Deprecated: Function get_magic_quotes_gpc() is deprecated in /home/thewaterducts/www/php/waterducts/imta/req/util.php on line 270
『義理と人情の二ッ岩金貸し屋』 作者: まいん

義理と人情の二ッ岩金貸し屋

作品集: 7 投稿日時: 2013/04/18 12:43:37 更新日時: 2013/04/27 23:31:53 評価: 4/4 POINT: 400 Rate: 17.00
注意、このお話は東方projectの二次創作です。
   オリ設定、オリキャラが存在する可能性があります。





麗らかな微風が顔を撫でる時期。 商売の準備の時間帯。
人里では朝の往来を人々が忙しく闊歩し、各々の店では準備に追われていた。
仕入を求める人は目的の品々をあらかじめ検分しては目星をつけ、
里を訪れる妖怪は慣れない為か目的の店を探しにうろつき、
商売側と同じく人妖入り乱れて、忙しく往来を歩んでいた。

舗装されているとはいえ土の地面は人妖の移動によって乾燥し土埃を巻き上げている。
四季は季節毎に様々な恵みを与えてくれるが、生きている者にとって寒さは如何ともし難いものである。
その寒さも今は鳴りを潜め、手をかじかませる事も無くなった水が撒かれていく。
水打ちは春から秋にかけてどこでも見られる光景だ。

朝市の鐘がなり、威勢の良い言葉があちこちで飛び交う。
品を求める人妖は必死に積極的に競りを行い、旅館に泊まる旅人は日常の光景を微笑ましく眺めていた。
やがて、品々が減るにつれてぽつぽつと人妖は減っていく。
求める物があれば求める人が集まるが、求める物が無くなったから当然の事が起こったのである。



人がまばらになった人里の大通りを一人の妖怪が、とある場所に向けて歩いていた。
腰の左に陶器製の酒瓶を、右には細長い帳簿をぶら下げている。
暗めの冬服は既に着ておらず、山吹色の普段着を纏って身の丈以上の大きな尻尾を立てている。
頭にはこれまた大きな葉っぱをのせ、幻想郷には珍しい眼鏡をかけていた。

バシャ。 朝からの喧騒が一段落していた所に更なる水打ちが行われている。
とある店先で先の妖怪、二ッ岩マミゾウは打ち水を足に受けてしまった。

「ああ、本当にすみません」

店娘は慌てた様子で非礼を詫び、頭を下げる。
少し俯いたまま不機嫌そうに顔を向けようともしなかったマミゾウであった。
だが声に聴き覚えがあった為に顔を向ける。
そこで、表情が和らぎ声を返すのであった。

「誰かと思えば、お菊さんじゃないか?」

「え? 親分さん? あの、本当に……」

「別にそこまで謝らんでも良いじゃろうて。 それよりも、あやつとの仲はどうじゃ?」

「はい、親分さんの所で働き始めてから人が変わった様です。 本当に良かったです」

「かっかっか、そうかそうか。 これなら子供を抱く日も近いかもしれんのう」

「まぁ、親分さんったら」

何でもない日常的な会話が続き、噂話やら何やらに花が咲く。
用事の途中であったが、特に気にする事もなく時間だけがただ過ぎていった。

市場とは生物の様で朝の顔があれば、当然昼や夜の顔もある。
まばらであった通りに段々と人の姿が戻って来る。
それと同時に辺りには焼き物やら煮物やらの良い匂いが漂い始めていた。

「おお、もうこんな時間か。 すまんのう、こんなに時間を盗ってしまって」

「いいんですよ。 それと先程は本当にすみませんでした」

店娘が深々と頭を下げる中、マミゾウは手をヒラヒラと振る。
「かっかっか、気にはせんよ」と言いながらその場から目的の場所に向かって行った。

〜〜

同じく人里の大通り、木造二階建てのとある商店。
二階は外階段から上がる事が出来、履いている下駄の音と木の軋む音が耳に不快な音を残してくれる。
昇り切っては瘴気でも纏っているのではと疑いたくなる扉を陽気に開ける。
中に居る顔に傷を持つ男達は入って来た者に鋭く威圧的な視線を投げかけた。
だが、入って来た者を確認するなり、すぐさま表情を軟化させる。
びっと背筋を伸ばしてマミゾウの到着を歓迎した。

