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『産廃10KB「霊夢の飼育」』 作者: 汰汲

産廃10KB「霊夢の飼育」

作品集: 6 投稿日時: 2013/03/02 14:07:35 更新日時: 2013/03/02 23:07:35 評価: 15/16 POINT: 1130 Rate: 13.59
紫は私のことをどう思っているんだろう?

「霊夢のお茶はいつ飲んでもおいしいわ〜」

霊夢は正面でこたつに入り、のんびりお茶を飲む紫を見ながら、ふとそんなことを思った。
霊夢はもうもうと湯気を上げるお茶を少しずつすすりながら、紫にさりげなく提案してみた。

「ウチに来るばっかりじゃなくて、たまにはあんたのトコに招待してくれてもいいんじゃないの?紫」

紫の夢見心地だった目が急にきらっと光り、口もとが笑いの形をつくる。

「あら、霊夢ってば、私の私生活に興味を……?」
「ちっ、違うわよ!あんたの方から押しかけてばっかで、私がお茶出し続けるのも不公平だって思っただけ!」

紫は軽く微笑んだだけで、特に突っ込んではこなかった。
霊夢にとって、紫はすべてが魅力的だった。おどけた態度、大人びた顔、底知れない強さ、霊夢への優しさ。嫌味もなく、それらが誰よりも上だった。
しかしそれゆえに、霊夢は紫とのある種の距離感を感じていた。それによって生まれた物悲しさは積み重なり、日に日に霊夢の口数や心からの笑いを少なくしていった。紫が頻繁に来るようになったのは、そんな霊夢の変化を感じ取ってのことだった。

今日は、紫が神社に泊まっていくことになった。紫は霊夢が心配だから、と言っていた。すぐそばの紫の横顔を見ながらまどろむ頭で、明日紫が私のものになっていたらいいなと思い、霊夢は眠りについた。



朝、霊夢が目をさますと紫はすでにいなかった。
開いた障子の隙間から吹き込む風が冷たい。霊夢は開けっ放しにされていた障子を閉めた。紫が閉め忘れて行ったのだろう。霊夢は空っぽの布団を見てため息混じりに呟いた。

「あいつを私がつかまえておくなんて、無理なのかしらね」

着替えをすませ、霊夢はどこへともなく遊びに出かけた。


日が沈み始めた頃、神社に帰ってきた霊夢は賽銭箱の陰でこそこそ動く影を見つけた。

(野良猫?にしては小さいわね)

かまわずずかずかと階段を上ると、隠れていたそいつがひょこっと顔を出す。霊夢はそいつを見て足が固まった。唖然とする霊夢に向かって、安心した顔を浮かべそいつがとことこ駆けてくる。

「霊夢〜!!」

目に涙を浮かべたそいつ――手のひらサイズの紫が自分の元へ走ってきて、足首にしがみつく。

「ゆ、紫!?あんた……なんで小さくなってんのよ!?」

霊夢はわけがわからず、つぶしてしまわないようそうっとかがんで小さな紫を手で包んだ。足首を抱きこんだ手をそっとはがして、両手で目の前に持ち上げた。ミニ紫はしゃくりあげながらも安堵した表情で、言った。

「よ、良かった……霊夢…あ、あなたは、私に酷いこと、しないよね?れ、霊夢なら、私のこと守って、くれるよね?」
「落ち着いてよ…!なにがあったの?どうしてこんな大きさになっちゃってんのよ?」

やや冷えた霊夢の両手に、ミニ紫の震えと温かさが伝わってくる。霊夢は小鳥でも抱いているような心持ちだった。湯飲みを持つようにミニ紫を抱えていると、紫は次第に落ち着いて、事の顛末を話してくれた。

今朝、霊夢より先に目が覚めた紫は自分の体が手のひらサイズになっていることに気づき、霊夢を起こそうとしたのだが、霊夢にいたずらしようと忍び込んできた妖精たちに見つかってしまった。妖精たちはミニ紫を見つけて連れ去り、原っぱで今日はこのミニ紫で遊ぼう、と決めた。みんな新しい玩具を手に入れられて嬉しそうだった。

