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『忘年会』 作者: おにく

忘年会

作品集: 9 投稿日時: 2013/12/15 19:02:49 更新日時: 2013/12/16 04:02:49 評価: 5/8 POINT: 570 Rate: 13.22
ある朝、夢を見た。首吊り自殺をする夢である。小川の側の木にロープを引っ掛けて、そこで首をつる。
全身がビリビリと痺れる。首の周りが不自然に苦しくなる。まるで本当に首を吊っているかのような感覚であった。
そりゃあ苦しいし辛いけれど、だんだんと感覚がなくなって、麻酔をかけられるようにすっと意識を失うのである。苦しいのは一瞬なのだ。
それはうどんげにとって怖い夢には思えなかった。むしろ、自殺をしている時の心には不思議な高揚感があった。
ここではないどこかに旅立てるのだという救いが、そこにはあったからである。
世界はだんだんと白くなる。視覚を司る脳の部分がダメージを受けて戻らなくなっていく。そして真っ白になった意識は、一瞬で真っ黒になる。

うどんげは死んだ。そして、死んだと思ったその時、ぐにゃりと世界がゆがむ気がして、布団から飛び起きた。

「あれ、朝……」

おかしな夢を見た気がした。

うどんげにとって朝ほど憂鬱な時間はなかった。朝になれば辛い世界と直面しなければならないからだ。
それでも外に出なければ辛い現実が余計に辛くなるだけだ。寝ぼけ眼で着慣れたブレザーに着替え、廊下に歩み出た。
渡り廊下の先から、数年前まで格下扱いだったはずのてゐと一般兎たちが談笑しながら歩いてくる。

「あ、お、おはよう……」
「でさー」
「あははは」

うどんげはあいさつをするが、てゐと兎たちはまるで少女など居ないかのようにその脇を通り過ぎていった。
心の底が凍るような悲しい気持ちになって、談笑する一行の背中を寂しそうに見送っていた。

その日の夜。季節は冬、新年も近く、忘年会やらクリスマスやら行事が多く、幻想郷のような小さな社会もほんの少しだけ活気を溢れさせる時期である。

幻想郷の忘年会は永遠亭で行われていた。幻想郷の隅々から、弾幕ごっこつながりの友人、多くの少女たちが純和風の広間に招かれていた。
忘年会の会場は不文律ながら有力者の持ち回りと相場が決まっている。今年は永遠亭、主人が主人だから、もてなしも豪勢だ。
幻想郷内部ではなかなか手に入らない海の幸や、遠く南蛮からもたらされたスパイスが惜しげも無くふんだんに使われている。
爪に火を灯すような生活をしている下級妖怪たちは見たこともない料理に驚き、
その反応ぐあいを見る度に、主人の鼻は高々に高くなってゆくのである。

そして料理の豪勢さとは対照的に、食事の風景は気楽そのもの、酒瓶をあおる鬼たちや、大声で騒ぐ河童たち。
酒に溺れた人妖が二百人ほどワイワイと騒ぎあっている。ネクタイで鉢巻き、半裸になって笑う者もいる。
白い電球も煌々と輝き、星もきらびやかな幻想郷の暗い夜の中で、ここだけは場違いのように明るいままであった。

しかし、明るく騒ぐ宴会の中心とは裏腹に、部屋の隅には葬式のように暗い雰囲気が漂っていた。

うどんげだけは宴会場の隅で、幽霊のように真っ青な顔でうつむいていて、輪の中に加わる気配もなかった。
赤い瞳は充血でますます赤くなり、今にも泣き出しそうな表情である。口は一文字に閉じて、誰とも目を合わせないように畳を見ている。
耳がぴくぴくと揺れている。震えているのだ。うどんげを気にかける者は誰も居ない。彼女は宴会の席に加わることを許されてはいなかった。
顔にはバカだの淫乱兎だの、とても人前で晒せない酷い落書きが頬と額の大部分を陣取っていた。

