Deprecated : Function get_magic_quotes_gpc() is deprecated in /home/thewaterducts/www/php/waterducts/neet/req/util.php on line 270
『小傘ちゃん改造計画 後編 (星の新キャラ登場 ネタバレ注意!)』 作者: かるは
ぎぃこ、ぎぃこ
きチり、キちり
何かを、引いている音
何かを、結んでいる音。
その後に続くのは、何かを剥がしている音。
何かを結んでいる音。
何かを作っている音。
◆ ◆ ◆ ◆
傘の妖怪、多々良小傘が人間の医者の家の戸をくぐってから二刻(およそ四時間)が過ぎた。
それは、『手術』を終えるには十分過ぎる時間であり、激痛で意識を失った小傘が意識を取り戻すのにも十分な時間。
……尤も、片目を失ってしまった小傘が『目を』覚ますと言うのは、言いえて妙な物かもしれないが。
「……ぅ……ぁぁ…………」
「おお、気が付いたかい?」
「…………ん……? あれ……、目……開かない……?」
意識を取り戻した小傘が最初に感じたのは、視覚に対する違和感だった。
瞼を開ける感覚が無い。
右の瞼に感覚が無い。
右の目に、何も写らない。
右の眼に――
「――あ……あ゛……ち、違う…………私は…………」
必死に自分の記憶を否定しながら、右手でそっと自分の右目に触れてみる。
人間の医者にされた事を否定しながら。
自身の身に起こった事を否定しながら。
全ては悪い夢だったのだと、必死に否定しながら、自分の右目に触れてみる。
けれども、そこに右目は無かった。
右の眼球が無かった。瞼が無かった。
そこにあったのは、空っぽの空間。
眼球があった場所には何も無く、小傘の指は自身の右眼窩の中を空しく切るだけ。
「……あ…………あ、あ、ぁ………………」
もう、否定する事も出来ない。
自分の指が、自分の顔にぽっかりと開いた穴の中に入ってしまったから、否定なんて出来ない。
「た、助けて…………誰、か……っ………………!?」
手術台の上から逃れようとして、小傘は立ち上がろうと足に力を入れる。
残された左目で男の様子を伺いながら、必死に逃げ道を探しつつの作業。
けれども、そこでまたしても違和感があった。
左足に力が入らない。
立ち上がろうとしたのに、立ち上がれない。
まるで手術台に縫い付けられてしまった様に、自分の腰が浮かばない。
いや、これは――
「……ぅ…………そん、な…………?
あ……あ、ぁ……嘘、だよ……だって、だって私…………私、私……っ!」
『私は』何だと言うのだろうか?
続く言葉が浮かばないのは、言葉を紡ぐだけの思考が出来ないからなのだろう。
言い訳が出来ない。認識しか出来ない。肯定しか出来ない。否定は出来ない。
小傘は自らの下半身に目を向け、そこにあるべき物が無い事を認めざるを得なかった。
無い。何が?
右足だ。右足が、無い。
どこから? どこから無いの?
根元からだ。腿からばっさり、切り捨てられたみたいに無くなっている。
「気に入って貰えたかな?
こんな小さな診療所でするには分不相応な大手術……無事に成功して良かったよ」
「……どうして……?
