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『箱庭の中の箱の中』 作者: 狼狐
幻想郷という箱庭の中の箱の中で――私は、箱だった。
Qustion.1 彼女は箱にいるのか?
「どこよ、ここ?」
目が覚めると、私は白い箱の中にいた。ここは、どこだろう。
たしか私は――あれ、何も思い出せない。記憶が飛んでしまっているようだ。
だが思い出せないものをいつまでも考えていてもしょうがない。
とにかく、ここを出よう。出れば分かるはずだ。
キョロキョロと周りを見渡す。箱。そうとしかいいようがない場所だ。
大きさとしては、普通の部屋と同じぐらいだろう。ただ、奥行きが横の長さの二倍ある。
謎の直方体部屋。いったいどこの部屋なのだろう? 人里……は、ないか。
何回か行ったことがあるが、このような部屋を作れる大きさの家はない。
となると、紅魔館か永遠亭だろう。両方とも、家の中が迷路のような状態になっているし。
白玉楼は……あんな和風な屋敷にこんな部屋があるとは思えないから除外。
まぁ、そこまでしか分からないわけだけども。
家具も、それどころか窓も扉もない部屋では、場所を推測する材料など見つかるはずもない。
私をここに連れ込んだ目的はなんだろう? 乱暴?
ありえない。私はこれでも妖怪だ。何処の男が命を懸けてまで私に乱暴しようと思うだろう?
そもそも知り合いに男は……いないこともないが、彼は乱暴どころか女性に興味がないんじゃないかと思われる節まである。
偶然、私を人里で見た男が私をここに? どうやって?
記憶は飛んでいるが、人間が使うような薬はきかないし、人間の力で私を昏倒させれるとは思えない。
では、恨み? いやいや。誰が私に恨みを持つというのか。人に恨まれるようなことをした記憶はない。
宴会等でも、私はむしろ率先して料理を並べたり片付けをしたりして、感謝されるような立場にある。
ならば、……これが一番確立が高そうだ、というのが恐ろしい話ではあるが、この部屋が永遠亭内のモノだとすると、あの女。
八意永琳による何かしらの実験の可能性も、ある。私に何かを飲ませて、実験体としてここに閉じ込めて、観察しようという腹。
いやまてよ。彼女には数回、胡蝶乱を処方してもらったことがある。
ひょっとしてこの状況自体が夢である可能性もあるのではないか。
ためしにギュっと頬を抓ってみる。痛い。夢ではないということだろうか?
しかし、今まで見てきた夢の中で自分の頬を抓って目を覚ましたことなどない。
もしかしたら夢の中で頬を抓っても痛さを感じる可能性だってあるではないか。
夢とは不思議なものだ。時には感覚さえリアルに伝わる。
そう考えると、この状況が夢か現実かすら――と言いたいところだが。
夢とはまた得てして浅いものだ。夢と気づいた瞬間、それまでリアルだったはずの感覚に嘘っぽさが現れる。
この世界が夢ではないか? という仮定の下で頬を抓ってはっきりとした痛みを感じるということは、結局はこれは夢ではないということだろう。
話を戻すがこの状況はやはり永琳の実験によるものなのだろうか?
しかし、また別の疑問が出てくる。何故、私なのだろう?
その前に、なくなった記憶の中の私の何処に、永琳の実験に協力する必要があるというのだ。
いやまて、そもそも私は彼女の実験体になってくれという申し出を受けた上でここにいるのか?
彼女によって強制的にここに入れられてしまった可能性だって――あぁそうか、結局最初の疑問に戻るわけだ。
何故、私で実験する必要があったのか、という疑問に。他の人だっていいじゃない。
私で実験することのメリットは? 元人間だから?
慧音がいる。彼女は確か、生粋の半妖ではなかったはずだ。永琳と慧音はそれなりに面識があるだろう。
私を使う必要はない。となると……人形使いだから?
何の意味があるのか。人形遣いを箱に閉じ込めて得られる結果など想像すらできない。
容姿……金髪なら他にもいるし。七色? 関係ないわねぇ。
うぅん。やはり私を閉じ込める意味はないわね。
ということはやはり永琳の実験という線も消えた。手詰まりね。
場所も目的も分からない……さて、どうしようかしら。
閉じ込めたヤツ――『犯人』とでも言っておきましょうか。
そいつがいつまでも私を無事な状態なままここに放置しておいてくれるという保障はどこにもありはしない。
ならば脱出しなければ。
壁に近づき、トントン、と叩いてみる。軽い音が返ってきた。
薄い壁のようだ。扉すらないという時点でなんとなく予想はついていたが、この部屋は広い空間の中に箱という状態で接地されているものなのだろう。
壁をぶち破れば、外に出られるかもしれない。……この壁、まさか魔法か何かかけられていて外からは私の姿が丸見え、とかじゃないでしょうね。
もしかしたら魔理沙辺りが悪戯で私をここに閉じ込めて、みんなであたふたしている私を見て楽しみという算段なのかも。
そうはさせないわ。私はアリス。冷静な女なのよ。
慌てず騒がず、だけど大胆に脱出してやるわ。よし、人形でこの壁をぶち破ってやりましょう。
「シャンハ――いない!?」
迂闊だった。常に傍にいるから気づかなかった。
悪戯目的でも悪意によるものでも、私の武器である人形を残しておくはずがなかったのだ。
それに――やけに寒いと思ったら、今の私は着衣を何一つしていなかった。何故気づかなかったのだろう?
やはり、意味の分からない状況に陥って心の底で戸惑ってしまっていたのだろうか? いけない、冷静にならなければ。
それにしても上海は何処に連れてかれてしまったのか。壊されてはいないだろう。
魔力のつながりは感じる。ひょっとしたら、こっちに引寄せることができるかもしれない。
私にのみ見える上海とつながった魔力の糸の先は……天井?
ここはやはり地下の空間であるということだろうか? よし、引っ張ってみよう。
そう考えて、私が箱をすり抜けて伸びている魔力の糸を引っ張って上海を引寄せようとした、その瞬間――
――ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
箱が突然、揺れ出した。バランスを崩し、私は膝をついた。
一体何だというのか? 上海を引っ張ろうとしたら箱が――まさか、魔力に反応して?
となると、上海を引っ張るのはまずい。
魔力の糸を引っ張るのをやめて、私はそのまま静かに待った。
揺れはすぐに収まった。やはり、糸を引っ張ったことによる魔力の変化に反応したのだろう。
ということは、この部屋は。魔法によって作られたものである可能性がとても高い。
部屋じゃなく、箱である可能性も。
悪戯にしては手が込んでいる。となると、やはり私は悪意でこの部屋……いや、箱に閉じ込められた?
飛んだ記憶の中の私が何かをやってしまい、戒めとしてこの箱に閉じ込められた可能性もある、が。それはあまり考えたくない。
覚えてもいないことに大して断罪されるなんて、冗談じゃないもの。
それにしても……ホント、どうしようかしら。出られないじゃない。
箱を壊すのは不可能。扉はおろか窓すらない。
しかし諦めるわけにもいかない。このままここにいて、犯人に何をされるか分かったものではない。
私は立ち上がると、再び壁に近づいてちょっとずつ横に移動しながら壁を丹念に調べ、ぐるりと一周した。だが、スキマも継ぎ目もない。
地面に這い蹲って床を調べても、飛び上がって天井に張り付いて調べてみても、結果は変わらない。
落胆して深いため息を吐いた瞬間――突然、大きな揺れが再び起こった。
バランスを崩さぬようしゃがみこむ。何故だ、魔力は使っていないのに!