それからのアソビは紫にとっては悪夢だった。
人形扱いでボールの代わりに放り投げられ、お医者さんごっこでとがった木の枝の注射をされ、薬草と称して雑草や蟻を食べさせられ、猫との追いかけっこで危うく食べられそうになった。やめさせようとしたが、聞く耳を持ってくれず、いいように遊ばれるがまま時間が過ぎた。終いには、どのくらいの力で引っぱったら手足をちぎれるのか?という実験をされそうになり、隙をついて必死に走って神社まで逃げてきたという。そして霊夢の帰りを心細く待っていたそうなのだ。

「あんたの力なら妖精なんて軽く振り払えるのに…スキマだって逃げるには……まさか…」

ミニ紫はつらそうに頷いた。

「私ね……この体になってから、能力が使えないの。妖気もほとんど無いみたい」

ミニ紫の声からその悲しみが伝わる。妖怪としての強さを一夜にして奪われた紫の心中は、どうなってしまっているのだろう?霊夢はともかく話の方向を変えることにした。

「これって異変なのかしら?」
「異変でしょうね。たぶん。だけど霊夢、私が元に戻れるまで…」

かがんだ霊夢のひざの上に両手をついて座り、ミニ紫は不安げに霊夢を見上げた。霊夢はそんなミニ紫を元気づけるように笑うと、強く言った。

「大丈夫よ。元に戻るまでちゃんと他の奴らから守ってあげるから、紫」

ミニ紫が儚げに笑い返す。霊夢はそんなミニ紫に、強い愛おしさを感じていた。


ミニ紫は妖精たちに弄ばれて服も体もボロボロだったので、深皿のお風呂に入れてあげた。
ミニ紫が深皿のお風呂で傷と汚れを洗い、霊夢は半ば無理やりにその体をふいてあげた。ミニ紫が嫌がることをすると、霊夢は胸に不思議なすがすがしさを感じられるのだった。
ちょうどミニ紫が服を着終わったところで、神社の境内がぱたぱたという足音で騒がしくなった。霊夢が外の様子を見ようと障子に手をかけるよりも早く、障子が開けられた。息を切らしたチルノたちが立っていて、尋ねてきた。

「霊夢!ここに紫の服の人形来なかった?」
「さあ。見てないわね」
「いたら教えてねー!」

チルノ他妖精たちは、そろそろ夜になるというのに元気に駆けていった。霊夢が障子を閉めて振り返ると、こたつの上の手袋が異様に膨らんでいる。中を覗くと、ミニ紫が猫のようにうずくまって頭を抱えていた。今日だけでずいぶん怖がりになったようだ。

「あいつら行っちゃったわよ。大げさね」

手袋がもぞもぞ動き、ミニ紫が這い出してくる。ちょっと顔色が良くなかったので、霊夢はミニ紫を胸に抱えて頭を指先で撫でてあげた。ミニ紫は手の中で嬉しそうに身をよじり、幸せそうな顔を見せてくれた。霊夢はいじめてばかりだと嫌われてしまうので、たまに優しくしてあげることにしていた。
撫でつづけているうちに、ミニ紫は眠ってしまった。霊夢は枕元にタオルの布団をこしらえ、ミニ紫をそこに寝かせた。と、神社の扉を珍しくノックする音が聞こえてきた。たいていの客は勝手に上がりこんでくるのに、礼儀正しい誰かが来ている。

「はーい、誰ー?」

扉を開けると、真剣な顔をした少女――橙がいた。

「遅くにすいません。霊夢、紫さまが、ここに来てない?」
「ううん。昨日から来てないけど?」

しれっと嘘をつく霊夢。ミニ紫が霊夢の手の内にある以上、他のことなどどうでもよかったのだ。橙が残念そうに頭を振る。

「そっか。ありがとうございました」
「紫を探してるの?なんかあったのかしら」

一応情報収集のつもりで霊夢は尋ねてみた。橙は弱々しく答える。

「今日は紫さまの誕生日だから、お祝いしようって約束してたんだけど、いつになっても帰ってこなくて……もし紫さまに会ったら、藍さまがごちそうつくって待ってるって言ってくれない?」
「いいわよ。あんたも大変ねぇ」

橙が去り、神社に静寂が訪れる。霊夢はかわいらしい寝顔ですやすや眠るミニ紫に微笑んで、囁いた。

「好きよ、紫。誰にも渡さないからね」



次の朝、霊夢とミニ紫は同じ食卓で朝ごはんを食べていた。霊夢はパンを指先くらいに小さくちぎってミニ紫に渡す。ミニ紫はそれを、リスのように両手で持ってほおばっていた。ほっぺたが膨らむほど詰め込んでいる。

