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『正邪ちゃんのドキドキ初体験』 作者: おにく

正邪ちゃんのドキドキ初体験

作品集: 9 投稿日時: 2014/01/01 20:52:05 更新日時: 2014/01/02 05:52:05 評価: 4/6 POINT: 460 Rate: 13.86
正邪は幻想郷のはきだめのような妖怪であった。様々な悪事をするので煙たがられているが、
そこまで大きな害があるわけでもないので、放置されているチンケな小悪党である。子鬼らしいちっちゃな角は、
鬼の中でもことに小さく、そんな正邪の性質をよくよく表していた。

今日の正邪は両手にヤツメウナギの串を持ちながら、人気のない森の小道を歩き続けていた。小さな口がヤツメウナギの肉をちぎる。
やはり、焼きたての食べ物は美味しい。その上、ただで貰ったものとなっては、美味しくないはずがない。二重の意味で美味しい。
もっとも、貰ったというよりは力の差を利用してカツアゲしたと言った方が事実を正確に表しているのだが、
あまりに日常的に横暴を働いているので、正邪にはもう奪うと貰うの区別が殆どつかなくなっていた。

鼻歌を歌う。濁りきった心とは裏腹に、その歌声は澄んだ小川のせせらぎに似ていた。音感はあんがいあるのだ。

正邪は森を行く。何をするというあてもない、正邪には何の義務もない、ただ好き勝手に生きているだけの存在だからである。
そのような生活、どこぞのお嬢様ならともかく、食い扶持を得られない以上、普通は長く続けられるわけがないのであるが、
正邪は奪うことになんのためらいも感じない子鬼である。自分より弱い妖怪から巧妙に金銭や物品をまきあげて、
巫女のような強制力が働かないように慎重にラインの上を踊りながら、幻想郷というシステムに寄生している。
そうして手に入れたのがこの自由気ままな生活である。はぐれもの、外れもの、やくざ者、
正邪という少女にはそのような表現がふさわしい。正邪は気楽で、幸福だった。

鼻歌のキーがあがる。今日の正邪は珍しく機嫌が良かった。上手いこと食料を巻き上げられたからだろうか。
ミスティアの悔しそうな顔はいつ見ても傑作だ――あるいはただの気まぐれで、本当に偶然、機嫌を損ねていないだけなのだろうか。

分かれ道に差し掛かる。そこで正邪はふと思いついたように、ポケットの中から財布を取り出した。
もちろん、愚鈍そうな人間からすりとったものである。

人里で遊ぶのもいいかもしれない。聞く所によれば、近頃幻想郷にも映画館というものが出来たそうだ。正邪は刺激に飢えていた。
分かれ道を右にすすむと鼻歌はさらに陽気になる。空の上には真っ白な太陽がきらきらと輝き、森の葉に遮られて、
やわらかい木漏れ日を道の真中にまばらに落とすのである。時刻はまだ正午、人間たちはせわしなく働いている時間である。
そんな時間に金で人を使ってやることが、正邪のようなあまのじゃくの心にはうるおいになる。

「大ちゃーん!? 大ちゃんどこ? かくれんぼはもうやめようよぉ、つまんないよー! 全然みつけられないんだもん! もー!!」

そして、正邪の浮かれた心に水を差すように、豊かな森の情景を汚すように、やかましいガキの声が鼓膜に響いてくるのである。
正邪は一瞬で不機嫌そうな顔になり、声のした先を睨んだ。正邪の視力はすさまじい、木々の合間のさらに先、かすかに見える湖のほとりに、
氷色のはなたれ妖精が頬をふくらませて闊歩するのが見えていた。

「こんな静かな場所で騒ぎやがって」

舌打ちをする。最近は妖精の失踪が多発していて、外出を控えるものも多かったのだが、どこにでも例外はいるものである。

「ねえ、大ちゃん! こんどはおにごっこがいいなー! ねえ、どこ、だいちゃーん!?」

正邪は進行方向を人里から湖に変える。正邪はあまりに自由なので、自分の喜びを邪魔する輩は、自分より弱い奴である限り、
絶対に許せないのである。正邪は道を外れ、下草と根っこを踏みつけながら一直線に妖精に近づいていった。

「おい、お前、そこの妖精」

あからさまに不機嫌そうな声で目の前の妖精を呼び止める。水晶のような羽がぴくりと揺れた、騒音の正体は氷の妖精チルノであった。

「なに、あたいになんかようか?」
「そうだよ。ちょっとこっち来い」

森をようやく抜けて、あまりにも大きな霧の湖を見る。太陽がさんさんと降り注いでいる。
霧の向こうにはうっすらと、人の鮮血のように明るい洋館が蜃気楼のように揺らめいていた。
チルノは首をかしげながらちょこちょこと歩いてくる。猫のようなくりくりとしたつり目で、正邪の顔を見る。
いかにも何も考えてなさそうな、ぼけっとした表情。正邪には、可愛く思えなかった。むしろ憎たらしかった。
どうせその小さい指で、いつも鼻くそでもほじってるんだろう。汚い、うるさい。憎たらしい。
憎たらしかったので、正邪は何の挨拶も警告もないまま、その小さな鉄拳で、一切の手心なく、チルノの顔を打ち抜いた。

水の袋を叩いたようなバンという音がして、チルノの頬が腫れ上がる。

チルノの小さく華奢な体は地面に叩きつけられ、ごろごろと転がっていった。膝がすりむけ、鼻から血が流れる。
いきなり殴られるのだからたまったものではない。びいびいと幼児そのもののように泣きわめき始めるまで、そう時間はかからなかった。



霧の湖のほとり、いつも子供のような妖精が集まって、きゃいきゃいと騒ぎながら、裸足で芝生を踏みしめて走り回っている場所だ。
いつまでも小さく幼い妖精たちにとっては、ただ開けた場所というだけでも絶好の遊び場であった。今、そこには三つの子供の姿がある。
大妖精、チルノ、そして黒髪に小さな角、いっけんおとなしいちんちくりんにしか見えない、鬼人正邪という子鬼の三人がいた。

「チルノちゃんを放してあげて下さい!」

そのうちの一人、大妖精は目の前で友達の胸ぐらをつかんで意地悪そうな子鬼に、地面に頭がつかんばかりの角度で頭を下げていた。
しどろもどろになりながら、思いつくままに謝罪の言葉を並べる。

「チルノちゃんが失礼なことをしたのなら謝ります。ごめんなさい! その子、他の妖精より少し足りなくて、ですから、きっと悪気はなくて」
「はぁ、何言ってんのかな、お前。失礼なんかあったら、即座に殺してるよ」

震える大妖精の姿にいくばくかの快楽を覚えながら、にやついた顔でその後頭部を見下す。

「足りなくて、バカで、ヘラヘラ笑ってる声がむかついたの。だから殴ってるの。何をしたとか、悪気があるかなんて全然関係ないの」
「そんなッ……、それじゃあ、チルノちゃんは……何も悪いことしてないのに何度も殴られたんですか……?」
「私を不快にさせた、十分悪いことだよ。それとも何? お前、鬼の私が間違ってるとでも言うつもりなのかな?」

チルノは胸ぐらをつかまれ、身動きがとれない。腫れ上がった頬、鼻から血を流し、ひゅうひゅうと荒い息を繰り返してる。
足をだらりと下げている。体は恐怖で固まって、塩辛い涙だけが、目元から止めどなく流れ、地面に雨粒のような染みを作っている。
そんなボロボロの姿を見る。しかし臆病ながら正義感の強い大妖精とはいえ、それ以上強く出ることは出来なかった。
ただ頭を下げ、気まぐれの許しを期待するほかにどうしようもなかった。

強気を助け、弱きをくじく、鬼人正邪のくつくつ笑いが聞こえる。さらりと流れるような黒髪がひらひらと風でゆらめいていた。

正邪の頭にある二本の角、それは紛れも無く鬼の証であった。鬼は、幻想郷最強種族の一角。平均値を取れば、あらゆる種族を圧倒している。
種族全体が地底に引っ込んでいるため、地上で表立って力を奮うことはまれだが、その力はすさまじく、人間にも劣る妖精という立場では、
弾幕ごっこのような遊びでない限り、もとより抵抗することさえ難しい、それが幻想郷の現実であった。

大妖精はチルノより少しだけ知的であったため、そのような力関係をわきまえている。
機嫌を損ねれば殺されるかもしれない。妖精は死んでも一回休みになるだけとはいえ、痛みも恐怖も鮮烈で、喪失感は本物である。
大妖精は自分の顔が青ざめていくのを感じながら、ただ友達の無事のために、頭を下げ続ける。

「お願いします。馬鹿な子なんです。良く良く言って聞かせますから、どうかお許し下さい……、お願いします……!」

腰の骨を折らんばかりに頭を下げる。絶望的な空気の中、チルノのすすり泣く声が聴こえる。
そもそも出かけるべきではなかった。最近は妖精が消える事件があり物騒なので、チルノと一緒に家で遊ぶつもりだったのだが、
チルノがどうしてもどうしてもとだだをこねるので、外でかくれんぼをしていたのである。

「ぐず、もう゛いいよ、だいちゃん……、ひっぐ、もう逃げてよぉ……」

チルノちゃんは何も悪いことしてないのに!