しかも今度の揺れは長い。いや、それどころかこの感覚は……浮遊感だ!
浮遊感を感じている!? どういうことだろう。この箱は一体!?
「きゃあああああああああああッ!」
私は壁に向かって吹っ飛んだ。突如、箱がすごいスピードで前に進み始めたからだ。
人間であれば潰されてしまいそうな圧力が、私にかかった。
呼吸ができなくなりそうなほどの圧力はなかなか止まることなく、
箱の謎の動きが止まったときには私はすっかりグロッキーになってしまっていた。
Qustion.2 彼女に希望はあるのか?
「はぁ……はぁ……げほ、げほぉっ……」
込み上げてくる吐き気を無理矢理抑え付け、私は周りをキョロキョロと見る。
何も変わっていない。いったい、なんだったというのだろう、さっきの感覚は。
このでかい箱が自然に運動したとはどうも考えづらい。
庭に接地していたこの箱が風で飛ばされた、という可能性もないだろう。
さっきのあの感触は、どう考えても箱が指向性を持った動きをしているとしか考えられない。
だがこんなでかい箱をあんなスピードで動かせるか?
魔法で動かした? いや、でかすぎるし、速いし動きが綺麗すぎる。
私の知る限り、こんなでかい箱をあの速度であんなに正確に動かせる魔法使いなどいない。
ならば、誰かが自力で動かした? そうなると今度は速度が問題だ。
この箱を持てるほどの力を持ち、あんなスピードで動かせるヤツなんて――いや。
萃香ならば可能ではないだろうか? 彼女なら巨大化すればこの箱を持ったまま空を飛ぶことだってできるはず。
動機を無視すれば、彼女以外にできるものがいるとは思えない。
そうよ、動機だって、ただの悪戯だとしたら納得できる。
いや、駄目ね。別の疑問に思い至るじゃない。それも、さっきと同じもの。
なんで私なの? わざわざ私に対して悪戯する必要はないはずだ。
そもそも、萃香とそこまで仲がいいわけでも、仲が悪いわけでもない。
彼女は私に悪戯をするほど私に興味を抱いてもいないだろう。
結論を言えば、この箱をさっきのように動かすことはできない、ということだ。
つまり、さっきのあの感覚は――作られたもの。
この箱は魔法によって作られたものである可能性がとてつもなく高い。
やはり、魔理沙の悪戯なのだろうか?
でも、こんな手のこんだことをする必要があるとも思えない。
それに、彼女がやったにしたってこのでかい箱を何処に置くというのか?
もしかして、魔理沙かパチュリーもしくは二人で作ったこの箱は、誰かに頼まれたものであるのかもしれない。
彼女らが作った箱を使って悪意ある、もしくは悪戯の気持ちで誰かが私をここに閉じ込めたのでは――
――ガリ、ガリ、ガリ、ガリ、ガリ……
突然、至極突然、奇妙な音が箱の中に響いた。
何よ、この音。今度はなんだって言うの?
「え、ちょっ、嘘でしょ……!?」
音ともに、箱が縮んでいるのに気がついた。
いや、縮んでいるというよりは、削れているといったほうが正しいのだろうか?
私に近い方の壁の逆の壁が、ゴシャリと歪みつつ前進して、確実に箱の体積を減らしているのだ!
壁が迫りきったらどうなってしまうというのか。
嫌よ、こんな白いだけの箱の中でつぶれて死ななきゃならないなんて!
何とかして脱出しなければ。でも、どうやって?
壁には何もないし、壊すこともできない。どうしたらいいの……?
――ガリ……
「え?」
わけがわからないが、音が、止まった。
同時に、箱の縮小も止まる。助かった、のだろうか。本当に……?
いや、そうとは限らない。ただ収まっただけかもしれない。
ならば、再び縮小が始まる可能性だってある!
いまのうちに、脱出しなければ。歪んだ壁に近づき、ペタペタと触って調べてみる。
もしかしたらこの歪みによってスキマが……ない。駄目か。
そう甘くはないということか。ならばどうする? どうやって脱出する?
この箱が誰かによって魔法で作られたマジックアイテムの一種ならば、
その用途としては私をこの中に閉じ込め、……傷つけることだろう。
ということはもう一つ別の用途があるということになる。
私をここから出さないという用途だ。ならば自力での脱出はほぼ不可能ということになる。
とすると、だ。脱出するには外からの干渉が必要ということになる。
つまり、助けだ。だがそれもまた問題がある。どうやって助けを求めるか。
外とつながっているものはおそらく外にいるはずの上海とつながるこの魔法の糸のみ。
しかし引っ張れば箱が反応し、揺れる……いや、揺れを感じさせる。
誰かの助けを待とうか。こんな箱を置ける場所など限られている。
探そうとすればすぐ見つけられるだろう。だがそれは私が箱の中にいるということを知っている前提だ。
それに、たとえば紅魔館の中に置いてあったとして、
誰かが私を探して其処へ向かったとしても白を切られてしまったりしたらどうしようもない。
加えて無理矢理館内に入って偶然箱を見つけてたとして、
中に探し人が入ってるなんてどこのどいつが考えるというのか。助けは呼べない。待てども来ない。
まずい、あまりにも絶望的な状況ではないか。他に何か考えられる手段は……。
――ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
「なっ、また地響き!? きゃあッ!」
あまりの絶望感に狭いほうの壁に寄りかかってため息をついた瞬間、
再び揺れが起きた、いや再び揺れを感じた。またもやバランスを崩し、私は前のめりに倒れこんだ。
――ガリィッ
「え……」
大きな音とともに、ついさっきまで私が寄りかかっていた壁が一気に近づいてきた。
いや、近づいたというよりアレは……削れてなくなった空間が瞬時にふさがった、という感じだ。
つまり、倒れていなかったら――いや、考えたくないッ……!
それに、今のが私を狙って削れたものだったとしたら――この箱の別の目的は、私を、殺すこ、と……。
な、なんで……?
非常にまずい。何処かタカをくくっていた。
この平和な幻想郷で、時々みょうちきりんな異変が起こるだけで平和だと思っていた幻想郷で殺されるはずがないと。
でも、それは違った。確実に、誰かが私を殺そうとしているのだ。
何らかの意思で、何らかの意味をもって。
そうはさせない。させるものか! させてたまるか!
私はアリス・マーガトロイド。凄腕の人形遣いよ!
こんなところでくたばってはなるものか。絶対に、こんなところ脱出してやる。
今は確かに何も考え付かない。何もできない。だが!
世界には時間という概念が存在する! ならば待とう。僥倖が来るまで。
どんなことが起きたって、耐えて耐えて耐え切って。
この箱を抜け出して……や……る……。え……?
「体、が……動かない……?」
妙な匂いがしたと思った瞬間、体の力が急速に抜けた。
何よ、この匂い。まさか、催涙……ガスの……。
Qustion.3 彼女は脱出できるのか?