「おはようございます親分」

「おう、遅くなってすまんかったのう」

がちゃ、がちゃ。 と下駄を鳴らして部屋の奥に歩んでいく。
大仰に造られた机の前で皆に向かって振り向くと、そいじゃと話を始めた。

ここはマミゾウの金貸業を営む店なのだ。

「それにしてもいかんのう」

うむうむ。 と腕を組み自身が納得したと言いたげに呟く。
腕を組んだまま顔だけを向けると皆に向かって言い放った。

「ここはのう。 お主らの様な屑とは違い真っ当に生きようとする人間を手助けする場所じゃ」

相手の気持ちや心情はまったく考えていない言葉だ。
それもこの場では当然である。
マミゾウの言葉は人間に対してではなく所有する物に対して言っていたのだ。
それも主人が奴隷に命令しているのと同じであると感じる程に。

男達の心には卑下されているという気持ちで一杯であった。
心には怒りの溶岩が煮えたぎり、拳は岩を打ち砕く程に握りしめられている。

「いつまでも前の様に息を巻いていても意味がないぞい。 のう?」

上目使いに睨まれながら、それでいてどこの誰も見ていない視線。
威圧的だが、どこか空蝉の様な言葉。
狸や妖怪狸を従え、人の世を渡り歩き、時には汚れ仕事に手を染める事を厭わなかった。
長い経験に裏打ちされた彼女の言葉は彼らには刺激が強すぎ、その言のみで戦意は完全に失われた。
これは普段当たり前の光景でもある。

「それはそうと……」

腕組みを解き軽く目を瞑り、顔が外の方向に向く。
ようやく一息吐き男達から緊張感が一時的に解かれた。

「奴はしっかりと捕まえたのかぇ? あの踏み倒して逃げようとした奴は」

振り向き様に投げかけられた言葉。
流された視線は男達を恐れおののかせるには充分過ぎた。
目は怒りに満ち溢れ、顔を戻した際に残った目の残光は刀を振るった時の光の様であった。

何度も体験したマミゾウの癇癪。
いや、今回はしっかりとした理由があるが。
男達は例外なく恐怖に怖気づき萎縮してしまう。
手はじっとりと汗ばみ、額からも冷や汗が伝う。

「何とか言わんか」

返答を急かされ、一人が報告する。
生唾をゴクリと飲み込み、吃音の様に言葉に詰まりながらも何とか言い終える事が出来た。

「ほうほう、別室に居るとな。 それで指示した通りにしたと……それでは会って申し開きでも聞こうかのう」

機嫌も表情も大らかなものに戻ったマミゾウは別室に向かっていくのであった。
そこに到り漸く男達は緊張状態から解放された。

〜〜〜

「儂の手を煩わせおって……ようやく見つけたぞ」

待合室風の扉を開け相手を確認し開口一番に言葉に出した。
マミゾウは目を細めギラギラと光らせている。
言葉の端々から苛立ちを感ずる事が出来るが、本当に待ちかねたという話し方でもあった。

部屋には顔に傷が付いた男が二人、入り口に更に一人居る。
ソファーに座らされた男はマミゾウを睨み付け”息子は何処だ?”と呟いた。

一瞬キョトンとした顔をすると、顔を上げて”かっかっか”と高笑いで返した。
逆上した男が立ち上がりマミゾウに殴りかかろうとしたが、
男の後ろに居た二人が素早く肩関節を極めて中央の机に倒した。

マミゾウは煙管入れから煙管を取り出すと、刻み煙草を丸めて火皿に詰めていく。
入り口の男は小さな煙草盆と火種をいつの間にか用意し、彼女の機嫌を損ねぬよう細心の注意を払っていた。
マミゾウの口から煙が吐きだされると、含み笑いを一つして吸い終わった煙草を煙草盆に棄てた。

