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『Last Resort』 作者: NutsIn先任曹長

Last Resort

作品集: 11 投稿日時: 2014/09/20 19:10:01 更新日時: 2014/12/06 17:21:59 評価: 5/7 POINT: 540 Rate: 14.13
幻想郷の管理人、八雲 紫。
楽園の素敵な巫女、博麗 霊夢。

幻想郷の二大守護者であり、幻想郷一のバカップル。

二人は疲弊していた。





夏、幻想郷は混乱の極みにあった。

幻想郷史上まれにみる野分(台風)による水害、風害。
大地震による、耐震構造でない建物や崖の崩落。
それらが直接的、間接的に影響しての火災。

それら天災に乗じての人災、妖災も多発した。

命蓮寺の教えを曲解した妖怪達の不逞分子の蜂起。
豪族達の教えを誤解した人間達の不逞分子の蜂起。
面白そうだからと武装して集まった与太者共の蜂起。
それら暴徒達による略奪、暴行、陵辱、殺し合い。

幻想郷の各勢力は、自分達の領地(シマ)の騒乱は自分達でなんとか収拾した。
あくまで、なんとかである。
他方に助っ人を差し向ける余力など無かった。

そこで、ワンマン大量破壊兵器である霊夢と紫が幻想郷中を飛びまわった。

スペルカードに記載されている大仰な技が、殺傷能力を込めて発動された。されまくった。
霊夢は博麗の巫女の力を解放し、紅白の巫女服を、御祓い棒を、幼さの残る美しい顔や肢体を自分や他人の血で染めた。
紫は暗躍して、在野の実力者の助力を仰ぎ、烏合の衆を疑心暗鬼に陥れ、各勢力に潜む獅子身中の虫を駆除した。



この『お祭騒ぎ』は主に紫と霊夢が全力で尽力したため、僅か一週間で収束した。
だが、祭には後片付けが付き物。
幻想郷の復興である。

紫と霊夢はすっかり疲れ果てていたが、まだまだ働けた。

紫と霊夢はすっかり弱体化していたが、まだまだ戦えた。

二人はやつれた顔に化粧を施し、幻想郷の今後の事を決める会議に出席した。

会議場に居並ぶ幻想郷中の実力者達。
幻想郷を支配する有力勢力の頭とその忠実な部下達。
紫と霊夢の親友達の姿もあった。



紫と霊夢は、すっかり疲れ果て、弱体化していた。

それこそ、幻想郷の手足れ(てだれ)達――会議の出席者達が一致団結して襲い掛かれば倒せるくらいには。

最強のスキマ妖怪も博麗の巫女様も、彼女達の『最終手段』の前にあえなく身柄を拘束された。



毅然とした態度で『友人達』と対峙する紫と霊夢。
その二人の前に立ち、周囲を涙目で睨みつけるサニーミルク、ルナチャイルド、スターサファイア。
三月精はこっそり霊夢達に付いて来て、この事態に遭遇したのだ。
懇意にしてもらっている二人を護ろうとしているようだが、表情は霊夢に悪戯が見つかって紫の背後に逃げ隠れした時のそれであった。

霧雨 魔理沙は感心したようにニヤついた。
西行寺 幽々子は扇子で顔を隠して目で笑った。
周囲は概ね、健気な妖精の態度を好意的に受け取った。



なので、彼女達も一緒に幻想郷から追放することにした。



取り囲まれた紫達は、1時間ほど一同から茶菓のもてなしを受けた。
紫は泰然として、霊夢は憮然として、三月精は悄然として、咲夜に給仕されながらそれらを口にした。

「お待たせしました」

『追放』の準備を終えたらしい紫の腹心の式神、八雲 藍が主達を拘束した連中の中から一歩前に進み出た。
試しに紫は藍に式神の強制停止コードを発したが、予想通り受け付けなかった。
藍は紫から貸し与えられた術でスキマを開いた。

