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『産廃創想話例大祭A『腑分け』』 作者: 日々の健康に一杯の紅茶を

産廃創想話例大祭A『腑分け』

作品集: 8 投稿日時: 2013/07/05 16:42:57 更新日時: 2013/08/06 14:52:08 評価: 8/11 POINT: 710 Rate: 12.25
暗い。眼は覚めたのに瞼が開かない。というか体が動かない?腕に力を入れようとしてもぴくりとも動かない。感覚が鈍い。正座の後のシビレが全身に広がってる感じ。
それに頭が割れそうに痛い。鬼と飲み比べした後の二日酔いでもここまで痛くない。
これに一番近い感覚は、そうだな、間違って実験用の薬品を落としたときだな。火の中に。もう家中煙だらけで死ぬかと思った。まあ実際に死んだのは害虫どもだったがな。家の周りに黒い波ができたっけ。家賃を払わないバチがあたったんだな。
いやそんなことはどうでもいいんだ。重要なのはなんで眼が開かないか、体が動かないか、感覚が無いのか、こんなに頭が痛いのかだ。うんうん我ながらよく纏まってる。オーケーオーケー。パニックにはなってない。
で、ここはどこだ?今は何時だ?私は誰だ?
名前は分かる。霧雨 魔理沙だ。普通の魔法使いで魔法の森で暮らしてる。
場所は分からん。今は何か冷たい金属の板の上で寝ている。というか硬い。背中痛い。腰も痛い。枕も無いから頭も痛い。もしかしてこの頭痛って枕が無くて頭に血が昇ってるせいかもしれん。
服は眼が見えないから分からんが背中から感じる冷たさからするといつものやつを着ているっぽいな。流石に裸だと乙女の何かが危ない。
寝返りでもしようかしてみたが体はやはり動かない。くそめ。お上品に言うなら肛門から排泄される半固形物って所か。余計汚くなりやがった。やっぱり糞だ。糞に限る。
何か埃臭い…って息出来るのかよ?ためしに深呼吸してみようとしたがピクリとも胸が動かない。なんとももどかしいぜ。
まあこれで窒息死っていう最悪の結末は逃れたな。息が出来てるんだから多分死んでないだろうし。それともこれが臨死体験ってやつか?体が動くようになったら研究してみるのもありだな。
それともこれは悪い魔女に魔法をかけられて王子様のキスでも必要になったとかいうあれか?りんごは季節じゃないし知り合いに王子様もいないな。神子がそれっぽいっちゃそれっぽいけど何か違う。王子というよりは裸の王様と愉快な従者一向といった所だなあの仙人たちは。おあつらえに魔女代わりの悪い仙人と死体も居やがる。
時間も分からん。というかこうなる前何をしていた?ここにいるのは自分の意思で来たのか。誰かに運ばれたのか。運んだ奴がいるとしたらそいつは、もしくはそいつ「ら」は気が利かないってことは分かった。客をこんな所に寝かせやがって。腰が痛くなるだろうが。
…くそっ。頭が痛い。思い出せん。
声が聞こえる。

「…ぬ収穫だっ……り返しに行ったら…」
「…もどうするん……体なんて…」
「寝ていれば…………いいもんで………」
「………も死なないと思っ…………間だったって……」

よく聞き取れない。耳がまだ寝ているのか?難聴になった覚えは無いんだがな。耳といえばこの前夜雀の屋台で閻魔の悪口を言ってたら後ろからいきなり耳を引っ張ってきやがった。あの時のタイミングの悪さは神懸かっていたな。山で厄神を見たのが原因か?
だがここがどこかもこいつらが誰かも分かった。
ここは馴染みの狩場…図書館で周りにいるのは図書館長のもやしとその司書と門番、あとメイド長。
わざわざ寝てる私をここに運んできたとも思えないが何が目的だ?
顔に圧迫感を感じ瞼がこじ開けられる。
図書館とは思えないほどの光量が圧力を感じるほどに押し寄せてくる。まぶしい。眼がくらんで何も見えん。
不意にそれまでにないほどの頭痛に襲われ脳内で絶叫を上げながら唐突に過去へと記憶が引き戻される。