私は、田んぼの中に立っていた。何故こんなところにいるんだろう。頭がボーッとしている。
「何かしら、あれ」
きょろきょろと周りを見ていたら、遠くに何か妙なものがみえた。
こんな距離からでも分かるほど真っ白な、何か。いや、誰か?
この場所が何処なのかを訪ねようと、私はその人影らしきものに近づくことにした。
ぬかるむ田んぼの中を進んでいくと、その人影がはっきりと認識できるようになった。思わず、足が止まる。何よ、あれ。
その人影は、人ではなかった。白い、くねくねと動く物体。
くねくね、くねくね。私が見えているのかいないのかは分からないが、ただくねくねと動いている。
くねくね、くねくね。と、突然動きを止めたかと思うと、再び動き出して私に近づいてきた。くねくねくねくねと動きながら。
なんだかわからないけど、怖い。すぐに振り返って逃げようとしたが――足が動かない。いや、手も顔も、瞼すらも。
そうこうしている間にもくねくねとしたそれはどんどん近づいてくる。
くねくね、くねくね。嫌、来ないで、来ないで……!
ついに私のすぐ目の前まで来た。この距離まで気づかなかったが、人の形をしているけど、真っ白で。
ひたすらにくねくねと動くそれには顔がついていた。くねくねとしたそれに張り付いている顔は――
わ、たし?
――ザァァァァァァァァァァ……
「はっ、はぁ……はぁ……」
奇妙な音で、目が覚めた。なにやら、嫌な夢を。とても嫌な夢を見ていた気がする。目を覚ましてよかった。
――ザァァァァァァァァァァ……
「な、わけないか……」
目が覚めたその場所は白い箱の中のままだった。事態は何一つ変わっていないということだ。
だがしかし、それは逆に良かったことであるともいえる。
箱の体積もさっきと全く同じだからだ。寝てる間に箱が再び縮みだした、ということはなかったらしい。
よかった。寝てる間に死んでるなんて御免だ。
――ザァァァァァァァァァァ……。
「って、さっきからうるさいわね。何よこの音……。え、待って。これってまさか。水の音!?」
間違いなく水の音だ。まるで箱が水の中に沈められているかのような音。
沈められている!? いや、この音もまた幻覚である可能性はある。
だが、さっきの催涙ガスのようなものは実際に効いたのだ。
この水の音やさっきの揺れ自体等も幻覚でない可能性があるではないか。どういうことだ。
誰かがこの箱を運んで水に沈めた? まさか。何度もいってるではないか。
運べるはずがないし、、運ぶはずがない、と。
となると、この箱自体に動きがプログラムされているというのか?
それならば、あの正確で素早い動きも理解できる。
しかし。さっきから私が行っている推測の否定材料のほとんどが、動機だ。
動機を無視すれば萃香にだって永琳にだって犯人の可能性は存在する。
この箱を魔理沙やパチュリーが作って私に使っているという推測も再発することになる。だが、だが……。
動機こそが、重要なのだ。容疑者がたくさんいる以上、その中から選ぶには動機こそが重要。
その動機によって、考えうる全ての容疑者が消えるのだが。
――ザァァァァァァァァァァ……。
いやまて。今は犯人を推測することより、この水の音だ。
眠ってしまう前までの私なら、幻覚として無視しただろう。
さっきも言ったが、催涙ガスは効いたのだ。この音が本物でない可能性が何処にある?
この箱にスキマは一切なかったが、酸素とガスは入ってきた。
酸素が入ってこなかったら私は呼吸ができないだろうし。
何が言いたいかといえば、この水が入ってくるかもしれないということだ。
犯人は私を溺死させないとは言い切れない。くっ、一体どうしたらいいの?
助けは当てにしづらい。だが脱出も難しい。まさに絶対絶命……!
いや、駄目よ。諦めちゃ。最後まで諦めてたまるものですかか。絶対に、私は無事に家に帰る……!
――ザァァァ……。
「止まった……」
私の想いが通じたのか、という甘い解釈をする気はないが、突然水の音は静止した。
決して助かったわけじゃないのだろうけど。
なんで止まったのだろう。箱が沈められていた場所から引き上げられた?
でも何の動きもなかったわ。ということは、さっきの水音は幻覚?
まぁいいわ、それよりまたもや猶予ができた。
いまのうちに、いまのうちに何とかして脱出する方法を考えなきゃ!
――駄目か……
「え!?」
声が、声が聞こえた。今確かに、箱の中に声が響いた。
どういう意味? 駄目か? って……。
いやそれよりも、今の声には聞き覚えがある。まさか、まさか……。
魔理沙……?
嘘でしょ、本当に魔理沙なの!? そんな、魔理沙が犯人だっていうの!? なんで、なんで!?
――グイン
「きゃああああああああああああああ!」
またもや箱が動き出した。しかも、この感覚は――ぐるぐると回転しながら吹っ飛んでいるかのようだ。
あまりの速さに思いっきり壁に身体を打ちつけてしまった私の意識は、急速に消えていった。
目が覚めると、相も変わらず箱の中だった。思わずため息が出る。
「「ハァ…………。 え?」」
ハッとして横を向いた。そこには『わたし』がいた。まったく同じ顔、同じ髪、同じ体をしている。そして、私と目を合わせている。
「「誰よあんた!? ……真似しないでよ!?」」
全く同じタイミングで、相手が発言した。何よコレ。
本当に私だっていうの? どうなってるのだろう。
いや、落ち着こう。これはひょっとして、私の姿を鏡のようにそっくりそのまま複製しているだけではないか?
この箱はマジックアイテムの一種でほぼ間違いないとすると、そういう機能もついている可能性は否定できない。
試しに右手を伸ばしてみる。相手も右手を……右手!?
ということは、やっぱり鏡ではないということね。
そのまま手を相手の肩に置いた。まったく同じ動作で、相手も右手を私の肩に置く。しっかりと掴まれる感触がある。
幻覚ではなく、本物の私……? でも、さっきのような揺れが作られた感覚であるかも……いや、そもそもだ。
揺れが偽の感覚であることすらもはや怪しいのではないだろうか?
その揺れで、私は何度も痛い目に合っているというのに。
いやしかし、マジックアイテムであれば外への影響を出さず中に居るものへ危害を加えることも……あぁもう、混乱してきた。
あとでゆっくり考えよう。
それより今は目の前のこいつ、というか私。本当に私なのだろうか?
私であれば協力したほうがいい。だが、もう一人私を作ることなんてできるはずがないだろう。
ならばこいつは誰か? 私でないのに私と同じ行動をする。
そんなヤツは一人しかいない。犯人だ。
ずっと気になっていたが、さっきから絶妙なタイミングで私に恐怖を与えてくる。
どうやって? 簡単だ。
おそらくは犯人は内部に居る私の行動感情思考を全て把握できるのだ。
犯人の能力かこの箱自体の能力かは分からないが。
そして、それによって私に危害を加えているということだろう。
相当サディスティックな者に違いない。
まぁとにかくだ。私の思考が分かるならば、私のしようとしていることも分かる。
つまり、同じ行動ができるというわけだ。つまり!
私は腕を振り上げた。勿論、相手も同じことをする
。私がやろうとしていることがわかるからだ。
そして私が全力で殴ろうとすれば! こいつはそれを避ける!
それこそがこいつが犯人だという証拠となる!