「息子を返して欲しいじゃと? 寝言は寝て言え。 借金を踏み倒そうと逃げ出した馬鹿者が何を言うか」

だが、男は悔しく歯噛みをしながらもマミゾウに逆らう事を止めなかった。
やれやれと目を瞑って頭を左右に振り、入り口の男に指を鳴らす。

「まぁ、そう苛立っても話になるまい。 昼食を用意するから食うてから話をしようではないか」

極められていた肩から力が抜けていく。
とりあえず交渉が出来ると踏んだ男は大人しく機を窺がう事にした。
外からは牛脂の焼ける良い匂いが漂っている。
マミゾウは目を瞑って香りを楽しんでいるようだが、事情を知る男達の顔はみるみる内に青白くなっていく。

少し間が空き、ステーキカバーに覆われた料理が用意された。
覆いが開けられると鉄板をそのまま持ち出したような皿に肉の塊が鎮座していた。
肉は熱せられた鉄板に焼かれ、良い匂いを部屋中に充満させて怒りに満ちていた男の食欲を誘う。

「これは外の世界の”はんばーぐ”という料理じゃ。 お主が食べ終わったら、その”息子”の話をしようじゃないか」

男が食事を始めると、料理を運んだ男は吐き気を堪えて部屋から一目散に逃げ出す。
部屋の角に控えていた男達も窓を少し開けて、なるべく二人を見ない様にする。
マミゾウがその様子を見逃す筈もなく、またも目を細めてはニヤニヤと薄ら笑いを浮かべるのであった。

相当に飢えていたのか食事はすぐに終わる。
その状態を見計らってマミゾウが手を叩くと、先程部屋から飛び出した男が顔を一段と真っ青にして戻って来た。

「ご苦労、片付けたら休んで良いぞ」

男の正面に再び座り、部屋の隅に置かれていた箱を指差す。

「外の世界には便利なモノがあってのう、あれは”てれびじょん”というものじゃ。 あれに息子さんを助ける手がかりがあるぞい」

そう言うとテレビの電源が入れられ、嬌声が部屋に響き渡った。
12程の少年とその上で腰を淫靡に振るう女性が映し出された。
男にはその少年が誰かすぐに理解が出来、咄嗟に立ち上がろうとする。
だが、先程と同じく肩関節を極められ、抵抗空しく机に顔を押し付けられてしまう。

少年は精通がまだの様子で自身の変化に戸惑いながらはっきりと行為の拒否をしていた。
まだ筋肉も骨格も完成しておらず、少女の様な白く細い体では女性を押し返す事は出来ず、成すがままにされている。
何よりある筈の手が片方に無く、その事がより抵抗を弱いものにしていた。
そうこうする内に少年の頭の裏にピリピリとした感覚が押し寄せてくる。
蟻の門渡り付近にも同様の感覚があり、尿意にも似た感覚に戸惑いを隠せずに叫び声を上げる。
体を巡る電流にも似た快感と小便を女の胎内に放ったと勘違いした恥じらいが少年に叫び声を上げさせた。
近付かずともはっきり判る絶頂に両者は体を寄せながら余韻に動けずにいる。
少年を呻きながら涙を流し、手の無くなった腕で顔を覆った。

男は息子の変わり果てた姿に衝撃を受ける。
また先程の食事の最中に男達が吐き気を堪えていた事が頭の中をぐるぐると回っていた。
そして、理解した男は吐き気を催した。

がすっ!

「どうじゃ? 息子の味は良かったじゃろ? お主の大事な大事な息子じゃからのう」

マミゾウの下駄が男の前歯を打ち砕き、吐き気を止める。
見下ろしたまま腕を組み、話しを続ける。

「初体験は良いものでなくてはと儂は常々思うておる。 息子さんは良い人と巡りあったもんじゃ」

「じゃがのう。 お主に借金を支払う能力は零じゃ」

下駄を口から離すとズルリと音がし、血糊が糸を引いて下駄の後を追った。
一人の男は止血と嘔吐防止を兼ねて猿轡を噛ませる。

「そこで、仕事を斡旋しよう。 何、外の世界の船で寝ているだけの簡単な仕事じゃ」

外の世界の海には嫉妬深い女神がおり、その為に船は女人禁制の世界なのである。
だからこそ、そういった仕事があるのだ。
勿論、マミゾウはその事について一切の説明をしていない。
最も説明したとしても、この男には退路は無い。 自身が逃げた時点で既に選択肢はないのである。