「どうぞ、お入りください」

慇懃に紫達に告げる藍。

「お前等とお別れなんて、悲しくて涙がちょちょ切れるぜ☆」
「さあ、おいきなさいな♪」
「幻想郷は私達が宜しく仕切っとくから安心して頂戴♪」

笑顔で紫と霊夢、三月精に餞の言葉を送る幻想郷の代表者達。

色々と思うところのあった紫と霊夢だが、スキマに消える寸前に浮かべた表情は、苦笑であった。





☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★





スキマを抜けると、そこは夕暮れだった。

野原に土むき出しの一本道。

道の脇には、一定間隔で街灯付きの電柱が並んでおり、途中にポツンと家が一軒見えた。

紫は背後を見た。

彼女達が半ば突き飛ばされるように入れられたスキマは既に消えており、道が続いていた。

紫はスキマを発動しようとしたが、能力が封じられているようでそれは叶わなかった。

同様に霊夢も空を飛べなくなっており、二人の挙動を見た三月精はなにやら力んだ。
何事も起きなかった事から、光の三妖精も能力を失っているようだ。

いつまでも道のど真ん中でじっと――妖精達は、未だに能力を発現しようとジタバタしているが――していてもしょうがない。
とりあえず、歩くことにした。

一分も歩かないうちに、先程見えていた家の前に辿り着いた。
木造モルタル二階建て。
外のセカイの昭和時代後期によく見られた住宅である。

門柱の表札には、

八雲 紫
博麗 霊夢
サニーミルク
ルナチャイルド
スターサファイア

と書いてあった。



「ここが私達の家のようね」
「……らしいわね」
「「「……」」」

紫は門を開けると、僅か数歩先にある玄関に歩き出した。
霊夢も後に続き、一歩歩いたところで後ろを振り向いた。

「あんた達もいらっしゃい」
「「「は、はい……」」」

霊夢と怯えた様子の三月精が歩き出したときには、既に紫は鍵のかかっていない玄関ドアを開けていた。

こじんまりとした玄関で、紫と霊夢が立っているだけで上がり口はいっぱいだ。
紫と霊夢はとりあえず家に上がり、5足用意してあるスリッパを履いた。
サニー達も紫達に倣ってスリッパを履いたのを確認すると、紫は家の奥へと歩を進めた。

紫と彼女の後に続く霊夢と三月精は、家の中を見て回った。

洋風の居間と食堂、台所。
ソファや椅子、テーブルがあれば、カーペットの下が畳だろうと洋室だ。

これまた洋式のお便所と洗面所、風呂場。
河童脅威のテクノロジーがもたらす恩恵と早苗によるレクチャーを受けていたので、霊夢は文明の利器に抵抗は無かった。

狭い急な階段を上り二階へ。

そこにも1階よりは小さいが洗面所があり、トイレまであった。

「これなら朝、待たされる事は無いわね」
「子供の頃は、よく漏れそうな思いをしたわぁ……」
「あら、霊夢のお父さんは長いほうだったの?」
「母様よ。天狗の新聞持ってお篭りしてたのよ……」

それを聞いた紫は、当時の霊夢の父親が浮かべたのと同様の苦笑いをした。

2階にはそれ以外には、廊下を挟んで二部屋あった。
広い部屋には学習机が3つと小さめの箪笥があり、押入れには布団や枕等の寝具が3セット、それに何かが入った箱があった。
狭い部屋には三面鏡が一つと大き目の箪笥があり、押入れには寝具が2セットあった。

「あっちが子供部屋で、こっちが両親の部屋って感じね」
「サニー、ルナ、スター。アッチの部屋はあんた達のよ」
「「「わーいっ!!」」」

さっきまでビクついていたサニー達は大部屋に駆け込むと、押入れに殺到した。
先程中を確認した際に、玩具が詰まった箱を見ていたのだ。

霊夢は玩具に夢中の三月精に、その場にいるように言い、彼女達の生返事を聞くと紫と一階に降りた。

紫と霊夢は、さっきざっと見ただけだった台所を調べた。
包丁や鍋は一通り揃っていた。包丁は霊夢に考慮してか、左利き用が何本かあった。
ガスコンロは二口、魚焼き器付きだ。
食器類は人数分以上はあった。
流しの蛇口からは水とお湯が共に出た。

さて、肝心の食料だが――。

「結構あるわね……」

冷蔵庫には結構な量のパック詰めの肉や魚、野菜に加工食品、ビールやジュースが冷えていた。
冷凍庫の方には氷、冷凍食品、さらにアイスまであった。

霊夢が冷蔵庫を確認するのと平行して、紫は棚や床下の収納庫を検分していた。
調味料や酒瓶の数々、5枚切りの食パン、海苔やお茶葉、コーヒー豆、インスタント食品に缶詰、煎餅やクッキーなどのお菓子、キュウリと茄子が漬かった糠床を発見した。

「うんうん♪」
「紫。切り詰めれば1週間は食いつなげるだけの食料があるわね……」
「あまりその辺は気にしないでいいんじゃなぁい?」
「そう? そう言うなら……」

紫のお気楽な言葉に、霊夢は考え込んだ。
とりあえず、今晩の食事のメニューを吟味しているのだろう。

「ちょっと、散歩がてら表も見てくるわ」
「そう。気をつけてね」
「私を誰だと思ってるのよ♪」
「今は大妖怪の賢者サマじゃなくて、ただの私の恋人だって事、忘れてないでしょうね〜」
「あなただって博麗の巫女様じゃなくて、私の恋人であるただの可愛い女の子でしょ♪」

