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『産廃SSこんぺ「一千年の呪縛」』 作者: 隙間男

産廃SSこんぺ「一千年の呪縛」

作品集: 5 投稿日時: 2012/11/25 14:52:06 更新日時: 2012/12/17 18:37:20 評価: 8/10 POINT: 560 Rate: 10.64
1.

強烈な酒気を帯びた部屋。そこは永遠亭だった。部屋の主、蓬莱山輝夜と客人、藤原妹紅は互いに睨みあっている。その顔は赤く染まり、酒酔いをイメージさせる。実際には、既に酔っているのだが。
輝夜との因縁。千年以上もの間続くそれを今日こそ晴らそうと、少女は今日も戦いを挑む。
戦いの方法なんてものは彼女にとってはどうでも良かった。只一つ、『負けた。お前の勝ちだ』と言わせれば良かったのだ。
そしてそれは今のところ一度も叶っていない。

「あ〜!また負けてしまった!!」

そう言うと妹紅は地面に倒れこんでしまった。少女のまま時間が止まっている彼女には耐え切れない量のアルコールを摂取していたのだ。

無理もないだろう。
決闘の内容は『酒飲み比べ』という単純なものであった。唯一つ、己のプライドを掛けた戦いに勝利すればよかったのだ。

「残念ね妹紅。今回も私の勝ちよ」

輝夜は妹紅を馬鹿にしたかのような口調で言い放つ。連戦連敗。幾度と無く敗北を喫した妹紅だが、今回もその結果には変わりがなかった。
仮に、彼女が輝夜に勝つことができてもそれは『勝利』ではなく『休憩』のしかならないのだ。
輝夜にとって、これは決闘でもなんでもなく、遊びの他ならないのだから。妹紅もそれを承知の上で、決闘を仕掛けている。
永遠に等しく続く時間。その中で彼女はいつか決別する時が来るまで、戦いを繰り返すことだろう。

「貴女との決闘は私の心を潤してくれるわ。そして、それが私の救いよ」

蓬莱山輝夜にとって彼女との決闘は暇つぶしの一つでしかなかった。少なくとも最初のうちは。
数多の暇つぶし、堕落、怠惰を経て彼女は自分の心を芯まで潤してくれるものは彼女との決闘しか無いことに気づいてしまった。
永琳の作った薬よりも、兎の悪戯を眺めることよりも、鈴仙にちょっかいを出すことよりも自分を満たすことができる事なのだ。

「……そうか。だけどな!次こそは私が勝ってやる!」

挑戦自体は輝夜が仕掛けることもあるし、妹紅がわざわざ永遠亭まで行って決闘状を出すこともある。
今回は妹紅が永遠亭に寄った時に輝夜の挑発を受けて、このような結果に至った。
そして何度となく輝夜が勝利を納めても勝気な台詞で次の挑戦を仄めかすのだ。
輝夜にとってこれが限りなく大切な日常であり、生きがいであった。

「失礼しまーす……妹紅さん、慧音さんが迎えに来ましたよー………ゴホッ!なんですかこの匂い!」

ほぼノックと同時に入ってきた鈴仙が部屋にはいると同時にむせた。
それもそうだろう。部屋は妖怪でも酔ってしまうほどの酒気に満ちている。それこそ下戸なら嘔吐しかねないほどの。

「ああ、蔵にあったお酒貰って……ね?」

「貰ったってこの量!……ああ〜!師匠に怒られても知らないですよ!」

「ハイハイ。もう過ぎたことに拘っても仕方ないわよ。うどんげ」

「も〜……まあいいです。妹紅さん、こちらへ」

そううどんげが言うと同時に、慧音が部屋へと入ってきた

「あまりにも遅いから迎えに来てやったぞ〜……って、酒臭いな!ベロンベロンじゃないか!」

「あー……すみません。なんかうちの姫様がやらかしたみたいで」

そういうと、うどんげがぺこりと頭をさげた。慧音にはそれがとても軽いものに見えたので少し癪に触った。
しかし、そんなことは今の彼女にはどうでも良かったので軽く受け流すことにした。

「いやいや、妹紅も承知の上でだったんだろ?ならいいんだ」

「……そうですか。二日酔いが激しいと思うので薬、師匠からもらってきましょうか?」

「いや、いいよ」

「そうでしたか。では、また今度にでも……」

「ああ。永琳にもよろしくと伝えておいてくれ」

そう言うと慧音は妹紅の肩を組み、そのまま部屋を出た。
鈴仙と輝夜は彼女達が戸を完全に締めるまで2人を見続けていた。

「……お前がここまで酔うなんて珍しいな」

「ん〜?そうかな?」

自分が完全に酔っていることに特に疑問も抱かずに生返事を返す妹紅。
2人を十六夜の月が照らした。



2.

「へー……。あの妹紅が?」

畳張りの部屋と置かれた卓袱台。そんな和を象徴したかのような部屋で2人は世間話にふけっている。
卓袱台の上には醤油煎餅と緑茶が置かれ、『いかにも』長々と話をしているような雰囲気を醸し出している。
どうやら、霧雨魔理沙がこの煎餅と茶の為に用意した土産話に対し、この部屋の主、博麗霊夢は興味津々のようだ。

「ああそうなんだ。なんでも風のうわさでな、ベロンベロンに酔って帰っていったとか」

魔理沙の話の面白さに比例して、霊夢の出す菓子の質は変化する。
煎餅を出してきたということは、対して霊夢は興味を示していないということである。
しかし、話を長引かせ、かつその後の霊夢の気が変われば羊羹程度は出してくれるかもしれないのだ。
そんな期待を胸によせ、魔理沙は話を続けた。

「なんでも輝夜が蔵の酒をたっぷり出して、飲み比べだそうだ。私には無理だな。臓器がやられてしまいそうだよ」

「私だって無理よ。まあ蓬莱人の特権ってところかしら?」

「そういうことだな……あと、妹紅の奴二日酔いならぬ三日酔いだそうだ」

「……そんなこともあるのね。まあ彼女達だって完璧超人なわけじゃないし」

そう言うと、霊夢は湯のみにお茶を注ぎはじめた。
魔理沙が湯のみを霊夢の方に出すと、霊夢は無言で彼女の分も注ぎ始める。
どうやら、まだまだ話は続くようだ。否。続けなければいけないようだ。

「……そうだな、もっと別の話でもするか」

「……今の話にオチは無いの?」

「ああ。まあ心配なら嫌がらせに酒でも持って行ってやればいいさ。きっと普段じゃ見れないような顔が拝めると思うぜ」

確かに話の限り、今の妹紅に酒瓶でもを見せてやれば面白い顔をしそうではある。霊夢はそれも面白そうだと考えながらも、ある人物のことが脳裏によぎったので実行には移さないことにする。

「生憎今は萃香に飲ませるお酒だけで精一杯なのよ」

「そうか……じゃあ次の話でもするか?」

「ええ」

「命蓮寺の山彦と鬼の大声対決の話なんてのがある」

「面白そうね……ちょっと待ってなさい」

どうやら菓子のランクがアップするらしい。しめしめと思いながら魔理沙はお茶を啜った。
なにやらがさがさと物音がして、霊夢が羊羹を持ってきた頃には魔理沙の湯のみは空となっていた。

「ほら、羊羹と新しいお茶よ。これだけあんたに出すんだからきっちり面白い話を期待しているわ」

霊夢がそわそわとした様子で魔理沙を急かす。彼女の数多い暇つぶしの中でも格別のものだ。
魔理沙は「こりゃぁしっかりと話してやらないと怒られるな」と言った様子で口を開き、語りはじめた。

