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『産廃創想話例大祭B『ささやかな報復』』 作者: NutsIn先任曹長

産廃創想話例大祭B『ささやかな報復』

作品集: 10 投稿日時: 2014/05/18 18:09:57 更新日時: 2014/07/08 00:43:31 評価: 11/13 POINT: 1080 Rate: 15.79
「最期に、何か言い残す事はあるかしら?」

綿月 依姫に尋ねられた霧雨 魔理沙は、傷だらけの顔にふてぶてしい笑顔を浮かべた。

依姫の手にした端末に、魔理沙の現在の心境が文字情報で表示された。



『クソ喰らえ』



依姫は認めざるを得なかった。

依姫は拷問と憂さ晴らしで、魔理沙から声も四肢も片目も両耳も美しいというより可愛らしい顔も奪った。

それ以前に、魔理沙の冒険に満ちた毎日の平穏な生活も奪っていたが。

だがしかし、最後の最期まで、魔理沙から不屈の闘志を奪うことは出来なかった事を。

いつもなら、依姫は魔理沙の両頬にビンタと腹に一発拳か膝をくれてやる所だが、今日はハレの日なので勘弁してやった。

依姫が目で合図すると、魔理沙が拘束された車椅子を玉兎兵の一人が押して行った。

魔理沙の処刑場へと。



「構え!!」

広い刑場にぽつんと置かれた魔理沙の車椅子に、小銃の狙いをつける玉兎兵の一団。

「撃て!!」



パパパパパ――――……ァァァ……ン……



普通、銃殺刑では一発の実弾が処刑執行者の誰かに無作為で渡され、残りの執行者には空砲が渡される。

だが今回は、全員が弾倉一本分の実弾を自動小銃に装填していた。

それどころか――。



「総員、突撃ぃっ!!」



ワアアアアアァァァァァァァァァァ――――……ッッッ!!!!!



処刑人達、一個小隊は銃弾を撃ち尽くした小銃に着剣すると、魔理沙の骸目掛けて走り出し――。



どすっ!!


ドスッ!!

ぐちゃ!!

めきゃ!!
ごき!!
べちゃ!!
バスッ!!ゴシャッ!!
ぶちゃにちゃギガごがばちゃメチャ――――



銃剣で、銃床で、腕で足で円匙で警棒でスタンガンでスレッジハンマーでハリセンで――。

血に飢えた月の兎の兵士達は、『亡き者』にした霧雨 魔理沙を『無きモノ』にした。

かつてはシャバの女学生と大差ない訓練三昧を送っていた綿月家――実質的に依姫子飼いの少女兵達は、すっかり凶暴になった。

誰かを傷付けただけでゲロを吐いていたネンネの彼女達も、数ヶ月の作戦行動でいっぱしのヒト殺しに成長した。



頼もしさと若干の嫌悪の篭った視線を、依姫は手塩に掛けて育成した必要悪の集団に向けると、懐から取り出した書類を何度も読み返し始めた。

もう、かつて『普通の魔法使い』と呼ばれたゴミクズの事など、視界にも思考にも入っていなかった。

書類に目を通し、たまにペンで加筆修正する依姫。

幻想郷に訪れた平和を歓迎し、偉業を成し遂げた月の都を讃える祝辞だ。

書類――間もなく行なわれる勝利宣言の演説用の原稿には、目ではなく心で読む文字で、デカデカと、こう書かれていた。





八雲 紫。

博麗 霊夢。

ざまあみろ♪





姉の豊姫に平身低頭しておきながら、何らかの方法で綿月家から秘蔵の酒を盗み出した紫。

小娘の身でありながら神降ろしを行い、都で依姫自ら指導と褥での寵愛をしてやったのに、その恩を忘れた霊夢。

幻想郷の管理人だの守護者だのを気取っておりながら、月の軍勢が幻想郷に攻めてきたら真っ先に逃げ出した腰抜けの特A級戦犯達。



今や月の都の直轄地――偉大なる月の統治者、月夜見より綿月家に統治が任された――となった幻想郷。

そこで大言壮語じみた、独裁者だってパンツもはかずに裸足で逃げ出す演説をブチ上げるのだ。

幻想郷、月の都はもとより、冥界、地獄、天界、仙界、魔界、それに『外のセカイ』にまで中継される事になっている。

おそらく便所虫のように臭く汚く暗い場所を這いずり回って逃げ隠れしているであろう、未だ行方知れずの二名に対する当てこすり。

その時は、もう間もなく――。



「依姫様、準備が出来ました!!」

目をかけてやっている玉兎兵の一人、レイセンが丸めた台本を持って駆けて来た。

依姫は頷くと、処刑を行なったガールズに風呂に入って身奇麗にするよう命じ、演説の準備が整った特設スタジオに悠然と歩き出した。





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月の都。

悠久の平和で遊休の給料泥棒と揶揄された月の使者――実質的な軍隊に活躍の機会を与えようという動きが、政を行なう特権階級の中にあった。

最近、月の使者のリーダーである綿月 依姫が幻想郷の侵略者達(公式見解では『不法入国者』とされている)と戦い、華麗に勝利を収めたことがあった。
貴族の某が部下に見せられたその時の資料映像で、弾幕ごっこに魅せられたようだ。

月の民たった一人で穢れた地の人妖の精鋭部隊(ということになっている)に勝てたのだ。
目の上の悪性腫瘍である月の歴史始まって以来の天才、八意××――通称『永琳』が放逐された姫、蓬莱山 輝夜と共に巣食う幻想郷など、正規の軍隊で滅ぼせるのでは――?

