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『もこたんクッキング(下ごしらえ編)』 作者: 戦車タンク

もこたんクッキング(下ごしらえ編)

作品集: 8 投稿日時: 2013/06/23 05:30:59 更新日時: 2013/06/23 14:30:59 評価: 3/3 POINT: 260 Rate: 14.25
 ある日、いつも通ってる竹林の診療所に薬を貰いに行くとこんなことを言われた。
「ねぇ貴方、もし良かったらペットを飼ってみない?」
 永琳先生はお得意様である僕に時々こうした提案を持ちかけてきてくれる。大体はあの姫様のお守りだとかくだらないことだけど、たまにとても魅力的な提案をしてくれるから聞き逃す手はない。
「ペットってなんですか?犬ですか?猫ですか?それとも妖怪とか?」
「人間よ。今ちょうど処分に困ってるのが一人いてね。姫様の遊び相手としてはもってこいなんだけど、毎回毎回お屋敷を焼かれちゃうからまいっちゃうのよね」
「人間かぁ……」
 どうやら今回の提案は外れのようだ。
「あら、お気に召さない?」
「いやぁ、人間をペットと呼ぶなんて気持ち悪いじゃないですか。反抗的だし、何考えてるか分からないし、すぐに死んじゃうし……犬猫の方がよっぽど上等な生き物ですよ」
「なるほどね。ちょっと考えが捻くれてる気がしないでもないけど気持ちは分からないでもないわ。でも見るだけ見てくれない?ちょっと変わった人間だしね」
 そう言いながら、先生は大きなつづらを兎に持ってこさせて、中身を見せてくれた。中にいたのは、穏やかな寝息をたてている赤いリボンが特徴的な白髪の綺麗な女の子だった。
「へぇ……綺麗な女の子ですね」
「藤原妹紅っていうのよ。あの藤原家の娘なんだけど……知ってる?」
「ひょっとして外の世界で有名な人ですか?歴史の授業は好きだったんでなんとなく覚えてますよ……ていうか、何千年も前の話じゃないですか」
「だからその藤原家の娘なのよ。この娘不老不死でね。こんな見た目してるけど千何百歳のおばあちゃんなのよ」
「不老不死……ははぁ、この子が」
 ちょっと信じられないけど、永琳先生が言うならきっと本当のことなんだろう。
 その子のことをじっと観察してみた。何千歳だと言うが、寝ている姿はただのあどけない少女そのものだった。そして何より、そこらへんの町の娘なんかよりずっと可愛らしかった。
「……もしよかったら、この子貰ってもいいですか?」
「あら、その気になった?もちろん良いわよ。貴方一人じゃ持って行けないだろうから鈴仙に持って行かせるわね」
「鈴仙ちゃんかぁ。あの子苦手なんですよね。なんというか、僕のこと嫌ってるみたいで」
「ふふっ、仕方ないわよ。あの子潔白なんだもの。……といっても、いつも貴方がやってることを知れば嫌うなんてものじゃ済まないでしょうけどね」
「不器用なだけなのになぁ」
 僕のその言葉に永琳先生はなにも返さず、くすりと微笑んだ。

 鈴仙ちゃんに家まで送ってもらいついでに、妹紅という子も持って来て貰った。丁寧にお礼を言ったが、いかにも汚らわしそうに応対するだけで微笑みすらせずに帰ってしまった。ああいう真面目な子にここまで嫌われたと思うとちょっと傷つく。
 まあいい。そんなことより本命はこのつづらの中身だ。
 人一人が入ったつづらをなんとか地下室に運び込むと、つづらからその子を取り出して横たえてみた。地下室には蝋燭の明かりしかないが、その仄かな明かりに照らされた横顔は診療所で見たときより美しく思えた。
「……まだこんな幼い女の子なのに」