気がつくと私はセピア色の世界に居てなぜか視線は私の背を見ていた。
おいおいおいおい幽体離脱なんてしてたのかよ。いやいやそんな術を使った覚えは無い。
これは、あれだ。事態を分かりやすくするために脳が記憶を補ってこういう景色を見せているんだ。そうに違いない。
ともかく目の前の私は玄関にたどり着きノブに手をかける。オンボロのロックに解除用の術式を叩き込むようにして入力する。力強く入力するのがコツだ。このロートルはにぶいから丁寧に入力なんてしてたら目を覚まさないからな。ある意味では最高のセキュリティだが流石に新しいものに変えたいぜ。腕も疲れるし。
ロックを解除されたドアを押し開き中に入ろうとした所で…なんだ?また視界がざらついてきやがった。まるで豪雨のように目の前を白黒の線が入り乱れていく。





現実に引き戻された。夢であった方が何十倍も嬉しいがな。もし夢だったら自分のひじにキスしてやりたい所だぜ。まあ無理ってことだがな。
あまり時間は経っていないらしく相変わらずまぶしいが少しは慣れてきたようで周りの景色が見えるようになってきた。
逆光でシルエットしか見えないが瞼を広げているのは美鈴でパチュリーと司書は私の足のほうで何やら話しこんでいる。咲夜は美鈴の反対、つまり仰向けに寝ている私の右隣で腕を組んでいる。
こんなに見渡せているんだから眼も動いてるんじゃないかと期待したがそんなことは無いらしく美鈴は相変わらず瞼をこじ開けている。痛いから速い所その手をどけろ。ていうか爪ぐらい切れ。顔に食い込んで痛いんだよ。

「すごいですね。まるで生きているみたいですよ。瞳が精気で濡れ濡れとしてます。瞳孔も開ききっていないですし。これで気が巡っていたら生きていてもおかしくない所ですね」
「専門ではないからよく知らないのだけれどあなたはその気とやらを巡らせて生き返らせるとかは出来ないの?」
「流れが滞っているとかだったら何とか出来ますが完全に止まっちゃってると駄目ですね。川で例えるなら流れを塞ぐ流木は取り除けますが水の流れ自体が無くなったらどうにも出来ないのと同じです」
「なるほどね。生き返らせて隠している本の場所でも吐かせようと思ったけどだめみたいね。でも本当に生きているみたいね。試しに霊魂でも入れてみようかしら」
「また冥界から採ってきましょうか。箱庭冥界のやつは逃げてしまってもう無いので」

意識の覚醒とともに耳も治ったらしいな。というかこいつらは何を言っているんだ?まるで私が死んでいるみたいな言い方をしているがこいつらは目が節穴なのか?
こうして息もしているしついさっき気付いたが心臓も動いている。脈ぐらいとれよ。何が気だ。サルでも分かる確認法があるじゃないか。サル以下なのか?こいつらのおつむは。

「それにしても本当に生きているみたいですね。今にも喋りだしそう」

咲夜の声。そう言って咲夜は私の顔をぴしゃぴしゃと叩く。

「魔理沙ー?もしもーし。生きているなら何か言ってみてー」
(生きているんだよ!動けないだけで!何でもいいからさっさと医者を呼んでくれ!)

そう絶叫しようとしたが口も喉もうんともすんとも動かない。せめて見つめ合っている目玉を動かして生きていることを伝えようとするが頑として言うことを聞かない。
畜生くそったれ。どうなっちまったんだこの体は。まさか本当に死んでいるとか。いやいやそれだったらこの埃っぽい臭いは、痺れているような感覚は、鼓動を刻む心臓は、背中に感じる冷たさはなんだ。

(助けてくれ!体が動かないんだ!)

顔を覗き込んでいる咲夜に必死に叫びかける。この中じゃ一番気が利くのはお前なんだから気付いてくれ。
だが必死の願いもどこ吹く風で咲夜が私の下あごと上あごをつかみ口を無理矢理開閉させる。

「起きてるゼー。起きてるゼー。起き上がれないから起こしてくれだっゼー」
「咲夜さん…いくら死んでるとは言ってもおもちゃにするのはどうかと」
「あらごめんなさい。お人形みたいでつい童心に返ってしまったわ」

