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『産廃10KB「現人神銀行現界支店」』 作者: スレイプニルアナザーフォルム

産廃10KB「現人神銀行現界支店」

作品集: 6 投稿日時: 2013/02/25 01:49:55 更新日時: 2013/02/25 14:57:07 評価: 15/15 POINT: 1120 Rate: 14.31
早苗は悩んでいた。

なんのこともない学生生活を送っていた早苗は、目の前にある。一つのソレを見て、どうするかと思案し続けていた。

これは、何かの錯覚か?幻覚か?詐欺か?色々と考えたが、何も起こりはしない。手にとって見る。その紙切れを少しだけ分厚くしてみた紙束を、そして中身を確認する。

確かに、ソレには、文字の最初の最初にはっきりと、明確な黒色の文字で視覚に叩き込まれる。これはもう、動じるとかそういう問題ではなく、理解するべきなのだ。この、目の前のモノを、この『預金通帳』を・・・


そして、その最初の列に書かれている『100000000円』という馬鹿げた数字に―――





その預金通帳は他のどの通帳よりも暗闇のように真っ黒であった。














これの存在に気づいたのは今日だ。普通に学校から帰ってきて、自宅のテーブルに置かれていたというだけだ。初めは詐欺か或るいはドッキリの類かと思っていたが、早苗は実家暮らしなどではなく、どこにでもあるようなマンションの一室の住人である。鍵も掛かっていたし、こんな所に誰も来るはずがない。
だが、一億、この馬鹿げた数字は誰もが疑うであろう。そう、こんな大金をなんの苦労もなく見せつけられて、自分の物ではないとはっきりと誰もが言えるだろうし、早苗もその一人であった。

だが、この預金通帳、本当に正規の通帳であるのか?こんな真っ黒な通帳など見たこともない。試しにと、早苗はこの通帳が使えるかだけ、と近所の銀行で確認をしにいった。





自動ドアが静かに閉まる音と共に早苗は自分の体が熱くなっていくのを感じた。その左手には黒色の通帳・・・そして、右手には一般人が1日に引き出せる上限額一杯が握られていた。
結論から言えば、預金通帳は使用可能であった。しかも、この通帳に限って言えば、普通の預金通帳であるはずの上限額が存在しなかった。だが、早苗は50万円だけと、好奇心かそれとも欲望か、どちらとも取れない心境で引き出したのだ。

50万円という学生の身分である早苗にとって夢のような大金に、あまり暑くないこの時期でも早苗の体が真夏のように火照ってしまう。引き出してしまったら、もう遅い。その握られた大金は、何処かへと流れてしまうのが金の流れというものだ。

当然早苗も、その50万円をあらゆる物品へと変えていく。恐る恐るであるが、その50万円はゆっくりと加速するように1日で使われた。これが男性であれば、50万円という大金は滅多な事では消えないのだろうが、早苗は青春真っ盛りの女子である。高くて手を出せなかった雲の上の存在のような高級品のバッグ、化粧品などにちょっと手を出せば、50万円などはあっという間である。

そうして、早苗は大量の高級な荷物を家に持ち帰り、それを置いて悦に浸ると、通帳の残高を確認した。しっかりと50万円分引かれた残高はまだ余りあるぐらいに残っている。早苗は初めに感じた罪悪感や猜疑心などはどこへやら、もう早苗の脳内は自分の今欲しいものを考えだすのに必死であった。





そうして、早苗は湯水の如く毎日毎日大金を使うようになった。100万円なんて普通な方で、羽振りの良くなった早苗に周囲の女子達は次第に早苗につくようになっていった。金の力で優越感を得た早苗は調子に乗り、じゃぶじゃぶと音が聞こえるような速度で金を消費していく。奢り、買い、使い。金という武器を巧みに使い。早苗はまるで自分が王様になったかのような気分を味わっていた。























30日が過ぎた。


どちらかと言えば貧相な部屋であった早苗の部屋は今はその見る影もなく綺麗に彩られ、入りきれないようにバッグや化粧品や服や宝石が所狭しと並んでいた。だが、早苗はその光景を見てため息をつく。

