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『私と私の境界』 作者: 卑金属

私と私の境界

作品集: 11 投稿日時: 2014/08/26 14:21:49 更新日時: 2014/08/26 23:21:49 評価: 4/4 POINT: 360 Rate: 15.40
 



自らの十指の第二関節が全て体から離れたとき、博麗霊夢はようやく自分の命の危機というものを察することができた。

――常人ならば、二十年来の友人と悪巧みをしている際、突然体の一部を吹き飛ばされたとして、疑いや復讐よりも、驚きや狼狽が勝るというものだ。



「ぁううッ…!!魔理……沙ッ!!こんなことして……、あとで…どうなるか…、わかってるの…!?」

「知らんよ」



たった一言。それ以上でもそれ以下でもなく。

口調こそ違えど、それは昔の霊夢のように、今目の前で苦しんでいる親友の面影のように、発した霧雨魔理沙の言葉だった。


魔理沙とて、このような霊夢の表情を見るのは初めてのことである。しかし、驚きはない。

当然のように眼に涙を溜め、当然のように「なぜ?」を問いかけるような顔をみせてくれるだろうことは想像に難くなかったのだ。


昔の霊夢ならば、きっと、何も言わず、無表情のまま、自らの死を待っただろう。

昔の霊夢ならば、きっと、情に訴えることなど考える間もなく、魔理沙のことを成敗しただろう。

昔の霊夢ならば、きっと、魔理沙が邪心を具えて博麗神社に来た時点で、疑いをかけていただろう。



「手首を落としたつもりだったんだがな。流石だよ、霊夢。」

「はぁ!?……ッ!!そういうこと言ってんじゃ…」

「お前に術やら武器やらを使わせないためだよ。私じゃお前には勝てん。」



それは魔理沙自身、よくわかっていたことだ。

私には霊夢に勝つことなどできない。

昔から、そうだった。

あの冷酷さを、平等さを、身勝手さを失ったところで。

だからこそ。

今まで耐えてきたんだ。

霊夢を霊夢だと認められなくなってから。

霊夢を霊夢だと認識できなくなってから。

ずっと。ずっと。



「うぅ……ッ…。はぁ…はぁ。」



霊夢は辛うじて残ったその掌で、はいつくばりながらも逃げようとしていた。

もう気づいていたのだ。魔理沙が今日ここに来た理由も。小金儲けの悪巧みだと嘘を吐いた理由も。



「お前が、ずっと、そういう風、だったら……」



或いはこんなことにはならなかったかも知れない。

霊夢にその言葉は届いたのだろうか。

――届いたところで、その責任を霊夢に問うのは、お門違いであるのだ、が。


魔理沙は、霊夢の後頭部に手を伸ばし、そのまま床に叩きつけた。



「ぅあぁぁッ!……もう……やめ…て……。魔理………沙……。…ウッ……!!」

「紫なんて呼ばせないぜ?自分の張った結界で嵌められるとはとんだ様だな。」



「…ッ!!!」



「気付いてないとでも思ったのか?醜いな、霊夢。そこはかとなく醜いよ、霊夢。昔のお前なら、私に嵌められたりしなかっただろう?昔のお前なら紫に縋ろうなんて思わなかっただろう?昔のお前なら……」



「うるさいっ!!私は今博麗の巫女として人間とも妖怪とも仲良くやっていけることに満足してる!これが私の幸せなの!!二十年かけてようやく掴んだ、幸せなのよ!!昔のバカだった私を無理やりにでもこうしてくれた紫や、魔理沙に感謝してたのに……ッ!なのに………ッ!!なのにぃ……」