咲夜は顔から手を離しおどけたように手の平をひらひらと振る。美鈴は困惑したような顔でその様子を見つめている。
それにしても何ということだ。人間より妖怪の方が人間の死体に敬意を払うとは世も末だな。咲夜も前々からいかれてるとは思ったがここまでとは思わなかった。フランよりよっぽど狂気にまみれているじゃないか!
不意にまたしてもひどい頭痛と白黒の線が襲ってくる。体が自由に動いたら痛みでのた打ち回っていたに違いない。瞼の裏をがりがりと掻かれる様な不快感を感じながら意識が飛ぶ。



そう…私はドアを開けたんだ。それで中に入ろうとした。
そこで私は右手の小指が凄く痛んで…そうだ。何か噛まれた痛みだ。牙が小指に食い込み毒液を体に送り込んでくる。
思わず振り払うとしてその噛み付いているものが視界に入って―――――




くそっ。また引き戻された。何で思い出せない?ここから起き上がる手がかりが隠されているかもしれないというのになぜこの脳味噌は言うことを聞かないんだ。
今回は少しは時間が過ぎていたようでパチュリーが私の形のいいお気に入りの鼻をガラス棒か何かで弄り回してやがる。鈍い痛みが鼻を蹂躪し非常な不快感が顔を襲う。顔が動くんだったらしかめ面の一つでもかましてやる所だ。
いやまてよ。これは案外悪いことじゃないんじゃないか?もしこのまま鼻をいじられて鼻血が出たら、それも死体とは思えないほどの勢いで流れ出たらひょっとしてこいつらも私が生きていることに気付くんじゃないか?
だったら話は別だ。もっと派手にいじれ。いじり倒せ。派手に鼻血が出るように鼻の奥に棒を突っ込んでかき混ぜてくれ。
だが願いも空しくガラス棒は私の顔を離れ不快感は去っていった。パチュリーは棒の先をしげしげと眺めてから足元のゴミ箱に投げ捨てた。まあ確かに汚いけど露骨に示されると悲しいもんだな。

「じゃあそろそろ脱がせましょうか。お願いできるかしら、咲夜?」
「お任せ下さい。死体の服を剥ぐのは慣れていますわ」
「おねむのお嬢様のお服を脱がせるのにも慣れているんじゃないんですかねぇ、ひっひっひっ」

下品なジョークを飛ばす司書の両目に咲夜が無造作にナイフを突き刺す。司書は何か喚きながら図書館のどこかへと消えていった。

「部下の教育が行き届いていなくて申し訳ないわ。後で躾けなおしておくわ」
「お願いします。事実無根のことを言いふらすような輩は天狗だけで十分ですわ」

咲夜はそう言って私の上着に手をかける。なるほど確かに慣れているようで私の腕が曲がらないにも関わらず素早く脱がす。って感心している場合じゃない。このままだと、私は裸にむかれちまう。何が悲しくて衆人環視の中で裸をさらさなきゃならんのだ。そんな趣味は無いぜ。いやそもそもこいつらは服を脱がして何をするんだ?まさか食うのか?どっちの食べるかは分からないがどっちでも困るぜ。
そんな私の困惑をよそに咲夜は私のスカートも引き摺り下ろしドロワーズとキャミソールを着ただけの姿にされる。おいおいこれ以上はまじでやばいって。冗談で済まされないって。あれだろ?これもレミリアとかの暇つぶしで私を驚かせようとしてるだけなんだろ?それ以上脱がせたら冗談じゃすまなくな

「そうだ。ドロワーズの下は何か履いているかで賭けませんか?」
「あなたも大概ねえ。私は履いていない、にウイスキーを賭けるわ」
「ええ…何ですかそれ」
「あら美鈴は賭けないの?私は履いているに賭けますわ。大穴狙いで破廉恥な下着を履いているに去年の梅酒を」

この変態共が!なに人の下着でギャンブルなんかしているんだ!もうまともなやつは門番くらいしか

「…じゃあ私は履いている、に紹興酒を賭けましょう」

ビッチ!ビッチ共め!地獄に落ち晒せ!ルシファーのケツの穴でもなめてろ!
おい、待て、止めろ!それ以上脱がすな!私の下着に触るな!頼むからやめてくれ!
だがその願いも空しくドロワが引き下ろされビッチ共の元に私の恥が晒された。

「…なんとまあ」
「…これは予想外でしたわ」
「…死体とは言え申し訳ないですね」

ドロワーズの下につけられていたのは、いわゆる、おしめ。それもし尿で汚れた。幸いにも軽く失禁しているだけだ。
ああまた頭痛がしてきた。記憶が戻ってきて私はは全てを思い出した。