男は化け狸によって仕事の場所に送られる事となった。
建物の前で見送るマミゾウ。 その横には先程の男三人が付き添っていた。

「おい、あの小僧を”まだむ”に売る。 早う準備せい」

先程まで吐いていた男はしかし、と反論した。

「何じゃ? 情でも移ったか? あの小僧一人売り払えば、あのたわけの借金は返済出来る」

「それにのう。 教育も出来ないカスと夜伽があるとはいえ教育を受けさせられる環境どっちが良いか?」

「それともお主があの小僧の人生を買い取るか? 自分の借金も返せぬ屑のお主が」

三人が三人とも手をギリギリと握り締めていた。
顔を俯かせているが、怒りの隠し様がない。

「お菊さんは食べ頃じゃのう。 一晩貸してくれたら少しは考えてやっても良いぞ? んん?」

ニヤケ顔に舌なめずりで一人の顔を下から覗き込む。
明らかな挑発に男の我慢は限界であった。
マミゾウはその限界をギリギリの所で見切り事務所に戻るよう促したのだった。

「さて、ぼやっとするな。 早う手続きと書類の山を整理せい」

〜〜〜〜

多少の変化はあれど、いつも変わらない顔を見せる人里の大通り。
今日も変わらず人妖の雑踏に包まれていた。
命に危険が及ぶ可能性がないとは言えぬが、里に居る限りその危険は限りなく低い。
安定と安寧を手に入れた人妖が日々変わらぬ生活をする事は外の世界の人間と変わらないのかもしれない。

その中でも浮いた雰囲気を発している者がいるのは何処の世界でも変わらない。
その日のマミゾウはえらくご機嫌であった。
見た目だけならば普段と変わった事は無い。
だが、纏っている空気が違う。 目は丸みを帯び、歩の進め方もどことなく軽い。
耳をそばだてれば鼻歌でも聞こえてきそうだ。

それもその筈、先日の商談が無事決まり彼女の懐には多額の金が舞い込んだのである。
ご機嫌にならない道理はない。
男は屈強な海の男の夜の世話に、少年は美貌と財産を併せ持つ若い未亡人の元へ。

そうこうしながらも彼女はいつもの通りに自分の経営する店へ到着した。
木造の階段の軋む不快な音を耳に受け、怪しい雰囲気の扉を明るく開く。

「皆の者おはよう……」

扉を開き最初に感じた五感は生臭さを感ずる嗅覚であった。
次に視界に広がるおびただしい血糊の海、そして血の海に佇む正体不明の剣豪。

「なっ、ななななな、何じゃお主は……はっ……」

剣豪の身の丈はマミゾウよりも少し大きいようだが、今一はっきりしない。
顔は黒い霧に覆われ、背中や体も所々霧に包まれている。
素浪人の様な身なりをしている他は抜身の刀を持っている事以外は解らない。
彼女も姿を確認して相手の姿をそういう風に理解した。

相手を目視して声をかけてから彼女の次の行動は素早かった。
過去に何度も経験した事から一目散に逃げ出したのだ。
相手の切り札や奥の手を知らずに戦う事は分が悪い事だと良く知っている。
それが為に後一歩の所で返り討ちにあい、犯された事も一度や二度ではないのだ。
だからこそ相手が一番油断する事も重々承知している。
だが、今の状況はその手が使える時ではない。 そして、一番の手が逃げる事であった。

階段を一蹴りして地面に着地。 相手も素早く彼女を追った。
相手の正体が判らない事が彼女を焦らせた。 僅かであるが足の速さも負けている。
差は五歩。 後ろを見なくとも音で解る。
ヒーヒョーと寂しげな音色の後、刀の斬撃音が聞こえた。

