魔理沙は何を許したかったのだろう

ああ、やってしまったな、と魔理沙は思った。霊夢を、抱きたい。もっと具体的に言うならば、その乳に吸い付き、揉みしだき、耳をしゃぶり、その美しい脚に舌を這わせ、全身を余す所なく撫で回し、清らかなる秘部を丹念に愛し、彼女の感じる姿、快楽に喘ぐ姿を見たかった。この感情が
一種の恋であると悟ったのは、つい先程のことであった。
目が回るような思いだった。それは決して心地の良いものではなく、永遠に永遠が続く無間地獄を彷徨うような感覚であった。
彼女は以前、変わり者の道具屋の店主に、少女らしい淡い恋心を抱いたことがある。もう既に、異性への恋を知っていたのだ。だからこそ、その時の想いと、霊夢への想いが、形は違えど同質のものであるとは認めたくなかった。


魔理沙は、大図書館に向かうことにした。この気持ちがただの気の迷いであることを願い、証拠となるような情報が得たかったのだ。借りる、と称して強奪することもなく、沈鬱な、そして思い詰めた顔をして本を読む魔理沙の姿は、パチュリーには奇異に見えただろう。だが、魔理沙の読んでいる本から何かを察したのか、彼女は何も言わずに読書を許した。

本を読めば読むほど、魔理沙の絶望は深まっていった。自分が両性愛者なのではないか？もしそうだとしたら、コミュニティに受け入れられないのではないか？肝心の霊夢はどうだろうか？………
書物はそれらの問い一つ一つに、魔理沙の最も望まない答えを与えた。少なくとも、彼女は異性だけを愛する人間では無いようだった。その存在は異性愛者からも同性愛者からも疎まれると知った。霊夢の言動には同性愛を嫌うような言動があったな、と気付かされた。

もっと多くの書物を読んだなら、より深くわかったのかもしれない。普段の努力家な彼女ならもちろんそう思っただろうし、実行しただろう。しかし、疲れ切り、思考力の鈍った彼女はそうしなかった。否、できなかった。

来た時の何倍も重い足取りで、図書館を出た。眩しい西日が彼女を照らす。刹那、腹の虫が軽快な鳴き声を上げた。こんな時でもやはり腹は減るものだ、と少し滑稽に思うのであった。
自分で夕食を作る気力は無く、外で食べることも気が進まなかったため、魔理沙にとっての気の許せる友人−−−すなわち、アリスのもとに行くことに決めた。何も約束はしていなかったが、彼女ならもう一人分の夕食を作ってくれるだろう、との妙な自信があった。


果たして、魔理沙の思った通りであった。魔理沙の酷い顔を見、少しばかり文句を言いながらも、アリスは二人分のクリームシチューを作った。どうかしたのか、という疑問文付きで。アリスはあの喘息持ちの魔女よりも、幾分かお節介なのだった。
魔理沙は返答に困った。嘘をついて誤魔化そうにも、疲れ切った頭がそれを許してくれない。かといって、正直に打ち明けるには、勇気が要りすぎた。
だが、心のどこかでは思っていた。アリスなら、アリスなら全部、受け止めてくれるのではないか。その思いが消しきれなかった。

たっぷり一時間も黙り込み、とうとう彼女はその思いに屈した。アリスに全てを打ち明けたのである。同性に恋をしてしまったこと。キスだけでは済まされないことを欲しているのだということ。これから先、アリスも含めて、友人達と以前のように付き合えなくなるのではないかということ。ぐちゃぐちゃな心の中を、できる限り整理して、洗いざらいぶちまけた。

この告白は、魔理沙にとって賭けのようなものであった。友を失うか、それとも無二の親友を得るか。

嫌な沈黙が続いた。アリスはしばらく無言であった。魔理沙の顔に後悔の色と脂汗が浮かんだ。

そして、アリスは。


言葉のかわりに、クリームシチューを吐き出した。





























気がつくと、魔理沙は、名もない林の中にいた。
涙が一筋流れた。ぽたぽた、ぽろぽろ、ぼろぼろ、どぼどぼ涙が溢れ出した。
流した涙が小川を作り、長い、長い時間が経って、遂にはアマゾン川になった。


それから、長い長い時が流れた。川は土砂を運び、流域には青木町ができた。今では、多くの人々が、その恵みの中で暮らしている。





魔理沙は泣き疲れて、川底で眠っている。