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『秘封霖倶楽部 』 作者: ND

秘封霖倶楽部 

作品集: 9 投稿日時: 2014/03/09 17:30:50 更新日時: 2014/03/10 11:12:49 評価: 6/6 POINT: 600 Rate: 17.86
【どこでもドア】

某有名漫画の主人公の猫型ロボットが持っている未来道具の一つ。

念じたところへと一瞬へ運んでくれる、ワープ装置を所持した機械。

だが、ワープには多大なエネルギーを必要とし、現代技術では実現不可能に等しい。

しかし、実現に方法が無い訳ではない。



携帯をいじり、ネットサーフィンをしていた所、とある記事が目についた。

【ついに!どこでもドアが実現!!嘘乙!!!!!】

どこでもドアは、知らない訳ではない。

この世界に来てからは、小説の質が下がり、代わりに漫画の質が上がっている所から僕も漫画を読み始めるようになった。

その際、【ド○えもん】という漫画をよく目にするだけの話。かなり前の作品だが、幻想郷に幻想入りを果たしていない限り、未だに人気のある作品なのだろう。

その時代の頃から、漫画のクオリティが高いのを見て、僕はこの世界の好意を一層向上させている。

しかし、小説はどうだ。言葉遊びの域を超え、文字で遊んでいるようにしか見えないモノが増えてきている。同じ言葉が見開きの頁全てに埋まっているのを見た時は、失望もした。

それが人気作品にもなっているものだから、世も末だ。

話を戻そう。そのどこでもドアの記事に向かおうと、タップしたところ、

最初にアンテナサイトに飛ばされ、そこで記事を探し、また同じ記事をタップする。最初にタップしたニュースサイトに戻って来た。

何故こんなまどろっこしい飛ばし方をするのか理解に苦しむが、今や何も感じずに対応している僕は、この世界に染まってきているのだろう。人間に近い生物に変わりつつある。

さて、記事の内容からすると、どうやら漫画のどこでもドアとは違うようだ。

まず最初に、二つのドアが存在し、一つの入る方のドアをくぐると、10分のタイムラグの後に出る方のドアにワープする。

入る方のドアが、”人間”のデータを分子レベルでスキャンし、出る方のドアがスキャンした”人間”をファックスする。

つまり、ファックスで人間を送るような物だ。ちなみに、管理人コメントでは

〜管理人コメント〜

のびた「うわぁ〜ん!ドラえも〜ん!!学校に遅刻しちゃうよ〜!!」
ドラ「全くのびたくんは〜。はい!どこでもドア〜!」

10分後

先生「こら!のび!今日も遅刻かっ!!」
のび「タイムラグがあるんじゃ意味無ぇんだよタヌキッ!!!!」
ドラ「だって、これ初期型だからしょうがないじゃん。」
剛田「おいドラえもん、のびたを学校まで運んでやったけど、金は?」