「ひっ、ひぃー」

堪らず前に飛んだ。 目と鼻の先にある雑貨屋に飛んだ。
店先に並べられている商品を掴むと相手に向かって投げつけた。

「寄るなぁ、儂に近寄るなぁ」

一つ、二つと次々に物を投げていく。 相手に当たる事は無かったが怯ませる事には成功している。
相手に物が当たる。 その隙にマミゾウは再び走って逃げ始めた。

「やった、今の内じゃ」

走り始めが早くとも、相手の方が速い。
入り組んだ町並みを右に左に逃げていくが、追いつかれるのは時間の問題であった。
飛んで逃げようとは考えない、飛び始めが危険である事は経験が知っていたからだ。
その中で焦りと混乱が彼女に大きな失敗をさせた。

「しまった……」

袋小路にマミゾウは追い詰められた。
振り向けばそこには正体不明の素浪人が佇んでいる。

「ひぃ、まっ、待ってくれ。 儂が悪かった。 じゃから後生じゃ、堪忍してくれい」

逃げ場が無い場所で彼女は尻餅をつき、腕を伸ばして弁明と命乞いを始めた。
スラスラと良く口が回り、次から次に言葉が出る。
まるで話さなければ死んでしまう様な勢いであった。
相手が一歩近づけば小さい悲鳴と共に新しい弁明が紡がれる。

「も、もしお主が良いなら儂を抱かぬか? ここで今すぐでも良いぞ?」

「自分で言うのも何じゃが膣内の具合も悪くはないと思うぞえ」

股を開き、ドロワーズの上から自身の膣口の部分を押し広げる仕草をする。
相手が承諾すれば、すぐにでも下着を脱ぎ捨てかねない程切羽詰まっていた。
これが彼女の奥の手である。 女を抱く時程男が油断をする瞬間はないからだ。

相手は構わずに近づいて来る。 彼女の奥の手は不発に終わった。
マミゾウは面食らい、慌てて土下座の姿勢になり息を切らせて再び命乞いを始めた。

「悪かった、儂が悪かった。 何でもする。 見逃してくれたら金も出す」

「お主が依頼された倍出そう。 じゃから、命は命だけは助けとくれい」

命乞いを続ける中で見逃さなかった事があった。 相手の流血だ。
見つけたのは偶然であるが、恐らくは先ほどマミゾウが物を投げた時に切ったのであろう。
その血は袖を薄く朱に染め、段々と袖口に向かっていた。
やがて、小指に滴が結露し滴ろうとする瞬間に彼女は急に立ち上がり、相手に向かった。

突然の反撃にも動揺せず刀で鋭い刺突を繰り出す。
酒瓶を盾にして空いたもう片方の手で血の滴っている小指に向かった。

ガシャン。

酒瓶は刀に突き刺された後、地面に叩き付けられ粉々に砕け散った。
脇を抜けた彼女は相手と背中を向けたまま数歩離れている。
正体は解らずとも明かされた事がある。 彼女がすり抜け様に指をへし折った事だ。
事実、小指が不自然な方向に曲がったままである。

「ふっ、ふひっ、ひひひひひ。 ひゃはははは」

マミゾウは気味の悪い笑い声を上げながら振り向き、裏返ったまま癇を逆なでする声で話し始める。
その声を聞いてか聞かずか相手も振り向き次の手を打とうとした。

「まぁ、よくも儂をここまでコケにしてくれたのう。 じゃがこの帳簿に判を押したからには、もう終いじゃ」

マミゾウが帳簿に押された血判をこれ見よがしに見せつける。
その為に一瞬であるが相手の動きが止まった。

「これはのう。 相手から強制的に取り立てをする力があるのじゃ。 儂は滅多な事が無ければ使わんが」

目を瞑り、眉間に皺が寄る。
口元が喜びと怒りの為にピクピクと震え、一呼吸の後に大きく口を開いた。

「取り立てじゃ! 取り立て内容は貴様の命じゃ!」

突如、相手の身体から雲の様な靄が抜けマミゾウの帳簿に吸い込まれていく。
帳簿にはうん万両と判が浮かび、帳簿からはその金額分の金塊が産み落とされた。
何かを吸われた相手は、その場に力無く倒れ痙攣している。
マミゾウは近づくと倒れている相手に蹴りを見舞った。