妖怪の一部がうどんげを指さしてはひそひそと話し、愉快そうに笑い出す。

何が切っ掛けかは分からない。だが、最近のうどんげは以前にもまして悲惨な扱いを受けていた。いじめを受けていたのだ。
そもそも、月人にとって兎は下等生物でしかないのだが、世渡りの上手いてゐと違って、うどんげにその視線を潜り抜けるだけの力は無かった。
見下され、踏みつけられ、実験台にされ、そしてそんな永遠亭の雰囲気は徐々に幻想郷全体に広がっていき、始まったのが、うどんげへのいじめである。
誰がいじめたというのでもない。様々な人が、人外が、うどんげを殴り、嗤い、軽蔑して、あるいは見て見ぬふりをしてこの状況に加担していた。
うどんげに味方はいない。味方をすれば同類だと思われるからだ。
氷雨のような孤独が、うどんげの心に降り注いでいる。宴会の日も、うどんげの席は用意されない。
うどんげにはまともに触らないという空気感が、宴会の会場には漂っていた。

ただ、そんなうどんげにも一つだけ役割が与えられていた。

「うどんげ」

酒を浴びてわずかに赤らんだ顔の永琳が、意地悪い笑みを浮かべながら、隅のうどんげに声をかける。そろそろ、会場の空気が温まる頃合いであった。
うどんげはビクリと肩を跳ねさせ、暗い表情のままゆっくりと立ち上がる。深呼吸を二度して、意を決するとスカートと下着を脱ぎ捨ててしまった。

「はい、みんな見て! ウチの兎が宴会芸しまーす!」

どっと笑いが起きて、酔っ払った妖怪たちがわあわあと騒ぎ始める。目をまん丸くする者もいれば、下衆な笑みを浮かべる者もいる。
そのような公衆の場で、うどんげは下半身を丸裸にさせられた。ワイシャツとネクタイだけで、座敷の中心にいるのだ。
陰毛は割れ目を覆い隠すように柔らかに生え揃っている。そして二つの足はわずかに肉づき、女性らしい丸い曲線を帯びていた。
尻は満月のようにまんまるく、しっかりつまめるほどに尻肉が育っていた。
しかし奇妙なのは、その肌に青いアザが浮かび、丸い火傷のような跡や、切り傷のようなものが散見されることである。
そして肌と傷の上にはブスだの死ねだの便器だの、考えられる限りの罵詈雑言が、そうそう消えることのない油性のマジックで描きつけられていたのだ。
日常的に暴力を振るわれているうどんげの境遇を良く表す姿であった。うどんげは半泣きになりながら深呼吸する。台本通りの台詞を吐き出す。

「鈴仙・優曇華院・イナバ! あ、う……、うんち食べます!」

言い切ると顔を両手で覆った。悲鳴と笑いが上がり、うどんげをますます追い詰めてゆく。
目元からは涙が溢れかけていたが、笑われては悔しいので、顔を拭って見えないようにする。
その惨めな姿がまた人妖たちの加虐心を煽るのである。喝采を浴びる。しんと静まりかえり、そして四百の瞳。
悲しみで顔をくしゃくしゃにしたうどんげは、漆塗りの上品な器の上にしゃがむと、そのまま脱糞しようとする。

「ん、うぅぅ……」

食糞はうどんげの十八番であった。糞を食う姿が汚らしく、嘲笑えば泣き出すので、うどんげにやらせるにはもってこいの芸であった。
食糞は初めてではなかったが、何度繰り返そうとも慣れることはなかった。うどんげの繊細な心は、いつでも彼女を苦しめ追い詰めるのである。
そして、心理的な緊張が体の不調を呼ぶ。人の目に晒されて排泄できるほどうどんげは無神経ではなかった。
アナルが固まってしまったかのようにすぼまっている。力もうとしても力が入らない。うんちが外にでることを拒否しているように思えた。
長い長いバナナうんちどころか、チョコボールのようなかけらでさえ出てこない。

うどんげが手間取っている姿に苛つくのか、永琳は氷のような視線でうどんげを見る。永琳の冷たい声が鼓膜に届く。

「あなたねぇ……ふざけてるの?」

永琳が不機嫌そうに頭をかかえると、うどんげの顔には恐怖が塗りたくられた。

「ねぇ、出来るって言ったわよね? 約束したわよね?」
「あ、ぁぅ……」
「場をしらけさせないで頂戴」

叱られた子犬のような顔をする。そしてまた笑われる。うどんげは何をしえも笑われる。
うどんげにとっての永琳は決して逆らえない存在だった。うどんげは意を決したように、自分の排便先、赤い器の底をじっと見つめた。
ここに出すのだ、そして出しただけでは終わらない。けれども、出さなければキツイおしおきが待っている、これ以上に耐え難い責め苦だ。
ぷすと、屁の音がする。くすくすと笑われる。顔をあげると、大勢の人妖たちが好奇の視線でうどんげを見ていた。
あるものは興奮し、あるものは軽蔑していた。

