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『秘封霖倶楽部1,2』 作者: ND

秘封霖倶楽部1,2

作品集: 10 投稿日時: 2014/06/06 17:18:10 更新日時: 2014/06/07 02:18:10 評価: 3/3 POINT: 300 Rate: 16.25
【八尺様】

とある村から発症した噂

八尺ほどの身長の女性であり、男の低い声のような『ぽぽぽ・・・』が特徴的の笑い声を出し、

その女性に魅入られると、数日のうちに取り殺されてしまう。という

特に、成人前の男性が狙われやすい。









とある噂を手に入れた。

なんでも、八尺様が住んでいる村があるというのだ。

だが、奇妙な事にその八尺様は男性でなく

特に女性が狙われる事が多いのだという。

『きっと、男の八尺様なのよ』

蓮子が、得意気に僕に向かってそう言った。

『まぁ、確かに・・・八尺”様”であって、”娘”でも”男”でも無いから、有り得ない話ではない・・・』

『そそっ!つまり、美人の私たちに出会う確率が高い・・・って話?かな?』

蓮子が、はにかんで僕の顔を覗く。

何故、今僕は現代世界の中で女子大生二人に付き添っているのかと言うと、

この世界での僕の肩書きは、とある大学に通う一介の学生・・・という事になっている。

理由は、宇佐見蓮子、マエリベリー・ハーン(通称メリー)は、幻想郷を超える可能性を秘めている力を持っている・・・と、

胡散臭い紫の言葉から、強制的に監視を求められており、それに僕が選ばれたのだ。

決して燃料費の滞納で押し付けられたのではない。絶対にない。

『でも、男性の犠牲者も少なからず出てるって聞きますし・・・もしかしたら霖くんも可能性が・・・』

『大丈夫だって!霖くんは強いんだから!ね!?霖くん!』

いや、勝手に決められても

『・・・どちらにせよ、このバスはその村の近くまで向かっている・・・のだろう?ならばもう逃げ場は無い。危険が迫れば、それなりの力は出すさ』

『おっ!おっ!頼りになるね〜霖くんは』

蓮子は凛凛と嬉しそうに僕の肩を叩いた

痛い。

ちょっと・・・叩きすぎだこいつは

『う〜ン・・・本当に大丈夫なのかな?この村』

『大丈夫?だったら困るの!八尺様をビデオに収める事、それが私たちの使命なんだから!』

『八尺様に魅入られたら死ぬのだろう?ビデオに収めてどうするつもりだ?全校生徒に公開するのか?死者が激増だな』

『そうなったら、さすがに八尺様も忙しくて諦めるだろうから、それは視野に入れるつもりだよ〜』

マジでか

こいつは大量殺人犯の素質があるのかもしれないな。

いやはや、サイコパスか?

どちらにせよ、普通の人間とは少しズレた考えをお持ちのようだ。

《次は〜・・・せいうしによし〜・・・せいうしによし〜》

『あっ!もすぐ付くわよ!荷物持ちなさい!』

目的地が近づき、蓮子は嬉しそうに飛び上がった。

しかし・・・目的地の村も変な名前だ。

生牛二義村・・・など、バラバラに漢字を繋げたような

見るだけで気持ちの悪い名の村だ。この名の村には留まりたくないと、心の内でため息を吐いた。









【村の下宿所】

『うっわ〜・・・・・・明らかに鎌倉っ!って感じだねぇ〜・・・』

下宿所にたどり着いた僕たちは、玄関先で主人を待った。

家の中は、幻想郷の一般住民の住居よりも少しだけ大きいと言った感じの家だ。

悪くないと僕は感想を思ったが、彼女たちは少しだけゲンナリしていた。

『あっ携帯繋がらないよ〜・・・』

携帯の電波が繋がらないと知ったメリーは、落胆するようにため息を吐いた。

『うわ本当だっ!バリゼロじゃん!』

蓮子も、それを見て驚きを隠せないでいた。

その声を聞いたのか、主人は奥の部屋から顔を出し、

僕たちを見つけて、笑顔でこちらに近づいてきた。

『おやおや、客人かい?いらっしゃい』

『ああ、どうも初めまして。僕たちは旅の者なのですが・・・』

『何?その時代劇の流浪人みたいな言い方』

蓮子がジト目で僕を見つめる

『旅の者?嬉しいねぇ。最近、この村に客人なんて来なかったから、困ってた所なんだよ。』

『ふーん?八尺様を見にここまで来る人とかで、結構居そうなんだけど・・・』

『ははは。まぁそれもそうなんだけどねぇ』

主人はおおらかな人であり、少しばかり態度の悪い蓮子に対しても笑顔で迎えていた。

『まぁここで話すのもなんだから、上がって上がって。』

『あっ!じゃぁ、おっじゃまっしまーす!』

蓮子は、その言葉を聞いて、靴を脱ぎ始め、そして上がっていった。

いつもよりテンションが高く、僕は少しばかりため息を吐いてしまった。

いそいそと、僕とメリーも靴を脱ぎ、床の上へと上がり、荷物を置いた。

『あっそうそうおじさん!八尺様について教えてよ!』

荷物を置いてくつろいだ蓮子は、凛凛とした顔で主人を見る。

主人は、多少苦笑いをしてその質問に答えた。

『はは・・・。まぁ、今やそれだけが、この村の取り柄になっているからねぇ・・・』

皮肉混じりの声で、主人はそう呟いた。

『そうだよ・・・。この村は、八尺様が居るんだ。』

そう言って、奥の部屋へと向かって歩き出した。

『男の子も女の子も、たくさんの人が八尺様に魅入られて取り殺されてしまった。』

『おお・・・・・・・・・』

『わしらもなんとかしようと努力をした。そのおかげで、今は八尺様に魅入られても無事でいられる方法を思いついた。』

無事でいられる方法?

『へぇー。それ何?』

『村の奥にある、蔵の中に一晩閉じ込めるんだ。そして朝が来て、連れて行かれてなかったら、私たちの勝ち。蔵の中が蛻の空だったら、私たちの負けって事さ。』

主人は、笑顔でその話を話していた。

『実際、助かった人は今どこに?』

『さぁ・・・どこに居るんだろうねぇ。それは私たちは分からないよ。はははは』

やけに上機嫌の主人は、奥の部屋へと入っていった。

『・・・なんだか、嬉しそうだね。あの人』

『久しぶりのお客さんだからじゃない?それよりも、今日の夜、捜索よ』

『・・・・・・明日じゃないのかい?今日はもう遅いよ』

『遅いからこそ!今日なのよ!文句言うなら縄で縛り付けてでも連れて行くわよ!』

なるほど、僕に是非は無いのか。

『でもその前に・・・』

蓮子の腹の音が鳴った。

その後すぐに、メリーの腹の音が鳴った。

メリーの顔は、赤く染まっていた

『・・・・・・・・・まずはご飯食べないとね。』






十分後、主人がご飯を作り持ってきた。

『んっっまぁぁぁぁぁい!!なにこれ!すっごい美味しい!』

出されたのは、何の変哲もない豚汁、白米、生姜焼きだった。

『本当・・・こんなの初めて・・・ほっぺたが落ちそうです・・・』

料理の美味さに感激し、二人は急ぐように飯を食べていた。

『・・・・・・・・・』

僕は、この世界でも飯は食べなくても生きていけるため

そこまで食欲は湧かなかった。

肉料理も、せめて酒があればなぁ・・・と思い、今はまだ見つめているだけだ。

そもそも、生姜の匂いはそこまで好ましくない。

『あれ?霖くんいらないの?もらい!』

『あ』

そうもたもたしているうちに、蓮子に生姜焼きを取られた。

『おい、勝手に・・・』

そんな事しているうちに、メリーは僕の豚汁に手を出していた。

『・・・・・・・・・・・・』

結局、今日の僕の晩御飯は白米だけだった。










【村の中心部】

『よーし皆!今から八尺様を見つけるわよー!!』

そう、大声をあげて蓮子は意気込んだ。

『おー!』

『おー・・・』

『おっおー!』

『ちょっと霖くん!返事が小さい!』

うるさい

勝手に僕のおかずを取ったくせに

『・・・・・・まぁ良いわ。まずは聞き込みからよ!』

聞き込み?

『むやみに探すのでは無いのか?』

『そんなの効率悪いじゃない。ある程度、情報を取っても損は無い!』

なるほどな。

それは”一般人”か”場所”を探すときに用いる捜索方法だ。

”妖怪”を”現代社会”で探すとなると、ほとんど意味の無いように思えるが

その事を、おかずを取ったこいつらに教える義務は無く、言わない事にした。









そしてある程度聞き込みを始めたところ、

『ああ、確かに現れるって聞くね。どこら辺に現れるかって言われても・・・分かんないけど』

『八尺様?ああ。確かに見かけるとは言われるねぇ。前に俺も見たことあるし。まぁ頑張ってね』

『おお。お前らも八尺様を見つける為に来たのか。懐かしいなぁ。本当に背が高いんだぜ。期待してるぜ』

ほとんど、”頑張れ”とか”見かけると聞いた”くらいしか情報が無く、意味が無かった。

それはそうだ。当たり前だ。

うんざりしながら、僕は花壇に座った。

本当に現れるのか分からない。

現れないかもしれない。

出てくるはずがない。と

そんな事を考えて、ため息を吐いた。

しかし、どうにもこの村に来てから違和感がある。

問題は、何も無い。

そう、何も妖気を感じないのだ。

もしかしたら八尺様は

幽霊か、それとも人間なのか?

