく、頑固で意固地。おまけに私の力では太刀打ちできません。

「魔理沙ー!いるんなら返事くらいしなさい!」

そして家を通したのは、高くはきはきとした、威勢のいい声。間違いなく霊夢さんです。
 うわぁマズいどうしましょう。このだるまりさちゃんと私が一緒にいるところを見られては、彼女に問答無用で殺されてしまいます。
 
「こぁ……」

 誰が来たのか、何が起こるのか予測できた魔理沙さんが私を呼びます。怯えと、焦りと、助けを求める目で。
 もちろん応えない理由はありません。
 私は魔理沙さんに近寄り、どこかに隠れていてもらおうとしたその時、

 ばぁん!

 木の扉が盛大に破壊される音が響きました。
 ひっ!と声にならない恐怖の声が隣から聞こえます。私はというと、顔から血の気が引くなんて何百年ぶりでしょうか。
 しかしようやくここまで切断魔理沙ちゃんを育てたのですから、くたばる訳にはいきません。なんとかして追い返さなければ。

「……大丈夫。だいじょうぶですからね」

 私はかたかた震えて怯える魔理沙さんにそれだけを伝えて、玄関へ足を進めました。

「こんにちは霊夢さん。……扉を壊して押し入るのはあまり褒められたことではありませんよ?」
「魔理沙を出しなさい」

 直球でした。

「まるで私が誘拐犯のような物言いですね。根拠をお聞きしてもよろしいですか?」
「勘よ。通してくれる?」
「嫌です。ここは主にすら見せたことのない私の離れですから」
「そう、知らないわ」

 今度はまるで極道のような物言いですね。受け答えしているように聞こえますが、たぶん彼女こちらの話を聞く気なんてありません。霊夢さんらしからぬ、切羽詰まった様子です。
 案の定言葉を発してから一秒と経たずに、私の目の前から消え去りました。

 アウトです。私が。

「まりっ……さ……」

 叫ぶくらいに放たれて、急速に勢いを失う霊夢さんの声。魔理沙さんが見つかってしまったようです。
 先に隠れさせてから返事に出ればよかった。後悔が頭をよぎりますが、そんなことより今の魔理沙さんを霊夢さんとふたりにしてしまうことの方が重要です。
 私は即座に魔理沙さんのもとへ駆けつけようとしました、が。
 居間に踏み込んだ私に、高速で飛来する物体。慌てて横っ飛びに回避すると、私がいた空間には退魔針が突き刺さっていました。明らかに殺しても構わない勢いです。

「……あんたね。魔理沙をこんな姿にして監禁したのは!」

 怒りの表情を隠しもせず、右手に札を左手に針を構えて私を見据える霊夢さん。
 仲の良いお友達が数ヶ月姿も見せず、探してみれば人避けの結界が張られた小屋に四肢を無くして閉じこめられて。怒るのも当然ですし事実なのですが、それは魔理沙さんの真実ではありません。

「何を言うんですか。友達思いなのは結構なことですが、それであらぬ嫌疑をかけないでいただきたいですね」

 ならば当然そんな扱いをされれば、「魔理沙さんが事故で手足を失い監督不行届の責任感と憐憫の情から傷が癒えるまで献身的な介護を続けている」私としてはカチンと来ますよね。
 右手の真っ赤な爪を50センチくらいまで伸ばし、威嚇用の武器として出してみます。
 するとびしゅん。私の頬を掠めて針が壁に突き刺さりました。魔理沙さんが「ひっ」とまた怖がる声を出します。
これは下手なこと言ったらぶち抜くわよ、といった感じの意思表示でしょうか。

「御託と決めつけるのは感心しませんねぇ。全てに平等な巫女様なら、少しは私の話も聞いて欲しいものです」

 本気で怒る、ということをここ数百年したことがないので分かりませんが。きっとこんな感じで声を低くして眼光は鋭く、顔に力を入れて言い放てば苛ついた様子になっているのでしょう。実際魔理沙さんが私に驚きとその他がないまぜになった目を向けています。
 私の言葉を聞いて霊夢さんはこちらに向けている針を下げましたが、依然として両手に力は入ったまま。

「……で?この状況をどう説明してくれるのかしら」
「少し、玄関の方へ。彼女に再び聞かせるのは酷ですから」

 私は玄関の前に立つと、話を続けました。

「事故に、遭ってしまったんです。召還魔法の失敗か何かで出現した魔物に、手と足を食いちぎられ、食べられてしまったのです」
「やっぱりあんたじゃないの」
「お願いですから、もう少し頭を冷やして聞いてくださいな。種族魔法使いになれたことで、気が緩んでいたのでしょうね。実験ミスは誰にでもあることなんですが、取り返しのつかない事態を生んでしまいました。命まで取られなかったのは、不幸中の幸いでしょうかね」
「それで」
「不幸なことに、その時はパチュリー様も咲夜様も不在。紅魔館で魔理沙さんを治療できるのは私だけでした。私は実験室で血だまりの中倒れている魔理沙さんを発見し、手術を施しました。なんとか一命は取り留めましたが、切り落とされた手足は戻らず、お腹にも傷跡が残ってしまいました」
「……」
「それから魔理沙さんをここで介護し、今に至るというわけです。体の重要部分を失い、魔力の精製すら満足にできなかったその時の魔理沙さんには、どうしても身の回りの世話をする役が必要だったのです。乗りかかった船、それに見過ごすわけにはいかないと思い、私はこの離れでの療養を提案したということです」

 相変わらず霊夢さんは、無言のままでした。

「信じてもらえないかもしれませんが、これが真実です。あんなことになった後、最近やっと魔理沙さんは笑うお顔も見せてくれるようになったんですよ」
「そう……」

 話を聞き終えた霊夢さんは、しんみりとした表情で下を向きました。その胸の内は、いったい何を思っているのでしょうか。
 彼女は唇を一度噛むと、力を抜いて両手の針と札を仕舞い、

「嘘ね」

 見切ることも不可能な速さで、私の首に祓串を突きつけました。

「……信じてはくれませんか。どうしてです?」
「勘よ。確かにあんたの話の筋は通ってる。でも私はあんたが犯人だって感じるの」
「そんな。私が魔理沙さんの腕を切り落としていったい何になるんですか」
「それに、どうして自力で治そうとしたの?魔理沙を永琳の所にでも連れていけば、腕も治ったかもしれないじゃない」

 アリバイを用意していないとでも、お思いですか。

「目の前には大怪我を負った人、自分の手には治療できる設備と技能。一刻をも争う様態なら、自分で治そうというのは自然な考えではありませんか?」

 それに、と続けます。

「とりあえずの処置が済んだ後、永遠亭のもとで尋ねました。無くした腕を再生するのは可能ですかって。そうしたら、『切り離された体を接着するのならできるけれど、完全に消失してしまっているならここでは無理ね』と。そのまま伝えるのはいささか残酷なので、魔理沙さんには伝えていませんが」
「あともう一つ」

 さらに私を鋭く睨みつけて、さらに踏み込んで私に武器を押し当てて。低くドスの効いた声で、霊夢さんは言いました。

「あんたさっきから『切り落とした』って言ってるけど。魔理沙の手足は食べられたんじゃ「やめてぇっ!!」

 彼女の恫喝は、予期せぬ乱入者によって途切れる結果となりました。
 この場で割り込める声の持ち主は、ただ一人しかいません。

「魔理沙さん……!」「魔理沙!」

 ふたり同時に名前を呼んだ、その先には。
 極短小の手足で、まだうまく練ることの叶わない魔力で、床に這い蹲りながらも必死でここまでたどり着いた魔理沙さんの姿がありました。
 自分では起きあがることすらできない体で、目一杯に背中と首を反らして。鬼気迫る勢いで、彼女は叫びました。

