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『残光』 作者: 日々の健康に一杯の紅茶を

残光

作品集: 9 投稿日時: 2013/12/20 17:07:56 更新日時: 2013/12/21 02:07:56 評価: 4/4 POINT: 400 Rate: 17.00
「…そして資料室で振り返るとそこには鬼のような影が!」
「ひいぃ」
「…」

妖怪の山、射命丸邸。家主とはたてと椛、総勢3名が集合していた。
椛とはたては立ち話していた所を酒が入っていると思しき文に引っ張られ3羽で宴会が始まった。
何でも文の新聞がとあるコンクールで入賞し賞金が出たと言うことで自慢をしたかったらしい。
それでも酒も入れば舌が軽くなりやがて話題がしょうもない怪談に移っていった。妖怪が怪談というのも奇妙であるが。
自分から言い出した文が新聞社での怪奇体験を話し始めそれが丁度終わった所だった。

「そんな話を聞いたら夜中に資料館に行けなくなるじゃないの!」
「おやおやそれは大変。今度から一緒に行きましょう」

文がおどけた仕草で手を差し出す。ひどく酔っているようにも見えるがその実ほとんど酔っていない計算尽くの行動。
椛は嫌悪感と隠し味程度の嫉妬のカクテルで顔をしかめた。

「椛は何か無いの?別に無くても全く気にしないけど」
「そうですねえ。とある鴉天狗が人間の侵入者を自宅に匿っている話なんてどうでしょう。上の方に知れたらと思うと怖くて怖くて」
「おお怖い怖い。そんな不届き者がいるなんて」

2名の間に険悪な空気が一瞬流れる。その不穏な空気をとりなすようにはたてが話しかける。

「無理矢理山に入ろうとしたのは、最近だと巫女と魔法使いぐらいだよね。確か」
「流石に無理に山に入ろうとするのなんてそうそういないでしょうよ。ねえ?」

同意を求めるように椛に4つの瞳が向けられる。椛は腕を組んで顎に手を当てていた。

「椛?話聞いてた?」
「・・・そう言えば居ました。変な奴が」

椛が何かを思い出したかのように呟く。その眼は記憶の糸を見つけ出そうとするかのように遠くを見ていた。

「ほう!まさかあの無鉄砲達以外にいたとは。それでどんな奴だったの?どこら辺が変わっていたの?何時来たの?」
「まあそう慌てないで下さいよ。盛りの付いた獣でもあるまいし。そうですねえ、あれは夏の始まり、ちょうど宗教家がに
ぎやかになるちょっと前ぐらいです。段々暑くなり始めていた時期ですね」




その日椛は哨戒の任務に当たっていた。来客の予定も無く退屈な時間を過ごしていた。最近は山も色々と変化が起きており今までのようにサボる、もとい、適度な休憩をはさむ事も出来ない。その上普段は複数人で任務に当たる所を土砂が崩れたとかで他の隊員がかりだされ椛一人で哨戒をするハメになってしまった。

「これじゃあ体を動かしている方がまだましだったなぁ、くそっ」

うんざりした顔で腰の水筒から水を飲む。蒸し暑さに淀んでいた頭がすっきりとして不意に閃いた。

「そういえば人里とかで宗教家同士の決闘が流行っているそうだな。暇つぶしに丁度いいかもしれぬ」

椛は早速立ち上がり人里に焦点を合わせる。妖怪の山と人里の距離は非常に離れており如何に妖怪の身体能力といえどもこの距離を見通すことは実際困難だ。しかし彼女は優れた視覚をもち千里先を見通すことも出来る白狼天狗。この程度の距離は問題ない。
まず人里をざっと眺め動きの多そうな場所を探る。その内になにやら人が集まっている所を見つけると逸る心を抑えてゆっくりと視点を合わせる。