「ほら、大声大会ってあるだろ?地底のさ――」

「――ちょいと失礼♪」

魔理沙が語りながら羊羹を取ろうとした時、別の手がその羊羹を掻っ攫ってしまった。
魔理沙にも、霊夢にも見たことのある手だった。

「紫、あんたいつからそこにいたの?」

「霊夢が羊羹を取りに行ったときくらいかしら?」

「気配すら感じなかったんだが」

「細かいことはきにしないの」

「それ、私の羊羹なんだけどな」

「あら、ごめんなさい。お詫びに私が面白い話でもしてあげようかしら」

そう言いながら魔理沙のお茶を啜る紫。
人の飲食物を盗っているというのにこの余裕は何処から来るのだろうか。
しかし、霊夢も魔理沙も『紫だから仕方ない』といった反応だ。
勝手に茶を啜ったことは不問として、会話を続ける。

「へぇ。あんたが話を持ってくるなんて珍しいじゃない」

「異変絡みと考えるのが自然だな。嫌な予感しかしないぜ」

2人がそう考えるのは何ら不自然な話ではない。普段は博麗神社に赴くことはおろか、干渉しようとすらしてこないのだから。
こうやって2人の眼前に現れたと言うことは異変しか考えられないのだ。

「あらやだ。異変なんて私が出てきたからって仰々しいったらありゃしないわ」

「……異変じゃないのか?」

「私を何だと思っているのかしら……異変報知器じゃないのよ」

「ええ知っていますとも『賢者』様」

「馬鹿にしたような言い方はやめて頂戴、霊夢。……で、話そうと思ってた話なんだけど……」

そう言うと紫は淡々と語りはじめた。まるで、お伽話を我が子に聴かせるかのように。

「第一次月面戦争の時に、私達は当時最強の妖怪軍団、少なくとも今の妖怪達の数倍は強いであろう者を引き連れても近代兵器には全くといっていいほど敵わなかった」

「しかし、私は何も収穫なしに撤退したわけじゃないの。本来の目的は侵略ではなく、月の技術の奪取だったのだから」



3.

私達が月へ攻め入ったのはもう1000年以上も前の話。当時最強だった妖怪を扇動、増長させて月へ飛び込み……結果は惨敗だったわ。
天魔・鬼・現在ではどこに行ったのかさえわからない異形の妖怪達。
少なくとも今の霊夢達では敵いもしないような輩を率いての進軍だった。
しかし、月の科学は予想以上のものだった。河童の技術力などはるかに比べ物にならないくらいに。
私の目的はあくまでも技術の奪取。扇動した妖怪たちはあくまでも囮。
彼女たちが月人達を引きつけている間に私はとある場所へと向かった。
『八意永琳の部屋』
彼女―八意永琳とは当時からすでに接触していたわ。
月面戦争を仕掛けた理由の一つが、月にいた頃彼女がまとめた研究資料の回収を頼まれたからよ。彼女曰く「持ってくるのを忘れた」らしいわ。
少なくとも当時の月の科学をはるかに超越するような代物ばかりが記されたらしく、私はそれの回収とあわよくば月の兵器を拝借しようと思ったのよ。

彼女の部屋はあっさりと発見することができた。それもそうでしょう。完全に隔離区域になっていて月人にすら侵入は許されていなかった場所だったから。
目についた一般人を脅せばすぐに場所は吐いてくれたわ。結構有名な場所みたいね。
……彼女の部屋。その中にある資料の全ては触れてはいけないものとの自覚があちらにもあったのでしょう。
厳重な封印が施されていたわ。しかし、そんなものは私の能力の前では無意味だった。
厳重といっても所詮一般人が触れれない程度。上層階級になればなるほどあれが危険なものだと理解していたから近寄ろうとしないのね。
私は容易に彼女の部屋へと入ることができたわ。

彼女の部屋に入った私は驚愕するしかなかった。彼女たちが月を離れて数百年。永遠を求めた代償がそこにはあったわ。
蓬莱の薬の試作品……それもそうでしょう。完成された薬は幾度の試作と実験によって造られるのだから。
試作品の薬を投与された『彼女達』はまだそこに居たわ。何十人何百人もの玉兎。彼女たちをモルモットにして八意永琳は蓬莱の薬を完成させたのよ。
薬の力に耐え切れず崩壊を起こした肉体。無限に近く再生・増殖する臓腑。死ぬこともできず生きることもできない。
そんな状態でこの数百年を彼女達は過ごしていた。
ただ唯一の救いは『失敗作』には私の能力が有効だったこと。
彼女たちを『救う』ことが私にはできたわ……

そして、目的の研究資料はあっさりと見つかった。『少なくとも私には持ってくるのを忘れた』のではなく『持って来なかった』ようにしか見えないような場所にあったわ。
それは無造作に机の上に置かれていた。1冊の手帳とともに。
「手帳も回収してきて欲しい」なんて一言も彼女は言わなかったわ。
しかし、私は興味に駆られて一緒に持って帰ってきてしまった。
―結論として月の兵器の製造方法が記されているわけでも無ければ彼女と誰かとの蜜月な関係が記されたものでも無かった。
唯一つ、彼女の憂いだけが記された手帳だったわ。

その後はお察しの通り、この部屋を出た私はあっさりと見つかり、許しを請う結果となってしまった。
結果は惨敗。鬼を一人亡くし、彼女と親密な仲にあった天魔は二度と私に口を利くことは無くなったわ。
異形の妖怪達は私に愛想を尽かし、幻想郷を離れて自らを破滅へと進めた。
唯一つの収穫は八意永琳の残した物。これらはあの姉妹に見つかる前に『嘘と実の境界』により地上に送ることに成功したわ。

私が地上へ戻った後、永琳には研究資料も手帳もきちんと手渡したわ。すべて紙に写しをとってね。
彼女の資料と手帳。この2つを見て、私は危惧したの。数百年後に起きるであろう事に対して……



4.

「ほら!やっぱり異変じゃないか!なんだよ『数百年後に起こるであろうこと』って!」

部屋の中に響く魔理沙の声。それもそうだろう。その『数百年後』が今かもしれないのだから。

「……初耳だわそんな話」

驚愕する霊夢。その声は普段と違って低く、冷たかった。
彼女はいわば幻想郷の守護者。そんな彼女にとんでもない大嘘を吐いたのだ。怒りを隠せない理由がなかった。

「それもそうよ。この話は私と藍。そして彼女しかいないし全てを把握しているのは私のほかいないわ」

「で、アイツが残した資料と手帳、持ってるんでしょ?早く見せなさいよ」

急かす霊夢。彼女は半ば理解しているのであろう。これから幻想郷に襲いかかるであろう異変が産声を上げている事に。

「勿論よ。そのためにわざわざここに来たのだから」

紫が差し出した数枚の紙を乱暴な動作でひったくると、霊夢と魔理沙は早速それを広げ、黙々と読み始めた。
たった数枚の紙であるが、どれも緻密な文字で埋め尽くされていて、とても短時間では読めるような代物ではなかった。



八意永琳の研究資料.