「う、うぅぅ……!」

茶色くコロコロとした便が顔を出すと、会場が悲鳴と爆笑に包まれる。好奇と軽蔑と失笑が入り混じった視線が雨のように突き刺さる。
肛門の皺が一際広がると、かため粘土の玉をぎゅっとひとつなぎにしたような長い便がぬるりと現れ、器に落ちる。
そして丸い兎のようなうんち、そしてそれらが栓になっていたのか、その後ややゆるめの便が、ぷすぷすという屁の音とともに器に盛り付けられていった。
悪臭が広がる。シャッターを切るものもあった。

「あっはー! いいぞー!」
「マジで糞してやんの、あはははははっ!」

おちょこがうどんげに投げつけられ、どっと爆笑がおこる。会場の人妖の反応は、この時点で三つに分かれた。
萃香、早苗、魔理沙などは率先して囃し立て、うどんげのいじめに加担し、積極的にこの催しを楽しんでいた。
妹紅、咲夜、霊夢は、わずかに同情しながらも、酒を片手に事の成り行きを観察している。消極的に、その痴態を嘲笑っていた。
ミスティア、大妖精、小傘など立場の弱い妖怪たちは、自分がターゲットにされないよう、空気を読んで引きつり笑いをしている。
幻想郷は自由に見えても、実際は、徹底したヒエラルキー社会である。そもそも、「生まれ」それ自体によって覆せない力の差が生まれる世界だ。
そのような世界で弱い妖怪がターゲットになることは、逃げ場のない破滅を意味している。

排泄を終えたうどんげは畳に座ると、おまる代わりの器を前に正座した。顔を真っ赤にして、震えながら山盛りの大便を見る。
その顔は涙でぐしゃぐしゃになっていた。シャツの裾を握る。心臓がバクバクと鳴った。加虐心を呼び起こすその姿は、何枚もの写真を撮られた。
この手の悪趣味な遊びに、敏感に動くのが天狗たちである。彼らはうどんげの痴態を新聞等でばら撒くことによって、うどんげのいじめに加担していた。

うどんげが外で連れまわされ、裸で永遠亭まで帰らされた日、うどんげは初めて紙面でその姿を晒された。
ショックからうどんげは手首を切ったが、すぐに永琳に治療されて、罰として鞭で打たれ、いじめは続行されることとなった。

そんな衝撃も、もはや日常茶飯事である。うどんげは幻想郷という社会にいじめられているのである。
撮られた写真がばら撒かれ、幻想郷中に痴態が知れ渡ると思うと、背筋の芯まで恐怖で凍ってゆくように思えた。
それでも食べないと、もっと酷い目にあわされる。うどんげは震える指先で箸を取った。しんと静まり返る。

「うわぁ」
「ホントに食べるんだな」
「気持ち悪い」

静かな部屋では、忍び笑いやひそひそ話が、否が応にも聞こえてくる。
うどんげの箸が、ねっとりとした便に触れた。うどんげは胃の中がぐるぐるして吐き出しそうな気分になった。
そして親指ほどの便を拾い上げ、口元に持ってゆく。最前列の、最も積極的な人妖たちは、哀れな兎が糞を食べるのを下品な笑みで観察している。
ひどい臭いだった。全身に鳥肌が立つ。これは食べてはいけないものだと、全身が拒絶反応を起こす。冷や汗があふれていた。
それはただの嫌悪感ではない。様々な汚物と毒の集合体である便は、体全体が拒否する物体だ。
好きも嫌いもない。口に入れるだけで内蔵が危険信号を発する。そして、そんな物体だからこそ、食べる表情は見ものなのである。