暗い部屋で至近距離で見た弾幕ごっこの映像に、バーチャルドラッグの効果でもあったのか?
やんごとなき方々の秘密の宴で平民が使用したら死罪確実な霊薬を存分に服用しつつ、政治の会議を行なう事に無理はなかったのか?
実際はどうなのか、当事者も含めて誰も知らないし、知ったことでもなかった。

幻想郷討伐の議は、あれよあれよという間に月の永世最高統治者、月夜見に伝えられ、玉璽が押された書状が返ってきた。

実質的な、戦争の許可証だった。

その日のうちに綿月家に『つかまつれ』――ヤれとの詔が月夜見の使者によって伝えられ、次の日には討伐部隊の編成が出来ていた。

幻想郷には玉兎の脱走兵(本人曰く『亡命者』)がいるため、玉兎同士が波長を交わして行なう意思疎通手段で軍事侵攻が気取られる恐れがあった。
永琳や幻想郷の管理人である八雲 紫に察知され、小賢しい策を弄されるのは具合が悪かった。
なので、綿月の血筋で稀代の策士と呼ばれている豊姫は彼女らしくない、ある意味最も彼女らしい、素早さと力押しによる幻想郷の蹂躙を提案した。
妹で部闘派の依姫は姉の意見に賛成、直ちに綿月家の敷地内で集団生活を送っているレイセンら玉兎兵を連れて、月の各地にある軍事基地を行脚した。
宇宙港にやってきた依姫一行は、かき集めた兵員で万単位の人数に膨れ上がっていた。

宇宙港には、宇宙海軍の艦艇に混じって綿月家の自家用クルーザーが停泊していた。
この宇宙船は、お大尽のお船のような優美さと実質的『巡洋艦』としての火力を保有しており、旗艦として申し分なかった。

総員、転校生のように昼飯のパンを口にくわえて慌しく乗船。
艦隊は地上、幻想郷目指して最大船速で出発した。

一日足らずで編成された討伐部隊。
即席の軍勢だが、保有する圧倒的火力は幻想郷を無遠慮に無慈悲に打ちのめした。

脱出できた実力者は八雲 紫と博麗 霊夢だけだが、よりによって幻想郷を守護すべき立場の二人が逃げ出した事により幻想郷占領が確定した。
次々と壊滅する幻想郷の有力な勢力。
ゲリラ戦で侵略軍に立ち向かう者達もいた。
だが殺しに慣れてきた敵軍に狩り出され、先ごろ最後の一人である霧雨 魔理沙が捕らえられ、処刑された。

数日で片が付くと思われた幻想郷の征服を数ヶ月に伸ばした彼女達は、良く健闘したといえるだろう。





永らく倦んだ平穏に満ちていた空気が、この日は狂喜に包まれた。

汚物の掃き溜めである地上。

その中でもダントツのドツボである幻想郷が、高潔な名門、綿月家によって『掃除』されたのだ。

数ヶ月に渡る『清掃作業』で口に出すのもおぞましい罪人、八意××と輝夜姫は討伐され、その他のウザい反乱分子も悉く踏み潰された。

最底辺の生活を強いられていた幻想郷の取るに足らない住民達は、偉大なる月夜見様のお慈悲により、月の民に隷属する事を許された。

都中のテレビ、ラジオ、情報端末、そこかしこに設置された大型受像機では、クソ溜めの幻想郷にいる女傑がライブで映し出されていた。



高画質でその美しき姿を全セカイに披露する月の使者のリーダーの一人、綿月 依姫。

スカートのスリットから垣間見える足は、その付け根がどうなっているか男子学生の無駄にたくましい想像力を暴走させ、
豊満な乳房は、その柔らかさと張りは至極だろうと妄想して逸物を扱く発情玉兎が達する一助になり、
難しい単語を並べ立てて月と自分達の自慢をする得意げな依姫の美貌は、舌やマラで撫で回したいと大勢の男共に叶わぬ願望を抱かせた。

言うまでもないが、視聴者の大部分は素直に幻想郷を平定した依姫達の偉業を褒め称えていた。





祝賀ムードで人々が立ち並ぶ屋台の食べ物や飲み物を味わいながら、何度もバンザイを叫ぶ都の大通り。

その裏手にある、大通りと平行した狭い裏通りでは子供達がやはりバンザイを叫びながら走り回っていた。

一人の玉兎の少年が、真新しいサッカーボールを持ってきた。
裏通りは道の役目を休止して、第一回綿月杯祝勝サッカーの試合会場となった。
観戦も参加も自由。ルールもただボールを蹴り合うだけという、シンプルかつ楽しいものである。



一人の少年――ボールの持ち主は、己の全力と綺麗な依姫お姉さんへの愛を叫びながら、玉兎の脚力でボールにキックを炸裂させた。





その威力たるや、蹴った少年を霧散させ、即席のサッカー選手達を吹き飛ばし、裏通りどころかお祭り騒ぎでごった返す表通りも含む10ブロック相当を壊滅させる程であった。

残骸や犠牲者の肉片、苦痛のうめき声は、月夜見のおわす宮殿にまで届いた。










ザザ……。



都の惨事も知らずに賛辞を垂れ流すたくさんの様々な受信機にノイズが走った。



映像の表示装置には依姫の雄姿に代わり、二人の女が映し出された。

一人は紫のドレスを身に纏い、室内らしき場所なのに日傘を差し、扇子を玩ぶ金髪美女。

もう一人は脇をむき出しにした紅白の衣装で、口を真一文字に結んでこちら――撮影装置を睨む、紅い蝶のようなリボンの黒髪美少女。



セカイ中の放送受信装置は、金髪美女の言葉を紡ぎだした。



『月の軍勢による幻想郷侵略終了、まことに祝着至極にございます』

底知れぬ闇を湛えた瞳で笑みを浮かべた金髪美女は、軽く頭を下げると言葉を続けた。





『つきましては、お祝いの<花火>を月の民が忘却の彼方に置き去りにした恐怖と共にお送りいたしましたが、喜んでいただけたかしら――』





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二時間オーバーの演説をやり遂げた依姫。

その様子を舞台裏から見ていた姉の豊姫からグッジョブの声と一杯の酒を貰い、
祝勝会を始めた玉兎兵達から賛辞と料理を貰い、
既に飲み食いをしている放送スタッフの部屋を訪れて、



