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『幻想家たちの一面』 作者: ただの屍

幻想家たちの一面

作品集: 6 投稿日時: 2013/01/04 00:47:50 更新日時: 2013/01/05 07:57:33 評価: 6/9 POINT: 610 Rate: 12.70
 背後で障子の開く音がした。わたしは手に持っていた針を脇の箱に放り、ちゃぶ台から別の針を取る。
「まさか本当に内職やってるとはな」魔理沙の声だった。
「内職じゃないけどね」
 魔理沙がわたしの前に来て座った。「宴会来ないのか。もう始まってるぞ」
 魔理沙にちらりと顔を向けて言った。「行かない」わたしは針を箱に放って、次の針の手入れをする。
「どうして」魔理沙が酒瓶を煽る。「飲みきれないって騒いでるほど酒があるんだぜ」
 わたしは針を箱に放る。針の詰まった箱を他所に押しやって、御札の入った箱をこちらに寄せた。そこから御札を一つかみしてちゃぶ台に乗せる。それから御札を一枚手に取り、ぴんと伸ばした。
「それにさ」魔理沙が御札の頂点に広げた手を置く。「ひとだって一杯来てる。巫女人間人形人形遣い魔法使い竜宮の使い気違い悪魔魔女閻魔幽霊半霊半妖妖怪妖精邪仙天狗天子河童蓬莱人死体桶入り入道雲蜘蛛神死神鬼吸血鬼覚狗猫烏鳥狐狸鵺鼠牛寅兎馬鹿蝶蛙虫紅白黒緑金銀紫藍橙男女赤子青餓鬼兄姉弟妹父母爺婆屍蝿蛆蝿蛆糞尼坊主南無三南無阿弥陀仏地獄行甲乙丙丁いろはにほへとABCDEFGHIJKLMN1234567一二三四五六七八九十その他とこんなにいるんだぜ」
 わたしは空の箱を寄せ、御札を放る。わたしが魔理沙の手をどかそうとすると、魔理沙が抵抗した。
「ちょっと。邪魔」
 魔理沙がしぶしぶ手をどける。「なあ、行こうぜ。それ後でじゃだめか」
「だめ」わたしは破れてしまった御札を拾いあげ魔理沙に見せつける。「今日中じゃなきゃだめ」
「酒、置いてくよ」魔理沙が立ち上がる。「二時三時までやってると思うからさ。明日になってでもいいから来いよな」
 わたしは御札を箱に放った。もう日付の変わる時間になったが道具の手入れは四分の一残っていた。残りは明日やることにする。
 魔理沙の言葉を思い出したわたしは宴会に行こうか悩んだがここはやはり自分の勘に従って行かないことにする。わたしは魔理沙が置いていった酒を飲み干すと、そのまま寝た。
 障子の開く音で目が覚めた。それから男の低い声が耳に入った。「あんた誰」
 まだ起きたくなくて、わたしは両腕で顔を覆う。
「出て行って」腕をつかまれ無理やり立たされる。
「あんた誰」そいつの顔を見たわたしはそう叫んでいた。そいつはわたしそっくりの顔をしたお面を被っていた。
「霊夢よ。あんたこそ誰なの」そいつはそう言ったが、それを認めるわけにはいかなかった。
 お面霊夢の身長は二メートルを超えていた。加えて筋肉質だった。鬼に違いないと思った。衣装は誰に作ってもらったのだろう。もじゃもじゃとした腋毛がこれでもかと見えていて鬱陶しい。
 お面霊夢がわたしを強く引っ張る。「痛い痛い、止めて。一体何なのよ」
「何なのよ、なのはあんたの方よ。わたし今宴会帰りで疲れてるんだからとっとと帰ってちょうだい」
 わたしはお面霊夢の腕に針をちょいと刺した。「痛っ。え、なに」お面霊夢がわたしの腕を放す。
「あんたが去れ」そう言ってわたしは指を突きつける。
「表へ出なさい。そして覚悟しておきなさい」お面霊夢がわたしに背を向けた。表情こそ変わらぬものの背は怒りに怒っていた。
 わたしたちは決着の場に赴いた。
「速攻で片を付けるわよ。死ぬ前にちゃんと逃げてよね」お面霊夢の体が透け、八つの陰陽玉と必中の気配を見せる六十四発の光弾が現れる。