「あ、ぁ」

涙どころか鼻水まで垂らしているうどんげは、しかし、従わなかった時の制裁がどんなに苛烈なのか知っていたので、
その柔らかな唇を、本能に逆らいながら大きく開け、瞳をぎゅっとつむりながら自らの排泄物を口に入れた。
悲鳴と歓声、うどんげはそれを聞きながら出来るだけ味わわないように飲み込んだ。
それでも口全体に苦味が広がり、すぐにでも吐いてしまいそうだった。

「わあ、ウサギって本当にフンを食べるんですね!」
「うへぇ、ありえねー、吐きそう」
「いくらなんでも、普通の神経してたらあんなもの食べないわよね」

うどんげは作り笑いをする。作り笑いで、湧き上がる感情に、わずかな抵抗をしようとする。
シャッターの音がする。口の周りに大便がべっとりと付いたおぞましい図が、フィルムに記録されているのだ。
周りの人妖たちはいかにも愉快そうに、その一部終始を鑑賞していた。苦しさ、悔しさで失神しそうだ。
うどんげのプライドは、踏みにじられ、心と合わせてズタズタに切り裂かれたも同然の惨状であった。
涙がだらだらと溢れる。呼吸が乱れ、ひいひいと発作のように激しく呼吸をする。

「ちょっと」

姫の退屈そうな声。

「まだまだ残ってるじゃない。えーりん、もっと食べさせてよ。これじゃつまんないわ」
「はい、分かりました」

永琳はスプーンのような物を持ってうどんげの側に座る。そして大便を一掬いしてうどんげの顔に押し付ける。
うどんげは肩で呼吸をしながら、うつろな瞳でそれをじっと見た。

「ほら、食べなさい。全部食べないと食べたことにはならないわよ」
「ぁ……」

無言で口を開ける。スプーンに山盛りになった大便が押し込まれる。涎と便が混ざった汚水が口元からだらりと垂れてゆく。

「すぐに飲み込まないで、よく咀嚼なさい」

口をもごもごと動かす。髪の間から汗が溢れる。眉間に皺がより、肩はふるふると震えている。
歯の間に満ちる不気味な大便の感触、うどんげは失神しそうな気分だった。漸く飲み込むと、目の前に次の大便があった。

「はい、口開けて」

口の中も食道も、便所を超えるレベルで汚れきっていた。口から鼻孔に逆流して、ひどい頭痛がする。
それでも大便を食べさせられる。逆らえばもっと酷いことをされるから。戻しそうになりながら咀嚼して飲み込む。苦しくて、大声で泣き出しそうになる。
だが、永琳は酔った赤ら顔で心底楽しそうに、この哀れな兎を痛めつけているのである。
嫌がれば嫌がるほどそそられる。

「はい、ほら。まだまだあるわよ」

うどんげの視線が大便が盛られた皿に向けられる。まだ半分以上。精神が減耗していた。
三口目の大便を口に入れようとした瞬間、うどんげは口を両手で覆った。胃の内容物が逆流する感触があったのだ。

「ん゛うぅ゛!!」

観察していた者たちが、我先にと逃げ出す。うどんげは真っ赤な瞳をぐるぐるさせながら、錯乱したように手を伸ばす。
がしゃんと大きな音とともに台が倒れ、大便が床に散らばった。そして両手を床につき、一瞬だけ耐えたが、もう駄目だった。
ゲロと糞の混じった最悪の排泄物が、うどんげの口からあふれた。水音とともに四方に飛び散る。
第二陣、うどんげの糞は胃液や食物と混ざり合い、その全てを異物として、腸と食道に拒絶反応を起こさせていた。

「あらあら」

ぜいぜいと息をする。この場の畳は糞と吐瀉物で汚れ、もはや宴会を続けられる状態ではなくなっていた。
だが人妖たちは、食べ物よりもむしろこのおぞましい余興こそを酒の肴としていた。そして会場はさらなる熱気に包まれる。
そして永琳は、汚物をまき散らした兎を冷酷な笑みで見下ろしていた。

