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『預かり物』 作者: 日々の健康に一杯の紅茶を

預かり物

作品集: 7 投稿日時: 2013/04/07 13:30:15 更新日時: 2013/05/13 00:26:31 評価: 8/12 POINT: 920 Rate: 14.54
「ここら辺で落としたはずなんですが・・・何処にいったんでしょうか」

夕闇に包まれた妖怪の山。その山道の中で東風谷 早苗は腰をかがめて懸命に探し物をしている。
山道といっても平坦な開けた場所で地面が牧草のような背の低い植物で覆われている。
昼寝や決闘にはうってつけで時折自警団が模擬線をしている光景が見られる。

「どこか違う場所に飛んじゃったんでしょうか。いやそれだと音がしたはずですし」

早苗が探しているのはいつも頭に付けているカエルの髪留めだった。
誰かのいたずらだろうか結ばれた草に足を取られて転んだ時に外れてその際どこかに飛んでいってしまった。
慌てて周囲を探してみたが一向に見つからず探索に夢中になっている間に日も落ちてしまった。
街灯などあるわけも無く手元もほとんど見えない。灯りも無しに見つけるのは竹林の白兎の幸運をもってしても至難の業だろう。
それでもがんばって探していたが一向に見つからずやがて完全に日が落ちてしまった。
月明かりが野原を照らし早苗を神秘的に演出するが本人はそれどころではない。

「仕方ないですね。また明日探しますか。諏訪子様に怒られるだろうなぁ」

ため息をついていると不意に足音が聞こえはっと頭を上げる。
探し物に夢中になって気付いていなかったがここは妖怪の領域。
昼は身を潜めていても夜になれば凶暴な獣が姿を現す。
もしかしたらそいつは現人神であろうがお構い無しに食い殺すかもしれない。
慌てて札と御幣を構え護身の祝詞を唱えようとすると足音のした方向から陽気な声が聞こえた。

「やあ盟友じゃないか!こんな時間にどうかしたのかい」
「ああ、にとりさんでしたか。暗くて分かりませんでした」

近づいてきたのはパンパンに膨らんだリュックを背負った河城 にとりだった。
腹を空かした獣ではないことにほっとして早苗は事情を話す。

「そうだにとりさんライトとか持ってないですか?」
「いや悪いが持ってないよ。私たちは夜目がきくからね。こんな満月の夜は昼間と変わらないよ」
「ああ、なるほど」

確かに妖怪ならば夜陰を恐れることも無いだろう。暗闇は妖怪にとって母でもあり父でもある。
これ以上探索しても無駄だと諦めて帰ろうとした早苗の背中をにとりの手がつかむ。

「ちょっと待った。盟友の悩みは私の悩みでもある」
「何か御用ですか」

にとりがにこにことオイルで黒ずんだ顔に笑顔を浮かべながら近づき、

「その髪留めを見つけて進ぜよう」

ただしと言って背中のリュックを地面に置く。相当な重量があるのか地面に当たるとずしりとした腹に響く音が聞こえた。

「見つけるには家にある機械を取ってこなくちゃならない。ちょいと時間がかかるからそれまでの間荷物を預かっていておくれ」
「ちょっと待ってくださいよ」

そこまで手間をかけさせるのも申し訳ないという思いもあったが一人でこんな場所で待っていることの恐怖もあった。

「任せたよ盟友。そこで待ってておくれ。何、すぐ戻る」

色々と言いたいことがあったが耳を貸さずに何処へとも無く飛び去ってしまった。
よほど追いかけようかと思い荷物を持ち上げようしたがびくともしない。ぐずぐずしているうちに何処へ飛んで行ったのかも分からなくなってしまった。
恨めしげにリュックを睨みつけるがどうしようもない。
このまま見捨てて帰ってしまおうかとも思った。しかし探し物を手伝ってくれるらしい河童を残して立ち去るのも気が引ける。
しばらく悩んだ後にため息をついて腰を下ろした。幸い冷え込みは厳しくなくただ待つだけならそれほど苦にもならなかった。



