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『東方珈琲堂』 作者: 暗転尺

東方珈琲堂

作品集: 12 投稿日時: 2015/02/18 13:13:11 更新日時: 2015/02/18 22:13:11 評価: 5/6 POINT: 530 Rate: 15.86
 価値のあるものは2種類に大別される。
 一つ目は、それが本来の役割を果たせることで普遍的に価値を持つもの。例えばロケット。月世界まで旅することのできるこの装置は、もはやそれだけで充分すぎる程の価値を持っているだろう。もっとも、あれだけの大魔術をこの幻想郷でまた再現できるかどうかは甚だ疑問である。
 
 もう二つ目は、まさにそれ自体が価値を持つ場合だ。例を挙げるなら上等な酒。ただ単なる酒であれば里でも流通しているし、実のところ僕自身も店の奥で造っている(売り物ではない。そもそも人に飲ませるだけの出来栄えでもない)。並みの酒は数あれ、先日、吸血鬼に仕えるメイドがやってきて素敵に紅い酒を差し入れてくれたのだが、香りからして得も言われぬ銘酒だった。酒を嗜む者なら、あれの価値を認めない者はいないだろう。




 室内に積まれた商品を横目に、僕は外の世界の本を読んでいる。陽は沈んでから既に数刻が過ぎていた。部屋に明かりはついていない。ただ雪で反射した月光が窓から差し込み、捲る頁を冷たく照らす。窓の外の木々も白い綿帽子を被っている。
 今日は本当なら無縁塚にでも”仕入れ”に出掛けて、外の世界の品を探そうかという予定だったのだが、結局一日中雪に降り込められてしまった。そこで仕方なしに店番をしていたのだ。この寒さと雪では無理もないが、珍しくいつもの来客はなかったので久方ぶりに穏やかな気分で過ごすことができた。こういう日も悪くない。
 時折聞こえる梟の寝惚けたような鳴き声と、雪の積もりゆく幽かな音の他には何一つとして、夜の静寂を妨げるものは無い。

   *   *   *

 不意に入口の戸が軋む音が聞こえたかと思うと、軽やかな足音が肘掛の横まで来て止まった。吹き込んできた一陣の風が肌をシンと刺す。
「髪の毛に霜が降りてるぜ、香霖。」
 そう黒い少女が嘯くと、机の脇に据付けられたストーブの摘みを捻った。日頃よく手入れをしている甲斐あってか、ほんの一呼吸分のタイムラグで赤い火が揺らめき、小柄な魔法使いの顔を温かげな色で照らし出す。
「僕の髪は前からこうだ。君よりは随分長く生きてはいるけれど。」
「悪い悪い、遅くなった。あんまり寒いんで冬の妖怪を伸しに行ってたんだが、余計に冷えた。おかげでまだ関節がギシギシ言ってる。」
 僕は本から目を上げずに答える。
「今日はもう閉店だよ。こんな時間に来るのは吸血鬼くらいなものだろう。」
「あのお嬢様だったら昼間に出歩くほうが多い気がするけどな。」
 
 特に会う約束をしていた訳でもないのだから、明日また出直してくれても良かったのだが。よほどの急用だったのだろうか? 相変わらず活字を追いながら来訪の理由を尋ねると、魔理沙は屈託なく、用は無いぜ、と笑った。そして手近な壺を引き寄せ、表紙の堅い本で蓋をして即席の椅子を拵えたかと思うと、そそくさと座ってストーブにすり寄った。成る程、どうやら彼女の目的はこのストーブだったようだ。
 
「あー、あったまる。……どうでもいいけど、霜と霖って似てるよな。」
「だからってシモノスケなんて呼んでくれるなよ。」
「私はそんな頭悪いことは言わないぜ。」
 確かにシモノスケは間抜けすぎる。魔理沙の言う通り、こんな発想をした僕は頭が悪いのかも知れない。ところがこの時、ある計画が思いついた。
「どうした香霖。私に会えたのがそんなに嬉しいのか?」
 ストーブからの反射でほの朱く染められた僕の横顔が、魔理沙には微笑んで見えたらしい。彼女の側からは陰になって見えなかった筈だが、実際、月の明かりで青白く塗られた方の口の端は、三日月のように鋭く吊り上がっていた。そこで漸く本を閉じ、彼女に向き直った。
「珍しい品が手に入ったものだから、君に見せたかったんだ。」
 珍品と聞いて魔理沙は一際ぱあっと眼を輝かせた。
「これだから香霖堂も香霖も好きなんだよな。」
 部屋全体が俄かに明るくなった気がした。