…………どうして……どうして、どうして……どうして、こんな事をするの!?」
「どうしてって、君が『人間を驚かせたい』と言うからだな……そうだ、鏡を見ると良い」
残された左目に涙を浮かべながら、小傘は自分の身体を滅茶苦茶にした医者に詰め寄る。
否。詰め寄ろうとしたが、片足を失った自分にはそれが出来ない事を思い知らされるだけだった。
医者の顔を張り倒してやろうとしたのに、身体を浮かす事が出来ない。
それどころか、自分の身体を滅茶苦茶にした医者は自身の身体に手を添えると優しく抱き抱えてくれたではないか。
花婿が花嫁を抱き抱える様に優しく、壊れ物を扱うかの様に。抱き抱えたまま、部屋の片隅に設置された姿見の前へ。
「ほら、こうすれば見えるかな? 見ての通り、小傘ちゃんは生まれ変わったんだ。
恐ろしい姿だろう? 気持ち悪い顔だろう? 片目で片足、瞼は無くて骨が剥き出し、実に奇妙で奇怪な姿だ。
人間とは似ても似つかない異形の姿なのだから、きっと人間に驚かれる」
医者の男に言われるまま、小傘の視線は姿見の中へと向けられる。
片目でも分かる。姿見の中で自分が医者に抱き抱えられている。
だが、姿見に写った自分は、今までの自分とは似て異なる存在だった。
そこにあったのは、変わり果てた自身の姿。
片目を失い、顔にはぽっかりと空洞が開いている。
片足を失い、太腿には何重にも包帯が巻かれ、傷口には治療が成されている。
隻眼にして隻脚。二つのパーツを欠損した多々良小傘。
残された瞳は涙を流し、残された脚にはお気に入りの下駄を履いたまま。
姿見の中に居たのは不完全な唐傘お化けの姿だった。
自分の腕前に満足したのだろうか、医者の男は己の作品となった小傘の姿を褒めるばかり。
姿見を見て歯をカチカチと小刻みに鳴らしている小傘の様子を満足している、とでも考えているのだろう。
小傘の身体を手術台の上に戻すと、笑顔のままで部屋の隅に設置された棚の方へと歩を進める。
「そしてだ……何と! 小傘君の手術成功を祝ってプレゼントもあるんだよ!」
医者は笑顔のままで、棚に立て掛けてあった物を手に取ると、小傘に差し出した。
『それ』は、細長い棒の様だった。
小傘には、『それ』が何なのかは分からない。
けれども、こんな状態で渡される物なのだ。きっと自分の精神を滅茶苦茶にしてくれるのだろう。
嫌な確信だが、そんな確信があった。
薄暗い部屋の中、男の手元に視線を集中させ、『それ』が何なのかを確認する。
ぼうっと視線を左右に動かし、『それ』の全貌を確認する。
「……傘……?」
「そう! 新しい傘、とでも言うべきかな。
今まで使っていた傘は可愛い外見だったからね。君が人間を驚かそうとするなら、傘の外見にも拘るべきかと思ったんだ。
……ああ、『今までの傘はどうしたんだ?』って顔をしているね。心配しないでくれ、捨てたりはしていないさ。
僕だって、女の子の持ち物を勝手に捨てたりなんてしないよ。これは僕の自作傘だ」
「そ、そっか……人間さん、私の為に傘まで作ってくれたんだ……」
嫌な予感に反して、男が持っていたのは普通の傘だった。
白い骨に茶色の傘布を組み合わせたシンプルな構造。
そして、今まで使っていた愛用品の傘は捨てていないと言う男の言葉が小傘の心に幾許かの余裕を取り戻してくれた。
異常な状況だからこそ、常識的な贈り物は小傘の心を安らげてくれた。
けれども、小傘は気付いてしまう。
知らない方が良い事実に、気付いてしまう。
「気に入って貰えたかな?
当分は慣れない片足生活になるだろうし、杖代わりに使ってくれても構わないよ」
「あはは……そうだね、そうする。その傘、私の足を同じくらいの長さ………………」
不意に口走った言葉に、小傘の脳裏を再び嫌な予感が過ぎる。
『そう言えば、あの傘は自分の足を同じくらいの長さじゃないか?』
「おお、やっぱり分かるか!
ご名答、この傘は小傘君の右足を加工した物なんだ!
傘布は小傘君の皮膚を加工した物、骨は文字通り、足の骨を加工した。
いやあ、切除した足を何かに有効利用出来ないかと思ってね……
もしかして不気味な傘の素材にならないかと思って、慣れない工作をしてみたら中々の品が完成したよ。
どうかな? 気に入って貰えたかな?
『自分の足を傘に加工して持ち歩いている』なんて噂が広がれば、きっと人間に畏怖されるに違いない!
顔と体、そして持ち物……これだけ変わったんだ、きっと人間に怖がられるよ!
……おーい? おーい、小傘君……?
…………って、泡吹いて失禁してるじゃないか! こらこら! 手術台を汚すんじゃない!