ようやく、月の都の爆弾テロの事を知った。



都の地獄絵図や紫と霊夢の『挨拶』が映し出されたモニター群に背を向けて、酒をかっ喰らっている放送担当の玉兎兵達。

依姫は刀を抜いて彼女達を二階級特進させ終わった所で、ようやく落ち着きを取り戻した。

忌々しい妖怪の賢者と博麗の巫女に放送ジャックされたのは、いつからだろうか?
自分はいつから道化を演じていたのだろうか?
解任(クビ)になった首だけのスタッフ達も、それは分からないだろう。



依姫は憲兵隊に命じ、幻想郷に存続を許された人里に遊びに繰り出した兵達を連れ戻させると、全軍に待機命令を出した。

いつもの余裕のある表情が消えて青い顔をした豊姫と共に、月の都に連絡を試みた依姫。
なかなか繋がらない事に『本国』も混乱の極みである事が分かり、連絡が遅れた事に対する言い訳になると、綿月姉妹は不謹慎ながらホッとした。

埒の明かない下っ端に散々待たされ、姉妹はようやく顔見知りの月夜見の側近と連絡が取れた。

今回の、月の都始まって以来の『事変』について、都では既に秘密警察が紫と霊夢の捜索に動き出しているとの事だった。
綿月姉妹は、幻想郷の治安維持に全力を尽くせと命ぜられた。
通信を切る間際、当分は都に帰れないと思え、と気の毒そうな表情を垣間見せて側近は二人に言い捨てた。

最重要標的である紫と霊夢を取り逃がし、よりによって都でのテロを許してしまった綿月姉妹は責任を取らされることになるだろう。
かつて都を追われた重罪人であり、綿月姉妹と知己の関係であった八意 永琳と蓬莱山 輝夜。
彼女達と同じ末路を辿る事を想起して、姉妹揃って震え上がった。





綿月姉妹が敬愛する師であり、前任の月の使者のリーダーあり、神話上は神とも謳われた八意 永琳。

幻想郷に電撃侵攻した綿月の軍は、最初に月の恥部(タブー)である彼女が実質的に仕切っていた永遠亭を陥落させた。



スピードとパワー。

豊姫は軍勢を永遠亭――迷いの竹林の監視線(ピケットライン)ギリギリに転移させた。

依姫は八百万の神々の力を出し惜しみする事無く使いまくり、代償としてしばらくは神々を降ろせなくなってしまった。

だがその甲斐あって、竹林は消滅し、永遠亭の月から持ち込まれ現地改修された防御システムは無力化された。

永遠亭の病院区画。
ここは一般の住民達が来訪するので、比較的エントランスが広めに作られていた。
突入するには持って来いだった。

そこを出入りする民間人は邪魔だったので、手っ取り早く排除した。
老いた母をおんぶした若者を装甲車で轢き殺し、幼子の手を引いていた母親を子供もろとも機銃でミンチにした。

一般外来の受付が既に始まっていたロビーには、今日も大勢の住民達が訪れていた。
病気や怪我を治して貰うため、あるいは美人の名医や因幡達に会うためである。
様々な思惑で集まった、基本的に善良な幻想郷の住民達。
末路は皆同じ。

玉兎兵達が行なった殺戮による、死である。

病院内での掃討という名目の一方的な虐殺を終えた侵略軍。

次は居住区画である。

ここでようやく、永遠亭の組織だった抵抗が始まった。

外界製および旧式の月製兵器で武装した因幡兎の一団がバリケードを作り、立てこもったのだ。

月の軍勢は、永遠亭の者達の幸福な降伏など望んでいなかった。

宇宙艦から、躊躇無く建物に艦砲射撃を行なった。

小柄なリーダー格の少女を初めとする因幡全員、および連絡の不徹底により建物内にいた友軍が二、三個小隊ほど落命した。
幻想郷住民は当然だが、玉兎の命も月の民のそれよりも安い物なので、少なくとも綿月姉妹は問題にしなかった。

瓦礫の捜索を命じようと、旗艦の依姫が地上を映し出すモニターを見た時、何かが高速で飛び出し幻想郷の空に舞い上がった。

やはり月の技術で作られた、旧式の小型宇宙船だ。

旗艦の砲手に代わり、依姫自らが宇宙船を主砲の一撃で撃墜した。

自家用船である旗艦から大地に降り立った依姫は、自ら宇宙船の残骸を検分した。
二人乗りの小型艇から二人分の遺体が発見された。
永琳と輝夜――ではなかった。
一人はかつてペットだった脱走兵の玉兎。
もう一人は損壊の激しい骸から、銀髪の少女だと辛うじて判明した。
かつて依姫がレイセンと呼んでいた玉兎の左手は、銀髪少女の千切れた右手を握り締めていた。

依姫の感傷は、戦闘の高揚が抜けたところに死体を見た若い玉兎兵の嘔吐によって打ち切られた。

ゲロを吐いた兵に二人の遺体の埋葬を命じると、依姫は旗艦に戻った。

神々の力を使えない依姫は、艦の探査装置で数十分ほど前まで永遠亭が建っていた土地全体を調べた。
地下に、何層にも迷路状に入り組んだ空間があった。
また手っ取り早く戦艦の武装で掘り返そうと、旗艦及び他の戦闘艦が砲門を台地に向けると、通信が入った。

『攻撃を止めなさい』
「お久しぶりです。八意様」



再び大地に立った依姫。

玉兎兵に十重二十重に取り囲まれている、一人の女性。

「依姫様、言われた通りに裸にひん剥きました!!」
「ご苦労」

玉兎兵の報告を受けた依姫が視線を向けると、確かに裸身を晒した八意 永琳が鼻血を流しながらも毅然とした態度を崩していなかった。

「抵抗の素振りが見えましたので取り押さえる際に、手が当たりました!!」
「そう……」

先程の玉兎兵の嘘八百を聞き流し、依姫は永琳との再会を果たした。

「依姫、これは何のマネですか?」
「月夜見様の命で、幻想郷を討伐することになりました」
「こんな事をして、ただで済むと思っているのかしら?」
「当然、莫大な費用がかかるでしょうが、退屈を持て余した月の民に提供する娯楽としては安上がりでしょう」
「……堕ちたわね」
「ところで、輝夜姫様に御目文字を願いたいのですが……。何処ですか?」