ぼんやりと流れ星を数えていると背後から足音が聞こえたのでやっと来たのかと思い振り返るとにとりではなく秋神の姉妹がいた。
防寒のためだろうか顔を黒い頭巾で覆っており顔の形をうかがい知ることは出来ない。
その割には妹神の足がはだしなのが奇妙に思われたが神には神の事情があるのだろうと一人納得する。

「こんばんわ。こんな所で人間を見るなんて」
「こんばんわ。珍しいねお姉ちゃん。明日は雨が降るに違いない」
「こんばんわ。秋神様」

姉妹は仲良く手をつなぎながら歩み寄ってくる。
途中でリュックに気がついたのか足を止めてしげしげと眺めながら、

「お姉ちゃんこれはいいね」
「そうね。すごくいいわね。譲ってもらえないかしら」

唐突に姉妹がこちらに顔を向ける。妙なことを言うものだと思ったが落ち着いてにとりからの預かり物であることを説明する。
二柱は顔を見合わせるとそれぞれスカートのポケットに手を突っ込み何かを取り出す。

「ならこれと交換ではどうかね。とても貴重なものだよ」

話を聞いていなかったのかそれとも理解できなかったのかは分からない。
しかたなく姉神のほうを見ると小さな紅葉の葉の形をしたものが手に乗っている。血のように紅く暗闇の中でも脈打つように光るのが眼を引く。

「なんですかこれは」

早苗が胡乱気に訪ねるとわが意を得たりとばかりに首を振りながら、

「これは世界最初の紅葉だよ。いわば私の始祖というも同然。全ての紅葉はここから始まったのよ」

そういわれて改改めて見てみると光沢があるがガラスや鉱物の類では無いことが分かる。
生物的な、毒々しいその色彩は傷口から覗く血流に良く似ていることに気付く。
更によく見るとその血のような色合いは無数の小さな紅葉からなっていることが分かる。幾千幾万もの紅葉が舞い踊るように漂っている。
その美しいがこの世ならざる異常な光景を本能的に恐れた早苗は思わず後ずさる。

「人間さん人間さん。こちらも見なされ見なされ」

しかしいつの間にか妹神に回り込まれていて思わずぶつかりそうになる。
慌てて足を止め振り返ると獣皮のようなものに包まれた黒いねじくれた木の根のようなものを差し出している。

「これはねえ。大昔にある強力な妖怪が最後に食べた芋なんだよ」
「はあそうですか」

今度はそれほど奇妙なものではないことにほっと息をつく。ぱっと見ただけではただの干からびた植物にしか見えない。
どれ妖怪の最後の晩餐とやらをみてやりましょうといった心持で近づくと不意に声をかけられる。

「この芋に込められた呪いでその妖怪が死んだのよ。その死体から取り出されたのがこれ。死ぬまでに大分苦しんだから妖怪の怨念もたっぷりこもってるよ」
「ひぃっ」

慌てて芋の化石から離れる。そして急にその化石から先ほどまでは感じられなかった禍々しい気配があふれ出してきた。
まるで獲物を逃したことを悔しがるかのように溢れ出すそれは眼で見えるほどの邪気となりあたりに広まっていく。
妹神が皮で覆うと邪気は減ったがそれでも濃密な悪意が隙間から漏れ出ている。