正直、私はこれを『研究資料』と位置付けることに戸惑ってしまった。これは経過の記録でありただの日記なのだから。
蓬莱の薬を製造する気はこれ以上無い。だから明確に全てを記した資料を残す必要は無いと考え、代わりにこれを残すことにした。
これをもし数百年・数千年後の私が見ているのならこれだけは約束して欲しい。『再び後悔しない』と。

蓬莱の薬の製造には途方も無い労力を必要とする。そのことを彼女は理解して私に頼んでいるのだろうか……。私の力を持ってしても、その頭脳を持ってしても、蓬莱の薬『もどき』すら作れないであろう。彼女の力が私には必要不可欠である。
……蓬莱の薬は現在『理論だけで構成された薬』となってしまっている。その製造は月の都が建造されてから未だ一人も行なっていない。

否、『行う気がない』のだ。
それもそうだろう。誰が好き好んで穢れをその身に持ち込むのだろうか。
蓬莱の薬を服用しては行けないなどというルールは『万が一』蓬莱の薬が製造され、それを服用した場合に備えて造られたのだ。
月の貴族はその危険性を認知しているから先に手を打っておいた

過去一度、嫦娥と言う人物に蓬莱の薬作ったことがあった。その結果、彼女は現在もここに幽閉され続けている。
月の都は遥か昔、嫦娥の犯した罪を隠すかのように造られたのだ。そしてその存在を、罪を隠し続けるのがこの都の本来の目的である。
それ以前にも月の都は存在したが、現在のような規模ではなかった。彼女の存在がこの月の都を作ったのだ。皮肉なものである。
その時と同じ製法で作ることはできない。当時の材料は全て私を含む月の貴族に駆逐されてしまったのだから。
蓬莱の薬の製造方法は今の今までロストテクノロジーとなってしまっていたのだ。
しかし、再び彼女の能力で製造できる可能性が出てきたのだ。だが前回のようには行かないであろう。
一からの手探り、そして幾度にも及ぶ実験を行うことにより初めて完成する『かもしれない』のだ。
そのことを彼女にも重々承知していただきたい。

……試作1号が完成した。玉兎の1匹を特別に貰い受け実験を開始する。奴隷階級の存在とは言えその経歴から存在の抹消には手続きが必要なのはいささか困ったものである。
早速1号を投与。研究データを取得するために突貫で製造した物であるので実験の失敗はもはや目に見えている。
実験はやはり失敗だった。もともと穢れを知らない世代の玉兎なのでそれは耐えうるものでは無かったのであろう。
瞬時に肉体は崩壊。それはもはや玉兎ではなくなり、『穢れのこもった』と表現してもいいくらいの叫び声を上げた。
今回は彼女にこの実験を見学させた。これを見れば気が変わるかもしれないと考え、私が無理やりこの場に引き連れたのだ。
彼女には全てが与えられている。その全てを投げ出してまであの穢れた地上へと赴く必要などないのだ。

……どうやら彼女の覚悟は本物のようだ。
本来ならここで引き返すはずだったのだが、彼女は何ら臆することもなく実験の続行を私に指示してきた。
目の前で玉兎。それも一番彼女に親しいはずのものを無残にされたのにだ。
彼女にとってこの玉兎がその程度のものだったのか、それとも地上への好奇心がここでのあらゆる事象を上回ったのか。

彼女が去った後、この玉兎だったものからデータを取ることに成功した。
結果は、蓬莱の薬とは似て非なるものとなっていた。
本来、蓬莱の薬を服用することで『魂が自らの存在の主軸』となり蘇ることができるようになるのだ。
これを解析した結果、主軸となるはずの魂は地上の民ですら耐え切れないであろうほどに穢れきり、損傷した肉体は増殖することで回復する。
正直な話、私にはこれをどうしようもできない。ただ、部屋の奥に閉じ込めて封じ込めることしかできないのだ。
これがこの先何十体・何百体と生み出されると考えると吐き気すら催す。

その後も研究データを取り、それをもとに修正を重ねると言う地道な作業が続いた。
蓬莱の薬の製造自体は罪ではない。しかし、製造に関わることにより彼女の環境も、私の環境も大きく変化した。
彼女も私もこの月の都で次第に疎まれるようになった。
彼女を取り巻いていた男共も玉兎も次第に離れていき、彼女は生まれて初めて『孤独』を味わった。
私はその立場を利用して玉兎を調達していたが次第に難しくなってきた。
しかし、それも申請時に顔をしかめられる程度なので問題はなかったのだが。

……遂に玉兎の肉体を留めるところにまで漕ぎ着けた。しかし、穢れはその魂の許容量を未だオーバーしている。
玉兎の魂は邪悪な『何か』へと変質していた。まだ崩壊した肉体で呻いてくれていたほうがこちらも喜ばしいのだが……
ここまで来ると残りは微調整のみとなるので終わりは近い。
それよりもこれの処分をどうしようか悩む。

―どうやら蓬莱の薬が完成したようだ。正直な話ここまでオリジナルに近いものを製造することができるとは思わなかった。
彼女にこれを手渡し、最後の意思確認を行う。これを飲めば最後、地上に追放され、永遠にここへ戻ってくることは無くなる。
本当に彼女にその覚悟があるのか、その目で確認させてもらう。
……彼女はまるで何も考えていないかのようにそれを飲み干した。やはり彼女の覚悟は本物と言っても良いのだろう。

「ありがとう永琳。これで私はこの狭く不自由な月から解放されて地上へと歩をすすめることができるわ」

それは、私にとって今更過ぎて、笑いすらこみ上げてくる礼だった。
私は無言で手を振り、彼女が部屋の外へと向かうのを見送った。

―彼女が地上へと追放されたのはこの十時間後のことであった

私は後悔しているのかもしれない。再び私の薬が誰かを罪人にしてしまったことに。
本当は彼女を救ってやりたかったのかもしれない。このような形ではなくもっと正当な方法で。
そして、今度こそ彼女達を救わなければいけないのだと思う。今度は、私がその罪を背負って。



5.

「……なんというか、なんというかだなぁ……」

そう言い放ったのは魔理沙。彼女にとってこの程度の話は予測できていたのかもしれない。輝夜も、永琳も月では重罪人なのだから。
罪には罪の理由があり、罪を犯したものにはそれなりの結末しか待っていない。

「まあ安い読み物だったわ。ただ、これだけじゃあ紫がそこまで危惧する理由がわからないわ」

霊夢の言葉に「うんうん」と頷く魔理沙。この資料には蓬莱の薬完成までの過程しか記されておらず、いったい紫が何を言いたいのかは到底理解不能だった。

「手帳の内容……これにその後のことが書かれているわ。それを見てからにしなさい」

そう言うと霊夢と魔理沙は再び1枚の紙に目を通し始めた。



八意永琳の手帳.

私は彼女が地上へと追放されてからというものの抜け殻のような生活を送っていたようだ
気がつけば数年・数十年と時が経ち、それでも罪悪感は抜けきっていなかった。
そうこうしているうちに流刑となった彼女を月に連れ戻す話が降って湧いてきた。
私にはそれが千載一遇のチャンスにしか思え無かったのだ。

私が月の貴族達から指示されたのは再び蓬莱の薬をつくること。
なんでも地上の民に渡すものらしい。
私にはそのようなことはどうでも良かったが、とある目的のために少し多めに造らせていただくことにする。
しかし、彼女達と私だけがあの地上において不老不死となっていればいいのだ。
これは私のエゴだ。しかしすでにここを捨てる覚悟はできている。罪を受け入れる覚悟も、何もかもできている。
だから、『私の分以外の全ての薬の製造は全て手を抜かせてもらう』ことにする。



6.