いや、八尺もある人間が存在するはずない。と

自分に言い聞かせても、この現状が混乱するだけだ。

この村には、何かがあるのだろうか。

八尺様は、何者なのだろうか。

『・・・・・・・・・・・・』

そんな事考える内に、目の前に少女が居た。

その少女は、年齢的に言えば魔理沙くらいの年だろうか。

容姿も、目の色もどこか、魔理沙に似ていた。

じっと、僕の姿を見つめていた。

『・・・・・・どうかしたのかい?』

そう言った瞬間、少女は僕にめがけて石を投げつけた

『痛っ!』

いきなり起こった理不尽に、僕は怒りと焦りを出すことも忘れて、呆然と少女を見つめていた。

『出てけ』

少女は、辛辣に、そして冷たくそう言い放った

『・・・・・・・・・はぁ?』

『今すぐ出てけ』

『・・・・・・・・・』

どうやら、僕たちは嫌われたらしい。

僕はため息をつきながら、少女の言葉に反論した。

『・・・・・・悪いけど、僕たちは八尺様を探しに来たんだ。不本意ながらも、それを見つけないと連れが騒ぐのでね・・・』

『この村に八尺様は居ない』

・・・・・・・・・本当にこの子は

実のところ、本当に八尺様がいないのなら良いのだが、

目撃談が多発するこの村の中では、少女の言葉は嘘にしか聞こえない。

『そうか、・・・ならば帰りたいところなんだが・・・』

『・・・・・・・・・・・・』

少女は、表情を変えずに

すたこさらと、僕に背を向けて走り出した

『・・・・・・・・・何なんだ?』

少女の姿が見えなくなるとともに、少女の言葉について考え始めた。

《この村に八尺様は居ない》

確かに、この世界は幻想郷ではなく現代社会であり、

妖怪幽霊などはオカルトという類に含まれ、ほとんどの者は信憑も糞の無い扱いだ。

クトゥルフ神話でもあるまいし、そう簡単に幽霊や妖怪が現れることが約束されてるわけでもない。

だが、

”八尺様が居ると言われる原因”はどこかしら存在する筈なのだ。

その原因の片鱗でも見つけない限り、僕も帰るつもりはない。

そんな事を考えてるうちに、目の前に少女二人が居た。

蓮子とメリーが、眉間に皺を寄せてジト目で僕を睨みつけてる。

『コンニャロー!霖之助ー!!』

『ぎゃー!』

『一人だけサボリやがって!コンチクショー!!』

僕は彼女二人に頭グリグリ攻撃を喰らわれた。

結局今日は、何の収穫も無かった。









【村の中心部】

翌日

美味な朝食を食べ終えた僕たちは、村の外へ再び探検に行った。

蓮子が言うには、八尺様は夜だけでなく昼の目撃談も存在するのだという。

『というわけで、今日もビデオカメラを持って捜索開始!』

そう言って蓮子は元気よく、村の中へと飛び出した。

いや本当に元気が良い。

勢い余って田んぼに両足突っ込んでいた。

『ぎゃーす!!』

足が泥だらけだ。




結局蓮子は、靴下と靴を水で洗い、今日一日は草履で過ごすことになった。

『うへぇ・・・カッコ悪〜い・・・』

『わがままを言うな。お前が悪い』

僕がそう蓮子に言うと、蓮子は僕を睨みつけて、クスクスと笑った。

『おやぁ?霖くんは私のような美脚に興味があるのかい?』

『・・・・・・・・・・・・』

どうやら、自然と彼女の足を見つめていたようだ。

『ほう、まずは足についた泥を全部落としてから言うんだな』

『ぶー!!』

そう返すと、蓮子の顔は膨れて不機嫌な表情となった。

さて、調査を開始しよう。

僕は彼女たちと違って、八尺様の”証拠”なのだが。

本当に八尺様が居るとは考えられない。

し、

『くっそー!どこにいやがんのよ八尺の人間ー!!!』

調査から一時間後、早くも蓮子は駄々をこね始めた

正直に言って、実際に八尺の身長を持つ人間が居るとは考えづらい。

もっと別の焦点を見るべきだと言いたかったが、彼女がそんな事聞くかどうかは分かっていたので聞かないことにした。

『痛っ!!』

突然、頭に石が当たった

『だっ大丈夫!?霖くん!?』

石を投げられた方向を見た。

昨日のあの子だ。

『・・・・・・・・・・・・』

今度は、蓮子の方をじっと見ている。

『お〜ま〜え〜かぁ〜!!霖くんに石を投げつけたのはー!!』

怒りの表情を少女に見せていた。

正直大人気ないと思っていたが、少女は眉一つ動かさずただ見つめていた。

『出てけ』

『・・・・・・ああん?』

予想通りの展開と、

予想通りの蓮子の返事だった。

『・・・ほっほーう。この淋しい村にわざわざ来てあげた客に対して随分、偉そうないい口ねぇ〜?』

『お前の方が偉そうだぞ』

『シャラップ!霖!』

ダメだ。こいつ頭に血が上りかけている。

『とにかく!私は八尺様を一目見るまでは出て行かないわよ!!アンタが何を言おうとね!!!』

一目見ても帰らないつもりだな。

『・・・・・・・・・っ』

次に、石を拾い、蓮子に投げつけた

『出て行け!!』

そして、その石がどこまで飛んでいくのか見送ることもなく、すぐさま退散した。

『きゃっ!』

その石は、蓮子に当たらず後ろの田んぼに落ちていった。

『こっ・・・このクソガキィイイイ!!!』

完全に頭に血が上った蓮子は、少女に向かって手を広げて追いかけようとした。

だが、僕はそれを許さず、蓮子の肩を掴んだ。

『ぐあっ!何するのよ!』

『今は八尺様を探すんじゃなかったのか?』

『今はあのガキを追いかける!』

『良いから落ち着け。』

僕は、蓮子の頭に軽くチョップした。

『あひん』

『そんなに取り乱してたら、八尺の人間も見落とすだろう。ちゃんと前を見据えて歩いた方が良いぞ』

そう説教すると、蓮子は頬を赤らめて僕を睨みつけた

『・・・・・・霖くんの癖に正論なんて・・・生意気よ』

『正論ではなく、ただの忠告だがね。』

そう言って、僕は蓮子から離れて自分なりの捜索を始めた。

『ちょっとどこ行くのよ』

『分かれて探す方が早いのだろう?ならば二手に分かれる方が得策なのではないか?』

メリーは、とっくにその方法を取って、今はどこか遠くで探している。

・・・・・・正直少しだけ不安だが

『・・・かよわい女の子が一緒にいてあげても良いと思ってるのよ?二人っきりよ?なんにも思わないの?』

『どこにかよわい女の子が居るどこに』

瞬間、駆け足が後ろからどんどん近づき

ドロップキックの衝撃が僕の背に直撃した

『モルスァ!』

吹っ飛ばされ、顔面を地に叩きつけられ

『ふんだ!』

不機嫌となった蓮子は、僕からズカズカと離れていった。











【大井戸広場】


とりあえず僕は、少女を探すことにした。

どうして、僕たちに”出て行け”と言うのか、気になったからだ。

僕たちの何が気に入らないか。

もしくは、ただよそ者が嫌いなだけか

それが分からず、気持ち悪いだけかもしれない。

が、一番に考えているいことは

『あの娘は何か知っているかもしれない』

という、希望だった。

逃げた方向を追うと、少女はこの先に逃げたはずだ。

向かった先に、少女は確かにいた。

『・・・・・・』

井戸に座り、たまにチラリと井戸の中を見ながら

感慨深く、少女はうつむいていた。

『・・・井戸に、何かあるのか?』

僕がそう質問すると、少女はビクリッと動物のように反応した。

『・・・・・・まだ出て行ってなかったの?』

『彼女を怒らせたせいで、益々村から出るに出れなくなった。』

そう告げると、少女は『あっそ』と興味なさそうに答えた。

『・・・・・・どうして、僕たちを追い出そうとしているんだい?』

そう質問すると、少女はうつむきながら

『・・・・・・』

何も、答えなかった

困ったな、まだ心が開けてないか

僕は、少女と顔と同じ高さに顔を見せるように座り込んだ。

『僕たちはそんなに怖い人間じゃない。何も取って食おうとはしないさ。』

『・・・・・・』

少女は、何も答えない

『・・・そうだ、自己紹介をしよう。僕の名前は森近霖之助。君は?』

『・・・・・・』

やはり、何も答えない

『それとも、よそ者に何か不安な事でもあるのかい?』

『あるよ』

少女は、即答した

『ある。すごくある』

少女は、必死に何か答えたいように僕の目を見てそう言った。

『・・・・・・・・・・・・』

僕は、少女の目を見ながら

『そうか。』と返答した。

『それは、僕たちに言える理由かい?』

『・・・・・・・・・』

少女は黙って首を横に振った。

どうやら、言えない理由のようだ。

話題を変えよう。

『・・・君は、この村の外を見たことがあるかい?』

そう質問すると、少女は

目の色を変えて答えた。

『ある!』

それは、とても嬉しそうな目だったが、

はっとしたように、すぐに元に戻り、無表情のままとなった。

『・・・・・・・・・そうか。』

僕は、できる限りの事、知っている範囲の事を彼女に教え

僕も興味を持っている話題を取り上げながら、話し合ったりした。

少女は興味を持ち、次第に僕に質問をしたり、自分の考察や見解を教え合ったりした。

この年齢の少女には難しい話題だったかもしれないが、

次第に少女の表情は柔らかくなり、笑顔になった。

『やっと笑ったね』

僕もそう微笑み返すと、少女の顔は真っ赤になった。

『うっ・・・うぅ〜・・・・・・』

うつむき、顔を隠していた。

そして、どこか切なく悲しい表情になった。

『・・・・・・それでも、やっぱり僕たちは出て行った方が良いかい?』

『うん。出て行って』

即答だった。

まだ、僕たちを警戒しているのか、

それとも、

『僕たちが、殺されないために?』

八尺様に、出会えないようにするために?

僕がそう言うと、少女は

コクリと、頷いた。

『・・・・・・じゃぁ、やっぱり八尺様はいるんだね?』

『・・・・・・・・・居ない』

少女は、しばらく間を置いて答えた

『じゃぁ、僕たちはどうして・・・』

『居ない。居ない!居ない!!!居ないったら居ないの!!!』

そして、再び石を拾って僕に見せつけた。

『出てって!出てってよ!!早くこの村から!早く!!!!』

少女は、石を持って僕に見せつけていたが

『・・・・・・・・・・・・』

結局、僕に投げつけるという事はしなかった

『麻耶!!』

そして、少女の母親らしい人物がかけより

少女を捕まえるなり、ビンタをした。

『馬鹿!またお客さんに石を投げつけて!!出て行けなんて・・・何考えてるの!!』

そしてその女性は、僕の顔を見るなり笑顔になった。

『ごめんなさいね。この子、人見知りが強くて・・・ほら、行くわよ麻耶』

『・・・・・・・・・・・・・・・』

麻耶という少女は、その女性に対しての恐怖と、悲しみの表情をしながら、僕を見つめていた。

『・・・・・・霖之助・・・』

声が、怯えと切なさで震えていた。

八尺様

この村の八尺様には、一体どのような秘密があるのだろうか。

その存在は、この少女をここまで恐怖に陥れるものなのだろうか。

『きゃぁぁああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!』

瞬間、メリーの絶叫が村に響いた。

『・・・・・・!』

僕は、気づいたら叫び声のする方向へと走っていた。

メリーの身に何かがあったのだ。

それが確実だとわかった僕は、全力を上げて走り続けた。






【村長の家付近】

『メリー!どうしたの!?ねぇ、どうしたの!?』

蓮子は、メリーにしがみついて必死に声をかけている

だが、メリーは恐怖に震え、口をパクパクしているだけだった。

『は・・・・・・はは・・・・・・』

手にはビデオカメラ。

まだ、録画中のボタン表示があった。

『はち・・・・・・八尺・・・の・・・』

『八尺・・・・・・八尺様?』

蓮子は、すぐさま聞き返す。

すると、メリーは猛烈に首を縦に振った。

『背が・・・背が高くて・・・・・・顔・・・顔は・・・・・・・・・』

メリーの叫び声を聞いた村人は、すぐにここに向かってきていた。

『どうした!?おいどうしたんだ!?』

『八尺様よ!八尺様が出たんだわ!!』

蓮子は、必死に状況説明をしている。

すると、村人は

『分かった、ではすぐに蔵へと運ぼう』

と言って、メリーの腕を担ぎ、歩き始めた。

『待って!』

蓮子は、メリーに近づき

ビデオカメラを、剥ぎ取った。

『・・・・・・メリー。大丈夫?』

顔面が蒼白なメリーは、よほど恐ろしい者を見たのだろう。

狂っていると言っても良いほど、ガタガタと震えていて、表情が引きつっている。

『おい』

『ん?』

『蔵で・・・・・・蔵で何をするつもりだ?』

そう質問すると、村人は表情を一つ変えずに答えた

『一晩中、蔵の中に閉じ込めるんだ。八尺様が諦めるまでな。明日、陽が昇るまではかかるだろう。』

その言葉は、一つ一つ

まるで、慣れているような口ぶりだった。

『・・・以前にも何度か、目撃されてたりするのですか?』

『ああ。まぁな。』

そう言って、村人はメリーを担いで蔵まで連れて行った。







【蔵】

その蔵に近づいたとき、異臭に気づいた

『・・・・・・・・・っ!!』

妙な匂いがする。

個人的に、強烈な嫌悪感を催す悪臭だった。

『うっ・・・・・・』

蓮子も、同じように嫌悪感を感じたようだ。

本当に、この中にメリーを一晩も置いといて大丈夫だろうか。

膨大な不安を装いながらも、僕たちは

今は昼時だというのに、真っ暗な蔵の中へと連れて行かれるメリーを見送った。










【村の下宿所】

メリーの持っていたビデオカメラは、

今、俺たちの手の中にある。

『一体、何が映ってたんだ?』

メリーが”見た”という八尺様

それを、今僕たちが鑑賞しようとしている。

彼女が”見た”という八尺様

恐らく、今の心情は蓮子と僕とは違うだろう。

蓮子は恐らく、純粋に八尺様の有無を確認したいだけであり、

僕は、麻耶の言っていた言葉の全てが引っかかり、

何かの手がかりを見つけるみたいな心情だ。

『ここら辺・・・だよな』

そして、ついにビデオカメラの映像は

メリーが倒れていた”村長の家の付近”を映した。

『ここから・・・だよね・・・・・・』

そして、メリーが倒れた場所

そこの場所へと、移動し、向かおうとしたとき

『!』

長い髪の毛が、カメラの端に撮された。

メリーはその瞬間を見逃さず、すぐさまカメラを髪の毛の方へと向けた。

そこには、

『八尺・・・・・・・・・』

背が異様に高い女性

関節がおかしい女性

明らかに、人間の形をしていない女性

顔が、髪の毛で見えない女性

メリーは、髪の毛の向こうの顔を見たのかもしれないが。

『ひっ・・・!』

その不気味さに、蓮子は少したじろってしまった。

『!』

次に、ビデオカメラから絶叫が流れた。

メリーの叫び声だった。

次に、ビデオカメラと共に尻餅したためか、軽い衝撃と共に一瞬砂嵐となった。

メリーが恐怖で喘ぐ声が、次に淡々と流れる。

駆け足が近づく。僕か蓮子が駆け寄った時の足音だろう。

『・・・・・・・・・・・・』

恐怖というのは、不思議と感じられなかった。

むしろ、この異様な女性に妙な興味を持った。

おかしい。確かにおかしい。

おかしいのだが、

何かが・・・・・・格段におかしい。

もう一度巻き戻しをして、その女を見てみた。

人間の形をしていない。まるで無機物のようだ。

人間でも、妖怪でも無い。物体

これが、八尺様なのだろうか。

『顔は・・・どうやっても見えないのだろうか・・・』

髪の毛と影で、顔は真っ暗である。

PCで光加工でもすれば、少しは見れるだろうが、

この村にはおそらく、いや絶対にそういった機械類は存在しないだろう。

まいった。

一度・・・メリーを連れて村から出て行くべきか

『・・・・・・・・・』

先ほどから、蓮子が大人しくなっている。

『・・・どうした?念願の八尺様を映像に捉えたのだぞ』

『・・・・・・・・・』

顔面が蒼白である。

俯いたまま、震えた声で僕に問いかけた。

『私たち・・・・・・取り返しのつかない事をしたのかな・・・』

『・・・・・・ここまで連れてきたのは君だろう。』

本当に、八尺様を見つける事を心まで願ってなかったからなのか、

それとも、後になって自分のやった愚かさが後ろめたくなったのだろうか、

蓮子は、分かり易い程にも怯えていた。

『・・・・・・・・・霖くん』

蓮子は、黙って僕のとなりに移動し

そして、僕の手を握った。

『・・・・・・メリー・・・大丈夫かな?』

僕の手を握ったその手は、

汗で濡れていた。

『・・・・・・・・・』

大丈夫

なのか?

あの、八尺様を見る限り

多くの疑問がよりかかる。

その疑問を考えれば考えるほど

このままでは、良くない気がする

『・・・・・・見に行ってみるか?』

そう言って、僕は蓮子に尋ねると

『近くに、八尺様が居るかもしれないのに?』

『居るかもしれないのにだ』

僕がそう言うと、蓮子は考え

そして、僕の目を見て

『・・・・・・・・・』

ただ、黙ったまま、迷っていた。

蓮子が迷っているうちに、


カンカンカンカンカンカンカンカン!!!!!!!!!

と、音が聞こえた

『火事だ!蔵が火事だ!!!!』

『!?』

蔵が火事

確かに今、外の者たちはそう言った。

『行くぞ蓮子!!』

僕は蓮子の手を握って

下宿所を飛び出し

メリーが閉じ込められた蔵まで駆け抜けた






【蔵】

『・・・・・・!』

蔵は、火で燃え広がっていた。

それは、火という文字で収まるものではない。

業火と言えば、納得できるほどの巨大な炎だった。

『メリー・・・メリー!!!!』

蓮子が、必死の形相で業火の中に居るであろうメリーに向かって叫んだ。

『蓮子!』

そして、業火の中に飛び込もうとして駆け抜けると、

『!』

巨大な炎が吠えるように、蓮子を襲いかかろうとした

『嫌・・・嫌ぁぁああああ!!!』

『・・・っ!!』

僕は、傍にあったバケツを取り出して

それを自分にかけて、火の中に飛び込んだ

『霖之助ぇええええ!!!!』

蓮子が後ろで叫んでいる。だが、今は返事をする余裕は無い。

『メリー!どこだ!返事をしろ!』

燃える瓦礫を蹴飛ばし退かしながら、彼女の姿を探した。

だが、叫んでも叫んでも、業火の悲鳴にかき消されてしまう。

『メリー!!おい・・・メリー!!』

返事が無い。

いや、返事が聞こえないのか

『・・・・・・ぅぅ・・・』

『!』

彼女の呻き声が聞こえた。

僕は彼女の近くにまでいたのだ。

『メリー?』

そして、彼女の姿を見つける事ができた。

彼女は、下半身が燃える瓦礫の下敷きになっていた。

『・・・・・・!!』

僕は、すぐさま瓦礫を掴んだ

『ぐぐっ・・・ぐぅっ・・・・・・!!』

燃える瓦礫は、僕の手のひらの皮膚を焦がした。

火事場の馬鹿力だろうか、手のひらの皮膚を犠牲にした結果

瓦礫をメリーから引き剥がすことができた。

『大丈夫か?』

『・・・・・・うう・・・・・・り・・・りん・・・くん・・・・・・』

メリーは、泣きながら僕を見つめた。

脚を見てみると、青黒く晴れていた。

これでは、歩くことが出来ないだろう。

『・・・・・・・・・っ』

僕は、すぐさまに彼女を担いだ。

手のひらの皮膚がほとんど無くなっているからか、メリーの脚に血をつけてしまった。






『蓮子!!』

火の中から脱出すると、ビショビショの蓮子が目の前にいた

『霖之助・・・霖之助ぇ!』

蓮子は、涙で顔を歪ませながら、僕に抱きついた。

『今は早く行こう!どこか近くで手当てを・・・!』

その時

《ぽぽぽ・・・ぽぽ・・・》

声がした。

いや、音だろうか。

酷く低く、何者かの声かどうかは耳だけでは認識できなかったが、

それが、【見てはならない者】だということは、すぐに分かった。

『振り向くな・・・・・・逃げるぞ・・・・・・』

僕は、メリーを担いだまま逃げることができるだろうか。

蓮子は、ちゃんと逃げ切れるだろうか。

そんな事しか、考えられなかったが、

無意識に、そして大きく考えたのは

【捕まったら終わり】だという事だ。

『ああ・・・ああああああああああ』

蓮子は、僕にしがみつきながら、僕と同じ幅で走った。

これでは走りづらい。

『蓮子、離れてくれ・・・。でないと・・・』

『嫌・・・嫌・・・!!』

蓮子は、更に怯えていた。

当然だろう、後ろに異常な物体がいるのだ。

怯えないわけがない。

とにかく、今はこの村から逃げよう。

逃げて、逃げて、逃げて、早く逃げて

『逃げて!!!』

少女の声が聞こえた。

横に、麻耶が僕たちと共に駆け抜けていたのだ。

『麻耶・・・』

僕が、彼女を見て思ったことは、

”どうして彼女がここに居たという事か”