わざとらしくキョロキョロする依姫に、永琳は答える気はないようだ。

ザッ!!『よっちゃん♪ 豊姉ちゃんよ☆』

依姫は慌てて、能天気な豊姫の声を発する無線機を懐から取り出した。



『お姉様!? 今、何処ですか!!』
「よっちゃんが探している輝夜姫の前よ♪」

永遠亭地下の研究区画。

その最深部で豊姫は、蓬莱の玉の枝を構えた蓬莱山 輝夜と対峙していた。

「綿月 豊姫。面と向き合うのは何千年ぶりかしらね」
「輝夜姫様。いえ、蓬莱山 輝夜。罪人の分際で、お姫様気取りは止めなさい。目障りよ」

友好的な雰囲気ゼロ、殺気MAXの二人。

「貴女には取って置きの難題をぶつけてあげるわ……」

じり、とすり足で僅かずつ距離を詰める輝夜。

「それは、そこの物陰でコソコソしていらっしゃる公達との挟み撃ちの事かしらぁ?」

チッ!!

扇子を玩ぶ豊姫の背後で舌打ちが聞こえた。

ゆらり、と藤原 妹紅が姿を現した。

「あら……。その女も蓬莱人ね」

相変わらず妹紅に背を向けたまま、豊姫は妹紅が不老不死者だと見抜いた。

「あ・た・り・だぁっ!!」

いきなり全力、大盤振る舞い。
豪華絢爛な業火が妹紅から放たれた。

が、次の瞬間には、妹紅の眼前から豊姫の背中は消え、代わりに輝夜の驚愕した顔が視界に飛び込んだ。

「ちょ――」

妹紅に対する抗議と共に、輝夜は一瞬で炭化して、粉々に消え失せた。

「ふふ♪ 浅はか――!?」

少し離れた場所に瞬間移動した豊姫の小馬鹿にした声は、全裸な事以外は火達磨になる前と変わらない輝夜の攻撃で中断された。

「――なのは、貴女のようね♪」

蓬莱の玉の枝から放たれる色とりどりの玉、否、『弾』!!

必殺の弾幕は身体を捻った豊姫の帽子を穴だらけにし、素粒子分解する能力のある扇子を豊姫の右手の親指と人差し指ごと弾き飛ばした。

「リザレクション……。思ったよりも、早い……!!」

蓬莱人の蘇生スピードを甘く見積もっていた豊姫。

「くすくす☆ さあ――」
「次はどうする? 侵略者の親玉さんよォッ!!」

輝夜と妹紅に詰め寄られた豊姫のやる事は一つ。



見積もりをし直すのである。



「!?――」

「も、もこ……!? い、ぃぃ、嫌ああああああああああ!!!!!」





「私は八意先生が月のラボに遺した資料から、蓬莱の薬は無限の命を授ける物ではないと調べ上げました」

永遠亭を陥落させた頃に思いを馳せていた豊姫は、歪なオブジェに向かって語りだした。

コポ……。

オブジェのケースである水槽に泡が一つ立ち上ったのを相槌と解釈し、豊姫は言葉を続けた。

「そう。無限に等しい天文学的歳月の果てに、蓬莱人の『死』があるのです」

コポポ……。



「だから――、私は現在(いま)と死(みらい)を『繋げた』のです♪」

綿月 依姫の『海と山を繋ぐ程度の能力』。
平たく言えば、A地点にあるものをB地点に移動させたり、A地点とB地点を置換したりする、空間操作の能力である。
その能力は、空間だけでなく時間、事象のように、多次元について応用が出来た。

「『永遠と須臾を操る程度の能力』……? ハンッ!! 下らない!! いつまでも問題に答えを出す事を先送りにする臆病者の能力!!」

狂喜を秘めた嗤いを浮かべつつ、豊姫は治療を終えて欠損どころか傷もさかむけも無い右手に握った桃を齧った。

ペッ!!

「不味ぅい☆ 天界の桃などドブ臭くて食えたもんじゃない!!」

貢物の桃を口から吐き出し、豊姫は手にした残りをオブジェに投げつけた。

ゴッ!!

「お姉様、乱暴はお止めください。コレ、気に入っているんですよ。ねぇ、八意センセ♪」

姉の狼藉を全く止める気のない依姫は、丹精込めて作ったオブジェを撫で、捕らえた永琳に声を掛けた。



オブジェ=八意 永琳だった。



四肢を切断され、顔と体の半分から生皮を剥ぎ取られ、鼻、口、秘所、肛門にチューブを捻じ込まれた永琳が、液体が満たされた生命維持装置に拘束されていた。

まるで生体標本である。

不死の蓬莱人である『月の頭脳』、永琳は生死の曖昧な状態を保持され、その天才的な英知を行使できないように意識も曖昧にされていた。

まるで母の胎内で羊水に浸かった様な有様の永琳。

永琳の生きがいであった輝夜が、泣き叫びながら見る見るうちに老いさらばえ、一足先に妹紅が迎えた『死』へ向かっていく様子を、豊姫はは面白おかしく語った。

快適な永遠のゆりかごで、永琳は悪夢を見続けることとなった……。





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第一目標:永遠亭

制圧完了。



重要標的:八意 ××(俗称:永琳)