何も出来ない自分が悔しくて、大妖精は泣きわめきたくなった。子供のように泣いて、誰かに助けを求めたかった。
しかし自分まで折れてはチルノを助け出すことが出来なくなってしまうので、自分を殺して、何度も何度も頭を下げる。

「ねえ」

低く威圧するような声で正邪が言う。

「は、はひ」
「この子を助けたいなら、誠意を見せてよ。そうだなぁ……裸で土下座するとかさ」

正邪の心臓はドキドキと高鳴っていた。苦痛と恥辱に歪む大妖精の顔を想像するだけで、期待で胸が一杯になった。
チルノのような馬鹿は殴って泣かせるに限るが、大人しそうな娘には精神攻撃が一番。カメラでもあれば、写真をとってばらまいてやれるのだが。

「はっ、裸……!?」
「そうだよ、裸にして、滅茶苦茶に踏んでやる」

わずかに動揺を見せる大妖精、視線を泳がせ、傷ついたチルノを見る。チルノの顔には痣が浮かび、血液で汚れている。

「早くやれよ、殺すよ?」

これ以上、チルノを酷い目にあわせる訳にはいかない。大妖精は顔をくしゃくしゃに歪ませると洋服のボタンに手をかけた。
正邪はまた、愉快そうにくつくつと笑った。ああ、楽しい、楽しい。不機嫌に染まった正邪の心も、ようやく落ち着いてきたところだ。
人里とか映画館とかもういいや。これが楽しい。正邪の関心はすでに楽しさをいかに収奪するかに移り変わっていた。

しかし、そこで新たな風が吹き込んでくる。ピーマン色の髪の毛をした脇丸出しの巫女が、東の空から弾丸のように飛来したのである。
巫女は正邪と大妖精の間を通り、飛行機のようにランディング、ぱたぱたと芝生を歩いてようやく止まる。その風圧、大妖精は小さく悲鳴を上げた。
芝生ががさがさと騒ぐ。スカートがめくり上がりそうになるほどはためいてしまう。そして新緑の色が印象的な後ろ姿が、大妖精の視界に捉えられる。

「早苗さんっ!」
「はい、呼ばれて飛び出て東風谷早苗です」

ダブルピースをしながら振り返る早苗、肩からかけられたみかん箱大のクーラーボックスは何なのだろう、買い物帰りか何かだろうか。

「いや、大妖精さんお久しぶりです。血の臭いがしたので飛んできました」

正邪は突然乱入した新顔に怪訝な顔をする。さらりと長い緑色の長髪、ぱっちりとした瞳、
根拠の無い自信にあふれるその雰囲気、優等生か何かのようで、見るだけで胃がムカムカする。
博麗の巫女と対になるようなあの服装、あの女もどこかの神社の巫女に違いない。
この間の異変、正邪一世一代の大騒動は、幻想郷を滅茶苦茶にする前に巫女に鎮圧されてしまった。それからというもの、
正邪は巫女のような異変解決を生業とする輩は内心苦手、はっきりいえば大嫌い、超気に入らないのであった。

早苗は湖のほとりにいた三人を見る。ボロボロになったチルノ、涙目の大妖精、動揺を見せる正邪。早苗は顎に手を添え考える。

「早苗さん! チルノちゃんが、何も悪い事してないのにこの鬼に捕まって……、殴られて、何度も……、酷いよ……ぐす」

安心感から涙腺が緩む。

「むむ、弱いものいじめと聞いては、この早苗、黙っていられませんね!」

正邪の表情が険しくなる。気付かれないように小さく、不快感から舌打ちをする。

「知り合いかよ……面倒だな」

せっかく弱いものいじめを楽しんでいたのに、どんだ邪魔が入った。これからボコボコにして泣かせて、洋服も燃やして、
悲しみと恐怖でひきつる顔が見たかったのに、良い子ちゃんに邪魔されたんじゃ最悪だ。それに、あの巫女、半分神だ。しかも強い。
全身から信仰による力がみなぎっている、ある種の超人だ。得意な弾幕ごっこならともかく、暴力ではおそらく勝ち目はない。
鬼は鬼であるが、下の下、ずる賢いことだけがとりえ、正邪は鬼の中でも随一の小物である。萃香や勇儀とは悪い意味で次元が違った。
正邪は相手の強弱を見極める持ち前の嗅覚で、目の前の少女を見事に状況を分析していた。その分析は、実際、九割方正しいものであった。

「へ、へへ、お、お姉さん。あのさ、違うんだよ。これには深い事情があって……」
「あなたは黙ってて! あなたに言い訳なんてする資格なんて無いのよっ!! この屑妖怪!」
「ぐっ……お前!」

猫なで声で下手に出る正邪を、大妖精の大声が牽制した。立場が逆転した途端に豹変しやがって。正邪は奥歯を強く強く噛んだ。
早苗はといえば、左手にお祓い棒、右手は暇をしているのか、長髪の先っちょをくるくると弄んでいた。

「そうですねぇ、大妖精さんの言い分は分かりましたので、そこの子鬼さんの話も聞きたいですね、そういうことでいいですよね、大妖精さん?」

てくてくと歩み寄りながら大妖精に尋ねる早苗、しかし大妖精はそれどころではないと思った。
早苗の乱入でチルノは正邪の手を離れ解放されてはいたが、いまだ正邪の足元から逃れられてはいない。
何度も殴られ痛めつけられて、体力を失っているのか、意識が朦朧としているのか、とにかく逃げることも出来ないほど弱っているのである。
チルノの体がピクピクと動く、呼吸の度に小さい背中が上下する。しかし、起き上がることはできないようで、
弱々しい虫のような声で、苦痛のうめき声をあげているのである。

「いっ、今はそんな場合じゃないんです! 早くチルノちゃんを手当してあげないといけないんです!」
「はぁ、そうですか? まだ息があるように見えますけど」

大妖精は笑顔の早苗と満身創痍のチルノを見比べる。息があるかという問題ではない、あんなに傷ついているチルノを放っておいていいわけがない。
すぐにでもどこかの医者に見せて治療してもらわないとまずい。

「息の問題じゃありません、チルノちゃんが怪我してるのに……!」
「妖精なんて仮に死んでも生き返るじゃないですか? 後回しですよ、そんなの。両者の言い分を聞かないと不公平ですし。
 殴られても仕方のないことをしたのかもしれないじゃないですか」
「そ、そんなっ! いくらなんでも酷すぎます!」

生き返るとはいえ、死ぬ事ほど恐ろしい体験はない。おかしい、痛がってるのに、いくらなんでもチルノが可哀想だ。
人間に向かって、どうせ完治するから全治一年の複雑骨折をしてもかまわないと言い放つぐらい、ひどい暴言である。
早苗に迫る大妖精。大妖精の背丈は早苗の胸程度までしかない。服にすがり、上目で見上げ、必死に訴える。
早苗の顔色が変わる。大妖精を、早苗はメッセ顔で見下した。

「はあぁぁーーーー……もう、いいです」

あからさまに不快そうなため息をつく早苗、大妖精の困惑は更に深くなり、怯えの影がさし始める。

「あのですね、私、貴女の意見なんで一度も求めてないんですよ」
「え、あ、ぁ……? さ、早苗さん?」

早苗の右手が突然握りこぶしになる。大妖精の頬を容赦なく殴る。手加減のない、全力の打撃であった。
大妖精は口と鼻から血を流しながらふらりと芝生の上に倒れ、わずかに転がる。脳がグラグラして、世界がぐるんぐるんと回る。
どくどくと血を流す高い鼻を両手で押さえ、痛みにうずくまる。口の中もも少しだけ切ってしまった。

「あ゛ぁぅ……、うぅ、ぅ……!?」
「黙っていて下さいね」

早苗は正邪に向き直る。正邪はぽかんと口を開け、一切、何の反応も出来ずにいた。絶句していたのだ。
正邪の分析は9割方正しかった、一点、早苗の本性を除いて。早苗の真面目さ、実直さ、丁寧な言葉づかいは全て虚飾である。
糊付けされた仮面のようにへばりついた人格、しかし、一度必要が無くなればこの通り、一瞬で豹変する。
早苗は生粋のサディストであり、あらゆる命に平等に価値を見出さないサイコパスであった。

東風谷早苗16歳、生まれながらの現人神であり、神職であり、進学校の生徒であり、きらめくような美人であり、
そして、やりたいことをやりたい通りに押し通す一直線の半人間、趣味は人殺しである。え、本当? 嘘でしょう、あの早苗さんが?
早苗はクーラーボックスの蓋を開けて、毛むくじゃらのボールのようなものを取り出す。それはわかさぎ姫の生首であった。
美味しそうなわかさぎが住み着いたと魔理沙が冗談めかして言ったので、いっそ本当に食べてしまおうと今朝、朝一で殺しに行ったのである。
生首と可食部位だけが綺麗に詰め込まれたクーラーボックス、これから数日間、飽きるほどに天ぷらを楽しめるだろう。