だ。

『村の出口・・・そこまで走って!』

メリーを担ぎ、怯えてる蓮子にしがみつかれて走る僕たちよりも、

麻耶の方が、足が早かった。

『霖之助・・・』

蓮子は、僕から離れようとしない。

僕を置いて、メリーを置いて逃げようとしない。

僕を頼りにしているのか、それともしがみつく所が欲しいのか

『おーい!!』

村人たちの声が聞こえた。

『何してる!!早くこっちに戻れ!!』

村人たちは、必死の声で僕たちにそう叫んだ。

振り向くと、僕は

見えた


八尺ほどの身長の、不気味な女性の顔が


『・・・・・・・・・・・・っ!!!』

妖気は感じない。

力は感じない。

だが、なぜだろうか。

僕の防衛本能が、『逃げろ』と言って聞かないのだ。

やばい。

あれは、やばい。

直感で、何か得体のしれない何かを感じた。

顔は

あの顔は





『こっち!!』

僕は、逃げた

メリーを担ぎながらも、手のひらの痛みに耐えながらも

ただ、がむしゃらに走り続けた。

《ぽぽぽ・・・ぽぽぽぽぽぽぽ》

後ろで、八尺様が追いかけてくる

『戻ってこい!!取り殺されるぞ!!!』

村人が、昼の時とは考えられないくらい、

余裕が無い。そしてかなり必死な様子で叫んでいる。

《ぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽ》

『おい!!戻ってこいって言ってるだろうが!!おいっ!!!!』

《ぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽ》

『お前ら三人、もう魅入られてるんだ!!!!』

ぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽ


早くこっちに来い取り殺されるぞ八尺様はもうお前らを魅入ったんだ今ならまだ早いこっちに来るんだ死にたくないだろおい待てよ待て止まれ止まれよああああああああ止まれ殺されるぞ止まれ止まれよあああああああああ早く死んでしまうぞ止めろ村から出るんじゃない逃げるなおい逃げるなよ八尺様は追いかけてくるぞずっと追いかけてくるぞああああああああああああ