無力化に成功。



重要標的:蓬莱山 輝夜

死亡。



長年悩まされた月の癌は、幻想郷侵攻から実質的に一日足らず、事後処理を入れても二、三日で治癒された。

引き続き綿月姉妹が率いる正義の軍隊は、幻想郷の『清掃作業』――掃討作戦を行なった。



非常識な火力による集中砲火で、瞬時に廃墟と化した紅魔館。
側の湖には大量の血と大量破壊兵器由来の汚水が流れ込み、湖岸に無数の魚と人魚の死体が打ち上げられた。

妖怪の山攻略戦。
神降ろしが使えない依姫はちょっぴり骨が折れたが、三日後には守矢神社の境内に、二柱の神と現人神の少女、その他天狗や河童、神々の骸が晒された。

平和と反戦を月と幻想郷に呼びかける聖 白蓮。
墜落した聖輦船からは大量の武器弾薬、化学兵器まで発見されたと、月の使者は公式発表を行なった。

地霊殿当主、古明地 さとりは、綿月姉妹に特別に目通りが叶った。
鼻くそほども隠す気のない姉妹の、幻想郷のそれもさらに『下』に見ている地底への見下した態度。
地霊殿に帰宅後、さとりはペット達の薬殺処分に使用した物と同じ毒を、妹のこいしと共に呷った。

幻想郷住民の月の使者に対する怨嗟を延々と聞き続けた豊聡耳 神子。
ヘッドホンの上からさらに粘着テープを頭にグルグル巻きにした神子は白髪と化していた。
不健全なまでに清浄な月の使者に付け入ることが出来ない邪仙の霍 青娥も同様にやつれていた。
仙界の道場は、封印されていた頃の神霊廟――豪族の墓場に戻りつつあった。

壊滅した勢力の残存や在野の妖怪、フリーランスやらが時には単独で、また時には手を組んで、月の軍隊に反抗を企て実行した。
死に物狂いの彼女達が行なった散発的で見境のない攻撃での『戦死者数』は、序盤数日間での正規の作戦でのそれを軽く上回った。
依姫は玉兎兵達に『取り締まり』を厳命し、怪しき者は取調べよりも『制圧』を優先させた。
若くモラルのない兵達は独断と偏見により、幻想郷中で殺戮と略奪を行なった。
殆どの住民はそれを甘受するしかなかった。
一部の『当たり』に遭遇した兵士は、装備を奪われ、衣服をひん剥かれ、陵辱の後に綿月姉妹を侮辱するメッセージを身体に刻まれ惨殺され、道端に放置された。
その効果の大きさに感心した現場の兵達は、直ちにそれを見習い、実践した。
その蛮行は、いつの間にか月の使者の専売特許になった。



慌しく月の都を出立してから10ヶ月。

綿月姉妹が率いた月の使者の軍勢は、最後の抵抗派、霧雨 魔理沙の処刑を以って、幻想郷全土の制圧を公式に発表した。



そして、数時間の祝賀ムードから一転。

月の都は、正体不明の敵との名誉無き戦闘に突入した。





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月の都での爆弾テロから三日後。

再び、放送網がハイジャックされた。

今度は都の高級マンションの一室。
美女と肥えた親父が共に腸をぶちまけてお亡くなりになっている映像が、モザイクもボカシも無しで、お茶の間に届けられた。
親父は秘密警察の長官、女はその愛人だとテロップが表示された。

都の政府は、この件を黙殺した。

覚えのめでたくないお偉いさんを反政府主義者にでっち上げる手腕に長けていても、『本物の敵』の捜査はからっきしの秘密警察。
トップの不名誉な死によって、最大の武器である『恐怖』が薄まってしまった。

都のあちこちで協力員――密告者がリンチに遭い、たかりの対象である貴族達は小遣いをくれなくなった。

紫と霊夢の行方など、分かるはずもなかった。





お山が主戦場になった事など、引きこもっていたはたてには現実感が伴わなかった。

銃声や砲声など、週末に出没していた河童の珍走団のカスタマイズされた乗り物の爆音ほど五月蝿くはなかった。

お山自慢のライフラインは、電気、ガス、水道と、電話以外は正常に使え、供給と料金の徴収が滞ることはなかった。

報道関係は月の使者に許可を貰わないと仕事できないので、はたては一応名門である姫海棠家の貯金を食いつぶして生きながらえていた。

ケータイにプリインストールされた落ち物パズルに飽き、腹の減ったはたては無駄な徹夜で生じた眠気とイラつきをかみ殺し、外出した。

なじみのコンビニは潰れていた。

別に略奪とかそういうのではなく、元から客がはたてぐらいしか来ない不人気店だったので、経営者の合理的判断によってである。

キレたはたては、道端の石を蹴った。

『戦争』で命を落とした射命丸 文程ではないが、烏天狗であるはたての脚力は小石に無駄な攻撃力を与えた。

カ〜ンッ!!

軽快な音。

真新しい凹みができた、月の使者の装甲車。

あっちゃ〜☆

砲門は、はたての方を向いた。

顔は洗ってなくてすっぴん。
ジャージ姿でつっかけ履き。
ショーツは三日間同じ物でノーブラ。
同じく三日間風呂に入ってなくて、多少匂う体。

身奇麗にして、天狗の普段着ぐらい着ていれば良かった。

間抜けな後悔をしながら、はたては大口径の機関砲から放たれた無数の劣化ウラン弾で木っ端微塵にされた。





紅魔館跡地。

青空図書館と化した一角があった。

唯一の生き残りである小悪魔が、かつて仕えたパチュリー・ノーレッジの遺産とも言うべき蔵書をいくつか掘り出し、管理していた。

大テーブルの席では、数人の玉兎兵が寛いでいた。

本を黙々と読む、眼鏡の玉兎。

「一冊頂戴」
「ん」

眼鏡玉兎は読み終えた本を、隣の席でチョコバーを食い散らかしている玉兎に渡した。

カーッ、ペッ♪

「これ、片付けて。司書さん☆」
「はい……」

退屈した玉兎は、小悪魔をいたぶる事にしたようだ。
眼鏡玉兎以外の兵達は、ニヤニヤとしていた。

「ねぇ、お勧めの面白い本、持ってきて〜♪」
「つまらなかったら、月に代わっておしおきよん☆」

本など、軍の教本だって満足に読んでいない連中。
小悪魔は、取って置きの一冊を手にした。
今は亡きパチュリーの寝室に、常に置いてあった物だ。

「朗読して〜!!」
「ひゅ〜ひゅ〜♪」
「みなさ〜ん、静粛に〜☆」

野次を飛ばす玉兎兵の前で本を開いた小悪魔。

パン!!