「さあさあ。どちらと交換してくれる?」
「なんなら二つと交換してもいいよ」

いつの間にか姉妹は並んで立っていた。反射的に二柱から離れようとすると背中にリュックが当たりはっと我に返り慌てて、

「これは私のものではないので私の一存では交換できません。どうしても欲しいなら本人と交渉してください」

必死に先ほども言った説明を繰り返す。その声にいかんともしがたい拒絶の意思を感じ取ったのか二柱は肩をすくめる。

「むむむ。駄目なようだね」
「駄目なようだよ。お姉ちゃん。残念だねえ」

残念だ残念だと呟きながら二柱が去っていく。襲い掛かられなかったことにほっと胸をなでおろし視線を地面に向けると早苗は硬直した。
そこには姉妹の影があったが本体とはどう見ても異なる形をしていた。有体に言えば巨大な怪物のようなそれは片時も動きを止めず捻じ曲がりおぞましい姿を次々と形作る。
しばらくして不意に影が消え去ると姉妹の姿も消えていた。夢でも見ていたのではないかと思うほどに忽然といなくった。


先ほどの衝撃の余韻を感じながらにとりを待っていると何かが擦れるような音が聞こえてくる。
また化物が現れたのかと思い辺りを見回すと厄神がくるくると回りながらこちらに近づいてきていた。

「あらあら。あらあらあら。こんな時間に人間が」
「こ、こんばんわ、厄神様」

前の化物よりはマシだがそれでも厄介なのがきたと内心顔をしかめる。
もう厄を浴びてしまっただろうから神社に帰ったら身を清めなければならない。
この寒さの中冷水で身を清めることに若干憂鬱になっていると厄神は回転を止めずに近づいてくる。

「そのリュックをもらえないかしら」

その言葉に思わず顔に驚きが出てしまう。まさかまだ怪異は続いているのかとも思い影を見るがいたって普通の形をしている。
それでも警戒は怠らず慎重に説明をしようとするが、

「いや、あの、だめですよ」
「だめなの?」

先ほどの恐怖が残っているのか上手く言葉が浮かばない。
厄神は残念そうな声を出しながらもくるくると回り続けている。
その回転は次第に速まりやがて輪郭がぼやけるほどの速さになる。
遠心力により髪が大きく広がった髪に当たらないように後ずさりながらも説明を続ける。

「えっとですね。これは私のものではなくて知り合いの物なんですよ」
「知り合いの、ものだと、駄目なの」

いまや回転は風を起こすほどの速さになり厄神の足元の草は焼け切れている。
その上奇怪なことに最初に見たときは早苗と同じくらいの身長だったのが今では見上げるほどの大きさになっている。
月光は広がった髪にさえぎられ辺り一面が深い森の中のような暗さに包まれる。
一番恐ろしいことは先ほどから声が背中から聞こえてきていることで、しかも回転により途切れたりすることなく一定の音量で響いていることだ。
この奇奇怪怪な光景に早苗は足がふらつき吹き寄せてくる強風に思わずよろめくが手がリュックに引っかかりなんとか姿勢を保つ事が出来た。
リュックにしがみつくようにして体勢を立て直し勇気を振り絞って今では巨木のようになった厄神に声をかける。

「知り合いの物を許可無く渡すことは出来ません。もしどうしても欲しいのでしたら本人と話してください」

声が震えることも無くきっぱりとした口調で告げられると厄神は次第に縮こまりやがて元の大きさに戻った。そのまま徐々に縮み始めついには見えなくなってしまった。

「夢でも見ていたのでしょうか」

思わず呟くが先ほどまで厄神が回転していた場所が黒く焼け焦げているのを見て現実であることが分かる。
焼け焦げからは焦げ臭い臭いが放たれしばらく存在感を保っていたがやがて煙が尽きるとその臭いもおさまっていった。



服に煙の臭いがついたのではないかと恐れながらにとりを待っていたが一向にやってこない。
時間を計ろうにも時計など無く天文学に明るいわけでもない早苗にはどれほどの時間がたったのかが把握できない。
普段だったら多少は把握できていただろうが先ほどの異常な体験が感覚を狂わせていた。