 でも、こんな幼く見えても僕よりも何千年も歳をとり、生きてきたのだ。永琳先生から聞いた話だととても過酷な人生を歩んできたという。望まれない子として生まれてきた彼女は父親からも母親からも愛されず、ずっと一人で生きてきたらしい。それでも父親を愛しており、父親を辱めた輝夜様を憎み、奪った薬を飲んで不老不死になってしまった。そこからの人生がどれほど過酷なものだったのか、想像でしか知ることは出来ない。でもきっと幼き虐げられてきた日々よりも辛いものだったのだろう。不老不死という人ならざる者になってしまった彼女は自分の家に帰ることも出来ず、妖怪の住む竹林に隠れ、生き延びてきたのだろう。いや、きっと何度も殺されたのだろう。何度も殺され汚され犯され何度も何度も何度も苦しい思いをして、輝夜様を見つけ殺しに行き殺されて殺し殺され殺し殺され殺し殺し殺し殺され殺され殺され何千年もそんな日々を続けてきて。
 だけど、そんな陰惨なばかりの日々も近頃は穏やかなものになったんだという。友人が出来たのよ、と永琳先生は言っていた。人に愛されることを知り、人を愛することを学んで、それがつかの間のものだとしても、幸せというものをようやく見つけたのだ。と永琳先生が教えてくれた。
 それはきっと素晴らしいことだ。こんな可愛らしい少女が幸せになれたんだとしたらそれ以上に喜ばしいことはないだろう。
 幸せとはなんだろうか。それは僕の人生の命題でもある。愛こそが人生の幸福である思ってた時期もあった。でも今はその答えを見失いかけている。
 だから、僕はその答えをこの少女に問いたい。彼女との出会いを通して、彼女を知ることで、きっと僕はその答えを得ることが出来るはずだ。
 しばらくすると妹紅という名前だった少女は目を覚ました。目覚めたばかりで意識がはっきりしていないのだろう。きょろきょろと薄暗い周囲を見回していたが、僕の姿と――自分の両手足に繋がれた鎖に気付くと警戒するように目つきを細めた。
「だ、誰だ!?」
 あまりの無礼な物言いにむっとしたが、状況を分かってないのだから仕方あるまい。ペットを躾けるのもご主人様の役目だ。
 僕は彼女の元へ近づくと、その白い頬に平手打ちを食らわしてやった。
「うるせぇ豚」
 家に帰ってくるまでの間に、僕は彼女のことを豚として扱うことに決めていた。ペットに名前をつける人は多いが、家畜にまで名前をつける人間はいるまい。
「……は?」
「お前今まで散々姫様に迷惑をかけてたんだってな。あのお屋敷を修理するのにどれだけ金がかかるのかわかってんのか?お前のボロ小屋とはわけが違うんだぞ」
「っ!お前輝夜の手先か!」
 豚は慌てて噂に聞く炎の妖術で僕を殺そうとした……が、出るはずもあるまい。その首輪がしてあるのだから。
「あ、あれ……なんで……」
「その首輪には博麗神社から買った護符が仕込んであるんだよ。妖怪に困ってるって相談したら霊夢さんがくれたんだ。人に迷惑しかかけないお前と違って出来た人だよな霊夢さんは」
 キッと、反抗的な目で睨み付けられる。再び平手打ちを食らわしたが、反抗的な瞳の色は消えなかった。
「お前に何がわかる!あいつは私の父親を……!」
「相手にされなかっただけだろ?大体お前、父親から愛されてもいなかったんだろ?お前が一方的に父親への侮辱に憤ってただけだろ?そんなお前が何千年も姫様に迷惑をかけて……そりゃあ俺によこされるわけだわ。あのな、お前いらなくなったんだってさ。今までは姫様の遊び相手がお前ぐらいしかいなかったから相手にしてやってたんだけど、オモチャが増えたからもういらないんだとさ。キレるばかりのメンヘラなんざ捨てられて当然だわな」
「なん……」
 いい加減態度がうざくなったので鳩尾を思い切り蹴り飛ばした。妖力のない状態じゃ耐えられなかったのか、床一面に胃液をぶちまけた。