私はその日永遠亭から帰ってきたところだった。先日ひどい食あたりを起こしてたまらず駆け込んで治療してもらった所だった。それはもうひどい食あたりで寝かされているベッドのケツのあたりに穴を開けて下痢便を垂れ流すくらいひどかった。
それで大分落ち着いてきたんで薬をもらって退院することにした。料金は高くは無いがそれでも積み重なっていくし食あたりとは関係ない検査も「サービス」でされていて気味が悪かったからな。
問題点はまだケツ穴が緩かったってことだがおしめで間に合わせた。漏れても被害が少ないようにな。無論漏れないように最大限の努力をした上で、だ。
それで私は家に到着してドアを開けると何かに噛み付かれた。その何かは蜘蛛でどうやら知らない間に私の家に入り込んでいたらしい。
そいつがとてつもなく痛くて痛くて。思わず、その、も、漏らしてしまった。大じゃない。箒に誓って。いやホントありえないぐらい痛かった。血管の中を毛虫が這い回っているんじゃないかってぐらい痛かった。腹が緩くなくても漏らしてたかもしれない。何が言いたいのかって漏らしたのは不可抗力だってことを言いたいんだ。決して普段から漏らすようなことはしていないとな。



戻って欲しくなかった記憶を片手に現実に引き戻される。恥ずかしくて死にそうだ。こいつらは絶対に許さない。この屈辱は千倍にも万倍にもして返してくれる。

「そういえば見つけたときは指が晴れていたんでしたっけ」
「右手の小指ね。なんかに噛まれてその拍子にこんなことになっちゃったんでしょうよ」
「流石に同情しますわ」
「とりあえずきれいにしておきましょうか」

パチュリーが片手を上げて呪文を唱えると不快な臭いが消え去っていく。何が起こってるんだ?

「凄いですね。まるで汚れていないように見えますよ」
「舐めても大丈夫なくらい清潔になってるわ。元々は汚れた本の再生のために編み出された術式で起源は古代ローマにさかのぼり」
「どれどれ。…確かに綺麗になってます。処女臭が残っている所が流石ですね」

何が起こっているか一瞬理解できなかった。目の前に写った光景をそのまま描写するなら咲夜が私の、その、おしめを剥ぎ取りいきなり顔に押し付けて臭いを嗅ぎ始めた。こいつはなんなんだ。何が起こっているんだ。いや多分眼がいかれているんじゃないかな。
パチュリーと美鈴があんぐりと口をあけているのに咲夜が気付きいそいそとおしめを顔から放しエプロンに突っ込む。

「いや、これは本当に汚れていないか確かめるためであってですね決して普段からやっているわけでも性的嗜好を満たすためでもお嬢様達の下着を嗅いでいるわけでも」
「分かったから」
「いやいやいや本当ですよ?別にパチュリー様や美鈴の下着は嗅がないなんてことは無いで」
「分かったから!疑ってないから!」

強引にパチュリーが咲夜の言い訳を遮る。なんだか哀れみがわいてきた。私は今回だけだがこいつらは咲夜が洗濯をするようになってからずっとやられてたんだろうと思うとな。
体が動かないのにも慣れてきたのか大分余裕が出てきたな。まあ今までの人生で一番恥ずかしい所を晒したばかりだから感覚が麻痺してるだけなのかもしれんがな。
ぼーっとしていたらいつのまにかキャミソールも脱がされていた。多分おしめを見られる前だったらかなり恥ずかしかったんだろうがなんかもうどうでもよくなってきた。いややっぱり恥ずかしい。生憎人前に晒したいと思えるほどのプロポーションじゃないし。

「そう言えば魔理沙って何歳だったかしら」
「聞いたこと無いですね。この体つきだと二十は言ってないと思いますけど」
「匂いから言えば10代の半ばと言った所ですわ」
「それはもういいから」