「言ったわよね。出来るって」
「イ゛ッ!」

うどんげの体が、いままでにないほどに震えはじめた。

「ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい! ゴメンナサイ!」

糞とゲロまみれであるのも構わず、おでこを必死に床にたたきつけて土下座する。しかし、永琳の腕には鞭があった。

「お許し下さいおゆるしくださいお許しくださいいぃぃ……!!」
「許さない」

鞭が飛ぶ。ワイシャツごしに背中に叩きつけられた鞭は、皮膚を抉り、肉を切り裂いた。血液が障子に飛び、いくつかの小さなシミを作る。
うどんげは吠えるような悲鳴をあげたが、すぐにまた土下座を始める。大声で泣くような、命乞いをしながら。

「嫌ああああ、嫌、嫌です、いっっ!! や゛ああああああ゛ああああ!!!! お願いします! お願いしますうう!!」

永琳は無言で鞭を振るう。あまりにも凶悪なその一撃は、うどんげの理性を奪うには十分で、
一撃打たれるたびに、うどんげは泣き叫び、小を失禁しながらふらふらと床を這い、気絶するとより強力な一撃で無理矢理覚醒させられた。
七発、それだけで背中は血まみれになり、シャツはもとから赤だったかのように、一面の血液で染め上げられている。
あちこち逃げまわったおかげで手足に汚物が絡まり、髪の毛はぐしゃぐしゃに乱れていた。
恐怖は頂点に達しているようで、うどんげは両手て頭を守り、肘で耳を塞ぎ、部屋の隅で哀れに丸まっている。
この惨劇に、半数の人妖は引いていたが、残りの半分はむしろ血に飢えていたようで、弱ってゆくうどんげを見ながら酒盛りをする有様であった。

「痛かった?」
「痛いですうう、痛いですうう!!!」
「じゃあやめるわ」

うどんげは驚いたような、すがるような表情で永琳を見る。弱り切った兎の頭を、いやに優しくなでるのだ。

「ね、痛かったわね」
「はいいいいい、はいい!!! 痛かったです! じしょお! ありがとうございます! ありがとうございます!」
「それじゃあ、続きにしましょうか」
「……ふぇ!?」
「貴女のうんことゲロで床が滅茶苦茶でしょう? 掃除なさい。もちろん、口でね」

柔らかい安堵から、ふたたび地獄に突き落とされる。糞と吐瀉物でべとべとの口をぽかんと開けている。
ギャラリーは笑いながらうどんげの間抜け顔を鑑賞する。そしてうどんげはまた床に這いつくばり、畳の上の大便の塊を食べた。
食べては吐き、食べては吐き、喉がボロボロになるまで続けられた。手加減も手心もない。死んでも壊れても構うまいという過激さで鞭打たれ、罵倒された。
解放されたのは一時間後である。宴会芸もまともに出来ない馬鹿というレッテルを貼られて、茶碗や皿などで袋叩きにされる。
それが、この遊びの終わり。うどんげの余興は失敗して終わる。最後の最後まで弱いものをいじめる快感を絞り出すのである。
宴会は別の部屋で仕切り直しとなった。もちろんうどんげは、汚物まみれの部屋に一人残り、夜通し掃除である。

そして真夜中。

宴会の終了から既に数時間の時が経過していた。うどんげは風呂に入ることも許されていなかったので、裸で竹林の中を歩き、
竹の森を割くように流れている一条の小川で、刺すような寒さに震えながら体の汚れを落としていた。

「落ちない、落ちないよぉ……」

全身から漂う大便の臭いは、川で水浴びをしたところで落ちるものではない。
便のかけらは洗い流したものの、便の臭いはいまだ体全体から漂っている始末である。

「ひぐっ、ぐず……!」

咽び泣く。最初は静かに、やがて声は止まらなくなって、大声でわんわんと叫ぶように泣きはじめた。
鞭の傷がじくじく痛む、不快感が喉にこみ上げてきて、空っぽの胃の中から吐瀉物を吐き出そうとする。
腹を抱えてうずくまり、川の中に茶色と黄色の液体をげえげえと吐き出す。大便と胃液が混ざり合った汚いシロップ。
口の中が苦さと酸っぱさで刺激される。口を濯ぐが、こびりついた大便の臭いはそうそう落とせるものではない。
口の中から鼻にまで登ってきて、常に不快感が付きまとい、そして先程までの恐ろしい虐待の光景がフラッシュバックされるのである。

