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『産廃10KB 「星屑と探検家」』 作者: まいん

産廃10KB 「星屑と探検家」

作品集: 6 投稿日時: 2013/02/24 15:07:50 更新日時: 2013/12/20 23:22:05 評価: 18/19 POINT: 1410 Rate: 14.35
注意、このお話は東方projectの二次創作です。
   オリ設定が存在する可能性があります。





「こんにちは〜、ナズーリンいますか?」

命蓮寺の一室、書類仕事に追われる鼠の妖怪ナズーリンの元に
寅妖怪にして毘沙門天の代理寅丸星が入って来た。
彼女はいかにもな表情でにやけながら室内に声をかけている。

「何の用ですか?」
「実はまた宝塔を失くしてしまって、探して貰えませんか?」

書類の整理と記入の作業を止めて顔を向ける。
彼女の目にいつも通りの表情を浮かべた星が映る。

「またですか? いい加減にして欲しいものです。 大体この書類の山だってすべて貴女の仕事ではありませんか」
「別に良いですよ、毘沙門天に代理としての資格なしと報告すれば。 でも、困るのはどちらですか?」

ほぼ毎日ある宝塔の紛失が彼女に怒りを覚えさせていた。
加えて星の態度に反省の色は無く、浮かべる表情も相手を甘く見ている。

「何がおかしいのですか?」
「だってそうでしょう。 私は代理を解任されても昔に戻るだけですが、貴女は監督不行届きで解任される。
どちらが不利益を被るかは考える余地もありません」

次の言葉に詰まる。 その無言こそが星のいう事が正しいという肯定の証となる。
する前から結果の判る口論に終止符が打たれ、にやけている顔を更に綻ばせた。

「では、後の事は任せました。 宝塔もしっかりと探して下さいね? 今日の場所は自信がありますから」
「ご主人様、書類については私が処理しておきましょう。
ですが、毘沙門天様より承った大切な宝塔は手元に置いて下さい」
「ん〜そうですね〜飽きたらそうします」

笑い声をあげて悠々と去って行く様をただ見送る事しか出来ず山の様に積まれた書類を見て溜息を吐く。
外からは星の楽しそうな話し声と先程自分に向けられた皮肉を含むものとは違う笑い声が聞こえてきた。

「何故私がこの様な事を……」

書類仕事の為に掛けていた眼鏡を外し、疲れ目を労わる様に眉間の下を揉む。
脇に置いていたダウジングロッドを手に取ると、星が失くしたと言った宝塔を探しに部屋を出た。

結果を言えば宝塔はすぐに見つかった。
物を探す事に優れる彼女である。 その為、十分とかからずに探し終えたのだ。

「ご主人様、宝塔を探し終えました」
「ご苦労様」
「あ? また失くし物か? まったく星はそそっかしい奴だな」

暇そうに辺りを歩いていた水蜜が彼女達に気が付き寄って来た。
投げかけられた疑問に星が返答をし、二人して楽しそうな会話がなされる。
水蜜に悪気がない事はナズーリンも重々承知している。
しかし、労い一つの後に蚊帳の外に置く主人の態度が何となく気に入らなく、
またこの場に居続ける事自体が何とも心地悪い。
彼女自身がこの黒い感情の正体を知っており、また水蜜に向けられている敵意さえも理解していた。

「では失礼するよ」

星以外と接する時の他人行儀な言葉遣いが彼女に平静を保たせた。
だが、小心者故に主人がある事無い事を言いふらすのではという心配だけは拭えず、内心は気が気ではない。
部屋に戻った彼女は日々綴っている日誌を書き足す。 勿論、特に記すべき事項無い。
記入したとしても毘沙門天の代理として行った祭事の報告位である。
自力がある星はナズーリンが居らずとも優秀であることは周知の事実だ。

「会った頃のご主人様は何処へ行ったのだろうか……」

ぼやきながらも山と積まれた書類に目を通し必要な報告事項を記入していく。
普段の事は考えず自らの心や思いに押し潰されない様不要な部分は思い出さずにいる。
日誌や自身の報告書に目を通しその日に何が行われたかを思い出す。
時折彼女が目を押さえる仕草をするのは、疲れ目を労わる為だけではないのだろう。

夕飯を食べて部屋に戻り漸く書きものが終わる。
山と積まれた書類は殆どが星のものであり、ナズーリンにかかればどうという量では無い。
だが、これからの事を考えると頭の痛くなる思いは免れなかった。