勝手に人の体を品定めしやがって。それより咲夜の目算が大体あっているのが逆に怖い。どうやって経験を積んだのかは考えたくも無い。

「じゃあそろそろ始めようかしら」
「器具は必要ですか」
「いや自前のがあるから大丈夫よ」

パチュリーが指を鳴らすと両目にナイフを差した司書が何かの台を運んでくる。車輪の調子が悪いのかガタガタゆれていて中からジャラジャラ音がする。パチュリーが中に手を突っ込んで光にかざす。それが反射した光で眼がくらむが相変わらず瞼は動かない。
それはとてもとても切れ味がよさそうな小型のナイフでパチュリーはそれに続いて挟みや針なんかをその台の箱から手近のテーブルに移していく。
おい。まさか。いや待てよドッキリなんだろ。まさかこれから

「一度魔法の森に対応している人間の腑分けをしてみたかったのよ。あの瘴気に対応するために特殊な構造になっているのかもしれないし」
「少しの間なら私でも大丈夫ですが長い間居ると帰ってきてからも咳が止まりませんからね。特別な何かがあるかもっていうのは正しいかもしれませんよ」
『助けてくれ!助けてくれ!私は生きている!助けてくれ!切らないでくれ!助けてくれ!』

今までこんなに叫んだことは無いというぐらい叫ぼうとするが唇はやはり動かない。それでも諦めるわけにはいかない。全身の体を震わせ手足を1ミリでも動かそうと渾身の力を篭めるが体はピクリとも動かない。

「私は用事があるので失礼いたします。この服とカバンはもらっていいですか?」
「構わないわ。本が出てきたらこっちにちょうだい」
「かしこまりました」

そう言って咲夜は私の服とカバンを持って図書館から出て行く。

「えーと私も仕事があるので」
「別に急ぎじゃないでしょう。手伝いなさい」
「はあ、まあいいですけど」
「とりあえずそこの布巾で体をぬぐってちょうだい」
「さっきのじゃだめなんですか」
「あれ疲れるのよ。古代ローマの魔術師の間で生み出されたもののそのあまりの魔力の消費に」
「はい。わかりました。今すぐ拭きます」
「それにしても咲夜にあんな趣味があるなんて」
「私も知りませんでした。若干その、引きますね」
「これから自分の服は自分で洗うようにするわ」
「そうした方がいいですね。咲夜さんに甘えすぎていたのかもしれません」

美鈴が布巾を濡らし体中をぬぐう。冷たい水を含んだ布で拭かれることで体温が急激に奪われていく。咲夜とパチュリーとは比べ物にならないほどに優しく全身を拭われ清涼感が体中を覆う。あの4人の中では一番まともだ。妖怪とは思えない。

「随分丁寧にやるのね」
「食べ物を粗末に扱ってはいけませんからね。腑分けした後は少し分けてもらえませんか。久々に新鮮な肉を食べたいですからね」
「構わないわ。血はレミィと妹様にとっておいてもらうけど」

前言撤回。こいつもやっぱり妖怪だ。他のやつらがいかれていて影に埋もれていたが妖怪だ。こいつは食う側で私を食い物としてみている。危険度では他のやつに負けてない。

「前面には目立った特長は無いわね。背中を見るからひっくり返してちょうだい」
「かしこまりました」

そういって美鈴は私の腰と肩をつかんでうつぶせににひっくり返す。鼻がつぶれ呼吸が難しくなる。いや待てよ。今度こそ鼻が傷ついて鼻血が出るんじゃないか?そうすれば生きていると気付くんじゃないか。いやこのままだと呼吸が止まって窒息するのが先かもしれない。

「背中にも目立った特長は無いわね。じゃあ体温を測りましょうか。これを肛門に挿入してちょうだい」
「かしこまりました」

いきなり肛門に棒かなにかがねじ込まれて悲鳴を上げようとするが口は動かない。しばらくの間ケツの中でぐりぐりとかき回されてからやっと引き抜かれた。引き抜かれた後も異物感が残り不快極まりない。ガキの頃に熱冷まし用の座薬を挿れられたことがあったがあれなんかとは比べ物にならない太さと違和感だった。

「驚いたわね。97.7度もあるわ。生きていてもおかしくないわね」
「100℃!?えっ人間じゃないんですか」
「華氏よ華氏」

だから生きているんだって。そんなに疑わしいなら胸に耳を当ててみてくれ。脈をとってくれ。呼吸を確認してくれ。このまま何もしなかったら人間の活け作りが出来ちまうぞ。

「髪が邪魔ね。縛ってちょうだい。それから仰向けになおして」
「はいはい。へえ結構綺麗な髪ですね。久しぶりにカツラを作ってみるのもいいかもしれませんね」

美鈴が素早く髪をまとめていく。どうなっているかは分からないが背中に髪の当たる感覚は無くなった。くすぐったかったからありがたい。いやいやそんなこと言ってる場合じゃないんだがな。
髪から手が離された後に再び仰向けに転がされる。背中は相変わらず痛いが頭の位置が高くなり楽になった。縛った髪が枕のようになっているのだろうか。中々気が利くじゃないか。出来ればもう少しその気を生存確認に使ってくれてもいいんだぜ。胸に耳を当てるとか口元に手をかざすとかさ。色々有るだろ?