 わたしは喰らい封魔陣を撃った後、全力で逃げた。
 飛行しながら先ほどの出来事を思い返す。お面霊夢は確かに夢想転生に入っていた。あのとき自分は夢想転生に入れなかった。夢想転生に入るにはパワーが足りなかった。おそらくわたしのパワーは0、お面霊夢のパワーは128であるはずだ。パワー128というのは異変解決時並、要するに本調子のフルパワーということだ。夢想封印だって八回撃てる。パワー0というのは寝起き朝食抜き朝酒抜きの状態である。朝酒抜きなのがかなり辛い。いらいらする。酒が飲みたくなってきた。頭が痛む。手が震える。いらいら。いらいらっ。ここからだと紅魔館が近い。わたしは紅魔館で酒を飲むことにする。
 なにやらお面を被った女児が門番をしているのが気になったが今は酒が何よりも優先される。わたしはそのまま門を飛び越える。
 背中を叩かれるような衝撃があって、わたしは一回転して落ちた。
「こら」門番が門を飛び越えてこちらにやってきた。門番は美鈴のお面を被っていた。「お前ここがどこだか分かってるのか」
「あんたこそわたしを知らないの。わたしは霊夢よ。酒を持ってきてちょうだい」
「霊夢ってあの霊夢か。悪いがお前のことは何も知らない」
「わたしのこと知ってるんじゃない。わたしが霊夢よ。分かったら早く酒」
「お前は霊夢じゃない。アル中か」
「アル中よ。だから酒」
「あのー、ここは紅魔館といって吸血鬼が住んでいるとっても危険な場所なんですよ。血を吸われたりする前に逃げてください」
「言われなくても知ってるわ。毛の生えないこのぴかぴかの腋が見えないの。剛毛じゃないのよ」
「あなたアル中でしょう」
「アル中で悪いか」
「ねえアル中さん。あなたのこと見逃してあげるけど他所では自分が博麗霊夢だなんて言わないほうがいいですよ。ひどい目に会うかもしれませんから」
「わたしがお面つけてないからそんなこと言うの」
「咲夜さーん」
「何かしら」
「お酒一本持ってきてくれませんか。このひと重度のアル中なんです」
「はい。これでいいわね」
「あ、酒」
「ありがとうございます」
「お仕事頑張って」
「酒」
「はいはいちょっと待ってて下さいねえ。はーい、こっちに来てください」
「ねえ、酒」
「はいどうぞ。このお酒あげますからもうこの門越えちゃだめですよ」
 酒を飲んで頭がすっきりしたわたしはお面美鈴がしでかした侮辱に対して腹が立ってきた。博麗の巫女をアル中の浮浪者扱いしたのだ。こいつに分からせなくては。わたしはお面美鈴に飛びかかった。
「暴れ上戸なんですか」そう言ってお面美鈴は構えた。
 針三本と御札六枚で決着した。美鈴のお面を手にしたわたしはぼろぼろになった女児を置いて門を飛び越える。全然飲み足りなかった。奪い取った美鈴のお面を見てわたしはお面霊夢に神社を追い出されたことを思い出した。いらいらっ。
「くそ」わたしは紅魔館の玄関を蹴り壊して中に入る。「くそ」そして目があった妖精メイドの顔面に片っ端から針を打ち込んでいく。妖精はこういうときに都合がいい。紅魔館が妖精を飼っているのもこのためだろう。
「あなた何してるのよ」お面咲夜と目があった。針が空を切った。
 わたしは振り返る。「ちょっと。馬鹿な真似はやめなさい」お面咲夜と目があった。御札が空を切った。
 わたしは振り返る。「いい度胸してるじゃない」お面咲夜と目があった。拳骨が空振った。あ、こいつは妖精メイドじゃないや。
 お面咲夜がわたしの頭をこつこつと叩く。「あなた酒臭いわね。あの酒飲んだの」
「あんたがくれたんじゃない」
「確かにそうだけどあのアル中に渡すんじゃなかったの」
「あれだけじゃ足りないからもっと酒持ってきて」
「ふざけるな。真面目に仕事しろ」
