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『産廃創想話例大祭A『眼球巫女』』 作者: 仙人掌うなぎ

産廃創想話例大祭A『眼球巫女』

作品集: 8 投稿日時: 2013/07/02 09:37:33 更新日時: 2013/07/02 18:37:54 評価: 10/11 POINT: 950 Rate: 16.25
 いつの間にか眼が増えていた。減るならまだしも増えてしまったのだから手に負えない。


 朝起きてお茶を飲み朝食を済ませお茶を飲み掃除をしてお茶を飲んだところで、あまりに暇すぎたのでお賽銭でも確認しておこうか、とほとんど期待せずに賽銭箱を覗いてみたら、お賽銭はいつも通り清々しいほどにすっからかんだったけど、眼球が一つ入っていた。慌てて取り出してみると、私の眼球だった。
 私の眼球。いやいや、そうとも限らないんじゃないだろうか、と思い直す。直感的に私の眼だと思ったが、そうだと断定する根拠はないじゃないか、と。しかしいくら私でも自分のものと他人のものを見間違えるなんてことがあるわけなかった。それが身体の一部ならなおさらだ。少し大きめの黒い瞳を持ったそれはまさしく私の眼球に他ならなかった。
 ということは、と私は両目をまぶたの上から触ってみたが、無事に柔らかい目の感触が返ってきた。次に左右の目を交互に閉じたり開いたりして確かめてみたが、やはりどちらも問題なく機能しているようだった。
 つまり、寝ている間に目玉が外れてそのままころころ転がってどこかにぶつかって跳ねて弾んでアクロバティックな動きをしているうちに上手い具合に賽銭箱に入ったわけじゃない。今、私の眼球は顔についている二つとこの得体の知れないのとで合わせて三つある。

 三つの眼と言えば、真っ先に思い浮かぶのは古明地さとりの不機嫌そうな顔だ。さとりは心を読む妖怪だから、そのための第三の眼を持っている。でも、私のこの眼は私の空を飛ぶ力が関係しているようにはとても思えないし、さとりみたいに身体に繋がってない。
 さとりのペットの霊烏路空が手に入れた第三の眼は取り外し可能らしいけど、それにしたって身体にひっつける用意があったはずだ。こんなふうに眼球だけポンと渡されたって困るだけなのだから。
 それ以前に、私は妖怪じゃなくて巫女だ。巫女は人間だ。私が知る限り眼が増える人間はいない。特に二つより多くするのは努力でどうにかなる話でもない。そんな努力をした記憶もない。
 しかし、現にここに眼球がある。あるんだからこれがひとまず第三の眼と言うべき物体だと思うことにする。でもだからといって、そんなもんどうしろというんだ。三ツ目の巫女にでもなれというのか。
 意味がわからないし、それはもう巫女じゃなくて妖怪だ。
 手持ち無沙汰にしていたら、茄子色の傘が空をふわふわ移動しているのが見える。多々良小傘。ああ、そういえばこいつも三ツ目の妖怪と言えないこともないな、とぼんやりと思う。
 多々良小傘はのろのろとこちらに向かって飛んできて、私の前に着地すると、目と舌がひっついた自慢の傘を大げさに掲げて「おどろけー!」と叫ぶ。もちろん驚かない。驚かすならせめて相手が油断しているところに突然出てくるくらいはしなきゃならない。前方からゆっくり近づいてくる時点で明らかに間違えている。小傘自身もそんなことは当然承知の上であるらしく、つまりこの唐傘お化けにとっての挨拶代わりのつもりなんだろう。

「三ツ目だって別にいいじゃない。私とおそろい」
 私の眼について、小傘はそう言って笑う。
「私だってこういう妖怪だから三ツ目にしてるってだけで深い意味はないし」
「それは妖怪の話でしょ」と私は言う。「私には二つがちょうどいいの」
「ふうん」と小傘。「でもそれだと、一つ余分になっちゃうよ」
 そんなことはわかっている。だから困っているんだ、と私。
 すると小傘が、
「いらないんならさ、一つ貰っていい?」
「貰うって、こんなものが欲しいの?」
 と訊くと、小傘は「だって、霊夢の眼って、キレイだし」と恥ずかしそうに答える。
 私は考える。眼球なんて貰ってどうするんだと思わないでもないが、余っているならば誰かにくれてやってしまえばいいというのはもっともな発想だ。それにこのまま持っていてもどうしようもない。じゃあいいか。
「そんなに欲しいなら、あげてもいいけど」
 と私は眼球を持った右手を小傘に差し出す。
「ありがとう!」と嬉しそうな声を上げた小傘は、しかし私の左目に指を突き立てる。バツン、と私の眼がこぼれる。小傘はそれを口に含み、バリバリと音を立てて食べ始める。
 あまりのことに呆然と立ち尽くす私の前で、小傘は私の眼を噛み続ける。やがてごくりと飲み込み、「ごちそうさまでした」と仰々しく頭を下げる。
 ごちそうさま、じゃない。
「いや、誰が顔から眼をとれっつったのよ。この、余分なほうの眼を食べなさいよ。つーか食べんな」
「え? ……あ、ごめん!」と小傘。「どれかひとつ食べていいってことかと」
 こいつ、もしかしてすごいバカなんじゃないか。というか、あげるとは言ったけどまさか食べるとは思わなかった。そういえばこいつも妖怪だった。人間を襲う妖怪じゃなかったはずだけど、人を食べられないってわけでもないようだ。
 眼球をとられた左目が少し痛むが、騒いでもしかたがないので、空いた左目に第三の眼を入れてみる。さすがに私の眼球だけあって見事にぴったりだったが、それで左目が見えるようにはならなかった。もしかしたらとも考えたんだけど、そう都合よくはいかないらしい。当たり前と言えば当たり前か。
 ちょっと意外なことになってしまったけど、とりあえず目玉の数は二つに戻ったので、さっきまでよりは幾分マシになっただろうと思う。見えない左目は少々不便だが、三ツ目のままでいるよりはずっと自然だ。
「でも、おいしかったよ」
 と小傘が謝りながら言う。
 それはなによりだ。
 なによりで、すごくどうでもいい。