「そういえば、今まで私はご主人様がどの様に信仰を獲得していたか知らなかったな」

夕日はゆっくりと沈み始め辺りは薄暗くなっている。
その様な時間帯とはいえ思い立ったが吉日と言わんばかりに動き始めた。
勿論、後片付けを行ってからであるが。

教えや信条には厳しい住職の聖白蓮であるが、それ以外の事には疎い事が多い。
信じている者に疑いを持たず、信仰が他と比べてどの程度得ているかも興味は薄い。
寺の歴史についてもそうだ。
弟の事を思い出してしまう為に避けていると捉えられなくもないが、
それにしても余りにも長い間手を付けられていなかった。

埃を吹き払い軽い咳き込みをする。
手にした本を開くと、姉弟が外の世界で寺を建立してから聖が封印されるまでの歴史が書き記してあった。
本編の寺の歴史に載せられない部分は別伝や注釈として紹介されており、目次から目的の寅丸星の項目を探し見始める。
そこで目を疑った。

「何だこれは、これではただの人食い妖怪ではないか……これだけ近くに居たのに何故気付かなかった……」

妖怪として勝手自由に振舞う星がそこには書かれていた。
今と照らし合わせれば優秀などとは言い難く、他の人妖を何ら大した理由も無く殺傷していた。
中には生きたまま喰らうや残酷な方法で処刑等、戒律さえも無視する行いが多数記されている。
彼女は優秀なのではなく利害が一致すれば手を出さず、
機嫌を損なわなければ危害を加えられないという事に気が付いた。
そこに音も無く近づく影が何の躊躇も無く、誰もが近づく筈のない戸に手を掛ける。

「こんばんは、ナズーリン。 今日は月が綺麗ですね?」

集中していたナズーリンは突然話しかけられ肩を思い切り上げて驚愕した。
それよりも、声をかけた人物が自分の嗅ぎまわっている者であった事が余計に拍車をかけている。

「うぁ、こ、こんな所に何の用ですか?」
「いえ、何。 私を嗅ぎまわる子猫ちゃんの気配を感じまして……ああ、すみません子鼠ちゃんでしたね」

見た目だけで混乱している事が明白で
いくら取り繕うとも呂律のまわっていない状態では弁解の余地さえなかった。

「ご主人様も人聞きが悪いですね」
「今更取り繕わなくてもいいですよ? 貴女の気持ちは知っていますし、貴女の役割も知っています」
「どういう事だ?」
「随分前に貴女の日誌と日記、あと毘沙門天からの書状を少しね」

その告白は盗み見をしていた事実であった。
その言葉を聞き彼女の慌てふためいていた頭に冷たい血を送り込まれる。
次いでふつふつと怒りの感情が浮かんできた。
盗み見をされた事や普段の態度が気に食わないのではない。
星が彼女の気持ちを知りながら、その気持ちを利用する様に振舞っていた事が気に食わなかったのだ。

「最近は盗み見が流行なのか?」
「今日も思いは伝えられなかった。 明日こそはと思うも私の性格を思うと……」
「盗み見も普段の態度も不問にしてやる。 明日から気持ちを入れ替えて毘沙門天の代理として相応しい態度で……」
「だったら、私を代理としてあるべき姿に戻せますか?」

瞬間、頭に血が昇る。髪が逆立つとか血が沸騰するとか、
怒髪天を突くという言葉が当てはまる程に。

「寅丸星ぉぉおおお!!! 私は毘沙門天の使いだ! 言う事を聞けぇぇぇええええ!!!」

啖呵を切り、取り出し抜いた刃物は刃渡り七寸半の短刀である。
暗い室内で僅かな光を放つ刃は獲物に飢えている様であった。

「加護のある短刀とでもいうのでしょうか、しかし貴女に私が刺せますか?」
「何を馬鹿な事を言っている。 時間稼ぎのつもりか?」

数歩離れていた星が一瞬にして眼前に迫る。
正中線が揺れず頭の位置さえ僅かしか上下しない独特の動きが距離感を錯覚させた。

「ええ、そうです。 ですがその一瞬で、この通っりっ!」
「がぁ!」

右手親指で母指球を強く掴み握る力を削ぐ、すかさず搦め手で手首を外側に捻じる。
押さえつけられ弱った握力では短刀を保持できず、簡単に奪われてしまった。
次にくる反撃が致命的である事と自由の利かない事にナズーリンの顔が青ざめる。
だが、行われた行動は想像とはまったく違うものであった。

