Deprecated: Function get_magic_quotes_gpc() is deprecated in /home/thewaterducts/www/php/waterducts/imta/req/util.php on line 270
『俺は虫が嫌いだ』 作者: 汁馬

俺は虫が嫌いだ

作品集: 6 投稿日時: 2013/01/14 18:59:33 更新日時: 2013/01/22 23:43:51 評価: 4/6 POINT: 410 Rate: 14.50
俺は虫が嫌いだ。憎んでいると言ってもいい。

嫌いな理由はいくつかある。見かけも当然嫌悪の対象だがうぞうぞと地べたを這っている姿に、俺は堪らなく嫌悪感を覚えるのだ。
そしてそんな俺の目の前に今、虫どもの親玉がいる。

「やあ、気分はどう?」

「最悪だよ、お前がいるからな」

「いつも通りの受け答えありがとう。いつもとちょっと違う感じだけど大丈夫?」

「お前がいつもより傍によっているからな。嫌悪感も半端ないんだよ」

「そっか」

こいつとの付き合いは半年前に遡る。しかしそんなに語るほどのもんじゃない。
空腹で行き倒れていたこいつを俺が拾って飯を食わせた。それだけ。
それだけだったはずだ。

「今日は知り合いから花の蜜を集めて作ったお菓子を持ってきたんだけど食べる?美味しいんだよこれ」

「あいにく甘いものは苦手でな。それに腹も減ってない」

「そっか」

最初はボロボロの少女が倒れていると思って介抱してやったが、頭に付いてる気持ちの悪い触覚と傷の直りの早さから妖怪だとわかった。
しかも俺の大嫌いな虫の妖怪だ。
しかしそれでも介抱したのは俺だった以上、責任は果たさねばなるまい。
適当に飯を食わせて追い出すつもりだったが、飯を食ったらいつの間にかいなくなってしまった。
礼も言わずに帰る薄情さは妖怪らしいと思ったが、その日から山へ日課の薪拾いに行くといつも通り道にこいつが待っているようになった。

「じゃあ水はどう?今日は暑いしのどが渇くよね」

「そんなにのどは渇いてないな、今いるのは日陰だし少し寒いくらいなんでな」

「そっか」

待っていたといってもどこぞの鶴のようにお礼などしなかった。
名前は向こうから勝手に名乗ってきた。リグルという名前らしい。どうでもいいことだが。
リグルは恩返しもしなかったが、妖怪らしく理不尽に俺を襲うということもなかった。俺の後ろからひょこひょこと歩いて付いてきて、会話ですらない一方的に向こうがしゃべるというだけだった。
この前倒れていたのは巫女が食事の邪魔をしたからどうのこうの、友達の妖怪の店が繁盛しててどうのこうのと。
そして俺が薪を必要分拾って帰るときにはいつの間にかいなくなっているのだ。
俺はただ適当に相槌を打って聞き流しているだけだった。
半年間ずっと、だ。


「今日は何時もより遅かったからこっちから来ちゃった」

「日頃の疲れと、お前が待ってるかと思ったらなんだか体が重くてな」

「そっか」

そう、ただ単に疲れて休んでいるだけだった。
その辺の下級妖怪に襲われるなんてへまは馬鹿しかしないと思っていたが、自分も馬鹿だったようだ。

「歩ける?」

「見りゃわかんだろ」

「二本しかないのに一本ないもんね。無理っぽいね」

「よく見ろ、もう一本もへし折れて使えん」

「そっか」

供え物も、末期の水も俺にはいらない。
俺が望んでいるのは―――。

頬にひんやりとした感触があった。奴が両手を伸ばし俺の頬に触れたのだ。
そのまま顔を近づける。人里に売っている恋愛物の娯楽小説ならこのまま接吻でもするだろうが、虫と接吻など考えただけでぞっとする。
顔同士が触れる寸前まで近づき、そのまま触角で俺の頭に触れた。それと同時にすさまじい嫌悪感が俺の背筋を駆け抜ける。

「…何のつもりだ」

「あなたの事を知りたかったから。虫嫌いの理由も」

「気持ち悪いから、だよ」

「…それだけじゃないよね」

それだけじゃない。
確かにそうだ。
酒癖の悪いどうしようもない親の死体に這いずり回っていた虫、病で倒れた妹の肉を貪っていた虫、妖怪の食い残しへと姿を変えた友人を更に醜い姿に変えた虫。
全部嫌いだ。

「けれども、私を追い払わなかったのはどうして?」

「どうしてだろうな」

言葉を濁す。
けれどもこいつにはもうわかっているはずだ。

「ここで死んだら、嫌いな虫に食べられちゃうよ?良いの?」



「かまわないさ、お前が食ってくれるんだろう?」



そう、もうわかっているはずだ。
わざわざ妖怪が道の真ん中で堂々と待っていられるような場所へ薪を採りに行ったのも。
お前を見たとき、死んだ後に食われて跡形もなくなるというこのおぞましさがまったく違うものへと変わったのも。
お前のことを追い払わなかったのも。
大事な人も大事じゃない人も食われて跡形もなくなった。そう、俺も。



「リグル、俺を」



目をつむる。
意識が途切れる瞬間に目の前のこいつへ、愛おしく大嫌いなこいつへと口を開く。




「跡形もなく、お前のものにしてくれよ」
リグル「うわこの肉まっず」

男「ひでえ」



リグルちゃんは好きです。でもナズーリンのほうがもっと好きです。
次はナズーリンをいじめます。多分。


NutsIn先任曹長様>虫に食べてほしいとかマジ嫌悪ですよね

2様>翌日ミスティアによって美味しく調理された男の姿が!

まいん様>虫に食われてる動物の死体を見て吐きそうになったことがあります
汁馬
作品情報
作品集:
6
投稿日時:
2013/01/14 18:59:33
更新日時:
2013/01/22 23:43:51
評価:
4/6
POINT:
410
Rate:
14.50
分類
リグル
オリキャラ的な男性キャラ
1月22日コメント返し
簡易匿名評価
投稿パスワード
POINT
0. 30点 匿名評価
1. 100 NutsIn先任曹長 ■2013/01/15 06:48:49
究極の、嫌悪すべき、最期の愛の形。
2. 100 名無し ■2013/01/15 22:57:33
意外な形のラブストーリーかと思ったら、後書きがひでえ。
最後の頼みなんだから、リグルも我侭言わずに残さず食ってやれよ。
3. 90 まいん ■2013/01/22 21:57:00
確かに虫に喰われている姿は見れたもんじゃない。
しかし、なんか良い話だった様に感じた。
5. フリーレス 名無し ■2013/02/01 12:31:56
シルバ?
6. 90 名無し ■2013/03/13 20:02:00
産廃では珍しい話ですね。でもあとがきで台無しだよぉ!
名前 メール
評価 パスワード
投稿パスワード
<< 作品集に戻る
作品の編集 コメントの削除
番号 パスワード