意外に真理を突いているのかもしれない。

確かに10分もタイムラグがあるのであれば、運んだと難癖付けられても反論できないのが現実だ。

ある程度の実績を残さなければ、それは”無駄”に終る。

実験は、まだまだこれからだろうな。

本当にどこでもドアが開発されれば、隣でドラえもんを熟読している麻耶が喜びそうだ。

何気なしに買ったドラえもん全巻を、貪るように彼女は見ている。

出会った頃の生気の無い少女だった頃とは思えない程だ。

僕は、微笑みながら麻耶に話をした。

『熟読するのは良いが、ご飯はどうするんだ?』





ご飯を終えて、僕は大学へと走って登校する。遅刻寸前である今には、勿論理由があった。

早く続きが読みたいからか、滅茶苦茶な料理が今日は更に滅茶苦茶だった。

肉は生焼けと焦げのしましま模様になり、野菜はフライパンにくっついていた。

唯一、僕が炊いた米だけがまともに食べられるものだった。

朝食の途中、漫画を読みながら食べていた麻耶にはさすがの僕も痺れを切らし、チョップをかました。

その後、散々説教した後、気付いたら時間が迫っていたのだ。





『おはよう蓮子、どこでもドアを知っているか?』

『何だ?君は私を馬鹿にしているのか?』

蓮子は僕の唐突の言葉に、苦虫を噛みながら話を聞くような顔をした。

この様子ならば、ネットに流れている実現したどこでもドアの事を知らないのだろう。

『講義に遅刻したからって、現実逃避は良くないよ霖くん』

『はは。いつ僕が現実逃避をしたと言うんだい』

『現に今、未来の道具を貸してくれる猫型ロボットのレギュラーアイテムの名を話題に出したじゃないの。何のつもりかは分からないけど』

『どこでもドアの何が悪いんだ。それは今にも実現しようとしているのに。』

蓮子は、僕の言葉を聞くと吹き出して唾が飛んだ。

『どっどっどこでもドアが存在しそうだなんて!!何言ってるのよ霖くん!!にゃっははははは!!!』

ここまで笑われると何か不愉快だ。と、思いながら僕はメガネに飛んだ蓮子の唾をティッシュで拭き取った。

どうやら蓮子は完全に信じていないようだ。僕も半信半疑のままであるが、正直疑いの方が大きい。

不意にやってきたメリーにもこの話を進めてみると、

『?』

と、疑問形のマークを浮かべながら、首をかしげていた。




そんな事を忘れて一週間、僕もその話題が忘れかけた頃に、また新しく話題が入ってきた。

《衝撃!金正恩が想像妊娠!!》

の、下に書かれていた記事

《どこでもドアの発明者、死亡》

というものだった。

これは大型ニュースサイトにも書かれており、信用するにはギリギリ十分なものだった。




そして登校し、一時限目前

『霖くん!!どこでもドアが発明されてたって本当なの!?』

『何の話だ?僕にはさっぱり分からないなぁ』

僕は蓮子の目を見ずに次の授業の準備をした。

して瞬間、蓮子は僕の肩を掴んで顔と顔が急接近した。

『しらばっくれないで!一週間前にも貴方、どこでもドアの話題を持ちかけたじゃない!』

『ニュースサイトを見たからな。正直僕も信じてはいなかったよ』

『ぐぅう・・・!もうちょっと私が霖くんを信じていれば・・・今頃未来道具体験できたかもしれないのにぃ〜!』

信じていても、その開発者の住所が不明だから意味は無いと思うが

それに、記事を見てから僕はあまり興味を無くしている。

僕もその記事を見たのだが、どうも殺され方が妙なのだ。

身体がドロドロに溶け、骨までボロボロ。白衣と認証カードでようやく身元が判明できたというのだから。

もし、それがどこでもドアの所為だと言うのならば、そんな恐ろしいものには一切触れたくもない。

『こうなったら新聞部に直行よ!霖くん!メリーを連れてきなさい!』

『新聞部も僕たちと同じくらいの情報しか持ってないと思うぞ。後、メリーは今日は見てないぞ。更にもうすぐ一限目が始まるぞ』

『ぐっ・・・!こんな時、どうして授業なんてあるのかしら・・・!』

おい謝れ。全国の勤勉大学生に謝れ

『こうなったら昼休みに集合よ!良いわね』





そしてやってきた昼休み

僕が食堂でひつまぶしを食べている時に、僕の周りに人が集まった。

『よし、これで全員集まったわね。』

蓮子を率いて、メリー、駒田、長谷田の4人だった。

『メリー、今朝見かけなかったけれど、一体どこに居たんだ?』

『ええと・・・ちょっと寝坊しまして・・・』

『メリーさんの事はともかく、今はどこでもドアの話題でしょぅ。ちょうどネタが尽きかけてた頃だったんですよねぇ!』

『霖、お前が食ってるのはもしかしてひつまぶしか?私食ったことないからちょっと貰っても良いかな?』

『お前のちょっとはちょっとじゃないだろう。それにこれは1500円もしたんだ。やすやすと渡せないな』

『はいはいはい!注目注目ー!!』

蓮子が声を荒げて手を振り回す。

『確かに今回はどこでもドアの調査に行くわ。そのことで・・・一番重要な事があるの。』

『はい?重要な事ですかあ?』

『ええ。これはとっても重要な事よ・・・』

蓮子は、真剣な目で僕たちを睨む。

いつになく真剣だ。彼女もどこでもドアの魅力に取り憑かれたとでも言うのだろうか。

『・・・この中で誰か、発明者の家を知っている人は居るかしら?』

『解散』

僕がそう告げると、蓮子とメリー以外全員が席を立った。

『ちょっちょっと待ちなさいよ!事前調査は大事でしょ!?』

『そんな事いちいちぐちぐちやってたら、大学を卒業してしまうよ。そんな事の為に学生生活を費やしたくないんでね』

『私もさすがに一つの記事に貴重な青春を賭けたくありませんのでね。そこまで不透明な代物に興味ありません。』

『バイトあるからなぁ私。妹食わしていかなきゃなんねぇから、今回はパスで』

離れていくと同時に、蓮子の瞳が潤ってきていた。

『なによぉ・・・霖くんの白状者ぉ!!!』

そうか、僕か、僕だけか。白状者は。酷いな

何か良く分からないものでお腹一杯になった気分になったので、残りのひつまぶしを駒田に与えたら『おっぱい揉んで良いぞ』と言われた。

全てがどうでも良くなった僕は、この後も講義は無い為そこから逃げ出すように下校した。






家に帰った後も、麻耶は漫画を呼んでいた。

しかし読むのが遅いのか、まだ全巻のうち半分くらいしか読めていない。