「……永琳が手を抜いた?」

「そういう事ね」

淡々と、2人がすでに全てを悟ったことを確認するかのように返答する紫。
これから起こること。その全てを彼女達に任せるのであろう。
そういった眼差しだった

「ちょっと待て。今蓬莱人になっているのは永琳に、輝夜、そして……妹紅の3人……。まさか」

「その通りよ魔理沙。藤原妹紅は『出来損ない』の薬を服用している。本物の蓬莱人ではないわ」

「そしてあなた達はこの手帳の最後の部分まで読んでいない。

『蓬莱の薬と効能はほぼ同じだがこれは徐々に効果が薄れていき、いずれ存在の主軸そのものが消滅。肉体と魂は分離するであろう。推定

では900〜1000年程の時間が掛かるが特に問題はない』

……つまりそう言うことよ」

紫が静かに、冷静な口調で話し終えた瞬間、魔理沙が手に持った八卦炉を紫に向けた。
八卦炉は光り輝き、今にも閃光を放ちそうだ。

「……なんで今まで黙っていたんだ!なぜこれを妹紅や慧音じゃなく、私達に持ってきたんだ!」

魔理沙の怒りのボルテージはすでに最大にまで達していた。紫が妙な言動や発言をすれば瞬時に、この神社ごと消し飛ばしてしまうかもしれない。それほどまでに彼女は怒っていたのだ。

「残酷だからよ……」

「はぁ?」

「そう。それはとても残酷。自らが蓬莱の薬を飲み不死となった彼女にとってとても残酷なこと。考えても見なさい。自らの不死を受け入れるまでにかかった時間・苦しみ・因縁……。それら全てを、否。彼女の今までの時間全てを否定してしまうからよ」

「…………」

「この事実をどうするかは、あなた達に委ねるわ。永琳に突きつけてみるのもよし。傍観するのもよし」

「ただ、これだけは覚えておいて頂戴」

「最後の最後に大切な決断をするのはあなた達ではないわ」


7.

「慧音ー?」

竹林にある妹紅の自宅。一昨日の晩、慧音は妹紅をここまで連れ帰ってきたようだ。
しかし、丸一日以上寝込んだ妹紅の目が覚めた時、彼女の姿はなかった。

(……慧音のやつ、いないのか?)

今日は寺子屋が休みの日であるはずだ。こういった日の慧音は余程のことがない限り、妹紅の自宅で独り言のように話しかけてくるのだ。
あるいは人里の子供達と蹴鞠だとか、本を読んだりすることもある。最も、後者の場合は机にでも書き置きがあるはずだが。
妹紅の楽天的な性格は、どうやら『余程のこと』という可能性を想定できなかったようだ。彼女は丸一日慧音を探すこともなく、本棚から適当な本を取り出し、それを読み終える頃にはとうに日も暮れて、鴉がなく時間帯となっていた。

(…………探しに行こう)

妹紅が、「慧音の身に何かあったのでは?」と考え始め、彼女を探そうと家を出た頃には既に日が暮れていた。



「……冗談はやめてほしいな。霊夢」

永遠亭の一室。大部屋を貸し切りその談合は行われていた。議題は『藤原妹紅の今後と八意永琳の罪について』とでも言えば妥当であろうか。この場に居るのは因幡てゐ達兎を除いた永遠亭の面々と、霧雨魔理沙・博麗霊夢・上白沢慧音の6名だ。
少なくとも現在緊急を要する彼女――藤原妹紅はそこにはいなかった

「全て、本当のことよ。ねえ、八意永琳……とんでもない罪人よアンタは」

彼女の全てを蔑むかのような眼差しで、俯く彼女を見下ろす霊夢。その隣にいる魔理沙は今にも隙あらば殴りかかりそうなほどの怒りに満ちた形相をしていた。対する慧音は、あまりにも唐突すぎる彼女たちの告白に対して、呆然としていた。いや、するしか無かったのかもしれない。それもそうだろう。長年連れ添ってきた気心のしれた仲間なのだ。いきなり『今この場で消えるかもしれないな』などと言われてしまえば呆然とするしか無いだろう。

「…………」

対する八意永琳はこの談合が始まってから今まで、沈黙を守り続けている。全てを彼女たち2人の手によって曝け出されてもなお、彼女が沈黙する意図は、彼女本人にしか分からない。

「え、永琳……?嘘。よね?ねえ……?」

俯く永琳に対して延々と同じ質問を繰り返す輝夜。彼女に蓬莱の薬を造らせた責任とその重圧が一気にのしかかって来たのだ。今の今まで平和に、全ての因縁と自らを縛るものから解き放たれて自由に暮らしてきた彼女にとって襲いかかってきたそれは『悪夢』としか言い様がないのかもしれない。しかし今回の件の全ての原因は元をたどれば彼女にあるのだ。

「師匠がそんなことするわけ無いじゃないですか。はは……霊夢さん冗談きついですよ本当に……」

自らが師と崇める者が唐突に罪人扱いされ、その上このような尋問が繰り広げられるようなことがあれば、誰であろうと師を疑い、それでも師を信じるであろう。ただ、鈴仙・優曇華院・イナバの場合は少し事情が違った。彼女はモルモットにされた彼女たちとおなじ玉兎なのである。まさか自らの名付け親であり、師事する人物がそのような実験を行なっていたとあれば、信じようとする感情の他に、怒りの感情が芽生えても何ら可笑しくないのである。そういった感情の板挟みに合った彼女の両手には、血が滲んでいた。

「っ……!とにかくだ!2人が嘘を吐くとも私は思えない。かと言って私には妹紅が今日明日『死ぬ』などと思えないしこの話を信じたくも

ない。そろそろ真偽をはっきりとさせてもらおうか、八意永琳」

「……ええ、そのつもりよ」

今までの沈黙を破り、遂に永琳が口を開いた。俯いていた面は上を向き、凛とした眼差しで上白沢慧音を見据えていた。少なくとも、さっきまでの彼女と違うことは明らかだった。腹を決め、全てを受け入れるといった様子だった。



「くそっ!慧音の奴、人里にも寺子屋にもいなかった……」

そう大声で独り言を呟きながら人間の里を抜け、夜の闇を駆ける妹紅。その顔には焦りが見えていた。それもそうだろう。置き手紙もない、寺子屋にもいない。稗田阿求に居場所を尋ねても「知らない」の一点張りだったのだ。そして、ここで彼女は重大なことに気づいた。何も彼女が赴くのは人里だけでは無いということだ。まして一昨日の事もあるのだ。彼女が妹紅の向かった方向とは逆の永遠亭へと向かっていてもおかしくはない。
そうわかると同時に、彼女は阿求の話を聞く間も無く全力で夜の人里を抜け、ろくに整備もされていない夜の道を駆けはじめたのだ。
視界が暗闇に遮られ、10m先すら見渡せないような道を駆ける妹紅。所々に石が転がり、変に凹んでいたりするこの道はとてもでは無いが夜に通るものではない。妖怪による危険が大きいのも勿論あるのだが、転んで怪我をする危険が第一に挙げられるのだ。そうなってしまえば、妖怪にである可能性も跳ね上がり、結果命を落とすことに繋がりかねない。

太陽の畑と迷いの竹林の分かれ道で妹紅は、案の定足を滑らせ転んでしまった。彼女は蓬莱人であり、所詮成長の止まった人間である。こういったことは想定内なのかもしれない。転んだ拍子に擦りむいてしまい、血の流れる腕を、もんぺの破れた脚を確認してから、彼女は迷いの竹林へと歩を進めた。



永琳の発言により、静寂が永遠亭を包み込んだ。霊夢も、魔理沙でさえも静まり返り、彼女が再度口を開くのを待っている。
口を開き、大きく呼吸をする。普段は長々とした話は好きではない永琳だったが、少しばなり長い話になりそうな予感を魔理沙と霊夢は察知した。

「全て本当よ。輝夜に作った薬と私が使った薬だけが本物であり、彼女―藤原妹紅が飲んだ薬はただの劣化品。その効力は1000年保つのでやっとのものよ」

吐き出された真実は彼女――上白沢慧音にとってはあまりにも残酷過ぎた。長年連れ添ってきた者は、目の前にいる月の罪人によって騙されていたのだ。無論、彼女に騙したという自覚があるかは全く別の話だが。慧音には目の前の者達がとても醜悪極まりないものに見えたのであろう。永琳を見据えた瞳は先程までのものとは大きく違った。