 翌日、起きると左目が見えるようになっていた。
 なんだ、時間を置けば治るんだったのか。安堵した私はお茶を飲み朝食を済ませお茶を飲み掃除をしてお茶を飲み、やっぱり暇すぎたので賽銭箱を覗く。
 また眼球が入っている。
 またしても私の眼球だった。そしてまたしてもお賽銭はなかった。
 いったいどういうことだろう。お賽銭はもう諦めてるからいいけど、問題は眼球のほうだ。昨日見つけた眼球は昨日、私の左目になった。今でも変わらず左目のままだ。それまで左目だったものは小傘が食ってしまった。右目は生まれてこのかた一度も変わっちゃいない。
 ではなんでまた眼球があるのか。
 小傘が食べたのを含めると、眼は四つ。三つだって十分すぎるくらいに奇怪だと言うのに、四つは百歩譲っても多すぎる。いや四つだけならまだいい。この調子じゃ、明日も眼球が出てくるかもしれない。明日だけじゃなくてこれから毎日。あるいは、やっぱり私は三ツ目巫女で、小傘が一つ食べてしまったから、三ツ目になるように新しい目玉が湧いて出てきたのかもしれない。ますます人間から遠ざかっている。
 どっちにしたって、仮にまた小傘に目玉を食わせたとしても、次の日には新しい眼球が出てくるんだったら根本的な解決にはならないってことだ。それに小傘だってそんなに頻繁に神社に来るわけじゃない。一番良く来るのは霧雨魔理沙だけど、魔理沙はおそらく眼を食べない。
 だからその小傘が今日もやって来たのを私は怪しむ。小傘が二日連続で神社に来ることなんて滅多にないのだ。昨日と同じくふわふわと飛んでくる唐傘お化けを眺めていると、私はひらめく。
 まさか、時間が巻き戻っているんじゃないか。
 どういうわけか、一日分の時間が巻き戻っているとしたら。そしたら今日は昨日だ。昨日の繰り返しだから眼球が現れるし、小傘がやって来る。これはありそうじゃないか。少なくとも毎日眼球が増えるのに比べたら、ずっと納得できる。

 だけど小傘は今日の日付も昨日食べた私の眼球の味もしっかり覚えていたし、我が家のお茶もきっちり飲んだ分だけ減っていた。昨日を繰り返してなんていなかった。
 実際のところは、小傘が来たのに特別な理由はなく、ただ単に退屈していたからというだけらしかった。
 ちなみに、私の眼は苦みが効いていたけど歯応えがありすぎる、だそうだ。
 そんなこと知るか。
 そんなこと知るかと憤る私を、なぜか小傘は面白そうに見ている。
「霊夢、昨日見えなかった左目が今日になって見えるようになったんだよね?」
 小傘が確認し、私は頷く。
「じゃあ簡単だ。その眼はもともと今日あるべき眼だった」
 と小傘が言う。
「霊夢の眼は一日ずつずれてるんだ。たぶん二十四時間、未来から過去へ。霊夢の眼球は、本来の場所から二十四時間前の賽銭箱まで吹っ飛ばされた」