「こぁから離れてっ!」
「っ!?」

 まさかそんな言葉が飛び出してくるとは思わなかった、魔理沙さん自信が私に幽閉されていると自覚しているーーそのように思いこんでいた霊夢さんは向けた目を丸くします。
 やっぱり、魔理沙さんは私の味方。親友が来た程度で、依存をあっさり投げ捨てるなんてことはできないのですから。

「こぁをころさないでっ……!」

 何はともあれ隙ありです。私は霊夢さんの祓串を持つ手の力が抜けたのを見るや、すぐに嬉しい懇願をしてくれた魔理沙さんのもとへ駆け寄りました。

「大丈夫ですか魔理沙さん!そんな無茶をして!」
「だってこぁが、こぁが……!」

 しんじゃう、とでも続くでしょうその言葉は末尾まで出ることはありませんでした。私の腕が両肩に回され抱きすくめられるように起こされた途端、魔理沙さんの目から涙がぽろぽろと溢れ出しました。

「魔理沙、そいつはあんたの手をーー」
「こぁを……」

 魔理沙さんの状況を把握していないまま、霊夢さんは私と魔理沙さんに詰め寄ります。
 でもそんなことをしては、逆効果もなにもマイナスしか生みません。
 そして。

「こぁを悪く言わないでよっ!」

 びり、空気が震えたかのような叫びが響きわたりました。

「こぁは、優しかった!手も足もなくなったわたしの面倒を付きっきりで見てくれて、立ち直るまでずっとずっと支えてくれた!身の回りのことだって、わたしができないことは全部してくれたしわたしが落ち込まないようにずっと気を配ってくれた!それでも、こぁが手足を食べた魔物だって言うの!?」
「魔理沙……でも、」
「でも、何だよ!わたしはここにいたいだけだったのに、何を奪ってくつもりなんだよ!わたしはこぁと一緒にいたいだけなのに、霊夢はそれさえわたしからっ!」

 目に大粒の涙を溜めて、髪を振り乱して、ほとんどパニックに陥りながらも必死に話す彼女。
 それほど私を思ってくれていたのかと再確認させられると、やはり嬉しさがこみ上げてきます。
 
 霊夢さんはといえば、親友が監禁犯を擁護する言葉を聞いて、だんだんといたたまれないような、どうしていいかわからない表情に変わっていきます。
 もうほとんど文の体をなしていない魔理沙さんの叫びを受けて、みるみるうちに持っていた勢いが消えていくのがわかります。
 からん、持っていた棒が落ちるのと。くっ、と声を漏らして俯くのはほぼ同時でした。

「ねぇ、魔理沙。私じゃ……駄目だったの?」

 ぽつり、消え入りそうに霊夢さんの口から言葉がこぼれ出ます。
 おそらくは、魔理沙さんの心の叫びから生まれた、彼女の、少女霊夢としての本心。
 あらあら、これは。放っておくとこれはこれで面白いことになりそうですね。
 ……うふふ。

「……それは……」
 
 それでも私の目的は霊夢さんの心情を引きずり出すことではなく、今の生活を守ることなので。追い返させてもらいましょう。

「魔理沙さんにとって貴女は親しい友人でもありますが、同時に絶対に負けたくないライバルでもありました。そんな彼女が、事故で手足を失い魔法の扱いさえ、飛ぶことさえままならない姿を貴女に見せられるとお思いですか。魔理沙さんに消えることのない恥辱と惨めさを、貴女は与えたいのですか?」

 魔理沙さんはこのような彼女の問いに直接答えられる人ではないので、私ははっきりと彼女の胸の奥底にあったことを代弁しました。
 か弱い人間としての霊夢さんが見れたのですから、そこに言葉を叩き込まないわけにはいきません。それも最大級の、彼女が対処法を知らない、未知のものを。それに魔理沙さんのコンプレックスを利用するのはいささか酷な気もしますが。
 そして目論見どおり、効果は抜群でした。

「……ごめんなさい、魔理沙」

 霊夢さんはそう言うと失意の表情を見せて、壊れた扉から歩き去っていきました。

「ぁ……ぅう、あ」
「魔理沙さん……」

 今まで守り続けていたものを、隠し続けていたものを失い。逃げに追い打ちを合わせられて。
 その場で泣き崩れる彼女を、私はふわりと抱きしめました。

「うぅ、うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……」


 私は腕の中で慟哭する彼女を、ただ黙って包むことしかしませんでした。








「もうあとちょっと、ですね」
「うん……」

 私は魔理沙さんの髪をドライヤーで乾かしながら、研究室の扉を見つめながら言いました。
 もう魔法義手義足はほとんど完成し、あとは右手のパーツを組み立てるのみ。これができれば、つまりもう一週間もしないうちに、魔理沙さんは以前とほぼ変わらない手足を得ることになります。
 でもそれは、同時に私が不要になるということでもあります。建前上は彼女の介護のため、ここにいるわけですから。

 夜の湖畔は、呆れるほど静かで。小さなドライヤーの音だけが、ぶぉーんと響きます。それはだいぶ古く大きな音をたてているはずなのに、余計に静けさを引き立てているようでした。

 明るさを取り戻していた魔理沙さんは、霊夢さんの来訪の日から沈みがちになってしまいました。私が話しかけてもぼうっと上の空であったり、溜息が以前よりずっと増えたり。あまり食事も喉を通らない様子です。

 満遍なく髪に風を通していれば、タオルで拭くだけよりもずっと早く乾いてくれます。お風呂に入った後はすぐおねむな魔理沙さんには、これでもまだ少し遅いくらい。

「はい、終わりましたよ」
「……」

 このように話しかけても反応が返ってこないこと自体は割とあるのですけれど、今回は眠ってしまったのではなく、視線を落として物思いに耽っているようでした。

「魔理沙さん、もうふわふわに乾きましたよ。もう寝ましょう?」
「……ぁ、うん」

 仕方なく顔をのぞき込むように伝えると、ワンテンポ置いて返事がもらえました。その瞳は私を捉えてはいるのですが、いまいち焦点は合わさっていません。
 はて、どうしたものでしょうかね。
 私はベビードール姿の魔理沙さんを抱えると、ベッドへと連れていきました。

 ここへ来て数日くらいは別の部屋で寝ていたものの、幻肢痛に泣きじゃくる魔理沙さんに暗示をかける、もといなだめるうちに、彼女が望んだこともあって一緒に寝ることが当たり前になっていました。私としては何かあった時対応しやすく就寝時まで一緒にいられて願ったり叶ったりです。
 
 魔理沙さんが体を冷やさないようようしっかりと毛布をかけて、残った電気をぱちりと消してから私も布団に入ります。
 だるまになった魔理沙さんは抱きやすく、年齢もあって体温が高いのでこの季節には湯たんぽを布団に入れているよう。そっと腰のあたりに軽く手を回して、彼女の目を見つめました。
 その青色の瞳は、俯いて虚無を見つめています。ここに来た当初のような濁った色ではありませんが、どこか思い詰めたような目です。
 ……弱りました。今の魔理沙さんは一度落ち込むとしばらくずっと沈んだままになるひとです。このままでは彼女が引き留めることもないまま、私がオサラバ、といったことにもなりかねません。
 どうしたものかと考えを巡らしていると、魔理沙さんがぽつり、呟きました。