間抜け面で脳天を撃ち抜かれ、倒れる一人の玉兎。

小悪魔は泣き笑いの表情で、くり貫かれた本に隠してあった自動式拳銃を、なおも撃ち続けた。

パンパンパンッ!!

玉兎兵は誰一人として反撃しなかった。

ある者は何が起きたか理解していなかった。
ある者は手にしようとした小銃を落としてしまった。
ある者は何とか握った銃を撃とうとしたが、安全装置を外していなかった。

小悪魔は拳銃に新しい弾倉を装填しつつ、辺りを見渡した。
唯一の生き残りの玉兎――本に痰を吐いたヤツは、物陰で震えていた。

だ、誰か、助けてぇ!!

『玉兎通信』で救援要請をしていた。

小悪魔が彼女を見つけるよりも早く、パトロールをしていた飛行艇が飛来した。

助かったと安堵する玉兎。
拳銃を飛行艇に向ける小悪魔。



二人は、飛行艇が放った一発のミサイルにより、共に吹き飛んだ。





月の都では、史上初のデモが行なわれた。

民には、集団で抗議する権利など認めていない。

ゆえに政府はデモの鎮圧を試みた。

民衆がデモを起こすのも初めてなら、司直がそれを鎮圧するのも初体験である。

共にバージンの二つの勢力は、結果的に無茶をした。



催涙ガス弾――ではなく、いきなり実弾を乱射する警官隊。
同胞の血を見て悲鳴を上げる民衆。
簡単に理性の吹き飛んだ双方は、簡単に統率を失い、簡単に相手の命を奪った。

人数も銃弾の数も少ない警官隊は、あっけなく壊滅した。
一部は暴徒に混じり、共に破壊と略奪を始めた。

良く見ると、頭にウサ耳のある民衆が、無い民衆に襲い掛かっていた。
身分の低い玉兎が、高い月の民に、数千、数万年に渡って蓄積された鬱憤を発散しているのだ。

ピラミッドの如き身分の格差。
当然、土台は上層よりも数が多い。

炎に包まれる高級住宅街。
破壊の限りを尽くされた官庁街。
空を飛ぶ無数の牛車。
数台の牛車は地面に引き摺り下ろされ、牛も車も中の人間も解体された。

王宮に続々と避難して来る貴族達。
その列は途切れる事無く、最後尾から暴徒に呑まれつつあった。

政府は軍の出動を決定した。



砲撃、空爆、乱射。

基本的に武器は棒っきれ程度の暴徒――ちょっと頭に血が上った月の都の善良な住民達は、大多数が国防組織に虐殺された。





☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★





幻想郷に島流しにされると思われた綿月姉妹は、月の都への帰還命令を受けた。

それに対する豊姫と依姫の返事は、『NO』だった。



「幻想郷の治安は急速に悪化しています!! 全軍を率いての帰還など承服できません!!」

幻想郷討伐部隊の旗艦である綿月家の自家用クルーザー。
その艦内にある、NBC兵器――核、細菌、化学兵器から護られたシェルター内に綿月姉妹は逃げ込んでいた。

都からの通信に怒鳴り散らす依姫。
豊姫は不安そうに『除染中』と表示されたモニターを眺めていた。



先程、綿月姉妹を魔界からの使者が訪ねて来た。

使者は、幻想郷に滞在していた魔界神の末娘、アリス・マーガトロイドだった。

用件は、散々助命嘆願を行なった霧雨 魔理沙の処刑を強行した事に対する抗議だった。

綿月姉妹は一笑に付し、取り合わなかった。

アリスは二人に贈り物の箱を叩きつけた。

中からは、綿月姉妹が魔界に使者として送った玉兎の生首が転がりだした。

それを見た玉兎兵の一人が恐慌状態になりアリスに銃を発砲。アリスはその場に崩れ落ちた。

魔界との国際問題になる事を危惧した依姫と豊姫だったが、もっと深刻が危機が目の前で発生した。

アリスの死体から黒い煙が噴出した。

「状況、ガス!! ――ぐぁあっ!?」

煙を吸い込んだ兵は、どす黒い顔になると悶絶した。

豊姫は依姫の腕を掴むと、シェルターに転移した。

その直後、艦内のどこかからか――おそらく、二人とアリスがいた謁見の部屋から爆発音がした。

アリスが――アリスを模した人形が爆発したのだろう。

これにより艦内中に毒ガスが拡散。大勢の犠牲者を出した。



モニターの表示が『除染終了』となり、シェルターのロックが解除された。

シェルターを出た綿月姉妹は、艦内のあちこちに転がる乗員達の死体を眺めつつ、魔界との国境に軍を増強する必要性を協議した。

そこにまた月(本土)から帰還命令が来た。

とっとと軍勢を返せと言っているのだ。

都を護る――民を締め付けるのに、兵隊が足りないのだ。
失敗者の綿月姉妹を含め、一人でも多くの戦闘員を必要としていた。

テキトーに問題先送りの返事をして無線を切った依姫は、窓の景色を見た。

僚艦が無数の蝶にたかられて、幻想郷の大地に墜落するのが見えた。

その艦から、一人の女性がたおやかに舞いながら飛び出してきた。

穢れを感じさせないその女性は、薙刀を手にして、腰に二振りの刀を帯びていた。

「西行寺……、幽々子っ!?」

冥界の管理を任された亡霊姫。
月に潜入して、綿月家から酒を盗み出した実行犯と噂のある女。

「冥界の幽霊が、何で……?」

依姫同様に窓にかじりついた豊姫は疑問を口にした。

幽々子は、全身全霊となった妖夢と彼女の思い人の亡霊に白玉楼を任せると、白楼剣と楼観剣を餞別に受け取り、義勇兵として喧嘩を売りにきたのだ。

「あの女が八雲 紫に月への潜入ルートを教えたんじゃ……」
「!!」

豊姫の推理は、半分正解。
幽々子は月の都での潜伏先を紫と霊夢に教えていた。
そして幻想郷から月への潜入経路は、『第二次月面戦争』後、幻想郷への恭順の証として永琳が『作った』のだ。
インテリアとなった永琳は、今頃夢現でほくそ笑んでいることだろう。