   *   *   *

「なあ、これって楽器か?」
 小机に所狭しと積み上げた品々を訝しげに検分しながら魔理沙が言う。言われてみると、かなり小振りな鼓、といった趣も無くはない。ただ、
「にしては中身が詰まってて、ちっとも鳴りそうにないな。茶筒にしては重すぎるし。」
 
 彼女の推理はいい線を行っている。
 
「いや、それは一種の茶筒と言える。もっとも、日本茶ではなく珈琲だがね。外の世界では缶珈琲と呼ばれる品だ。」
「珈琲の茶筒? 見ろよ香霖、こっちのには珈琲豆の絵が描いてあるぜ。」
「貸してごらん。」
 
 弾幕よろしく此方に放り投げられた缶を空中で受け取り、プルタブを引っ張り難なく缶を開けてやると、魔理沙は目を丸くした。
「へえ、珈琲豆が詰まってるのかと思ったんだが、初めから淹れてあったのか。お前に投げて渡したとき漏れたりしなかったのか? 簡単に開くものなんだろ?」
「それについては心配いらない。外の技術の賜物さ。生産方法までは分からないが、ほぼ完全に密閉されている。それに蓋を開けるための金具はプルタブといって、どうも梃の原理を応用して開缶を容易にしているみたいなんだ。」
「梃なら私も使うぜ、重たい本棚を運ぶ場合とか。」
 本棚ごと本を運ぶ機会など、そう滅多にあるものではないと思うけれど。そう言う間もなく魔理沙は缶に口をつけて、一息で飲み干してしまった。
 
「美味いかどうかは別にして、意外にちゃんと珈琲だったな。美味いかどうかは別にして。」
 美味いかどうかは別にして、この手軽さと携行性の良さが缶珈琲の本来の役割であるとすれば、それだけでもこれは充分な価値を持つと言えるのではないだろうか。今度無縁塚に行くときは是非とも携帯しておきたい。
 
 また形状こそ飾り気がないものの塗装には凝っていて、異国の風景や幾何学的な模様、更には人の顔を大写しに描いたものまである。
「この絵のおっさんは誰だ?」
「ああ、その白黒紳士は”上司”だ。」
「ジョージ?」
「上司。顔の隣に大きく”B-O-S-S”と書いてあるのが分かる。君なら読めるだろうが、他所の言葉で”上司”という意味なんだ。ジョージはそっちだ。」
 彼女から向かって右手奥の青い筒を指す。
「げげ、本当にジョージもいるのか……って、私にはどうしてもただの尖った山にしか見えないぜ。肝心のジョージがいないじゃないか!」
 言いながらプシュッと小気味よい音と共にプルタブを立て、エメラルド山珈琲をグッと飲んだ。その動きに従うように、煌々と燃えるストーブの火に炙り出されて魔理沙の影もゆらりと壁を這う。
 
「む、今度はあの”ドリンコ”が気になる。香霖、取ってくれ!」
 言われた通り缶の群れを掻き分けて”ドリンコ”を探し、蓋を開けて手渡した。嬉しそうに缶に唇を付ける様子を見ていると、独りで読書に耽っていたのとは違った充足感が心に満ちていくのが切々と感じられた。

   *   *   *

 僕が勧めると、魔理沙はにこにこ笑って次々と缶を空けていった。
「ふぁいあ? やっぱり火力だよなあ。」

   *   *   *

「このわざとらしい練乳味!」

   *   *   *

「微糖と低糖の違いが毛ほども分からないぜ。」

   *   *   *

「朝専用……だけど、飲んでも大丈夫だよな?」

   *   *   *

「それにしても、また冷え込んできやがった。」
 ところが実の所、部屋はストーブの熱で暖まり切った頃だった。魔理沙は小刻みに震えながら、座った姿勢のまま椅子をさらにストーブの傍にずらした。黄金色の髪の房が揺れる度、少女特有のミルクの香りが辺りに漂う。
「外は吹雪いていて止みそうにないな。無理に帰ることもない。珈琲もまだ沢山あるから今夜はゆっくりしていくといい。」
「済まない、恩に着るぜ。」
 いつもこれくらい素直だったら尚のこと可愛らしいのに。ふっと湧いたそんな柔らかな心の動きさえも、僕には堪らなく捨て難いものに感じる。