「「ええええええええいッ!」」
相手は避けることをせず、顔面で私の拳を受けた。
そして私も、拳を受けた。頭がクラクラとしている。
そんな、なんで? やっぱり、私だっていうの!?
いや、違う。頭は確かにクラクラしているが……痛くない。ということは。
「夢、か……」
夢であると認識した途端、私は目を覚ました。
白い箱の中のままだったが、となりに「私」はいなかった。奇妙な夢を見てしまった……。
とりあえず分かったことがある。今の状況が夢でもなんでもないということだ。
やってられない。さらに絶望的な状況になってしまった。
諦めるわけにもいかないので、私はまた周りを見回した。
何も変わっていない。困った。何の変化もないということは何にもできないということだ。
いや、待て。気絶する前のことを忘れてはいけない。
魔理沙にそっくりな声が聞こえた。魔理沙であるとは断定できないが。
どちらにしてもすぐ近くに誰かがいるということになる。
箱が作り出した幻聴である可能性は……とりあえず捨て置こう。絶望するしかなくなる。
とにかく、私は必死になってドンドンと壁を叩いた。
誰かいるならば、私の存在を伝えねばなるまい。その誰かが犯人である可能性はあるが。
「助けて! ここから出して! 出してよ!」
いくら叫んでも、届かない。くそ、諦めてたまるものですか……! 私はひたすらに、箱をどんどんと叩き続けた。
Question.4 彼女は絶体絶命なのか?
「こんにちわ、アリス・マーガトロイドさん」
「あら、貴方は確か……稗田阿求さん、だったかしら?」
「そうですよ」
あれ? 私は何をしているのかしら。なんでこんなところで阿求さんと喋っているの?
いえ、その前にここはどこ? なんで体が全く動かないの?
(ねぇ、ここはどこ?)「貴方も買い物に?」
違う、私はそんなこと言おうとしてないわ!
「えぇ、そうです。それにしてもアリスさんって……綺麗ですよねぇ」
(そんなことどうでもいいわ! それよりここは何処なの!?)「あら、ありがとう。嬉しいわ」
違う、違う!
「叩いてもいいですか?」
(え?)「え?」
「えい!」
にこやかな笑顔のまま、阿求さんが突然私の顔を平手打ちした。頬がひりひりと痛む。
「ちょっ、止めて……!」
「えい、えい、えい、えい!」
静止の言葉をかけても、止まることなく阿求さんは私を強く叩き続けた。痛い、痛い……止めて!
「止めてよッ!」
大声を出して、私は目を覚ました。またもや、夢だったらしい。
壁を叩き続けているうちに寝てしまったのか……。わけのわからない夢だった。
でも、今度は希望が出てきた。さっきの夢の前のヤツは痛みを感じなかった。
だが、今度のは違う。たしかな痛みを感じていた。夢の中でも痛みは感じることがあるということだ。
ならば、箱の中にいる、それ自体が夢である可能性だって考えられなくはない。酷く後ろ向きな希望ではあるが。
というかそれを当てにしてたら絶対に破滅に陥るわね。余計なこと考えてないでさっさと脱出する方法を考えないと。
まてよ? 脱出する方法……そういえば、気のせいかさっきからそれを深く考えようとすると異変が起こる。
それはつまり、脱出する方法があるということではないか。あるからこそ、私がそれを考えようとしているのを防ごうとしているのでは?
そうだ、そうに違いない。よし、希望がさらに出てきた。絶対に脱出して――
「きゃあッ!」
突然、箱自体が斜めに傾き始めた。くぅ、私の思考を邪魔しようとしているのね! そうはさせないわよ、絶対に慌てたりするもんですか!
――ガガガガガガガガガガガガガ
「え…………?」
箱が、再び縮み始めた。奇妙な音とともに、箱が縮んでいるのだ。
いや、角がどんどん丸くなって……削れている!?
徹底的に私の思考の邪魔をしようというのか。
いやそれとも、絶対に脱出しないように殺そうとしているのか!?
冗談じゃない、ようやく希望と突破口を見つけたというのに、そこで死ぬなんて。
どうする? どうやったら止まる?
もう駄目、諦めよう、などと口にしてみるか。いや、無意味だ。
思考を読んでいるからこそ犯人は私を殺そうとしているんだから。
一体どの程度まで思考を読めるのか? この箱の機能は多い。
動き、異変を起こし、思考行動感情を監視する。ならば全体の機能が全て特化しているわけもあるまい。
……いや、まて。そもそも思考が読めるなら行動を監視する必要はない。
異変を起こすのは箱に行われた行動を箱内部に反映するような機能をつければいい。
動くことだってあらかじめこういう命令を受けたらこういう動きをする、
と言った感じでプログラムを組んでいれば、そこに必要な魔力や式は少なくてもいい。
その節約した部分を思考を読むことにまわせる。
そう考えるとかなり深いところまで思考を読む事だって不可能ではないはずだ。
となると、再び絶体絶命……!? そう、さっきはそう考えれば動きは止まった。
諦めてたまるかとは考えたものの、何処か諦めていた。希望も何もなかったから。
だが今は希望を持ってしまっている。動きが止まれば私はすぐにその希望に向かって努力するだろう。
諦めても箱は止まらない。つまり、今度こそ本当の絶体絶命!
――ガガガガガガガガガガ
箱がどんどん縮んでいく。既に、私が4人入れるか入れないかの大きさにまで。
思わず私は中心へと移動した。まずい。潰れる、潰れてしまう!
――ガ……
「え?」
音が、止まった? た、助かった? それとも、助けてくれたっていうの?
まさか焦らして殺そうとしている、というわけでもあるまい。
脱出する方法を私が見つけてしまう可能性があるのだから。でも、じゃあ、なんで?
――メリメリメリメリメリ……
何、今度は何の音? 何なの、この何かを割るような音は。
何かを引きちぎろうとしているかのような音は。……まさか。
「嘘でしょ?」 「嘘でしょ?」
びりっ
Anser.1 彼女が箱である
あれ? ここは、何処? 机の上……? 何よ、この机。でかすぎない?
いや、ひょっとして。私が縮んでいるの!?おそらくそうだろう、だって、目の前に――
「人〜を〜よ〜けて〜た〜まをよけて〜誰〜よ〜りもは〜やく〜♪」
大きな大きな鴉天狗の射命丸 文が目の前に存在しているのだから。
何なの、この状況。さっきまで私は……あれ、何処にいたんだっけ。
「さてと」
「きゃあッ!?」
突然、烏が私を掴んで持ち上げた。じたばたともがいてみるが、手を離そうとしない。何よ、何だって言うの!?
「ぎぃっ……!?」
烏が私を机に押し付けた。そのままごしごしと、横に動かされる。い、痛い! 止めて、やめてよ!
そう叫んでも、むしろスピードは上がっていく。時間が立つにつれ、服が破け、その下から現れる体の皮もベロベロに剥けている。
血も溢れ出てきた。それなのに、烏はひたすらに私で机を擦る。止めて、止めて! お願いだから!
同じところをひたすらに押し当てて擦っているので、傷口がどんどん広がっていく! 痛い!
「やめてよぉッ!」
私は目を覚ました。また、夢だったらしい。何なのよ、さっきから。
夢ばっか見てるじゃない。……いや、それより。なんでまだ、私は箱の中にいるの?