血液と涙と鼻水で汚れたわかさぎ姫の生首を、正邪に投げてよこす。
うっすらと開いている瞼からは、突然殺された恨みと無念が凝縮されていた。

「きゃっ……!」

避けた。わかさぎ姫の生首はごろごろと転がって、ぼちゃんと大きな音を立てて霧の湖に落ち、沈んでいった。
正邪の全身から冷や汗が吹き出して、小さな乳歯がかちかちと音を鳴らす。
良心を失った正邪であったが、社会と決定的に敵対する恐怖から、自己保身から、殺しだけは手を出さなかったのだ。
その殺しをなんの躊躇もなく、娯楽のようにやってのける人間がいた。その刃物のように冷酷な視線が正邪に突き刺さる。

機嫌を損ねれば、あの生首のように殺されるのではないか、そんなリアリティのある恐怖が正邪をたじろがせていた。

「弱い者いじめって、楽しいですよね……お名前は?」
「せ、せいじゃ……きじん、せいじゃ」
「ああ、あの正邪さんですか。霊夢さんから話は聞いていますよ。いい名前ですね、ワルって感じで……でも、これじゃ名前負けですよね」

長髪をさらりとかきあげる。早苗はさきほどの清楚さとは完全に異なったにたりとした笑みを浮かべ、くすくすと笑う。
そして巫女服の胸元、豊満な乳房の合間から、青白く光る血まみれの小刀をしっとりと抜く。まだ温かい。
その温度は早苗の乳房の体温でもあったが、同時に、わかさぎ姫の血液の熱の名残でもあった。

「見てられませんでしたよ。まどろっこしいんですよ、貴女のやり方。もっと過激にやりましょうよ」
「う、うん……」

内心ビクビクと震えながら、努めて心の中を隠して、正邪はうなずく。冷たい、しかし満ち足りた早苗の表情。
恐ろしくて、とてもではないが逆らう気にはなれなかった。早苗は足元にいる大妖精のサイドテールを掴み、体全体を引き上げる。
毛根に体重がかかる苦痛から、大妖精は悲痛な声を漏らす。そして恐怖よりも悲しみよりももっと深い絶望の表情で、早苗の笑顔を見るのである。

「何で、弱い物いじめは見過ごせないって……」
「そりゃあ見過ごせませんよ、一緒にいじめたほうが楽しいですからね」

大妖精の顔が引きつる。神社で会った早苗は笑顔で妖精をもてなし、お菓子まで出してくれる、優しいお姉さんだった。
その記憶が大妖精を安堵させ、助かるのではないかという希望の原因になったのである。
それなのに、目の前の早苗は快楽殺人者だった――先ほど転がっていった人魚の女の子の首は、どう見ても本物にしか見えなかった。
人の心はわからない。どのような人間であるかという認識は、アウトプットされた仕草、容姿、発言や行動からの類推でしかない。
一種の想像、ある種の信仰なのである。早苗という人間は、その生まれもあって、無垢な者の信仰心を操ることに非常に長けていた。

「あっ……!」

刃が首にあてがわれた。

「暴れたら殺しますから」

大妖精の体が震えている。恐怖で感情が昂って、涙がぼろぼろとこぼれてきた。

「正邪さん、私も一緒に遊んでもいいですよね?」
「う、うん、勿論だよ」
「わぁ、ありがとうございます! 私ね、一緒にこういう遊びができる友達が、ずっと欲しかったんです」

早苗の声はあくまで優しかったが、そこには有無をいわさない冷酷さが滲み出ていた。絶対に逆らってはいけないタイプの人間だった。
とぼとぼと歩く正邪、その顔に大妖精の視線が刺さる。

「助けて……!」

先ほどまで危害を加えていた正邪にまで助けを求めるほど、大妖精の生存本能は警鐘を打ち鳴らしていた。
しかし、正邪も早苗には逆らえない。正邪は人の言うことに素直に従うような子鬼ではなかったが、命の危険があるなら別である。
いくらでも湧いてくる妖精の命より、自分の命のほうが大切、生き物として当たり前の行動である。

「じゃあまず、服を脱がせましょうか。ですよね、正邪さん?」
「うん……」

手にとったナイフで上半身の服を切り裂いてゆく。血に濡れたナイフのぬるりとした血液が、大妖精の背中に染みこみ、恐怖を倍増させる。
空気を察しさ正邪も、スカートに手をかけ、引きずり下ろしてゆく。ほっそりとした二本の生足が、柔らかく露出するのであった。
穴だらけになった衣服、小さな臍と、ほんのわずかに膨らんだなだらかな胸の丘、ほとんど肌色に近いピンクの乳首など、美しさにはこと欠かない。
その裸体はまさに妖精、地上の汚濁や老化の醜さもまだ知らない、少女として完成された肉体であった。

「下着も下ろしますね」
「ゃ……っ!」

小さく抵抗の声を上げるが、行動に表すことは出来なかった。まだ蒙古斑が消えきっていないかわいいお尻、真っ白いお餅のようなそれ。
そして、下腹部の下で可愛らしいくぼみを作っている大妖精の膣は、具が全く見えないほどに純粋で、性を知らなかった。
早苗はそこに遠慮無く手を伸ばす。大妖精は早苗の巫女服のそでを掴むが、抵抗にはならなかった。中指がくぼみに沈む。
まだ成熟していない、敏感な部分を触られた痛みで、大妖精は苦しそうな声を上げた。当然、一本の陰毛もない。

「正邪さん、私のケータイで写メ撮ってくれませんか? 記念に残しとくんで」

強いものには弱い正邪は、まるで召使いのように無抵抗で頭を下げで、早苗のケータイを受け取る。
屈服する自分が嫌で、正邪は奥歯を噛む。人の命令に従うことほど正邪が嫌うことはなかったが、背に腹は変えられなかった。
早苗のケータイははたてのようなガラケーではなく、今を時めくアップルのスマホであるが、通信キャリアが河童なので、しょっちゅう圏外になる。
とはいえ、写真を撮影するだけなら問題にならない。早苗は大妖精の首に小刀を突きつけて笑顔でピースサインを作る。
正邪は使い慣れない外の世界の道具に戸惑いながらも、早苗と二言三言のやりとりをして、すぐに操作を心得た。

「ほら、大妖精さんも笑って」

小刀が頸動脈スレスレの位置にある。皮膚の薄皮を切り裂きかねないほど、手元が狂えば大量に出血する。
泣き笑いの表情でカメラに媚びる大妖精、裸の写真を撮られるという恥辱、喪失感。大妖精の荒い息遣いが静かな湖のほどりに響いている。

「はい、チーズ!」

カシャリ。

「上手く撮れてますか?」
「えっと……うん、大丈夫だよ。ちゃんと撮れてる」

スマホを返す正邪、早苗は自分でもその写真を見て、満足そうににっこりと笑った。
そしてポケットにスマホを仕舞うと、大妖精が逃げないように羽交い締めにする。そして手元にある小刀を正邪に手渡した。

「それじゃあ正邪さん、よろしくお願いします」
「えっ?」

わかさぎ姫の血を吸い、先程まで大妖精の首につきつけられていた小刀。その刀身から発せられる光は、
わかさぎ姫の血でうっすらと赤く染まっている。正邪がその柄を握ると、ビリビリとした電流のようなものが
正邪の両手に走り、手を引っ込めて取り落としてしまった。

「ちょっと、気をつけて下さいよ、神社に伝わる宝剣なんですから、壊したら怒られます」
「う、うん、ごめん。何か電気みたいなのが来て、ビックリしたんだよ。わざとじゃないんだ……」
「ふーん……? ああ、そっか、当然ですね、退魔の宝剣ですから、正邪さんみたいな邪悪な妖怪が持つと反発するんですね。
 でも多分大丈夫です。正邪さん程度の妖怪なら、そこまでダメージはないでしょう」

正邪は自分よりも目の前の巫女のほうが邪悪に思えたが、口には出さなかった。宝剣とやらもいい加減なものである。

芝生に落ちた小刀を恐る恐る拾う。また電流のようなものが来て手のひらが痺れたが、今度は意識を集中していたので、
再び取り落としてしまうことはなかった。小刀の先が震えている。痺れのためではない。取り返しがつかないことをする恐怖がそこにはあった。
正邪は良心の欠片もない妖怪だが、大きな悪行に耐えられるほどの器はなかった。

「この宝剣はですね、刺した相手の肉体だけでなく、同時に魂まで切り裂くものなんですよ。私の代になるまで長らく廃れていましたが、
 守矢の血に連なる巫女は、代々、あらゆる妖怪や霊の類を滅ぼしてきました。仮に霊体が相手であろうと、不可逆に消滅させることができる。
 その宝剣は、守矢の巫女が大切に受け継いできた、退魔の基本装備なんです。で、この剣で妖精を殺すとですね」