「それが醜いといってるんだ!!」

「私はお前をそんな風につまらない奴にしたかったんじゃない!!」

「私は、お前にお前のままでいてほしかっただけなんだ!」

「霊夢は、私にとっての霊夢は、私の中に在る霊夢でなくちゃいけないんだ!!」

「なのにッ、あんな胡散臭い妖怪の言葉に騙されやがって!!」

「何も考えず、天性の才能に縋った結果がこれか!?」

「これじゃあ、お前は幻想郷のための生贄じゃないか!?」

「これじゃあ、お前はあいつの慰み者でしかないじゃないか!?」



「そんなことない!!」

「私はッ、今の私はッ、私の意志で幻想郷の理として生きてる!!」

「それにッ、紫は私のことを愛してくれている!」

「あなたにはわからないかもしれないけど!」

「誰にもわからないかもしれないけど!!」

「これが、あいつなりの気持ちだってどうして……」




「私だってお前のことを愛していたさ!!」




「……え…………?」




何かに気付いたような霊夢の表情。

しかし、その"何か"は、魔理沙の思う所と異なっているだろう事実に魔理沙は気づいていた。

その事実こそが、最も魔理沙を苦しめた。



「なあ、霊夢…。」

「お前はもう、とっくに、お前だけのものじゃないんだよ……。」



霊夢の体力は限界に近づいていた。

それでも最期の力を振り絞って抵抗しないわけにもいかない。

せいぜい仰向けになって、魔理沙と面を向い合せてしまう程度のことだというのに。



「魔理沙…」

「私が…、魔理沙の、気持ちに気付けて…れば……、」

「こんな…ことには、なら…なかったの……?」



虚ろな目に、涙を浮かべながら。

しかし、尚、かつての友人の目を深く見つめて。



「霊夢…」

「違うんだ…そうじゃないんだ…」

「霊夢…わかってくれよ…」



私はいつから泣いていたんだっけ?