「綺麗にしなくちゃいけないのに゛……っ」

こんな姿で明日の朝を迎えれば、きっとまた馬鹿にされる、殴られる、いじめの口実を作ってしまう。
兎達にも患者たちにもかわいそうなものを見るような目で見られて、殴られないように、誰かの気分を害しないように、震えながら一日を過ごすのだ。
今日こんなことをされて、明日また酷い目に合うなら、もう耐えられないと思った。今までも同じことを考えていた。
もうだめだ、もう無理だ。そう思った瞬間は何度もあったような気がするが、実行できたことは一度もなかった。

「はぁぁー……、もう……やだ、やだ、やだぁ」

明日なんか、もう二度と来なければいいのに。頭の中が沸騰したように暑くなって、両手で髪の毛をくしゃくしゃにする。
ぼろぼろと止めどなく涙が出てくる。うどんげはその赤い瞳で天に浮かぶ月にすがるように見つめた。
歯車が狂い始めたのはいつだったのか、もう分からない。軍から脱走した日からもう、うどんげの命運は尽きていたのか。
あるいは産まれた瞬間からか。いずれにせよ、もうやり直しは出来ない。この狭い幻想郷では、仕切り直しをすることもできない。
霧のように消えてしまうことができたら、もう苦しまずに済むのに。

そう、消えてしまえば。その考えに至った瞬間、うどんげの心はふっと楽になった。

「あ、そっか……」

死ねばいいんだ、私。

「死ねばきっと、もう酷いことなんて起こらないもん」

どうせ皆、私のことなんて嫌いなんだから。もう、死んだっていいんだ。

そう思うと、行動は早かった。洗い終わってぐしょぐしょのワイシャツをロープにして、太い樹の枝に括りつける。
そしてシャツの反対側の輪を首にかけて、準備完了である。うどんげはワイシャツを引っ張ってみるが、固く結ばれたシャツはびくともしなかった。
全体重をかけたとしても、シャツが解けることはないだろう。高さに関しては不満があったが、足がついていても首吊りは出来る。
首の圧迫が重要なのだ。格闘技の絞め技と同じ、極まり方が良ければそのまま意識を失い、楽に死ぬことが出来る。
軍隊で得た知識が久々に役立った瞬間であった。

「……うぅ」

バクバクと心臓が鳴る。今までのことが走馬灯のように思い返される。月で飼われていたころはまだ幸せだった。
軍隊は辛いことばかりだった。地上に来てしばらくは上手くいっていたが、しばらくするといじめが始まり、火の手が止むことはなかった。
そして生きていれば地獄は永遠に続く。それでも、死んでしまうのは怖かった。死んでしまえば後戻りすることは出来ないのだから。
歯がカチカチと鳴る。だが、この恐怖には勝たなければならない。今我慢して死ぬことができれば、もう苦しまないで済むんだ。

大丈夫、怖くない、怖くない。すぐに逝ける。死ねばもう誰にもいじめられないはずだ……!

うどんげは解放されるのだ。

目の前では済んだ小川がさらさらと流れている。そしてうどんげは体を傾ける。首に体重分の力がかかり、首が絞められてゆく。
息が出来ない。苦しい。しかしそう思ったのは最初だけで、指先からだんだんと痺れていって、感覚がなくなり、お湯にひたすような心地よさに包まれた。
目の前の闇がだんだんと霞んで、白い霧の世界が目の前に広がってゆく。そしてブレーカーを落とすように、うどんげの意識は真っ暗になった。

そして翌日の朝、布団から一人の少女が起き上がった。

「あれ、朝……」

おかしな夢を見た気がした。

少女にとって朝ほど憂鬱な時間はなかった。朝になれば辛い世界と直面しなければならないからだ。
紫色の髪の毛をして、くたくたになった人工耳を頭に取り付けていた。寝ぼけ眼で着慣れたブレザーに着替え、廊下に歩み出た。
渡り廊下の先から、数年前まで格下扱いだったはずのてゐと一般兎たちが談笑しながら歩いてくる。