 昨日の賽銭箱から出てきたのは《今日の眼球》で、今日の賽銭箱から出てきたのは《明日の眼球》。明日の賽銭箱には《明後日の眼球》が、明後日の賽銭箱からは《明々後日の眼球》が出てくる。
 昨日見つかった眼は《今日の眼球》だから、昨日のうちは見えなかった左目が今日は見える。今日の賽銭箱から出てきた《明日の眼球》は、明日になったら《今日の眼球》に代わって左目になる。
 と小傘は言うが、わけがわからない。
 私は言い返す。
「でも、私の左目は、昨日あんたが食べちゃったじゃない」
 昨日の時点で私の左目はなくなっているんだ。今日も明日も眼が存在するはずがない。
「だって、食べたのは《昨日の眼球》だけだもん」と小傘が言う。「《今日の眼球》は食べてない」
「だから、その《昨日の眼球》を食べたのになんで《今日の眼球》があるのよ」
 すると小傘は呆れ顔で、
「何言ってるの霊夢。《昨日の眼球》を食べたって《今日の眼球》がなくなるわけないじゃん」
 なんだそれは。眼球に昨日も今日も明日もあるもんか。と言おうとしたが、思いとどまる。
 なんてったって多々良小傘だ。普段だったらこの能天気な妖怪は当てならないし頼りにもならないけど、眼球に関することならば小傘は私よりずっと詳しいに違いなかった。小傘は常日頃三つの目玉を持っているのだから。ほとんどの者が二つしかもっていないのに三つもある。しかも物心ついたころからだというから、まさにあの古明地さとりに匹敵する眼球の持ち主だと言える。
 その小傘が言うのだから、冗談や思いつきじゃないかもしれない。
 それでも疑問はある。
「小傘の言う通り一日ずれているとして、このまま明日になると、私の左目はどうなるのかしら?」
 昨日は左目を食われてしまったけど、今日も食われるつもりはない。すると《今日の眼球》が目に収まったまま明日を迎えることになる。
「普通に考えると、明日になったら《今日の眼球》は消滅してて、で、代わりに《明日の眼球》が霊夢の左目に入ってる。じゃなかったら、《今日の眼球》じゃ目が見えなくなってて、霊夢が自分で《明日の眼球》と交換するのかも」
 それが毎日続くのか。面倒だし、気味が悪いじゃないか。そう呟くと、小傘は何をおかしなことを、とでも言いたげな表情で私を見る。
「だから、さっさと明日に返してしまえばいいじゃない」
 明日に返すって、そんなことできるのか、と私は困惑する。
「そりゃあ、過去に動かせるんだから、未来にだって動かせなきゃならないでしょ」
 それはどうやるのかと訊くと、そんなの決まってるじゃん、と小傘。
「二十四時間後の霊夢の顔めがけて思いきりぶん投げるんだ」
 ぶん投げるだなんて簡単に言ってくれるが、二十四時間後の私なんていったいどこにいるんだ。
 もちろん明日だろうけど、そうじゃなくて、どこを向いて投げれば明日の私にぶつけることができるんだ。
「そうだねえ、たぶん」と小傘は空の一点を指差す。「あっちじゃないかな」
 私も空を見上げる。雲一つない青い空だった。なるほど確かに明日がありそうな気にはなる。
 だけどここで《明日の眼球》を投げて、明日の私にぶち当たったとして、明後日以降の眼球も元に戻るのだろうか。全ての眼がきっかり一日ずつ未来に吹っ飛んでくれるとありがたいんだけど。じゃなきゃあまり意味がない。

 まあ、いいか。
 このままでいたって、しかたないんだから。


 私はそれを、思いきり放り投げる。投げた後で、もしこれが明後日か、一ヶ月後か一年後か十年後のほうに投げていたとしたら、と考える。だったらもっとややこしいことになるかも。でもそれはもうまっすぐに飛んでいってしまっている。

 そしてすぐに見えなくなる。
霊夢の眼球は少なすぎる。
仙人掌うなぎ
作品情報
作品集:
8
投稿日時:
2013/07/02 09:37:33
更新日時:
2013/07/02 18:37:54
評価:
10/11
POINT:
950
Rate:
16.25
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産廃創想話例大祭A
霊夢
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POINT
0. 30点 匿名評価
1. 100 NutsIn先任曹長 ■2013/07/02 20:10:17
あなたの作品といえば、目玉、ですね。
ナンセンスと言うか、哲学的というか……。
まあ、面白いですよ。



巫女は一体何を見ているのか。
過去を振り向かず、未来を見通しているのか。
唐傘お化けに目玉を食われた。
今日は酷い目美味しい目。
明日は明日の御目が来る。
さよならバイバイ。
見えなくなるまでお目送り。
2. 100 智弘 ■2013/07/02 20:21:17
博麗さんはメンテナンスが大変そう。
最後の部分が好き。
4. 90 穀潰し ■2013/07/02 23:25:45
こがれいとは新しいな……え? そういう問題じゃない?
こまけぇこたぁいいんだよ!!
5. 100 名無し ■2013/07/03 01:56:41
届けこの目玉
6. 70 まいん ■2013/07/07 15:05:30
この霊夢も人間を超越している。
最後の見えなくなったは普通なら消えてなくなったと読めるが
視力を失ったともとれる気がした。
7. 100 汁馬 ■2013/07/13 21:19:42
霊夢ちゃんの目玉はどこで食べることが出来るんですか!
8. 60 あぶぶ ■2013/07/14 23:11:06
作者さんは眼球抉り取られた事でもあるのか?
心理学者にこの人の作品を評価してもらいたい
9. 100 んh ■2013/07/21 02:09:13
徹頭徹尾狂った状況なのに、あくまで冷静な霊夢が、とても霊夢らしくてかっこいいと思いました
10. 100 県警巡査長 ■2013/07/26 12:51:40
もしかして、この現象は霊夢が死ぬまで続くのですか・・・?
11. 100 名無し ■2013/07/27 20:56:09
眼球という存在の連続性が無くなってしまった
とてもSFチックで大好物でした
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