「それじゃ始めるとしますか」
「ちょっと待って。先に足を調べるわ」

そう言ってパチュリーが私の右足を持ち上げつま先から足元までねめ回しながら所々突いたり撫ぜたり時には叩いたりする。右足を下ろしたら今度は左足に同じ動作をし始めた。両足が終わると満足げに頷いた。

「外傷は無し。内出血も無し。肌色も健康そのもの。次は腕を見ましょう。両手を持ち上げてちょうだい」
「えーと。こうですか?」
「そうそう。しばらくそのままで」

手首をつかまれて腕が垂直に立てられる。まるで墓場のゾンビみたいだ。これから仲間入りするかもしれない。いやいやいやいや、縁起でもないことを考えるな。今はなんとかしてこいつらに私が生きていることを伝えなければならないんだ。
まず状況を整理するとしよう。私は毒蜘蛛に噛まれてその毒で今痺れている。死なずに意識が戻ってきたってことは毒が中和されてきてるってことた。現に最初はひどかった頭痛も治まっているし視界もはっきりとしてきたし耳も聞こえるようになったし感覚もはっきりしてきた。つまり徐々に体を動かせるようになっているはずなんだ。何処が動かせるかは分からないが必ず動かせる場所はあるはずだ。それを見つけさえすれば私は助かる。
問題はどうやってそれを見つけるか。見つけたとしてどうやってこいつらに伝えるかだが。

「もういいわ。下ろしてちょうだい。次は足を大きく広げて」
「かしこまりました」

いきなり足首をつかまれ足を開かれる。いよいよこいつらが苦しんで死ぬことを願い始める。体が動かず意識が有る状態で体中をまさぐられるような体験だといい。
パチュリーが私の股の付け根を撫でてくる。変態は一人じゃ無かったってことか。くそが。

「つぼみのように綺麗ね。使われたことも無いんでしょうね」
「確かパチュリー様が元居た国の神様は処女を地獄に落とすと聞いたことがあるのですが」
「そうね。それを防ぐための役所もあったわ。神秘に近づき過ぎた結果の狂信のケースとして非常に興味深かったわね」

ねっとりとした手つきで撫でられて思わず鳥肌が立ちそうになる。私にそっちの気は無いからただただ気持ち悪いだけだ。その行為は次第にエスカレートしてついに指を入れられた。
痛い。肛門に棒を突っ込まれたのとは別の痛みが襲い掛かってくる。細い指が乾いた膣内を蹂躪し散々粘膜に傷をつけて抜かれた。濡れることは全く無く出血も無かったので当然こいつらは私を死体だと思い込んだままだ。
そう。こいつらは私を死体だと思っている。

「いい締りね。生きている時に味見をしておけばよかったわ」
「はあ」

パチュリーが頬を上気させうっとりとしたした顔で喋るのを聞きいよいよ鳥肌が立ちそうになるが相変わらず肌はピクリとも反応しない。
美鈴が気の無い返事を返す所を見るとこいつは同性愛者というわけでは無く単なる人食いだということが分かる。それはそれで怖いのだが。

「じゃあそろそろ始めましょうか」

え?いやちょっと待て。早い早すぎる。もう少し確認とかしてみろ。その気が無いのなら今日は休んで明日にでも続きを始めろ。いやもっと時間があれば自力で起き上がってみせる。ただいかんせん時間が足りない。体に傷が入ったら手遅れだ。
そうこうしているうちにパチュリーはナイフを片手に私を切り裂こうと近づいてくる。あれが刺さったらとても痛いだろう。しかもあいつは実験の腕前は神がかり的にへたくそだったからいきなり内臓を切りつけるかもしれない。以前パチュリーがカエルの腑分けをしているのを見たことがあるがあれはひどかった。あの惨状が私に繰り広げられなんて想像もして
やめろ。来るな。こっちに来るな。ナイフを近づけるな。その刃を私の腹に当てるのを止めやめやめやめやめやめやめやめやめやめやめやめやめやめやめやめやめやめやめやめやめやめやめやめめやめやめやめやめやめめやめやめやめやめやめめやめやめやめやめやめめやめやめやめやめやめめやめやめやめやめやめめやめやめやめやめやめめやめやめやめやめやめめやめやめやめやめやめめやめやめやめやめやめめやめやめやいたいぢ