ああ、そうだ。最初に霊夢に怒鳴られたときだった。


「もう、いいよ…霊夢……」

「どうして……」






「私は、お前に、霊夢に、なりたかった、だけなのに」






「………………え?」



今度は、自らの理解が及んでないことを示す、霊夢の表情。

そのとき、魔理沙の中で、ひとつの境界が崩れる音がした。






「なあ霊夢――、私は――――、愛しているんだぜ?」






泣きながら、笑っていた。



 *  *



今日、博麗神社に来た時点でもう諦めていたんだ。今更やることが変わるわけでもない。

何度も、何度も、取り返そうとしてきたんだ。

私は、博麗霊夢を、博麗霊夢がなってしまった、博麗霊夢となってしまった"もの"を殺す。

大丈夫。名前など、"それそのもの"を理解するための道具でしかない。

私は知っている。"霊夢"を知っている。

"霊夢"は、私の中に生きている。

私が"霊夢"を生き返らせるのではない。

私が"霊夢"になるのではない。

私が"霊夢"なのだ。



 *  *  



「なあ霊夢。不便だと思わないか?つまらないと思わないか?」

「いや全くだ。ああつまらない。」

「人間は一度しか死ねないなんて。」

「でも、大丈夫。」

「私は、私を知れるんだ。」



手始めに顔に一発、腹に二発。

二十歳前より益々美しく整った霊夢の顔はたった一払いで見る影もなくなった。



「うぁぅ・・・。痛いぃ・・・。やだぁぁ・・・」



人間は体が殆ど動かなくなったところで、死ぬことも、意識を失くすことも、声を失うことも、そう簡単にできるものではない。

特に霊夢のような人間ならば尚更である。

ただ、為すがまま。

私の。

魔理沙は、霊夢と一つになれることに、何か一つの"意志"が失われることに懐かしい喜びを覚えた。



「ッ!!…かはっ・・・!」



両の手で首を絞める。勿論死なない程度に。

まだまだ私は死なない。

まだまだ知りたいんだ。

私の足りない私を。



「魔理……沙…、どう…して……、むかしの、・・・わたし…の、ともだち、だっ・・・た・・・ま…り・・・さ……は・・・・・・」



霊夢の的外れな言葉は、もはや魔理沙には届かない。



「あー?」

「違うな、霊夢。私は友達だったんだ。私は親友だったんだ。」

「もっと教えてくれよ」

「ほら、息をさせてやるから」




「けはっ……はぁ・・・はぅ・・・」

「あうぅぅ・・・、しにたく、ないよぉ・・・ううっ・・・」


「ねぇ、まりさ・・・。」

「もうねぇ・・・、どうでも、よくなっちゃったぁ・・・」

「ゆかりのことなんて、わすれてさ・・・」

「ふたりでいっしょに・・・」




私は殴った。

それだけは許さない。

今でも、わかる。



「あああぁっ・・・ううぅ・・・・・・」

「ね・・・?わたしの、あいを、」

「わたしを、」

「ぜんぶ、」

「あげるから・・・」



気味の悪い笑みを浮かべながら。

もうそこには、博麗霊夢すらいない。

ああ、少し前なら、ここで結界を破ってもよかったかな。

でも、もう。私なんだ。

だから。

もういらない。

私じゃない私なんて、いらない。



「もう言葉はいらない」

「最期に私から教えてやるよ」



さようなら。

これからも、よろしくな。




「私は、霊夢を、愛している」




だから――――




「霊夢の愛、なんて、いらない」




紡ぐまでもない言葉を、並べて。

左腕めがけて、魔法を放った。



「ああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッ!!!!」

中威力の魔法とはいえ、人間の腕と体を切り離すことなど容易い。




もう、言葉は、届かないんだ。

私のも。私にも。

だから、私に、


響き渡る慟哭を、
心震える戦慄を、
緊迫する鼓動を、
溢れ出る血潮を、
躍動する醜態を、

痛みへの懺悔を、
妬みへの後悔を、

苦しみの方法を、
悲しみの表情を、

死への恐怖を、



見せてくれ、霊夢。



 *  *



左腕を切り離してから小一時間。

もう"これ"にはまともに動く四肢など残っていない。

よくもまあ死なないものだと、感心しないでもないのだが。

私は、知っている。

私の事だから。



「ごちそうさまでした」



霊夢は自分で作った飯にも、食材への感謝を忘れない。



「……まあ。本当に食べてもいいんだけれどな」



いつの間にか、涙は止まっていた。



 *  *



「流石に五秒とかはきついなあ」

「マスタースパークで目くらましだぜ」

「大丈夫だ」

「ちゃんと、死に方、見たからな」

「愛しているぜ、霊夢」

「愛しているわ、紫」



 *  *



その日幻想郷から消えた人間の数は、二人では済まなかったという。





 
 
 


 
突然お邪魔しました。

この物語の原題1は「きりさめまりさのあかちゃんがえり」でした。もろもろの都合によりボツになりました。

この物語の原題2は「むなくそまりさちゃん」でした。よく考えるまでもなく、れいむちゃんもゆかりちゃんもむなくそでした。

魔理沙さん難しいです。素直にゆかれいむのいちゃいちゃストーリーを書いとけばよかったのかと思わないでもないです。
卑金属
作品情報
作品集:
11
投稿日時:
2014/08/26 14:21:49
更新日時:
2014/08/26 23:21:49
評価:
4/4
POINT:
360
Rate:
15.40
分類
霧雨魔理沙
博麗霊夢
八雲紫
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POINT
1. 100 NutsIn先任曹長 ■2014/08/27 06:18:22
かつての親友は変わってしまった?
わたしは私? あなたは貴女?
りくつじゃない。理由もいらない。
はなから話になっていない。
いったいどういうこと?
つまらない痴話喧嘩?
ぱっと見、病んだ魔理沙の話かと思いきや……。
いなくなった者達が皆、霊夢であり魔理沙であったのか……。

ゆかれいむイチャコラ話はまかせて♪
2. 60 名無し ■2014/08/28 01:13:39
深すぎて意味わからん!
3. 100 ギョウヘルインニ ■2014/08/28 22:33:28
最近は、家電とか壊れたら修理するより新しいの買ったほうが早いから霊
4. 100 ロム専 ■2014/09/12 22:30:08
霊夢「う、羽毛・・・」
魔理沙「暴れんなよ、暴れんなよ。お前のことが好きだったんだよ!」
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