度重なるストレスでテンパッていた依姫は、西行寺 幽々子の捕縛命令を全軍に下知した。

それこそが、幽々子の狙いだった。

その最悪手のため、さらに二隻の艦艇を沈められた依姫は『幽霊の生け捕り』を諦め、三隻目に取り付いて乗員を皆殺しにしている幽々子をその艦ごと葬り去った。

『戦後』の戦死者数は、幽々子たった一人のために、その桁数が跳ね上がった。





先程まで討伐軍の幹部を招集して会議を行なっていた、旗艦の会議室。

幻想郷の政情もまた、混沌としていた。

早くから月に服従して比較的被害が少ない『家畜』である人間と、有力者を悉く失った妖怪の戦力が拮抗していた。

月の使者が去った後、幻想郷は内戦状態になり、下手すれば共倒れで壊滅するだろう。

それでも豊姫は憔悴した妹に言った。



「帰りましょう。月に……」



二人きりの広い会議室。

依姫は豊姫に抱きついて、号泣した。





永琳と輝夜を討ち取り、月と幻想郷に平和をもたらす筈だった。



だが結果として、混沌をもたらしてしまった。



失意の綿月姉妹とその軍勢は、今度は同胞を弾圧するために、故郷に帰ってきた。





☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★





久々の我が家。

屋敷に帰宅した綿月姉妹は、夕食と湯浴みを早々に済ませた。

明日から二人は、お偉いさん達に吊るし上げられ、不名誉な命令をされることだろう。

豊姫と依姫は寝室で寝酒を引っ掛けると、布団に潜り込んだ。

久々にぐっすり眠れた。





綿月姉妹の目覚めは最悪だった。

まず体調。

頭痛が酷い。



そして、

二人の眼前には――、



「ごきげんよう♪」
「おはよう。良く眠れたかしら?」



――八雲 紫と博麗 霊夢がいた。



「うぅぅ……?」
「これは、どういう……!?」

豊姫と依姫は手足をスキマで拘束され、壁に貼り付けられていた。

この壁に、依姫は見覚えがあった。

一回目の放送ジャックで、紫と霊夢の背後にあったものだ。

「ここが……、貴女達のアジトなのね……」
「御名答♪」

依姫の回答に、紫は破顔した。

「私達をどうするつもりなのかしら……?」
「ぁあ? 決まってんでしょ。殺す、のよ」

豊姫の質問に、馬鹿を見る目をして答えてやった霊夢。

お揃い、色違いのパジャマを着て貼り付けにされた綿月姉妹を、感慨深げに眺める紫と霊夢。

「永かったわ……」
「ついに、復讐が成ったわね、紫♪」

豊姫を嘲笑う紫。

「私を地べたに跪かせた屈辱、晴らさせてもらうわ」

依姫を睨む霊夢。

「月で私を晒し者にして、散々辱めた事、後悔しながら逝きなさい」

悔しそうな表情をきょとんとした物にじわじわと変化させた綿月姉妹。

「……ぇ?」
「あの……、幻想郷を滅茶苦茶にした事、じゃないの……?」



「……ぷっ」
「くくっ、……うくくっ」



「「あ〜〜〜〜〜っっっ、はっはははははははははは――――!!!!!」」



爆笑する紫と霊夢。

綿月姉妹は、何が何だか理解できなかった。



「幻想郷はね、あなた達を釣る『エサ』よ♪」
「さすがね紫☆ 見事にアホな月人を出し抜いたわ♪」



突如、降って湧いた幻想郷討伐。

罠だった。

下らない私怨を晴らすための。



豊姫と依姫は理解してしまった。

そして思い出した。

こいつらは、たかが酒一つ盗み出しただけで、月に吹っかけた戦争に勝ったと言いふらすような連中だったと。

でも、しかし、ささやかな報復のために、大事なものを喪っても平気なのかっ!?



「あ……、あなた達……」
「霧雨 魔理沙や西行寺 幽々子はあなた達の友人じゃなかったのっ!?」

絶句する豊姫と、あきれた理由で友を死に至らしめた二人を怒鳴る依姫。

「魔理沙……。子供の頃からの腐れ縁だったわ……」
「幽々子とは、彼女が人間だった頃からの付き合いだったわ……」

感慨深げな霊夢と紫。

「だかぁらっ!!」
「大切なヒトの死を乗り越えて、私達はフクシュウしなくちゃなのですわぁっ!!!!!」

ギラついた二人の目を見た綿月姉妹は確信した。



こいつ等、狂っている、と。

ぎゃふん。



ケタケタケタケタケタケタ――♪



狂人に相応しい、耳障りな、こっちまで頭がどうにかなりそうな嗤い声を発した紫と霊夢から目を逸らした綿月姉妹。

幻想郷を滅びに導いた二人の幻想郷の守護者は酒瓶を取り出すと、何やら粉末を大量に混ぜ始めた。

「その酒は――!!」

綿月姉妹には見覚えがあった。

昨晩も飲んだ、寝酒の瓶だ。

「そ♪ あんた達の寝室のお酒よ♪」
「こっちのお薬は睡眠薬よ♪ ちなみにぃ、あなた達の姿をお借りして買いましたから☆」

昨晩の寝つきの良さと寝起きの不快さは、一服盛られたせいか――!!