「え? あ?」
「さて、今の状況が理解できますか?」

星は奪った短刀を逆手に持ちナズーリンの手を手の上に添えて自分の腹部に押し当てていた。
解り易く言えば切腹をする姿勢に近い。

「言い放った言葉は万金を積んでも取り返せないと言います。
再び聞きますが、貴女は今の身分を捨ててまで私を刺せますか?」
「……ご主人様、私は貴女を刺せない……二人で逃げよう、毘沙門天様も皆も居ない所で静かに暮らそう」
「勇気を振り絞って漸く言えましたね」

久々に聞いた優しい声に溜まっていたものが溢れている。
答えが是でも非でも彼女に後悔はなかった。
短刀を支えている手に力は無く震えている。

「嫌です」

無情の一言が放たれると同時に短刀は星の腹部に吸い込まれていった。
考えていた想像の斜め上をいく行動に止める事は愚か力を込める事さえ出来ない。
息が吐き出される様な呻き声が絞り出されると、星はゆっくりとその場に膝を付く。
刺された腹部から血が短刀を伝い地面に滴をこぼしていった。

腹に刺さった短刀に手を添え痛そうに蹲る星の姿を見て、ナズーリンの顔は青ざめその場に立ち尽くす。
膝は震え奥歯をガチガチと鳴らして、気を保たねば失禁や気絶をしかねない程である。

その場に騒がしい足音が段々と近づいてくる。
入り口に向かって立っていたナズーリンは真っ先に入って来た人物と目が合ってしまう。

「ナズーリン、一体これは……星!」

入って来た聖は足元に蹲っている星と小さな血溜りに気が付き息をのみながらも応急処置を始めた。
聖の様子から入って来た者々はナズーリンに向ける視線を硬化させる。
それぞれがそれぞれの態度で声をかけながら、詰め寄って行った。
言葉に詰まりながら、”違うこれは違う”と呟くもそれ以上の弁解をする事も出来ず、
また”星が自分で刺した”と言った所で信じて貰える筈もないと悟った彼女は
歯を噛みしめ目を瞑り相手の温情に縋るしかなかった。

「待って……違うんです……」

苦痛に呻き聖に応急処置をされていた星から小さな声が上がる。
皆が皆、彼女に目を向ける。 水蜜は目を潤ませながら駆け寄った。
唾を飲み込み息を整えると、ここで何があったかを話し始めた。

「私が代理として至らぬばかりに思いつめてしまって、
ナズーリンはそんな私を見つけるなり怒号を上げて止めようとしてくれました」

再び息を切らす星。 ほんの少しの言葉であったが、それだけでナズーリンの疑いは晴れる事となった。
そこに至りナズーリンは自分の信頼が星に及ばない事と退路が断たれていた事に気が付き、
自分が星に良い様に使われる想像しか出来なくなっていた。

星が呼んでいると聖から告げられる。
小さくしか話せない為にナズーリンは近くに歩み寄り、顔を近づけた。
ナズーリンの身体に隠され、皆から星の顔は見えない状態である。
目を見開き、新しい玩具を手に入れた幼児の如く喜びの表情を浮かべ、彼女は小さく言った。

「これからもよろしくね、ナズーリン」
「はい……ご主人様」

これからどの様な無理難題を押し付けられるか気が気ではないが、
全ての選択肢を封じられた彼女は一言返事を返す事で精一杯であった。
生ぬるい屑に利用される部下の話を目指しました。

多くの方に見て頂きこの場を借りて感謝します。
コメント返信です。

>1様 半端で良いんです。道具をワザと壊す人って少ないですから。

>NutsIn先任曹長様 星にとっては一方的に利用して壊れたら捨てる関係のつもりです。

>3様 たまには良いですよね。

>4様 ナズナズ

>穀潰し様 つ[鉄パイプ]