ちゅっ☆
軽く触れ合う二人の唇。

「いってきます♪」
「カレー作って待ってるわね♪」

霊夢の声を背に受けて、紫は台所出入り口の暖簾を潜って行った。



のんびり歩きながら道の脇に設置してある電柱を数え、108本目で紫は『自宅』に帰ってきた。

見通しの良い一本道である。
真っ直ぐ、真っ直ぐ、まぁぁぁぁっすぐぅぅぅぅぅっっっ!!!!!
歩いたらループである。

「結界の中、かしら……」

紫はそう見立てつつ、さっきから食欲をそそる匂いが漂ってきている『我が家』へと入っていった。



紫がルナ、スターと入浴を済ませ食堂に来ると、エプロン姿の霊夢が台所から出てきた。

「もうすぐお夕飯だから、しばらく待ってて」

霊夢は手にしていた3つの冷奴を宅に置くと、サニーが一本のビール瓶と3つのグラスを持ってきた。

「ジュースが良かった?」
「ビール最高☆」
「いえ……」
「これでいいわ♪」

サニーは三人の同意にはにかむと、瓶の栓を開けてお酌した。

「サニーは飲まないの?」
「ご飯食べた後、霊夢さんと飲むわ」

サニー達がパジャマ姿の三人の相手をしているうちに、夕飯が出来たようだ。

テーブルに5皿のカレーライス、5つのグラスと小皿、サラダの大皿と福神漬けの器、ウーロン茶のペットボトルが置かれた。

「じゃ、いただきましょう」

「「「「「いただきまぁす☆」」」」」



霊夢が巫女服の袖をルーに突っ込んで泣きそうになったり、
サニーとルナがカレーにはソースか醤油かの骨肉の争いをしたり、
スターが紫とこの『結界』について、ビールの酔いに任せて討論したり、
全員がカレーライスをお代わりして、明日の分も考慮して作ったカレーとご飯が尽きてしまったり、

――とまぁ、恙無くディナータイムは過ぎていった。



風呂上りの霊夢とサニーを、紫がエプロンを脱ぎつつ出迎えた。

「ビールでいいわね♪」
「ええ」
「あれ? ルナとスターは?」
「居間よ」

リビングからはなにやら賑やかな音が聞こえてきた。

「二人はテレビのアニメに夢中よ」
「テレビ? そんなのあったっけ? ひょっとして、あの大きな板切れが?」

『テレビ』は香霖堂や無縁塚にあるブラウン管のガラクタとしてなら知っていたが、地デジ対応の薄型液晶テレビジョンは知らなかったようだ。

「あら……」

サニーはビール瓶と自分のグラスを持って居間にすっ飛んで行った。

「あらあら、おこちゃまねぇ♪」

紫はもう1本冷蔵庫からビールを持ってくると、霊夢のグラスに注いだ。

「ありがと」

霊夢は礼を言うと、一息に干した。

普段は和装の寝巻きだからか、パジャマ姿で熱い吐息を漏らす霊夢の姿に、紫はそそる物があった。

霊夢はビール、紫はウィスキーを氷もミネラルも入れずに、それぞれ飲んだ。

アルコールは、二人の蓄積した疲労を露呈させるのに十分だった。

「そろそろ寝ましょうか……」
「そうね。その前に……」

リビングルームでは、ソファで三月精が並んで舟をこいでいた。

紫はくだらないバラエティを映しているテレビを消し、霊夢は三人を優しく起こした。

「寝るなら2階でね」
「「「ふぁあ〜い……」」」

妖精達は寝ぼけ眼で階段を上っていった。
ゴネたりしたら霊夢は優しさをかなぐり捨てる事を、日頃の鉄拳制裁で学習していたようだ。



晩酌の後片付けを済ませた霊夢と紫は2階に上がり、『子供部屋』を覗いた。
ちゃんと布団を敷いて、三月精は眠っていた。
多少寝相は悪いが……。

三人に布団をかけ直すと、紫達は『夫婦の部屋』に入り、布団を敷いて早々に横になった。



すとん。

――と、簡単に紫と霊夢の意識は落ちた。





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多少寝坊した5人は、トーストと目玉焼き、缶詰のコーンスープの朝食を摂っていた。