「カクテルができましたわ☆」
「コレ飲んで寝て頂戴。永遠にね――」

紫が二つのスキマを生み出すと、霊夢はそれに致死量をはるかに超えた睡眠薬を混ぜられた酒を交互に注ぎ始めた。

「ぐっ!?」
「う……、げぇぇっ!!」

豊姫と依姫は胃に不快感を感じ、嘔吐を始めた。

二人の腹に繋げられたスキマからの逆噴射は無く、霊夢は順調に死に至る酒のお酌を最後の一滴まで行うことが出来た。










豊姫と依姫がゲロ塗れになって寝室で死んでいるのを、二人を起こしに来たレイセンが発見した。

ペットの兎の悲鳴は、紫と霊夢のアジトまでビンビン響いた。





アジト――綿月家の敷地内にある倉庫の一つから出た紫と霊夢は、しばし散歩を楽しんだ後、スキマに消えていった。










今度はどんな箱庭を作りましょうか――?

私、外のセカイのダイガクってとこで勉強したいわ。

外界の若人に聞かせたい台詞だわ。でも、何故に?

幻想郷以外の『舞台』で活躍して、紫を楽しませたいのよ♪

霊夢……(ジーン☆)

だ、だからさ。紫、何とかならないかしら……///

そうね……。ちょくちょく『境界』を越えてくるアッチの大学生がいたわね。

そいつ等を使うのね。

ええ。丁度二人いるから、殺して入れ替わりましょ♪

え? 紫も勉強したいの?

霊夢とキャンパスライフを送ってみたいのよん☆

うふふ、紫ったらぁ♪

くすくす♪



くすくすくすくすくすくすくすくすくすくす――。
くすくすくすくすくすくすくすくすくすくす――。




 
傍から見て下らなくても、情熱を賭ける物がある事は良いことだ。


2014年7月8日(火):皆様、拙作をお読みいただき有難うございました。頂いたコメントへの返事を追加いたしました。

>1様
はい、混沌です♪

>2様
正気じゃヤッてられませんぜ☆

>ラビィ・ソー様
乱世の激流では、流された石は苔むす事無くぶつかり合い砕けるのです……。

>5様
ゴミクズが魅せた、ゴキブリ並みのしぶとさ。

>ギョウヘルインニ様
酒の神に愛されたセカイですからね〜。

>まいん様
『博麗の巫女』はある種の制裁装置ですから、仕掛けるのには向かないんですよね。
今回の報復に特化した作戦は大当たり♪
外界の平和なキャンパスライフを謳歌する、前にも増してミステリアスな雰囲気をまとった秘封倶楽部であった☆

>あぶぶ様
冒頭の活躍で魔理沙がけっこう人気を持っていってしまったのは、作者も予想外でした♪

>穀潰し様
憎き相手だけど、ちと外道が過ぎたかな……?
幻想郷を捨て駒にした二人の友人が大人気とは……。

>pnp様
私のSS作成のモットーは、『愉快痛快爽快』ですから♪

>んh様
完璧超人の月人はデチューンしないとね♪
一応、冥界は幻想郷とは別のセカイとしていますから、向こうから仕掛けない限りは手出ししない建前になってます。

>県警巡査長殿
お前もその仲間に入れてやるってんだよー!
やったね、これで警部補に昇進だ♪

コホン……。

秘封倶楽部は最初に一人が入れ替わり、もう一人が違和感と恐怖を感じて――ってな事になるかも……。
NutsIn先任曹長
http://twitter.com/McpoNutsin
作品情報
作品集:
10
投稿日時:
2014/05/18 18:09:57
更新日時:
2014/07/08 00:43:31
評価:
11/13
POINT:
1080
Rate:
15.79
分類
産廃創想話例大祭B
綿月依姫
綿月豊姫
月からの侵略
蓬莱人殺し
幻想郷壊滅
ぎゃふん
八雲紫
博麗霊夢
ゆかれいむ
簡易匿名評価
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POINT
0. 60点 匿名評価 投稿数: 2
1. 70 名無し ■2014/05/19 04:39:46
カオスだなぁ。
2. 100 名無し ■2014/05/21 01:00:59
仕事から帰ってこんなイカれたものを見て
また明日も仕事に行く自分の境遇がイカれてるように思えてきたんだがw
4. 90 ラビィ・ソー ■2014/05/24 02:00:33
やはり戦争を起こさないためには人、モノ、時代の流れをゆっくりにすることと
相互依存を作ることですね。
5. 100 名無し ■2014/05/24 13:37:02
魔理沙の心意気
6. 100 ギョウヘルインニ ■2014/05/24 19:20:09
東方で一番強い武器はお酒なのかもしれませんね。
7. 100 まいん ■2014/06/04 21:40:14
霊夢に大義名分を与えたら徹底的にやるでしょうね。儚月抄だと侵略者側だから、やる気が出なかったですし。
その原因を作ったゆかりん、マジ人でなし。
お二人とも楽しいキャンパスライフをお過ごしください。
8. 80 あぶぶ ■2014/06/12 19:42:15
魔理沙が一番カッコ良かったな
9. 100 穀潰し ■2014/06/17 01:31:53
憎いはずの綿月姉妹をしばけたのに、全然すっきりしない不思議。
でも魔理沙とゆゆ様がかっこよかったからいいです(小並感)
10. 90 pnp ■2014/06/18 13:39:06
すごい爽快感
こういう派手な話を私も書きたいでごわす
12. 90 んh ■2014/06/20 19:57:54
やったー馬鹿な綿月だー
永琳は当然として主犯格の幽々子は真っ先に潰しとこうよ
13. 100 県警巡査長 ■2014/06/21 17:50:48
人が死んだんだぞ!!いっぱい人が死んだんだぞ!?(綿月姉妹を殲滅するとはいえ、かけがえのない犠牲を払った霊夢・紫に対して)
………という前置きはさておき。

霊夢と紫は次は外界へと進出しようと画策していますか。この後、あの゙二人の大学生゙がどのように絡んでくるのか…。
とりあえず、今自分に出来ることはお二人が外界に来る前にどこに雲隠れするか、霊夢と紫が運営することになるであろゔダイガグにどう入学するべきか両方を兼ねながら荷造りすることだと思いました。
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