「……こぁはさ。私の手が治ったら、そのあとどうするの?」
「パチュリー様のところに戻って、司書のお仕事を再開しているとは思います。一応、契約は切れていませんし」
「……そっか、そうだよね……」
「でも黙って出て来ちゃったので、もう愛想尽かされちゃってるかもしれませんけどね。使い魔一匹飛んできませんし」
「……」

 私が言い終えると、魔理沙さんはふっと私の顔を見つめました。
 柔らかな輝きを持ち始めたその瞳は、どこか不安げに、寂しげに細められていて。今にも目の端から涙を零しそうな、そんな表情をしています。
 最近、魔理沙さんはよくこんなふうに私を見つめることが多くなりました。
 普段の生活は続いていますし、嫌われた様子もありませんけれど。笑顔を見せてくれる頻度は減ってしまっています。それに、

「……どうかしましたか、魔理沙さん。悩みなら、どうぞ私に話してくださいな」
「な、なんでもないっ!」

 このように私が尋ねても、下手な誤魔化しをして顔を逸らしてしまうのです。
 そして魔理沙さんは器用にも横から仰向けにくてんと体を倒すと、「……おやすみなさい」とだけ言って目を閉じてしまうのでした。
 本当に、困ったことです。

「あなたの手は、私の手。私の手は、あなたの手……」

 結局私にできることは、寝ている間に私が魔理沙さんの一部だと暗示をかけ続けること。

 ……それに来るべき日に備えて、空の実験室を使って調合を進めることだけでした。
 何を作っているかはまだ明かせませんが、私の願いに必要不可欠なものであることは確かです。
 敢えて名前を付けるなら……しあわせのくすり、といった感じです。




「はい、あーんしてください」
「あ、あーん……」

 いつものように、実験もとい製造を終えてのティータイム。今日はスコーンを、手のない魔理沙さんに食べさせてあげています。
 にしても、ですね。

「今日はオレンジとチョコレートにしてみたんですよ。はい、あーん」
「ぁ……」

 私の差し出したかけらを、どこかためらいがちにさらっていく魔理沙さん。どこか頬も赤く、落ち着きのない様子。今までは大きくお口を開けて、それこそ私の指までくわえそうな勢いでかぶりついていたのに、控えめに小さく開けてからむぐむぐとかじっています。
 はて。この変化はいったい。
 慣れる前の恥ずかしがっているようにも似ていますが、少し違うような気がします。
 私は思い立って、ちょっとした実験をしてみました。

「はい。どうぞ」

 分けたかけらを小さくなるようにかじらせ、あとひとくちかじれば私の指先くらいの大きさになるようにします。そして口が閉じきらないうちに指ごとテンポよく突っ込めば完了、と。
 えいっ。

「……ーーーーーーっ!?」

 すると魔理沙さんは、顔を一瞬で真っ赤にして、体をさっと引いて俯いてしまいました。

 あれ。これってもしかして。
 拒絶、された……?

「ご、ごめんなさい魔理沙さん!私そんなに嫌だとは思ってなくってほんとうにごめんなさい!」
「え、わわわそうじゃないのちょっとびっくりしちゃっただけだから謝るなんてこぁ顔を上げて、嫌じゃなかったから!」

 無意識のうちに紛れも無い本心である謝罪の言葉が出てきました。
 長年パチュリー様の下で働いた副産物、とっさの平謝りスキルが見事に発揮されました。でもこれは再度言いますけれど、体裁上のものではなく本心です。私は魔理沙さんに嫌われるわけにはいかないんです。絶対に。

「本当、ですか……?」
「う、うん。ほんとにね、ちょっと驚いただけだから。だからね、泣かないでこぁ」

 へ?
 私が、泣いている……?
 確かめるように人差し指で目元を拭うと、事実水滴が先についていました。袖で擦れども、頬を伝い、顎の先まで流れる雫。
 どうしてでしょう。なんだか今の私が無性に悲しいせいでしょうか。最近の言葉で表すなら、ショックだとでも言えばいいのでしょうか。

「っぐ……きらいに、ぐす、なってませんか……?私のこと、きらいに」
「そ、そんなことないっ!こぁのこと嫌いになるなんて、絶対ないよ!」
「ほんとう、ですか……?」
「うん。だからね、涙を拭いて、ねっ?」
「はい……」

 ごしごしと袖で、子供のように目を擦って。
 魔理沙さんになだめられて、その日のティータイムは終わったのでした。
 その後は顔を洗って、なんとかいつもの調子を取り戻しましたけれども。
 ……少し、ナーバスになっていたのかもしれません。
 魔理沙さんが、私を受け入れてくれないと。
 私は……




「もう寝ましょう。そんなに遅くまで本を読んでいては、目を悪くしてしまいますよ」
「うん……」

 私はいつも通り、魔理沙さんをベッドへと運びました。
 魔理沙さんの様子に変わりはありません。霊夢さんの来訪あたりから、ずっとこの調子。どこかぽけっとしていて上の空、かと思えば眉根を寄せて悩み出したり、急に不安そうな、泣きそうな顔を見せたり。
 見ていて退屈はしないのですが、好ましいわけでもありません。私に向ける笑顔が減っているのはゆゆしき事態です。
 にしても、解決策は見あたらず。
 よくよく考えてみれば、私は契約つまりギブ&テイクの関係でしかほぼ動いたことがありませんでしたから。こう意中の人と一緒にいるような機会は、覚えがないのです。
 どうしたものでしょうか。

「ふぅ」
「……どうしたの?こぁ。わたしなにかしちゃった……?」
 
 そうして思わず出てしまったため息が、魔理沙さんを不安がらせてしまいました。
 いつもなら、いいえ何でもありませんよと笑って返すところなのですけれど。
 今日だけは、なぜか子供のような素の感情が出てしまいました。

「……そうです。魔理沙さんのせいです」

 しまった、と思った時にはもう遅い。どこかふてくされたような私の声は、するすると喉を通り抜けてしまいました。

「ぁ、その、ごめんなさっ」
「いいえ、謝るようなことじゃないんですよ。……どうして魔理沙さんは、最近笑ってくれないんですか?悩みでもあるんですか?何かあるなら相談してくださいって、いつも言ってるじゃないですか。……それとも、私と一緒にいるのが嫌ですか?」
「そ、そんなことない!」

 卑怯だって分かっています。魔理沙さんは、そう言われたら否定するしかありませんから。
 それでも私は、魔理沙さんから答えを引き出さなければならないんです。

 ですがそれきり、私も彼女も黙りこくったままになってしまいました。
 私に言えないことなのか、私に言いたくないことなのか。それとも、私だから言えないことなのか。それだけでも、言ってくださらないとどうしていいかわからないというのに。
 しかし私からずけずけと尋ねるわけにもいかず、静かにしているしかありませんでした。



「……こぁは」

 もう切り上げて、寝てしまっていたかと思っていたその時。静けさに耐えきれなくなったように、魔理沙さんが口を開きました。

「こぁはわたしの手が治った後、何かやりたいこととかないの?」
「……いいえ、特にはありませんよ」

 魔理沙さんの言う「やりたいこと」には、私の願望のようなものは想定されていないはずなので。私はそう答えました。
 魔理沙さんは、そのままぽつりぽつりと続けます。

「じゃあさ。どうしてこぁは、パチュリーのところに戻ってるだろうって思ったの?司書仕事、続けたいわけでもないんでしょ?」

 私はこの魔理沙さんの言葉に、気まぐれ以上の意図があると感じました。ならばなおさら、ふざけた返答をするわけにはいきません。

「……魔理沙さん。私は、誰かに仕えて、使われていることで満たされる性分なんですよ。今は貴女の物となっているからいいのですけれど……いずれ、いいえもうすぐ魔理沙さんは、私を必要としなくなりますから。そうなったら、パチュリー様のところへ戻るのが面倒はありませんね。使ってもらえることは確かですし」