   *   *   *

 そうして僕らは二人きりで語り合った。あれほど大量にあった缶珈琲は今や、数本を残して魔理沙の胃の中へ消えていった。彼女は大きく一つ息を吐き、こちらを覗き込む。
「今日はありがとうな。おかげで珍しいものを飲めた。霊夢の奴にも飲ましてやりたいし、明日も来るぜ。いや、日付はとっくに変わってるから、”今日”の間違いだった。」
 そう言って立ち上がりかけたのを手の仕草で制止し、座り直させた。
「実は、君に見せたかった品というのは缶珈琲のことではないんだ。すぐに用意するから待っていてくれ。」

   *   *   *

 僕が厨房から戻ると、少女は力なく小机に預けていた身を起こした。そして意外そうな表情を見せた。
「んん? それは……見たところ普通の珈琲か?」
「そう思うだろう? この珈琲は”コピ・ルアク”といって、”ルアック・コーヒー”とも呼ばれる。外の世界でも入手が困難で、度肝を抜かれるくらい高価な代物らしい。」
「なんだか変わった匂いがするな。」
「コピ・ルアクの珈琲豆は特殊な方法で発酵させて造るんだよ。……コピ・ルアクの”コピ”は珈琲を意味し、”ルアク”はジャコウネコを意味している。ある地域のジャコウネコは珈琲の実を好んで食べるのだけれど、豆の部分は消化されないまま糞と混合した状態で排泄される。つまり、ジャコウネコの体内で発酵した珈琲が、このコピ・ルアクという訳だ。こうした他に類を見ない熟成過程を経るものだから、その生産量は極めて少なく、また普通の珈琲とは一風変わった香りと味わいから、愛好家の間では大変価値のあるものとして扱われている。……敬遠する人が多いのも事実だけど。」
 もっとも、実際に使うのは固い殻に守られた中身であるため、人が思うほど大して不潔でもない。
「そんな貴重なものを、私が飲んでしまっていいのか……?」
「ああ、味わってくれ。」
 机に置かれたカップを、震える手で口元に運ぶ。さすがに今度は先ほどとは違い、一気に飲み下してしまうようなことはしない。まるで見渡す限り広がる黄金の稲田を風が撫でるように、ゆったりとしたリズムで喉を波打たせて嚥下していく。

 突如、甲高い破壊音が空気を震わせ、何事もなかったかのように虚空へ消えていった。陶器の割れるガシャン、という音は魔理沙の手から滑り落ちたカップが発したものだった。
「どうしたんだ、魔理沙。大丈夫か? おい、返事をしてくれ!」
 見ると顔面蒼白で、状態の悪いアンティークドールのように目の焦点が合っていなかった。
「……ごめんな、香霖。カップ、また割っちまった。」
 途切れ途切れに言うと、僅かにこちらの顔を仰ぎ見て言葉を続けた。
「……さっきから、寒いんだ。指が震えて、抑えてられない。……まるで体の中が伽藍堂になったみたいに、力が入らないんだ……。」
「それはきっとカフェイン中毒だ。君は知らなかったようだが、珈琲に含まれるカフェインは、摂りすぎると今みたいな症状を引き起こすことがある。心配しないでくれ。横になって休んでいればすぐに良くなる。」
 実を言うと割と危険な状態に陥ってるのだが、致死量の一歩手前で調整済みだから心配ない。

   *   *   *

 僕は立ち上がりストーブの火を消す。燃料が底を尽き始めたのだ。それまで辺りを覆っていた仄明るい橙色の揺らめきは、幻が掻き消えるように霧散する。窓から投げ掛けられる月の影が二人の輪郭を照らしだす。

   *   *   *

 ぐったりとした魔理沙の身体を抱き上げると、抵抗することなく身を任せてきた。彼女の華奢な身体は、すっぽりと僕の腕に納まった。その腕の中に確かな重みを感じた。生気こそ無いものの体温はあり、吐息は温かく湿っている。
 隣室のベッドに少女を横たえると、自分自身もベッドに腰掛け、静かに見守った。彼女は霞んだ目つきで空中を見つめている。滑らかな肌は青白く透き通り、あたかも淡く光を放っているかのようだ。深い呼吸に合わせて上下するささやかな胸と白い息だけが、彼女が決して人形でなく生きた人間だということを示している。

 しばらくの間、そのまま時が過ぎた。夜明けまではまだ随分ある。少なくとも陽が昇るまでは容体が完全に良くなることはないだろう。それでも幾分気を取り直したらしく、魔理沙は青みがかった桜色の唇を震わせて呟いた。
「今夜は月が綺麗だな。」
「ああ、本当に綺麗だ。」
 柔らかな頬に、指先でそっと触れる。魔理沙はふと花のような笑顔を覗かせたかと思うと、照れたように眉根を下げた。
魔理沙は何かを期待するように、切なそうな眼で僕を見ている。