「今日は何しましょうかね〜」

まだ眠そうな紫は、ルナが淹れたブラックコーヒーを啜りながらそう呟いた。

「探検っ!!」
「お家で本を読んでましょうよ……」
「紫さんと霊夢さんにお任せします♪」

三月精から三者三様の意見が出た。

「庭に小さな畑があったから、ちょっと見てみましょうよ」

紫はコーヒーを飲み干すと、霊夢の意見を採用した。



夏の日差しを浴びる、野良着に麦藁帽子姿の紫、霊夢、三月精。
5人とも、幻想郷で着ていた衣装は洗濯して、『家』にあった服を着用していた。

サニー、ルナ、スターは、手際良く瑞々しいトマト、茄子、キュウリを収穫していった。

「流石の選択眼ね……」
「えへへ……♪」

大好きな霊夢に褒められ、土に塗れた指で鼻を擦るサニー。

「野菜泥棒で鍛えたのかしらね〜♪」
「「「んぐっ!!」」」

紫の耳にも、畑で野菜泥棒をする三人組の妖精の噂は届いていた。

ランチは霊夢が作っておいたおにぎりだった。
ディナーは霊夢が咲夜から仕込まれた、茄子とトマトをふんだんに使ったミートスパゲッティだった。



この日、5人は心地よい疲労に身を任せ、快眠した。





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「あら……?」
「どしたの霊夢ぅ〜?」

台所で棚を見た霊夢があげた言葉を耳聡く聞きつけた紫。

「見覚えないパンがあるんだけど」
「まぁ……。そういう事……」

棚の袋詰めにされたクロワッサンを見て、紫は納得した。

「え……?」
「消費した物資は補充されるようよ」

ここでの生活では、少なくとも飢え死には無いようだ。

「本当みたいね」

冷蔵庫も確認した霊夢は、紫の推理を肯定した。

中のビールや食材が補充されていたのだ。



今日の朝食は和食。
アジの干物を焼いたヤツと赤出汁味噌汁、糠漬けも食卓に並んだ。
紫は2杯、サニーは3杯ご飯をお代わりした。



今日は『家』でノンビリすることにした。

棚にあった菓子を日本茶やコーヒー、ジュースと共にいただきながら居間でテレビを見た。

外界のどこかの地方――N県らしいと紫は言った――の情報番組を見る5人。
郷土料理の特集らしい。

「おしぼりうどんに胡桃のおはぎねぇ……」
「鯉料理!!」

サニーが歓声を上げた。

「あぁ……。鯉は、ねぇ……」

霊夢は以前、土間の瓶にいたはずの鯉が居間を水浸しにして跳ね回っていた、博麗神社で発生した『異変』を思い出して苦い顔をした。

「「「……」」」

三月精は何か思うところがあるのか、困った様子で互いの顔を見ていた。

「ふふ……」

紫は察したのか、何処かの商店の名前が入った団扇で口元を隠して笑った。



有り合わせで作った昼食後、紫達は今度は国民的アニメのDVDを見ることにした。

ずんぐりむっくりの妖が人間の姉妹と植物を急成長させるシーンで、三月精はそのマネをした。

「あんた達、自然の象徴である妖精でしょ。このくらい出来るんじゃない?」
「私達は光の妖精なんで……」
「植物は、その……」
「専門外ですぅ☆」
「やっぱ、幽香か秋の神様姉妹じゃなきゃ無理か〜」

紫は、生育の『境界』を弄ればこのくらいの芸当は出来ると内心で思ったが口には出さなかった。
幻想郷から持ってきた愛用の日傘を、悪ガキ妖精達の玩具にされるのは御免だ。



今日は一日中のんべんだらりとした一同だが、夜になれば腹が減った。

いつの間にか冷蔵庫にあった刺身盛り合わせが今日の晩餐だ。
日本酒や焼酎、飯が進んだ。





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今朝はクロワッサンと炒り玉子が饗された。

「火加減が難しいわ……」

霊夢はどうやら、スクランブルエッグを作るつもりだったらしい。

だが紫やサニー達は気にする事無く、パサパサのタマゴに醤油やケチャップをかけて美味しく平らげた。



「今日は、ピクニックに行きましょう♪」
「「「わーいっ!!」」」

おんもで昼飯を食おうという紫の提案は、三月精に喜びと共に承諾された。

「じゃあ、お弁当つくりましょっか☆」

霊夢も乗り気で、早速食材を確認しに台所に向かった。

米はまだ備蓄がある。
梅干に、今朝は無かったはずの鮭の切り身。
耳の無いサンドイッチ用の食パンまで勝手に生えてきていた。
鶏肉は、唐揚げに向いた一口サイズだ。
ウィンナーは父様から教わったタコさん、リンゴはウサちゃんにしよう♪