「早く来てくださいよぉ・・・」

泣き言をもらしているとその声に応えるかのごとくあたりに強烈な風が吹きすさぶ。
顔を手で覆い風が止むのを待ってから眼を開けると目の前には三羽の天狗がいた。

「これはこれは人間さん」
「こんな時間にどうしたの」
「侵入者は捕らえるがしきたり。首になりたくなければ名を名乗れ」

三羽は奇妙なことに仮面をつけているため顔は分からないがその見慣れた服装と聞き慣れた声で早苗には誰だか分かった。

「あら、文さんにはたてさんに椛さんじゃないですか」
「おやおやその声は早苗さん」

狐の面を着けた射命丸と思しき天狗が返事をする。

「なんだ、早苗だったのか」

続いておかめの面を着け肩をすくめたのは恐らく姫海棠だろう。

「むう、侵入者ではなかったか」

最後に般若の面を着けた犬走と思しき天狗がうなり声を上げる。
普段見慣れている三者とは異なった雰囲気を感じたが仮面のせいだと思い無理やり納得する。
たとえ妖怪といえどもまともな知り合いが来たことに安心感を覚えながら話しかける。

「皆さん今日はお面を付けてますけど宴会芸のようなものですか」
「芸は身を救うってやつですよ」

肯定なのか否定なのかはっきりとしないおちょくるような答えが返ってきたことに若干苛立ちを覚えていると、

「ところで早苗。お願いがあるんだな〜」

不意にはたてが近づいてくる。
よく見知ったこの流れに嫌な予感を感じたが気のせいに違いないと懸命に言い聞かせ場の空気を変えるように無理に明るい声を出す。

「へえ、まさかこのリュックが欲しいっていうんですか。なんちゃってね」

おどけるようにリュックを指差し手で軽く叩く。
妙な顔をされるだろうと予想していたが、

「そうだ。よくわかったな。巫女というのはさとりの真似事もするのか」

重々しく椛が頷くのを見て早苗の顔から音が聞こえるのではないかというほどの速さで血が引いていく。
そんな早苗の様子に気付いてか気づかないでか射命丸が早苗の前に体を移す。

「もちろんただでとは言いませんよ。清く、正しく、美しい、文々。新聞をお付けします」

そう言って差し出された新聞は見たことも無い紙で出来ていた。いや紙と言っていいいのだろうか。
まるで生きている動物から剥ぎ取ってきたばかりのようなそれは夜目にも分かるほどじっとりと湿っているのが分かる。
色は病的に白くその上をアルビノの瞳を思わせる赤いインクが見たことも無い異形の文字を綴っている。
写真と思われるものもあるが全体が真っ黒で何が写っているか分からない。
分からないにもかかわらず何か恐ろしいものを写していることが直感的に感じられる。

「もちろん花果子念報も付けるよ。たくさんあるから好きなだけ持っていきなよ」

おぞましい新聞と思われるものから逃れるように眼を向ける。
はたての手には何処から取り出したのか黒い石版のようなものがあり一瞬それがなんなのかが分からない。
しかしその上に虹色の蛍光する光が走るのを見てそれがはたてのいう新聞だと直感する。
文字はまるで外の世界でいう文字化けの様相を呈しており、まるで意味を成さない情報の洪水と成り果てている。
写真と思しき部分もひび割れているかのように細かな傷がついているだけのように見える。
しかし不意にかけらの一つがずれたように見えた。そこから何かが飛び出してくるような気がして恐怖にとらわれる。

「私は新聞などは作っておらぬゆえ、代わりに製作中の将棋の駒をやろう」

背後から聞こえてきた声に最早惰性的に振り返る。
椛がその豊満な胸元に手を入れ取り出した物は普通の将棋の駒だった。足が生えている点を除けば。
それは二本のそろった足ではなく無数の不均一に歪んだ足が所狭しと生えている。
ある足は緑色の粘液を垂らしある足は隣り合う足を食らう。
巨大な足、矮小な足、獣の足、人の足、虫の足、機械の足、汚い足、清浄な足、旨そうな足、吐き気を催すような足、足、足、足足足足足足足足足足足足足足足足。
幻想郷中の足を集めてもここまでの多様性は成しえないだろう。
駒自体は通常の大きさなのにそれらの足が妙にはっきりと見えることが異常性をより一層強調している。