「……ところで魔理沙、何か我慢してること、あるんじゃないのか?」
「何かって……そんな、私は我慢、なんか……。」
 しかし僕は、白い頬を伝った脂汗を見逃しはしなかった。
「無理しなくていい。ただの生理現象なんだから。」
 今度は彼女の下腹部に手を伸ばし、服の上から優しく撫でてやると、緊張と羞恥で身体を強張らせた。下腹部には張りと弾力を持つ奇妙な膨らみがあり、優美な曲線を描いていた。たった今まで触れていた頬に、さっと赤みが差す。
「!! やめろ、押すな! 出ちゃうだろ!!」
 その叫び声――と言うには弱々しすぎる――を聞いて、つい無意識に力が籠ってしまう。
「痛い、や、やめ……あっ。……香霖! やめてくれ、痛い! 痛い!」
 俄かに魔理沙の瞳がじんわりと潤み、ビー玉のように大粒の涙がぽろぽろと音を立てて零れた。蒼い滴は落ちた端から、枕の布地に吸い込まれてゆく。

   *   *   *

 今夜、魔理沙に夥しい量の珈琲を飲ませたのには4つの理由がある。
 一つ目は、珍品を披露し、喜ぶ姿が見たかったから。
 二つ目は、彼女と二人きりで話す時間を引き延ばすため。
 三つめは、カフェインの効能を利用して身体の自由を奪うため。
 そして四つ目が、その強力な利尿作用だ。
 
 まさに今、見目麗しい少女、霧雨魔理沙の膀胱排尿筋は極限まで張り詰められている。恐らく先ほどの刺激で、膀胱に直結する内尿道括約筋も開き切ってしまったに違いない。そうなると、外尿道括約筋が全ての圧力を負担していることになる。要するに彼女は、身体は限界を訴えているにも拘らず意志の力だけで、そのあまりにも強烈な尿意を堪え忍んでいるのと同じなのである。

   *   *   *

 下腹部の圧迫はまだ続いている。半ば無意識だろうが、少女は尿意と痛みを堪えるため、膝を抱える姿勢でぎゅっと縮こまった。僕の広い掌の下で彼女のしなやかな腹筋がバネのように収縮するのが、厚めの服の生地を通してありありと感じられる。
「も、もう……ぐす……どうして……?……痛い、よ……。」
 揉みくちゃになったシーツに顔を押し付け、耳まで真っ赤にして慟哭している。
 僕らがいるこの寝室の窓から、森の木々の遥か上空に輝く月が見える。その黄金のスポットライトに包まれながら、未成熟な肉体が艶めかしくベッドの上で踊る。
「……あ……ん、く……香、霖……はぁ……はぁ……あん……。……?、……!?、……!!!」
 魔理沙の背中が、まるで弓が引き絞られるように反った。気を失いかけているのか、潤んだ眼は見開かれた眼孔の中でぐるんと上を向き、濁りない白い部分が露わになる。
 
 そこで僕が彼女の下腹の膨らみから手を放すと、魔理沙は細い身体を幾度も大きく痙攣させた。そして肩で息をしつつ、じとっとした眼で睨んできた。
「な、なんだってんだよ……。私の、その、お腹なんかを……?」
「膀胱に刺激を加えることで、体内に残留しているカフェインの排出を促したんだ。ほら、血の気が戻っているのが分かるだろう?」
 口からでまかせだったが、顔色が良くなったのは確かだ。
「は、はは、なんだ……。びっくりさせるなよ……。」
「いや、すまない。」
「……次からは、えっと、……もっと優しく触って、ほしい…………んだぜ?」
 身じろぎしながら、そんなことを呟いた。

   *   *   *

 魔理沙は少し落ち着いたようで、上半身を前に突き出す姿勢でベッドに座っている。
「多少は回復したように見えるけど、厠まで歩いて行けるほどではないだろう。代わりにこれを使ってくれ。」
 そう言って僕が取り出したものは透明なガラス瓶だ。人の頭なら簡単に収まってしまうサイズのものである。酒を造るのに使おうと思い用意しておいたのだが、ひとつ余ってしまっていたのだ。
「じゃあ借りるぜ……ってちょっと待て。これだと中身が見えちまうと思うんだが、私の気のせいか?」
 思案して答える。
「まあ、見えるだろう。」
「もしかしてワザとか?」
 したり顔で返答する。
「まあ、そうだろう。」
 魔理沙が三角帽子を掴んでぶん回した。
「このシモノスケがぁーーーー!!!!」
 僕は寝室を追い出された。
 もともと席は外すつもりだったから構いやしないさ。