いや、もはや中は箱じゃない。丸い球体の中だ。歪んではいるけども。
身動き取れないほど小さくなっている。どういうことだろう、これは。さっきの音は何だったのか?
どう考えても何かを引きちぎるような音だった。それが、ちょうど真上からしていた。真っ二つにされると死を覚悟していたのだが。
私の体には特に異変はな…………いや。いやいやいやいやいやいや!
何だこれは。どういうことだ。背が、縮んでいる!
まるでこの箱の大きさに私の体の大きさが無理矢理合わせられたかのように、背が縮んでしまっているのだ。なによこれは。なんなのよ!
箱の中はかなり狭い。とにかく、横が。腕も上げられない。
高さは私と同じぐらいで、縦は後ろに動けばキックができるかできないか、それぐらいの長さだろう。
その狭い狭い場所の内部に、私は存在して、いや、存在させられているのだ。
息が詰まりそうだ。私はこれからどうなるのか。考えただけでも恐ろしい。
むしろさっさと殺してくれと言いたい気もする。
こんな密閉された空間の中で何時間も何週間も過ごすことにでもなれば、私は間違いなく狂うだろう。
だがしかし――やはり死ぬのは嫌だ。それに、脱出する方法はまだ残されているかもしれない!
みすみすそれを発見できずに死ぬわけにはいかない!
考えろ、考えるんだ、私。絶対に、この危機から脱出する方法が――
――ザリ、ザリ、ザリ、ザリ、ザリ
「あぎぃっ……そ、んなッ……!?」
足の裏の皮が一気に持っていかれたような感触とともに、
恐ろしいほど鋭い痛みが私に襲い掛かってきた。これは、まさか。まさか! まただ、また削れている!
足の辺りから、ザリザリという音とともに! どんどん床が迫ってきている! 嫌ぁ!
どうしたらいいの、どうすれば私は助かるの!? いえ、そもそもなんで私はこんな目に会ってるのよ!?
――ザリ……
「と、止まった……いぎぁぁぁぁぁぁ!」
なんということだ。最悪。私は今、この削れていく床に足をつけないよう空を飛んで天井に張り付いていた。
横は私が両手を広げられないほど狭いから、身体をくの字に曲げて、手と足を天井に当てて、ただ恐怖に震えていた。
だからこそ。音が止まった瞬間に起こった現象――横から壁が迫ってくるという現象は、あまりにも致命的だった。
ミシミシと体がなっていく。削れているわけじゃないようだ。
まるで何かに押しつぶされているかのように、壁は迫ってくる。私の体を挟んで。
脇腹が痛い。腹筋も足も手も攣っている。でも壁は止まることなく、私を圧迫している。
「がっ……はぁっ……」
ぴったりと体に密着してしまった壁のせいで、私は身体を直立に戻すことすらできない。
体の全てが痙攣したまま、私の体は潰されていく。痛いぃ!
助けて、助けて! 誰か、誰かぁぁぁあぁぁぁぁあぁッ! 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!
――ボキリ
今、たしかに聞こえた。 ボキリという、肋骨が折れた音を! 嫌、嫌ぁぁぁぁぁぁぁッ!
何で私が! 何で私がこんな目に! 死にたくない、死にたくない! こんな死に方、絶対に嫌!
「いや、いや、嫌ぁ……ぎぃひぃぁあああああああああああああああああ!」
ブチュリ
幻想郷という箱庭の中の箱の中で――私は、箱のまま死んだ。
Answer.2 彼女に希望はない
目が覚めると、そこは相変わらず箱の中だった。おかしいわね、たしか私は死んだはずだけれど。
いや、飽くまで死を覚悟しただけにすぎないが。
しかし……あの音はどう考えても私を殺すに足る現象が起きる音だったと思ったのだが。
具体的にいえば、そう――『真っ二つ』になって死ぬ。そう思っていた。
……いや、まて。よくみれば私の体、縮んでしまっている。
ちょうど、この歪んで丸みを帯びた「箱」にぴったり収まるサイズにまで。
どういうことだろう、これは。さっきので私の体が分裂してしまったと、そういうことだろうか?
ならば私のもう半分は一体どうなってしまっているのだろう。
それに。果たして私はこれからどうなってしまうのか? 嫌な予感しかない。潰れて死ぬか、発狂して死ぬか。
なんで私はこんな目にあっているのだろう。私が何をしたというのだろう。嫌になってきた。
さっきまでは、私には希望があると思っていた。でも、そんなの本当はない。
希望があると思わせて、私に更なる絶望を味合わせる。それこそが、犯人の狙いだったんだ。
私がこうやって生きていることがその証明。その証拠。希望があるならば、生かしておくはずがないんだから。
絶望。そう、絶望。誰も助けてくれないし、私も助からない。このまま、殺される。
「ひぐっ……ぐすっ……ひっく……」
涙が溢れてきた。冷静であろうと我慢していたが、もう限界。
目が覚めたら、こんな箱の中に閉じ込められて。そのまま、たくさんの恐怖を味合わされて。
そして最後には体を分割された。なんで私がこんな目にあってるの?
私はいい子だった。いい子だったんだ。なんでこんな目にあわなきゃいけないのよ。
誰にも迷惑かけてない。誰にも悪意を持たれるようなことは――
ふと、恐ろしい想像が私の頭の中を支配した。私はおそらく、このまま死んでしまうだろう。
だが、その後は? 私が死んだことに、誰かが気づいてくれるのだろうか?
私は誰と関わってきた? 霊夢。永琳。霖之助さん。そして――魔理沙。深い付き合いがあるのはそのぐらい。
宴会は時折行くが、わざわざ誘われたことなど一度もない。霊夢か魔理沙の下へ行ったときに、宴会があると告げられるだけ。
それを聞いて私は宴会へと足を運んでいるが……呼ばれたわけでもなんでもないのだ。ただ、私が勝手に行ってるだけ。
そしてそこで、私はひたすらに裏方に徹する。酒を共に呑むことを誘われたこともなく、誰かと会話した記憶もない。
いや、誰とも喋らないわけはないのだが、覚えていないのだ、その内容を。自分でも覚えてないのに、他人が覚えているわけもない。
つまり、誰の記憶の中にも、私という妖怪が深く刻まれていることはない。私がいなくなっても、困ることになるものは誰もいない。
月の異変の時、私は魔理沙と共に赴いた。だが、彼女が私を利用しただけに過ぎない。私が彼女を利用しているつもりで。
道中で会った者たちも、印象の強い魔理沙の方ばかり覚えているのだろう。
そしてその魔理沙も。ちょくちょく私が遊びに行く霊夢も。時折クスリをもらう永琳も、常連客になっている香霖堂の店主の霖之助さんも。
誰も心から、心の深いところから私を必要となどしていない。誰も、私に未練などないに違いない。
誰隔てなく無関心だったから? 違う、それならば霊夢も同じだ。でも、彼女の周りにはたくさんの者たちがいる。
誰隔てなく無関心の振りをしていたから。本当は深い付き合いでありたいのに、それを拒否してきたから。
そうやっていることが、高貴なことだと思っていた。プライドが、深くなることを邪魔していた。
何が都会派だ。そんな言葉のために、私は孤独であることを選んだ。孤独なんか大嫌いな癖に。
そう、こうやってただ一人で、何一つ周りが見れない箱に閉じ込められて、ようやくわかった。私は孤独は大嫌い。
なのに孤独であろうとした。だから、周りには誰もいない。私には、誰もいない。
私がいなくても、世界が変わることはない。
私は、要らない?