 わたしは門の前に立たされていた。さっきまで美鈴のお面を被っていた女児は屍になっている。首が食い破られていた。わたしの足元に一本の酒瓶があり、こう書いてあった。「業務上過失、器物損壊、傷害行為。今宵懲罰、要覚悟」
 わたしは壁にもたれて座り、酒を飲みはじめた。酒は頭を冴えさせる。いらいらもなくなり、冷静さを取り戻したわたしお面咲夜がわたしを美鈴だと思っていることにすぐに気がついた。おそらくはこのお面のせいだろう。お面霊夢もそれが原因なのか。もしかしてわたしは気を扱えるようになっているかも。
 それからわたしは気のコントロールに挑戦したがさっぱりだった。お面を被れば何かが分かるかもしれないが、わたしは霊夢なのだ。わたしがお面を被るとすればそれは霊夢のお面だけだ。わたしは美鈴のお面を女児の死に顔に被せる。行方不明になるよりはこの方があちらも処理しやすいだろう。
 紫と話そうと思った。紫なら無事かもしれないという期待があった。わたしは紫を呼び出すための信号を打った。起きていれば出てくるはずだが果たしてどうだ。
「はーい」スキマから現れたのは紫のお面を被った皺くちゃのお婆さんだった。わたしは失望した。ああこいつもお面だったか。たとえ黒幕でもいいからあの胡散臭い姿が見られたらどんなに安心できたことか。「何の用かしら、どちら様」
「歳相応になったわね」もしこいつがだめなら誰を頼ればいいんだろう。「それでも元気そうで何よりだわ」お面紫はわたしを見定めているようだ。わたしは期待せずに聞いた。「わたしが誰だか分かる」
「記憶にないわね。記憶を食べられたのかしら。不思議ね。わたしを呼び出せるなんて。誰から聞いたの」
「あなたからだけど。ほんとに分からないかな。霊夢よ、博麗の」
「そうなんだ」
「真面目に答えて欲しいんだけどあなたから見てわたしは誰に見える」
「誰にも。こんなやつ幻想郷にいたのかって感じ」紫からそう言われるのは少なからぬショックだった。わたしは他のひとからはどう見えているのだろう。霊夢っぽいとか、もしやこいつ、なんてこれっぽっちも思われないのだろうか。異変が起きるたびわたしは、顔が変わったと周りから言われた。しかし変わる中にも変わらない何かがあったはずだ。それはなんだったのだろう。衣服は不変の顔だと思っていたのにそれも外れているらしい。そういえば妖精メイドはお面を被っていなかった。わたしはあんなやつらと同等の存在なのだろうか。虫けら以下なのか。
「ねえ、昨日まではみんな普通だったんだけど。今朝からみんな顔にお面被ってて。体つきも変わってて訳分かんないの。あなたって本物の紫なの。昨日は何してたの」
「面白いことを言うわね」
「これも真面目に答えて欲しいんだけど」
「自分が本物かどうかだなんて考えたことないわ。意味ないもの。大事なのは他人がどう思うかでしょう」
「じゃあわたしがみんなから霊夢だと認められるにはどうしたらいいわけ」
「パワーよね。パワーがあれば幻想郷はあなたを受け入れるわ」
「残酷な話ね。フルパワー仕様の霊夢を倒すにはどうしたらいいと思う」
「無理。負けないことならできるけど、勝てるとしたら龍神ぐらいじゃない」
「邪道の策は通じると思う」
「無理。霊夢の勘はほとんど奇跡よ」
「やっぱりか。結局は正攻法なのよね」
「完全無敵の夢想転生がこのうえなく厄介だわ」
「それだけじゃなくて八回計六十四発の夢想封印もあるわ」
「あの子一体何なのかしらね。親の顔が見てみたいわ」
「同意」
「そうだ。なにも夢想転生を攻略する必要はないわ。お面さえ奪えればそれでいいんでしょう」
「待って。わたしはお面の話をそこまで詳しく説明していない。あなた何を知っているの」
「いやー、あのね。わたしはただあなたの話を聞いてこうかなーって思っただけよ。まさか合ってるだなんてびっくり」
「あ、でも今ので分かった。夢想転生に入ったときお面が透けてなかった。近づければ奪えるかも」