『嫌ぁああああああああああ!!!』

蓮子が叫ぶ

メリーが苦しみで喘ぐ

まだか

まだ、後ろは追いかけてくるのか

『振り向かないで!走って!!』

今や、麻耶の言葉しか耳に入らない。

麻耶の言う通りで本当に良いのだろうか。と疑問に思いながら

僕たちは、村の外まで逃げた。

逃げた。逃げ続けた

後ろで村人が追いかけてくる八尺様が追いかけてくる僕たちを求めて追いかけてくる

僕は。もう一度八尺様の顔を確認するために、振り向く




やっぱり、それは・・・生きた人間の顔では無かった。






【村の外れ】

気がつけば、もう誰も追いかけてきてなかった。

一面、ずっと田んぼが見える光景

もう麻耶も居ない。

必死で走り、走り抜けて、たどり着いた出口で

『また、会おうね』と言われたきり・・・別れたままだ。

その時の麻耶の笑顔は、どこか切なさ気を感じた。

見上げた時に見えた空は、憎い程に星空が綺麗だった。

『・・・・・・・・・・・・』

僕たちの間に、会話はない。

一度、メリーは状況を確認をするために、後ろを振り向いたのだという。

その時、酷い村人の形相と、八尺様の姿を見て・・・気絶してしまった。

蓮子は息切れと言った感じだった。

恐怖と隣り合わせだったからか、息遣いが荒い。

涙のしゃっくり声も混じりに聞こえる。

『・・・・・・あ』

蓮子は、思い出したように顔を上げた

『・・・カバン、村に置いてきちゃった・・・』

『・・・・・・・・・・・・』

当然、戻るつもりはなかった。

今戻ったら、確実に取り返しのつかない”何か”を奪われるだろう。

『・・・・・・霖くん・・・』

しばらく大人しくなったと思ったら、

また、僕に声をかけてきた。

『まだ・・・・・・オカルト研究部で居てくれる・・・よね・・・?』

『・・・・・・・・・』

僕は、呆れてしまった。

それは、こっちのセリフだと。

今回の事で、僕たちは”死”と隣合わせとなったのだ。

蓮子は、今回の事でオカルトの本当の恐怖を知り、身を退くと思っていたのだが

『今回は・・・確かに怖かったよ?トラウマにもなりそうだし・・・。いや、なってるし・・・。でもね、私・・・この研究部は・・・』

泣きながら、僕に訴えるように言っていた。

『・・・・・・ごめん。ごめんね・・・霖くん・・・』

最後に、蓮子は謝った。

『・・・僕は、辞めるつもりはないよ。』

少なくとも、僕は君たちの監視を任せられている。

何があっても、辞めるワケには行かないのだ。

『まだ、気になることがあるからね』

そう、僕は彼女に言った。








その後、30分程歩いてようやく宿屋を見つけ

そこで電話を借り、救急車を呼んでもらった。

携帯は、使えないと知ったとたん直ぐにカバンに入れてしまったから、無いのだという。

10分程して僕とメリーは病院に運ばれ

一旦治療を受けたあと、家路についた。







三日後

『さて、三日前に行ったあの村の話なのだが』

僕は、早速あの話題を部室の中で持ち出した。

『ああ。あの八尺様のね。あの映像を友達に見せたら、泣くほど怯えてたわ。』

蓮子はすっかり治っていた。若干余裕が見える。

メリーは、あの村の話を聞いた途端、落ち込んでしまった。申し訳ない。

『その八尺様については謎がまだあるが、一つだけわかったことがある。』

『・・・・・・なによ、分かったことって』

『顔だ』

顔と聞いた瞬間、メリーは小さな悲鳴を上げた。

僕はPCを立ち上げ、光加工したビデオカメラの映像を見せた。

『・・・・・・ん?何これ顔・・・・・・妙な形してる・・・』

『君は、怯えて八尺様の顔を見なかったから分からないが、』

『うぅっ』

僕は、この八尺様の顔を指差して答えた

『僕が見たとき、この顔には目と鼻が無い。』

『・・・・・・・・・』

『当然、髪の毛の凹凸具合から耳も無いとわかる。』

『・・・妖怪だから、ある程度は人間離れしても可笑しくないんじゃないの?』

『いや、そうとも限らない』

そもそも、僕はそんな妖怪を見たことがない。

妖気も全く感じなかったが、それを言うとややこしくなるので、言わないでおこう。

『それに、逃げるときには八尺様は、村人と共に僕たちを追いかけていた。』

『そりゃぁ理由は違えど、どっちも私たち追いかける側なんだから当然じゃないの?』

『そうじゃない。”どっちも同じ方向から僕たちを追いかけていたのだ。”』

そう言うと、メリーは顔を上げて僕の顔を見た。

『どうして村人たちは、八尺様が見えなかったのか分からないか?』

『そりゃぁ・・・魅入られて無いからじゃないの?』

『いや、”見えなくてはおかしかった。”それは間違いない』

蓮子は、僕の言っている事が分からないようだ。首をかしげている。

『聞き込みをしてる最中、村人のほとんどは”八尺様を見たことがある”ような返事をしたんだ。』

『・・・・・・除霊とか、蔵の中に閉じ込められたりとか・・・したんじゃないの?』

『いや、それはそれで”何故、すぐ近くに居る八尺様から逃げないのか”という疑問が生じる。』

メリーは、ちょっと控えめに手を上げた。

『どうしたの?メリー』

『あの・・・私も気になることがあるんですけど・・・』

メリーは、そう言って僕たちに意見を出す

『私・・・蔵の中に居る時に、あのぽぽぽ・・・って声と、包丁が研がれる音・・・生臭い匂いがしたんです。』

『八尺様が・・・待ち受けていたのね』

『だけど・・・村から離れたとたん・・・今の今まで、八尺様の姿は見かけないし、現れもしないんです。』

『つまり、八尺様はあの村から離れられないという事か。』

そしてもう一つ

気になることは、たくさんある。

蔵のあの異様な匂い

麻耶が気にしていた井戸の中

そして

『あの少女は・・・一体何を知っていたのだろうか。』

火事の原因は、おそらく

『あ・・・。そういえば火事になる前、あの子がマッチを持って何本も擦って火をつけていました・・・。』

『何がしたかったんだろ・・・』

そうだ。まだ疑問だらけだ。

あの謎は、まだ全て終わっていない。







【バス】

後日、ある程度の武器と除霊グッズを持って

僕たちは、あの村へと向かった。

提案したのは蓮子だった。

あの村は、噂によると廃村になったのだという。

ならば、あの村の謎を解明する為にもう一度向かおうと言ったのだ。

・・・・・・その提案者は、今や胃腸炎でお休みなのだが。

せめてビデオカメラで映像を収めて、謎を解明だけでもさせてやろう。

正直、僕も興味があったからだ。

なので、もう一度・・・僕たちはあの村へと向かっている。

『・・・・・・・・・』

メリーは、ぎゅっと僕の腕にしがみついている。

『・・・足は、大丈夫か?』

『あ・・・はい。もうあんまり痛みません・・。』

僕の手のひらも、大分治ってきている。

半妖だからか、治癒力が高いのだろう。

しかし、メリーは足の怪我よりも心の傷の方が治癒されていないのではないだろうか。

あの恐ろしい体験をもう一度繰り返すかもしれないのだ。

今度こそ、心が壊れてもおかしくない。

あの村にはまだ、八尺様はいるのだろうか。













【廃村】

そこには、もう人の気配すら存在しなかった。

薄気味悪いほど、静かな光景だった。

樹が風に囁かれる音が、聞こえてくるほどだ。

田んぼは焼かれ

作物には虫がたかり

本当に幽霊という物が現れてもおかしくない状態だと言うことは理解した。

『不気味だ。凄く不気味だ』

僕がそうつぶやくと、メリーはより一層、僕の腕を掴む力が強くなった。

そして歩いていくうちに、一番大きな家を見つけた。

村長の家

思えば、この家で最初・・・八尺様を見かけたのだ。

蔵も、村長の家に近い。

僕たちは、この家の中に何かがあると踏んで、中に入ってみた。






【村長の家】

家の中は、そのままのように思えた。

家具もあるし、置物も残っている。

まるで、まだそこに人が住んでいるかのようだった。

だが、蛇口には針金が巻きつけられ

風呂場にはカビが発生していた。

『人は住んでいないな・・・』

その不摂生な環境を見て、そう解釈をした。

ある程度の部屋を探したところ、残る部屋はあとひとつとなった。





【?の部屋】

そこは、具体的には何をする部屋なのかは分からない。

が、この村には似合わない、ブラウン管テレビとビデオカメラ、そして一本のビデオテープが床に落ちていた。

ビデオテープのラベルには、日にち

それぞれ、バラバラな日にちが書かれていた。

『・・・・・・何か、村のイベントの何かを写したもの・・・だろうか』

これは、最後に見ることとしよう。

次に、気になるところは

押入れ

どこか、異様な雰囲気を漂わせている。

僕は、押入れの取っ手に手をかけて、ゆっくりと

ゆっくりと、扉を開けた。

すると、そこに

八尺様が、押し入れに居た

『!』

『ひぃいい!!』

何故、こいつが押し入れに入っている

押し入れの中で、じっと僕を見つめている

そう思って、よく観察すると

それは・・・人形だった。

『人形・・・・・・だな・・・』

頭には、長い髪の毛と仮面がつけられている。

その仮面というのが、

『これは・・・・・・人間の皮か・・・』

『えっ・・・』

よくみれば、手も人間の皮を用いられている。

人間の顔の皮を用いられたであろう仮面は、最悪なほどに不気味さを帯びていた。

『・・・・・・』

一体、何のために

何のために、こんな事を

何故、八尺様として騙すため、こんな事を

この村は、何を行っていたのだ。

八尺様が偽りならば、何故村人たちは僕たちを追いかけてきたのか

考えれば考えるほど、得体の知れない恐怖が心を蝕んだ

『・・・・・・・・・』

その答えは、いや、答えの一番近いところは

あのビデオテープに収められているのかもしれない。

明らかに、村から逃げ出すときに落としていったもの

運命のイタズラというのか、見落としというのか

何かの”証拠”が、そこに転がっている。

『・・・・・・見るぞ』

僕は、メリーにそう確認し

ビデオテープをビデオカメラに入れて

巻き戻し

再生した





【2008年11月18日】

ビデオカメラに撮されていたのは、どこかのオカルトサークルの集まりのようだ。

ほとんど女性で、カメラやマイクを持って取材のように楽しく回している。

ただ、このカメラは

このオカルトサークルから遠くの場所で撮影されているのだ。

まるで、このサークルを撮影しているように見える。

いや、これは

”監視”されているのでは無いのだろうか。

そして、カメラがサークルから逸らすと

後ろには、あの八尺様が居た。

いや、それは八尺ほどの大きさの人型の人形だった。

中に人が入り、そして立ち上がる

そしてそのまま、どこかへと立ち去っていった。





【2008年11月19日】

次に、砂嵐と共に日付が代わり、画面はフェードアウトした。

女性の悲鳴がビデオカメラの中から流れた。

画面が、はっきりな画質となるとともに

生肉が、映像の中から現れた。

映像は、あの蔵の中を撮していた。

メリーがよく知っている、あの蔵の中

その中で、あの下宿所の主人が料理をしていた。

他にも、村人の人たちは笑顔で居た。

ただ、その場に場違いなのが

血まみれで、内蔵を露出させている女性の死体と

今から何をされるのか、柱に縛り付けられている女性が居た。

下宿人の主人が、包丁を持って肉を切っている。

その肉の先には、指があった。

皮を剥がれた腕だと知るには、時間がかからなかった。

女性は、『ごめんなさいごめんなさい』と叫んでいる

もう一人の女性は、失神している

また、その死体の方へとカメラが映し、

主人が死体を解体している。

解体されていくごとに、女性の叫び声は更に増していく。

人間の肉を用いた料理が、厨房らしき場所で作られている。

脳みそだろうか、骨だろうか、出汁に使ってるような様子もある。

人肉料理を食べて、村人は笑顔で喜んでいる。

今はもはや、村人の笑い声しか聞こえない。

悲鳴も呻き声も、もう聞こえない。

いや、姿は見える。

三人居た筈の女性は、全員肉の塊と化していた。

顔の皮を剥がされ、筋肉だけの顔

剥がされた皮は、誰かがどこかへと持っていった。










場所は、村の中心部の大井戸へと移り変わった。

最早、ほとんど骨だけとなった少女の死体を持ち上げ、井戸の方へと歩いていく。

少女の死体は、大井戸の中へと放り込まれた。

鈍い音と、骨が折れる音と共に

水が弾ける音が、響いた。

次に、二人目の死体が放り込まれる。

鈍い音と、今度は骨が大きな音を鳴らした。

次に、三人目の死体が放り込まれる。

今度は水に落ちるまで、壁には当たらなかった。

そこで、村人は解散し

それぞれの家路について歩いて行った。



そこで、映像は終わっていた。








〜蛇足〜

『・・・・・・・・・・・・』

『・・・・・・・・・・・・』

僕たちは、その映像を見て絶句した。

この村の真実を知ってしまった。

知らなければ良かった。

知らなければ、こんな現実を直視しなくて済んだし

俺たちが体験したこの出来事を、謎のまま残すことが出来た。

少女が、麻耶が

俺たちに石を投げつけたのも

蔵に火をつけたのも

『僕たちを逃がすためだったのか・・・・・・』

こんな

こんな恐ろしい事実、幻想郷では恐らく無かった。

現実は、膨大な自由と膨大な謎、そして膨大な技術と共に

膨大な狂気と膨大な恐怖が存在する。

それは、幻想郷とは比べ物にならない

人間の、人間による、人間が起こす、現実だった

『私たち・・・・・・あの・・・あの肉・・・食べ・・・食べちゃった・・・・・・』

メリーが、ガクガク震えている。

この村に来た時の朝食

豚汁、生姜焼き

どちらも肉を使う料理だった。

その肉は恐らく・・・・・・人肉を用いたもので間違い無いかもしれない。

『うっ・・・・・・・・・』

メリーが、部屋から出てトイレに向かおうかと走ったが、

我慢ができず、結局廊下で嘔吐してしまった。

『ゲホッ!ゲホッ!!』

器官に嘔吐物を詰まらせたらしい。

しばらく、苦しそうに咳き込んでいた。

廊下の嘔吐物を見たが、残念ながらあの豚汁と生姜焼きは出てこなかった。

今日の朝食のパンと卵スープ以外、何者も無かった。

『うえ・・・・・・うえ・・・・・・』

胸を押さえ、メリーは泣き出す。

雫を、嘔吐物の上に落とし、嘔吐物の体積が広がる。

『・・・・・・霖くん・・・お願い・・・・・・です・・・・・・この事を・・・この事実を・・・・・・蓮子ちゃんに伝えないで・・・・・・』

メリーがそうお願いした。

僕は黙って頷く事しかできなかった。

彼らはどこに行ったのだろうか

この村を置いて、次にどこに向かおうとしているのだろうか。

麻耶は・・・・・・

そんな事を考えながらメリーの背中をさすり

もう一度、部屋の中に目を向けてみた。

押し入れの中の八尺の人形の顔の皮が、じっとこちらを睨みつけているだけだった。














〜蛇足2〜

私は、普通の村で普通の生活をするのが夢だった。

普通の友達が居て、普通に楽しく遊んで

そして将来、優しい旦那さんを見つけて、たくさんの子供達と普通の生活をする事が夢だった。

『おい、頭を傷つけるなよ』

きっと、できるかな。

普通の世界では、普通に街を歩いたり、美味しい食べ物を食べたり

友達と一緒に追いかけっこしたりできるかな。

『しょうがねぇだろ、こいつ逃げようとしたんだから。』

霖之助と一緒に話した。現実の世界

本当の世界は、美しくて、楽しそうで

私の夢が、簡単に叶えられそうな場所だった。

『ふざけやがって。脳みそが一番美味いってのに』

きっと、私も行けるよね

次からはきっと、普通の生活を送れるよね。

幸せな人生を送れるよね

『まぁ良い。早く持って来い。腹減った』

『了解』

その時は、また霖之助みたいな人と一緒に過ごしたいな。

そんな事を願っている内に、私は引きづられていく。

『・・・・・・・・・・・・・・・』






【変態倶楽部】

主に裏世界で存在する倶楽部

特殊な性癖や、異常な思考の持つ者達が集う倶楽部。

そこからスナッフビデオや、理解不能な特殊ビデオが撮影され表に出ることが多い。





『こんちあ――――!!新聞倶楽部の取材に参りましたー!!!』

元気よく僕たちの前に現れたのは、大きなぐるぐるメガネをかけた元気な少女だった。

『取材?』

蓮子が、怪訝そうな顔で少女の顔を覗き込む。

三つ編みとメガネ、そしてチビ。地味な女の子の特徴を三つも所持しているその少女は、

その容姿とは裏腹に、かなり元気いっぱいの声で僕たちを呼びかけた。

そういえば、こいつの名前は何だったかな

『そうそうそう。そうなんですよー。いやぁーオカルト倶楽部さんとも言うから、ネタの一本や二本はあるんじゃないかと』

『無いね』

『よもや即答!?』

またもや大きな声で返事をする。

そのはずみで、メガネがずれて一瞬目が見えたような。

大学生とは思えない、幼い顔立ちをしていた。

『そんな〜メガネの旦那〜・・・有名人になれますぜ?だからそんな事に言わないで三つや四つ出してくださいよ〜・・・こっちも必死なんどすえ〜・・・』

『ネタが増えてるぞ』

『それに、私達は目立ちたくてこの倶楽部作ったわけじゃないし。』

本当に元気いっぱいだな。

どこぞの烏天狗の新聞屋を思い出すよ

『蓮子さぁん!!何かネタを!どうか私にお恵みをぉ!!』

『・・・・・・・・・』

蓮子の顔が引きつっている。

完全にウザがっている顔だ。まぁその気持ちはわかる。僕も同じ気持ちだ。

『そんな事言われてもねぇ・・・。最近行った洞窟の幽霊はイカサマだったし・・・霖くんの部屋には結局幽霊居なかったし・・・怪しい物はいくつか持ち帰ったけど・・・』

『僕の下着をいくつか盗んだのはお前か』

『とにかく!私達も今!!ネタ不足に困ってるのよっ!!ネタなんてこっちが欲しいくらいよ!』

蓮子がキレた。

というより、先ほどの話題を押し切った感じだ。

僕は溜息を付きながら、壁に背をもたれかかった。

『ネタならありますぜ蓮子はん』

すると、新聞倶楽部の三つ編みチビメガネはメガネを光らせながら答えた。

『・・・・・・ネタってなによ?』

『ぉおっとぉ!!それは交渉条件としてぇ!私の取材に答えてからにしてもらおうか!!』

うん。こいつ

リアルでウザいな。本当にリアルで

『リアルでウゼェ・・・』

ついに蓮子が口に出してしまった。







【新聞倶楽部 部室】

そして、交渉条件を飲んだ結果

新聞倶楽部の部室に連れて行かれ

まずはと、俺たちが話をする羽目となった。

とりあえず、最近行った体験を語ることにした。

トイレの花子さんを探す時では、夜の時間に学校に忍び込んで花子さんを探すことになったが、

調べたら小学校にしか出てこない事を知り、二時間の苦労は水の泡と化し、断念した。

次に口裂け女の事例。

夕方の住宅街をターゲットとし、あちこち回ったが収穫はなく、

蓮子が見つけたマスクをつけた髪の長い女性は、ただの風邪引いた主婦だったらしく

突進した際の謝罪を関係の無い僕までがさせられた。

『・・・・・・いやぁ、なんというか・・・』

新聞倶楽部の部長の目が泳いでいる

『格好悪いね・・・・・・』

『うるさーい!!』

うがー!と蓮子は両手を上げて抗議した。

メリーは部室に置いてあったお菓子を遠慮なく手を伸ばして食べている。

おかげで僕たちは容易に帰れない。

『で?私たちも得するネタってなんなのよ。今度はそっちの番よ』

蓮子が言うと、部長はふふっふ・・・と可笑しそうに笑った。

『長谷田 唯・・・生まれて19歳・・・今、私の一番近いところに恐怖の倶楽部が存在する・・・という噂デスよ』

長谷田 唯という名前だったのか

『噂?』

『そう、この学校にはいくつかの倶楽部が存在するけれど、その中に一つだけ、裏の倶楽部が存在するのですよ。』

裏の倶楽部

それは僕も知らなかった。というか興味さえも湧かなかったが

『裏の部活・・・』

蓮子の目が蘭々としている。

なんだか面白くなってきた。という目をしていた。

また面倒事に巻き込まれるのかと、僕はため息を吐きそうになった。

『その名も・・・変態倶楽部!!』

『・・・・・・・・・』

『・・・・・・・・・』

『・・・・・・・・・あれ?』

変態倶楽部

『・・・・・・いや、その・・・なんというか・・・』

対応に困る。

変態倶楽部とはなんだ。

『その倶楽部は、生徒会長から許可が出ているのか?』

『いや?出ていないから”裏”なんだよ。』

いや、だから

それじゃぁ探しようが無いじゃない・・・

『そもそも、一体どこからそんな情報を・・・』

『だから噂だってさ!』

信憑性皆無か

膨大な時間の無駄だった。さて、僕はそろそろ帰るとするか

『・・・・・・面白いわね・・・』

『え?』

『面白いわ・・・その噂!よぉし!今日からその変態倶楽部を探しに活動開始よ!!』

『おー!さすが蓮子さん!話が分かりますねぇ!私も取材として同行させてもらいますよっ!』

おいマジか

本当に探すつもりなのか

『・・・・・・あ、終わりました?』

ウトウトし始めていたメリーは、よだれを垂らしながら顔を上げた。

『メリー!今日からこの学校に隠されし、裏倶楽部を調査活動するわよ!』

ああ、もう決定なのだな。

僕はそう、溜息を吐いて流されるまま流されることにした。






【学校内調査】

今回は誰にも見つからない場所という事で、様々な良く分からん場所を調査することとなった。

便所の壁

ゴミ箱の中

消火栓の中

黒板をバンバン叩いたりもした。

更には、蓮子は他人の筆箱の中を確認したりしたのだ。

『おい霖之助、お前ら何やってんだ?』

『聞かないでくれ。頼むから』

僕は頭を抱えながら、様々な人に謝罪する羽目となったのだ。


そして、結局学校の隅々まで探すこととなってしまって。

一時間後


『あ―――!もう!どこにも無いじゃない!裏倶楽部!』

『そう簡単に見つかるならば、もうとっくに見つかってると思うがね』

今、僕たちは図書館で本を読みあさっている。

正直、僕はもう探したくなかった。

『くぅ〜・・・・・・どこかに手がかりがあれば・・・手がかりがあれば〜・・・』

『それで、手がかりは見つかったのかい?』

僕は芥川龍之介の本を読みながらそんな質問をすると、

蓮子は、口を尖らせながら答えた

『・・・・・・収穫なし』

『そうか。じゃぁ諦めるか?』

『諦めない!絶対見つけ出すまで諦めない!』

もしこの噂が、根も葉もない噂だったとして、存在しなかったら

僕たちは一生、あるはずのない倶楽部を探し続けて終わるのだろうか

『せめて・・・せめて何かあればなぁ・・・』

長谷田は、小さい手で小さい頭を抱えながら悩み、ぶつぶつ呟いた。

その様子を見たメリーは、ゆっくりと手を上げて答える。

『あのぉ・・・倶楽部なら、生徒会長が何か知ってるんじゃないでしょうか・・・』

そう、つぶやいたのを見て。僕は考えた。

メリーは、最初に話した”裏”倶楽部というものの実態を知らない。

生徒会長に話を通さないで作られた倶楽部・・・なのだが、

『・・・それはありかもしれないな』

と、僕は相槌を打った。

このまま闇雲に探すよりは、可能性のある場所に聞き込みに行く方が、ある程度の情報は得られるだろう。








【生徒会室】

『そんな倶楽部はありません。』

まぁ、こんな返事が返されることは九割がた予想していたが。

こんなアッサリと即答されるとは思わなかった

『じゃぁ、そんな噂は聞いたことも無い?』

『噂程度なら・・・まぁ少しだけならありますが。』

彼女は、そう考えながら答える。

『しかし、噂は噂じゃないかしら・・・。私、そういうのにはあまり興味が無いもので・・・』

長い髪をなびかせながら、彼女は答える。

それを聞いて蓮子は、苛立ちを隠せないで居た。

『・・・・・・何か、この学校で生徒が行方不明になったという記述は・・・?』

『行方不明?・・・・・・うーん。退学や休学の生徒ならある程度居るには居るのだけれども、行方不明はちょっとわからないわね。』

僕が質問しても、無駄のようだ。

生徒会長に質問して分かったのは、変態倶楽部というものの存在は更に怪しいと思わせるものばかりだ。

『嘘だー!一人、二年で行方不明になった増田古奈さんはどうなったんですかー!?』

行方不明?