「このっこのっ。 クソッタレが儂をこんな目に遭わせおって、死ね! この場で野垂れ死ね!」

唾を吐いたマミゾウであったが、黒い霧が晴れ始めた事に気が付いた。
体を覆っていた黒霧が晴れるとそこには可愛らしい女の子が一人居た。
黒のワンピース、背中には左右非対称三対の羽。 腿の中程まである靴下をはいている。

「マミゾウ……酷いよ……」

その姿を見てようやく相手が誰か理解した。
そして、何故こういう事になったのかも。

(そうか、慌てていた所為でぬえの能力に巻かれたか。 流石は正体不明を操る奴じゃ)

「すまんかったのう。 まさかぬえとは思わなんだ。 どれ、具合が良くなるまで儂の隠れ家に匿ってやろう」

「弱った妖怪は人間の格好の餌じゃからのう」

マミゾウはぬえを担ぎ上げると自分の隠れ家に向かって歩き始めた。
腰には大切な帳簿をぶら下げ直し、金塊は肩掛けで包み風呂敷の様に背負った。

(そうじゃそうじゃ、あいつらを殺したのは儂じゃった。 戯れに殴っておったら全員死んでしまったんじゃった)

(それにしても、今日は良い一日じゃ。 大量の金塊は手に入るし、良い金蔓も手に入った)

(ぬえが快復するまで、ぬえの身体は役立てさせてもらうぞ、この上玉の身体なら富を築く事も容易いもんじゃ)

(意識が戻ったら、体よく客を殴り殺し助けるフリをして、この前、歌の練習と騙して潰した山彦共々快復させたら、寺に戻らせてもらうか)

(今度はもっと巧妙に狡猾にやらせてもらうか、寅丸なんかは良い客が釣れそうじゃからのう)

(人里で儂の信頼に勝る者はおらん。 もっと好き勝手やらせて貰おうじゃまいか)

重い物を持っているマミゾウの歩みは驚く程軽かった。
彼女の思い描いた未来は彼女にとって驚く程都合が良く、
事実それを止められる者も余程都合が良くない限り現れる事は無い。
薔薇色の未来を思い描くも、担いでいる親友の為に笑いを堪える事がとても辛かった。
マミゾウさんは堅気には返済期限無し無利子無利息で金を貸しているので非常に信頼が大きいです。
男好きで女好きですが、美貌も合わせ持つマミゾウさんを拒む人はいないでしょう。
人間を殺したりしますが大体は借金を踏み倒したりするろくでなしの輩です。
故に人里にいる限り彼女は何者にも邪魔されずに好き勝手な事が出来るのです。

コメントありがとうございます。
皆様のコメントが励みになっております。

>NutsIn先任曹長様
信頼を盾にする妖怪の醜さを追求しました。
外の世界現役で信仰を得ている神様が弱い気がしないです。
神奈子様を見るとそう思います。

>ギョウヘルインニ様
それは命よりも重い。

>3様
ぬぇぇぇええええん

>矩類崎様
信頼は武器です。
この話のマミゾウも信頼を盾に好き勝手やる口の妖怪ですので。
まいん
作品情報
作品集:
7
投稿日時:
2013/04/18 12:43:37
更新日時:
2013/04/27 23:31:53
評価:
4/4
POINT:
400
Rate:
17.00
分類
マミゾウ
二ッ岩金貸し屋のとある一日
4/27コメント返信
簡易匿名評価
投稿パスワード
POINT
1. 100 NutsIn先任曹長 ■2013/04/18 22:25:48
信用と金。
マミゾウさんの『人里内』での最大の武器にして防具ですね。
良いですね。こういった、いかにもな闇の顔役みたいな立場。

弱肉強食の妖怪達の縄張りでは、どれほど役に立つかは知らないけど……。
2. 100 ギョウヘルインニ ■2013/04/18 23:51:45
お金
3. 100 名無し ■2013/04/19 13:04:09
まみぞーん
4. 100 矩類崎 ■2013/04/19 22:04:13
マミゾウ語録がどんどん豊かになって行くのに驚きです。
信用の大切さを勉強させてもらいました。我々も見習って賢く生きねば。
名前 メール
評価 パスワード
投稿パスワード
<< 作品集に戻る
作品の編集 コメントの削除
番号 パスワード