「きっといけるわ。それはおそらく空に浮くという能力とその奥義である夢想転生とによる結果の一つよ」
「あとは夢想封印か。これは気合で避けるしかないかな」
「まあそうね。でもあなた次第でいけると思うわ。あ、そうそう。霊夢のところ行く前に地獄に寄ってみたら」
「死ねってこと。何の罪か知らないけどあなたも共犯よ」
「そうじゃなくて。地獄ってこの世の情報の最終駅なの。墓場まで持っていった秘密は地獄で暴かれる。霧を晴らすための何かが見つかるかもね。そしてだいぶ遅れて申し訳ないけど二つ目の質問の答え、昨日のことは死なずに済んだってことぐらいしか覚えてないわね。藍がわたしの代わりに全て記憶してくれているから。呼んでこようか」
「いや、いい。付き合ってくれてどうもありがとう」
「また会いましょうね。地獄以外で」そう言い残してお面紫はスキマに消えた。
 建設的な会話ができたことでわたしの不満はほとんど無くなった。残るのは元のみんなはどこへ行ったのかという疑問だがわざわざ地獄に行く必要はない。大事なのは他人がどう思うか、お面紫はそう言っていた。もしも彼女たちが地獄にいたとしてもわたしと同じような存在になっているだろう。そんなやつらと会っても仕方がない。わたしは彼女たちを彼女たちだと分からないかもしれない。
 そういや朝飯抜きだった。紅魔館で食事してもいいが人肉が出ても困るし、もうちょっと扱いやすいところがいい。
 よし、魔理沙の家に行こう。あいつならどうにでもなる。昨日宴会があったが酒だってちょっとぐらいは残ってるかもしれない。そうと決まれば。
 魔理沙の家に入ったわたしは台所に向かう。キノコ酒を期待したがそんなものはなかった。仕方がないのでキノコを焼いて食べる。米に合う味だったのでおかわりした。
 空腹が満たされて気分の良くなったわたしは魔理沙に挨拶しようと思った。魔理沙は自分の部屋にいるのだろうか。わたしは奥へ進む。するとおっさん二人のぐちょぐちょとした不快な喘ぎ声が聞こえてきた。魔理沙が強姦されているのかもしれない。気付かれないよう、わたしは天井に張り付いてから中を覗いた。
「いいぜアリス」
「いいわ魔理沙」
 魔理沙とアリスのお面を被った二人のおっさんが裸で絡み合っていた。お面魔理沙がお面アリスのペニスをしごきながら乳首を責める。わたしはへなへなと着地した。
「いく」
 たるんだ尻を震わせお面アリスが射精した。お面魔理沙はごつい指で精液をすくい取り嬉しそうに自分の体に塗りたくる。窓は熱気で曇っている。シーツは絞れば精液が出そうだ。その雄臭にわたしは吐きそうになった。
「我慢できん。来てくれ」
 お面魔理沙が毛をかき分け広げた肛門をお面アリスに向けた。お面アリスはお面魔理沙の肛門を舌でほじくる。お面アリスのペニスは早くも回復している。
 お面アリスがお面魔理沙に挿入する。二人の息は荒い。
「はははっはっはっはっはっ」
「ふんふふんふふ」
 そして獣のセックス。
 目が潰れるかと思った。
 耳が腐るかと思った。
 鼻がもげるかと思った。
 顔は青ざめていると思う。
 瞳孔は開いていると思う。
 二人は糞をひり出しお互いの体に塗りあった。
 鳥肌が立った。
 動悸がした。
 腰が抜けた。
 お面アリスがお面魔理沙の肛門にマジックマッシュルームを突っ込んだ。
 胃に穴が開いた。
 腸が捻じれた。
 髪の毛が逆立った。
 髪の毛が抜けた。
 お面魔理沙がお面アリスの肛門に自分の頭を突っ込んだ。
 蜂に泣きっ面を刺された。
 走れば躓き、七転び八起きしてわたしは魔理沙の家を抜け出し、凍った血を吐いた。血は錆びていた。わたしは無我夢中で性畜生地獄から飛び去った。わたしの後ろ髪がいくらか抜け落ちていった。
 我を取り戻したときわたしは何かの影に入り込んでいた。