この学校にそんな事があったのか・・・?知らなかったな。

『あっ!そうだそうだ!私も聞いたことあるよ!それ!!』

『・・・・・・・・・よく知ってるわね。あなたたち』

どうやら、そのことについては彼女も認めたようだ。だが

大きくため息を吐いて、答えた。

『でも、その事件があったのは一年以上前よ?確かにまだ見つけられてないけれども・・・これ以上、学校は何もしようもないわ。私もその時、生徒会長じゃなかったし・・・』

一年以上

なるほど、それならば僕は知りようが無い。

『・・・・・・で』

『ん?』

『それはともかく・・・で、退学や休学の人たちの情報とか、教えてくれない?』

『じゃぁ、あなたたちの身分と証明書を出して、その情報を得る権利があれば渡す事となるわ』

ああ、無理だな。これ

『ふぅん・・・私は、オカルト倶楽部の部長、宇佐見蓮子!』

『学校新聞発行者の、新聞倶楽部部長、長谷田唯です!!!』






【廊下】

案の定、僕たちは追い出されてしまった。

僕たちが生徒会室から出されたあと、すぐさま扉の鍵を閉める音がした。

『キーーー!なによあの生徒会長のケチー!!ちょっとくらい情報くれたって良いじゃないのよーーー!!!』

いや、妥当な判断だと思うが

『ぬっぐー・・・こうなったら、私達で探しましょう!森近さん!』

『え?』

『霖くん!その通りよ!こうなったら・・・意地でも変態倶楽部を見つけ出さなくてはいけない!やるわよ霖くん!』

『え?』

どうやら、この生徒会長の対応を受けてから、二人の絆はより一層深くなったようだった。

ちなみにこの時、メリーは課題が残っていたので置いていって居た。正直そっちの方が正解だと思うが。

『それじゃぁ今課題やってるメリーをとことんこき使って・・・調査開始!!』

前言撤回




結局、当然のことながら手がかり一つ見つかることは無かった。









【学校】

今日も、変態倶楽部の調査が始まる。

今日は早朝に集合し、探していない学校外の近くも探すこととなった。

メリーは今日は、一限も授業と言った授業が無い日だ。

よくもまぁ、付き合うよなぁ・・・と思ってメリーを見つめたら。

欠伸をして、フラフラとなっていた。

なるほど、たたき起こされたか。

そんな苦労も虚しく、今日も収穫はなかった。

『うっが――――!手がかり一つも見つからないなんて!』

蓮子は、無能な自分にイライラしているようだ。

『そもそも、手がかりなんてそんな簡単に見つかると思っていること自体間違いだ。』

『それでも!47人中47人が『知らん』と答えたのよ!?いくらなんでもおかしくない!?』

『僕だって君だって聞かされる前は知らなかったじゃないか。』

僕は溜息混じりにそう答える。

『ぬぅ〜・・・』

蓮子が、悔しそうに歯噛みする。

『・・・じゃぁ、僕これから授業だから。後は頑張って。』

『終わったら食堂に集合よ!』

やれやれ。

本当に懲りないなこの子は。そう思いながら僕は教室へと進んだ。









【廊下】

授業が終わり、僕は食堂へ向かうべく足を動かした。

正直行きたくない。

また、不毛な調査をしなくてはならないのかと思うと、溜息しか出ない。

紫を召喚して、実際にそんな倶楽部があるのか頼み込んでみようか。

ダメだ。今、奴は冬眠中だ。

起こしたら面倒な事になるというのに、呼べるわけがない。いやできることなら呼びたくない。

『・・・・・・・・・』

とりあえず、生徒会長には聞きたい事はまだある。

行方不明者の事についてもそうだが、やはりあの噂の事だ。

火のない所に煙は立たない。

どこか、そんな噂が流れた”根源”がどこかに存在するはずだ。

そのような事件について、生徒会長から知る必要がある。

『失礼します。』

そう言って。僕は扉を開けたとき、重大なミスを犯した。

ノックをするのを忘れてしまった。

叱られる覚悟を決めて、前を見たとき。信じられない物を見た

『・・・・・・・・・・・・』

生徒会長が、口に何かをつけてる。

確かあれは・・・乳児がつけるおしゃぶりだろうか

『〜〜〜っ!!』

生徒会長は、顔を真っ赤にさせて口につけてたものを取り出し、片付けた。

『・・・どうしたの森近くん。ノックもしないで入ってくるなんて・・・随分な不届き者ね』

そして瞬時に元の生徒会長へと戻った。

切り替わりが早くして、先ほどの出来事を無かった事にしようとしてるのだろうか。

それはそれで良い。僕もとっとと忘れるとしよう

『・・・以前、一年前に行方不明者となった増田さんについてお聞きしたいのですが』

生徒会長は、険しい表情をして僕を睨みつける

『・・・・・・じゃぁ、あなたの生徒手帳と知る為の理由を示してもらおうかしら?』

僕は生徒手帳を取り出し、理由を提示した。

『いい加減に開放されたいからです』

『・・・・・・宇佐見さんに?』

『はい』

即答で答えると、生徒会長はしばらく黙り込み

そして微笑んだ。

『・・・森近くんは、随分と面倒見が良いのね。』

面倒見

・・・・・・まぁ、半分妖怪で・・・彼女たちよりも何十倍も生きているし、躾の悪い少女たちが居るから

『・・・放っておくことが出来ない・・・が正しいですかね』

そもそも、紫に二人の監視を命じられている今は、その理由の方が大きかった。

二十年しか生きていない彼女を相手するのは、子供を相手するのと同じだからだろう。

不思議と、自分でも違和感なく対応できていたと思う。

すると、生徒会長はクスリと笑った。

『良いわ。教えてあげる。ちょっと待ってなさい』

そう言って、大きな棚の中のファイルを取り出して、僕の前に置いた。

『学校側で調べたものしか無いけれども』

そのファイルを開けてみると、大部分が新聞の切り抜きだった。

この学校の名前が表示され、確かに『増田古奈(19)が行方不明』と明記されていた。

次に、生徒が書いた物だろう。ペンで描かれた独自の調査書のような物があった。

・・・ここにも、変態倶楽部を視野に入れているという書き込みがあった。蓮子みたいな奴は結構居るのだなと感心した。

『この学校には、あなたたちのようなオカルト倶楽部のような変人の集まりの、探偵倶楽部という倶楽部もあったのよ』

『僕まで変人扱いですか』

『妙な倶楽部に入った時点でね。諦めなさい』

生徒会長は、僕の生徒手帳をまじまじと見ていた。

特に、気になることは書いてない筈なのだが。

気にする事なく、僕はファイルに目を通した。

そこには、【薫子沙耶香】という名の女性のインタビュー等もあった。

『薫子沙耶香という女性は、増田さんの友達だったのですか?』

『薫子は私よ。』

そう言われ、僕はそれ以上何も言えなかった。

インタビューをまとめると、この失踪事件には気になる事が二つほど判明したらしい。

一つは、彼女はカバンを道端に置いて消えていた事。

二つは、以前彼女は陰湿ないじめを受けていた事。

・・・・・・この二つだけ見て、考えられることは

この学校に居るストーカーに拉致監禁されたか

噂になってる変態倶楽部に拉致監禁されたかのどちらかだ。

途中で断念したのか、ファイルは途中で更新されなく終わっていた。

『ありがとうございました。』

僕は、そう言って生徒会長にファイルを渡した。

『あら、もう良いの?』

『ええ。少しばかりの手がかりを取得できましたから。感謝していますよ。』

そう言うと、生徒会長は少し目をそらして

『そう、照れるわね』

と答える。

『・・・・・・また、私が必要になったらここに来なさい。』

そう、最後に生徒会長は言った。

どうやら、いたく気に入られたようだ。

悪い気はしなかったが、またここに来るような自体とは何だろうかと考えた。







【食堂】

食堂についた瞬間、蓮子に怒られたが、

生徒会室で調査していると聞いたとき、急に手のひら返したように上機嫌になった。

とりあえず、分かったことを一字一句漏れなく話したら、蓮子と長谷田は唸りながら考えた。

『やっぱり変態倶楽部ですよ。絶対奴らが増田さんを連れ去ったんですよ!!』

『勝手に決めるなよ』

『連れ去られた場所が商店街の東口から十メートル離れた所なのよね・・・。そこの近くに何かがあるかもしれない!』

あるかもしれないって・・・

『もう一年前の話だぞ。調査されてるに決まってるだろ』

『そこには何も無かったの?』

『無いって、探偵倶楽部のファイルには書かれてたな。』

僕がそう言うと、『そうか・・・』と、蓮子は落胆した。

『じゃぁさ、結局増田古奈がどうなったかは書いてなかった?』

『無かった』

『それじゃぁ、増田古奈さんの住所とかは?』

『無かった』

瞬間、蓮子はまたもや爆発し、怒り出した。

『うぎぎー!!どうして一番肝心な所が省かれてるのよムカツクー!!』

肝心な所

・・・・・・そうだ。そういえばそうだ。

彼女がどうなったかはまだ良いとして、何故探偵倶楽部は彼女の親族に話を聞かなかったのだろう。

新聞の切り抜きでも、親族のインタビューは一行も満たない文であり、

それも『まさか誘拐されるとは思わなかった』という内容だけだ。

ほとんど情報が無い。

何故?

『とにかく!今から商店街まで調査に行くわよ!』

そう豪語したあと、僕は引きづられるように商店街に連れて行かれた。



そして当然、手がかりなんてものは無かった。



【家路】

『ぬぐぅお〜・・・今日も手がかりが無かったよ〜・・・・・・』

長谷田が大げさに頭を抱えて僕と共に家路についている。

蓮子とメリーは、まだ探してみると意地を張っていたが、

結局何も手がかり無しで、いい加減暗くなったので諦めて、蓮子とメリーも家路につくこととなった。

家が違うので、帰る方向は逆方向なのだ。

『そもそも、一体何者が誘拐したのかはまだ不明ですから、直ぐに見つかる事は難しいのかもしれませんね。』

『う〜・・・・・・。でも、間違いなく変態倶楽部はいるんですよ!マジですよほんまもんのマジモンですよ!!』

そう言って、タコだらけの指を僕に突きつけながら答えた。

『ああ・・・はいはい。分かりました。』

確かに、変態倶楽部という”裏団体”は居るのかもしれないが、

『それが、僕たちの大学関係だとは、考えにくいでしょう?』

『ちっちっち。まだまだ青いね森近くん。私の勘が囁くのよ。これは!変態倶楽部の所業だと!!』

『先輩の勘は、よく当たるのですか?』

『そりゃぁ勿論!4分の2だよ4分の2!!』

つまり確率は2分の1か

『それに、さ。そんな倶楽部がさ・・・本当に人を拐ってるっていうなら・・・放っておけないじゃない。』

『・・・・・・・・・へぇ』

純粋に、スクープ目的で取材をしていたわけでは無いわけか。

『だから、もっと情報を皆に見てもらって、意見を貰ったりすれば、すぐに解決できるし。もう変態倶楽部が無くなって平和に過ごせるかもしれないじゃん。』

『・・・・・・大体、そのような記事を?』

『そうだよー!私の作った記事・・・森近くんも見てごらん!不純異性行為とか、万引きとか、いじめとか陰湿な嫌がらせとか、そういうのは全部記事にしちゃってるんだから!再犯防止の為にね!』

僕はその言い草を聞いて、微笑ましくなった。

『・・・随分熱心だけど、それだと記事にするものが日々無くなるんじゃないのかい?』

『あっ!』

そこで、長谷田は大声を上げたが、俯きながらいじけるように呟いた。

『・・・・・・そうだけどさ、でもやっぱり新聞は、皆に情報を伝えて、考えたり、安心させたり、とにかく皆を励ましたりする為にあるじゃない。だから・・・それで良いの』

そして、ニッコリと笑ってはにかんだ。

『でも、すっごい面白い記事ならどんな不謹慎でも載せちゃう可能性かるけどねー!あははははは』

元気だな。

だが、その元気さは幻想郷の新聞屋とは違った

素直で小さな正義感を感じて、少しだけ愛らしく見えた。

『まぁ、そんなわけだから。明日、私の新聞見てみてね!絶対だよ!』

『・・・変態倶楽部の調査は?』

『それも大事だけど・・・やっぱり、私の作った新聞見て!一人でも多く!』

子供だな。

まるで、本当に子供だ。

この無邪気な部長は、無自覚で遠慮なくえげつない事を記事に書いている事に違いない。

見るのが楽しみだな。と思いながら、共に家路を歩いていた。




だが結局、彼女の新聞を見ることは無かった。






【学校】

『さぁ今日も探すわよ!変態倶楽部!』

またか

いい加減、飽きてくる頃だろうかなと思っていたのに、案外しつこい物なのだな。

いつも決まった集合場所。

その場所で、いつもはきていた彼女の姿が無かった。

『・・・長谷田は?』

『あれ?そういえば居ないわね・・・・・・今日は何か課外があるのかしら。』

そんな事を言い合いながらも、

『まぁ良いや。今日も探すわよ!!』

結局、今日も変態倶楽部を探すハメとなった。

今日は、商店街の近くの街の中の怪しい店等も近づいた。

SMクラブや赤ちゃんパブや

大人のおもちゃ屋等は見つける事が出来たが、

肝心の変態倶楽部は、どこを探しても無かった。






【霖之助の部屋】

『ただいま』

調査を終えて家に帰ってくると、どこか違和感があった。

人が入られた気配は無い。

どこも物が動かされた気配も無い。

一体、何を恐れているのか、自分でも良くわからない。

バカバカしいと思って、床に座ってカバンを下ろし

カバンを一度目にやると、どこか違和感があった。

教科書と筆箱以外に、”何か”が入っている。

僕は、疑惑に思いながらカバンを開けた。

カバンの中には、白い箱が入っていた。

『何だ?』

思わず不審に思って、上蓋を掴み、箱を開けてみると

『・・・っ!!』

人の手首だった。

血まみれの手首が、箱の中に入っていた。

ひんやりと、その手首は冷たかった。

『誰が・・・・・・』

一体、誰がこんな事をしたのだろうか。

学校の講義中、誰がこの箱を僕のカバンの中に入れたのか

そして、この手首は誰の者なのか

『・・・・・・・・・』

この手首に、見覚えがあった。

タコだらけの指、この手首は

まさか

『長谷田・・・・・・?』

馬鹿な。と僕は首を振って

とりあえず、警察に連絡する事にした。







【学校】

昨日、警察の取り調べを受けていたという情報は、蓮子たちの耳にも届いていたようで、

真っ先にメリーが、心配そうな様子で声をかけてきた。

『霖くん・・・大丈夫ですか?』

『ええ。まぁ・・・なんとか』

まさか、手首がカバンの中に仕込まされるとは思わなかったが

一体、誰がこのような事を行ったのか。

少なくとも、この学校の者だというのは間違い無い。

一体、僕に何の恨み・・・いや、何かを伝えたかったのだろうか

メリーは俯き、少しだけ震えているように見えた。

『どうしたんだい?』

気分をメリーに聞くと、少しだけ怯えるように答えた。

『・・・・・・そういえば、長谷田さんが今日も居ないんですけど・・・何か関係あるんですかね・・・・・・』

『・・・』

今日も居ない

益々、どこか嫌な予感をよぎらえる。

あの手首も、タコだらけだった

まさかと思うが・・・・・・

『逆に聞くわ、あの部長が何かトラブルに巻き込まれると思う?』

『それは思う。すっごく思う。』

あんなに事件に突っ込みそうな正確では、トラブルも多いだろうと僕は踏んでいる。

『・・・・・・ちょっと、聞き込みを始める必要がありそうね。』

今日は、変態倶楽部の調査を中断して

長谷田の居所の調査を始めた。







【生徒会室】

『なるほど・・・・・・長谷田唯・・・あの新聞倶楽部の不届き者ね』

薫子生徒会長は、敵視するように僕を睨みつけた。

どうやら、彼女の事がよほど気に入らなかったらしい。

『そんな事を聞かれてもね・・・。彼女、一人暮らしだし・・・今日だって欠席報告が本人から来たのよ?』

『本人から報告が来たんですか?』

僕は、思わず身を乗り出して質問した。

『え・・・ええ。本人だったわ。』

僕の行為に驚いたのか、少し彼女は引いていたので『すみません』と謝って席に座った。

つまり、今日報告があったのならば

あの手首は長谷田の物では有り得ないという事だ。

少しだけ安心した。

『・・・・・・彼女の住所とかは、どこか分かりませんか?』

『生徒の住所を無断公開する事も出来ないし、私も知らないから無駄だと思うわよ。』

困った。

それならば・・・彼女の家に訪問することは不可能に近いか。

『報告なら・・・彼女の電話に繋がった事はあるのですよね?掛けさせてもらって良いですか?』

『まぁ、それくらいなら・・・』

そう言って、生徒会長は携帯電話を取り出して僕に携帯を渡した。

しばらくコール音が鳴った後、掛かった。

《おかけになった電話は、電波の届かない場所にあるか・・・》

掛からなかった。

僕は、この番号を手帳に記録して

そっと携帯電話を返した。

『どうも』

僕は礼をして、生徒会室を出ていこうとした所、

『ああ、ちょっと待って。そこの茶飲み持ってきてくれないかしら?』

と言われて、少し脱力しつつも茶飲みを持ち、

茶を入れてから生徒会長に渡した。

『へぇ・・・。本当に世話好きなのね。』

つい霊夢の我が儘からついた癖で、茶を入れてしまった。

『あ・・・勝手な事をしてすみません・・・』

『いえ、ありがとう。霖之助くん』

そう言って、笑顔で彼女は茶を口に運んだ。

今度こそ、僕は生徒会室を出て行った。









【アパート】

その後、新聞倶楽部の部員に部長の住所を聞き出し、彼女の部屋へとたどり着いた。

彼女の家は、アパートというよりポートと言った方が合うだろう建物だった。

『結構綺麗な所なのね・・・』

そう言って、僕は彼女の部屋と思われるB201号室を目指し、歩いた。

扉の前に立ち、呼び鈴を押して見る。

反応なし。足音もなし。

もう一度、呼び鈴を押す。

反応なし。

寝てるのか?と思い

僕は長谷田の電話番号を押し、通話ボタンを押した

『アンタ、いつの間に長谷田の電話番号聞き出したの?』

蓮子が怪訝そうな顔で覗いてきたが無視をした。

そして、何回かコールをしたが、またしばらく経って

《おかけになった電話は電波の届かない所にあるか・・・》

という音が流れた。

恐らく、部屋には居ない。

ならば実家に帰っているのだろうか。葬式か?