早苗はにっこりと笑った。大妖精は恐怖で膝が笑い、ぽろぽろと泣いている。

「死にます。そして魂まで壊れるので、もう二度と復活できません」

大妖精の体がひとりでに震えはじめる。早苗は嬉しそうに、ぺらぺらと宝剣の素晴らしさについて語り続けた。

「妖精が復活しないって、本当に……?」
「ええ、何度か実験しましたけど、生き返った妖精は居ませんでしたね。サニーちゃん、ルナちゃん、スターちゃん、リリーちゃん……
 どの子もとっても可愛い悲鳴をあげて死んでくれましたよ。ふふ、くくくく……」

指を折りながら手折った花の数を数えてゆく。しかし、手には十本しか指がないので、残念ながら数えきれない。
妖精だけで数えきれないほどの人数を殺していると分かったので、早苗は考えるのをやめた。
大妖精の顔は真っ青に青ざめた。自分も殺されるんだ。今にも気絶しそうな綱渡りの中、なんとか平衡を保っている。
妖精が失踪する事件はかねてから噂になってはいた。妖精は死なない種族だと盲信している妖精たちは、すぐに帰ってくると信じて疑わなかったが、
それは間違いだったのだ。早苗の挙げた妖精たちは、ここ一ヶ月で行方不明になった子たちばかり、決して偶然ではない。

早苗の言葉は真実なのだ。早苗は本当に何人もの妖精を殺して、罪の意識もなく、こんなに楽しそうな顔をしている。
しかし、大妖精の心は矮小な恐怖心で満たされていたので、知り合いや友達を殺された義憤が現れる余地はなかった。

「さ、説明はこれぐらいにして、殺しちゃいましょうか。ね、大妖精さん?」
「いッ……!? や、嫌です、お願いします、ごめんなさい、死にたくない、いや、いや……!」
「こ、殺すの? 本当に殺しちゃうの?」

正邪が震える声で聞き返す。

「当たり前ですよ。あなたのやり方は生ぬるいんです。裸で土下座させるより、殺したほうが絶対楽しいですよ。
 殺しておけば露見する心配もありません。それに、そんなんじゃいつまでたっても可愛い子鬼ですよ」
「……でも、そこまでしなくても。可哀想だし……」

早苗は呆れて声を張り上げた。

「はぁ、何ですか、今更この子の身を案じるんですか? 正邪さんはそんな子じゃないですよね、小人を騙して異変も起こさせたんですよね?
 さっきまで妖精をいじめて楽しんでましたよね? 殺すのが怖いから、そんな言葉が出てくるんでしょう?」
「なっ……」

正邪の顔が赤くなる。

「怖くなんか無い! いままでだって、人間を殺して、食ってきたんだ!」
「人間は殺せるのに、妖精は殺せないんですか?」
「そ、それは」
「嘘ですよね。殺したことなんてありませんよね? そんなにビビってるんですから、私にだって分かりますよ。
 他人を陥れて楽しむ貴女が、殺しをできないでどうするんですか? くくく、あれ、どうしたんですか、泣かなくてもいいじゃないですか」

早苗はとっくに、正邪が小物の子鬼であることを見抜いていた。殺しをためらう時点で、それなりの存在であると推察できるし、
そもそも名のある鬼のような気圧される感覚がなく、巫女の直感も、正邪を並みの妖怪だと告げていた。

「泣いてなんか……!」
「お目目がうるうるしてますけど」
「……!! うるさい、うるさい!」

力の差がなければ、こんな奴、すぐにぶっ飛ばしてやるのに。

「本当は殺しもできない自分が嫌いなんじゃないですか? いじめたり盗んだりするぐらいなら、取り返しがつきますもんね。
 上手くやれば退治もされないんでしょう。賢いやり方です。でも、それって弱い妖怪の発想ですよ。正邪さん、一緒に大妖精さんを殺しましょう?
 ね? 大丈夫ですよ、苦しむのは貴女じゃない、大妖精さんなんですから」

そんな小物の正邪だからこそ、殺しをさせれば楽しめるのではないか、早苗のサディスティックな本能が主張していた。
生娘の初めてが血で汚される瞬間は、見ているだけで気持ちが良い。しかし、早苗の動機はそれだけではなかった。

「それにね、さっきも言いましたけど、私、友達が欲しいんです。うすっぺらな仮面ごしに付き合うんじゃなくて、一緒に殺しを楽しめるような、
 そんなお友達です。でも、こんな時代ですから、おおっぴらに殺し好きを公言するわけにいきませんでした」
「……」
「でも、正邪さん。貴女みたいな子なら、きっと仲良くやれると思うんです。ね、正邪さんも殺して、こっち側の住民になりましょう?」

たまたま見かけた正邪の姿、その歪み、徹底した悪童ぶりは、二つの顔を使い分ける早苗には魅力的に思えた。
そんな純粋な気持ちを、はにかみながらぽつぽつと告白するのである。

「ただの食わず嫌いなんですよ、ね?」

追い詰めてから優しい言葉をかける。作為か偶然か、正邪の心は揺さぶられていた。

両手で宝剣の柄を握る。ビリビリとした刺激が手のひらから肘のあたりにまで滞留している。柄を握っているだけでも
ほんの少しだけ魂が削られていくのが分かる。刺された時の痛み、想像するだけで恐ろしかった。
はあはあと荒く息をする。正邪は人も妖怪も殺したことがない、いじめて泣かせたりするのを面白がってただけのちんけな妖怪である。
命を奪うこと。それも、妖精の少女を二度と再生できないように破壊すること、そこには体験したことのない恐怖があった。
何か、拭えない罪を犯してしまうような、戻れない一線を踏み越えてしまうような感覚。目の前の大妖精はすすり泣いている。

そして、早苗は顔を冷たく書き換え、正邪の背中を押した。

「殺せないなら貴女から殺すだけです」
「……ッ!!」

全身が寒気に襲われた。躊躇いなんてつまらないものは捨ててしまえ、こんな妖精のために自分が死ぬなんて、まっぴら御免だ。

「分かったよ」
「……!? いや、嫌、嫌っ、嫌ああっ!?」

宝剣の切っ先が大妖精の腹に突きつけられる。大妖精は迫り来る事実を否定するかのように、いやいやと首を振って逃避を試みる。
早苗から羽交い絞めにされて、目の前に迫るのは刃、何人もの人妖を殺してきたその刀身に全身から鳥肌が立つ。

「やめろよ……、だいちゃんを放せ……」
「あら、居たんですか、チルノさん。ほら、貴女のお友達が殺されちゃいますよ? くく、くふふふ……」

チルノはボロボロの体に鞭打って、早苗の足元まで這い寄っていた。足首を掴むが、すでに力はなく、早苗が一蹴りするだけで足首が解放される。
それでもしがみついてくる。まるでそれが意味のある抵抗であるかのように、何度も足首にしがみついてくる。
早苗はまるでクリスマス前夜の小学生のように愉快な気分で、タップダンスを踊るようにチルノの両手を蹴飛ばした。

「いぎッ!? はあ、はあ、やめろぉ、やめろよぉ……! だいちゃんはお前なんかに殺されちゃいけないんだ……!」
「はぁ? くく、何ですか、それ。妖精なんて殺したいときに殺していいんですよ。ボウフラみたいに湧くんですから、
 少しぐらい間引いたほうが世の中のためです」

そうだ、妖精は虫みたいなもの、殺しても良い存在なんだ。正邪は自己暗示をかけ、心を落ち着かせようとする。
大したことじゃない。何度も深呼吸して、深いまばたきを五回ほどする。そして両手に力を込めて、大妖精の臍の少し上を突いた。

「あがッ、ギィああああああああああッッ!!!!」

肉体の痛みだけではなかった。存在を規定する魂が削り取られる激痛が大妖精の体に、落雷のような衝撃をもって襲いかかってきたのである。
小さい体に見合った高く可愛らしい声で、しかしまるで獣のように、痛みからの絶叫を発し続ける。
犬歯をむき出しにして、野良犬が吠えるようにがあがあと、言葉にならない音を喉から絞り出す。

「だいちゃん……?」

聞いたこともない大妖精の絶叫、物静かな少女の姿とはかけ離れていた。チルノはかすれるような声でその名前を呼ぶ。
そして正邪が刀身を引き抜くと、ガッと血を吐いて、悲鳴はピタリと鳴り止んだ。正邪の手の中はべたべたした冷や汗で一杯だった。
大妖精は痙攣する。大妖精の腹の傷口からは、薄く脂肪が滲んだ血液が、だくだくと止めどなく流れているのである。

「ああ、良い、良いです。これこそ悲鳴、この世で最も美しく心に響く音……です! さあ、もっともっと奏でましょう!
 正邪さん、大妖精さんのお腹を滅茶苦茶にしてあげてください!」
「ひイッ! やめでっ、いだい、いだいのぉ、ぞれずっごぐいだいのおぉ!!!」

錯乱気味に許しを請う大妖精、しかし興奮した早苗が止めさせない限り、正邪が殺人を止めることはない。
正邪も命がかかっているのである。ここで殺せなければ、自分が殺されるだけだ。正邪はまた腹に宝剣を突き立てる。