普通の教育を受けてない為の所為だろうか。少しだけ悲しくなりながらも、僕は声をかけた。

『ご飯を作ろうか。』

そう言うと麻耶は漫画を閉じ、僕の後をついてきた。






御飯が出来上がった時、僕は冷蔵庫の中身をよく見なかった事に公開した。

気づいたら、酒が一本も無いのだ。

困った。今日は妙に疲れたから酒が飲みたかったのだが、無いとすれば・・・

『コンビニまで行くしかないのか。』

近くに、幻想郷の店全てが合体したかのように品揃えが豊富な店・・・コンビニが存在する。

酒もキンキンに冷えて完備してあるという・・・まさに完璧な店があるのだ。

幻想郷に帰ったら、香霖堂の姉妹店としてコンビニを経営するのも良いかもしれない。

そうなれば、香霖堂も一躍有名になるだろう・・・等と妄想していると、麻耶が怪訝な顔で僕を睨んでいた。

『・・・すまない。すぐ行くよ。何が欲しい?』

僕がそう言うと、パァと顔を明るくさせた。

『コアラ!コアラのチョコが欲しい!』

『マーチのあれか。帰ってくるまでそこで留守番してるんだよ。』





コンビニ後

酒とマーチのコアラを買った僕は、家路についた。

薄暗いこの時間帯、何が出るか分からなかった。

どこか寄り道して煙草も買っていた僕だが、麻耶が来てからは自乗して吸わないようにしている。

あの煙を嫌がる姿を見てからは、さすがに吸いづらくなるからだ。最近は喫煙スペースで吸っていたりする。

全く、喫煙者には厳しい世の中になったものだ。

そう、思いながら歩いていると、向こうで何かが見えた。

人の形をしているが・・・皮膚が液体状になっているように見える。

いや、腐りかけて液体が皮膚からにじみ出ているようだ。

そのドロドロした物体の向こうには、一つの家があった。

家というよりは、コンクリートで固められた小屋だったが少し異様に感じた。

雰囲気が奇妙だったせいか、近くに立っている化物に全く興味さえ湧かなかった。

『・・・ああ・・・あ・・・』

溶けかけた人間が何かを言っているが、何も聞こえない。

三日前にコンビニに来るまでは無かったあの小屋が気になって仕方が無い。

『・・・・・・』

だが、すんでの所で思いとどまった。

そこに入ってはいけない。そんな思いがあったからだ。

そもそも、どう考えても怪しいじゃないか。

『まさかと思うが、何か宝があるんじゃないだろうな』

そうだ。こんな所に小屋があるのだ。もしかしたら中に何かお宝があるのかもしれない。

無縁塚でもそうだった。妖怪の小屋にたまに珠の宝が潜んであり、歯噛みしながらその所有物を見たものだ。

ここでも同じような物だ。さすがに人の物を取ってはいけない。

『だが、見るだけなら構わないだろう』

妙な好奇心が抑えられず、僕は扉を開けた。

その扉の向こうを見た瞬間、僕は絶句した。

”それ”を見た後に、後ろから誰かに背中を押され、扉は閉められた。

買ってきたビールと菓子が、外に放り出されたままだ。

僕はこの小屋に、閉じ込められてしまったのだ。






気がついた時には、僕は自分の家の前に居た。

先ほどまで小屋の扉を開けていた筈だが、今は別の扉の前に居た。

『・・・・・・寝ぼけていたのか?』

閉じ込められて、外にあったコンビ二袋は僕の腕にあった。

やはり、あれは夢だと思った方が現実的のようだ。

最近疲れているな。そう実感した僕は、秘封倶楽部から休みを取ろうと考察した。

扉を開けると、待ちくたびれてお腹を鳴らした麻耶が居た。

『おーそーい!!』

『悪かったよ。じゃぁ、ご飯を食べようか。』

わざわざ僕が帰ってくるまで待ってくれていたのか。可愛い奴だ

待ってくれていた僕の晩飯は、冬の寒さからか冷たくなっていた。







麻耶と風呂に入っている時に、身体に何か違和感があった。

身体を擦っている時に何か異様な痛みを感じたのだ。

『・・・・・・?』

どこか、コンビニに行った時に怪我をしたのだろうか。

そんな事を感じる鈍痛だった。

閉じ込められた時に押されたときくらいしか思い当たらないが、別に打撲にもなっていなさそうだ。

『どうしたの?香霖』

『いや、なんでもない。やっぱりちょっと疲れているだけだ。』

やはり、連日彼女達に振り回されているからか。筋肉痛の可能性が高い。

『香霖、頭洗ってー』

『はいはい。』

とりあえず今は、目の前の頭を洗う事に専念しよう。

疲れている時ならなおさらだ。さて、シャンプーハットはどこに置いたかな





翌日

昨日と比べて筋肉痛が酷くなっている。

少し気になって見てみると、皮膚が青く変色していた。

『・・・・・・なんだ、これは』

ただ事では無いと感じた僕は、湿布を貼ることにした。

『ぅん・・・香霖?どうしたの?』

『いや、なんでもない。ちょっと寝違えただけさ』

麻耶にはそう言って、とりあえず応急処置をした後に今日の講義を確認した。

なぁに、すぐに治るさ。そう言い聞かせて、麻耶に留守番を頼み学校に向かった。




学校に到着。

道はこんなにも長かったのかと再認識させられる。

走ると心臓が痛いし、肺もすぐ熱くなる。

もう年なのかと思っていたが、僕は半妖。人間と比べれば、体力はある方だ。…と思う。

『おっはー!霖くん今日こそはどこでもドアの発明者を探すわよ!!』

『ドラえもんに聞きなさい。』

『霖くん。ドラえもんになって!』

『ふざけるな』

とまぁ、いつも通りの漫才のような会話を毎日繰り返すのだが、何か違和感を感じた

『どうしたのよ?』

『いや…。何だか妙な疲れが…その…』

身体の方に違和感を感じる。やはり昨日の事だろうか。

昨日、あの部屋に閉じ込められてから僕は改造されたに違いない。

そして、改造された時の記憶を抜かれて家の前へと移動させた。そう僕は考えてしまって

猛烈な不安を感じた僕は、蓮子に昨日の事を話そうかためらった。

『ふぇぇ…待ってよぉ〜…蓮子ちゃぁん…』

猛烈な息切れを起こしながら、メリーは僕たちの所まで追いついた。

『いつもの事ながら遅いわよメリー!アンタ一昨年よりも体力落ちたんじゃないの?』

『蓮子ちゃんの足が速くなってるだけだよぉ…』

メリーの言葉に、蓮子はまんざらでもない表情を浮かべた。

『そうかしら?まぁ、私はいつも未知なる遭遇を夢見て走り続けてるからね。』