「いますぐその手を止めなさい!魔理沙は生きている!」

ナイフが皮を切り裂いた所でいきなりドアが開いた。パチュリーは思わずナイフを手放しナイフは筋肉に押し返されて床に落ちる。ドアを開けたのはレミリアでよほど急いできたのか帽子は無く靴も履いていない。

「蜘蛛よ!魔理沙のエプロンから蜘蛛が出てきたの!そいつに噛まれて咲夜が倒れたわ!今は動かないけど息もしている!いずれは回復するはずよ!蜘蛛は窓から逃げ出したけどあんな青い気味の悪い色をしたのははじめて見たわ…とにかく二人とも離れなさい。妖精メイド達に二人を運ばせるから二人でその汚れをふき取って服を着させておくのよ」

パチュリーが呆然とした顔でレミリアの顔を見つめる。やがて私の体から異臭がしていることに気付き視線を向ける。
私は恐怖のあまり失禁しており尿が台を伝ってパチュリーの服の裾を濡らしていた。そのことに気がつくとパチュリーは金切り声を上げた。




その後―――

私と咲夜は妖精メイドとレミリア、フランの付き添いで永遠亭に担ぎ込まれすぐさま解毒が行われた。傷口が一致し検出された毒も同じだったことから同じ蜘蛛に噛まれたことが確定した。
半年間はまともに動けなかったが今では時折右指が痺れる程度で日常生活での不具合は出なくなった。リハビリは限界までやったがこればっかりは治らなかった。永琳の説明によると毒が流された影響で神経が壊死し再生が不完全になっているらしい。そのため脳からの指令伝達が時折乱れ結果麻痺を引き起こしているらしい。らしいというのはサンプルが無いため実際にどうなっているかが確かめられないためだ。右手を月製の義手と交換しないかとも言われたがセンスが悪かったので謹んで遠慮した。何で指が何十本もついてたり毛だらけだったり目がついていたりするんだ。
私が入院して4週間ほどたったころに里の近郊で蟲が異常に発生したらしい。異変かもしれないということで霊夢を含め数人の専門家が周辺を蟲殺しの煙でいぶした後中心部を探索した所リグル・ナイトバグと思しき死体を発見した。周囲には煙で燻し出された蟲が足首を埋めるほどに積み重なっており空を飛べないやつは非常に難儀したらしい。
肝心のリグル・ナイトバグの死体は特に蜘蛛で囲まれていたらしく同行した専門家の弁によると幻想郷には見られない種類の蜘蛛がそのほとんどを占めていたそうだ。その専門家は蜘蛛を持ち帰ろうとしたが霊夢が「何か嫌な予感がする」とのことで持ち帰るのをやめ清めの炎でリグルとその周囲、特に屍骸の多い所を重点的に燃やした。今に至っても周囲には草木も生えず妖怪すら忌み嫌って近づかないが里には何の被害も出ていない。
私はこの話を天狗の記者(髪が長い方)から聞いたのだがはたてによるとあの森は本能的に気持ち悪いらしい。近づくにつれて何かが這い回るような感覚に襲われるそうだ。
私と咲夜から検出された毒は見たことの無いものだそうで何らかの呪術が作用して特別に生み出されたものである可能性が高いらしい。永琳はこの毒をもっと調べたかったようで蜘蛛が紅魔館で逃げたという話を聞くと家捜しをしようとしたが当主に拒まれたことでそれは実現しなかった。
私も個人的な興味で作用が似ている全身を麻痺させる毒キノコをが無いかと資料を調べた所一種類見つけた。幻想郷にも自生しているらしいが私は今まで見つけたことは無い。今後重点的に調査を進める予定だ。
その後あやうく殺されかけたパチュリー達とは大いにもめたが最終的に貴重な魔法の素材をもらうということで和解した。咲夜が入院していた間も特に混乱は無かったらしいがパーティーは開けなかったらしい。
最後に一つ。咲夜が帰ってからのことだがやつの性的嗜好がレミリアにもばれたらしくひどくお叱りを受けたそうだ。
そしてそれからしばらくして咲夜の鼻が削ぎ落とされたことを知った。
いわゆる早過ぎる埋葬というやつですね。元ネタは第四解剖室です。ホラーがお好きな方ならとても楽しめると思いますのでよかったら読んでみてください。フランドールさんも出したかったのですが人数が増えすぎると制御できないので残念ながら見送りました。
これは補足なのですがレミリアが魔理沙を助けたのは食料以上の価値があると見なしているためです。この場合では咲夜を助けるための血清の作成に必要という理由、もう一つは自分の退屈を紛らわせてくれるという二つの理由からです。