「あギャあ゛あ゛ああああああああぁぁぁぁぁッッ!!!?? い、ぎいいぃあ゛ア゛、あ、あ、ああ゛あああああああぁぁあ!!!!
 痛い、いだいいだいいだい!!!! やめでぐだざい! やめで、や、あああ、あ、あ、あ、あ゛ァァ……ッッ!?」

どす。ぐちゅ。どす。ぐちゅ。どす。ぐちゅ。どす。ぐちゅ――

刺される度に絶叫する大妖精。七度刺されて7つの穴が開くと、ほっそりした可愛らしいお腹は、血まみれの大河に変わっていた。
ビクビクと痙攣する。両目はぐるんと上を向き、ほとんど白目になっている。血の涙を両目から流している。
そして呼吸するたびに傷口はわずかに開き、大妖精の顔は苦痛で歪んでいくのである。

「もしもーし? 大妖精さん、起きてますかー?」

ぺちぺちと手のひらで頬を叩くが、反応はなかった。ただ震える大妖精のびくつきが伝わってくるだけである。

「起きないともっと酷いことしちゃいますよー? もしもーし?」

気絶しているのか、意識はあるが反応する体力がないのか、いずれにせよやはり返事はない。
早苗は7つのうちで一際大きな穴に着目すると、片手をその中に挿入し、皮を掴んで思いきり横に引っ張った。

「いぎあ゛ッッ!?」

最悪の激痛を経験した今となっては、腹を割かれる程度の痛み、痺れの中に埋もれてしまう。数ある痛みのうちの一つにすぎない。
ただ反射として悲鳴が上がる。そして細いお腹いっぱいに詰まったソーセージの皮が、こぼれるように溢れ出てくる。

「大妖精さんのはらわた引きずり出しますよー! ほら、正邪さんも手伝って」
「……うぇ」

早苗は嬉々として、正邪は嫌そうな顔をして、細長い十二指腸は引きずり出す。
何度も腹を刺されたことで、ダメージは内蔵にも達していた。腸はところどころに穴が開いており、大便の素になるような
生消化の食べ物が傷口からこぼれおちているような場所さえある。他の臓器も似たような惨状、穴だらけ傷だらけである。
早苗はそんなぐちゃぐちゃのお腹に手を入れて、泥遊びをする子供のように内蔵をかき混ぜる。早苗は躁に陥っていた。

「ほらほら、大妖精さんのお腹の中身がミックスジュースになっちゃいますよー!」

そして早苗は奥の方にある生暖かい器官を鷲掴みにし、そしてぶちりと引きちぎった。
赤い肉々しい、赤黒いその物体、肉の塊から二本だけ細長い器官が伸びている。それは大妖精の子宮だった。

「ほら、子宮ですよ? 見えますか、大妖精さんの赤ちゃんのお部屋ですよ! ふふ、大妖精さんの子宮、他の子のより少しだけ大きいんですね。
 やっぱり妖精にも育ってる子と育ってない子がいるんですね。数百年したら、皆さんも大人の妖精さんになったんでしょうか? ねえ、正邪さん?
 子宮ですよ、どうです? とっても可愛いと思いませんか?」
「あ、う、うん、うっ、うえ……げ」

卵管の片方を指でつまみ正邪に見せびらかす早苗、そこで耐え切れなくなり、正邪は生暖かい吐瀉物をげろげろと吐き出す。
地面にくずれ、胃の中の物を全て吐き出す。血の臭い、胃液の臭い、糞尿の臭い、それがないまぜになって正邪の喉を容赦なく刺激したのだ。

「あらら、お気に召しませんでしたか。こんなに可愛いのに、ねぇ、大妖精さん?」

大妖精の眼の焦点はもはや合っていなかった。意識も朦朧としている。ただ、気を失っては死んでしまうから、
それだけが恐ろしいから、全ての力を振り絞って意識をつなぎとめているだけ、そんな風前の灯の命である。

「だいちゃん……、やだよ……、お別れなんてやだよ……」

チルノは耳を塞いで、目を瞑って、ただ念仏のように似た言葉を繰り返し、嵐が過ぎ去るのを待っている。
恐怖のあまり、チルノはなかば錯乱していた。三者三様の絶望、苦しみ、早苗は少女たちが奏でるその協奏曲を、
全身、五感を使って浴び続けるのであった。

早苗の手は腹の中を登り、大妖精の心臓を掴む。まだ、とくんとくんと、弱々しい鼓動を繰り返していた。
大妖精は心臓を触られてももはやかすかなうめき声しかあげることができず、両手両足にも最早力が入っていない。
早苗が心臓から手を離し、ゆっくりと腹の中から手を抜くと、大妖精の体は力なく地面に崩れ落ちたのである。

「あー、楽しかった。それじゃあ、死んでもらいましょうか。大妖精さん、もしもーし? 抵抗しないと死んじゃいますよー?」

大妖精からの反応はなかった。あまりにも多くの血を流してしまったその小さいからだ、統一された意思はなく、本能も壊れていた。
正邪を見る早苗、正邪はすでに嘔吐を終え、虚ろな瞳で目の前の惨劇を見守っていた。最後の一撃のため、小刀を片手にふらりと立ち上がる。
もう戻れない。殺さなければ殺されてしまう。正邪は大妖精の小さな胸を直視する。
宝剣をふりかぶった。一撃で殺すつもりだった。チルノが泣きじゃくりながら嗚咽を漏らす。

「やだ、やだぁ……」

チルノのか細い懇願が聞こえたが、正邪は意識してその声をシャットアウトした。
宝剣の青白い刀身に太陽の光が交じる。大上段からの一撃は燃え盛る流星のようだった。そして大妖精の両胸の合間に突き刺した。
悲鳴はなかった。もはや声帯が潰れており、意識も失われていたからだ。体がビクリと跳ね、傷口から血液が止めどなく溢れる。
終わった。ただ静かに、大妖精という存在の体と魂が破壊された。大妖精という人格が、この世とあの世の両方から永久に消滅した。

それは現世と彼岸が曖昧な幻想郷という世界において最も理不尽な死、存在自体の抹消である。

「……」

殺ってしまった。

正邪は、こうして初体験を終えた。風のような花のようなあの少女を、消してしまった。正邪は血まみれの手のひらを見る。
言葉はなかった。正邪の目の前の世界には、血色じみた色が広がり、全ての現象の意味が書き換えられてゆく。

「わぁ、凄い」

早苗はうきうきした声色で大妖精の死体に近づき、その死に顔を見る。死体にはもはや何の感情もなかった。
温かかった、熱を失いつつある少女の心臓から宝剣を引き抜くと、傷口が鯨の潮のように血液を吐いた。顔に血糊がかかる。
早苗の服、手足、頭の上から足の指先まで血液で彩られる。迷彩服のようにまだらだった。

「あはは、もう着替える服もってきてないんですけどねー」

普通の人間にとって不快でしかない血の臭いが、早苗には愛おしかった。大妖精の胸元から血を掬い、ごくごくと喉を鳴らして飲む。
抱きしめられているかのような血液の温かさ、温水プールのような夢心地、早苗はうっとりとため息をつく。
そして宝剣を握りしめ、大妖精の小さな首を切断した。少女の未発達な細首を切り落とすのは、丸太を切断するより数段官能的である。
大妖精の生首を抱きしめ、早苗は恍惚の笑みを浮かべた。大妖精の頭は噴出する血液を滅茶苦茶にかぶっており、
見る影もないほどに真っ赤に染まっていたが、早苗の美的感覚はむしろそれを肯定していた。

「持って帰ろう。持って帰って、剥製にして保存しようかなぁ。ふふふ……」

外の世界の早苗は優等生で、少し変わった所もあるけれど、おしとやかで出来た娘さんだと近所でも評判であった。
しかし、それは虚飾、社会という幻想に溶け込むためのカモフラージュでしかなかった。部屋の片隅で自慰にふける時は、
たおやかな体の下級生や近所の幼女の首を絞めながら交配するイメージを頭に浮かべ、刺激いっぱいの虚構の中で絶頂するのが常であった。
早苗がなぜそのような方面に興味をもつようになったか、神職というイメージへの反発か、両親を亡くした事実の埋め合わせか、
本人にもそれは定かではなかったが、早苗自身は、そのようなことどうでもいいと思っていた。死という甘美に見を浸す喜びを知ることが出来た。
重要なのは過程ではなく結果なのだ。暴力を愛する自分という結果が素晴らしいのならば、あとはどうでもよい。

とはいえ、早苗が外の世界で妄想を現実にすることはなかった。過去の少年犯罪を振り返っても、一介の女子高生が
警察という国家権力の目を盗んで欲望を満たすことは難しいように思えたし、少年とはいえ連続殺人をすれば、神社の存続にもかかわる。
早苗の信仰心は本物であったので、二柱に迷惑をかけることは出来なかったのだ。
しかし幻想郷は違う、そこには秩序があったが、それは完全に利益と力のバランスにより構築されたものであり、外の法のような厳密性はない。
早苗のような権力者に連なる存在であれば、その秩序を乱さない限り、いくらでも例外を作る余地があった。