『メリー、学校が始まるから急ごうか。』

『うえぇ…また走るの?霖くん。おぶってくれる?』

『ちょっと!私の言葉を聞きなさいよ!さっき良いこと言ったじゃない!!私!!!』

後ろで何か喚いているが、僕たちは無視して学校へと向かった。









そして授業が始まる。

僕は運動系の講義を受けていないので、体力がやや落ちてきたのだろうか。と感じるほど全く運動をしていない。

秘封倶楽部の活動以外、走ることは一切無い筈だ。

だからなのか、妙に教室が遠くに感じる。

『…………』

『おい森近。大丈夫か?』

移動最中に、よく同じ講義に出席する男子生徒に心配された。

『…ああ。大丈夫だ心配しないでくれ』

『いや、絶対大丈夫じゃねえだろそれ。』

『大丈夫そうに見えて、案外大丈夫なもんだ。それじゃぁ僕は行くよ』

『いや、待てって。…おい、これ』

そう言って、男は鞄から鏡を取り出し、僕の顔を見せてくれた。

頭が血まみれになり、顔が真っ赤になっている僕の顔が

鏡に映し出されていた。






その男に保健室に運ばれると、僕はそこで手当をされた。

どこかで頭をぶつけたのか、引っかけたのかと質問されたが、生憎今日はそのようなことは無かった。

無かった…筈だ。

病院にも行った方が良いとも言われたが、さすがにそこまでお世話になるわけにもいかず、僕はその場からおいとました。

『霖くん!』

保健室から出ると、蓮子に呼び止められた。

『心配したのよ…。急に頭が出血したって言うから』

『見ての通り、あまり大したことはなかったよ。』

それに、僕は人間では無い為、怪我の治りが早い。

むしろ、これからどう怪我を騙そうか考えてる所だ。

『りっ…霖くぅ〜ん…。だいじょうびでしか〜?』

『メリー。大丈夫。大丈夫だから講義に戻ってましょうね。』

『うぇ〜…まっまたあるくんでしゅかぁ〜?』

虫の息になっているメリーは本当に何があったのだろうか。さっきのよりも息が酷く荒れているが。

『メリー、君に一体何が起こってるんだい?』

『何でもないわよ。一時限目が体育でマラソンだったってだけ。』

『ああ。』

『しぃぃ…はぁぁ…しにゅかと思ったぁぁ…』

『はいはい。死なないから次の講義に行きましょうね。物理演算Aに』

『うぇぇぇぇぇ…』

あっちはあっちで大変そうだな。と僕は哀れな目で彼女たちを見つめた。







《彼は何日持ちますかな?》

《前回よりも持続時間が延びれば延びるほど、この国の為になりますからね。》

《何度も改良を重ねたので、今回は大丈夫ですよ。》

《せめて、三日は持たせてくれ。三日も持たせれば上出来だ。》

《はい。大丈夫です。私はドラえもんを作るために生まれてきたのですから。》

《どこでもドアを完成させるんだ。》






下校の時が来た。

だから家に帰って来た。

いつもなら。本屋に寄って新作の本などを漁ったりするのだが、何故か今日はその気にもならなかった。

『………』

何故か今日は肉が食べたくてしょうがない。

早く家に帰って肉が食べたいのだが、どうしよう階段が長い。

腰も痛いし、怪我した所がじんじん痛む。

時間が経つたびに”苦痛”が広がっていくようだ。

そしてようやく家の扉の前に辿り着いた。

たどり着く前に死ななくて本当に良かった。

僕はインターホンを押して、麻耶が扉を開けてくれるのを待つ。

軽やかな足取りで、こちらに近づく足音が扉越しに聞こえてくる。

『おかえりなさい!こうり……』

扉を開けた時、僕の顔を見て麻耶は止まった。

『……?……あ。』

ああ、そうだ。怪我をしたんだ。だから彼女は驚いているんだ。

『ああ。ちょっと怪我をしてしまってね。でも大した事じゃないから。安心してくれ。』

『………』

『……いや、あの。そんな眼差しで僕を見ないでくれ。』

『……本当に、香霖?』

『いきなり何を言い出すんだ。僕は正真正銘の霖之助だ。今日こそは冷たいご飯を食べたくないだろう。買い物してきたぞ。』

僕がそう言うと、麻耶は何も言わずに台所へと向かった。

顔の包帯はそんなにも珍しいか、それとも顔を覆っているのか、認識が難しかったようだ。

そんな事を思って鏡を見てみたら、顔の色が変わっているような気がする。

それに今朝と比べたら、肌が液体っぽくなっている気がする。気のせいでは無く、そう思える。

しまった。保険医の言う通り病院に行けば良かったかな。仕方ない、明日行ってみよう。

『麻耶、今日はハンバーグを食べよう。』

そう言って、僕は台所へと向かって行った。







朝目覚めると、身体に異様な違和感を感じた。

身体が思う通りに動かないのだ。さらに言えば、

いつもなら一日である程度の怪我が治るか瘡蓋になるのだが、

触れてみると痛みこそ感じないが、明らかにただれて溶けているように感じる。

腕を見てみると、血の色が全く感じられない沼のような色だ。

『………』

この姿を、麻耶が見たらどう思うだろうか。

出来ることなら、心配をかけたくない。

『……はぁ…はぁー…』

念のために、カギを二つ作っておいてよかった。

僕はうまく使えない鉛筆を使って、紙に字を書き起こした。

麻耶が認識できるかどうか分からないが、僕の言葉を伝えることはできる。

『………』

声が、上手く出ない。

今、寝ている麻耶に声をかけても目を覚ますだけだ。

『………ぅぅん…』

今、麻耶が寝返りを打った。

目を覚ませば、一発で僕の姿を見れる状況だ。

僕は、急いで扉を開けるしぐさを思い出す。そうだ、ドアノブだ。ドアノブに手をかければ…

『こぅりん…行かないで…』

その言葉で、僕の体はビクリと反応する。

起きてしまったかと不安に思ったが、どうやら寝言のようだ。ぐっすりとまだ寝息を立てている。

それもそうだ。まだ朝の4時だ。子供はまだ眠る時間だ。

僕は、なりふり構わず ようやく扉を開けて、一つの鍵で扉を閉めた。







早朝の朝は、以外と人が居るようだ。

帽子付きのコートを持っていて本当に良かった。

今は夏に近い気温なのだが、暑さを感じないのも頼りに感じた。

だが、動くのにかなりの力量を感じずにはいられなかった。

『……はぁー…はぁー…』

だからか、数歩あるいただけですぐに息切れを起こしてしまう。

『………』

『……』

『………』

街行く人が、僕の事を不審な目で見ている。