 少し俯き気味に、声のトーンを落として。あまり気乗りはしない、という雰囲気はこれで出せているでしょうか?
 ちなみに言ったこと自体の半分くらいは本心です。可愛らしい女の子の下で働くのは、やはりいいものですから。……パチュリー様がそれに含まれるかどうかはノーコメントなのですが。

 魔理沙さんは、この言葉をどう受け取ったのでしょうか。今度は嘘の仮面を張り付けるのでもなく、本音がちょっと考えれば見えるようにしてみましたけれど。
 その彼女は視線を私から外して、そう、とだけ言って黙ってしまいました。
 少しだけ眉を寄せて、しばらくの時間何か考えるような素振りを見せて。かちり、時計の長い針がケーキひとかけ分進んだあたりで、魔理沙さんはそっと言いました。


「……ねぇ、こぁ。今は私に仕えてくれているんだったらさ。……わたしのワガママ、きいてくれる?」
「はい。私にできることなら、なんでもしますよ」

 潤んだ瞳。紅潮した頬。きゅっと結んだ唇。しっかりと私にそれらを向けて、意を決するように深呼吸をする魔理沙さん。
 口を開きかけて、言い澱んで。口を噤んで、それでも私に伝えようとして。
 そして、やっとその口から放たれた言葉は。

「こぁ。わたしの手が治っても、ずっと、ずっと一緒にいてほしい」

 私の脳髄に、電撃が走りました。

 ……これです。これが欲しかったんです!

 そして気づいたときには。
 魔理沙さんの唇に、迷わず自分のそれを押し当てていました。
 びくんと驚いたように彼女の体が跳ねて。それでも強く、ただ重ね続けました。
 ふ、と魔理沙さんから息がもれて、抱きしめた体の力が抜けて。代わりに少しだけ、くっと深く合わせてくれて。
 なんということでしょう。彼女の方から、私を求めてくれるなんてーー!

「ん、ふ……」
「こぁ……」

 ぽうっと、熱を持ったその瞳で。魔理沙さんが私を見つめてくれます。それは私の理性を吹き飛ばすには、十分すぎるものでした。

「魔理沙さん、好きです、大好きです……!」
「んむ、ちゅ、こぁ、こぁっ……」

 ずっと、監禁した時から、いいえ出会った時からの思いを乗せて。私は魔理沙さんにキスの雨を降らせました。
 いやがる素振りもなく、ただただ私を受け入れてくれて。おめめをそっと閉じて応えてくれる魔理沙さんが、今まで以上に愛しくてたまりません。
 ただ突き動かされるように唇を重ねて、また離して。たったそれだけで、魔理沙さんが私を呼んでキスを返してくれるだけで、天にでも昇ってしまえそうな心地です。
 どちらからともなく、じっと見つめあって。とろんとした蒼い瞳に、吸い込まれそうです。

「こぁ……ほんとに、いいの?」
「そんなこと言わないでくださいな。私は、好きなひとと一緒にいたいんです。すきなひとのこころにいつづけたいんです」
「ぁ……」

 私がそう言って頬に添えた手に、一滴の涙がこぼれ落ちました。それをそっと拭い取っても、ぽろぽろと流れるものは止まりません。

「あれ……おかしいな。こんなに、うれしいのに、なみだとまんないよぅっ……」
「魔理沙さん……」

 ぐしぐしと嬉し泣きまでしてくれる魔理沙さんに、きゅうっと胸の奥が熱くなります。

「ね、こぁ、すき。わたしも、こぁのことがすき!」
「私も大好きですよ、魔理沙さん」

 宝石のような瞳から涙を流して、好きと言ってくれる魔理沙さんが。手足が途中で断ち切られていても、私を抱きしめようと手を差し伸べてくれる魔理沙さんを。どうして、抱きしめられずにいられましょうか。

「ぁっ……」

 ぎゅう、と包み込むように、もう離さないと言わんばかりに抱擁する私に。ぴとり、とちいさなちいさな手足が当てられます。
 寸分の隙間もなくふれ合って。私たちはその時、ひとつでした。

 魔理沙さんに、好きだと言える。魔理沙さんの中に、残ることができる。魔理沙さんに、私を刻みつけることができる。
 魔理沙さんが、愛しい。
 その思いで、私の中はいっぱいで。
 圧倒的な多幸感で満たされて、気づけば私も涙を流していました。

「好きです、ずっと一緒です、魔理沙さん……」
「こぁ、大好き、だいすきっ……」

 お互いの名前を呼んで、呼ばれて、まるで普通の恋人のように、愛の言葉を交わしあって。
 どうしようもなく幸せな時間を、私たちはそうして過ごしました。
 見つめあって、涙でひどい顔だと笑い合って。誤魔化すようにキスをして、嬉しさと愛しさで自分たちができているような感覚。
 一方通行だった私の感情も、彼女のそれと混ざりあい溶けあって。
 重なる瞳と瞳は、確かに通じ合っていました。


 私の願いも最終段階。
 初めてあなたを見たその日から。
 ずっとそうしたいと思っていました。










「魔理沙さん、頑張ってください、もうちょっとです!」
「う、うん……!」

 霧の立ちこめる湖畔、その少し奥まった森のまた奥。
 林立する木々の間にはぴんと張ったロープが張り巡らされ、無軌道に道を作っていました。
 下の柔らかい土をしっかりと踏みしめて。手すりのように張られた縄をぎゅっと握って。魔理沙さんは、一歩一歩と進んでいきます。

 簡素なものではありますが、ここは歩くための訓練場、つまり魔理沙さんのために私が作ったリハビリ場です。

「いち、に、いち、にわぁっ!?」
「はい。大丈夫ですか?」

 前方に出ていた足にもう片方をひっかけて、あっさりと転びそうになった魔理沙さんを支えました。そしてぎごちなく手を動かし頬を掻いて、えへへと笑う彼女。
 そう。つい先日、魔理沙さんの作っていた魔法製の義手義足が完成したのです。
 それは本当の手足と見紛うほどの出来映えでしたが、実際にそのように動くかどうかは別問題なわけで。というか普通に歩くことさえ今も困難なわけで。
 魔理沙さんは昔のように動けるように、懸命にリハビリテーションを続けているのでした。

「いち、に、いち、に……」

 声に出してタイミングをとって、両手で手すりを掴んで。とてもゆっくりな歩みではありますが、それでも前には進んでいます。
 先ほどのように転んだり、そうでなくとも右手と右足を同時に出したりロープを掴んだ手を離すのを忘れてつんのめったり、そういったことはありますけれども。立ってバランスを取ることも困難だった時に比べれば、彼女は格段に上達していました。
 ……ちなみにハイハイ姿は愛らしいことこの上ありませんでした。あんまりにも可愛く健気なのでじっと見つめてスケッチをしていたら、「こぁの変態。ロリコンあくま」なんて罵られましたが。
 うふふ。