「あ、お、おはよう……」
「でさー」
「あははは」

少女はあいさつをするが、てゐと兎たちはまるで少女など居ないかのようにその脇を通り過ぎていった。
少女と話せば自分たちまでいじめに遭うかもしれない。そんな空気が少女を更なる孤独に追い込んでいた。
といって、挨拶をしなければ挨拶をしなかったことを理由に殴られたり貶されたりすることもある。八方塞がりの閉塞感。
少女はとぼとぼと廊下を歩く。死んでしまいたい、そんな暗い気持ちを腹の中に抱えながら。
あの夢のように死んでしまえればどんなにいいか。しかし未だ、少女に実行する勇気はなかった。

「はぁ……」

そして入るのは永琳が調合や実験を行う永遠亭中央部の一室である。

「師匠、おはようございます」

永琳は机の上にある分厚い資料に目を通していたが、挨拶をされても顔を上げることさえなく、存在を黙殺した。
少女は永琳を刺激しないように棚にある薬品類を足元の籠に入れる。人里へ薬を売りに行くのは、相変わらず少女の役目であった。
そしていつも通りの量を籠に入れると、少女はそれを背中に背負った。

「失礼します……」

また返事は無かった。麩が閉じられる。そして永琳は本の文字列に視線を滑らせながら、一言だけ、確かめるようにつぶやいた。

「異常なし、ね」

非現実的なことを簡単にやってのける所こそ、永琳が天才である根拠であった。

昼がやってきた。うどんげは外で働かされ、てゐと兎達は食堂で質素な和風の昼食をいただいている。
そして輝夜と永琳は、数人の兎の料理人に豪勢な料理を作らせ、二人で談笑しながらつつくというのが常であった。
食事一つとってみても、永遠亭の序列が浮かび上がってくる、そういう塩梅である。
黒く高級感のある皿の上に無数の料理が少しづつ乗せられていた。太古の食卓と現代の食卓の折衷なのか、料理には西洋の品も含まれている。
竹林がざわざわと騒いでいる。波の音のようであった。静かな部屋の中、永琳は青い花の描かれた小さな皿から栗きんとんを拾いながら、口を開いた。

「うどんげが死にました」
「そ」

輝夜は興味なさげに箸を迷わせる。そしてマグロの刺身を口に頬張り、ゆったりと味わうように咀嚼した。

「何回目だっけ」
「今月は三回目、通算では十ニ回目かと」
「様子はどう? 感付かれるような気配はあった?」
「今のところありません。記憶消去薬が上手く作用しているようで、自分が生きていることを全く疑問に思っていないようです」
「ならいいわ。変な所で気付かれても興ざめだもの」

味噌汁をすする。雀が鳴きながら竹やぶの間を飛び交っている音が聞こえる。

「死にたくて死ねない体になってるって気づいたら、あの子はどうするのかしら」
「そうなればいよいよ逃げ場がないわけですから、本当に壊れてしまうでしょうね」
「廃人ってやつ?」
「ええ。永遠に虐げられ続けるのですから、そんな現実、気弱なあの子じゃ耐え切れません」
「そうなったら、やっぱりもう戻らない?」
「いいえ。殺して記憶を消せばまた元通りです。姫様が望むなら、何度だっけ絶望してくれますよ。何なら夜にでもやってみましょうか」
「うーん。でも最初の一回は大切にしたいかも」
「そうですか」

いじめが始まって半年ほどが経過した頃、初めての自殺未遂を起こした。それは所有物であるうどんげの命を侵害する罪深い行為であった。
ムチ打ちに次ぐムチ打ち、そんな罰を与えることで一応済ませたものの、そのうちまた自殺を図るのは明白であるように思えた。
一度あることは二度あって、二度ある事は三度ある。輝夜のお気に入りのおもちゃがやがて壊れてしまう。
おもちゃが壊れるのは輝夜としても不満であったし、愛しい輝夜が悩むなら、永琳も対策を練るしかなかったようである。
そして最終的に、うどんげは蓬莱の薬を投与され、知らぬ間に不老不死になったのである。

不老不死になってからは、うどんげへのいじめもエスカレートしていった。
永遠亭の外の人々を巻き込んで、芸をさせたり、晒し者にしたりした。天狗に写真を撮らせて広めることも日常茶飯事になった。
極限まで過激化したいじめに耐え切れず、うどんげは自殺をした。うどんげの死体は自殺の度に永琳に回収され、覚醒する前に記憶消去役を投与された。
そしてうどんげは、自分が死んだことにも、死のうとしても死ねない体になっていることにも気付かず、自殺を繰り返しているのだ。
12回死んで、12回生き返って、13回目の人生を歩んでいるのがうどんげであった。