机に開かれたように置かれている通帳をちらりと見る。数字というものが正直だ。確実に刻まれた文字の羅列の最後の履歴の残高はもう一ヶ月程度の短い期間で一億という大金は500万という数字まで落ち込んでいた。これは使いすぎであると自分を悔いたが、もう残りの500万という額は金銭感覚の狂った早苗にとって端金のように感じでしまってるほどに侵食していた。

取り敢えず、通帳に残っている一千万を手持ちに置いておきたい早苗は、ATMなどではなく、一気に下ろすことが出来る銀行へと向かった。

銀行の受付で一応下ろせる事が可能であることを確認した早苗は全額引き落とす事を受付に伝えると、受付は若干引きつった笑顔と共に上司を呼んだ。上司と思われる男がへらへらと笑みを浮かべ奥の部屋へと促されるままに通される。

意外にも普通に一千万は手渡された。用心の為、一千万が誰にも分からないように大きいバッグにソレは詰められ、笑顔の職員に見送られ早苗は街の中へと消えていった。







路地の中、辺りはすっかり静寂に包まれた暗闇。早苗は家へと徒歩で帰っていた。時間もたっぷりある事だし、しかも普通に治安も悪くない街で窃盗など起きるはずもない。そういう慢心にも取れる考えで早苗は家まですぐという近道の裏路地を一人歩いていた。


「本当にそれでいいのかい?」

びっくりして早苗は振り向いたが、そこには誰もいない。声だけが脳に響くように届く。

「そのお金は、いや"一億円"は何の、何を意味するかわかっているのかい?」

優しい少年か少女のような声が残響する。だが、否定することも出来なければ、投げかける言葉すらない。早苗は無視して家へと戻っていった。


「あーあ」

その声だけが裏路地に木霊し、次第に消えていった。





寝て起きて、残金を確認する。そういえば数日程学校にも行っていない。金を隠し、数十万という一般人にとっては大金で、早苗にとっては端金に見える数十枚の紙切れを財布に入れて、久しぶりに登校する。

久しぶりに学校に行き、色々と心配されたが、彼等や彼女達は早苗本人ではなく、早苗が持ち得る金に目がいっているのが早苗にはありありと分かった。それを知っていながら早苗はいつもの様に対応し、いつもの様に学校生活を終えていく。

家に帰れば残りの数百万と、豪華な食事と、豪華な部屋が待っている。金が目減りしたが、まだ使えないレベルの金額ではない。計画的に使えばこの先ずっと良い暮らしを続けていけるのだ。

そう考えていると、玄関のドアから、何やら叩く音が聞こえた。こんな夜更けに来客かと、面倒くさそうに早苗は、確認として覗き見穴から来客者を確認す―――




雷鳴かと思えるような轟音が耳奥をつんざいた。小さな悲鳴を上げて早苗は大きく仰け反ると、力が抜けた体で玄関から遠ざかりはじめた。ドアを叩く音が止まらない。恐怖で震えながら、早苗は部屋の奥まで走って逃げた。部屋の片隅で震えながら隠れていると10分程でその音はぱったりと止んだ。脅威は去ったと思うと、早苗はほっと胸を撫で下ろした。しかし何だったんだろうと、脅威について思考する早苗、真っ先に考えついたのは、早苗が持っている数百万円という大金と、部屋の中にある相当価値のある物品各種を狙った強盗なのだろう。だが、中に入ってこないという事は強盗目的ではないのだろうか?ならば次に考えられるのはストーカーの類である。早苗は比較的というよりもモデル並みに美人で学校では性格が良い方で通っている。その上、湯水のように無くならない金を持っているとくれば、狂気的に惚れる男が出てこない方がおかしい。ストーカーのセンで考えた早苗はその日が上ったと同じぐらいに、警察にストーカー被害の報告をしたが、そのマンションに備え付けられている監視カメラには何も映っていないことを聞かされ、背筋が寒くなった。