「どうやらこれのようだな。どれどれどんなものか」

派手に弾幕が撒き散らされ時に殴りあいになるそれは弾幕を嗜む者としては実際興味深く格好の暇つぶしになった。椛はたちまち引き込まれた。



やがて日も暮れ始め試合も終わったのか観客が散り始める。麓に出来た妖怪寺の尼僧が新しく来た道教の仙人の親玉に勝ったらしい。

「これは暇つぶしにいいな。これからも活用し、む?何だあれは?」

視界の隅になにやら旗めいて不自然にひらめく黄と緑の布が映った。視点をその旗めいて不自然にひらめくものに合わせる。
それは帽子を被った子供だった。黒い帽子の下に独特な色合いの緑髪、黄色い上着に黒のスカート、上等そうな光沢を放つブーツ、そして体にバラの茨のようなものを巻きつけていた。何よりも特徴的なのは面を被っていることだった。白塗りの子どもめいた面で口元は優しく微笑んでいた。しかし眼の部分から緑がかった光が溢れており全体として見れば不気味な雰囲気を醸し出していた。
その子どもは大通りの真ん中でくるくると回るように踊っていたにも関わらず周りの人間はまるで見え無いかのように通り過ぎていた。しかも不思議とぶつかるようなことも無い。その奇妙な光景は椛の関心を強く引き付けた。香り立つような、滲み出るような、湧き立つような、周囲の人間との違和感。彼女は、その子どもは、あからさまに妖怪だった。
やがて盛り上がってきたのか動きが激しさと奇怪さを増していく。壊れたおもちゃめいて首を振り回しながら駆け巡り周囲の建築物と激突を繰り返す。まるで痛みを感じていないようだった。
その内足が滑り倒れたが寝転がったまま駄々をこねるように動き回り続けた。見ていて気持ちのいいものではなかったがなぜか眼が離せない。怖いもの見たさとでもいうのだろうか。眼が吸い寄せられる。やがて仰向けで陸に打ち上げられた魚のように痙攣した後死んだかのごとく動かなかった。だが次の瞬間には紐で引っ張られるかのように体の構造を無視して立ち上がった。埃を払い偶然だろうがこちらを向いて誰にとも無くお辞儀をした。聞こえるわけも無いだろうし見えるわけも無いだろうが形ばかりの拍手を送る。
子どもは顔を挙げ面でこちらを向くと大きく速く手を振り始めた。

「…おいおいおいおい。まさか。まさか見えるわけがあるはずが」

偶然に違いない。そうともまたあの薄気味悪い一人遊びを始めただけかもしれないじゃないか。顔を拭ってから今度は子どものいない所へと視線を向ける。
子どもが居た。手を振りながら。それもこちらに近づいてきている。これは一体どういうことだ。あの眼を拭った数秒の間に近づいてきたとでも?椛は普段哨戒を仕事としている身であるから距離の目測には自信がある。その上人里という目安があるため測定も容易だ。その結果どう控えめに見ても子どもは尋常ではない速度で近づいていた。速さ自慢の烏天狗でもあそこまで移動できないだろうしそもそもそんな速さを出していたら周囲に痕跡が残る。あるとすれば隙間の妖怪が用いるような瞬間移動の類を使っているというのが妥当だろう。隙間の妖怪自体を見たことは無いが。
試しに一瞬目を閉じてまた視点を合わせる。子どもは先ほどよりかはマシだが相変わらずありえない速度で近づいてきていた。手を振りながら。今気付いたが視点は吸い寄せられているようだ。逸らそうとしても逸らせない。首も動かせない。
もう一度眼を長めに閉じてから再び開けた。子どもは最初とほぼ同じ距離を近づいてきていた。手を振りながら。どうやら眼を長く閉じれば閉じるほど近づいてくるらしい。そして今子どもは山の麓の近くにまで来ていた。恐らく次に眼を閉じた時には目の前に来ているだろう。

「装備を。装備を取ってこなければ」

哨戒任務とはいっても普段は装備を身につけていない。索敵範囲が非常に広いため敵がこちらに来るまで時間の余裕あるし敵襲など全くといっていいほどない。だが今回はそれが裏目に出た。装備品は袋に入れて脇においていたが椛は今、視点が固定されている。今現在の椛は立ったまま頭を動かせない状態にある。袋は巾着のような袋で口を紐で縛ってある。紐を掴まなければならない。
手を伸ばして紐をつかめないか試してみる。届かない。何とかして姿勢を下げようとするが如何せん視点が固定されているのだから頭が動かせない。上を仰ぎ見るようにして限界まで体を下げる。傍から見れば滑稽だが椛にとっては死活問題だった。仲間を呼ぶにしても笛も袋の中にある。何度か腕を伸ばしている間に指先を紐が掠めた。