誰にも必要とされてないの?
ひょっとして、この箱は――ゴミ箱なの?
誰とも関わらずにいた者。誰からも必要とされていない者。
そういう輩を閉じ込めて、消す。要らないから、捨てる。
そうか。今の私はゴミと同じなんだ。ゴミ。ゴミゴミ。
「あ、あぁ……ああああああ……うああああああああ……」
アリス・マーガトロイドは、ただのゴミ。
だからこんな目にあっているんだ。
だからこんな目に会わなければならないんだ。
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……」
もう孤独を欲しません。もう無関心の振りなんかしません。
だから許してください。だから出してください。
だから、孤独にしないでくださいぃぃぃぃぃ……!
目が覚めると、そこは白い壁の部屋の中だった。あれ、なんで私はこんなところに?
よくわかんないけど、早くここから出なきゃ。今日は楽しい楽しい宴会だ。
みんなが私を待っている。みんなが私が来るのを待っているんだ。
早く、早く出なきゃ! でも困ったな、窓もドアもない。出られないじゃない。
――ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ
「え……?」
突然、目の前の壁と後ろの壁が迫ってきた。何よこれ。何なの!?
私が戸惑っている間に、両壁が私の体を挟んだ。だがその進行が止まることはなく、私の体を圧迫する。
「ぎゃぁ……!」
腹筋が痛い。顔も痛い。痛い痛い痛い! 間違いなく、私の体はつぶされようとしている!
――あはははははははー!
外から楽しそうな笑い声が聞こえる。一人じゃない、もっともっとたくさんの笑い声。
私を嘲笑っている。視界には白い壁しか移ってないから、何も根拠などないけど、分かる。
潰されて今にもぐちゅりとグロテスクな骸に成り果てそうな私を嘲笑っている。
――そーれ一気! 一気!
まるで酒の一気飲みコールをしているかのような声とともに、壁の圧力がさっきより強くなった。
一気って、そういう意味なの!? 一気に潰せと、そういうことなの!?
痛い、痛い、痛い! 肋骨が砕けている。足と腕は既に感覚がない。顔も、変形している。いや、嫌ぁッ!
「ぎひぃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
――おー、来るぞ、来るぞー!
ぐちゅり。
「嫌ァァァァァァァァァァァッ!」
金切り声を撒き散らして、私は起き上がった。どうやらまた、夢だったらしい。泣き疲れて寝てしまったのか?
夢。夢、夢、夢。さっきから夢ばかりを見る。しかも、嫌な夢ばかり。意味も分からないし、わけもわからない。
――ガリ、ガリ、ガリ、ガリ……
「そ、んな!?」
起き抜けだったせいか気づかなかったが、また『あの音』だ。削れる音。私の寿命を減らす音! 見れば、床がどんどん迫ってきている。
ただでさえ狭いのに、床に足をつけないように体勢を変えなければならない。今度こそ、私は死ぬのだろうか?
いよいよ私に罰が下されるのだろうか。自分を偽りすぎた罪で。まさか、犯人は閻魔? そんなわけはないか。
まぁいい。いや、もういい。死のう。死んでやろう。孤独が嫌いであるとようやく自覚した今、
孤独にこの箱の中に閉じ込められたままでいるよりは――いっそ、死んでしまえ。
そう決心した私は、目をつぶって予想される痛みと死の苦しみを覚悟した。
だが、そんな私の耳に飛び込んできた音は。
――メリメリメリメリメリメリメリメリ
「あのとき」の、音だった。
――あははははははははー!
そして。夢で聞いたのと同じ声だった。楽しそうな、とても楽しそうな笑い声だった。
びりっ
Answer.3 彼女に脱出できる
あまりのショックに、私は気絶していたらしい。目が覚めると――私はまた、縮んでいた。再び分裂したということだ。目的はさっぱり分からないが。
いや、それよりも。分裂する前に聞こえたあの声。夢でも聞こえたあの声たち! 楽しそうな声! ふざけるな。ふざけるなふざけるなふざけるな!
私は首をがりがりと掻き毟りながら、大きな大きな声で悲鳴を上げるように叫んだ。
「何なのよ、何なのよ! 何よこれは、何で私が! 何で私がこんな目に!」
なんで私なのよ! 私が何をしたっていうのよ! 他にいるじゃない、こんな目に会うべき人が!
私は確かに妖怪よ。でも誰も殺したことなんかない。むしろ他の人たちに優しくしているわ!
人里へ行って人形劇をしたりッ! 魔法の森に迷い込んだ人を保護したりッ! ほら、すっごい貢献してるじゃない!
なのになんでこんな目に合わなきゃなんないのよ!? 意味が分からない! 他の人にしてよぉッ!
私以外の誰でもいい! そうよ、そうよ! 罪を持っている者がこんな目に合ってしまえばいいじゃない!
魔理沙は泥棒! 霊夢だって何匹妖怪を殺したことか! 香霖堂のあの男だって裏で何してるか分かったもんじゃないわ!
永琳だって罪人なんでしょう!? 誰か来なさいよ、そして私と代われ!
私はこんなところで死ぬべき妖怪じゃないのよぉ!? 私は魔界神の娘なのよ、偉いのよ!?
他のヤツらが私の代わりに、私のために、私だけのために死ねばいいのよ!
私のために! 死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね! 死ねぇ……死んでよぉ……。
――ザリ、ザリ、ザリ……
もう何度目か分からない、あの音が聞こえた。削れる音。削れる音。削れる音!
殺そうとする音。殺そうとしない音。希望も絶望もくれた音。もう止まれ。いい加減にしろ。
私は歯茎から血が出てくるほど、ギリギリと歯を強く噛み締めた。
いい加減にして。いい加減に。
殺せ。
さっきと言ってることが違うことは分かってる。でも今の私の願いはそれ。早く殺して。
私は何度も何度も覚悟した。自分の死を。でも一回も訪れることはなかった。
今度の音だってそうよ。死ぬかどうかわからない。今までは死ななかった。でも次は死ぬかもしれない。
なのにまた死なない可能性だって残されてる。そんなただただ宙ぶらりんな状態。
ふざけるな。
早く、殺して。いい加減、殺してよぉッ!! 早く、早く早く早く早く早く早く早く早く早くゥッ!
いったいどれだけ焦らすの!? 焦らすつもりなの!? 殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せッ!
殺さないで。殺すなら、早く殺して。
何故殺す。何故焦らす。どこまで私を傷つけるつもりなの!?
――ガンガンガンガンガンガンガンガン
ただひたすらに、壁を叩く。出せという願いと、殺せという催促を込めて。叩く、叩く、叩くッ!
実は既に削れる音は止まっている。でも、そんなことどうでもいい。どうでもいいィッ!
――ガンガンガンガンガンガンガンガン
手から血が出る。その痛みに目頭が熱くなった。誰か助けて。誰か殺して。
「上海、上海! 助けてェッ!」
思わず、いまだに残り続けていた魔力の糸を引っ張って、上海を呼ぼうとした。
――ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
それに反応して、箱もまた動く。ぴょんと跳ねるように、体中に知るか。知ったことか!
「うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさい!! 黙れェェェェェェェェェェェェェェェェェェェ!」
動くな、音を立てるなァッ! 静かにしろ、わめくなァッ! 私はそう自分に言い聞かせる。箱が狭いので、声が響くのだ。
「黙れ、黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れッ!」
――ガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリ
イライラして、頭を掻き毟った。幾本もの髪の毛が私の手に絡みつく。うざったい。うざったいッ!
ブチリ。
私の頭に引っ付いている「うざいもの」を引き抜く。引き抜く。引き抜く。抜いても抜いても離れない。
無くなれ、無くなれ、無くなれ、無くなれッ! ブチリ。ブチリ。ブチリ。ブチリ。ブチリ。
ブチリ。ブチリ。ブチリ。ブチリ。ブチリ。ブチリ。ブチリ。ブチリ。ブチリ。ブチリ。ブチリ。
あぁうるさい! 黙れェッ! ブチリブチリうるさいのよッ!
殺せ出せうざい黙れ死ね殺せ出せうざい黙れ死ね殺せ出せうざい黙れ死ねェッ!
「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!」
狂う、狂う、狂う! 私の脳みその中の何か大事な線が切れていく。ブチリブチリと。
あぁもういい、狂ってやる、このまま、狂って――
――そこに誰か、いるのかしらん?
「え゙ッ・・・・・!?」
声が、聞こえた。渇望していた声。希望の声。それが、聞こえた。
私がこの中にいることを既知している声。私を助ける声ッ……!
「だすけデ! こゴにイるわ゙!」
散々叫び散らしたからか、喉がすっかり枯れている。でも、そんなことに構っていられる場合じゃない。
――その声は……アリスかしら
紫だ。この声は、紫の声だ。やった、これで助かる。生き返る。
彼女なら、境界を操ることが可能な彼女なら、この箱がマジックアイテムであっても私を助けることが可能……!
――助けて欲しい?
「当たリ前でジょ!?」
何をぐだぐだ言ってるのだろう。出たら私がどんな目に会ったかを織り交ぜつつ、説教してやるわッ! あっはっはっはっは!
――……後悔、しない?
「すル゙わゲない゙わよ!」
早く、早く早く早く早く早く早く早く! これ以上、焦らすな。これ以上誰も、誰一人として私を焦らすなァッ!
――そう、じゃあ――
パチン。
指を鳴らすような音とともに、目の前が白い光に包まれる。あぁ、これで脱出できるのね――
ポトリ。
削られて、半分にされ、さらに散々削られて。再び半分にされた上、削られた箱。
その中にいたアリスの体が残っているはずなど、何一つなかった。
紫の手の上には、短いながらも様々な絶望を喰らった彼女の時を乗せたアリスの指だけが、残っていた。
そう、幻想郷という箱庭の中の箱の外で――彼女は、アリスとして死んだのだ。
Answer.4 彼女は絶対に絶命しない
「魔理沙ー? いるんでしょ、出てきなさーい」
私は、ある目的のために、魔理沙の家へと赴いていた。
目的といってもそうたいそうなものじゃない。貸している本を返してもらうだけだ。
いつも死ぬまで借りるとはいうものの、こうやってわざわざ焼いてきたクッキーを持ち込めば、結構な確立で返してくれたりもする。
っていうか、前から思っていたが私は貸した側なのに、なんでこんなことしなきゃいけないのか。甚だ疑問だ。
――ガチャリ
「おぉ、アリス丁度よかったぜ」
「えっ?」
扉を開けて出てくるなり、魔理沙がそう言った。一体なんだというのだろう。
「ほら。じゃーん」
「……何これ?」
「ペットだぜ、ペット。可愛いだろー」
「いや別に」
嬉しそうな顔で魔理沙が見せたものは妙な動きをする妙な生き物だった。何処が可愛いというのか。
それにしてもホント奇妙な生き物ね。白くて、長くて、でも人の形をかろうじて取っていて、くねくねと動いていて――
――パリン
何かが割れる音がした。一瞬にして、周りが闇の中に包まれた。
「な、何!?」
真っ暗で何も見えない。見えているのは、私と魔理沙――いや、魔理沙が抱いて「いた」奇妙な生き物だけ。魔理沙は、いない。
くねくねしたものは宙に浮かんで、くねくねと動いている。その場から移動することな――いや、こちらへとだんだん近づいている!?
嫌、何これ。何これ? 意味がわからない。一体私はどうなっちゃったの!? 恐怖のあまり、私は思わず強く目を閉じた。
何も起こらない。
何らかの接触があるだろうと覚悟していたが、何かが私のすぐ近くまで来ている気配はない。恐る恐る、目を開けた。
何もいない。
くねくねとした生き物は、いなくなっていた。闇の中に、ただ私一人だけが取り残される。
わけのわからない出来事の連続に、私は思わず頭を抱えた。しかし。手に感じたのは、妙な感触。
何か柔らかいものを触ったような感触だった。おかしいわ、今触ったのは私の頭でしょ?
手がおかしいのかと思い、私は自分の手の平を見た。
だがその手は、私の手ではなかった。そこにあったのは、白くて、くねくねとした手――
「あ゙ぁッ!」
私は跳ね起きた。夢。もう夢はいやだ。夢の中でさえ、さっきから一度も救いがないじゃない。
嫌な夢を見たせいか荒くなっている呼吸を抑えつつ、私は辺りを見回した。
やはりさっきの音は箱が半分になった音だったらしい。ついでに言えば、私の身長も半分だ。
その半分になった現象のせいで、気絶してしまっていたのだろうか。
意識を失う前に何かを聞いたような気がしたが、思い出せない……。
あぁ、お風呂に入りたい。嫌な汗で体中ベタベタだ。
いつになったら私は解放されるのだろう。それとも解放されることなく私はこのまま朽ちるのだろうか。
せめて犯人だけでも知りたい。誰が私をこんな目に? はぁ……。
――ゴゴゴゴゴゴゴゴ
久々に、箱が動き出す音が聞こえた。フワッという浮遊感がくる。浮かんでいるのだろうか?
と考えた瞬間、すごい衝撃が私を襲ってきた。上に軽くジャンプしていたらしい。
結局、この箱は何なのだろう。目的も犯人も何一つ分からない。私を選んだ理由も。
――……か? ……みるか
「え……?」
また魔理沙の声。嘘でしょ、やっぱり魔理沙が? それとも幻覚?
もう何も信じられない。いや、何も考えたくない。
考えれば考えるほど、なんだかどツボに嵌っていっている気になってくる。
――よし、……だ!
再びの魔理沙の声とともに、膨大な量の魔力を感じた。前にも感じたことのある魔力。
これは、どう考えても――私に、トドメを刺そうとしている。
そしてこの魔力。この魔力は――魔理沙の魔力。魔理沙が使う八卦炉の魔力ッ!
「魔ァァァァァァァァァァァァァ理ィィィィィィィィィィィィ沙ァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!」
力の限り私は叫んだ。ほとんど悲鳴と変わりない金切り声で。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
あの女が。あの女が私を殺そうとしている。何の恨みがあるッ!