「に、いち、ついたっ!」
「よくできました。昨日よりずっと早くなっていますよ」

 たん!と音でもしそうな勢いで、両足をそろえてゴール地点に敷いたロープを踏み越えました。
 いいこいいこ、と私が撫でると少しだけ憮然とした表情を見せて、それでもむずがゆそうに微笑む魔理沙さん。心に余裕ができてから、子供扱いを少しいやがるようになりましたけれど、やはり甘えたがりな人に変わりはありません。
 だって、ほら。

「魔理沙さんはほんとうに頑張り屋さんですねー」
「わぷっ」

 胸にうずめさせるように抱きしめてあげると、すぐに力を抜くのが感じられますし。ゆっくりと髪を撫でると、にふーと笑ってリラックスした表情を見せてくれるのですから。

「疲れてきてはいませんか?そろそろ休憩をとってもいい頃合いですよ」

 これでも結構な時間続けているので、彼女も疲労が溜まっていないはずはないのですけれど。

「んー……もうあと一周、やるよ」

 魔理沙さんはやんわりと私の腕をほどいて、ロープを掴みました。
 そしてもう一度、右足を踏み込んで、左手を出して。

「いち、に……」

 すっかり光を取り戻した瞳で前を見つめて、歩き出したのでした。



 そうしてしばらくした、晴れた日の昼下がり。
 ただ今魔理沙さんは最近調達したこたつの魔力に捕らわれてしまい、突っ伏してうとうと眠たげな瞳をしています。背中に毛布もかけているので布陣は完璧です。
 私もこの、人を堕落させる機械の恩恵に預かっているのですが。まだ彼女ほど引きずり込まれてはいません。

「はい、みかんですよー」
「ん……あむ」

 皮を剥いて、白い筋のような部分もすべてはぎ取った蜜柑をひときれ、魔理沙さんのおくちに近づけると。
 寝ぼけ眼でも食べ物くらいは認識できるのか、小さくくわえてもにゅもにゅと口を動かしたのでした。
 こうすると本当に私の愛玩動物みたいですね。
 なんてことない、平和な時間。私も珍しく魔理沙さんを弄る気にならず、ほっぺをつついたりみかんで餌付けしたりして無作為に時を過ごしていました。
 ですが。
 そんな時こそ、ある種イレギュラーな自体は発生するのです。

 私が最後のひときれを食べさせようとしたその時、ばぁん!と見事な破壊音。一撃のもとに玄関扉が破壊されたようです。そしてそれは魔理沙さんの意識を現に戻すには十分でした。
 デジャヴ、というよりは同じ人物の再訪でしょう。自らの勘を何より信用する彼女のことです、あんな引き下がり方では納得しないと思っていました。

 ……これです。この機会を待っていたのです。

「もしかして、霊夢……?」
「でしょうね。もうここに来る用事は無いはずなのに、今度は何をしに来たんでしょうか」

 ですがそんなことを魔理沙さんの前で表に出すわけにもいかないので、疑問と警戒の顔を張り付けておきます。

「……また、わたしを連れ出すつもりなのかな」
「おそらくは。それ以外の理由もないでしょうし」

 とたんにきっ、と魔理沙さんが険しい表情を見せました。彼女はもう、ここで私と共にいることを決めたのです。それを邪魔する輩は敵。友人であるとかその辺りの要素はありますが、結論としてはそんなものでしょう。
 ここまで行くと、私が洗脳したようでもありますね。

「小悪魔、魔理沙。出てきなさい」

 全てを貫き通す凛とした声が、あたりに響きわたりました。
 はて、魔理沙さんも呼びつけるとは。霊夢さんを帰させた原因の、頑なに姿を見せることを嫌がっていたことを忘れたのでしょうか。
 あるいは、私が犯人だという確固たる証拠を見つけたとか。どちらにせよ、私にとって状況は好ましくはないように見えますよね。
 声にびくり、からだを震わせた魔理沙さんが上目遣いで訊いてきます。

「こぁ……どうしよう?」
「わざわざ要求を呑む必要はありません。話をしたいだけなら中でもできるんですから。……霊夢さん、お入りくださいなー!まだ寒いでしょう!」

 実は理由なんてどうでもいいんです。さらに言えば霊夢さん自体と話をするだけなら外だろうと家だろうと冥界だろうとどこでもいいんです。
 でも、私は最後まで、魔理沙さんと過ごしたこの愛の巣にいたいんです。

「……そう。なら、あがらせてもらうわ」

 かつり、かつり。霊夢さんがゆっくりと、ここに踏み入り姿を現しました。その姿は以前と変わりはなく、しかし手足の戻った魔理沙さんを見てもそこまで驚いている様子もありません。
 彼女の瞳が映しているのはただ一点、私のみ。

「今度は何をしに来たのですか?話は先日でもう済んだはずですが」

 びしゅん。霊夢さんの左手がぶれたかと思うと、私の言葉もお構いなしに結界が張られました。
 急速に体の力が入りにくくなったことから考えると、オーソドックスな弱体化のものだと判断できます。
 ああよかった。ここで一撃必殺にされては全てが台無しですからね。魔理沙さんの手前、そんなことはないと思いますけれど。

「っつ……今度は随分、乱暴ですね。いったいどうしたんですか?」
「どうしたもこうしたも無いわ。妖怪退治に来たのよ」

 言ったその目には、前回と寸分違わない鋭い敵意。それで私を射抜いてから、彼女は魔理沙さんに向き直りました。
 ……あら。やっぱり霊夢さんは、私にどうこうするより魔理沙さんが優先のようですね。

「魔理沙。よく聞いて」

 今度は止める必要もありません。霊夢さんは怯えと反感のこもった目をした魔理沙さんの両肩をがっしと掴み、


「あんたの手足を切り落としたのは、この小悪魔よ」


 言い放ちました。

「……え……?」

 おやおや。ばれてしまいましたね。
 
「そんな……嘘、でしょ……?」
「……」

 呆然と、事態を飲み込めずに誰に問うわけでもなく呟く魔理沙さん。
 ごめんなさいね。今度のこれは、冗談でも嘘でもないんですよ。
 全部、本当のこと。事実なんです。

「ね、こぁ。嘘だよね。そんなわけないよね。ずっとずっとそばにいてくれたのに、こぁはそんなことしないよね」

 彼女はすぐに私に向き直ると、縋るように矢継ぎ早に言葉をまくしたてました。滑稽なほど哀れで、愛しいほど必死なその姿。自分の信頼していた基盤が揺さぶられるその瞬間。私が求めていたもの、そのものです。
 そして。
 私は魔理沙さんをそっと抱きしめ、いつものように、彼女が安心するように髪を撫でて。
 不安そうに、見開いた目を優しく見つめて。

「本当ですよ」

 どん底に突き落として差し上げたのでした。
 ぴしり。魔理沙さんの心の中では、そんな罅の入るような音が聞こえたのではないでしょうか。

「……やっぱりね」

 霊夢さんの、吐き捨てるような声が聞こえます。この言い方だと、勘に任せて押し掛けてきたのでしょうか。私があっさり認めたので証拠説明する手間が省けただけかもしれませんが。
 魔理沙さんは、少なくとも今の魔理沙さんは、言われたことをすんなりと信じ込んでしまうような、そんな危うい素直さを持った子ですから。霊夢さんのあの一言でも多大な影響をおよぼされてしまいますし、私のたったその一言だけでも、効果は抜群でした。

「ぇ……」
「はい。貴女の手足を切り落としたのは、紛れもなくこの私です。正確に言えば、私が操った使い魔が、ですけれども。魔理沙さんの手足は、私が切り落としました」