夏に不自然なコート、さらに不自然な動き、そして呼吸

確かに、僕ならばその人自身に疑問を感じずにはいられない状況だ。

ここで目立つのもまずい。この姿を誰にも見られたくない。特に知人には知られたくない。

『ちょっと君』

後ろから誰か声をかけられた。振り向くと警察官のようだった。

後ろを振り向くのに、首の関節と骨の擦れる音がじゃりじゃりと聞こえる。

『すまないが、この熱い中コートを着て何をしているんだ?』

これは、遠まわしに脱げを言っているのか、いや、遠まわしじゃなくても脱げと言っているのか。

ここで脱ぐわけにはいかない。早朝とは言え、ここは人が多い

『…寒いんです。』

僕がそう言うと、警官は不穏な表情をして

『まぁ、私もあなたの意見は尊重したい。出来ればコートを脱いでみてはくれないかな』

そう言ってきた。こう言われれば逆らう事も出来ない。

逃げようとしても、この体では走ることもできない。歩くだけで精いっぱいだ。

『…………』

僕は、仕方なく警官の言うとおりにすることにした。

まず、コートの帽子を脱いだ。

『……っ!』

警官が、息を飲むような表情をした。

本人である僕も驚いたこの顔だ。他人でも当然驚くだろう。

『…すみませんでした。もう大丈夫です。』

『分かりました。』

思ったより、話が分かる人でよかった。

僕は、すかさず帽子をかぶった。

回りの人間は、明らかに僕に興味を向いている。

一部、化物として見ていない奴もいる。




そこから歩いて行くと、一人の若者が寄って来た。

『あのさぁー。ちょっと良いですかー?』

顔や髪に飾りを乗せた、蓮子よりも年下な女性だった。

『あんたさぁー、マジすごい顔してたよねぇー。』

『………』

『あまりにも凄かったんでぇー、ちょっとツイートに乗せて良いですかー?』

『…済まないが、遠慮してくれ』

そう言って、遠ざけようとしたが

『えー。つれないつれないー。早く帽子脱ぎなよってー、ほらぁー』

『…やめてください』

この帽子に掴みかかって来た手を、僕は払った。

『は?ちょっとマジ何してんの?あんた』

すると急に、女性の表情が変わった。

『あんた、そんな顔して私に触れんのあり得なくない?あ?なめてんの?』

『……』

こいつは思ったより面倒くさい人間のようだ。

僕は無視してその場から去ろうとした。

『ちょっと待ちなさいよ!!おい!!!!』

叫び声が聞こえる。喚き声が聞こえる。

『ちょっとぉー!誰か!誰か来てくださいー!!!』

まだ、女性はわめいている。僕は、その言葉を無視して、歩き続けた。






後頭部に、強烈な衝撃を受けた。

『こいつだってマジでー!こいつに手を触れられたんだって!!』

『おい、てめぇか?牧子に手ぇ出したってやつは』

振り返ると、バットを持った短髪の少年が居た。

こいつも面倒臭そうな人間だ。

早く逃げようと思ったが、この体では思うように体は動かせない。

『やれやれー!やったれー!!んで、ボコボコの姿をツイッターにのせようよ!』

『良いけどよ、それ俺の姿映すなよ?』

『分かってるって!分かってるからほら!早く!!』

そう言って、女性は携帯を僕の方に向けた。

『おら立てよ…おい!!!』

また、顔面に衝撃が食らった。

痛覚が麻痺しているからか、衝撃しか喰らわなかった。

そしてまた、衝撃が僕の腹に食らった。

そしてまた、衝撃が僕の顔に食らった。

『ちょっとー!フード取ってあげなよー。これじゃぁ顔見えないじゃーん。』

待て、少し待ってくれ。今、この顔を誰にも見られるわけにはいかないんだ。

更にツイッターなんかに投稿されれば、彼女たちに渡る可能性が

『分かった分かった。ちょっと待ってろ…っと!』

バットが、僕の顎めがけて降りあげられた。

その弾みで、僕の顔から何かが飛んだ。

『えっ』

フードがまくられた時に、顔に何か喪失感があった。

視界がおかしい。少しだけ不安定になった首を動かしながら見えた物は、

右頬の皮と肉と、右目が道の隅に付着している光景だった。

『いや、ちょっと、嘘でしょ、ねぇ』

『…おっおい…。』

今の僕の顔はどのようになっているのだろうか。

少しだけ不思議に思って、僕は散々殴って来た奴らの顔をうかがった。

『うわぁ!!あああああああああああああ!!!!!』

『…………っ』

男性の方は、悲鳴を上げているが

女性の方は、絶句している。今、シャッター音が鳴った。

『おい!!逃げるぞおい!!!』

『待ってよ。これ、絶対ヤバイって。ツイッターでマジヤバイ事になるって』

『お前何言ってんだよ!!良いから早く逃げるって言ってんだろ!!!』

男性はそう言って、女性を抱えるような形で逃げて行った。女性は終始笑っていた。

『………』

間違い無く、この顔では外には出歩けない。

人手の通らない、裏の裏を通る必要があるのでは無いのか。

『…………』

他に、僕の顔を見た者は絶句している。現実を受け止めきれていないのだろう。

僕は、この隙に人通りの少ないビルの隙間の裏側まで移動した。






ビルとビルの狭間に存在する道、その道での死角という場所は見つけにくい。

そんな見つけにくい場所で、僕はちょうど良い場所を見つけた。

人一人が通れるのがやっとの通路に、小さなシャッターがある廃ビルだ。

シャッターを開ければ、そこは窓もシャッター以外扉も無い個室となっている。

そうだ。ここが良い。死ぬには丁度いい場所だ。

自殺するつもりは更々無いが、どうせこの状態ではいずれ死ぬ。

傷も治らない、体力もじょじょに消えていく。筋肉も溶け始めている。

『……やっぱり、一昨日の…』

あの扉に閉じ込められた後に、やはり”何か”されたに違いない。

保健室に行った時に病院に行くべきだった。

もしくは、先ほどの警察に連れて行かれるべきだった。かもしれないが

今となっては、どうしようも無い事だ。もう、そこまで歩ける気力も無い。

『……寒い。やはりコートを着て正解だった。』

だが、そのコートもあるかどうか分からない程の寒さを感じる。

まるで雪でも降っているかのようだ。寒い。

寒い。

『…だが、凍死も餓死もできないのも、半妖の定めか。』

僕が死ぬには、誰かに殺されるしか無い。

ここで、誰かが殺してくれるのを待つのか?