監視カメラの確認を終え、早苗は自分の身を守る為に、色々なモノを買った。護身用のスプレー、防刃チョッキ、監視カメラ、そして、護身用としては物騒すぎるボウガンも買った。わりとそれらは値が張る為、百万程度かかり、それらを家に持ち運ぶと、次に学校へと親族の死の為にという嘘を付き、長期の休みの連絡を入れた。

そして近所の大型スーパーで大量の保存食品や日持ちするものを買い込み、その兵糧かと思う程の量を車で運んでもらい。その全てを部屋へと運んだ。

これならば家の中から出る事はない。そして諸経費を込みで手元に残った金は300万程度しかない。

それでも早苗が感じた背筋の寒さと、怪異的な現象は早苗を部屋から一歩も出さないという選択をさせてしまった。

数日が経過し

早苗は部屋の中で保存食を齧りながら、ずっと篭っていた。それもそのはず、あの日の夜、それも深夜、ほぼ0時になった途端に、太鼓の乱打のようなドア叩きが始まるのだ。しかもそれはすぐにぱったりと止み、その静寂が早苗を不安にさせた。だが、それは夜だけで、朝に外に出てみると何もない。付近の住民に聞いても、その時間帯に音など聞いていないというのだ。

怪異、意味不明、解析不能

早苗は残りの金を乱暴に掴みバックの中へと押し込みはじめた。一億という金を持ち、それを自由気まま節制という歯止め無しに今まで使っていた早苗に金を使わないという選択肢が無くなったのは過剰なストレスを与えていた。世にも珍しくある意味でうらやましい部類の中毒症状である。何を思ったか早苗は立ち上がり、部屋を飛び出した。

数日の極度のストレスで顔はやつれ、目の死んだ早苗の体は、行った事もない。宝石店へと向かっていた。その宝石店は高い宝石しか扱っていなく、もっと金を持っていた頃にも足を運ぶ事を躊躇ったぐらいなのだ。しかし、何故か錯乱した早苗の思考は溜まりに溜まったストレスを一発で解消する為、その店のドアを開けたのだ。

にこやかな店員の前で、ある宝石を指差す。その宝石の指輪の付近には丁度早苗が現在持ち得る金額と同額の値札書いてあった。

それを購入したいと申し出ると、店員の笑顔は一層にこやかになった。

店を出て、その宝石を指に嵌め、今までのストレスが全てその指輪が吸い取ったかのように、早苗は満足した表情を浮かべ、少しウキウキしたような足取りで、部屋へと戻っていった。





















0000

毎度毎度同じ様に鳴るはずだったドアの音は今日は鳴らない。もう去ってしまったのかと、安心した早苗は、睡眠不足の目を閉じようとする。

その耳に間抜けな音でそれがインターホンと気づくまで少しかかった早苗は、急な来客だと、立ち上がり、キーロックを解除する。多分長期休みと取ってしまった学校の事で先生の誰かが連絡が取れない早苗を心配してマンションまで来たのだろうと、こんな遅くなのに思考がブレている早苗の頭はそう安心で毒されていた。

「今夜はいただきますよ、早苗さん。それから、お命もね。」

逃げた、早苗は奥の部屋へと走って逃げた。

逃げた先にあるのは購入していたボウガンだ。矢は装填してあり、5発続けて撃つ事が可能だ。玄関までの通路は然程ではないが射撃には適するだけの距離はあり、この間であれば、一撃必中である。侵入者の足音が玄関から廊下を踏み締める音が聞こえた瞬間、早苗は引き金を思いっきり引いた。

飛び出した矢は殺意の塊となり、暗闇を引き裂いた。そしてその矢は暗闇を通り抜けていった。

早苗は驚愕した。矢が刺さった音は確かに聞こえなかったのだ。震える両手で、その玄関の方面を狙いながら歩いて行く・・・





「誰かが言った。」

「一億円とは・・・」



早苗の思いもしない方向から横薙ぎに何かが風を切った。

それが切れ味が良い刃物か何かと首筋が反応した頃には、早苗の首は宙高く飛んでいってゴトリと落ちて生命の終わりを告げた。




「人の忠告は聞いておくものだにゃーん・・・って最後はちゃんとシメないとね。にゃははは」


「まぁ誰かが言ったさね。一億円とは―――」

言い切らない内にその影は早苗の死体を何処かへと運んでいって消えてしまった。













東風谷早苗という女性が変死体で見つかったというニュースは小さく報じられた。
貴方は一億円あったらどうしますか?