 まだ吐き続けてる豚の髪を引っ掴み、顔を持ち上げてやる。さっきよりも憎悪の影は薄くなり、代わりに恐怖の色が見てとれた。
「なあ、幸せってなんだ?」
「……え、え?」
「お前にとっての幸福ってなんだって聞いてるんだよ」
 彼女は本物の豚のような荒い息を吐き続けるだけで、答えらしき答えは一向に出てこなかった。まあいい。どうせこいつに聞いて答えが出てくるなんて期待しちゃいなかったのだから。僕はこいつという人間を知ることだけに興味があるのだ。
 僕はとりあえず彼女の服を脱がせることにした。だが両手足は拘束してあるというのに、彼女はバタバタと動き回ってなかなか脱がせることが出来なかった。
 こんなことなら寝てる間に剥いとけば良かったなと思いつつ、永遠亭から借りてきた道具を倉庫から見つけ出し背中に背負った。これを使うと他の所まで無くなってしまいそうだけど、仕方あるまい。
 火炎放射器だ。何千年も前に月から持って来た、当時の最新の対人兵器らしい。
「お、おい……何するんだよ……」
「だってお前、脱がないんだろ?じゃあ燃やしちゃおうかと思ってさ」
「頭おかしいよ……え、冗談だろ?そんな物騒なもんしまって……」
 未だに立場をわきまえてない発言にカチンときた。どうやら上下関係を分からせるためにも、一度ぶちかましてやらないとならないらしい。
「そら、炙りベーコンだ」
 冗談を言いながら放射すると、まるで決壊したダムのように目の前で炎が爆発した。
「わああああああ、あ、あああああああ、ごぉああああああああ」
 思い描いてたよりも暴力的に炸裂したそれは爆風で彼女を壁まで吹き飛ばした。初めは人間らしい悲鳴だったそれはやがて胃の空気を掻き出すような叫びに変わっていく。周囲の酸素ごと焼き尽くしてるからおそらく息も吸えないだろう。やがてはき出す空気もなくなったのか、液体のようなものがびしゃびしゃと溢れ出す音が聞こえてきた。
「ぶ、じゅぶうるるるるる、ぶるるるる、あ、あ、お、あ、」
 燃やしてる最中、地下室の中は今まで嗅いだこともないような異臭に満たされた。なるほど、人間の肉と脂を燃やすとこんなおぞましい臭いがするのかと関心してしまうほどだ。
 一分もしないうちに僕の方がその熱波と異臭に耐えきれなくなって放火を止めて外まで新鮮な空気を吸いに行った。地下室が石造りじゃなければ家まで燃えてたかもしれない。狭いところで使う物じゃないなと少し勉強になった。
 すぐに戻る気になれなかったので、時間をつぶしてから戻ることにした。地下室の中はきっと酸素もない劣悪な環境になってることだろう。豚には丁度良いが僕は入りたいとすら思わなかった。
 しかしこんなにも怖ろしい火炎放射器が人に向かって放つものだなんてにわかには信じられなかった。こんなものを気軽に渡してくる永琳先生は、やはり利用こそすれど信頼のおける相手ではないと再確認した。
 しばらく経ってから、様子を見に地下室まで戻ってみた。相変わらず悪臭は漂っているが、まあ換気も出来ないので仕方あるまい。
 そして足下に転がっている焼き焦げたボロ切れが皮膚にこびりついてるだけの姿の彼女を見て、僕は改めて驚いた。
「すごいな、本当に死なないじゃないか」
 焼いてる最中は皮膚も焼き爛れ、沸騰した眼球が破裂し、酸欠のあまりの苦しみに喉を掻き毟り肉を削ぎ落としていたはずの傷が一切完治していたのだ。
 だが心の傷までは癒えていないようで、床に這いつくばりながらも部屋の隅に駆け寄り僕を睨み付けていた。だがその瞳の奥には、先ほどまでには無かった恐怖の色がはっきりと見て取れる。
「不老不死なんかちょっと信じられなかったけど大したもんだな」
「……お前は何をする気だ……」