>pnp様 何故か寅ちゃんは性格改悪が少ないんですよね。

>汁馬様 貴方様も中々に良い(鬼畜な)趣味をしていらっしゃいますね。

>機玉様 星に出会った事が彼女の最大の幸せであり不幸でもあります。

>10様 なんでや、寅ちゃん優秀やろ。神主様もそう言ってたで。

>あぶぶ様 手直し前はもっと酷かったなんて言えない。

>紅魚群様 おめでとう、ナズーリンの二つ名に"星の道具"が追加されました。

>ちゃま様 ダウザーの小さな大将 卑近なダウザー →NEW星の道具

>んh様 おほ、ありがとうございます。

>矩類崎様 盛った星にオナホとしてスパンキングされています。宜しければ見に行っては如何でしょう。

>山蜥蜴様 彼女の根性は如何に自分が楽するかに極ふりされています。

>町田一軒家+様 星「ナズーリン貴女は幸せですか?」 ナズ「はい、幸福は道具の義務です」

>18様 申し訳ありません。 しかし、最後まで見てコメントまで残して頂きありがとうございます。

>19様 気狂いは褒め言葉です。
まいん
作品情報
作品集:
6
投稿日時:
2013/02/24 15:07:50
更新日時:
2013/12/20 23:22:05
評価:
18/19
POINT:
1410
Rate:
14.35
分類
産廃10KB
ナズーリン
命蓮寺
屑に利用される部下の話
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0. 30点 匿名評価
1. 70 名無し ■2013/02/25 00:13:56
半端はいけませんね、どちらにせよ
2. 70 NutsIn先任曹長 ■2013/02/25 00:40:09
これは典型的なダメカップルの好例ですね。
これも愛の形かもしれないけど、二人とも報われないし、何ら得る物のない、失うばかりの関係。
3. 70 名無し ■2013/02/25 00:40:22
ぬるいは良い
4. 80 名無し ■2013/02/25 01:06:52
ナズナズ
「最近は盗み見が流行なのか?」
「今日も思いは伝えられなかった。 明日こそはと思うも私の性格を思うと……」
「盗み見も普段の態度も不問にしてやる。 明日から気持ちを入れ替えて毘沙門天の代理として相応しい態度で……」
「だったら、私を代理としてあるべき姿に戻せますか?」

瞬間、頭に血が昇る。髪が逆立つとか血が沸騰するとか、
怒髪天を突くという言葉が当てはまる程に。
5. 90 穀潰し ■2013/02/25 10:30:09
しばし苦笑した後、『ぶん殴りたい』と思ったのは久方ぶりです。
はらわたが煮えくり返るというより、もはや淡々と鉄パイプとかでガンガンしたい。
6. 60 pnp ■2013/02/25 12:53:48
何だか新鮮な星ちゃんだわ。
8. 100 汁馬 ■2013/02/27 00:29:49
この星ナズは自分の理想系の一つかもしれない
9. 70 機玉 ■2013/02/27 15:34:33
とても新鮮な星でした、惚れた弱みって怖いですね。
ナズーリンこんな悪い女に引っかかっちゃって……
10. 60 名無し ■2013/02/28 11:55:29
星ちゃんバカそうなのにこんな事だけは得意なんだなぁ(感心)
11. 60 あぶぶ ■2013/03/01 19:50:56
ナズーリンがいきなり刃物取り出したとこが唐突だった気がする。
10KB制限の悪いとこが出てしまったかも?
12. 80 紅魚群 ■2013/03/04 00:55:01
斬新な星ナズ。
ラストでなんか安心してしまったけどよくよく考えたら全然安心できるような感じではなかった…
13. 70 ちゃま ■2013/03/04 17:03:57
こういうタイプの寅丸さんはちょっぴり斬新。ナズが不幸でないのが救い…なのかな
14. 90 んh ■2013/03/04 19:23:28
好みな感じのクズさでした
15. 70 矩類崎 ■2013/03/04 20:44:47
ちょっと考えてしまいましたが、これは全面的にナズが悪い。真面目なくせにあそこはだらしない駄目な鼠です。ぼくもう怒りました。ちゃんと尻を叩かれるべきです。
16. 80 山蜥蜴 ■2013/03/06 05:18:52
うむむ、これは素晴らしいクズキャラだ。ずる賢いというか、くず賢いというか。
というか星ちゃん、そんな自分を刺す根性あるなら仕事しろよ!
ナズーリンにも、自分を刺すくらいの根性があれば、改善するでしょうか。例えば陰腹切って聖に直訴するような根性があれば。
17. 90 町田一軒家+ ■2013/03/06 14:25:05
頭の切れるクズは恐ろしい。
救いがあるようで救いのないラストも好みでした。
18. 70 名無し ■2013/03/10 07:59:56
文が読みにくいです……
>>そこに音も無く近づく影が何の躊躇も無く、誰もが近づく筈のない戸に手を掛ける。
こことか特に
しかし今までに見たことない星は新鮮でした。
19. 100 名無し ■2013/12/18 00:17:14
madまいん
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