「……所詮、騙していたのよ。あなた達2人を、幻想郷の民を、月の人々を、そして――輝夜を」

そう言った永琳の顔はどこか寂しげで、それでいて全てを見下したかのような顔だった。
自らの罪を認めた結果なのか、それとも開き直っているだけなのか。
その時、霊夢が反射的な速度で魔理沙の腕を掴み、彼女を制止した。

「……魔理沙、やめておきなさい」

魔理沙の拳は固く握られ、掴んだ霊夢の腕を今にも振りほどきそうな程の力が込められているのは容易に理解ができる。
彼女にとって、永琳が全てを認めたのが余程許せなかったのかもしれない。
今の魔理沙の感情を表すならこうとでも言えばいいだろうか?
『全部じゃなくていい。せめて、せめて一つくらいは嘘であって欲しかった』
――全てが真実なら、妹紅は救われないし、残酷な結末をむかえるしかないのだから。

「だけど――」

掴んだ手に力を込めたまま、魔理沙は霊夢に反論する。激情家の彼女にとってこのような行動は珍しくもなんともないのだ。そして、その行動の愚かさを霊夢は知っているのだ。彼女の隣でいつも結末を見てきたのは、霊夢なのだから。

「やめなさいって言ってるのよ。あの時紫はなんて言っていたか覚えているかしら」

「ああ、覚えているさ」

『最後の最後に大切な決断をするのはあなた達ではないわ』
紫にはこの展開は見え透いたものだったのであろうか。それは今となっては分からないことなのだが、何がともあれ霊夢も魔理沙も当事者
ではないのだ。この場においてほぼ全くと言ってもいいほど関係が無い。ただ、彼女たちは真実の断片を見せつけられ、それに対する行動の権利を与えられたのだ。

「だったら……やめなさい。此処から先は、彼女たちに任せるわ」

「ああ……」



「――やあ」

迷いの竹林。普段の妹紅なら迷わず一直線に永遠亭へとたどり着くことが出来るだろう。しかし、今晩の妹紅は焦っているのだ。同じ所を3回通過して、ようやくそれに気づくほどの狼狽っぷりだったのだ。しかし、目の前の兎に出会えたことは彼女にとって幸運だった。彼女に案内させれば、永遠亭へと楽にたどり着くことが出来るのだから。

「……因幡てゐ。だったか?こんな時間にここにいるとは珍しいな」

「そうなんだよね。なんでも私には話せないようなお話があるんだと。霊夢達お客様も交えてねー」

飄々とした様子で語るてゐ。あの場において自身が疎外されていることには特に不満を感じている様子はなかった。
もしも彼女が不満を感じているのであれば、その理由は話の内容を聞くことが出来ないということであろう。噂好きの彼女にとって、それが途方もない不満を生み出すものに違いないのだから。

「……霊夢『達』?と言うことは他に誰かいるのか?」

「もちろんだよ、魔理沙と……慧音が居たはずだ」

「慧音……よかったぁ〜!」

「なんだい?もしかして1日中探していたのか」

「察してほしいなそこは」

「……お熱いことで」

てゐの指摘に頬を赤くする妹紅。彼女が慧音と出会った時から今まで、そういった感情は1度も抱いたことが無かったが、彼女の指摘で、自らの内に芽生えた感情に初めて気づいたのかもしれない。

「ところでさ、その怪我どうしたの?」

「これか?道でコケた」

「珍しいね……でも、なんでまだ怪我治っていないの?蓬莱人ならすぐに治るはずじゃ……」

先ほど道でコケた時にできた傷は、腕に1箇所、脚に1箇所の計2箇所だ。妹紅はてゐの発言により改めて自分の体を見なおした。腕の傷は未だ治癒しておらず、赤い血が流れていた。脚に関しても同様で、腕のそれよりも酷いこととなっていた。通常、蓬莱人ならこの程度の傷は十を数える間もなく治癒するはずだが、今回はそれができていない。通常では有り得ないことだ。

「え?これって……!」

「それに、顔色がさっきから悪いよ。まるで二日酔いだ」

一昨日の酒飲み対決。普段なら1晩寝れば快調もいいところなのだが、あれから相当の時間が経った現在でも、彼女の顔色は冴えてはいなかった。これも、蓬莱人なら有り得ないことだった。

「……おかしい。慧音のことといい、私の体といい」

「……別に私はアンタの体がどうとか、慧音がどうとかはどうでもいいさ。ただ、皆が面白い話をしているのに私だけあの場に入れないのは気に入らない」

「なにが言いたいんだ?」

「今のアンタじゃ永遠亭にたどり着くなんて無理そうだからね。案内してあげようってことだよ」

「存外良い奴じゃないか……」

「大きなお世話だよ」



8.
魔理沙、霊夢の両者が定位置に戻ったところを永琳が確認すると、再び慧音へと目を向け話を再開した。

「地上の民が蓬莱の薬を飲む事に対して私は特に問題は感じていなかったわ。ただ、私と彼女以外の者が蓬莱人となることに対して、大きな不満を感じたのよ。輝夜には造らせた者の責任を、私は造った者としての責任を追わなければならない。そして、その罪滅ぼしは私達がこの永遠を生きることのみによって成される。だから劣化した蓬莱の薬を作り、それを地上に持って行く事を決断したのよ」

「……それはエゴだろ!どれだけ彼女がこの千年間、自らの不死に苦しみ、悩み、そして生きることを決断したと思っているんだ!」

激情を露にする慧音。彼女は妹紅の家族といってもなんらおかしくはないのだ。その家族の運命を弄び、散々滅茶苦茶にした者が目の前にいるのだ。怒りを抑えきれないわけがなかろう。

「勿論これは私のエゴよ。私の願いは唯一つ、輝夜とこの地上でゆっくりとした時間を過ごすこと。それを誰にも邪魔させるわけには行かないわ。そして藤原妹紅――彼女には死という救いがまた与えられたのよ。喜びなさい……彼女がもう永遠に掴めないと思っていたであろうものが既に彼女の手のひらには置かれているのよ。あとはそれを握るだけ」

「救い……だと?既に捨てたものを目の前に置かれて、それが『救い』だと?妹紅を馬鹿にするのもいい加減にしろ!!」

「……馬鹿ね。そんな大声で叫んだら、外 に 漏 れ て し ま う じ ゃ な い」

障子に映った2つの影。それを睨みつけるような目で、冷静な口調で永琳が口を開く。彼女にはすでに、慧音のことなど眼中に無かった。



藤原妹紅は迷いの竹林から永遠亭までを案内する程度にはその地理を理解していた。しかし、最短距離で永遠亭につくコースは知らなかった。彼女は常に同じ道を使っていたのだから。
因幡てゐは迷いの竹林の地理も構造も全て知り尽くしていた。彼女にとって、そこが帰る場所なのだから。
帰る場所の周辺の地理すら理解出来ないものなど、そうそういないだろう。少年時代、家の近くを探索して近道を発見したように、彼女もまたあらゆる近道を知っていた。
藤原妹紅が永遠亭につくまでの時間の半分で因幡てゐはそこに着くことが出来る。そして、それが災いとなった。妹紅がいつも道理の道を通っていればこのような結末は免れたのかもしれないが、それも後の祭りだ。

「――慧音?」

「……妹紅!妹紅なのか!?なんでここにいるんだ!」

先程まで永琳に対して怒りを抑えきれず、怒張声で永琳を攻撃していたのだ。そのようなテンションで妹紅に話しかけられたら彼女が驚かないわけがない。びっくりした様子で少し後ろに退く妹紅。そしてそんなことはお構いなしに彼女に抱きつく慧音。