変に都市伝説と化してくれば、どこかの馬鹿が探して殺してくれるかもしれない。

そうだ、まるで蓮子みたいな…。

……。

彼女の敵意を煽る練習は、出来るだろうか。

そもそも、生きていると思わせることができるだろうか。

脳が働かないのか、僕はまだ分からないでいた。






僕がビル裏のシャッターに辿り着いてから、数時間が経った。

殴られた箇所が化膿し、溶け始めている。

今の僕の体は、回復能力が皆無のようだ。

今はおそらく二時限目が始まってる頃だろう。

大通りの方がガヤガヤし始めた。

静かに、足音だけの音が遠くからでも聞こえる。

時々、電話で通話しているときの声が聞こえるくらいしか、声が聞こえない。

人間社会の街は、こんなにも冷たい街だっただろうか。

いや、誰もがしゃべりながら歩いているのもどうかと思うが

『…………』

もし、僕の体がいつも通りに動いてくれるなら、僕の体をこんな目に合わせた奴らを殺す事が出来る。

あの物置の中で何をしたのか、問い詰める事も出来る。

あの物置の中で

物置

あの

………

『そういえば…あの中で何かを見たような気がする…』

気がするが…思い出せない。

一体、あれは何だったのか思い出せない。

見た物が、僕が体験した”それ”の真実のような気がするが

肝心なところで、思いだせない。

……そりゃそうか。脳も溶けだしているのだから。






そして夜になった。

こんな姿になっても、睡魔は襲ってくるものだ。

夜になるまで、多くの血を流した。多くの肉を失った。

おそらく、僕は人間の形も、妖怪の形もしていないだろう。

僕がどんな姿だったのかも、忘れてしまった。

もう…良いか。

今日は、良く眠るとしよう。




『―――!!』

誰かが呼んでいる。

『―――!!!』

僕の名前を呼んでいる気がする。

『霖……!!』

声が、大分聞こえてきた。

『霖之助さ――ん!!』

『森近ー!!』

『霖くん!!霖く―――ん!!』

聞き覚えのある声だ。

蓮子と、駒場と、長谷田

何か、必死な声で僕を呼んでいるが。

僕には、返答する気力も体力もない。

そのまま、瞼を閉じた。

『――――!!!』

『――!!』

『―!』

『…』

声が、次第に聞こえなくなった。

そして、僕は深い眠りについた。





屋上から漏れる、微かな光で目が覚めた。

身体は、完全に動かなくなっている。

なのに、意識だけは はっきりとしていた。

今の姿は、誰が見ても死んでると判断しておかしくない姿をしているだろう。

ドロドロになった肉と、錆びた鉄のようになった骨を見れば、まちがいなく”死”を連想するに違いない。

『…………ぁ…』

本当に声が出ないか、少し試してみたが

まだ微かに声は出せるようだ。安心した。

しかし、一日だというのに酷い体力の衰え方だ。

時間が経つと反比例のように体力が衰えていく。

まるで、物体が地面に落ちていくようだった。

耳に聞こえるのは、微かな光の下で動く人間たちの足音。

だが、こんなに遠かっただろうか。

ずっと遠い場所で誰かが歩いているように聞こえる。

足音が聞こえる

完全に聞こえなくなるまで時間は掛からないだろう。

目は、最早色しか区別できなくなった。

物体を区別するまではできなくなった。

自分でも、徐々に死が近づいてくるのが分かってくる。

思考する余裕までは、まだ脳が残っているようだ。

だが、ここがどこなのかまでは思い出せなくなっていた。

確か、シャッターを開けてここに佇んだハズなのだが。

僕は霖之助だ。

今、自己暗示をしなければ自分の名前さえも忘れてしまう。

僕は霖之助だ

僕は霖之介だ

僕は倫之祐だ

僕はりりりりり




『溶解人間の目撃談が現れました。どうしますか?』

『放っておけ。我々は、それを都市伝説として片付けるつもりだ。』

『しかし、誰かがここを感づかれる事があれば・・・』

『感づかれないようにする事が、君たちの仕事の筈だ。』

『・・・・・・はっはい。』

『それとも、感づかれないという自身が無いのかね?無ければ・・・』





光が強くなるのを感じる。太陽が真上に来たのだろう。

その光を浴びながら、自分は今どんな姿なのかを ふと考える。

もしも、誰も知らない答えが帰ってくるとしたら。僕は今、妖怪でも人間でも無い。

だとすれば、僕は何になるのだろう。

少し違う形をしていても、人間は人間だ。

肌が木のようになっても、全身の毛が毛深くなっても、頭の形が瓢箪になろうとも、人間は人間だ。

ならば、僕は何者になるのだろう。

まだ、形を保っている手を少しづつ動かして、僕は手を伸ばした。

何があるのか、僕の周りには何があるのか必死に探した。

そうだ。僕は能力があった。

触れれば、それの名前と用途が分かるという能力だ。

今、その能力は昔と比べると微かに弱くなっているが、無くなってはいない。

だから、まだ、使える、はずだ。

伸ばした先に、あったのは    砂だ

ただの砂の上には   鎖だ

鎖の横には   虫だ。ムカデだ。

これ以上は・・・伸ばせない。

伸ばせば伸ばすほど、  肉が   なくなって行くからだ。

ゆっくりと、ゆっくりと僕は   手を  胸に戻した。

移動するたび、力が出ないからか   手が床と擦れて  床に肉が 付着する

『・・・・・・・・・』

ようやく、手が自分の元にやってきた。

手を、自分の胸にまで乗せてやった。

手に、何か硬い物が触れた。



盗聴器だ

盗聴器が、僕の胸に埋め込まれている。


盗聴器の事を調べてみた、用途を見た。

用途を見て、僕は全てを悟った。

そうか、そういう事だったのか。



僕たちは、実験台だったんだ。

近い未来、全ての国民に真実を隠しながら贅沢な生活をさせるための、一つの手段だったんだ。

全ては、どこでもドアを完成させるための   ただの    戯言か

    ふざけるな

僕は 死なない  絶対に   死なないぞ

誰か、この事実を伝えなければいけない。

あの物置に入ったのが、全ての始まりだ。あの物置はどこでもドアだったんだ。

いや、正確には”試作品”だ。あれにワープ機能は無い。

だが、これだけは言える。これから先どこでもドアなんて物が開発されれば、この世から人間は居なくなる。

全ての人間は、あえなく溶けてしまうからだ。そうだ。”人間”が滅んでしまうのだ。

これから先、この世界は人間の居ない恐ろしい世界になっていく。人間以外が生活する”最悪の事実を隠して生活をする世界”になっていく。

蓮子も、メリーも、麻耶も、駒田も、長谷田も、薫子も、桐谷も、全員だ

全員が、全員が、溶けて無くなってしまうだろう。

そして、幻想郷に溶解人間が流れ込んでくる。そんな物が幻想郷に流れ込んでしまったら、

幻想郷は溶解人間で満たされてしまうだろう。

気が狂いそうな世界だ。しかも、溶解人間に”限り”は無い。

永遠だ。永遠に幻想郷には溶解人間が流れるのだ。

『・・・・・・ぁ・・・・・・ぁぁ・・・・・・!』

そんな、そんな世界にしてたまるか。

頼む。頼む仏よ。幻想郷にも目もくれぬ程偉大なる大神よ。

どうか、誰か、こんな恐ろしい計画を潰してくれ。

真実を知った者が、残酷になるこんな世界を作る計画を



蓮子の悲鳴が聞こえた。

まるで、この世界を否定するかのような声だ。

僕の耳には、微かにしか聞こえない。


駒田の声も聞こえた。

まるで、この世界から僕を見つけ出そうとする声だ。

僕の耳には、微かにしか聞こえない。


長谷田の声が聞こえた。

まるで、一刻も早くこの世界から逃げ出したいような声だ。

僕の耳には、微かにしか聞こえない。


薫子独特の足音が聞こえた。

まるで、この世界に不安を覚えてるような足音だ。

僕の耳には、微かにしか聞こえない。


桐谷さんの声が聞こえた。

まるで、この世界の真実を知りたいような声だ。

僕の耳には、微かにしか聞こえない。


麻耶の声が聞こえた。

まるで、僕がいなければこの世界を生きられないと叫んでる声だ。

僕の耳には、微かにしか聞こえない。



『香霖!!ねぇ香霖!!どこなの!?』

『学校を二日もサボるなんて貴方らしくないじゃない!まさか、溶解人間に捕まったとでも言うんじゃないでしょうね!』

『・・・・・・・・・』

『森近さぁーん!!どこですかぁー!!お願いですから・・・お願いですから出てきてください!!』

『森近ぁ!!おい森近ぁ!!!大丈夫だ!病院ならきっと直してくれるから!!だから声を出してくれ!!』


『霖くん!!どこよ!?出てきなさいよ!!二日も秘封倶楽部の活動をサボるなんて・・・言語道断よ!!』

『ねぇ霖くん・・・お願い出てきてよ!!メリーが居ないの!!!』

『家にも・・・学校にも・・・部室にもどこにも居ないの!!ねぇ霖くん!!霖くん!!!』

『お願いよ・・・私・・・霖くんもメリーも・・・いな居なかったら・・・』


『私!一人ぼっちになっちゃうじゃない!!!!!!』



僕は、彼女達に出会いたかった。

出会って、話さなければならない事があったからだ。

未来は、僕たちは、溶けてなくなってしまうと

僕は、もう絶対に助からない。

だからせめて、彼女達に精一杯の情報を伝えたかった。

伝えてから、死にたい。

頼む。頼む

頼むから、僕の身体よ、動いてくれ。

筋肉がもう無い事は分かっている。骨ももう粉々になっているのも分かって居る。

だけど、このままではいけないんだ。

このままでは、未来は、この世界は、幻想郷は、人間は、妖怪は




『霖くん。』

メリーの声が聞こえた。

『良かった。やっと、やっと会えたね。』

メリー、君か、君なのか

『私ね、寂しかった。ずっと、ずっと一人ぼっちになってた。』

『一人は嫌だから、ずっと誰かを探していたんだけど、やっぱり・・・探すと必ず霖くんは居てくれる。』

『霖くん。霖くんは私の王子様だよ。』

・・・ああ。こんな姿でも僕だと認識してくれるのか。

『わかるよ。だって、霖之助くんだもの。』

メリー・・・。ありがとう。できれば聞いてくれ。聞いて、そして蓮子達に伝えて欲しい事があるんだ。

僕は、ある未来技術の為に犠牲になってしまった。その未来技術は、いずれ人を滅ぼすものだ。

どこでもドアは、存在してしまう・・・。存在してしまえば、世界は終わってしまう・・・。

『・・・そう。それは、怖いね。』

そうだ、とても怖い世界だ。だから、頼む。メリーしか頼む人が居ないんだ。

『ありがとう。でも、ごめんなさい。』

『今は、霖くんの手を握らせて』

ああ。そうか・・・。僕を伴ってくれるのか。

ありがとう。死ぬ間際に誰かがそばに居てくれると、嬉しい者だ。

『えへへ・・・。あのね、霖くん』

どうした?