二人の蓬莱人の永遠の奴隷になることが定められたに等しい。生きる自由も無ければ、死ぬ自由もなかった。

そのころ、竹林。ちょうど先日自殺した木の近く、うどんげは虚ろな目をしながら小川の側を歩いていた。
小川はさらさらと流れている。竹の合間から漏れる光が小川に反射し、砂金の雨のようにきらきらと輝いていた。

「……うぅ」

今日も薬が売れなかった。うどんげのような厄介な兎と関わり合いになろうとする人間はなかなかいない。
影で笑われたり、哀れみの視線を投げかけられたり、ボールをぶつけられたり、乱暴されそうになったりしながら、
それでも一人でも多くの顧客を得ようとする。成果なしで帰れば、またいじめの口実を作ってしまう。

もちろん大抵の場合は今日のように成果無しで終わる。薬の行商自体、もはやいじめの口実作りの行為に等しかった。
まずはムチ打ち百回だ。裸で一晩中晒し者にされて、また思い出したくもない記憶を作らされてしまうのかもしれない。
過去の記憶がせり上がってくる。うどんげは唸りながら頭を抱えてうずくまる。思い出したくない。早く消えて。おかしくなる。
無心になろうとして、少し思い出してしまって、気分が悪くなって嘔吐した。思い出したのは、好きな子に無視された瞬間。
咳き込む、四つん這いの姿勢に崩れ、半消化の白米を吐き出す。胃液にはなぜか大便の臭いがあった。

「う、う、うううぅ……!」

帰りたくない。帰ったら死にかけるまでいたぶられるに違いないのだ。
うどんげは四つん這いのまま土の上を這う。そして、早く帰らなければならないにもかかわらず、ぺたりと座り込む。
なんでこんな思いをしなきゃいけないんだろう。何度死のうと思ったことか。
死ねたことは一度もなかったけれど、それでも何度も自殺しようとした。

「……」

死ぬのは怖い。勇気を振り絞って、なお出来ないものなのかもしれない。
それでも、自殺はうどんげにとって唯一の逃げ道であった。救いの道ではないのかもしれないけれど。

「……そうだ、もう、死ねばいいんだ」

こんなにつらい思いをするぐらいなら。

「死ねばきっと、もう酷いことなんて起こらないもん」

どうせ皆、私のことなんて嫌いなんだから。もう、死んだっていいんだ。
うどんげは手慣れた様子でシャツの縄をつくり、首をくくって死んだ。翌日、うどんげは自室で目を覚まし、絶望の朝に憂鬱としながら、
ふらふらとブレザーを着込んで渡り廊下へと歩みだした。少女は今もうどんげであった。
うどんちゃんメンタル弱そうでかわいい
おにく
作品情報
作品集:
9
投稿日時:
2013/12/15 19:02:49
更新日時:
2013/12/16 04:02:49
評価:
5/8
POINT:
570
Rate:
13.22
分類
うどんげ
いじめ
スカトロ
リョナ
嘔吐
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0. 90点 匿名評価 投稿数: 3
1. 100 ギョウヘルインニ ■2013/12/16 19:56:22
このまま、うどんげがいじめられ続け、まるで産廃扱いになったときに永遠亭の住人はどう管理するのか見ものです。
捨てたら苦情が来たりしますかね。
2. 100 NutsIn先任曹長 ■2013/12/16 22:18:00
胸糞悪い。
しかし、確実に『処置』の効果が薄れてきていますね。
追い詰められたウサギが狂気に取り憑かれ、元凶二人に反逆する愉快痛快爽快展開が読みたいナ☆
3. 80 名無し ■2013/12/17 01:14:21
玩具は壊れるから面白い。壊れないなんていつか飽きるよ。
5. 100 名無し ■2013/12/18 22:04:11
うどんげは天使やったんや・・・
7. 100 まいん ■2014/01/05 20:41:32
無限ループって素晴らしい。
しかし、こんな仕打ちはどんなメンタルでも病める。
こんな、うどんちゃんを介抱して信頼を得たい、そして裏切って地の底まで叩き落としたい。
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