コメント返信
>>2名無し様
お粗末さまでした。
>>3NutsIn先任曹長様
産廃的にはバラバラに引き裂いたほうがよかったかもしれませんが餅は餅屋ということで。
蜘蛛はイメージ的には蠱毒をイメージしてみましたが断片的過ぎたようです。
>>4まいん様
妖怪とはギブアンドテイクが私の思い描く魔理沙ですね。
>>6汁馬様
実は暴露の段階は削ろうかと思ってたんですがお喜びいただけたなら幸いです。
>>7あぶぶ様
作品、拝見いたしました。ダメージ描写が出来ないのですごい羨ましいですね。
>>8名無し様
よく分からないのが一番怖いと思っているので嬉しいですね。
>>9んh様
裏を返すと危機感があまり無い楽天家という負の側面もありますがそれも含めて魔理沙は好きですね。
>>10県警巡査長様
最後のあれは蛇にして守矢のせいにでもしようと思ったんですがあまりにも被ってしまうので撤回しました。
一応蜘蛛に関しては呪いで生み出された系統の新種とでも。
日々の健康に一杯の紅茶を
作品情報
作品集:
8
投稿日時:
2013/07/05 16:42:57
更新日時:
2013/08/06 14:52:08
評価:
8/11
POINT:
710
Rate:
12.25
分類
産廃創想話例大祭A
魔理沙
フランドール・スカーレットを除く紅魔館の住民
お漏らし
簡易匿名評価
投稿パスワード
POINT
0. 90点 匿名評価 投稿数: 3
2. 10 名無し ■2013/07/06 02:36:59
御馳走様
3. 80 NutsIn先任曹長 ■2013/07/06 06:47:40
『生きている』死体物ですね。
死人に口無し。だが、この『死体』は生きていた……。
最後は、まぁ、だいたいハッピーエンドで良かった良かった。
研究材料や食材になるよりゃマシだ。
悪魔の犬は、鼻を利かなくされたか……。

何気に、『アレ』はヤバいみたいですね。
アラクノフォビアになりそう……。
後日譚で、夜伽で愛読しているシリーズ物SSを想起しました。
4. 80 まいん ■2013/07/07 19:19:22
後日、そこには時間を止めてお嬢様を視姦している咲夜の姿が。
レミリアに命を救われた魔理沙だったが、まったく恩義を感じてなさそうだ。
6. 100 汁馬 ■2013/07/14 01:50:35
生きたまま解体されるという感覚は怖いんだろうなあ。
そんな目に遭わなくてよかったね魔理沙ちゃん。
咲夜さんの性的嗜好の自爆っぷりが可愛い。
7. 70 あぶぶ ■2013/07/14 23:23:08
なにやらシンパシーを感じました。
魔理沙への愛では負けましたが・・・
8. 100 名無し ■2013/07/19 18:37:22
こういう、魔理沙が訳の分からない危機に陥る系の話はいいぞもっとやれ的なノリでいつも読むんですが、この作品は臨場感が凄すぎてハラハラしながら読みました。面白かったです。
9. 90 んh ■2013/07/21 02:12:27
軽妙なひとり語りで面白かったです。余裕なさそうで意外と余裕ありそうな魔理沙がかっこいい。
10. 90 県警巡査長 ■2013/07/30 10:45:08
危なかったなぁ、魔理沙。で、今回の騒動のきっかけとなった外界の毒蜘蛛は何の種類の蜘蛛だったのだろうか…。
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