何の後ろ盾もない野良妖怪や妖精、外来人は、そのような例外の好例であった。

初めて殺したのは、何の後ろ盾もない哀れな傘の付喪神である。一流の妖怪に仕立て上げる秘法があると騙して、
廃屋につれこんで、熱い口付けをしながら柔らかな布で首を絞めて、包丁で柔らかな肉体の感触を味わいながら、
哀れなオッドアイの少女の全てを貪りつくしたのである。

そうして早苗は快楽殺人者になった。二柱にはすぐに露見したが、もとよりサディスティックな一面を垣間見せることがあったため、
とくに意外に思われることもなく、血と暴力の支配する古い時代の神なので、そのような嗜好にも寛容だった。
なにより、二柱は早苗を信用していたので、早苗ならやり過ぎることはないだろうと、楽観的に傍観していた。
おかげで早苗は幻想郷に満ちる様々な少女たちの剥製を保管しておくことが出来るようになった。

早苗は良い子だ。早苗は尊敬する二柱の期待に応え、殺しても問題のないような妖精や弱小妖怪、保護されていない外来人を殺して心を満たしていた。
酒は飲んでも飲まれるな、殺人も、社会が認める範囲で行わなければならない。

大妖精の首、血まみれのそれはあまりにも無垢で、剥製にしておけばインテリアとして映えそうな素材であった。

そして早苗の関心は、側に居た大妖精の友人に移る。一人だけじゃ刺激が足りない、何人も何人も殺して、初めて満ち足りた気分になれる。
わかさぎ姫、大妖精、チルノ。今日は三つも殺してしまう。たった24時間で三つの花を手折ることほど、贅沢な経験はない。
少女たちは今日という日を迎えるために何年も(妖怪や妖精なのでひょっとしたら何十年も)生きてきたのだ。
数十年間ものあいだ熟成されたシャトーワインのようなもの。それを三つも開けてしまったのだ。

「正邪さん、チルノさんは私が頂いでもいいですよね?」

正邪からの返事はなかった。初めての殺しについて、心の整理が付いていないのだろうか、ぼうっとして反応がない。
早苗はその沈黙を肯定を受け取って、チルノの小さな幼女顔を見下ろした。

「さて、おまたせしました、チルノさん……いや、大妖精さんみたいに、チルノちゃんって呼んであげましょうか」

チルノは仰向けのまま虚ろな目で早苗を見る。その視線が、早苗の視線と絡み、ほどけなくなる。
快感でらんらんと輝く早苗の顔が恐ろしくて、目を離すことができないのだ。死ぬ、チルノは毒薬を注射されたモルモットのような気分でだった。
そしてその恐怖の上に、友人を奪われた真っ赤な怒りが重ね塗られてゆく。

「チルノちゃん、悲しいですか、悔しいですか? ねぇ、あなたのお友達、正邪さんに殺されちゃいましたよ」
「うぞだ、うぞだぁ……! 大ちゃんは、大ちゃんは……!」
「嘘じゃありませんよ。大妖精さんはもう、二度と動かない、笑わない、喋らない。もう二度と生き返りません。残念でした」
「うそ、うそ、うそ……! 絶対生き返るもん……! 一回休みになるだけだもん……!」

チルノの視界に大妖精の死体が入ってしまった。血まみれの、変わり果てた姿だ。
聞き分けのない子供のように反抗するチルノに、早苗はため息をつく。

「馬鹿も休み休み言ってください。さっきの話、聞いてましたか? ねえ? 魂まで壊れて、もう二度と生き返れなくなるんですよ。
 説明したじゃないですか。チルノちゃんも聞いてましたよね? 死にました。大妖精さんはかんっぜんに死にました」
「う、うあ、やだ、やだ、やだあぁ……! 違うもん! ちがうもん……!」

チルノは目を見開いて、涙をいっぱいにためて、恐れに満ちた表情で、早苗の言葉を拒絶しようとする。
大妖精の絶叫が耳に染み付いていても、すぐ真横に死にたての死体があっても、あの宝剣の力が本物であったとしても、
目の前の現実から逃げれば悲しい思いをせずに済む。しかしそれは虚しい抵抗であった。

「お友達と突然お別れなんて悲しいですよね。でもね、これが現実なんですよ。なんなら試してみますか?」

早苗はにっこりと笑って宝剣をチルノにつきつける。馬乗りになって、チルノの八歳程度の小さな顔を、血まみれの手で撫でる。
むせかえるような血の臭い、大ちゃんの命のもと、チルノはいいしれない吐き気を覚える。

「いっぺんこの剣で死んでみます?」
「あ、あぁぁ……!」

チルノは情けなく失禁する。もはや恐怖で体のコントロールがきかない。分かっていた。早苗の言葉に偽りはない。
直感で理解していたが、認めたくなかった。そして今度は自分が、大ちゃんと同じ目にあることになるのだ。
絶対的な死、あまりにも恐ろしい。涙がまた溢れてくる。早苗の加虐心がどくどくと満たされてゆく。

「この剣で殺されても生き返るっていうなら、試してあげますよ。凄く痛いみたいですけど? 生き返るなんて絶対にありえませんけど?
 言っときますけど、大妖精さんと同じ場所になって行けませんからね。これで死んだら死後はありませんから、ただ消えるだけです」
「ぐず、や、や、や……! たすけ、だ、だれかぁ……!」
「それじゃ……ズタズタにして殺してあげますからね♪」

頭の上に振り上げた宝剣が一直線にチルノの肩を貫く。

「あがああああああああああぁぁぁぁっっ!!!!!!」

チルノは大妖精のように魂からの叫び声をあげる。

「もっと、もっとです! まずは、腕が千切れるまで刺してあげますからね!」
「やだあああああああ!!!! だいぢゃああああああん!!! だずげでええええええ!!!!」
「大妖精さんならもう居ませんよッ!」

ぴいぴい泣き始めるチルノ、八歳前後の幼児を彷彿とさせるその小ささ、大妖精が破壊されるのを見るのとは、また違う喜びがあった。
滅茶苦茶にする。滅茶苦茶にしてはいけないものを滅茶苦茶にする。宝剣の刃がチルノの小さな肩に刺さり、肉をえぐり、骨を破壊する。
刺されるたびにチルノは泣きじゃくり、助けを求めるが、興奮する早苗の欲情をさらに煽るだけに終わった。
そして十回ほど振り下ろすと骨と肉が完全に切断され、ぶちりと肉の音をたててチルノの右手の感覚が無くなった。
腕が取れた瞬間、泡を吹いて気絶するチルノ、その顔に早苗の鉄拳が放たれ、鼻から血を流しながら覚醒するのである。
そして早苗は切断されたばかりの片腕を拾い、ちゃんばらごっこのように振り回すのであった。

「あはは、チルノちゃん、もうお手手使えませんね!」
「ひぐ、あ、はあ、はあ、ぐず、やだ、やだよぉ、かえして、こんなのやだぁ……!」

そしてもう片方の腕も同じように切断する。出来の悪い人形の関節が外れてしまったかのよう。
両腕を失ったチルノの姿は、あまりにもアンバランスで、それゆえの倒錯した可愛らしさが、早苗の心を掴んだ。

「ほらほら、まだ寝るには早いですよ! そうですね……次はチルノちゃんのおまんこを処刑してあげます」
「ぇ……?」

ぽかんとした顔をする。出血で意識が朦朧としていることもあったが、早苗の言葉の意味がそもそもとれなかった。

「おまんこ、おまた。おしっこが出るところですよ。そこをね、この剣でぐちゃぐちゃにするんです。
 男の人のおちんちんも入ったことがないような穴を、ザクザクってね。サニーちゃんにもやってあげたんですけど、
 すごい悲鳴でしたよ。サニーちゃんには色々な拷問をしてあげたんですけど、指を1ミリづつスライスされるよりも痛いって言ってました」
「うぇ、は、はへ……?」
「どうしたんですか、ボケーっとして。貴女がこれからされちゃうことについて話してるんですよ?」

早苗は一度立ち上がり、今度は性器方面に向かうようにチルノに乗って、水色のスカートを躊躇なくめくりあげた。
細い枝のような骨が少しだけのお肉で彩られた、細い子供のふともも。真っ白い、股間部がわずかに黄ばんだ子供の下着。
早苗が下着の端を切ってはがすと、大妖精のそれよりさらに幼い、尿の臭い漂う子供まんこが早苗の目の前に姿を表した。

「きゃっ、可愛い」

血糊でぬめった人差し指でその膨れた膣肉を撫でる。プリンのように柔らかい。
早苗は内ふとももに頬ずりしながら、その一本筋に舌を這わせた。汗と尿の混じった濃い味がする。
そして早苗は、チルノの体がひどく震えているのを直に感じた。足はピクピクと震え、頬を通して愛おしいほど振動が伝わってくる。
早苗は宝剣の切っ先をチルノの何の装飾もない縦筋に、切断してしまわないようそっとあてがう。