 そこまで強調する必要もないんですけれど、思考がフリーズしているようなのでそれを解く意味も込めて。私はそう言葉を紡ぎました。

「な、なんで、どうして」
「好きだからですよ」

 半ばパニックに陥りつつ、それでも私に縋る魔理沙さん。そっと額にキスを落として、話します。

「ずっとずっと好きでした。あの日、初めて貴女を見たその時から。誰かに仕えて生きることしか知らない悪魔の、最初の恋でした」

 ふっと微笑んで、頬に手を当て目を見つめて。海のように深いその瞳が困惑に揺れています。
 何も知らないのは、ちょっと可哀想ですから。ぜんぶ、説明してあげましょう。

「一目惚れのその日から、魔理沙さんは図書館に繁く通ってくださるようになりました。そして同時に、私の今日は来るだろうかと千刻を待ち、一刻の来訪に心躍らせる日々も始まりました。それはそれで充実したものでしたし、本を通して魔理沙さんのお役に立てること、魔理沙さんに近づけることがとても嬉しくありました」

 ふ、と意図せず私の表情に影が宿るのを感じました。
 魔理沙さんの瞳は変わらず、しかし話には耳を傾けてくれているようです。
 ちょっとだけ間を置いてから、続けました。

「……ですが、貴女のことを知っていくたび、私は言いようのない感情に襲われるようになってしまいました。魔理沙さんは図書館に来ても、私のことを気に留める様子もほとんどありません。お友達も多く、その交友関係に私が入る隙間など無いように見えたのです」
「そんな……」

 その後に続く言葉は、彼女自信によって飲み込まれました。そんなことはない、でしょうか。そんなことしなくても、でしょうか。実際、手足が断ち切れる前の魔理沙さんは私はそこいらの妖精と似たような認識だったのでしょう。

「だから、こうしました」

 顔にあった手をそっと外して、魔理沙さんの義手と本物のつなぎ目を指でなぞります。
 その二の腕を掴んでぎゅ、と力を入れると、「ひぅ」と空気が喉を通る音が魔理沙さんから漏れました。

「……どうかしてるわ、貴女」
「えぇ。普通でないことぐらい、自覚していますよ。歪んでるなんて言っていただいてもかまいません」

 冷ややかな霊夢さんの発言を流して、魔理沙さんの瞳を正面から見据えます。
 自分の明け透けな気持ちをさらけ出すことが告白なら、今が本当のその時なんでしょうね。

「私は、魔理沙さんと一緒にいたかった。魔理沙さんを傍につなぎ止めておきたかった。……魔理沙さんの心に、私という存在を刻みつけたい。たとえ何があろうと消えないくらいに強く、魔理沙さんの心に居続けたい」

 ぎゅっと、今度は彼女の作った偽物の手を、疑似的に作り出された体温を持つその手を握りました。
 霊夢さんは、ただただ私達のやりとりを見続けています。魔理沙さんが間にいるので弾幕を撃てないというのもあるでしょうけれど。彼女の真意は、どこにあるのでしょうか。
 ただの憶測ですけれどーー魔理沙さんに仄かな思いを寄せる親友は、何を思っているのでしょうか。

「私はひたすらに、魔理沙さんを愛しているんです。本当にただ、それだけなんですよ」
「こ、ぁ……」

 魔理沙さんは呆然と、そう私の名を呼んで。

「ねぇこぁ……わたし、どうしていいかわかんないよ……」

 途方に暮れたように、問いかけました。自らの、私に執拗にも刷り込まれた感情と、告げられた事実と。噛み合わせができないのは、当然でしょう。
 私はここぞとばかりに、二者択一を押し付けました。

「魔理沙さんのしたいように、してくださいな。まだ私を好きでいてくれるなら、私の手を取って。私が憎いというのなら、これを使って気を晴らしてください」

 そう言って、やや自嘲じみて微笑みながら、懐から刃渡りの長いナイフを取り出しました。これなら刺し方さえ間違えなければ、一撃で心臓まで到達します。
 さらに。この刃には私が密かに調合しておいた、しあわせのくすりもとい即効性の毒が塗り付けてあります。一応悪魔なので毒ごときでは死なないのですが、今は霊夢さんの弱化結界が張ってあるので私にも効果は抜群でしょう。ひと突きで死に至る猛毒にはなっているのでは、ないでしょうか。

 私が胸の前で握った、まさに毒々しい緑色をした刃物を見て、魔理沙さんは目を丸くして息をのみ、口元をひきつらせました。
 そんな彼女の義手を取って。凶器を握るこの私の手に重ねます。
 とても恐ろしいものを見たかのように、かたかたと震える魔理沙さんの体。視線は私の目に、そして時々ナイフに移りはっきりとした逡巡が見て取れます。

 おそらく私の見立てだと、いいえ、断言してもいいでしょう。魔理沙さんは私を刺せません。いくら私が自分の生き方を狂わせた犯人だとしても、重ね掛けをするように深く深くなった依存を覆すことはできないのですから。

 こちこちと、秒針が刻む音だけが場を支配して。
 ことり、長い針がひとつ動いて。

 そして。魔理沙さんの瞳に光、確かな意志が宿りました。結果の見えている葛藤を済ませ、結論を下したのでしょう。

「……わたし、できないよ」

 俯いて、震える声に確かな意志を乗せて。案の定魔理沙さんは袖を掴んで、この私のナイフを持った手を下ろさせました。
 結果は最高。手を消し去った諸悪の根源という事実を無視させるほど、彼女に私への愛情と依存は刻まれていたのです。
 それだけでも、私の胸の内には全てを消し飛ばしてしまいそうな嬉しさと幸福感が溢れ出します。魔理沙さんは、この私の存在全てを受け入れてくださったのです。
 今、私の願いが。魔理沙さんへの恋が、成就するのです!

「たとえこぁがわたしの手を切り落としたとしても。……それでも、わたし、こぁのことがっーー!」

 私は言葉を遮るように、彼女を抱きとめるように、袖を握ったその手を引き寄せて。


 とん、と軽い音でもしたかのように。
 私の胸に、ナイフは突き刺さりました。


「……ぇ」

 じわり、傷口から血が滲んでいき。同時に刃に塗られた毒が、人間ならば数分と経たずに死に至らしめる即効性の猛毒が、私の体を駆け巡ります。
 霊夢さんは、このために利用させていただきました。お礼として、目の前で魔理沙さんが大切なものを失っていく様をしっかりと見せつけてあげましょう。

 あっと言う間に体の芯は融けた鉄のように熱く、末端は氷水よりもはるかに冷たくなり。
 がくがくとこの足は痙攣を始め、視界は靄のかかったように光を失っていきます。

 魔理沙さんの視線は、私の顔と突き立ったナイフをを行き来して。段々と、悲壮に、悲痛に歪んでいって。
 私はそんな魔理沙さんの頬に左手を当てて。

 柔和に、そして儚げにーー微笑みました。

「ぁ、ぁぁ」

 ねぇ、魔理沙さん。
 覚えていますか?ここに来て、私が貴女と過ごした最初の夜のことを。
 ずっとずっと悩まされてきた、幻想の四肢の痛みを。
 それを和らげるために、私が唱えたまじないを。


 ーーあなたの手は、私の手。私の手は、あなたの手。


 そう言って貴女に見せた、私の微笑みを!