そう疑問に思っているうちに、もう一度呼び鈴を押した。

『・・・・・・出ないわね・・・』

次第に、蓮子がイライラし始めた。

『おそらく、今は留守だろうね。違う日に改めよう。』

僕はそう言って、アパートから離れる。



歩き始めて10分程経った頃だろうか、電話がかかってきた。

発信先は、長谷田唯のアドレスからだった。

『長谷田から?』

『ああ。』

先ほどの電話に気づいてリダイアルしてくれたのだろうか。

僕は、通話ボタンを押して耳に傾ける。

『もしもし長谷田。今どこに』

瞬間

《ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!》

女性の絶叫が、携帯の奥から発せられた

《助けて!!助けて!!霖之助助けて!!!あああああああああああああああああああああああああああああああああ―――ガシャゴッ    ブツ》

長谷田と思われる女性の声が響いたあと、何かが壊れた音がして、

電話は切れた

『・・・・・・・・・・・・』

僕達はしばらく、何も語ることができなかった

『今の・・・・・・何?』

メリーが、呆然としたまま、音声を読むロボットのようにギコチナイ声で僕に問いかけた。

しばらく経ってから、ようやく脳が動き

ある明確な答えが、僕たちの脳の中に現れた。

『・・・長谷田が、監禁されている・・・・・・』

すると、僕の中の確信が膨らんだ。

あの手首は、長谷田の可能性が高い。

彼女たちが言っていた、変態倶楽部という言葉に警戒したのか

口封じの為か

彼女は今、どこで・・・何をされてる?

『ひっ!』

急に、蓮子が小さな悲鳴をあげてカバンを落とす。

カバンの中には、小さな箱が入っていた。

蓮子はそれを”開けた”のだ。

眼球が入った、その箱を。

白い液体にまみれた、その眼球を

ドロドロの白い液体は、恐らく眼球の物では無く、精液である可能性が高い。

そもそも、眼球の中の液体はあんな液体でない事を知っているからだ。

『・・・・・・・・・』

メリーの中のカバンにも、箱が入っていたようだ。

中には、耳が入っていた。

これも、精液のかけられた物体だ。

これが、これらが長谷田の肉体の一部なら

変態倶楽部という存在が、より一層リアルになり

今まさに、長谷田は

捕まっているという事実が現れる。








その後、いくら探しても手がかりはなく

とりあえず、警察に足を運んで今日は終わりとなった。

だが、警察は

『警備は強化させておくから』としか言わなく、

僕らが持っていた箱は、証拠品として受理された。

本当に、この警察は役に立つのか?

そんな疑問を、隠せないでいた僕が居た。






【学校】

今日、蓮子とメリーは大人しかった。

得体のしれない恐怖からか、常に疑心暗鬼に辺りを見渡すだけだった。

もう、周りが得体の知れない者達にしか見えないのだろう。

メリーなんかは、途中で早退届けを出していた。

長谷田の例があり、メリーが不安になった僕も早退届けを出そうと動いたが、

『待って!』

と、蓮子に呼び止められた。

『・・・今日、午後の授業は無いでしょ?皆で一緒に帰りましょうよ・・・』

明らかに怯えていた。

いや、怯えるなという方が無理だろう。

行方不明。いやもしくは拉致監禁されている友人がいるのだ。

次は自分の身か?

彼女はどうなっているのか?

それが不安で不安で堪らないのだ。






【家路】

全員、家の方向は違う

違うが故に、蓮子はどうしても

『あの、あそこの喫茶店のパフェ美味しんだよ〜!ワッフルとかポッキーとかカラメルとかいっぱいあってさー。そこ行ってみようよ!』

と、寄り道する気満々である。

『・・・・・・あ、ああ。そうだな・・・』

正直、全く食欲が湧かなかったが、行くしか無い。

気を紛らわせるには、そうするしか無いのだから。

蓮子が行っていた喫茶店へと向かって、歩き出した所だった。

道沿いのコンビニに、真っ黒なワゴン車が止まっていた。

少しだけ気味が悪かったが、特に気味が悪かったのは、後部座席に居る女だった。

『・・・・・・・・・?』

その女は、顔中白塗りで目は不気味に赤く塗られ、口は赤く裂けているように口紅を塗りまくっていた。

『うわ・・・』

蓮子が不穏な表情でその女を見て、すぐに目をそらした。

なんだ。こいつは

そんな事を思いながら、もう一度黒いワゴン車を見つめる。

先ほどの白塗りの女性が、目を見開かせて大きな口を開けて、こちらを見つめていた。

『蓮子、メリー。・・・・・・逃げるぞ』

そう言って、三人で早歩きを始め、そして次第に足を動かし

駆け足と共に、僕たちは走った。

瞬間

ブーパァァアアアア!!ブゥゥゥパァァアアアアアア!!ブゥッゥゥゥゥゥゥゥパパアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!

車のクラクションの音が響き、こちらに向かって発信している

『何なのよ!何なのよあいつら!!!』

警察

警察にまた行かなければ。

この状況なら、さすがに動かずには居られない状況となるだろう。

だが、警察署を通ると、

『ただいま留守にしています』という看板があった。

『くっ!』

万事休すか

本当に警察は使えない組織なのか、そんな事を考えるとき

僕たちは、手を繋いで

小さな路地の中へと逃げていった。

さすがにこの中では、奴らは追いかけてこれない。

そう思っていた。

『・・・・・・っ!』

路地の中に入ると、そこにも人が居た。

手には、ナイフを持っていた。

路地の向こうには、ワゴン車がある。

『・・・お前らは・・・何なんだ・・・・・・?』

『・・・・・・・・・』

男は何も言わずに

僕に近づき、腕を押さえつけられた。

『ぐっ!』

『!』

蓮子が、その様子を見て僕を助けにかかったが

他の誰かに捕まり、身動きがとれない状態となっていた。

『霖くんに何するの!止めて!!』

その時、僕は頭を必死に動かして上を見ようとした。

男が、ナイフを僕につきつけている

『ゴー』

男がそう言うと、蓮子はワゴン車の中に連れて行かれそうになった。

『止めて!止めろ!!どこに連れて行く気だ!おい!!』

蓮子が暴れながらジタバタした後、車の中に押し込められた。

『蓮子!』

そして、扉が締められ

車は、発進した。

『・・・・・・っ!!』

蓮子が、さらわれた

『蓮子ちゃん・・・!』

次は、誰だ

メリーか

そう、僕は警戒して振りほどこうとしたが、

男たちは勝手に手を離し、

男たちは何も言わずに車に戻り

その場から去ろうとしていた。

『・・・・・・・・・逃がすか』

僕は駆け出し、車の方へと向かって走り出した。

逃がすかと思い、僕は思い切り窓を叩いたが

結局、奴らは窓を閉めて、急発進でどこか去っていった。

『あ・・・・・・ああ・・・』

メリーは、愕然として膝をついて

頭に手を置いて、自己嫌悪に陥った。

『・・・・・・・・・』

これで、おしまいなのか

このまま、御終いになるのか

蓮子は、このあとどうなるのだろうか。

また、僕たちのカバンの中に、蓮子の一部が混入した箱が入っていたりするのだろうか。

ふざけるな

そんなの嫌に決まっているだろう。

『・・・・・・まだ、終わりなものか』

僕は、すぐさま走り

近くのスクーターに手をつけて

『すみません!一晩だけ貸してください!!』

と、店の中へ叫んだ。

『あっちょっと!』

店の主人が叫んでいたが、関係無い。

僕は、つけっぱなしの鍵に手をかけて急発進した。

幸い、携帯にはGPS機能がついている。

蓮子が僕の居場所を特定できるようにと携帯に無理やり入れたのだ。

何の嫌がらせだと僕は抗議したが、まさか役に立つとは思わなかった。

蓮子が連れ去られる方向へと、僕は発進させ

前の車が見えると、僕は

奴らに見つからないよう、隠れて尾行した。

一時間程尾行すると、人気の無い山の中へと向かい

すると、それはどこか

軍用施設のような場所にたどり着いた。








【???】

僕は、身を隠して謎の施設に入り込み

蓮子を拐ったワゴン車を追った。

ワゴン車は施設の車庫の中に入り、そこから出てこなかった。

『・・・・・・中に、入ったのか?』

僕は、どこか入れる場所がないか探して

裏庭に続く道とかを、誰かに見られないように進んだ。

途中でカエルとか蛇とか、コンドームやメス等が落ちている。

ここはヤバイ。と身で感じながら

侵入できる場所はどこかと、目で探した。

『・・・・・・・・・』

何かを焼いた跡を見つけた。

新聞か何かを焼いていたようだ、この裏庭で

その新聞の写真は・・・どこか見たことがあった。

『増田・・・古奈?』

僕は、その半分焼けた新聞が気になり、その新聞の欠片をポケットに入れた。



そもそも、ここは元々はどこだったのだろう。

軍用施設は、この平和な日本では考えられない。

何かの研究機関か、それとも病院だったのか。

どちらにせよ、こんな怪しい廃墟には誰も近づかないだろうなと僕は思った。

そんな事を思っているうちに、中に入れそうな窓を見つけた。

『・・・鍵が壊れているな。』

それが幸いしたのか、窓の開閉は楽に行われた。

そして身をよじらせて、中に入る。

身を完全に施設内の中に入れる時、

そして身を起こした時、どこか違和感を覚えた。

『・・・人の気配が・・・しない・・・』

先ほど、何人も人が僕たちを追いかけていた筈なのに、

この施設の中では、誰ひとりとして気配がしないのだ。

疑問に思い、僕は施設内を歩き回った。

・・・・・・歩き始めると共に分かったが、ここは昔、病院だったようだ。

廃病院だった。というべきか。

『ここで一体、何があったんだ・・・?』

そんな事を疑問に思いながら、中に入っていく。

『・・・・・・?』

すると、下で妙な物音がした。

地下があるのか?

そう思い、地下室を探そうと歩き始めた。

が、

どこにも、地下に通じる道は無かった。

『・・・・・・・・・くそっ!』

さすがに、苛立ちを隠せなかった。

地下はどこにある?

その地下で、蓮子は何をされる?

ここが、変態倶楽部なのか?

ここで、長谷田は何をされている?

女子トイレでそんな事を思っている時、その時

『・・・・・・・・・ひぐぅ・・・ひぐぅ・・・』

『・・・・・・・・・』

女のすすり泣く声が聞こえた。

このトイレに、隠し通路があるとでも言うのか?