『私ね・・・。霖くんの事、ずっと好きだった。』

『ずっと、ずっと好きだったの。数ヶ月しか一緒に居られなかったけど、霖くんの事が好き。』

・・・・・・そうか。全然気づかなかった。

『霖くんはニブチンだもんね。あはは。』

はははは・・・。

・・・・・・・・・

『手、握って良いかな。』

ああ、良いさ。その好意を受け取ろう。

僕が死ぬまで、ずっと手を握っていてくれ。

『・・・・・・うん。』




僕は、メリーの手を握った。メリーも、僕の手を握った。

メリーの手は、もう骨しか無かった。






『潮時ですかね。』

『まだまだ時間はあるんだ。どこでもドアの完成の為に、他の実験台を探そう。』

『そうですね。私たちは”人は殺してない”ですしね。』

『ああ、大丈夫だ。永遠に隠し続けなければ、どこでもドアは”完成”できないのだからな。』

『だから、その時まで”人は殺さない。”』







『おい・・・何だこれ』

駒田が見つけたのは、ある場所に向かって肉が落ちている道だった。

『あっちに、続いてますね。』

『・・・・・・行ってみましょう。』

そして、少女達は

肉をたどって、その道を歩いて行った。










【???】

目を覚ますと、僕はベットで寝かされていた。

首を振って辺りを見渡すと、病院では無い。ある部屋に居るようだ。

コンクリートの壁だ。

僕以外にも、数人の人間がベッドで寝ている。

その内の一人に、メリーが眠っていた。

一体、ここはどこなのだろうか。

あの男に物置に入れられてから記憶が無い。

あの後、妙なガスが出てきて眠らされていた・・・。

そうだ、コンビニで買ったビールとお菓子が無い。

ビニール袋に入れた筈だからすぐに分かると思うが、どこにあるのだろうか。パクられたか?

『ううん・・・』

メリーが、眠りから覚まそうとしている。

目をこすって、見上げると僕の顔を見た。

『・・・あれぇ?どうして霖くんが女子トイレに居るんですかぁ?』

『君は何を言っているんだ?』

メリーが辺りを見渡すと、『あれぇ?』『あれぇ?』と首をかしげた。

『おかしいなぁ。トイレを探して建物に入った所までは覚えてるんだけど・・・』

『・・・・・・』

ああ、そうかつまり

メリーも捕まっていたということか。僕と同じく。

なんて間抜けな犯行だろう。一体誰がこんな事をしたのだろうか。

そして、誰が何の為にこんな事をしたんだろうか。

『あそこに扉があるな。』

一人の男が起き上がり、扉のある壁に指を指す。

閉じ込められているなら、この扉には鍵が掛かっているはずだ。

これから、どうやってこの部屋から出ようかと考え、扉の前に立ち扉に手をかけた。

開いた。

普通に開いた。

本当に拍子抜けするくらい、普通に開いた。

『ここから出口に繋がってるみたいだねぇ。霖くん。』

『・・・本当に、なんだったんだ?これは』

理解の出来ない、この状況にイライラしつつも僕らは出口から外に出て行った。






外は明るかった。

しかも見覚えのある景色だ。

そうだ、ここから近くに学校があるはずだ。

携帯を開き、時間を見てみた。

『・・・・・・うーん・・・10時かぁ。』

とっくに一時限目が始まってる時間ではあるが、問題は

『あれぇ?いつの間にか4日進んでるよ?霖くん。』

そうだ、あの日から数日程時間が進んでいるのだ。

この数日間、僕たちは監禁されていた。理由は分からないが監禁されていた。

僕たちが数日居なかった事で、何か犯人達に都合の良い事があるのだろうか。

『とりあえず、家に帰ろうか。学校の準備をしていないし。』

『えー。こういう日はサボっちゃった方が良いと思いますよ?』

サボリか。それは駄目だ。

『僕は三日空けているが、君は四日空けているんだろう?それは駄目だよ。』

『そうでした』

メリーは溜息を吐いて、一歩一歩前に進んでいった。

この先、まだ犯人達が歩いている可能性があるため、

『送っていくよ』と、メリーに言って家まで送っていった。





『あ、蓮子』

帰る途中でバッタリ出会い、蓮子はピタリと止まった。

この反応では、やはり僕たちは数日居なかったのだろう。

蓮子が震えている。参ったな、この街中で怒鳴られるのだろうか。

『うー、あー、蓮子。これはだな、僕たち誰かに誘拐されてて・・・』

急に、蓮子は僕に突進してきた。

僕を強く抱きしめ、ぶるぶる震えていた

『・・・蓮子?』

『蓮子ちゃん・・・?』

蓮子は泣いていた。まるで悪い夢から覚めた子供のように。

『・・・・・・りっりんぐん・・・めぇ・・・メリィィ・・・・・・うわぁぁぁぁ・・・』

更に力が強くなる。まるで二度と離さないかのように。

それほどまでに、人恋しかったのだろうか。たった数日留守にしただけでは、ここまで気にしなさそうなのだが。

『・・・どうしたんだ?蓮子。俺が居ない間に何があった?』

『しっしっ・・・死んでたがどぉ思ってだぁぁ・・・・・・ぁぁぁぁぁ・・・・・・!』

今、蓮子が気になる事を言った。

・・・死んでた?