「紫、お茶ほしい?」

訊くと、ミニ紫はこくんと頷く。霊夢は冷ましたお茶をスプーンですくい、ミニ紫の口元へ持っていく。彼女はそれでパンを飲み込み、一息ついてこたつ上の霊夢の拳にもたれかかった。

「ふー。ごちそうさま、霊夢」
「お粗末様」

静かだった。ちょっとおかしくても、霊夢には平和で心地よい空間に感じられた。誰にも邪魔されない、紫と二人きりの生活。悪くない、いやずっと続いてほしい、と思った矢先に境内を走る音が聞こえ、橙が走り幅跳びよろしく障子をぶち破って飛び込んできた。一回転して霊夢の正面で膝立ちになる。その目は激しさをたたえていた。ミニ紫が驚いて、しかし嬉しそうに叫ぶ。

「橙!!」
「紫さま、探しましたよ……ちっちゃ!……霊夢、昨日嘘ついたでしょ。チルノに訊いたら『昨日の朝は神社にいた』って教えてくれたんだからね」

霊夢はあわててミニ紫を抱えると、こたつから出て立ち上がる。ろくに言葉を交わしていなくても、互いの目的は紫なのだと分かっていた。橙がこたつの向こうからミニ紫に手を差し伸べる。

「紫さま、帰りましょう。すっかり冷めちゃったけど、ごちそうと藍さまと私が待ってますよ」

それを聞いて霊夢がミニ紫を強く抱きしめる。ミニ紫の「ぐるぢい」という声も霊夢は無視した。

「もうあんたなんかに紫は渡さないわ。紫がこうなったことを知ってんのはあんたと妖精たちだけ。私がしらばっくれたら誰も信じちゃくれないわよ?」

橙と霊夢が互いに睨み合う。紫を想う気持ちは五分。そこで橙は勝負に出た。

「紫さまは、どうしたいんですか?」

霊夢は両手で掴んだミニ紫を見下ろした。橙が強い眼差しでミニ紫の目を見つめる。ミニ紫は一度目を閉じて、落ち着いた声で言った。それは霊夢に語りかけているような調子だった。

「私、霊夢のこと、好きよ。感謝もしてる。だけど今は、私の家に帰りたいわ。分かってくれる?」

それを聞いて、霊夢の口元が引きつった。ここでミニ紫を帰してしまったら、もう二度と会えなくなる――そんな恐ろしい予感がしたのだ。

「ほら。紫さまを、返してよ」
「いやよ。こうなったのは私の責任。ちっちゃい紫の面倒見たいの」
「あんたなんかに紫さまを任せられないの!」
「帰らないと首引きちぎるわよ?」

霊夢はどすのきいた声色で言い、左手でミニ紫の体を、右手で頭を持った。軽く両側へ引くと、ミニ紫の口から小さな悲鳴が漏れる。橙があっと叫ぶ。

「3秒で消えなさい。3――」

橙は一瞬でその場から消えた。霊夢は力を緩めると、気難しい顔でミニ紫を座布団に立たせる。ミニ紫は首をさすりながら、悲しそうな顔で巨人のような霊夢を見上げた。

「酷いじゃない、霊夢」
「仕方ないじゃない」

霊夢の声は震えていた。ミニ紫は決心したように、霊夢に言った。

「橙と帰るわ。好きでいてくれてありがと。また来るからね、霊夢」

そう言い残し、ミニ紫は霊夢に背を向けて歩き出す。ミニ紫のその声で、二人の間に亀裂が生じたことを、霊夢は悟った。
だから……霊夢はミニ紫を思い切り蹴っ飛ばした。奪われて失うくらいなら壊してやる、という突発的な衝動だった。