「妹紅……妹紅……!」

「慧音……」

溢れ出る感情を抑えきれずに涙をこぼす慧音。彼女にとって永琳の発言はもはやどうでも良くなっていたのかもしれない。ただ、妹紅の最後の時間を共に過ごしたい。それだけだった。
今の慧音は妹紅に残された時間が残り少ないことすら忘れているだろう。それは妹紅もしかり。今の今まで互いに必要な存在だとは理解していなかったが、この瞬間にそれを理解したのかもしれない。

「慧音……私の体、どうなっているんだ……?」

「妹紅、それは――」

「――救われるのよ。あなたが」

2人の会話に割って入ったのは永琳ではなく、輝夜だった。本来永琳が告げようと考えていた台詞を輝夜に盗られたのだ。彼女は驚愕の表情を浮かべている。対する輝夜は、その真っ直ぐな眼差しと凛とした眼光を妹紅に向けていた。

「……救われるって、どういう事だよ!」

「言葉の通りよ、妹紅。貴女を千年もの間縛っていた蓬莱の呪縛は日が昇る前にはおそらく解け、貴女はこの地上から解放される」

「…………もっと端的に言って欲しいな」

「あらそう?もっと単純な話『死ぬ』のよ貴女。いや、『死ねる』かな?」

「ぷっ……あははは!こりゃぁ面白い冗談だ!そんな嘘臭い話に私を引っ掛けるためにここまでの役者を用意して、私を騙そうとしたと?」

妹紅の引きつった笑いに対して、沈黙で答えることしか出来ない輝夜。それもそうだろう。全部、真実なのだから。

「嘘臭い3文芝居はもう辞めてくれよ!なんでお前はそんな顔しかできないんだ!」

「…………全部、本当だからよ。狼狽するのもわかるわ。だけど、貴女は『死』という選択肢と救いが与えられた。本来、喜ぶべきなのよ」

「……っ!ふざけるなよ!私がどんな思いでこの千年を生きてきたかお前には――」

「わかるわよ。妹紅がどんな思いで今まで生きてきたのかなんてことくらいは。私だって、境遇は違えど同じ蓬莱人なのよ」

輝夜の言っていることは全て正論だった。しかし、それを妹紅が聞き入れることは無い。彼女にはこの不条理を受け入れるだけの心構えなど無く、彼女の正論を受け止めるだけの心の余裕すらなかったのだから。

そして、残された時間をどう過ごすかすら、今の彼女には考えられないことだった。突然の余命宣告。しかも残された時間はもう殆ど無いのだ。仕方がないだろう。彼女の心は人間のものであり、思考能力もまた、人間のものなのだから。

混乱する妹紅の脳内に、一人の少女の姿が浮かぶ。それは、紛れもなく千年前の自分自身の姿だった。劣化した蓬莱の薬が見せている副作用のようなものなのか、それとも彼女の意識が見せている者なのか。それは永琳にも、賢者である紫にも図りかねるものだった。

永遠に近い一瞬。その中で千年前と同じ姿の妹紅は、一言であるから告げたいことがあると口を開く。対する妹紅は無言のままだ。今自分に起きていることを整理することだけで精一杯なのか、今目の前で起きている事象を否定することしかできていないのか。だが、妹紅はそんな彼女を無視してまるで独り言のように語りはじめた。

――今晩藤原妹紅は死ぬ。その事実すら受け止められなくて何が蓬莱人なのだろうか。後悔など千年前に置いてきただろう?今更幻想郷に後悔を置いてどうする。死ぬのなら、最後に仇花くらい咲かせて逝けばどうだ?

成長は止まっているはずなのに、視覚的には一回りも二回りも彼女の背丈は小さく見える。しかし、感覚的には妹紅には彼女がとてつもなく大きいものに見えた。千年前の自分に、こんなタイミングで助けられるとは思ってもいなかったのだから。それも、こんな形で。

――後悔しているのか?蓬莱の薬を飲む前も、飲んでからも後悔しかしたことがないのだからな。今のお前は、千年前の『お前』から見ても醜いものだ。悔しいのか?そうだろうな。昔の自分に今の自分を否定されているのから。悔しいのだったら…………最後に輝夜を倒してみろ。正当な形で、彼女を負かしてみろ!

一瞬の事だった。しかし、妹紅にとってはその一瞬ですら大きなものだったのだ。彼女は妹紅の道標となった。それは、この最期の時間に大きな物を遺すための道標。

「……輝夜、表にでろ」

「妹紅!」

「慧音、見つけたんだ。私が最期にやるべきことを。最後の最後に後悔しないための……邪魔しないでくれ」

「……わかった。ただ、本当に後悔はしないんだな?」

「ああ」

「……ならいい。行ってこい」





9.

永遠亭の中庭。ここは広大な広さの永遠亭の半分の大きさを占める。元々は兎の居住区だったり物置だったりがあったのだが、度々発生する2人の喧嘩に建物が巻き込まれることがあり、業を煮やした永琳が2人のために喧嘩のスペースを設けたのだ。

「……本当に良かったのかしら?」

「なんのことだ」

「別に、最後の時間を慧音達と過ごしても良かったのよ」

「それよりも、お前との決着に白黒つけるべきだと思ってな」

「ああ、そういうこと……あなたらしいわ」

「……いくぞ」

最期の決闘。それにふさわしい闘いが幕を開けた。もともと彼女たちの決闘は輝夜に言わせれば、子供のじゃれあい程度のものだったのだが、今回ばかりはそうではないようだ。『弾幕ごっこ』のルールが適用されることのない、本物の殺し合い。これは2人が蓬莱人であるからできるのだろう。本来ならその場に居る

霊夢が例外なく、力ずくでも制止させるはずだが今回は彼女も沈黙していた。2人の覚悟の大きさを知っていたからだ。それを邪魔するのは無粋以外の言葉が見つからない。

「っ……らあぁ!!」

輝夜の腕を掴み、関節とは反対方向に力いっぱいそれを踏みつける。骨が軋む音が周囲に響き、輝夜が声にならない叫び声を上げる。だが、それに対して誰も助けになど入らない。もしも助けに入れば彼女たちに何が起こるかなどイメージしかねるからだ。

「あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ァ゛!!痛い痛い痛い痛い痛い!!!」

まるで木の枝の束をを折った時のような音と同時に、関節と反対方向に輝夜の腕がへし折られた。それを輝夜は予想できていたが、あまりにも突然すぎることだったので、痛覚が脳に到達するまでに一瞬インターバルが空き、その後痛みが洪水のように脳に押し寄せてきた。
永遠を生きる存在であろうと、痛覚には耐性がないのだ。痛みによってその行動を大きく制限されてしまう。折られた片腕は開放骨折しており、もはや腕としての機能を果たしていなかった。その腕を輝夜は抑えているのだから無防備といっても過言ではない。

「それが本気か?違うだろう輝夜!」

妹紅が輝夜の頭を掴み、ゼロ距離から炎を浴びせる。美しい長髪は熱と炎により縮れ、その美しい顔は痛みにより醜く歪んだ。皮膚は炭化し、眼球は水分が抜けきりヒビが入っている。もはや、その顔に先程までの美しい輝夜の面影はなかった。

「手を抜かないでくれ、輝夜。本気のお前を殺したいんだお前は」

「――お望みのとおりにしてあげるわよ!」

先程まで地に伏していた輝夜の姿は妹紅の視界から消え、その一瞬後、妹紅の腹を輝夜の腕が貫いた。彼女の能力は『永遠と須臾を操る程度の能力』。それを応用することにより今のような荒業を繰り出すことができるのだ。