「ほうはたて。あなたはもしかしてその耳糞を新聞と呼ぶの?」
「何を言う。文こそその馬糞をなすりつけたみたいなごみを渡そうなんて頭がどうかしてるんじゃないの?豚の下痢で顔洗って考え直したら?」
「こらご両人。かような場所で暴れるな。殿中でござる、殿中でござる」

気付くと三羽はもみ合いながら言い争っていた。時折その土ぼこりの中から鉤爪や青い炎、鱗に覆われた腕などが突き出されているが争いの様相がひどく内部がどうなっているか分からない。
いや、分かりたくないといった方が的確だろう。いまや東風谷 早苗は恐怖で腰を抜かし一人で立ち上がることもままならない。
普段の精神状態ならば武器を構え立ち向かうことも尻尾を巻いて逃げることも出来ただろうが立て続けに起こった恐怖体験に早苗はすっかり気力を奪われていた。
赤子のように泣きじゃくり誰彼かまわず助けを求めないだけマシといっていいだろう。
いや、もしかすると全ては最初から仕組まれていたことで抵抗する力を削ぐために一致団結してきたのかもしれない。
恐怖に痺れたようになった頭の中で妙に冷静な考えが浮かぶがかといって何かする訳でもなくぼんやりとしている。
やがて争いが終わり生傷をこしらえた三羽が荒い息をついている。そこには鉤爪も火を吹く口も無く鱗一枚見当たらない。
しかし皮ふには明らかに黒くこげずんだ部位やどう見ても爪で引き裂いたとしか思えない巨大な傷がある。
そしてそれ程深い傷にもかかわらず血が一滴も流れ落ちていない。傷口から覗く色合いは原色をちりばめたように毒々しく彩られている。
早苗は最早どうにでもなれとばかりに思考を放棄していたが三羽はまだ用事があるらしく話しかけてくる。

「お見苦しい所をお見せしました。この場を代表してお詫びいたします」

お詫びはいらないからとっとと帰ってくれと叫びたかったがもうなにもかもが面倒くさい。

「それで話し合ったんだけどここは公平に全部受け取ってもらうことにしたわ」

どれもいらない。それを私に近づけるな。

「ということだ。それでよろしいかな、早苗殿」

三羽の中ではもはや交換することは確定事項になっているらしい。糞食って死ね。
これ以上一言も話したくは無かったがここまでこけにされるのも癪に障る。
皮肉の一つでも言ってやろうと嫌味な口調で三羽に疑問を飛ばす。

「あのですねえ。一つ疑問があるんですが。あなた達は本当に文さんとはたてさんと椛さんなんですか。顔を見せて証明してくださいよ」

三羽はそろって首をかしげる。早苗は胸のうちで喝采を上げる。
化け物共め泡食ってやがる。様を見ろ。
早苗はしばし溜飲を下げていたが、

「ふむふむ。早苗さんは私たちがあなたをたばかっているとお考えなのですね」
「まあ無理も無いわね。こんな時間だししょうがない」
「顔を見せるくらいたいした手間でもない。さあご照覧あれ」

三羽が演劇がかった動作で面に手を伸ばしすっと取り外す。
そしてその下から覗いた―――――を見て早苗は山彦もかくやという大声で絶叫するとともに意識を失う。
気絶する瞬間頭がリュックにぶつかったような気もするが定かではなかった。



「――い盟友。こんな所で寝ると風邪を引くぞ。起きろよ」

早苗が目を開けると不安げな顔をしたにとりが肩を揺さぶっている。
化け物はいなくなっており頭が妙に痛む。触ってみるとこぶが出来ていた。

「やっと起きた。よっぽど疲れていたんだね」

手を借りて起き上がり辺りを眺めるがどこにもおかしな所は無かい。
あれは何だったのか。にとりに往復でかかった時間を尋ねてみるも、

「四半刻・・・ああ三十分って言った方が分かりやすいかな。そんなもんだよ」

変な場所で寝たから疲れたのではないかとも言われそういうものなのかと納得した。
それからにとりは軽々とリュックを背負ってからポケットに手を突っ込んで髪飾りを取り出した。