 やはり普段から殺し合ってるからか、妖力を封じられてると言えどもこれぐらいのことでは屈しないらしい。
「おいおい、だから豚は人間の言葉を喋るなって……まあいいか」
 仕方がないので屈服させるのは諦めて天井の柱にロープを引っかけた。人一人をぶら下げても切れないぐらい丈夫なロープだ。
「はっ、自殺でもしようってのか?それとも無理矢理私を吊り下げる気か?いくらでも私を弄ぶといいさ。でもな、いつか――ガァッ」
 そのうるさい口の中に蹴りを放り込んでやった。勢いよく引き抜いたので何本か歯が靴に刺さって抜けてしまったようだが、自業自得だし、また生えるだろう。
「オ、オェェ……ぐ、くぅ……」
「うるさいなぁ。そんな無駄なことするわけないだろ?殺したってお前どうせ生き返るんだし。それよりほら、お前、足出せ」
 殺意のこもった眼差しを向けてきたが、抵抗しても無駄だと悟ったのだろう。素直に両足を差し出してきた。
 僕はその両足を先ほどのロープに結んでゆっくりと引っ張り上げた。女の子といえど人間の体重はそれなりに重くて大変な作業だったが、なんとか逆さ吊りが完成した。
「……拷問でもする気か?」
「家畜に拷問なんてしてどうするんだよ」
 彼女の身長並にある桶を、その逆さ吊りにした彼女の真下に置いた。桶が大きいので彼女の顔がすっぽり隠れてしまったがこの際関係あるまい。
「じゃあ、何を……」
 視界が隠れたおかげで僕が何をやろうとしているのか分からないのだろう。彼女の声は先ほどよりもか細く震えていた。
 僕は持って来た鉈を彼女の首筋にぴたりと当てて照準を合わせてから。
「血抜き」
 真っ直ぐに引き抜き、ばっさりと首から頸動脈を切り裂いた。
 血が噴水のように桶の外まで吹き出し部屋を汚したが、しばらくすると重力に従って上から下へ落ちて桶の中へ溜まっていった。
「おっと、くっついてると再生しちゃうかもしれないからな」
 僕は首の断面から上を持ち上げて、彼女の無駄に長い髪で縛って正面を向かせるように固定した。彼女はぱくぱくと口を開いていたが、のど笛まで切り裂いてしまったせいか擦れたような風の音が聞こえるだけだった。
 じゃぶじゃぶと桶に血が注ぎ込まれていくのを確認すると、血が抜けきるまで待つべく地上へ戻ることにした。外を見てみると陽が落ちていたのであり合わせの食事で夕食を済ませるとベッドに向かった。
 普段慣れないことをしたせいで疲れていたのだろう。横になるとすぐに眠りに落ちてしまった。人間一人を血抜きするとなると相当な時間がかかるだろうから、眠って待った方が気が楽でいい。
 次の日、窓の外を見てみると運動したくなるぐらい晴れの日だった。歯を磨いてから天狗の持って来た新聞を読みながら朝食を食べると、地下室の様子を見に行った。
 ここでふたつ誤算があった。ひとつは、人間の血液というのは時間が経てば経つほど悪臭を放つもので、密閉された空間である地下室は憎悪的なまでの腐臭を漂わせていた。おかげでさっき食べたばかりのパンとコーヒーを吐きそうになったが、なんとかこらえて奥まで進んだ。
 もうひとつは、彼女の身体のことだ。不老不死なんだから血ぐらい抜いても生きていられるだろうと思っていたのだが、血は彼女の体積を超えてなおも流れ続けていたのだ。質量保存なんてあったもんじゃない。切り口が血に浸かっていたので流血の勢いこそ衰えていたが、血液は桶の容量を超えて地下室の床一面に溢れかえり、当の彼女は自らの血で溺れていた。
「あーあ……ちっ」
 仕方ないので彼女の足に繋がれたロープを鉈で切った。彼女はそのまま真っ逆さまに血の桶の中に落下し、その勢いで桶が倒れ血と共に彼女が吐き出てきた。さながら出産場面のようだ。鎖と首輪を身につけて生まれてくる赤ん坊なんて滑稽だが。