僕は親孝行します(後光
スレイプニルアナザーフォルム
https://twitter.com/_Sleipnir
作品情報
作品集:
6
投稿日時:
2013/02/25 01:49:55
更新日時:
2013/02/25 14:57:07
評価:
15/15
POINT:
1120
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14.31
分類
産廃10KB
東風谷早苗
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1. 40 名無し ■2013/02/25 21:37:07
街道筋の強盗か
2. 80 NutsIn先任曹長 ■2013/02/26 01:47:46
『それ』をあっという間に消費しちゃったんだね。
せっかく『金銭』という目に見える形になり、さらに残り僅かになると『アラーム』まで鳴るという奇跡が起きたのに。
まあ、『それ』をどう使おうと、その持ち主の自由だけどさ。
3. 70 名無し ■2013/02/27 01:27:12
人の一生とは儚いですな。
4. 100 汁馬 ■2013/02/27 02:09:39
でも「それ」を贅沢に使えた早苗ちゃんを凄い羨ましく思う
5. 80 機玉 ■2013/02/28 00:07:27
結局一億円入った真っ黒な通帳は何だったのだろうか?
金銭感覚の狂ってしまった早苗の様子は面白かったのですが、通帳の謎が分からず終いだったのが少し残念でした。
6. 100 まいん ■2013/03/01 00:11:32
好きに現金を使い、幸せなまま逝けたらどんなに良かったか。
終始ビクビクして読んでました。
軽い恐怖を感じつつも面白かったです。
7. 80 あぶぶ ■2013/03/01 20:17:02
これはもう豪華客船に乗るしかありませんね。
一億円ポンとくれたお隣は聖人か・・・或いは頭がおかしいのかww
8. 70 pnp ■2013/03/03 07:44:30
一億円は……早苗の生涯賃金か何かだったのろうか?
9. 60 ちゃま ■2013/03/04 17:13:54
命とお金は大切に。なぜ一億渡したのかが分からなかったのがちょっぴりあれでした。
10. 70 んh ■2013/03/04 19:53:23
命の値段ネタだと普通小町の仕事なんだけど、幻想郷の死神は金やらないでふんだくってくからな
なるほどお燐かと思って読みました
11. 70 町田一軒家+ ■2013/03/06 16:51:11
通帳の謎はわかりませんでしたが、金に溺れて壊れていく早苗が読んでいて背筋がゾクリとしました。
12. 70 矩類崎 ■2013/03/08 22:03:35
命が換金できたら便利ですね。カードのように後で払わなくていいし。
そういやお燐は死体持ってったのに何処かに捨てたんでしょうか?
13. 70 山蜥蜴 ■2013/03/09 00:08:55
早苗さん……奇跡は起こせなかったのか。それとも、一億も自由に使う対価が死で済むのが既に奇跡なのか。
面白かったのですが、どこから一億が出てきたのかが今一つ分りませんでした。
一億が何の値段かは何と無くは察せられるものの、一億の出所というかなんというか。一億あればもっと安い命買い占められそうだなぁとか。

一億あれば、毎年グアム、ハワイ、ラスベガスあたりに銃撃ちに行きますねぇ
14. 90 紅魚群 ■2013/03/09 20:05:27
勢いのままあっという間に読めてしまいました。緊張感のある文章すごい。
でも早苗さんの早苗さんっぷりは見ていて気持ちいいですね。オチがおしいところ。
15. 70 名無し ■2013/03/10 12:18:55
一億とはいったいなんだったのだろう
それはわかりませんが早苗の不安が伝わってきたので。

しかし、形のないものを金なんていう現実的なもので数字化されるというのは実に嫌な気持ちになりますね
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