お弁当作りもまた楽し♪
皆で作って皆でお味見♪
お重に詰めて風呂敷包み♪
水筒には麦茶は鉄板だ♪
あれあれ『お父さん』はウィスキーをスキットルに注いでいるよ♪
それなら私達はお菓子をいただき♪
300円までと『お母さん』が物申した♪
それでは皆さん、楽しいピクニックにレッツゴー♪



『マイホーム』を出たゆかれいむ一家。
家の前の道を横切って、野原を突き進んだ。

しばらく歩き、進行方向に『家』の裏手が見えてきたあたりで歩を止めて、そこにレジャーシートを敷いた。



サニーは意味も無くその辺を走り回り、
ルナは伊達眼鏡を掛けて、『家』から持参した挿絵だらけの文庫本を紐解き、
スターは野の花を編んで輪を作り、紫と霊夢の頭に乗せた。

「似合っているわよ♪」

いつもの帽子の代わりに花冠を被った紫は、妖精の王のような気高さが感じられた。

「あなたもね。霊夢♪」

質素なワンピースを着た霊夢のストレートにした黒髪に、白い花の冠は映えた。



皆でお弁当を食べ、紫が持ってきた酒を回し飲みして、酔いに任せて昼寝した一家。

一同が目覚めた時、お日様は赤くなって地平線に沈もうとしていた。



今夜は夕食の支度を紫に任せ、霊夢は三月精とお風呂に入った。

三人とも、今日のピクニックが楽しかった事を口にした。
霊夢にシャンプーで洗髪されたサニー達の悲鳴も合わさって、風呂場は非常に賑やかだった。



紫が作ったディナーは冷麦だった。
麺つゆは無かったはずだから、つけ汁は紫が出汁や醤油、味醂から作ったのだろう。
食事中、レアな赤い麺を巡って三月精の友情が崩壊しそうになったが、霊夢がデザートの特配取り止めをチラつかせてそれを沈静化した。





紫と霊夢が2階に上がった頃には、三月精はいびきをかいて熟睡していた。
『娘達』の布団を直して自室に入る二人。

布団を敷いた霊夢に話しかける紫。

「ねぇ、霊夢」
「何?」
「……シない?」
「な、ナニっ!?」
「愛の営み♪」
「あ、あの娘達に聞こえちゃうわ……」
「あれだけ獏睡していれば大丈夫よ☆ 多分」
「……」

赤面して沈黙した霊夢の態度を肯定と解釈した紫は、霊夢のパジャマを脱がし始めた。
清楚なブラとショーツが露になり、紫はその上から霊夢の敏感な箇所を愛撫した。

「あん……。紫ぃ……」
「ごめんなさい。私も脱がなきゃね♪」

パッパとパジャマを脱ぎ捨て、紫はレースでスケスケのランジェリーを披露した。
色は、名前と同じ紫色だ。

「紫、綺麗……」

上気した顔の霊夢は紫にひざまづき、紫の股間に顔を近づけると、熱い吐息を吐き掛けながら口でショーツをくわえて脱がせた。
霊夢は紫のムワッとしたメスの臭いに当てられ、股間が切なく疼いた。

「紫、紫ぃ……♪」
「ふふ、霊夢。素敵よ……♪」

霊夢は砂漠で干からびる寸前の旅人のように紫の潤ったオアシスに口付け、そこから滾々と湧き出る寒露を貪った。

「はふ……、びちゃぺちゃ♪ じゅるるるぅっ♪」
「あ、はぁぁ……。や、堕ちちゃうわぁ……♪」

幻想郷でのゴタゴタで『愛の営み』が御無沙汰だった紫と霊夢。
溜まりに溜まったあれこれが、今夜発散されようとしていた。

紫の襞をチロチロ舐めていた霊夢の舌が、膣内にいきなり突き入れられた。

ジュブッ!!

「い゛……イ゛ッッッグゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッッッ!!!!!」

ブッシャァァァァァッッッ!!!!!