 固定してあった髪を床に転がっていた鉈で切って首をくっつけてやり、頬を叩いて目を覚まさせる。何度目かでようやくまぶたを開けたが、その瞳からは生気が失われていた。
「おい」
「……はい」
 半日もの間血を流し溺れ続けたせいか、少しは従順になっていた。なんだ、初めからこうしてればよかったのだ。やはりこの手の輩は精神的に追い詰めるに限る。
「この血、桶の中に戻して片しとけよ。あとで雑巾も持って来てやるから。仕舞いきれなかった分は、飲め」
「……はい……」
 こくりと頷いてから、かつて自分の身体を流れていた地下室の血を手で掬って桶の中に入れ始めた。
 サボらないように最後まで見届けてやることにした。ある程度溜まったら僕がその桶を外まで捨てに行って、桶を持って行ってる間は自分で飲ませることにした。血のなみなみ溜まった桶を階段を上って持って行くのは結構な重作業で良い運動だと思い込むことにした。
 彼女が床に口をつけて血を啜ってる様は、さながら本物の豚のようで滑稽だった。
「ず……じゅる……げ、げほっ」
「おいおい咽せるなって。自分の血なんだから汚くないだろ?」
 笑いながら声をかけてやると嫌悪感を持った眼差しを向けられたが、睨み返すと肩を震わせて目を逸らし、血で染まった床に舌を這わせる作業に戻った。その態度が気に入らなかったので腹を蹴り飛ばしたが、もうこちらに視線を向けようとすらしなかった。
 半日ほどかかってようやく地下室を沈めていた血を片付けることが出来た。床に染みこんだ腐臭は消えないが、まあ仕方ないだろう。どうせ臭いの元は一生死なないんだから。
「よしよし、お疲れ」
 良いことをした家畜に頭を撫でてやる。すると、彼女にどんな心の動きがあったのかは分からないが、ぼろぼろと大粒の涙を零し始めた。身体を焼かれても喉笛ごと頸動脈をかっ切られても泣かなかった彼女がだ。
 その姿を見て唐突に彼女のことが少し可哀想になった。なんといっても彼女は少女なのだ。何年生きようと何千年生きようともその本質は変わらない。そして何より、彼女は幸せだったはずなのだ。……つい三日前までは。
 だが仕方ない。僕だって幸せになりたいのだ。そして幸せというのは誰にでも平等に与えられるわけではないのだ。幸せな人間という席は限られていて、もしも自分が不幸で、けれど幸せになりたいと望むのなら、幸福という席にいる人間を蹴落とすしかないのだ。それも二度と這い上がれないように人間以下の存在に。
 だから僕はこいつを畜生にまで堕とす。人間の餌にしかならない畜生にまで。
 僕は倉庫からハンマーを持って来た。十キロぐらいある巨大なハンマーだ。
 それを見て彼女は怯えるように部屋の片隅にまで逃げていった。こんな狭い部屋の中、逃げられる場所なんてないというのに。
「逃げなければ一回で終わるぞ。逆に逃げるんなら、お前を痛めつけて逃げられなくしてからやらなきゃならなくなる」
 その言葉を聞いて、彼女はすべてを諦めたように僕の前に正座し目を瞑った。普通の人間ならこう言ってもここまで従順にはならない。おそらく彼女は痛みに慣れすぎているのか――あるいは豚としての自覚が芽生え始めたということだろう。
 僕は目を瞑りながら恐怖で震える彼女の下顎に向かってハンマーをフルスイングする。鈍い音がした。骨と肉が潰れるようなぐしゃりという音だ。もちろん僕の力じゃ顎が吹き飛ぶみたいな極端なことにはならないけど、頭蓋骨と顎が完全にずれてひしゃげた。
 豚みたいな悲鳴をあげてのたうち回る彼女の顔面と首を両足で踏みつけ固定させて、口の中に手を突っ込んだ。顎が粉砕したおかげで口が開きやすくなっていたが、肝心の舌は唾液で掴みにくく引っ張るのにとても苦労した。それでもなんとか舌を掴み喉ごと引っこ抜けそうなぐらい引っ張りあげると、背中に隠し持っていた小斧を右手に持って、口内めがけて振り下ろした。