糞、糞、糞、糞、糞ォォォォォォッ! あの女に私は殺されるのか!?
何故だ。何故、何故、何故! 私が何をした! ふざけるな!
「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!」
殺してやる、殺してやる。どんな形でもいい、絶対あの女は殺してやる。
亡霊になってでも、いや怨霊になってでも永遠にあの女を末代まで祟り不幸にしてやるッ!
はははははははははははははははははははははははははははははははは!
――ゴォォォォォォォォォォォォォォォォ
私の体は、魔理沙の膨大な量の魔力に包まれて、かき消され――
目が覚めると、そこは白い白い箱だった。でも、さっきまでとは違う。
箱の体積も、私の体も修復されて、元に戻っている。何がどうなっているのだろう?
「よぅ」
「魔理沙!?」
目の前には魔理沙がいた。なんで?
「助けに来たぜ」
「えっ……?」
「アリス。お前な。この箱の中に取り込まれてたんだ」
「ど、どういうこと?」
「覚えてないのか?」
「ないわ……」
この箱の中にいる前の記憶は飛んでしまっている。気がついたら、この箱にいたのだ。
「この箱は元々小さい箱だったんだぜ? それをお前が拾って、何かの実験をしようとしたんだ。
それに失敗して、お前はこの箱の中に閉じ込められちまってたんだ」
「そんなことが……」
つまり、私が犯人だったわけ……?
「しかも上海も取り込まれちまったらしくてな。この箱自体が今、上海になってる」
……そうか。私が魔力の糸を引っ張るたびにこの箱が動いてたのは、魔力に反応したんじゃない。
私の命令に反応して、この箱になった上海が動こうとしてたのね……。
「ったく、苦労したぜ、お前の身体を修復するためにバラバラになった箱を集めたり、
それをくっつくけた上で私が入るための量の魔力を集めるのは。マジックキノコ何十個もつかちまったぜ」
そうか、さっき感じた魔力は私を殺すためじゃなくて、私を助けるための魔力だったのね。
「そ、そうなの……ありが……」
なんで?
私の心の中に、そんな疑問が現れた。なんで魔理沙は私がこの箱の中に入っていることを知っていたの?
さっき魔理沙は「何かの実験をしていて」と言った。つまり、実験の内容を知らなかった、ということ。
私が実験を行ったその場にいなかったということだ。その場にいたら、魔理沙のしつこさに負けて私は実験内容を喋っているはずなのに。
なのに、彼女は実験の内容を知らない。じゃあ何故、私が箱の中に取り込まれていたのを知っていたの?
まさか、これも夢?
この箱に入ってから短時間で何度も何度も夢を見た。中にはリアルすぎて夢だと分からなかったものも。もしかしたら、これも夢かもしれない。
さっきいった実験云々は、深層意識にわずかに残っていた消えた記憶が夢の中という理由で軽くよみがえっているだけ……?
いやまって、それでも魔理沙が実験の内容を知らないのはおかしい。私が実験内容を知らないわけがないのだから。
じゃあ、いったいどういうこと?
「おい、アリス? 大丈夫か?」
「え、あ、ご、ごめん」
……どちらにしても、夢の中か現実か。今の段階では判断できない。無駄な思考。
それより、今は流れに任せてるしかない。追々分かるだろうし。
「大丈夫みたいだな。よし、そろそろ行くぞ?」
「えっ?」
「忘れたか? 魔力を多大に使っちまったって言ったじゃないか。」
「あ、そうだったわね」
「魔力の質を変えたマスタースパークでこの箱の空間に穴を開けて、脱出する。
でも私の魔力だけじゃ足りないから、お前の魔力も借りるぜ?」
「え、えぇ!」
脱出。夢にまで見たその言葉! 夢の中で聞いた言葉じゃないことを願おう。これが現実であると。
いや、きっとこれは現実だ。そうだ、現実! 根拠はない。だけど、希望がある! 希望がついに達成される!
「行くぞ、アリス!」
「やってやるわよ!」
魔理沙が八卦炉を壁に向かって構え、私はその手に自分の手を重ねた。
そして、自分の残り少ない魔力を魔理沙に流し込む!
お願い、現実であって。
夢ならば――覚めないで。
このまま、私を家に帰らせて!
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「「マリス砲ゥッ!」」
二人の魔力が交じり合った魔砲は、まっすぐに壁へと向かっていく。
そして壁と接触した瞬間――私の目の前が、明るい明るい白い光に包まれていった。
ようやく、目の前が明るくなった。
そこは、何度も見た場所。魔理沙の家の、魔理沙の部屋の中!
出られたのだ。私は、ついに脱出できたのだ!
「おぉぉぉぉぉぉ! すごいな、これ!」
魔理沙の声がした。脱出できたことで、彼女も喜んでくれている! ありがとう、魔理沙。
そう、叫ぼうとした。そう叫んで、彼女に抱きつこうとした。
動けなかった。
体どころか、顔も、眼球すらも。
どういう、こと?
「はぁー……まさかこんなのが出てくるとはな。びっくりだぜ!」
何を言ってるの、魔理沙。私よ、アリスよ? 「こんなの」って何よ。
ねぇ、嘘でしょ? まさか、そんなわけないわよね?
さっきのが、夢だったなんて。
突然、魔理沙が私の視界に入ってきた。残念そうな顔をして、こっちを見ている。
「でも動かないな。……って、うわぁ!?」
体が動いた。「勝手」に。くねくね、くねくねと、私の体が動いている。
何よこれ。何だってのよ。ねぇ、私は脱出できたんでしょ? あの空間から。あの悪夢のような空間から脱出できたんでしょ?
私という妖怪のままで!
「うぅむ、面白いな。私のペットにしよう」
え。え、え、え、え、え? 魔理沙が何処から取り出したのか、首輪を持って私に近づいてきた。
嘘でしょ、止めて。私はアリスだってば。貴方の相棒の、アリスよ?
やめて。ペットって何よ? やめて。やめて、やめてェェェェェ!
数日後、私は魔理沙に引っ張られて、香霖堂へと来ていた。くねくねと動きながら。
何一つ、私は自分で何かをすることができない。引っ張られなければ動けないし、喋れない。
だた、くねくねと動いているだけ。くねくね、くねくねと。
「……魔理沙。なんだい、それは」
「例のヤツを八卦炉に投入したらできたんだぜ!名前はくねちゃんだ!」
「やれやれ。君のセンスを疑うよ」
魔理沙と霖之助さんが、楽しそうに喋っている。私は永遠に、アレを享受することはできないのだ。
永遠に、このまま。私はずっと、ずっとずっとずっと。
幻想郷という箱庭の中の箱の中で――私は、箱として生きる。きっと、これからもずっと。
昔書いたまま放置してた奴を投稿。
これはもう一本、裏で何やってるかの話があったんですが面白くないので書かないことに。
アリスは実験の失敗で消しゴムの中に閉じ込められました。
その消しゴムを魔理沙が実験したり、二個に分かれた片方をあっきゅんが使ったりあやちゃんが使ったりしてます。
狼狐
- 作品情報
- 作品集:
- 1
- 投稿日時:
- 2009/02/21 04:54:36
- 更新日時:
- 2009/02/21 13:54:36
てか、ほんとアリス好きだな……
それでも狂いそうなすごい話だったw