「はぁぁぁぁ〜〜〜〜〜っっっ♪♪♪ 紫の潮噴きぃぃぃぃぃっっっ☆★☆」

秘所をグショグショにした紫と顔面をずぶ濡れにした霊夢。

二人とも夢見心地で絶頂していた。

「はぁはぁ♪ つ、次は霊夢にシてあげるわねぇ……♪」
「きゃ☆」

紫は足で霊夢の湿ったショーツを引き摺り下ろし、ブラを鷲掴みにして捲り上げて乳首が勃起した慎ましい膨らみを露にした。



『夫婦の寝室』には、ローションや双頭ディルドーまで用意してあった。

まるで、至れり尽くせりのラブホテルだ。





『両親』が一晩中響き渡らせた絶叫は、幸いにも夢のセカイを旅していた三人の『娘達』には聞こえなかったようだ。





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「あ〜お腹空いた♪」
「……」

台所に入ってきた紫の言葉に、霊夢は眉を顰めながらゴミ箱に捨てられたカップ麺の空容器を一瞥した。
昨晩、愛し合った二人はカロリーを大量に消費して空腹になり、夜食にカップ麺を啜ったのだ。しかも1.5倍のヤツ。
霊夢は少し胃がもたれたので、薬箱にあった外界ではメジャーな胃薬を飲んだばかりだ。

「そうそう。これが郵便受けに入っていたわ♪」

紫はまな板から霊夢が切っていたハムを一切れちょろまかすと、紙切れを霊夢に見せた。

「あぁ? 『花火大会』?」
「今夜あるんですって♪」
「……どうせ会場には行けないんでしょ?」

この家周辺は隔離されたセカイだと、紫自身が調べて結論付けたはずだが。

「でも、花火は見られるわよ♪」

霊夢は左手に握った包丁を置くと、紫からチラシを受け取った。

花火大会の開催日は、居間のテレビから聞こえる朝のワイドショーが告げている物と一致している。
時間は午後7時から。たった今、テレビから午前7時の時報が聞こえた。
場所は霊夢の知らない地名になっている。
会場への地図も大雑把なヤツが描かれているが、そもそもここが何処だか分からない。
だが、末尾の拙い文字で書かれた文章は分かる。

『このいえのえんがわから、はなびがみえるにゃん☆』



午後3時。

手早くおやつのプリンを平らげた5人は、子供部屋で昼寝することにした。

「霊夢、遅いわよ」
「おゆはんの仕込みをしてたのよ。皆寝ちゃった?」
「ドキドキ☆」
「ワクワク☆」
「ソワソワ☆」
「……早く寝なさい。花火見てる最中に寝落ちするわよ」

『一家』が寝息を立て始めたのは、それから30分ほど後のことだった。



風呂上りのサニーミルクは、裸体を惜しげもなく晒した。
――惜しいと思うほど発育はしていないが。

「はい、万歳」
「ばんざーい♪」

パフパフ♪

霊夢はサニーにベビーパウダーをまぶした。

「はい、次。ルナ」

ルナとスターにも同様に粉をつけると、霊夢は三人の妖精少女に浴衣を着せた。

今朝、リビングのテーブルに5着の浴衣が置いてあったのだ。
全員のサイズと好みに合ったヤツが。

霊夢も浴衣を着込むと、窓が開け放たれたリビングに向かった。

縁側では、髪を結った浴衣姿の紫が団扇を玩んでいた。

「来たわね。霊夢とチビッ子達♪」
「私はまだ用事があるから。紫、この娘達の相手頼むわね」
「あいあ〜い♪」

花魁めいた返事を霊夢にした紫は、とりあえず隣に座ったルナのバネのようにカールされた金髪をいじくった。

ぴよんびよんっ♪

「……///」

性感帯を弄くられたかのごとくに赤面するルナ。

「はぁい。おまた――」



ヒュルルルル〜〜〜〜〜……

ッドォォォォォッッッン!!!!!



「「「たっまや〜〜〜〜〜っ☆」」」



霊夢が縁側に戻ったと同時に、打ち上げ花火が炸裂した。

花火のお約束を叫ぶ三月精。



パラパラパラ……。



静かになった刹那に霊夢は口を開いた。

「今夜のおゆはんは、お祭仕様よ♪」

お盆には、焼きそば、焼き鳥、焼きイカ、焼きとうもろこしが乗っていた。
焼き鳥は塩とタレの両方があった。

「「「「わぁぁぁぁっ♪」」」」

三月精+紫が歓声を上げているうちに霊夢は台所に戻り、今度は缶ビールとラムネのビンが浸かった氷水入りバケツを持ってきた。

ラムネやディナーの食材は、今朝冷蔵庫に湧いて出たものだ。



「ゆ〜かりっ♪ 料理を取ってあげる☆」
「じゃあ、塩の焼き鳥を♪」

打ち上げ花火がイチャつく『両親』を照らし出した。



ド〜ンッ☆

「「「か〜ぎや〜っ♪」」」



「ムグムグ……。うん、美味し♪」
「霊夢、タレが口についてるわよ☆」

ペロッ☆

「きゃっ///」

好物のタレの焼き鳥を頬張る霊夢の唇を、紫はそっと舐めた。



ド〜ンッ☆

「「「こ〜りんど〜っ☆」」」



「こんな暮らしも……、悪くないわね……」
「紫……」
「皆でここでの〜んびり、しましょうね♪」
「サニー、ルナ、スター……。あの娘達を養女にしましょっか?」
「ナイスアイディアよ、霊夢♪」
「みぃんなで、寝て起きて……」
「ご飯食べて、お風呂入って……」
「お料理して、お掃除して……」
「畑を耕して、おベンキョして」「それは嫌がられるわ♪」