「なるほど、超速再生か……」

「ご名答」

かつての永夜異変で輝夜の真の実力の片鱗を見せつけられた魔理沙と霊夢。しかし彼女たちは人間なのである。本気を出した蓬莱人、蓬莱山輝夜に勝算を見出すことは出来ないであろう。永遠と須臾。性質の異なる2つを操る彼女は紛れもなく、幻想郷最強の一角を占める存在なのだから。

そこからは圧倒的な輝夜の優勢だった。しかしその身を妹紅は投げ飛ばされ、砕かれ、貫かれても立ち上がってきた。これは妹紅にとっても輝夜にとっても負けられない闘いだっただから。妹紅は輝夜に敗北したままなのは許されなかったし、輝夜も妹紅に勝ち逃げされるのだけは許せなかった。
加えて妹紅の身に起きた異変。蓬莱の薬の効力が切れかけているためなのであろうか、再生速度の異常な低下により妹紅は輝夜の攻撃に対して為す術もなく倒れ、また立ち上がることしかもはやできなくなっていた。

「……もう降参してもいいのよ?」

「相変わらず口が減らない奴だな……それに」

突如背後に発生したプレッシャー。それを輝夜が察知するのは遅すぎた。妹紅との会話に気を取られ、さらに慢心していた結果なのであろうか。とにかく彼女はそれに対して為す術もなく飲み込まれてしまった。『それ』は妹紅の身につけた妖術の全てをつぎ込んだ炎の塊だった。炎熱はあらゆる物を焦がし、溶かし、灰になっても燃焼し続ける。

「油断し過ぎだ。馬鹿」

蓬莱人といえど疲労は蓄積する。既に互いの体力の限界まで闘っていたのだ。先に倒れた輝夜と妹紅ではどちらも既に満身創痍だった。ただ、輝夜が先に地に伏した。それだけだったのだ。だが、妹紅の勝利は揺るがない。

「……認めないわ。こんな負け方!」

炭化した先ほどまでの肉体を捨て、新しい肉体を既に構成し始めている輝夜が言い放った。その肉体には先程までの傷を一つも残していない。しかし、彼女にはもはやその身体を動かすだけの力すら残っているかどうか怪しい。

「いや、お前の負けだよ。輝夜」

「まだ終わっていないわ……!こんなところで勝ち逃げされてたまったものじゃないわ!もう一回、もう一回よ!」

そう言い、息を切らしながら叫ぶ輝夜。その手にはどこから持ってきたのか彼女が収集した宝物が握られていた。
自身の体力の限界を超えて、それでも妹紅に対する勝利を望む輝夜。彼女のその執念は、どこから来ているのだろうか。

「神宝『蓬莱の玉の枝-夢色の郷-』これで終わり――」

「――やめなさい。輝夜……貴女の負けよ」

突如彼女たちの闘いに割って入ってきた永琳。2人とも限界だと判断したのであろう。疲弊した2人を止めることは彼女にとって容易い。
そして、これ以上は時間の無駄なのだ。このまま続けても両者のためになることはない。

「永琳、いくら貴女でも――」

「やめなさい」

圧倒的な威圧感。それは彼女を怯ませることに対しては十分すぎるものだった。永琳は輝夜よりも下の立場だが、それは月でのこと。既に、彼女たちに上下関係など無いのだ

「……わかった!妹紅、貴女の勝ちよ。貴女が輪廻転生の果てに、再び私のところへ舞い戻ってきたら次こそぐぅの音も出ないほどに負かしてあげるわ」

妹紅と出会って千年以上の時が経ったが、今の今まで輝夜が負けを認めたことは無かった。その彼女が、遂に負けを認めたのだ。妹紅の目には涙が溢れ、輝夜の目にも同じように涙があふれていた。それは、別れの辛さからかもしれないし、負けた悔しさからかもしれない。とにかく、彼女は初めて輝夜に勝利したのだ。



「行くわよ魔理沙」

こっそりと魔理沙に耳打ちする霊夢。この場の空気を邪魔したくないと言う心遣いからか、それとも全てを見届け、この場に居る必要が無くなったからか。

「え?もう行くのか。せっかくいいところなのに」

「ええ」

「……まあ霊夢が言うのなら仕方ないか。邪魔したなうどんげ」

そう言うと、霊夢と魔理沙は夜の闇の中飛び去っていってしまった。





10.

「なあ霊夢……あれでよかったのか?」

幻想郷の空を駆ける2人の少女。彼女たちにとっても今回の話は苦かったようだ。彼女達の力でもどうしようもないことが幻想郷にはあるし、起こりうるのだ。それをつくづく理解させられる一件だった。そして、魔理沙はそれを未だに自分の力でどうにか出来ると思っている。それは浅はかな考えであり、現実を見ていない証拠だった。

「あれでよかったのよ。あんなもの、私にはどうしようもないし。これは…………彼女達の問題だったのよ。私達がどうしようなんて思わないほうが懸命なのよ」

「そんなものなのか……?」

「ええ。そんなものなのよ」



「……妹紅?」

輝夜との決着。それは妹紅にとって自らの終焉を告げるものであった。その身体は蓬莱の薬を服用する以前へと巻き戻りはじめ、声は弱々しいものへと変わっていった。千年以上も昔の妹紅は黒髪の少女だった。蓬莱の薬の影響は地上の人間には大きく、その髪は白く変色するのだ。それらを穢れの象徴とする者もいれば、白蛇のように神聖視するものもいる。

「ああ、思い出したよ。千年前の私は、こんな顔をしていたんだな」

「……初めて合った時からその憎たらしい顔は変わらないわ」

「うるさいわね……もう一戦やる?」

そう言った妹紅の身体は、既に消滅し始めていた。終わるはずのなかった永遠が、今まさに終わりを迎えようとしているのだ。

「そろそろ私も無理そうだな……慧音。また、今度な」

妹紅の肉体は光り輝く砂塵のようなものへと分解され、風に流されて消滅している。残された時間はないに等しいだろう。その無いに等しい時間で慧音に別れを告げる。

「待ってくれ妹紅、逝くな、逝かないでくれ!」

「落ち着いてくれよ慧音……私まで寂しくなるじゃないか」

「当たり前じゃないか!お前がいなくなったら寂しいだろう!妹紅……頼む、死なないでくれ!!」

――ああ、私って何なんだろうか……私が生きたこの千年に意味はあったのだろうか。

――考えても無駄か……いやでも、慧音に出会えて輝夜と決着を着けることができたんだ。

――少なくとも、後悔はないさ

悲痛な慧音の叫びとは裏腹に、妹紅は満足気な表情で消滅していった。彼女の魂は死後どのような扱いになるのか、彼女達にはわからないであろう。ただ、これだけは言える。『彼女は私たちの前に再び現れるであろう。輪廻転生を超えて』






























































10.5

「随分退屈な三文芝居だったわ」

永遠亭の庭。既に妹紅はその肉体を消滅させ、跡形すら残っていなかった。魔理沙・霊夢の両者も帰路についている。残っているのは永遠亭のメンバーと慧音のみだ。今さきほど永琳が発した台詞に対して、彼女達二人は何ら疑問を起こすことなく受け答えした。