「しめた!ここまで来れば!」

筋にかなり負担がかかっているがここが正念場だ。痛みを無視して全霊を傾けて腕を伸ばし続ける。やがて中指が輪に通った。喜び勇んで持ち上げようとする。しかし、途中までは持ち上がったものの手汗で紐が滑り袋を地面に落としてしまった!それどころか袋は転がり紐が下に隠れる。これではもう2度と腕を伸ばして取るなどと言うことはできないだろう。これは焦りが生んだうかつであった。仮に汗で滑らなかったとしても重い装備品の入った袋を指一本で持ち上がるのは不可能だったはずだ。冷静に考えれば足で支えるなどの方法も思いついただろう。だが今や椛はほとんどパニックに陥りかけていた。

「ち、ち、近づいてきている…!」

眼を閉じることが移動の前提だった子どもがゆっくりと近づき始めてきていたのだった。まるで歩くかのように空を飛びゆっくりと、だが確実に近づいてきている。手を振りながら。反射的に遠ざかろうとして足元の袋を蹴飛ばしてしまう。袋はさらに椛から遠ざかる。そしてその方向には坂があり袋は転がり始めようとしていた。パニックに陥りながらも椛はがちゃがちゃと響く音から事態を察知していた。
選ばなければならなかった。逃げるか。戦うか。
椛は選んだ。戦うことを。
大きく息を吸い込んでから眼を閉じる。川に飛び込むかのように袋に飛び掛り引き裂くように開く。ダンビラと盾を取り出し、構え眼を閉じたまま後ろに跳び下がる。いつの間にかバラのような香りが辺りに充満していた。眼を閉じている間に近づいてきたらしい。顔を守るように盾を構え薄く眼を開ける。
目の前に、居た。ぎらぎらと輝く眼光が、白い童子の面が、むせ返るようなバラの香りが、吐息を感じるほどの距離で。
あまりの日常との乖離に意識を手放しそうになるが耐えた。一太刀与えんとダンビラを振りかぶるが盾ごと抱きしめられる。
ばねが外れたかのような力。全身の骨が軋みを上げる。この距離では切りつけることができない。柄で殴ろうと残りの力を振り絞る。
更に圧迫が強まる。あまりの痛みに手からダンビラが滑り落ちる。絶望感に包まれながら最後に見た光景は暗い緑色の光だった。




「そ、それから?それからどうなったの」
「しばらくしたら同僚に起こされましたよ。武装したまま倒れていたからえらい剣幕でね」
「それが本当なら大スクープじゃない!何で広まってないの」

詰め寄る文を椛は鼻で笑う。

「まさか本当の話だと思っていらっしゃる?作り話に決まってるじゃないですか。哨戒中に妖怪が近づいてきて抱きしめられて気絶したなんて言えるわけが無い」

暗く笑いながら残った酒を流し込む。大きく息をつき空になった杯を眺めながらぶつぶつと呟く。

「そうとも本当の話な訳がない。あれは悪い夢だ悪い夢だ悪い夢だ…」

そう呟く椛の眼の中で黄色い上着と緑のスカートを着た子どもが手を大きく振っているのを文とはたては見た。
この後椛は文にさとりを紹介され無事眼から面影を取り除くことができたかもしれない。

心綺楼こいしちゃんの眼が大好きです。
日々の健康に一杯の紅茶を
作品情報
作品集:
9
投稿日時:
2013/12/20 17:07:56
更新日時:
2013/12/21 02:07:56
評価:
4/4
POINT:
400
Rate:
17.00
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こいし
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1. 100 名無し ■2013/12/21 05:58:17
いい眼してますよね
2. 100 NutsIn先任曹長 ■2013/12/21 18:33:00
『アレ』に悪気が無い、というか、何かするという意識が希薄だからタチが悪い。

椛回復の後、頭にお姉ちゃんからもらった拳骨でタンコブをこさえたこいしちゃんが、笑顔でフランちゃんとお茶しながら一部始終を話していたりして♪
3. 100 名無し ■2013/12/21 20:14:50
済んだ瞳は居心地がいい
4. 100 名無し ■2013/12/22 00:05:58
自分も瞳の描き方をよく注目してますが、こいしの目は他の他キャラの立ち絵と確かに差別化されてますよね。
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