「ふふっ」
「ふふふっ」



ド〜ンッ☆

「「「霧雨「魔法」店……」」」
「ちょっと誰よっ!?」
「魔理沙さんの店じゃなかったの?」
「霧雨って言ったら、魔理沙さんの実家の方がメジャーでしょうがぁっ!!」
「ルナ、しっぺね☆」
「ちょ……っ!?」
「あら、それは良いわね♪」
「や……。スター!! 離してぇ!!」
「い〜く〜わ〜よ〜☆」



ぺしっばしっ☆



夜更け。

霊夢と紫の寝室に、サニー、ルナ、スターが枕持参で訪れた。

「「「紫さん、霊夢さん。一緒に寝てもいいですか……?」」」

『娘』のお願いを、『両親』は快諾した。




眠ったサニーを抱きしめ、彼女の高めの体温を感じていた霊夢は夢現で祈った。
眠ったルナの微かな妖力を感じ、スターの黒髪を弄りながら、紫は微笑みながら祈った。



((こんな日々が、ずっと続けば良いのに……))





紫と霊夢は、何かフラグを立ててしまったようだ――。





☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★





「紫様、それに霊夢。お迎えにあがりました」





夏祭りから数日が過ぎたある朝。

霊夢とスターが朝食を作っている時。

『家族』以外が使った事の無い玄関チャイムが鳴った。

霊夢はエプロンで手を拭きつつデニムパンツの後ろに包丁を差し、シャツで腰を隠した。

居間から出てきた紫と合流した霊夢が玄関の扉を開けると――、



そこには、八雲 藍と橙がいた。



「来たのね……」
「思ったより遅かったというか、早かったというか……」
「適切な日時が、今と判断しました」
「ですにゃん☆」

諦観を表情に出した霊夢と紫に、事務的に応対する藍とおどけた相槌を打つ橙。

「帰り支度しなくちゃね……」
「べつに急いでませんから、どうぞごゆっくり」
「……朝御飯、食べてく?」
「うんっ☆ くんくん♪ え〜と、何か煮込み料理と……。わーい☆ シャケだね♪」
「……いただこう」

今日の朝食は静かなものだった。
リビングから聞こえるテレビの空々しい音声だけが、沈黙がもたらす致死毒を食堂から退けていた。
それでも客を含めた全員は旺盛な食欲を見せ、電気釜のご飯も鍋の味噌汁も、食べかけだった佃煮の小瓶に至るまで、全て綺麗に平らげた。



藍は必要無いと言ったが、霊夢は三月精と紫を動員して食器を洗い、家中を掃除した。
楽しい我が家へのけじめだ。



「あ……。今、ビーフシチュー煮込んでるのよね」
「持って行け」

藍は霊夢に寸胴鍋の持ち出しを許可した。

「あの……、これ貰っていい?」
「これも……」
「これなんか☆」

藍はサニーの塗り絵とルナの小説の持ち出しは許可したが、スターが指差したリビングのテレビは却下した。



身一つでここ来た『一家』は、幻想郷を追い出された時の服に着替えると、家から持ち帰りを許可された品々を運び出した。

家の外には大型のワゴン車が待ち構えていた。
霊夢は藍に手伝ってもらい、紐やビニールシートで密封した寸胴鍋を積み込んだ。
他にも庭で採れた野菜や冷蔵庫内の食料品を詰めたクーラーボックス、それに珍しい酒も車に放り込んだ。

サニー、ルナ、スター、それに橙は子供部屋の玩具や漫画を物色して、同じく部屋にあったリュックに吟味を重ねた逸品を詰め込んだようだ。
パンパンになったリュックを抱えてワゴン車に乗り込む少女達。
三月精は三列シートの後ろのシートに、橙は助手席に鎮座した。
藍は許可の無い持ち出しを黙認した。
この家及び備品を用意したのは藍だ。拙い物は無いはずである。