 見上げれば龍神のお面を被った大鯰が太陽を背負って泳いでいた。お面龍神の鱗が昇華して霧となり、お面龍神の周りが虹色に輝いている。
 わたしの両目の表面に鱗が凝結した。痛みも異物感もなかった。一匹の龍が空に消えていく。鱗を通して見る景色に大鯰はもういなかった。
 紫と話そうと思って信号を打ったが紫は現れなかった。今は寝ているのだろう。
 仕方なくわたしは永遠亭を訪れた。受付の兎に永琳を呼びに行かせ、わたしは診察室で待った。
 しばらくしてお面のない永琳が現れた。その姿はまさに永琳らしい永琳だった。
「どのようなご用向きで」
 わたしは今日あった出来事を永琳に話した。「この目治るかな」
「難問だわ。地獄なら何か知っていそうな気はするけど」永琳は虹色に輝くわたしの目を見つめた。「でも龍神が絡んでるとなると地獄はその目を治そうとするかどうか。騙されてはくれないだろうし」永琳は近くにいた兎に鈴仙を呼びにいかせる。「わたしには無理。確かにわたしは月の頭脳と呼ばれてるけど幻想郷の頭脳ではないのよ。ごめんなさいね」
「治らないなら治らないでいいの。そのほうがすっきりするし、突然治られても困るから」
 鈴仙がやって来た。「師匠」
「この子見て」
「はい」鈴仙がわたしを凝視する。なんとなくわたしも鈴仙を見つめた。鈴仙が素早く何度も瞬きする。わたしもつられて瞬きした。
「問題は見当たりません」鈴仙は報告を続ける。「波形の乱れは無し。振幅も平均的。ただ波長がすごく短いです」
「ありがとう、うどんげ。酒飲んでもいいわよ」
「分かりました」
「わたしは狂っていないってこと」わたしは永琳に尋ねた。
「まあそうね」
「波長が短いってのは」
「あなたの持ってるエネルギーが大きいってこと。たとえば光は波長が短いほうが強いでしょ」
「ふーん」
「それにしても変な話。あなたからしてみればみんな別人に入れ替わっちゃったってことよね。でも狂言じゃないし異変でもない」
「そうなの」
「そうみたいよ。霊夢が動いたとかそんな話は聞いてない。あなたが元霊夢ってのがあれこれ考えさせるけど。あ、でもこっそり動いたってのはありそうね」元霊夢という言葉がわたしの胸に響いた。
「これからどうしよう。博麗の巫女じゃなくなるなんて想像したことない。普通のひとって自分でお金を稼がないといけないんでしょ」
「霊夢を倒すんじゃないの」永琳がいたずらっぽく笑う。
「倒すんじゃなくてお面を奪うの。でもお面が見えなくなったから無理。絶対倒せないし」
「ここで働く」永琳がそう提案した。
「こんなに変なやつなかなかいないもんね」
「ひとの厚意を笑わない」
「確かにありがたい話なんだけど、もっと大きな流れに身を任せようかな。それがわたしらしいような。わたしなんてものがまだ残ってるのか知らないけど」
「あなたの意思を尊重するわ」
 席を立ったわたしに永琳が尋ねた。「そうそう。あなたはわたしたちのことどう思ってるの。やっぱり死んだかなんかしたみんなの穴埋めだと思ってるの。あー、でもあなたのお面被ったのもいたんだっけ」
「わたしは狂っていないらしいし、そんな感じなんじゃないかな。正直どうでもいいけど」
「わたしはなんで死んだんだろう。わたしというか蓬莱人だけど」
「きっと集団急性アルコール中毒だ。昨日の宴会わたしの陰口でめちゃくちゃ盛り上がったに違いない」
 それを聞いた永琳が大笑いした。それを見ていたわたしも笑いだす。
 永琳は笑いすぎて遂に窒息死した。それを見たわたしの笑いがぴたりと止んだ。
「あー、死ぬほど笑ったわ。霊夢殺しって名前の酒作ってみようかしら」復活した永琳はまだ笑っていた。
 帰りも行きと同じように妹紅に道案内してもらった。途中でてゐと出会ったので永琳からの土産の酒を三人で飲んだ。竹林を抜けたとき日は傾いていた。