「は……紫!!」

ミニ紫の体が地に着くより前に霊夢は後悔したが、時すでに遅し。霊夢が駆け寄ると、ミニ紫はおなかが半分裂けて死んでいた。手の施しようがなかった。

「ああぁ…あぁ……あ〜〜〜っ!!」

霊夢はミニ紫の体を抱いて、いつまでたっても泣き続けた。夜になってから神社の裏に人知れず埋葬し、部屋に戻ってからもまた涙が頬を伝った。

霊夢が去った後、橙が茂みから出て紫の死体を掘り返し、死んだ紫を夜明けまでじっと見つめていた。



朝。霊夢は肌寒さで目を覚まし、泣き疲れて畳の上で眠ってしまったことを思い出す。そして起きてすぐに、異変に気づいた。
霊夢は畳ではなく、砂利の上で寝ていたのだ。しかも、障子を開けた向こうに見える景色がまるで違う。それも――異様に大きく見える。

霊夢の頭上から、朗らかな声がした。

「霊夢。はい、朝ごはん」

そして、ネズミの死骸が降ってきた。霊夢は短く悲鳴を上げて飛びのいた。

「ひっ…!な、なによこれ!?」

霊夢は頭上を見上げ、ぞっとして尻餅をつく。巨人のように大きな橙が、正気を失った目で霊夢を見ていた。霊夢がいるのは、金魚鉢の中だったのだ。

「霊夢の言ってたとおりだ…ちっちゃい子ってかわいいね」

そして橙は、かつて霊夢がミニ紫に見せたのと同じ笑顔をミニ霊夢に見せた。
霊夢「今日のこれは何の肉…?」
橙「紫さまだよ」
汰汲
作品情報
作品集:
6
投稿日時:
2013/03/02 14:07:35
更新日時:
2013/03/02 23:07:35
評価:
15/16
POINT:
1130
Rate:
13.59
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産廃10KB
霊夢
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0. 30点 匿名評価
1. 70 NutsIn先任曹長 ■2013/03/02 23:36:10
彼女は、愛しい人を、ああなった時点で、否、恋した時点で、『物』として見ていたんだね。
2. 80 狂った式 ■2013/03/03 09:12:02
「藍様」
「なんだ橙」
「霊夢飼っても良い?」
「この間橙の為に紫様小さくしてあげただろ」
「紫様死んじゃった」
「大切に育てる約束しただろ」
「違うの霊夢に殺されたの」
「そうか、ようし霊夢を小さくしてあげよう」
「ありがとう」
「今度は大切に育てるんだぞ」
3. 90 汁馬 ■2013/03/03 13:51:08
嫌なことがあったからって八つ当たりしちゃ駄目だよ霊夢ちゃん。
ほら罰が当たっちゃった。
4. 40 名無し ■2013/03/03 15:58:23
橙の性格が1日で変化した。
5. 60 名無し ■2013/03/03 20:23:31
ジョジョ6部のグーグードールズを思い出した。
よ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜しよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよし。
6. 100 紅魚群 ■2013/03/04 01:02:31
ミニ紫と霊夢が可愛い。めっちゃ可愛い。可愛すぎて100点をあげるしかない。
ミニった途端臆病の寂しがりになる紫可愛い。
7. 70 ちゃま ■2013/03/04 17:26:52
独占欲を飼いならし切れなかったか。落ちがよかった
8. 70 んh ■2013/03/04 21:08:05
だいだいだいかつやく!
紫肉不味そう
9. 60 町田一軒家+ ■2013/03/07 13:16:02
誰からも愛されまくる紫がかわいいです。
10. 60 pnp ■2013/03/08 17:38:00
「ミニ紫」って言葉がすばらしく可愛らしいな
11. 90 機玉 ■2013/03/08 23:09:54
因果応報って良いですね。
オチで霊夢を捕まえたのは橙である所が意外でした。
12. 80 矩類崎 ■2013/03/10 11:48:43
ミニゆかりんは蜘蛛の糸でしたか。幻想郷はもう駄目ですね。橙は悪い子!橙は悪い子!
13. 80 名無し ■2013/03/10 19:57:43
自業自得な霊夢可愛い。
たっぷりと可愛がってもらいな。
14. 70 名無し ■2013/03/10 21:06:43
小さいものへの一方的な感情なんてこんなもんですよね
霊夢が紫にもっと酷いことする場面が多かったらもっとよかった。そしたら霊夢がそれをされる番なんだと不気味さが際立つと思います。

紫肉食べたら狂気度あがって幻惑耐性つくな間違いない
15. 80 名無し ■2013/03/11 20:23:19
この幻想郷は終了ですね。
紫と霊夢を失ってどうするのでしょう。
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