「チルノちゃんの初めて頂きますね」
「あぅ……なに、いたいのやだ……」

チルノの意識はすでに朦朧として、気を抜けば今にも失神してしまいそうだった。早苗の尻が二重に見える。

「それ、入刀っ!」

そして血まみれになってなお鋭い刃物がチルノの膣に入り込んでゆき、処女膜と膣口を無残にも引き裂いた。
破瓜の血と傷口からの血液がちくわの穴のように狭い膣の中を、刀身とともに満たしてゆく。一番敏感な部分の痛覚神経が悲鳴を上げた。

「ああ゛あああああああ゛あああぁぁぁぁあ!!!??」

チルノの朦朧とした意識は突風のような激痛で現実に舞い戻った。そこには喜びも無ければ快感もない。
ただ性器が蹂躙される純粋な痛みがあるだけだ。ぐちゃぐちゃという音を立てながら、性交を模すように、宝剣が膣を出入りする。

「ほら、分かりますか? 今、剣が入ってますよね? 先っちょが少しだけ刺さってる部分が、子宮口です。この奥が赤ちゃんのお部屋ですよ」
「い゛いいいぎぃぃぃいいい!!!!! びいいぃ、ひいい、ひい、ひいい、ひいい!!!」
「もっと奥まで入れてあげますからね」

悲鳴のように息を繰り返すチルノにもはや理性はなかった。ただ痛覚の受容器官である。
早苗はさらに剣を押し込む。すると小さな子宮口は簡単に真っ二つになり、無菌室であったはずの子宮の中は、
雑菌と血液でいっぱいに満たされてしまった。早苗はさらに押し込む、刀身が全て飲み込まれるまで、ぐりぐりと肉を刳りながら押しこむ。
先ほどまで2つの肉の谷間でしかなかったチルノの膣が、太い物を飲み込んでいる。
膣口から滝のように血を流してさえ居なければ、これほど扇情的な光景も無かったように思える。

「あ゛あああぁぁーーーーー!!! あああああ゛ああぁぁーーーーー!!!! ひいい、ひいい、ひいい、い゛いいぃぃぃーーー!!」

チルノが早苗のスカートを握って滅茶苦茶に引っ張っている。電気椅子のスイッチを押された実験用チンパンジーの抵抗のようで、
早苗はつい笑ってしまった。早苗は肉の鞘と化したチルノの膣から宝剣を引き抜く。真っ赤な刀身、血まみれの膣。
いくら願おうとも、もう子供をなすことは出来ないだろう。もちろん、チルノはこれから死ぬので、杞憂といえば杞憂なのだが。

「他の部分もバラバラにしてあげますね。チルノちゃんはお馬鹿みたいですから、ついでに性教育もしてあげましょうか?」

早苗はチルノの小さなクリトリスを引っ張る。無理矢理引っ張って、その小豆の子供のように小さい肉豆を露出させる。
そして根本に刃をあてがって、一息に切除してしまった。

「ア゛ああああああああ゛ああぁぁーーー!!!!」
「今取っちゃったのがクリトリスです。ここを優しく撫でるととっても気持ちがいいんで、オナニーのときは重宝するんですけど、
 チルノちゃんにはないからもう関係ありませんね。そしてクリトリスの皮のそばから伸びてるのが小陰唇です」

まだ黒ずんでいない、薄い耳たぶのような小陰唇を、つまみ、引っ張り、切除する。もちろん、左右両方である。
刀身を前後させて丁寧に切り取ったが、わずかに切り残しが出来たので、膣の肉から、刃でえぐるようにそれを掘り出した。

「ひい、ひいい、いだ、いだい、痛い……!」
「痛いって言えるなら、まだ痛くない方の部位ですかね? ま、その小陰唇もなくなってしまったわけですけど?」

泣くように息をするチルノの声、喘ぎ声よりも淫靡で情欲をかきたてる。もっとこの音を聞きたいと思った早苗は、
尿道に刃の先を挿入し、一気に切り裂いた。チルノの体が一際大きく痙攣する。ビクビクビク。

「ここがおしっこの穴ですね……あれ?」

抉った尿道からは、血液に混じって尿がこぼれ、流れ続けていた。

「チルノちゃん、おもらしですか? おもらしばかりしてたら、きちんとした大人になれませんよ? ふふ……」

チルノの股間はすでに様変わりしていた。2つの肉の丘だけの純粋なすじしかなかったそこは、真っ赤な血の吹き出す滝に変貌していた。
2つの肉穴から鮮血がだくだくと流れ、チルノの意識を奪ってゆく。クリトリスも小陰唇も割礼されて、ぼろぼろになったそこは、
繁殖の用途としてはもちろん、快楽を得る器官としても使い物にならなくなっていた。生きて返したなら、尿をする度に激痛に苛まれ、
今日というトラウマをフラッシュバックしてしまう、可哀想な女の子になってしまうだろう。
それはそれで可愛らしい結末だと思ったが、もはやチルノの出血量は絶望的で、刺された回数も凄まじいので、
このまま消滅する以外の結末を願うのは、早苗の力を持ってしてももはや無理なのであった。放置しても死ぬ、いわゆる手遅れである。

ひゅうひゅうと荒い息が聞こえる。チルノの瞳は半開きで、もはやまともな思考力が残っているようにも思えなかった。

「そろそろ、お別れですかね……」

大妖精よりも幼い、しかしより鮮烈な悲鳴を聞かせてくれたチルノ。殴られた傷がおままごとであるかのごとく、
徹底的に痛めつけられた幼いからだ、大量の血液が、事切れた大妖精のものと混ざって、芝生を赤茶色に染め上げている。
早苗は体勢を変えて、再びチルノに向き合う形で馬乗りになった。

「チルノちゃん、おまんこ壊れちゃいましたね、どうですか? 生まれて初めての拷問の味は?」
「……」

チルノからの返事はなかった。チルノはもう半分死んでいた。

「言葉も出ないぐらい痛かったですか? そうですよね、私も女の子ですから分かりますよ。生理痛なんて問題にならない痛さでしょうね。
 私がされたらなんて想像もしたくありません。ショック死しなかったチルノちゃんはとっても偉い子ですよ?
 ルナちゃんやスターちゃんはおまんこの穴をズタズタにしただけで壊れちゃいましたからね、偉い偉い」

早苗は膣からの血液と大妖精の腹の血液で二重に真っ赤な手のひらで、虫の息のチルノの頬にそっと触れるのであった。
いつのまにか空は、先ほどの青天が嘘のように雲に満ちていて、ぽつりぽつりと細かい雨がここにいる全ての少女の体に
涙のような水のしずくを与えていた。

早苗は宝剣を振り下ろす。血液がビシュリと吹き出して、早苗の服を汚す。

「あはは、まだ血が残ってるんですね! いいですよ、チルノちゃんの中身を浴びるの、とっても気持ちいいです!」

そしてチルノの顔を殴る。胸や肩、腹を刺す。わざと急所を外して、この小さい氷の少女との交わりを楽しむ。
早苗の顔は興奮で真っ赤になっていた。自然と笑みがこぼれ、刀身も楽しく踊る。

「えへへ、死んでください。死んで、可愛い死に顔を見せてください、えへ、えへへへ……!」

馬乗りになって蹂躙する早苗はもはや鬼神のような存在に見えた。その体が、両手が踊る度、罪もない幼子の血液が雨のように降り注ぐ。
しかし、ある種のトランス状態にある早苗は、通常の注意力を失っていた。後ろからゆらりと迫る影にも気づかなかった。
早苗の誤算は――チルノに集中するあまり、周りが全く見えなくなっていたことにあった。

「お前も死ねッ!」

突然、早苗の後頭部が鈍器のようなものでかち割られた。視界が歪む。早苗の頭が出血し、瀕死のチルノ上に崩れ落ちる。

「がはっ……!?」

確かに早苗は人間を超えた超人であり、正邪に抵抗の余地は無かった。ただ、それには奇跡と信仰の力を十分に使うならという条件があった。
突然後頭部を殴られた早苗の防御力は人間のそれと大差ない。脳震盪を起こし、世界が揺れて、吐き気がする。
追い打ちの一撃が血にまみれた早苗の後頭部を再び襲う。早苗は河原で調理して味見したわかさぎの刺身が、胃液と混ざって酸っぱくなったものを、
滝のようにチルノの顔に吐き出す。早苗は口を抑えたが、指の間からどろどろと吐瀉物が漏れて止まらなかった。

状況を把握しようとするが、まともな意識を取り戻る前にまた一撃、脳天を割られる。

痛い、誰だ、分からない、怖い。早苗にとっては初めての感覚だった。ぼんやりした視界、宝剣を取り落とす。
平衡感覚が壊れている。それでも首と視線だけを背中の方向に流すと、そこには大妖精の生首の髪の毛を鷲掴みにした正邪がいた。