「ぅあ……ぁ、いやあああああああああっ!」

 ばきり。魔理沙さんの心の中の、とても奥深くまで食い込んでいたものが、はっきりと壊れました。
 絶望に染まりゆくその目で見えたのは、きっと。
 この私を刺している、自らの手。
 自らのつけた傷によって、死へと向かう想い人の姿。


「あ あ あ あ あ ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」


 私が笑顔を保てなくなっても、蝕む毒に立つこともかなわず崩折れても、焦点を失い瞳が魔理沙さんを捉えなくなってもなお、魔理沙さんは謝り続けました。

 この瞬間にも、この瞬間にこそ、私という存在が、魔理沙さんの中に一生忘れられない記憶として、永遠に離れられない刻印として、刻み込まれていく。これ以上に、満たされることがあるでしょうか。
 魔理沙さんの全ての根源に立ち、魔理沙さんが生きている限り永遠を共に過ごせるのです。私は今、決して色褪せることも風化することもない、魔理沙さんの心の一部になれたのです。

「まり…!……さ!…………!」

 事態を異常とみた霊夢さんが、魔理沙さんのもとに駆け寄ったようです。

 視界はブラックアウトし、耳も段々と聞こえなくなっている私に確認の術はありませんが。
 ですがもう、何を言おうと無駄です。魔理沙さんはもう私しか見えていない。私のことしか考えられなくなってしまったのですから。

「…ぁ!こ…………しん……や…!……いで、お…い……!わた……を……て……ない……!」

 しんじゃやだ。おいていかないで。
 不思議と、魔理沙さんの言っていることはすんなりと理解できました。
 きっと彼女は泣き叫びながら、半狂乱になって私を呼んで。謝り、願い続けているのです。
 そしてこれから先、私という呪縛に苛まれ続けて生きるのです。これから魔理沙さんはどこまでも、いつまでも私とずっと一緒にいるのです。

「魔理沙さん」

 この声が届いたかどうかはわかりません。
 差し出したはずの手が握られたかどうかもわかりません。
 


「……!…………!」

 もう何を言っているのかも聞こえませんけれど。
 そんなことはぜんぶ、どうでもいいくらいに。
 体はもう凍えることも感じないくらいに、冷たくなっているのに。
 胸の中はほら、こんなにも暖かく満たされて。


 魔理沙さん、私はいま。



「しあわせ。」






Epilogue.





 まわる、まわる、ぐるぐるまわる。
 とけて、とけて、どろどろにとけて。
 まざる、まざる。ぐちゃぐちゃにまざる。
 つくる。つくる。べつのべつにつくりかえられる。
 おきる、おきる。すぐおきるーー

「……はっ」

 とても不快な、夢を見ていました。
 自分が自分でなくなるような、自分の感じた、積み上げたものが全て無くなるような、そんな感覚。
 じっとりと汗で塗れた服が、肌に張り付いていてとても気持ちが悪いです。

「おはよう。目覚めはどうかしら?」
「最悪ですよ」

 隣からの声にそう吐き捨てて、体にかかっていた布団をはねのけて起きあがります。

「ぐっ、あ」

 すると世界がマーブル状に歪むような、酷い頭痛。
 足下もおぼつかず、床に倒れかけたのをぐいと引っ張られて無理に立たされました。

「まだ新しい体に馴染んでいないだろうし、しばらく寝てなさい」
「結構です」

 ぐらぐら揺れる頭を無視し軽くその手を振り払って、後ろの人物を睨みつけると、そこには。

「パチュ……リー……?」
「召喚主に対して呼び捨てとはけったいな事ね」

 すました顔で私を見下す、紫魔女の姿。
 周りを横目で見ると、大量のどこまでも続くように林立した本棚。
 ここは、紅魔大図書館……幻想郷。

 つまり、私、死んでない。

「……ッ!」
「あら、乱暴ねえ。そんな風に躾た覚えはないわよ」

 衝動に任せて、彼女の胸ぐらを掴みあげます。
 死んでない、死ねなかった、こいつのせいで!
 魔理沙さんに、一寸の希望も与えずに私を殺させなきゃいけなかったのに。私が生きていちゃいけないのに!
 
「そんなに必死にならなくても。多分貴女の心配は杞憂よ。魔理沙の前で復活させたりしてないわ」

 ……相変わらず、全部見透かしたような気でいる人ですね。
 ちっ、と舌打ちをひとつ残して、私は手を下ろしました。
 しかしこれでも意味はありません。魔理沙さんの心の中に存在を刻み、愛しい彼女と何時でも傍にいるために殺させたのに。私が生きていては、ここに存在していてはいけないのですから。

「……何故、私を治療したんですか。どうして、生かしておいたんですか!」
「私のために決まってるじゃない。集めた本の整理は誰がやると思ってるのよ。また他のを教育するのも面倒だから召喚し直したわ」

 いつもと変わらぬ眠たげな目で、目の前の不愉快な主はそう言い放ちました。身勝手な片手間の為に、私を利用し続けるつもりですか。

「……この、エゴイストが」
「エゴのために一人の魔法使いの未来を潰そうとした貴女が言うなんて、最高に滑稽ね」

 くつくつと笑う私の敵。やはりこの女、私は嫌いです。
 憎い笑みを再び見上げ睨みつけて、どす黒く紅い衝動を押さえ込んで。結局不機嫌に鼻を鳴らすことしかできません。
 その見下した、高慢ちきな瞳。この手の爪で引き裂いてやれたら、少しはすかっとするでしょうか。

 ……あれ?

 赤黒い悪魔の爪が、意志に応じて伸びる気配もありません。
 そもそも。
 パチュリーは私を物理的に見下せるような背丈だったでしょうか?

「パチュリー、貴様いったいーー」
「その段々本性が出てくる様も見てて面白いわね。やっぱり再召喚して正解だったわ」

 もう一つだけ舌打ちをして、まだ不快に笑い続ける彼女の臑を一発ほど蹴りました、が。
 すかっ。
 確実に相手に直撃する距離なのに、私の足は虚しく足の前の空間を通りました。
 そんな私を見て、口端を少し持ち上げて言うことには。

「そうそう、安心なさい。魔理沙が今の貴女を見ても、小悪魔が生きていたなんて思うことは無いようにしておいたわ」

 もう片方もつり上げて、愉快そうに人差し指で右を指しました。
 つられてそっちを向くと、そこの鏡に映るのは。

 余裕なさげに苛ついている、
 背中の薄い二枚の羽と、短く揃えられた金色の髪に、血走るような深紅の瞳を持った、
 メイド服を身に纏っている、
 幼くちいさな女の子。

「な……」
「どう?前の貴女の体以上の自信作よ。可愛いでしょう」

 妖精メイドとなった、私がいました。

「これなら魔理沙が貴女を見ても、魔理沙の中の小悪魔が薄れることは全くないわ。しかもそこら中にいる妖精メイドと同じ格好だし、魔理沙の記憶に残って小悪魔の存在を脅かすこともない。貴女が魔理沙の心の奥に干渉することはもうないわ。……魔理沙は『こぁ』に心を縛られて、ずっと生きていくのよ。そうしたのは貴女でしょう、司書妖精さん?」

 良いことをしたわ、とでも言いたげに、にんまりと笑う性悪魔法使い。
 魔理沙さんに、私を刻みずっと一緒にいるという願いは潰えました。
 再び彼女と関係を作ることも、私が滅び魔理沙さんの心の中に入るということもこの主が許さないでしょう。
 そしてそもそも、こんな体でいくら魔理沙さんに呼びかけようと、私がかけた完全な呪縛は解けるはずもありません。

 ……私は。司書という名目のもと、パチュリーの都合のいい手に成り下がってしまったのです。

「……」
「誰かに仕えることで満たされる貴女には、この上ない処遇だと思うわ。死んでもまた使ってもらえるなんて、最高の幸せでしょう?」
「……黙れ」
 
 違う。私が望んでいたのは、欲しいのはこんなことじゃない。
 あんたみたいな奴が、私の幸せを語るな!