何を大げさな、と思っていたが

それを打ち下したのは、学校に来てからだ。

学校を来てまず最初に出会ったのは、新聞部の長谷田だ。

出会った矢先に、腕を引っ張られメリーと共に部室に連れて行かれた。

部室で、長谷田は僕たちが生きている事を喜んでいた。抱きつかれたりキスされたりもしたが、尋常でない喜び方だ。

そこで、どうやって生還したのかを聞かされた。

一体何の意味かが分からない。と聞くと『それはそれで記事になりますからなぁ』と笑っていた。



インタビューされて三十分程で、駒田が新聞部に来た。

『森近が帰ってきたって本当か!?』と言いながら

僕とメリーを見た後、しばらく黙り込んで、目に涙を浮かべて

泣きそうな顔を隠しながら、廊下へと逃げ出した。



インタビューから解放された後、桐谷さんにあった。

通り過ぎようとした時に、腕を掴まれ

頬を引っ張られた。

『なっ何をするんですか!』

と言ったら、桐谷さんは少し嬉しそうに

『やっぱり、真相はこんなもんですか』と答えて去っていった。



疑問が消えないままだったので、生徒会長室まで向かって事情を聞くことにした。

まず最初に、僕たちが生きていた事に驚いていたが、平静を保っていた。

そこで、僕たちが居ない間に何があったのかを聞くと、何日から居なかったのかを聞かれた。

『僕は三日・・・メリーは四日程。』

そう答えると、生徒会長は少し混乱した様子で答えた。


僕は、二日前までは学校に来ていて、メリーも同じくらいに居たらしい。

そして休んだ日に、蓮子は不機嫌にはなっていたが、そこまでは気にしていなかった。

だが、ツイッターにアップされていた異形の形をした僕の顔を見て、蓮子は形相を変えたそうだ。

全員にそれを見せた時に、僕の捜索が始まったらしい。

メリーに関しては情報が全く無かったが、同じように捜索した。

まず、ツイッターを投稿した者を見つけた。事情を詳しく聞くと、暴力を振るっていた事が分かり

切れた駒田がそいつらを半殺しにして大変だったそうだ。相手は小便を漏らし、情けなく命乞いまでしたという。

いざ離してやると、暴言を吐きながら逃げていったらしい。

『安心しなさい。もうその人達は、地獄でしか生きられないように手を回しといたわ。』

そんな事を笑顔で答えていたが、それが本気なのか冗談なのか分からなくて本気で怖かった。

捜索を続けていくと、肉が散乱した道があったそうだ。

その道をたどって、ビルの裏まで回っていくと、シャッターがあったそうだ。

そのシャッターの中を、懐中電灯で照らしたら、

溶けて上半身しか残っていなかった僕と、顔半分しか残っていなかったメリーが手を繋いで絶命していた・・・らしい。






今、その溶けた身体はどこにあるか聞いてみた。

どうやら、僕の身体は僕の家の前に置かれているらしいので、その場で帰宅してみた。

帰宅して、家の前まで走った。

たどり着いた先には、ただ濁った赤い水が入ってるだけの水槽が置かれていた。







〜蛇足1〜

あの事件が起こってから数日が経った。

蓮子はまだ、何が起こったのか調査をしているが、全くの進展は無い。

マスコミにも連絡したが、『それはただの都市伝説だ』と言って全く聞く耳を持たない。

証拠に、僕の家の前に置かれていた赤い水の入った水槽を調べてみてくれとも言われたが、相手にしてもらえず

終いには、その水槽を蹴り飛ばして空にさせられた。

マスコミが取り上げられなくなった今、徐々にこの事件の事は他の事件に埋まり

今現在、もう誰も事件の事を口に出さなくなった。

ただ、秘封倶楽部だけが事件を探しているという。

ちなみに、僕たちが入った建物や出た建物を探してみたが、そこに建物は存在していなかった。

ただ、草木を見る限り、そこから移動した形跡は消されていたものの、かろうじて残っていた。

一体、彼らは何の目的で僕たちをこんな目に合わせたのだろうか。

何故、彼らは僕たちのクローン作り上げたのか

現在、調査中であるが、闇の中に葬り去られそうだ。





〜蛇足2〜

あの事件の直後、家に帰ると

麻耶が僕の方をじぃっと見て、観察し続けていた。

そして夜になり、夕飯を作る時間になったとき、急に麻耶は泣き出し、僕にしがみついた。

怖かった、怖かったとずっと泣き続けていた。

そして、あの事件以来、麻耶はずっと僕の傍から離れない。

外出する時も、ずっと一緒らしい。二度とあんな体験をしたくないからだそうだ。

恐ろしい体験させてしまって、申し訳ない気持ちが大きいために文句は言っていない。

それに最近は楽しそうな笑顔を見せてくれる。彼女の不満が無ければ文句は無い。

そんなある日、今度はアニメのドラえもんを見るようになった。

ツタヤに置いてある古い方のようだ。今のドラえもんよりもこっちの方が良いとねだって来たので、毎日のように借りている。

確かに、今のドラえもんと昔のドラえもんとは声が違うが、姿も少し違うが、何があったのだろうか。今のドラえもんは声変わり前の者だろうか?

まぁ、アニメだしそこら辺は許そう。そして一つ気になった事がある。

今、見ているのは【コピーロボット】の話だ。人形の鼻を押せば、もう一人の自分(クローン)が作り出せるという代物だ。

実は、あの物置を開けたときに見えた”それ”は、

ドロドロに溶けたコピーロボットだったのだ。

それに何の意味があるかは知らないが、正直不気味で油断ができてしまった。だから気絶させられたのだが。

そういえば、どこでもドアの製作者もドロドロになって死んでいた。

僕たちがドロドロになって死んでいたというのも、何か関係があるのだろうか。

もしかしたら、どこでもドアの製作者は死んでいない可能性もあるが・・・

『馬鹿馬鹿しい』

僕はそう一蔑して、アニメのドラえもんに注目した。

ドラえもんとのび太が、どこでもドアを開けるシーンだった。
どこでもドアの哲学は、好きな話の一つです。他にもドラえもんの道具で裏設定無いのかと探しましたが、ドラえもんに核が常備されているくらいしか無かったです。
ND
作品情報
作品集:
9
投稿日時:
2014/03/09 17:30:50
更新日時:
2014/03/10 11:12:49
評価:
6/6
POINT:
600
Rate:
17.86
分類
霖之助
秘封倶楽部
マエリベリー・ハーン
宇佐見蓮子
洒落怖
どこでもドア
簡易匿名評価
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POINT
1. 100 NutsIn先任曹長 ■2014/03/10 03:29:22
遠くに移動するのに何も本人が行く必要は無く、現地に『アバター』を用意すればいい。
手垢の付いた古典的トリックだが、替え玉も『本人』というところが秘封霖クオリティ。
だが完璧な『本人』でないために、結局は瞬間移動も殺人も成立しなくなる。
その二つが成立した時、夢が叶う……。
2. 100 名無し ■2014/03/10 10:13:42
ここから、元ネタのどこでもドア哲学に繋がるのか。
人間は絶滅するし、幻想郷も崩壊するし。
霖之助浮かばれないな。面白かったです。
3. 100 名無し ■2014/03/11 10:13:03
最初はよく解らなかったけど、どこでもドア哲学でググったら大体解った。
4. 100 名無し ■2014/03/12 20:08:46
こーりん密かにリア充やったんやな
5. 100 名無し ■2014/03/25 00:33:09
何で産廃に貼るのかが分からない。
こんなにクオリティ高くて面白いのなら、ss速報とかでも良さそうなんだが。
6. 100 名無し ■2014/05/17 10:03:40
たまーに産廃に来てこれの新作を読むのがたまらなく楽しみ
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