「……厄介払い。といった感じですかね?師匠」

「まあそんなところだわ。結局都合よく彼女達2人は帰ってくれたしね」

厄介者――おそらくは霊夢と魔理沙のことであろう。この場に置いて彼女達以外の選択肢が無いからだ。なぜ彼女達が永遠亭の邪魔者となっていたのかは理解できないことだが。

「役者も三流芝居も二流。まるでつまらないったらありゃしないわ」

「それは貴女の書いたシナリオが詰まらないからじゃなくって?永琳」

「言ってくれるわね……まあ私にシナリオライターのセンスが無いのは認めるわ」

「だけど、あんなシナリオでも千年以上も温めてきたのよ」

「ふぅん……まあ、役を演じる分には面白かったわよ」

そんな会話を繰り広げる三人とは裏腹に沈黙する慧音と、何を言っているのか全くといっていいほど理解できていないてゐ。彼女達が言っている『シナリオ』や『役』というのが一体何のことなのか、本当に理解できていないのだ。

「え、えっと……永琳達が言っている『役』とか『シナリオ』って一体……何のこと?」

てゐの質問に対して、三人が一斉にてゐの方を向きその目をギラつかせる。先ほど、てゐが永遠亭から追い出されるまでの彼女達とは違う様子だったので、彼女は軽く怯んだ。

「……そうね、何も知らされず、役だけを与えられていたものね。いいわ、全て話しましょう」

「だけどその前に」

そう言うと、永琳は妹紅が死んだショックで意識を失った慧音の方へと歩み寄り、そばにあった水瓶の中に入っている水を、彼女の顔に浴びせた。瞬間、彼女の意識は覚醒し目を大きく開けた。

「気分はどうかしら?『嫦娥』」



???.

――地上には八雲紫という妖怪がいるそうだ。私が地上に降りた後、『彼女』を救い出すには少なくとも彼女の協力が必要だろう。なぜなら、私達には既に月に渡るための手段などないからだ。そのためにも、私は月の知識と誘惑を彼女に施さなければならない。……彼女を騙すつもりはないが、同じ蓬莱の薬を飲みしものである彼女――嫦娥を救い出すために少しばかり利用させてもらうことにする。
彼女を救い出し、私達蓬莱人が自由に、何事も無く過ごせる世界を創りだすことが私たちの最終目標なのだから



10.5.

「えっ……つまり慧音が嫦娥で嫦娥が慧音で……?それがなんで妹紅を死なす事につながるんだよ!」

永琳から吐き出された真実の断片。それはてゐを混乱させるには十分すぎる情報であった。真実とは常に残酷な方向へと向かっているのだ。軌道修正などできないほどに。

「――第一次月面戦争をけしかけるように八雲紫を誘惑したのは私よ。月の知識と技術で彼女を誘惑して、彼女と彼女が引き連れる妖怪を囮にした。その結果、私たちはいとも簡単に嫦娥を救出することができた」

「ならそれでいいじゃないか!妹紅は全くといっていいほど関係無いじゃ――」

「――そこなのよ。月面戦争の敗北。そして、私たちの真の目的が露見してしまった。貴女がここに住むようになったのはそれよりも後だから知る由もないだろうけど、怒り狂った彼女は嫦娥に呪いをかけたわ」

「自身の愛する人間の死を見届けるまで、その記憶すべてを封じ込める」

「これほど残酷な呪いも無いでしょう。呪いの副作用だろうか、種族まで変わってしまい、その能力は夜と月の力で二分されるようになった。今の今まで彼女は見えないところで八雲紫の道具と化していたのよ」

てゐが幻想郷に住み始めたのは、月面戦争よりもはるか以前。しかし、自身のこと以外には途方も無いほどに疎かった。多くの妖怪がそうであったように、彼女も自分が属するコミュニティ以外のことなどどうでも良かったのだ。そして、それ故に今この事実を知る結果となってしまった。

「厳密には、八雲紫の話を聞いて怒り狂った妖怪の仕業かしら。呪いをかけた張本人も外の世界へと出ていき、行方知れず。そして私達には、こんな強力な呪いを解くことなんて出来るわけがなかった。だから、私は待っていたのよ。呪いを解く鍵を」

「私のエゴで造った蓬莱の薬はあらゆる人々の運命を大きく歪めてしまったわ。勿論、彼女を含めて。竹取物語のように、富士の山であの薬を燃やしていれば、彼女はこのような結末を辿ることはなかったでしょうね。そうすれば嫦娥の呪いが解けることも無かったでしょうけど……」

「歪んだ運命は複雑に絡み合い、このような結末を生んだ。輝夜と妹紅が出会ったのも運命だったのでしょうし、妹紅が嫦娥の呪いを解く鍵となることも運命だったのかもしれないわ」

既にてゐは沈黙していた。自身の知らないところでそのような事があり、それに対して全くといっていいほど無知でしか無かった彼女は哀れだろう。そして彼女は自身の哀れさに絶望し、俯くしか無かった。

「気分はどうかしら?『嫦娥』」

上白沢慧音……いや、嫦娥と呼べばいいだろうか。とにかく、その『彼女』に対して永琳が話しかける。すぐ側に居たとはいえ、その再開は千年以上ぶりなのだから。

「……すごぶる最悪だな。それと、『嫦娥』はやめてくれ。今は『上白沢慧音』だ」

「はいはい。……千年ぶりね」

一千年の時を超え、遂に彼女達は再開を果たしたのだ。これほど美しいこともないだろう。それは、その裏にある残酷ですら美しく見えることこの上ない。

「ああ」

「おかえりなさい」

今まで、輝夜が見たこともないような笑顔を彼女に向ける永琳。遥か昔の友人を迎えることができたのだ。その笑顔が偽りと言うことは無いであろう。そして、そんな屈託の無い笑顔を向けられた彼女は、同じ笑顔でこう返すのだ。

「――ただいま」


























































――千年を生きた少女達は遂にその呪縛から開放された。それは、とても……とても喜ばしいことですわ。
ギリギリでの投稿と改行ミスの日をまたいだ修正をお許し下さい

全てをお許し下さい

読んで下さった人に感謝です
隙間男
作品情報
作品集:
5
投稿日時:
2012/11/25 14:52:06
更新日時:
2012/12/17 18:37:20
評価:
8/10
POINT:
560
Rate:
10.64
分類
産廃SSこんぺ
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POINT
0. 60点 匿名評価 投稿数: 2
2. 80 名無し ■2012/11/27 06:53:36
まさかのオチに驚愕
3. 80 名無し ■2012/11/27 13:10:33
千年越しの、愛憎渦巻くやっすいメロドラマでした。

紫と永琳共著の脚本に沿って、この茶番は行われましたね。
霊夢はおおよその内容を理解したうえで、『茶菓子を出す価値の無い』話だと判じたのでしょう。

複雑怪奇な運命は、歯車を一回転させただけ。
4. 60 名無し ■2012/11/28 11:10:08
また蓬莱人大勝利か…
地上に一方的に干渉し自らの都合の良いほうに誘導する。その気質は地上に降りようと変わらないようで。
5. 80 名無し ■2012/11/28 21:21:11
オチにやられました。
月面戦争の裏側に何があるのか、色々妄想はしましたがこれは考えたことなかった。

ただ蓬莱人でなくなることが悲劇であるかのように、霊夢や魔理沙が考えているのに強い違和感を覚えました。
そんなこと考えるかな?と読んでいる最中モヤモヤした気分が消えなかったのです。
これは私の不死観に問題があるのかもしれませんけれど。
6. 60 名無し ■2012/11/29 13:00:15
オチには驚かされましたが、全体的にちょっと読みにくかったです。
あと>>5の方が言っているように霊夢魔理沙がなんでこんな必死なんだろう、という違和感がありました。
7. 30 名無し ■2012/11/29 20:40:17
突っ込みどころが多すぎて逆になにも言えない
9. 50 名無し ■2012/12/08 18:03:44
人の作品にどうこう言える技量じゃないけど余り面白くなかったかも
10. 60 名無し ■2012/12/16 18:47:04
輝夜が可愛かったのでよかった
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