「探し物はこれであっているかな」

受け取って月光にかざしてみる。間違いなくいつも使っている髪留めだった。

「どうやらそうみたいだね。ここに来る途中で落ちてたから拾ったんだ」

といって離れた場所を指差す。ずっと探していた場所のすぐ近くだと分かり力が抜ける。

「そうだにとりさん聞いてくださいよ。ついさっきなんですけど変なのに絡まれちゃったんですよ」

早苗はほっとしたことも手伝って先ほどの体験を話し出そうとする。他者と知識を共有して安心感を得ようとしたのだろうか。

「変なやつ?もしかしてそいつは・・・」

にとりが後ろを向いて何やら顔をいじってから振り向く。

「こぉぉんな顔じゃなかったかい?」

本来顔のある場所にはぽっかりと孔が開き孔の先の風景がよく見える。その孔の縁は風で揺らめくように動き続けている。
早苗は今夜二度目となる失神を体験する羽目になった。
神奈子「まあ山だし。化け物出ても仕方ないね」諏訪子「仕方ない仕方ない」早苗「いや本当勘弁してください」

追記コメント返信 こんなに感想を貰えるとは思ってもいませんでした。とても嬉しいです。有難うございます。

>>1 NutsIn先任曹長様
産廃風に小道具も足してみたりしたのっぺらぼうです。
>>2名無し様
いつかは帰れるという希望が砕かれる時が一番怖いと思います。
>>5名無し様
茨の早苗さんのなぞのふたばヘアーがマイブームです。
>>6名無し様
どんな妖怪でも神様でも人の怖がる顔は好物だと思うんです。
>>7名無し様
ありがとうございます。いかに元ネタが秀逸か思い知らされますね。
>>8名無し様
怪談といえば小泉八雲。やっぱ古典的なネタって洗練されてて面白いんですよね。
>>9名無し様
上のコメントでも書きましたが元ネタはのっぺらぼうです。三月精でも出てますね(返り討ちにあっていますが)。
>>10ギョウヘルインニ様
あまりやんちゃが過ぎるとバックが黙っていないかもしれませんね。
日々の健康に一杯の紅茶を
作品情報
作品集:
7
投稿日時:
2013/04/07 13:30:15
更新日時:
2013/05/13 00:26:31
評価:
8/12
POINT:
920
Rate:
14.54
分類
早苗
山の愉快な住人
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0. 120点 匿名評価 投稿数: 4
1. 100 NutsIn先任曹長 ■2013/04/07 23:29:12
これはベーシックでトラディショナルなテラーですね。
まぁ、ここは幻想郷の妖怪の山だし、こんな事もあるさぁね。
2. 100 名無し ■2013/04/07 23:34:19
迷子になった気分
5. 100 名無し ■2013/04/09 23:00:52
早苗ブームの再来か?
6. 100 名無し ■2013/04/11 00:14:13
結局、どんな高位の神様だろうと人と仲良い妖怪だろうと、一皮剥けば人知を超えた能力で超常現象を起こす化け物と言う事には違いない。
今夜の早苗はちょっと運が悪かったんだ。
7. 100 名無し ■2013/04/15 17:29:31
単純に面白い
8. 100 名無し ■2013/04/27 17:35:08
これは怪談だ。
容量もちょうど良くて非常に読みやすく面白かったです。
9. 100 名無し ■2013/05/05 16:45:52
どことなく古風
10. 100 ギョウヘルインニ ■2013/05/05 17:19:03
こうやって。直接危害は与えず上下関係を確立していくのですね。
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