だが、少しだけ怪しいと思ったのは

声がする方向は、個室なのだ。

個室の中で、生で声がするのだ。

今、この個室の中に、確実に女が居る。

『ぐす・・・・・・ぐす・・・・・・』

『・・・・・・・・・』

僕は、さすがに何もしない事はできないと思い

その個室の中の人を呼びかけた

『・・・・・・あの。誰かいるんですか?』

『ぐす・・・・・・ひく・・・・・・』

だが、返事をしない。

まるで、僕の声が聞こえていないようだった。

疑問に思い、ノックをしてみた。

『ひぃぃぃぃぁぁああああああああああああああああああああああああああ!!!!』

絶叫が聞こえた。

思わずおののき、僕はたじろいた。

そして、その時だった。

足音が、こちらに近づいてくる。

さすがに身を隠さねばマズイと思った僕は、個室の中に入っていった。

怪しまれないよう、鍵は掛けないようにした。

『・・・・・・ここか。』

男が、野太い声でそう言ってた。

『あうーあいあー』

次に、女性の声が聞こえた。

言語障害なのか、言葉のろれつが悪い。まるで赤ん坊のようだった。

男は、次第にノックを始めて、反応を待っていた。

反応が無かったら、次に隣をノックして、

また次に、隣をノックした。

そして、女が居たトイレにノックをすると、

『あああああ・・・ああああああああああ・・・』

女の声が漏れ、次に

『あっはははははははははっははははははははは!!!!』

と、女性は大笑いした。

『居た居た。大丈夫だ。今日で全部終わりだからな。だから行こうな。』

そう言って、トイレの鍵を乱暴に開けて、女を乱暴に掴む音がした。

ベチャッという音がした限り、間違いなく彼女は怪我をしている。

『ああ・・・あああ・・・』

喉を怪我したのか、ガラガラ声だった事に気づいた。

『あいあー、うー』

女性が、何かを言った後、その次は

何かを引きずる音しか聞こえなかった。

引きずる音すら聞こえなくなった時に、トイレから出ると

そこには、女を引きづられた際に出来た”血の跡”があった。

『・・・・・・』

僕は、その血の跡を辿り、彼らが向かった先へと向かった。










【???】

血の跡は、コインロッカーを境に無くなっていた。

このコインロッカーの中に、何かがあるのだろうか。

大きさは、人がようやく入れそうな程の大きさだ。

『・・・・・・・・・』

開けてみれば、普通のコインロッカーだ。

ただ、血の跡が壁をすり抜けるように壁で切られてるくらいは、

不審に思い、壁を押して見る。

すると、壁が動いた。

『・・・・・・ここが、入口なのか』

開かれた壁は、向こう側に続き

小さな階段のようなものが、向こうまで続いていた。

『・・・・・・』

屈んでしか通れない程の大きさだったため、前に進むのは苦労をした。

一体、この先で何があるんだろうか。と思っている時に、

進めば進むほど、物音が聞こえるのだ。

『・・・・・・・・・っ』

悲鳴だ。

悲鳴だった。

絶叫しながら、この世の物とは思えない程の絶叫が、響いていたのだ。

『・・・・・・蓮子』

蓮子は、大丈夫なのだろうか。

そう、願いながら進み

ようやく、出口にまでたどり着いた。





【?????】

たどり着いた場所は、全てコンクリートで作られており

どこからか、血なまぐさい匂いが充満していた。

『・・・・・・・・』

人が、全然居ない

いや、物音や叫ぶ音は聞こえるのだが、廊下には誰も居ないのだ。

歩き回る人、それらが居ない事から、淡々とした場所なのかと思い込ませるほどだ。

だが、こうしているわけにも行かない。

蓮子、そして長谷田も見つけ出さなければならない。

『・・・・・・・・・っ』

長谷田は、生きているのだろうか。

身体の一部や二部、僕たちのカバンに送り込まれるのを見ると

もう確実に無事では済まされていない。

道には、多数の血痕が付着している。

この扉の向こうでは、何が行われているのだろうか。

『・・・・・・何だ?この部屋』

そこの部屋は、扉が半開きだった。

ドアノブが壊され、中が簡単に除けそうだ。

中を見てみると、人間を拘束する椅子

周りには、それぞれの血液の付着した凶器があり、

その多くは床に散乱していた。

『・・・・・・・・・』

もう見たくない。そう思って歩き出し

曲がり角を曲がったとき、

バンッ!!!!と、扉が開く音がした。

『ああ・・・あああああ!!』

全裸で血まみれの女性が、臓物を垂らしながら逃げ出そうと歩き出している

そして、僕の方へと気づくと、僕の方へと歩み寄って来る。

『助けて・・・助けてぇえええええええ!!!!』

僕は、あまりの衝撃にそこから動くことができず

そして、急に女性は足首を掴まれ、倒れ込んだ。

『ぃゃぁああああああああああ!!!』

女性は、足首を掴まれたまま引っ張られ、また扉の向こうへと戻され、内側から鍵をかけられた。

こちらからも鍵を開けられるようになってるが、僕はそんな事をする余裕が無かった。

足首を掴んでいた男性は、僕の事は全く気づいていないようだった。

覆面をかぶっていたが、年は意外と若い奴だった。

蓮子と、年齢は変わらないのかもしれない。

そんな奴が、こんな所で”何”をしているのか考えると、吐き気がした。

『・・・・・・蓮子・・・長谷田・・・』

すぐにでも、取り戻さねば

そう願い、僕は捜索を始めた。





【?????】

途中で、何度嘔吐したかはわからない。

途中で、何度見つかりそうになったかわからない。

しかし、見つかっても普通に挨拶される事だけしか無かった。

普通に挨拶をしながら、人間だった肉の塊を引きずっている光景を見たときは、正気を失いそうになったが、

なんとか、僕はここまで居る。

『・・・・・・・・・』

ここは、それぞれの控え室だろうか。

この中のどこかに、長谷田と蓮子が、どこかに居るのだろうか。

『・・・こんな事、許される筈が無いだろう・・・』

僕は、一つ確認する事に鍵を開けていくことにした。

ここの施設の扉の鍵は、珍しいもので

外側から鍵が閉められると言った物だった。普通の部屋の鍵とは違った。

鍵を開けても、誰も逃げ出そうという気配は無かった。

不審に思ったので、扉を開けてみると

『・・・・・・・・・』

足が無い者が居た。

腕が無い者がいた。

目が無い者がいた。

耳を引きちぎられた者も居た。

中には、小さな子供までも居た。

咳をするごとに、白濁色の液体が吐き出される。

目の無い子供は、目から例の液体が流れている。

・・・もう見たくない。

とにかく、僕は蓮子を探す為に扉を確認し続けていた。

彼女の身の安全を確認したい。

そして、最後の扉の前に来た。

そこに、蓮子が居なければ

もう、あの部屋に連れて行かれているという事になる。

僕は、恐る恐る鍵を開けて

部屋の中を確認した。

『・・・・・・・・・・・・・・・』

中には、誰も居なかった。

どこを見渡しても、どこを見ても

彼女の物すら、見つからなかった。

『・・・居ない・・・か・・・・・・』

そう、落胆して声に出したとき

ガタン!と、ロッカーから音がした。

ロッカーが、誰も居ないのに乱暴に勝手に開かれる。

開かれたとき、一人の少女が手を伸ばしていた。

『霖・・・・・・くん・・・?』

ロッカーの中に、彼女は居た。

彼女は彼女なりに、身を守ろうとしていたのだ。

『・・・ひくっ・・・ひくっ・・・』

蓮子は、すぐさま僕に駆け寄り

僕にしがみつき、泣きついた。

良かった。まだ何もされていなくて本当に良かった。

直ぐにでも、ここを脱出したいのだが・・・

『長谷田は・・・どこに居るんだ・・・?』

ここに居ないという事は

もう既に、あの部屋に連れて行かれているという事なのだろうか。

『・・・・・・・・・』

急に、また乱暴に扉が開かれる音がした。

見に行くと、鍵を開けた内の一人が外に出ようと歩いていたのだ。

『お母さん・・・お母さん・・・』

そう呟きながら、腕の無い身体で前へ前へと歩いていた。

そして、この部屋から出るための扉を体当たりで突進した。

扉が開かれた。瞬間

こちらに駆け寄ってくる足音が聞こえた。

『!?』

僕たちは、身を隠してその場から動かずに居た。

『蓮子、どこに居る』

この部屋に入ってきた瞬間、女性はそう言った。

女性は覆面をかぶっていて誰か分からない。

声も、若干変えている。

だが、姿を見てそれが女性だと分かった

『・・・・・・っ!』

僕は、すぐさま蓮子と一緒に飛び出し、

その女性に突進した。

『!』

女性は、一瞬たじろいて後ろに退いた。

だが、僕はその覆面女に突進して突撃した。

『ぎゃん!』

覆面女は、持っていたメスが自分に当たり、

傷ついた腕を抑えていた。

『走れ!』

僕は、蓮子にそう言って

蓮子の手を離さないで、全力で走った。

『うぇぇえええええええええええええん!ええええええええええええええええん!!』

後ろで、覆面女の金切り声の泣き声が響いた。

まるで、赤ん坊が泣いているような声だった。

『・・・・・・っ!!』

その音に、嫌悪を感じながらも前に進んだ。

扉の鍵が開く音が聞こえ、中から覆面を被った者達が現れた。

鎌やチェーンソー。ガスバーナー等

人を殺すには十分な凶器を持ちながら、僕たちを睨みつける。

『走れ!止まるな!!』

僕は、蓮子にそう言って、

とにかく走った。走った。

捕まったら殺される。

ここは、間違いなく殺されると。

だが、覆面の男たちは追いかけてこなかった。

ただ、じっとこちらを見つめ

本当にそのまま、僕たちを襲うまでもなく、じっと見つめているだけだった。

『・・・・・・・・・・・・』

一体、その光景が何を意味するのか分からなかったが

とにかく、僕たちは逃げた。逃げた。

すると、後ろから足音が聞こえる。

先ほどの覆面女が、賛美歌を鼻歌で歌いながら

薙刀を持って、こちらに走って追いかけてくる

『・・・!!』

もうすぐだ

もうすぐで、出口へと向かえる。

あの、ロッカーに続くロッカーにたどり着ければ、後は

『ここだ!』

僕は、ロッカーを開けて前へ前へと進んだ。

屈んで進まなくてはならないからか、なかなか速くは進めなかったが。

『霖くん!』

足音が、近づいてくる

速く、速く動け僕の足

『・・・・・・っ』

ようやく、光が見えてきた。

『もうすぐだ!蓮子!』

『きゃぁああああああああ!!』

悲鳴が聞こえた。

下を見ると、蓮子は足を振り回している。

『離して!離してよこの変態!!』

そう言って、足を振り回している。

どうやら足を掴まれているようだ。

『っ!!』

蓮子が、先ほどの覆面女の傷口を思いだし、

腕の傷口に蹴りを入れると、

『あああああああああああああ!!』

と、また金切り声を上げた。

『うぇえええええん!えええええええ!!ええええええええん!!』

また、赤ん坊のような泣き声が響く。

僕たちは、すぐさま上へと登っていった。







病院内を抜け出し、

スクーターをおいた場所へと向かい、スクーターに乗った。

『乗れ!早く!』

そう、蓮子に言うと、蓮子は後ろにのり

ぎゅっと、僕の胴に腕を回してしがみついた。

僕は、急発進してその場から離れていった。






あの病院から距離が離れていく。

これで一安心・・・なのだろうか。

『・・・・・・・・・ぐす』

蓮子は、まだ泣いているようだ。

当然だ。あのような恐ろしい体験をしたのだから。

『・・・・・・大丈夫か?』

『大丈夫なわけないじゃない・・・』

蓮子は、僕の背中に額を押し付けてそう言った。

そうだ。大丈夫なわけが無い。

いい加減に、これは報告をしなければならない。

いい加減に動くはずだ。警察も学校も。

そう、明日の事を考え、スクーターを発進させている時

ブーパァァアアアア!!ブゥゥゥパァァアアアアアア!!ブゥッゥゥゥゥゥゥゥパパアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!

後ろで、クラクションがなった。

振り向くと黒いワゴン車。そこに

覆面と、白塗りの女性も乗っていた。

『・・・!』

まだ、終わっていないのか。

僕は、逃げることしか出来ない。

『飛ばすぞ!』

僕が、蓮子にそう言うと、蓮子は僕にしがみつく力が強くなった。

そして、僕たちは走った。

後ろの車から逃げるために、全力で

『・・・ぐぅっ!!』

街は、街はもうすぐだ。

あそこまで行けば、僕たちの勝ちだ。

そう、必死に自分に言い聞かせてスクーターを発信させる。

ブーパァァアアアア!!ブゥゥゥパァァアアアアアア!!ブゥッゥゥゥゥゥゥゥパパアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!