紫と霊夢は門の前で缶ビールを飲みながら、感慨深げに『我が家』を見上げた。

「短いようで……」
「あっという間だったわね……」

紫はロング缶を空にすると、それを家族ごっこの舞台に投げつけた。

空き缶は見事に、家の前に開いたスキマにジャスト・イン。

つづいて霊夢も開いたままのスキマに缶を投げた。

缶はわずかにスキマを逸れた。

霊夢は指先から一発の弾幕を放って缶に当て、缶の軌道をスキマ行きに修正した。



二人は車に向かって歩き出した。

もう、後ろは振り向かなかった。

ワゴン車の中では、三月精が家を眺めていた。

二人が車に乗り込んだのを確認すると、藍は運転席に乗り込みエンジンをかけた。

紫と霊夢は手を繋いだまま前を向いていた。

だから――。



「「「あ〜あ……」」」



背後で家が、野原が、道が、電柱が――。

ぼやけて消滅していく光景を――。



『保養地の最後』を、小さなバックミラー越しにしか目にしなかった。





☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★





幻想郷から追い出されるという強硬手段で、強制的に夏休みを取らされた紫と霊夢、それに三月精。

友人達に感想を聞かれても『良かった』、『楽しかった』といった、夏休み最終日にでっち上げた宿題の読書感想文や日記のシメの文章のような、曖昧な返事しかしなかった。

別に隠し立てしているわけではなく、本当に答えようが無いのだ。

『あちら』で過ごした日常は平凡な、平穏な――、

毎日が良くも悪くも波乱に満ちた幻想郷では得がたいものなのだったから。





あれから月日は過ぎ、夫婦になった紫と霊夢は今でもたまに思い出す。

夕暮れの我が家へと、『家族』が並んで『帰る』光景を。

季節は夏に限らず、春でも秋でも冬でも、思い出した時はいつも――。

二人は幻想郷守護の仕事をお休みして、光の三妖精を誘って――、

あの家で『一家』揃って休暇を楽しむのだ。










あの時の休暇に関することで唯一、霊夢が皆に言い続けた事がある。



それは――、



折角幻想郷に持ち帰った寸胴鍋いっぱいのビーフシチューが――、

ちょっと目を放した隙に、何者か――あの時、神社で霊夢達を出迎えた有力者全員かも――に食い尽くされた事への恨み言である。




 
本当は8月中に書き上げる予定だったけど、一ヶ月ずれ込んでしまいました……。


2014年12月6日(土):いただいたコメントへのお返事追加

>1様
支えてくれる人々に感謝♪

>2様
霊夢は何かにつけて拳骨を落とす、おっかねぇが母性溢れるママになるね♪

>ギョウヘルインニ様
くれぐれも、家族水入らずの状況に水をささないようにね……。

>県警巡査長殿
ふふっ♪ さぁてね☆
巡査長さんも、くれぐれも野暮はしないようにね……。
特に、真夜中の家族計画なんか覗いたりしたらスキマ送りですぜ♪

>5様
光の三妖精は、紫と霊夢の間に子供ができたら三人みたいになるかなぁと思いましてねぇ♪
NutsIn先任曹長
http://twitter.com/McpoNutsin
作品情報
作品集:
11
投稿日時:
2014/09/20 19:10:01
更新日時:
2014/12/06 17:21:59
評価:
5/7
POINT:
540
Rate:
14.13
分類
博麗霊夢
八雲紫
サニーミルク
ルナチャイルド
スターサファイア
ゆかれいむ
擬似家族
幻想郷から追放
平穏な日常
夫婦の営み
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POINT
0. 40点 匿名評価 投稿数: 2
1. 100 名無し ■2014/09/21 04:18:25
支えてくれる人がいるから。間違い無し。
2. 100 名無し ■2014/09/21 13:55:52
良い夏休みでした。霊夢に肝っ玉母さんの風格が漂っておるわ。
3. 100 ギョウヘルインニ ■2014/09/21 13:58:06
穏やかな話でよかったです。
これはなら住んでいるところを特定して、紫や霊夢とあうことが出来るってことですね。
何か作中にヒントはないかと探しています。
4. 100 県警巡査長 ■2014/09/21 15:56:35
ひょっとして霊夢達が滞在していたのは信濃国ですかね?(すっとぼけ)僕もその地に向かう日があれば、彼女達と会いたいものです。
皆さん良い"休日"をお過ごしになられたようですね…。

後、私…紫と霊夢が"愛の営み"に励むシーンの時、なんていうか、その…【勃起】しちゃいましてね…。
5. 100 名無し ■2014/09/24 21:58:53
この五人の組み合わせがよかったです。
三妖精がとても可愛かったです。
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