起き給え、起き給え小傘くーん!」
◆ ◆ ◆ ◆
「……ふぅ、もうこんなに暗くなったか……
早く帰らないと、父ちゃんと母ちゃんが心配するなあ」
夜の幻想郷。
人里へ続く道を、一人の青年が歩いていた。
そんな青年に背後から忍び寄るのは小柄な影。
ギラギラと紫に輝く右眼。
スカートから覗くのは、高下駄を履いた脚が一本だけ。
両手に持つは茄子のお化けの様な傘と、不気味な獣臭さを纏った傘。
小柄な影は青年の背後にぴったりとくっ付くと、耳元にそっと息を吹きかける。
振り返った青年の視界に入るのは――異形。
片目で片脚。体中からゴツゴツとした骨を生やし、腕を蛇の鱗が包んだ異形だった。
「ひゃ――!? だ、誰だ!?」
「う……う゛ぅ…………」
「『う』?」
「う゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ら゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛め゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛し゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛や゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!!!!」
「…………っ…………ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?!?!??!」
◆ ◆ ◆ ◆
「えへへー♪ 人間さん、今夜も大成功だったよ!」
「おお! それは良かった」
「凄いでしょ! 褒めて、ねぇ褒めてー♪」
「よしよし。小傘君の勝利を祝ってナデナデだ」
あれからも、小傘と医者の男は付き合いを続けていた。
と言うより、小傘が診療所に居ついていると言うべきか、居候していると言うべきか。
医者の男は本当に幸せだった。
医者の男は日々を共に過ごす相手、それも、身体の一部を欠損してはいるが可憐な少女が出来たのだから。
畸形妖怪の少女は、男の性欲処理にも付き合ってくれた。
身体パーツを失った畸形ではあるが、その外見はあくまでも可憐な少女。
裸身に欲情するのも已む無しである。
例え片目が無くて片足が無く、体中のあちこちに手術跡が残り、最近では背中のあちこちから獣の骨が覗いていても、である。
小傘もまた幸せだった。
医者の男は小傘が望むままに身体を改造してくれたからだ。
改造は苦痛を伴う物だったが、自分の身体が奇抜で奇妙な物になれば人間はきっと驚く。もっと驚く。
最初は変わり果てた己の姿に絶望もしたが、人間はそんな小傘の姿を恐れ、驚いていた。
結果として、小傘は当初の目的を達成出来たのだ。
今となっては医者の男への恨みはとっくに消えており、感謝の気持ちで一杯である。
そして、苦痛と共に与えられるほんの少しだけの快感。
それらが小傘に手術を耐えさせた事も大きかったかもしれない。
今になってみれば、小傘は被虐を好む妖怪だったのだろうか。所謂マゾヒスト、である。
皮膚にメスを入れられ、骨を削られ、内臓を切除される度に嬌声を響かせているのだから……恐らく、間違いない。
……週に一度だけの、愛を確かめ合う時間が嬉しかった事も、追記しておこうか。
「えへへー……ナデナデ、もっとー♪」
「はいはい。ナデナデっと」
どこかずれた人間の医者と、生まれ変わった妖怪の少女。
二人は本当に幸せで、本当に愛し合っていて。
そんな二人の生活は、まだまだ続きそうである。
「ねえ人間さん! 次は、背中に天狗の死体の皮を張って欲しいな」
「よし、皮膚移植手術だな。任せておけ!」
「わーい♪」
[小傘ちゃん改造計画 了]
前編では悲惨な事になっていた小傘ちゃん、後編で幸せになれて良かったね。
やっぱりハッピーエンドが一番! ですね。
脚の切除シーンが省略で、それらを期待した方のご期待には沿えられなかったかもしれません……ごめんなさい
小傘ちゃんの足を素材にした傘、使ってみたいなあ……
そして書いてて何ですが、医者の男性が羨ましいぞ。
週に一度も小傘ちゃんとベッドタイムだなんて……ぱるすぃぱるすぃ。
こんなSSでしたが、気に入って頂ければ本当に嬉しいです。
ではでは。
かるは
作品情報
作品集:
1
投稿日時:
2009/03/15 16:51:37
更新日時:
2009/03/16 01:51:37
分類
欠損
多々良小傘
エロ無し
新作ネタバレ注意
ハッピーエンド
(早苗さん以外なら)幸せなのは嬉しい
早苗さんには絶望が似合う
この空気いいね
しかし医者は浦山氏すぎるな、けしからん