 わたしは博麗神社を訪れた。
「霊夢、いる」その名前を自分が呼ぶことに抵抗感はなかった。
 霊夢が現れた。「あんた誰」
「腋見せてくれる」
「いやよ恥ずかしい」
「じゃあ顔触らせてもらえる」
「それなら」
 わたしは指を立てて霊夢の頬を探った。お面の継ぎ目はどこにもない。やはりここにわたしの入り込む余地などないのだ。
「これあげる」わたしは懐から針と御札を取り出し霊夢の手に乗せた。
「あんたが作ったの」霊夢が目を丸くする。「わたしが作ったのと全然変わらないわね。すごい完成度」
 わたしは周りから吹く風に乗って空に浮かんだ。
「あんた名前は」霊夢が言った。
「今は何も。これからよ」
 紅魔館では門番が死んだのできっと新しい門番を探していることだろう。新しい名前をレミリアにつけてもらう、そんな居場所だってあるかもしれない。
 あるいはこの風は永遠亭に通じているのかもしれない。
 あるいは袋小路に行き当たるのかもしれない。
 あるいは外界に吹く風と一つになるのかもしれない。
 あるいはみんなと同じところへ行くのかもしれない。
 あるいはどこにも辿りつけずいつまでも空を漂いつづけるのかもしれない。
 あるいは。
 全ては風次第だ。わたしは風に流されはじめる。
寺子屋の冬休みの課題

 問1.次の極限値を求めよ。途中の計算式等を記述すること。答えだけの解答は原則として零点とする。

 (1)   lim  x方美人
     x→+∞

 (2)  lim  x方美人
    x→+0

 (3)  lim   x者択y
  (x,y)→(0,0)


 問2.A群のそれぞれの言葉に最も近い意味を持つB群の言葉を一つずつ線で繋ぎなさい。

     A群          B群

  存在を消す知識・   ・認識で笑う幻想
  存在を騙す認識・   ・認識で覆う存在
  存在を穢す幻想・   ・認識で疑う知識
  知識が裂く認識・   ・幻想に成る存在
  知識が解く幻想・   ・幻想に還る知識
  知識が跪く存在・   ・幻想に因る認識


 問3.あなたとあなたの家族の一つ前の前世を調べなさい。その中からあなたの現世と関係があると思う点についてできるだけ詳しく考察しなさい。
ただの屍
作品情報
作品集:
6
投稿日時:
2013/01/04 00:47:50
更新日時:
2013/01/05 07:57:33
評価:
6/9
POINT:
610
Rate:
12.70
分類
The
Omen
簡易匿名評価
投稿パスワード
POINT
0. 90点 匿名評価 投稿数: 3
2. 100 名無し ■2013/01/04 21:28:01
面白かったです。
日本古来より、面を被る行為は人ならざるモノになる行為だとか。
3. 100 名無し ■2013/01/04 23:23:32
いいですね
4. 100 NutsIn先任曹長 ■2013/01/04 23:54:56
とんだ仮面舞踏会。
ローリングしてそれぞれの役目をロール(演じる)。
霊夢役があぶれてしまったようですね。
とりあえず、ソース(地獄)でしばし待機。
彼女の罪は暴かれるか?
大丈夫。面は割れてねぇ。
5. 20 名無し ■2013/01/05 04:02:57
この書き方は好きじゃないと言っても許されるはず。
8. 100 名無し ■2013/01/13 23:29:59
これは面白いな。
仮面を被った人達が元の少女とは全然違うオッサンなのが奇妙でいいね。
9. 100 名無し ■2013/03/13 18:58:08
>邪仙天狗天子河童
天子だけ固有名詞で吹いた
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