クラクションの音は今も絶え間なく鳴らされる。

頭がおかしくなりそうだった。

だが、着実に街へと近づいていた。

『早く・・・早く!!』

そして、街にたどり着いた

その瞬間、車は

方向がずれて、木に激突した。

『!?』

大きな音を立てて木に激突した車に気を取られ、急停止した。

そして、その車をよく見ると・・・

もう既に、運転席や中には誰も居なかった。

『・・・・・・・・・』

近くには、まだ奴らが居る。

それが明らかだと知った僕たちは、すぐさまその場から離れて

街へと向かった。








【霖之助の部屋】

スクーターは、ちゃんと店の主人に返して、謝罪をした。

その後、僕たちは歩いて家路について

蓮子は、何も言わずに僕の腕にしがみつき

僕たち二人は、決して離れることなく家へと向かった。

『・・・・・・』

蓮子を一人で帰らせるわけにも、僕も一人で帰るわけにも行かなかったため、

蓮子は僕の部屋に泊まることとなった。

『・・・・・・・・・・・・』

その間、僕たちは終始無言だった。

一刻も早く、今日の出来事を忘れたかったからだろう。

だが、僕は忘れることが出来ない。

何しろ、僕は長谷田を救い出せていない。

まだ、僕とこの事件の戦いは終わっていない。

もう、手遅れかもしれないけれども・・・。

僕たちは、寝るまでずっと何も言わずに過ごしていた。











【霖之助の部屋】

翌日

今日は学校を休むこととした。

噂では、変態倶楽部は学校の中にあると言っていた。

となると、あの狂った団体は学校の関係者の可能性もあるとして危険だと察知したからだ。

『・・・・・・メリーは、大丈夫かしら』

今日初めて蓮子が発した言葉は、それだった。

僕も思った。蓮子があの団体に拉致されたとき

メリーはその後、どうなったのだろうか。

メリーも、連れて行かれた可能性もある。

そう思って、僕はメリーに電話をした。

3コールで出た。

《ももも・・・もしもし!》

向こうは、かなり緊張しているようだ。

『・・・・・・ただいま』

そう、告げると

しばらく沈黙が流れ、そして

嗚咽と泣き声が、電話の向こうで聞こえた。

《うえ・・・霖くん・・・・・・霖くんなんですよね・・・?無事・・・なんですか?》

すると、蓮子が電話を奪い取って

『無事なんてものじゃない。私も助け出してくれたんだから』

そう、メリーに告げた。

すると、急に蓮子が怪訝そうな顔をした。

『どうした?』

『・・・・・・切れちゃった』

そう言って、僕に携帯を返した。





10分後、乱暴に玄関が開かれる音がした。

扉には、メリーが立っていた。

猛烈な泣き顔で、嗚咽と共に

『蓮子ちゃん・・・・・・蓮子ちゃぁん!』

メリーは、涙を流しながら蓮子に抱きついた。

ずっと、ずっと泣きながら『良かった・・・良かった』と言っていた。

『・・・本当に、良かったよ・・・・・・』

蓮子も、抱きしめ返して泣き出した。

僕も、良かった。

本当に、良かった。

二人が無事で

あの団体から、救い出せて。

本当に、良かった。

『・・・・・・・・・霖くん・・・』

次に、メリーは僕の方を見て

そのまま、思い切り抱きついた。

『うおっ』

その唐突さに、少しだけ驚いてしまった。

『ありがとう・・・ございます・・・・・・』

そう、僕に言いながら抱きつく力を弱めなかった。

悪い気はしなかったが、少しだけ照れくさい。

そう思ったとき、メリーのカバンに目が行った。

『・・・・・・また、箱が入ってる』

僕がそう言うと、メリーは顔を上げて自分のカバンを確認した

『・・・・・・・・・』

そこには、あの忌まわしい箱が入っていた。

今度は、何が入っているのだろうか。

まだ、この事件は終わっていない。

そんな事を確信しながら、僕は覚悟を決めて箱を開けた。

中に、入っていたのは・・・・・・

『・・・・・・・・・・・・え?』

ビデオテープだった。

血も、精液もついていない

ただ、普通のビデオテープ

『・・・・・・見ろって・・・事か?』

僕は、そのビデオテープを取り出し

ビデオカメラにセットして、再生をおそうとした。

『・・・・・・見るの?』

『見なければ、前に進めない気がする』

蓮子の言葉に一瞬躊躇しながらも、僕は再生ボタンを押した。






【????】

ビデオカメラは、昨日の日付を表していた。

場所は、恐らくあの変態倶楽部の中だ。

真ん中に、手足を千切られ、片目を失くしただるまとなった女が横たわっている。

『・・・・・・・・・』

長谷田だった。

この幼い顔立ちと、三つ編みの跡を見て、それが長谷田唯だということに気づいた。

強姦された跡もあり、傷だらけの身体。

最早、ボロボロな身体よりも悲惨な物へとなっていた。

《・・・・・・あ・・・・・・ああ・・・・・・》

すると、画面の端から何か生き物が現れた。

大きな蛇だ。

大きな蛇が、長谷田の身体の端から食べようと口を開き

顎を外し、徐々に飲み込もうとしていた。

長谷田は、抵抗しようとしていない。

《ママ・・・・・・パパ・・・・・・》

長谷田の声を聞いた、僕は驚愕した。

その声は、そのガラガラ声は

女子トイレで泣いていた女の声と、全く同じだったからだ。

あの時近くに、彼女が居たのだ。

あの時、彼女は逃げ出そうとしていたのだ。

僕は、それを結局助け出せずに見殺しにしたのだ。

『・・・・・・・・・・・』

長谷田の目から、涙が一筋流れていた。

その目には、一切光が無く濁んでおり

生気を全く感じない目をしていた。

蛇は、長谷田の下半身を全て口に入れ、

もう、長谷田は動こうともしなかった。

その後は、長谷田は死んだように動かなくなり

ついに蛇が長谷田を全て食べた後

長谷田の姿が、全く見えなくなった後

砂嵐が流れて

そこで終わっていた。







【学校】

その映像を見てから、僕たちは無線機をメリーから借りる事とした。

携帯よりも簡単に通話が出来、使いやすく

何より身の安全の為だと言う為にだ。

『・・・・・・』

警察には、もう行っている。

あの廃病院の中を調べるために、特攻隊のような色柄の人たちも突っ込んだからだ。

だが、もうその病院は蛻の空だったらしい。

部屋も掃除された後があり、血痕はほとんど残って居なかったが、

血液反応は出たそうだ。今、本格的な調査が警察で行われている。

『・・・・・・・・・・・・』

そして、僕は

長谷田を救い出すことができなかった。

見殺しにしてしまった。

もしかしたら、蓮子と逃げるときに

長谷田はそこに居たのかもしれない。

まだ、蛇に飲まれている最中だったかもしれない。

まだ、飲まれていなかったのかもしれない。

『・・・・・・・・・僕は・・・』

僕は、相談する人に相談するべく

生徒会室へと向かった。










【生徒会室】

『・・・・・・・・・』

さすがに生徒会長も、このことは耳に通っているらしく

同情するような目で、僕を見つめていた。

『・・・本当に、そのような倶楽部があったのね。』

『・・・・・・・・・』

『私も迂闊・・・だったのかもしれないわ。長谷田さんも・・・・・・』

『・・・・・・・・・』

『・・・ごめんなさい。今、あなたにこんな話をするべきじゃないわね。』

薫子生徒会長は、苦笑いして答える。

『でも、私は思うの。長谷田さんは、きっと貴方に助けを求めていない。逃げて・・・って、思っていたのかもしれないわ。』

『・・・・・・・・・そんなこと、思っていたのですか?』

『あくまで予想だけどね。』

そう、薫子はふふっと笑った。

『だから、あなたは貴方で戦うのも良いかもしれない。だけど、それだときっと”無茶”になるんじゃない?それだと、長谷田さんの願いと裏腹になってしまう。』

『何が言いたいのですか?』

『だから、きっと・・・休むことが必要だと思うの。貴方は』

そう言って、薫子は僕の手に手を重ねた。

『今度、私の行きつけのカフェに連れてってあげるわ。霖之助くんは、コーヒー飲むかしら?』

そう、言われて

僕はおかしくなって、少しだけ笑った。

『ははは・・・。それは勿体無いお言葉です。かくいう僕も、今回の事件で思ったことがあるんです。』

そう言うと、薫子は興味深そうに

『あら?何かしら』

と、そう言った。

僕は、今回の事件で思ったこと。それを正直に薫子に伝えた

『お前、変態倶楽部だろ』

僕がそう言うと、薫子はしばらく無表情なり

しばらくして。小さく微笑んだ。

『どうして?』

『最初におかしいと気づいたのは、前に二度会った時に見たおしゃぶりです。』

『あら、やっぱり見られてたの。恥ずかしいわ』

薫子は、優しく微笑みながら答えた。

『次におかしいと感じたのは、ファイルを見せてもらった時です。そのファイルには、確かにあの時の事が偽り無く書かれていましたが、重要な部分が、様々省かれていました。』

『ふぅん?省かれていたというものは?』

僕は、ポケットから新聞の破片を取り出した

『これです』

その新聞には、増田古奈と書かれており

よほど小さな記事だったのだろう。ほとんどの事が記載されたままだった。

『森の中で、変死体で見つかった者が、増田古奈である可能性があると明記されています。これがファイルに無いというのは可笑しい。』

そしてその新聞の欠片を持って、ファイルの方へと指差した。

『これは、もともとファイルにあったのを燃やした物では無いだろうか。』

『でも、そのファイルがあったのは一年前よ?その新聞はいつ頃の新聞?その新聞の時には探偵倶楽部なんてものは無かったと思うわよ』

『僕は”可能性がある”と言ったのです。』

『どうしてそう思うの?』

『探偵倶楽部というのは、そもそも存在してたのでしょうか』

そう言って、僕はファイルを取り出して開いた。

『薫子さんが”探偵倶楽部”と言っただけで、このファイルには”探偵倶楽部”なんて単語はありません。何か、どこか自作自演に思えるのです。』

『・・・・・・自作自演?何のために?』

『仮説としては、調べる人を”変態倶楽部という存在を知らせる為”』

そしてファイルを閉じ、再び棚に戻した。

『権利の提出を共用して、いかにその資料が大事であるかを自ら”訴えて”倶楽部におびき寄せる。すれば馬鹿みたいに変態倶楽部を探す輩が現れる。そうすれば、格好なターゲットになりやすい』

そして再び、生徒会長の方へと目を向けた。

『この資料に”変態倶楽部”という名前が明記されているのも、その為でしょう?』

『・・・・・・・・・』

『この新聞を燃やしたのは、もう一つ都合の悪い事が書かれていたから。』

切れ端の端に書かれている、もう一つの単語

『灰でほとんど見えませんが、写真を見る限り何かを握っていたようですね。一体何でしょう。』

『・・・・・・・・・さぁ、なにかしらね』

『しかし、握っていたものが知れると恐ろしいから燃やされていたんですよね?』

そう、彼女に問い詰めていく

『・・・それで、次に分かったことは?』

『それだけです』

そう言うと、薫子は笑い出した。

『ふふふ。それだけの仮説を考えて、私が変態倶楽部なのですか?少し・・・証拠不足のように思えますが』

『まぁ、少なくとも僕は、貴方に容疑者として見ているってだけですが。』

『ふぅん。良い気はしないわね。』

そう言ってきたので、僕は提案した。

『はい。ですから完全に容疑を晴らす為に一つお願いがあります。』

僕は、薫子の顔を見て問いかけた。

『僕は、変態倶楽部に乗り込んで、覆面を被った女に傷をつけました。それが間違いないなら、傷はまだ残っていると思います。』

薫子の表情は、先ほどまで笑っていたのに対し、

瞬間、無表情に変わった

『なので、腕を見せて頂けませんか?そこに傷が無ければ、あなたは完全に容疑者から晴れて外されます。』

『・・・・・・・・・・・・・・・』

『・・・・・・・・・』

『・・・・・・・・・・・・・・・・・・』

薫子は、おもむろに立ち上がり

僕の方へと、ゆっくり近づいてくる。


『・・・どうかなされましたか?』

僕がそう答えた瞬間、薫子は服を脱ぎ始め

腕の包帯を、僕に見せつけた。

『・・・・・・』

そして。急に薫子は動き出し

僕の首を絞めた

『・・・・・・ぐっ・・・・・・!』

薫子は無表情で僕の首を絞める。

ギリギリッギリギリッと、僕の首を絞める。

力で言えば、僕の勝ちだ。

だが、僕は敢えて反抗しようとせず、その攻撃を受けていた。

『パパ・・・・・・パパ・・・・・・』

薫子は、無表情でそうつぶやき、目尻には涙を浮かべていた。

パパ

それが一体何の意味なのか、僕にはわからない

僕は半妖だから絞め落とすには時間がかかるのだろう。

力を強くしてきた。

『・・・・・・っ』

ギリギリと、爪が首に食い込む

痛い。さすがにこれは痛い。

『・・・パパ・・・・・・』

薫子は、僕の首を絞めながら

顔を近づき、接吻してきた。

『・・・・・・っ!』

息が、出来ない

このままでは、本当に死ぬかもしれない。

そんな事を思って、ジタバタしている。

薫子は、離れようとしない。


息が

死が

そんな事を思っているうちに、扉が乱暴に開けられた。

『らぁあああああああああ!!』

次に、蓮子の声が響く。

蓮子は、薫子に向かって飛び蹴りをした。

その時、ようやく薫子は僕から離れた

『ゲホッ!ゲホッ!』

思わずむせてしまい、僕は咳き込んだ。

『大丈夫ですか?霖くん・・・』

メリーは、心配そうに僕に近づいた。

『一体・・・一体何のつもりなのよ・・・!!』

蓮子は、憎むような口調で薫子を睨みつける。

先ほどの会話は、無線機で彼女たちに筒抜けだったからだ。

全ての話を聞いていたし、先ほどの首絞めの時はもう既に近くにいた。

だからだ、僕が反抗をしなかったのは。

その時、薫子の瞳からボロボロと涙が流れ、

『うぇぇえええええええええええええん!ええええええええええええええええん!!』

あの時聞こえた、金切り声が聞こえた。

まるで、赤ん坊が泣いてるような声だった。

手をジタバタさせている姿は、本当に幼い子供のようだった。

股を見ると、失禁していた。

僕たちは、その姿を見て

狂気しか感じられなかった。









【学校】

薫子沙耶香は、その後警察に保護され逮捕された。

先ずは精神病院に入れられるかもしれないが。

これで、本当に終わったような気がした僕たちが居た。

後日、次に三年の在学生が逮捕された。

一年の在学生二人

二年の在学生一人も、

彼ら、彼女らはあの変態倶楽部の一員だったらしい。

新聞倶楽部の中の一人も、変態倶楽部の一員だった。

恐らく、そいつが長谷田を捕まえたのかもしれない。

次に、警察の中からも逮捕者が出た。

警察の中にも、変態倶楽部の一員が居たというだけで、

この現実社会というものに更なる得体のしれない恐怖を感じた。

当然、この変態倶楽部についての新聞は、学校の掲示板に大々的に公開された。

変態倶楽部の件が、完全解決されたとしても、

今までずっと過ごしてきた学校生の中に得体のしれない奴が居たとして

僕たちは、そいつらとずっと過ごしてきたのだ。

得体の知れない恐怖を、今からでも常に感じてしまってもおかしくない。

それに、まだ全員捕まっていないのも事実だ。

捕まったのは今のところ6人だけだが、

あの倶楽部の中には、僕が見た限りでは13人居たからだ。

まだ終わっていない。

終わりは、きっとまだ先だ。

変態倶楽部は、僕たちが見た変態倶楽部だけではない。

別のところでは、別の変態倶楽部が生息していて

きっと、僕たちが思っている以上にその倶楽部は多く存在している。

この恐怖は終わらない。

知らなければ良かった事実に後悔しながら僕たちはずっと生きていくのだ。




【新聞倶楽部 部室】

『・・・・・・・・・』

今や廃部となった新聞倶楽部の中に居た。

彼女の作っていた新聞はどんなのか、少しだけ知りたくなったからだ。

先月から見ていくと、なんだか派手で、大げさに取り扱っているものが多かった。

だけど、記事はどこか正義感にあふれていて、二度とこんな事が起こらないように願っている言葉が多かった。

とても彼女らしい、楽しくて面白くてえげつない記事ばかりだ。

『ははは・・・』

自然に、笑いが出てきた。

こんなに面白い新聞を、どうして僕は見ていなかったのだろう。

本当に、惜しい人を亡くした。亡くしたよ。

次の、棚の上の新聞を見つけた。どうやら今週号らしい。

まだ作りかけで、完成すらしていないが

新聞には、大きくこう描かれていた。



《変態倶楽部ついに壊滅!明かされる変態倶楽部の実態とオカルト倶楽部の武勇伝!!》








〜蛇足〜

警察の事情調査について、僕が気になったことを警察に問いかけてみた。

『・・・増田古奈、という人を知っていますか?』

『ん?懐かしい名だね。一年くらい前だったかな?行方不明になったんだよ。数週間後、死体で発見されたけど』

あの新聞の通りだった。

もし、変態倶楽部に属していた警察官だったら教えてすらくれなかっただろう。

そう思うとゾッとした。

『・・・写真を見る限り、何かを握り締めてるように見えたのですが・・・何を握っていたか知りませんか?』

警察にそう言うと、頭を掻いて唸っていた。

『ん〜・・・。なんだか良く分からん物なんだよなぁ・・・』

『分からない?』

『いやね、何かのドアノブだったんだよ。結構特殊な形でね。逆方向に鍵をかけられるんだ。どこのドアノブなんだろうね。これ』

僕は、その言葉を聞いて

一つ、ドアノブが取れていた部屋を思い出した。

『・・・・・・・・・』

あそこで、逃げる為に必死だったのか。

ドアノブを壊して、錯乱してそれを持って行って

あそこまで逃げたところで、命尽きてしまったのか。

今、その変態倶楽部は散り散りになっている。

せめて、その変態倶楽部の崩壊を見て、それで浮かばれて欲しい。

僕は、そう願うことしか、出来なかった。







〜蛇足2〜

私は、愛が欲しかった。

両親は居なくて、施設で育った。

天涯孤独だった。

お父さんってなんだろう。お母さんってなんだろう。

そんな事を思って、私はどうしても愛が欲しかった。

施設の先生はいつも私に暴力を与えて

私の汚いところを触ったりして

『これが愛だ』

と、いつも言っていた。

愛って、こんな痛いものなのかな。

愛って、こんな気持ち悪いものなのかな。

私は分からなくなって、施設から飛び出した。

そこは、コンクリートの地下室のようなところで

人間を痛めつけて、喜んでいるところだった。

痛め付きすぎて、死んじゃった人も居た。

ああ。これが愛なんだなぁと理解した。


私は、倶楽部が動きやすくなるように学校で行動を起こしていた。

生徒会長になったのは、より人を増やすためでもあった。

疑われない為でもあった。たかが噂だと思わせるためでもあった。


『・・・・・・・・・りん・・・』

長谷田唯という者は、新聞倶楽部の一人が連れてきた。

私には関係無い人だったから、放っておいた。どうでも良かった。

『の・・・・・・・・・』

蓮子という人物が、倶楽部に連れてこられた事を知った。

一度見に行こうと、近づいたとき

その時に、彼が来た。

『すけ・・・・・・・・・』

私も、連れてって欲しかった。

私を置いて、行かないで欲しかった。

私も、貴方から愛を受けたかった。

誰もが受ける、優しくて暖かい愛を

『さぁ!もういっちょやってみよーか!』

強姦、拷問

これが、愛じゃ無い事を知ったのは、

死に間際だった。


『・・・・・・さようなら・・・』






産廃では未公開の秘封霖倶楽部を公開することになりました。二話まとめてなので長かったですかね。
次は新作を投稿しますので、そちらの方もよろしくお願いします。
ND
作品情報
作品集:
10
投稿日時:
2014/06/06 17:18:10
更新日時:
2014/06/07 02:18:10
評価:
3/3
POINT:
300
Rate:
16.25
分類
森近霖之助
宇佐見蓮子
マエリベリー・ハーン
オリキャラ
洒落怖
簡易匿名評価
投稿パスワード
POINT
1. 100 名無し ■2014/06/07 14:32:08
げに恐ろしきは人間か。妖怪の跋扈する幻想郷より現実の人間の方が怖いとは。
2. 100 名無し ■2014/06/11 00:07:36
初期の段階で、伏線の張り方と物語構成が上手いですね。
3. 100 名無し ■2014/06/12 00:28:14
このシリーズ大好きなんですが、他所のサイトだと見辛かったので有難いです。
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