 一撃目は彼女の口をより大きく裂いただけで留まった。二撃目で舌まで届いたが、断ち切るまでにはいかなかった。三撃目でようやく舌を切断し引っこ抜くことが出来たが、全体重を注いで引っ張っていたので舌を切ると同時に大きく転倒してしまった。
「いってー。くそ……」
 強く打った尻をさすりながら彼女の方を見てみる。びくびくと泡を吹きながら痙攣していた、もしかしたら残った舌が喉を塞いで窒息しているのかもしれないが、まあ生き返るだろうし。どうでもいい。
 早速取れた妹紅の舌を塩水で洗い出来るだけ血を抜き、適当に捌くと地下室に戻って彼女の前で七輪で焼くことにした。戻ってきた頃には再生していた彼女は今にも吐き出しそうな顔でその光景を見ていたが、特に気にする必要はあるまい。鶏小屋の前でフライドチキンを食べるようなものだ。
 ネギ塩を乗せてしっかりと焼きあげおそるおそる食べてみる。そしてお味は……。
「……うえぇ」
 不味かった。
 今まで食った肉の中で一番なんじゃないかというぐらい不味かった。もっときちんと肉の処理なんかをしてれば違ってたのかもしれないが、それにしても元の肉が不味すぎる。人間の肉なんて食えたもんじゃないな。
「……もういいや、残り食っていいぞ」
 残った彼女の舌(妹紅の舌だからもこたんという料理名にしようと思っていた)を地面に投げてくれてやる。彼女は絶句したように首を振り拒絶したが、食べ物を粗末にするわけにはいかないので半ば無理矢理食わせた。途中で吐き出してしまったが、汚いのできちんと吐瀉物も食わせた。
 これは肉を育てるところから始めなくてはなるまい、と僕は決意した。どんぐりのような木の実だけを食べさせて育てる豚もあるらしいから餌から厳選させよう。人間を美味い肉にするなんて大変だろうがそれだけにやり甲斐はある。それになんといっても家畜は死なないのだからいくらでも実験が出来る。
「これから一緒に頑張ろうな、妹紅」
 愛情を持って育てるのが飼育の基本なので、名前を呼んでやることにした。これからは二人三脚で頑張らなければならないのだから。
 妹紅は泣いて喜んだ。
過去に前例が沢山ありそうな内容ではありますが、恐れ多くも投稿させていただきます。
予想してたより長くなりそうだったので前後編みたいな感じです。後編は近いうちに書けたら書きます。
戦車タンク
http://www.pixiv.net/member.php?id=7296638
作品情報
作品集:
8
投稿日時:
2013/06/23 05:30:59
更新日時:
2013/06/23 14:30:59
評価:
3/3
POINT:
260
Rate:
14.25
分類
藤原妹紅
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1. 100 NutsIn先任曹長 ■2013/06/23 23:19:21
彼は、果たしてどんな創作料理を作るのだろうか。
何てったって、『食材』は無限に使えるからね〜。

ところで、彼は永遠亭の『常連』で、鈴仙に嫌われるような趣味趣向の持ち主だそうだけど――。
今回の件は、ひょっとしたら永琳が彼に行っている『仕事』の一環か?
2. 60 名無し ■2013/07/28 16:50:49
後編こいや〜
3. 100 名無し ■2013/08/27 22:47:58
後篇待ってます。
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