「はぁ、はぁ、……死ねッ!」

大妖精のサイドテールを握って、鉄球のように早苗の頭にぶつける。大妖精の生首は正邪が使用できる中で唯一武器として役立ちそうな物体だった。
頭部は体に占める体積の割合とは裏腹に非常に重い。そのため、上から下に振り下ろせば、ハンマーのような鈍器と同じような
ダメージを与えることが出来るのだ。大妖精の頭と早苗の頭、どちらから溢れたか分からない血液が草の上に折り重なってゆく。
早苗に隙を与えてはいけない。殺さなくてはいけない。もし反撃されたら正邪が殺される。
一度妖精を殺した正邪にはもはや一片のためらいもなく、ただ早苗の絶命を目指して打撃を繰り返した。

「死ね、死ね、死ね!」

正邪がこのような行動に出たのは、善意からでも、良心の呵責からでもない。ただ、生き残りたかったからだ。
早苗のようなサイコパスに目をつけられた以上、いつその矛先がやってくるか分からない。
仲間かどうかなんて関係ない。こいつはどんな生き物も殺す怪物だ。
友達なんて冗談じゃない。早苗と正邪の力関係では、正邪が一方的に利用されるに決まっている。

そして正邪は大妖精を殺してしまった。早苗のような力あるものなら、その程度の罪は無いも同然だが、
正邪のような野良鬼であれば、退治の口実になるかもしれない。そしてそれは、早苗がつけこむ弱みになる。
十数分のあいだ早苗に従うだけであんなに気分が悪くなったのだ。弱みを利用され、人間にいいように使われる未来は御免だった。

だから待った。大妖精の生首を片手に、チルノが痛めつけられている中、早苗に大きな隙が生まれるのを待った。
そして今に至る。正邪はすでに、早苗を前後不覚に追い込んでいた。脳震盪、あるいは脳内出血で、早苗の反撃能力は失われた。
正邪はボロボロになった大妖精の生首を投げ捨て、芝生に落ちた血まみれの宝剣を手に取る。

「やめ……! やめて、殺さないで……!」

体が動かない。だからせめて、声だけでも使って抵抗をする。命は一つ、絶対に失いたくない。
命の危機を感じる。早苗は何度も妖精や妖怪を殺してきた。退治という名目が伴うこともあったが、そうでない事のほうが多かった。
しかしいずれにせよ、早苗は自分より弱い存在を甚振ることに喜びを感じていたので、有効な反撃を受けることも、
ましてや命が奪われる危機に瀕するなど、初めてのことなのである。早苗の顔が恐怖で引きつり、
獅子に追い詰められた子鹿のような瞳で正邪を見上げる。

「いい顔じゃん、すっごくそそる」
「なんで……?」
「お前が教えてくれたんだ。ありがとう。殺しはとっても楽しいよ」

大妖精の心臓を貫いた瞬間、言い知れぬ喜びが正邪の体から溢れてきて、頭がぼうっとした。気持ちよすぎてしばらく何も出来なかった。
正邪は変わってしまった。ふっきれてしまったのだ。後戻りできないならば、前に進めば良い。それに、体験して分かったことだが、
一線の向こう側も、陥ってしまえばなかなか心地が良いのである。

早苗が震えている。両手からこぼれるような豊かな乳房も震えている。殺す側から殺される側に転落した絶望は、正邪の歪んだ心を満たした。

「ばいばい」

あまりにも鋭い赤の刀身が、早苗の首に飛び込んでくる。全てがスローモーションだ。払いのけようと手を伸ばす。
しかし早苗はもう、手の一本さえ自由に動かせる状態になかった。刃が迫る。死ぬ。どうして、私がこんな目に?

「嫌あ゛あ゛あああぁあああああぁぁぁーー!!!!!!」

早苗の首が飛ぶ。放物線を描いて綺麗に回転しながら、空中を舞って、地面と接吻をしながらサッカーボールのように転がり、
長い髪の毛が草と絡まって、引き止められるようにそこに停止した。

「へ……?」

吐瀉物と血液にまみれたひどい顔で、チルノが目を覚ます。もはや全身の感覚は失われ、痛みも苦痛もない。
薄れゆく意識の中、脳内麻薬が発狂しかねない激痛を相殺している。目の前には首をなくした早苗の豊満な死体があった。
温かい温泉のような早苗の血液が、チルノの首、胸と肩をさらさらと流れている。
どさりとチルノの上に崩れる。重い。けれど知能の低いチルノにも、自分を殺そうとしていた狂人が死んだ事実だけは理解できた。
ぼんやりとした視界の中で生きているのは、ふらふらと歩いてくる黒髪の少女だけである。

「あたい……、たすかったの……?」

しかし次の瞬間、チルノの首も飛んだ。飛距離は早苗の首に敵わなかったが、死の一秒前の希望に満ちた顔はなかなか愉快だった。

「くく、くくく」

正邪にはもう、殺傷へのためらいはなかった。大妖精、早苗と殺した。もう一人増えた所で、罪が重くなる心配はなかった。
どちらにせよ捕まれば死刑、死んだ後は地獄で100億年の懲役刑である。いずれ破滅するならもう関係ない。
これで、正邪に平穏はなくなった。弱い物に寄生して上手く世の中を渡っていくのが正邪のやり方だったのに、これではお尋ね者だ。
二匹の妖精ならまだしも、早苗は幻想郷に影響力を持つ力のある人間なのだろう。
そんな人間を殺して、社会に拒絶されないはずがない。それは正邪が恐れていた結末であったが、
早苗を生かして奴隷のように従い続けるよりは、よっぽど自由で妖怪らしい、マシな生き方のように思えた。

雨脚が強い。正邪という子鬼に、早苗という異分子が衝突して、偶然の作用によりここまでの惨劇が起きてしまった。
そして惨劇はまだ終わっていない。正邪という、早苗以上に悪辣な殺人鬼が生まれてしまったのだ。
むしろ、宴会はこれから始まる。

「……ふふ」

はらわたを陵辱された大妖精、両腕を失い性器を破壊された挙句に首を切られたチルノ、今もなお首の断面から血液を吹いている早苗。
楽しい。このような最後を恐れていた自分が、今ではあまりに矮小に思える。正邪は一人前の妖怪になったのだ。

この楽しさ、いつまでも続いて欲しい。正邪はまず、鬼としての力をつけることにした。

正邪は無言のまま早苗の首なし死体を裏返し、仰向けにして、巫女服の胸の部分を切り裂いた。
Fカップほどの豊かで真っ白な乳房が露出する。男性ならば血管が破裂しかねないほど勃起しても不思議ではない塊であったが、正邪はそれを無視し、
乳房の間を切り裂いて、肋骨を引っ張り、無理矢理に胸の中身を開いた。
そこにはまだ温かい、一分前まで鼓動していた早苗の新鮮な心臓が、宝物のように眠っている。

集落随一の戦士、あるいは敵集落の戦士が死んだ時、その肉を食らうという文化があった。
肉を食らうことによって、それに宿る戦士としての力を身につけようというのである。
正邪は力をつけなければならない。神の力を備えた早苗の心臓は、一片残らず食べつくす価値があるに違いなかった。
赤子を取り出す助産婦のように、赤い心臓を引きずり出した。火さえ通っていない血まみれのそれに、正邪はしゃぶりつく。
噛み付かれて穴の空いた早苗の心臓から、生暖かい血液がぐじゅぐじゅと、肉汁のように漏れだしてきた。

雨が強い。早苗の胸の中が雨水で満たされ、赤い洪水になる。しかし正邪はかまわず心臓に噛み付き、食いちぎり、むしゃむしゃと咀嚼した。
早苗の心臓はまるで一流シェフのストロベリーケーキのような味がして、正邪という少女の口元は、自然にほころぶのであった。
正邪ちゃんはちっちゃくて可愛いですね。
小物扱いされて可哀想なので活躍させてあげました。
あけましておめでとうございます。
おにく
作品情報
作品集:
9
投稿日時:
2014/01/01 20:52:05
更新日時:
2014/01/02 05:52:05
評価:
4/6
POINT:
460
Rate:
13.86
分類
正邪
大妖精
チルノ
早苗
初体験
エログロ
リョナ
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POINT
0. 60点 匿名評価 投稿数: 2
1. 100 名無し ■2014/01/02 23:36:40
早苗のような力を持った悪党が死ぬ幻想郷ならこの正邪も長くは無いのでしょうね。
2. 100 名無し ■2014/01/03 09:02:17
めちゃくちゃ強い早苗ちゃんが殺されるくらい油断してたってことは、心の底から正邪のこと信頼して油断してたんだろうなぁ
3. 100 名無し ■2014/01/03 17:08:23
この早苗さんは素敵すぎる
4. 100 NutsIn先任曹長 ■2014/01/03 21:29:00
心の腐った早苗の『心』を喰らった正邪。
こうして力を得た正邪は、博麗の巫女に討伐されるのに相応しい格を得たのでした。

霊夢「あの娘達を……。サニー達を殺った早苗(クズ)も、少しは役に立ったようね」
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