「おっと。……本当にいい顔よ、こぁ。それに、また面白いものが見れそうでなにより」

 私の振り上げた拳を容易に捻り上げて。
 パチュリーが、手元の水晶玉をのぞき込んで言います。あれは、図書館前の廊下を映すものだったはず。
 そして。
 ぎぃ、と図書館入り口の大扉が音を立てて開きました。

「ほら、迷える子羊が救いを求めてやってきたわ。ちゃんと手を差し伸べてあげなさい。引きずり込むなんて以ての外だけれどもね」

 どん!と背中を叩かれるように押され、入り口の方向を向かされます。
 パチュリーが指をさすまでもなく、私は開かれた扉に目をやりました。

 そこにはーー 
予想的中、もとい「何人かの隠す気がない人」でした、雨宮 霜です。

twitterでの発言と作品の内容もろかぶりでした、はい。ほぼこぁちゃんツイートしかしてないこぁ。

 
 文体が文体なので少々グダってるかなーそのくせ最後の急転直下っぷりがなーとは自分でも思うのですが、最後まで読んでくれて感謝です。

 構成的には起承転結らしきものになったと思います。まだまだ精進が必要で読み返すと粗が出まくりなことには変わりありませんけれど、それはここで言うことではありませんね……

タイトルは、夢は夢だから夢なんです。こぁちゃんにとっても魔理沙ちゃんにとってもその手は夢なんです。という感じで。



↓以下、コメントの返信

>>1
 小悪魔はあくまでパチュリーに使われる、まさに小さな悪魔でしかありません。彼女は魔理沙のものになる前に、既にパチュリーの手足だったのですから。真っ先にオチを褒めてもらえてとってもしやわせでした。

>>2
 とりあえず色々と裏切りたかった。混じりけのない純粋で一般的な小悪魔の恋ならHappy endで終わらせるつもりだったのですけれど、それではこの場所でいささか味気ないというもの。同じようにこの場所で、紫もやしの性格をよくする理由はありません。

>>3
 ヤンデレで書いたつもりが無かったので、コメントを見た時驚きました。これが、ヤンデレだったのか……

>>4
 こぁちゃん素敵!ありがとうございます。頭のネジはちょっとくらい外れている子のほうが可愛いし魅力的ですよね。

>>6
 だって、私純愛しか書けませんし……書きませんし(たぶん)。

>>7
 まりさちゃんかわゆゆゆ。こぁちゃんかーわーゆー。
最初のそこの記述は申し訳ないです、全く関係ないのに無意識で書いてしまいまして……。一応弁明をしておきますと、残りの小悪魔は無能というわけではないんです。ただドジっ子、実験補助道具の付喪神、やんちゃな子なので実質この小悪魔が一番仕事できる、ということにしといてくださいすんません……

>>8
 あんまり言うべきではないのかもしれないけれど、実はラストの部分はつけるつもりなかったのです。味気ないな、でも蛇足気味になるかないややっぱり一応書き足しておこうといった感じの物なのですが、そう言っていただけるととても嬉しいですし参考になります。

>>9
 さすが魔女、まさに悪魔の所業。他人の不幸と怨嗟を心の底から蜜にしているパチュリー様でした。
 いちおう、魔理沙が返し始めた描写はした、ような……。まぁでも本当に実験に欠かせないものだったら種族魔法使いパゥワァで取り返しそうですけどもね。無邪気な子供の悪戯、くらいにしか思っていなかったのかもしれません。

 >>11
 魔理沙ちゃんぺろぺろ。魔理沙ちゃんの右手の切断面ぺろぺろしたいです(^q^)
 やっぱり魔理沙ちゃんは産廃的にも映えるいいこですよ。

>>13
 こぁちゃんは、基本的に自分のためだけに動くエゴイスト。だから見方によっては、仰るとおりとても真っ直ぐです。魔理沙ちゃんがしていたのは恋か、依存か、はたまた愛を抱いていたのか。なんにせよ、彼女には一度縋り付いた柱を取り去ることなんてできないのです。霊夢は唯一、心も体も正常な人として登場しました。博麗の巫女、というよりはただの歳相応の少女としての一面が強いと思います。扱ったのが現実でなさそうでありそうでなさそうな話ですから、リアルと言っていただけるととても嬉しいです。


↑以上、コメント返信でした。




 皆様のおかげで当初予想の大爆死を免れ、こうしてあとがきを書き、名前の欄にテキトーなものを打ち込まずに済むことができて感無量です。〆切ができれば、また投稿したいものです。

 それでは、良き産廃ライフを!

 さようなら^(๑╹◡╹๑)^
雨宮 霜
http://twitter.com/Frost_Amamiya
作品情報
作品集:
5
投稿日時:
2012/11/25 11:06:45
更新日時:
2012/12/17 01:05:15
評価:
10/15
POINT:
1040
Rate:
13.31
分類
産廃SSこんぺ
小悪魔
魔理沙
霊夢
パチュリー
誰に何と言われようと純愛
簡易匿名評価
投稿パスワード
POINT
0. 140点 匿名評価 投稿数: 5
1. 70 名無し ■2012/11/25 20:42:06
狡猾な悪魔の恋愛は、なかなかに一本筋の通ったねじくれた物ですね。
最後にあんな事して、未来永劫彼女の物になろうとするなんて……。
こうして、小さな悪魔は彼女の手足となって、恋を実らせたのでした。



しかし、彼女自体、しょせん他人の手足に過ぎなかったのでした……。
オチがGood!!
2. 100 名無し ■2012/11/26 00:07:10
Happy end かと思ったらオチが…
パッチェさんが小悪魔が生きていることを教えてくれたらなんとかなるか?
でもこの性悪魔女に期待はできないですね
3. 100 名無し ■2012/11/26 00:49:50
産廃的正統派ヤンデレ、ごちそうさまでした。
こぁもまりさもかわいい
4. 100 名無し ■2012/11/27 22:39:30
良い感じにイカれてるこぁちゃん素敵。
6. 100 名無し ■2012/11/28 17:16:56
いやぁ純愛ですね
7. 80 名無し ■2012/11/28 23:04:41
何この愛玩動物。手の伏線の活かし方が良かったです。
小悪魔の残り三体は無能なのかいパチュリー。
8. 80 名無し ■2012/11/29 19:59:23
ただのミザリーものかと思っていたら、予想外の嬉しい驚きが待っていた。
所詮、手は使われるものでしかない。
9. 90 名無し ■2012/12/01 00:19:04
上位悪魔と化した大図書館。
本の整理は面倒なのに盗まれるのはOKなんですね。
11. 80 名無し ■2012/12/04 21:56:12
ペロペロペロペロペロペロ
魔理沙ちゃんカワイイ
13. 100 名無し ■2012/12/10 02:05:01
歪んでいるように見えて、とても真っ直ぐ。狂気すら感じる愛情は小悪魔らしく、小悪魔が犯人だと分かったにも関わらず小悪魔のことを嫌いになれない魔理沙もとても人間らしく可愛かったです。
個人的に1回目に霊夢が突入したときの霊夢の心情の移り変わりがリアルで好きでした。
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