   *   *   *

 商品棚にもたれて読みかけの本を読んでいると、寝室から声が掛かった。
「おーい、香霖。入っていいぜー。」
「分かった、入るよ。」
 扉を開けると、数分前と同じくベッドの上に座っている魔理沙が見えた。ただし今度は傍らに”使用済み”の瓶が置かれ、座り方も自然な寛いだ感じだ。血色も格段に持ち直しており、頬も鮮やかな薔薇色に見える。そして何といっても、緊張の弛み切った清々しい表情が目についた。
「ふー、すっとしたぁ。」
「それは結構。楽になったようだね。」
 魔理沙は瓶を取り上げ、値踏みするように揺すりながら差し出した。
「ほらほら、これが欲しいんだろー。やるよ。」
 悪戯っぽく笑いながらも、やはり自分の尿を他人の目に触れさせるのは恥ずかしいと見えて、こちらが瓶を受け取ると、目にも留まらぬ速さで毛布を引っ被って眠ってしまった。話し掛けても返事はなく、やがてすうすうと寝息が聞こえてきたから、本当に寝入ってしまったみたいだ。
 
「おやすみ、魔理沙。幸せな夢を……。」
 僕に魔法は扱えないけれど、愛する人の為に祈りの文句を唱えることはできるのだ。

   *   *   *

 今は火の消えてしまったストーブの横の小机に、魔理沙が寄越した瓶を置く。ごとん、と鈍い音が響く。瓶を満たしている黄金の液体は1リットルはあるであろう。
 ふと思い出し、机の下を覗く。そこには魔理沙が取り落としたカップが転がっている。中身は飲み干してあったため、床もカップも一切汚れていない。そして何より幸運なことに、カップ自体は割れていなかった。例の陶器の砕ける音は、取っ手が外れる音だったのだ。

 僕はカップを拾い上げ、瓶の中の霊水をそっと注ぐ。真っ白な湯気が立ち上がり、一風変わった珈琲の香りが辺りに漂う。砂糖もミルクもいらない。ストレートのままカップの淵に唇を付ける。
 
 世界で一番愛おしい味が口の中に広がった。
SS初投稿です。
まとまった量の文章を書くのは久しぶりで、かつSSを書くのは初めてなので読みづらい点は多々あると思います。
いやあ書いた書いた。

皆さま忙しい時期かと存じますが、コーヒーやレッドブル等々を飲みすぎないよう、お気を付けくださいね。
暗転尺
http://openward.webcrow.jp/
作品情報
作品集:
12
投稿日時:
2015/02/18 13:13:11
更新日時:
2015/02/18 22:13:11
評価:
5/6
POINT:
530
Rate:
15.86
分類
霧雨魔理沙
森近霖之助
珈琲
純愛
健全
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1. 100 弥生 ■2015/02/18 22:35:22
凄い健全でした。
挿絵に驚かされながらも二人のやり取りに
ニヤニヤしてしまいました。
2. 100 名無し ■2015/02/19 08:44:26
淡々と綴られる様子が読みやすくて良かったです。
4. 100 NutsIn先任曹長 ■2015/02/22 20:33:35
一部のタグに偽りがあるかどうか微妙な作品ですな……。
挿絵が健全アトモスフィアを醸し出していますが、その実はシモノスケの野望だとは!!
コーヒー飲んだ後のアレは、コーヒーの香りがするよね♪
コピ・ルアクのあたりで嫌ぁな予感がしましたよ♪
5. 100 名無し ■2015/03/15 15:03:41
ここは健全な作品ばかりなのに、何故"健全"タグがあるんですかねぇ。
しかし、小さく分けてあって読みやすかったです。
6. 100 R ■2015/06/14 13:26:05
きっとカップは非売品の中でもお気に入りの逸品に
なったことでしょう。
文面から二人の仲と季節の雰囲気を感じられて、
とても良かったです。
また、言葉選びも原作に近いような印象を受けました。
一部、魔理沙の口調に何となく違和感を感じましたが、
作品全体の完成度には支障ないと思います。

余談ですがなぜか「エメラルド山珈琲」と言う単語に
笑ってしまいました(笑)
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