Deprecated: Function get_magic_quotes_gpc() is deprecated in /home/thewaterducts/www/php/waterducts/neet/req/util.php on line 270
『蟲(2)』 作者: 桜色
「ふぅ・・・やっと出来た」
魔法の森、アリス亭。
ずっと裁縫用具と格闘していたアリスが息をついた。
うーん・・・!っと体を精一杯伸ばす。
ずっと座った作業を続けていたせいで、体の彼方此方からぽきぽきと不快な音がする。
「あー、そういえばここの所魔理沙を見て無いわね」
新しい人形作りに没頭していた為、日付の感覚が薄れていたが、
彼是もう一週間程は顔を見ていない気がする。
今まで三日と空けずに顔を合わせていただけに、少し気に掛かった。
「気晴らしも兼ねて、たまにはこっちから出向いてみようかな」
手早く用意を済ますと、家を出た。
/
トン!トン!
魔理沙亭のドアを力強くノックをする。
「・・・。・・・・・・居ないのか。神社にでも行って見ようかな」
神社に着いたが、こちらも人影は無く、閑散としていた。
社の中に足を踏み入れてみるが、人の気配も無く、机にも薄らと埃が積もっていた。
「・・・おかしいわ」
魔理沙はともかく霊夢は長く神社を空けることは今まで一度も無かった事だ。
これはちゃんと調べた方が良いかもと、心当たりを探る事にした。
リグルはその様子を影から見ていた。
「さすがに気付かれ始めたかな、でも今彼方此方嗅ぎ回られると厄介だから何とかしないと・・・」
リグルはアリスが飛んだ方向から行き先は紅魔館だと予想し、先回りに出た。
/
予想は的中した。
上空をアリスが通りかかった。
「おーい、アリスー!」
呼びかけに気付いたアリスがゆっくりと降りてきた。
「何よ?何か用?」
「何処に行くの?」
「貴方に関係ないじゃない。ま、ちょっとした野暮用よ」
「もしかして魔理沙のことじゃない?ちょっと気になる事があるんだけど・・・」
「!!何か知ってるの?」
「うん。こっちの森の中なんだけど、ちょっと一緒に来てもらえる?」
アリスはリグルに言われるままに森へと足を踏み入れた。
「結構深い森なのね、まだなの?」
「もうそろそろかな」
「痛っ!何?あーもう最悪!虫に刺されちゃった」
「・・・アリス、油断しすぎたね」
「・・・?何の話よ・・・あ!がッ!」
「やっぱり何十倍にも濃度を増した毒は効きが違うなぁ。妖怪にこの子達の毒が効くのか心配だったけど、効くみたいだね」
アリスはその場に蹲り、喉元を押さえ、ヒュー・・・ヒュー・・・っと呼吸を繰り返すのが精一杯だった。
「でもさすがに効きすぎたかな?まぁ人間なら数百人が一瞬で殺せる程の強さだから仕方ないか」
リグルはアリスの背後に回ると、引きずる様にして近くの木の下へと移動させた。
「さて、ちょっと力を貸してもらうよ皆」
パチンと指を鳴らすと、辺りからは無数の蜘蛛が現れた。
統率が取られた蜘蛛達は、アリスの体を木に縛りつけるように糸を吐き出した。
あっと言う間にアリスは蜘蛛の糸で身動きが取れなくなった。
「ヒュー・・・ヒュー・・・い・・・一体・・・何なのよ・・・」
「今アリスに魔理沙や霊夢の事嗅ぎ回られるのは困るんだよねー」
「霊夢や・・・魔理沙の・・・こ、事知ってるの・・・ね」
「知ってるよ。でももう会えないけどね」
「・・・!・・・貴方一体何をしたの?」
アリスの顔が見る見るこわばった。
そして青白かった顔色も徐々に血の気が戻り、明らかに毒が抜けていくのが見て取れた。
「やっぱり妖怪は回復力も凄いなー。魔理沙なんてその0.1%にも満たない量で気絶しちゃったのに」
「魔理沙を何処にやったの?答えなさい!答え次第では!」
「どうするっての?その状態で」
「クッ!」
「でもホントどうしようかなぁ・・・妖怪の肉とかこの子達に食べさせちゃうと、妖怪化しちゃうことも有るし・・・
かといってこのまま帰すわけにも行かないし・・・」
「食べる!?何を言ってるのよ!?」
「うーん・・・」
思案するリグルの目の前を1匹のハエが通り過ぎた。
「・・・名案が浮かんだ!そこの君、ちょっと力を借りるよ!」
先程通り過ぎたハエがリグルの元へと戻ってきた。
そしてリグルの指先に小さな卵を産むと飛び去っていった。
「よし、こいつに私の魔力をかけてやって・・・上手く行くかな?」
魔力を与えられた卵は見る見るうちに孵化し、大きくなり、【妖虫】へと変化した。
「うまく行く保障は無いけど、物は試しだ!」
言うとアリスに近づいた。
「ひ!何よその虫!気持ち悪い!」
「アリスも僕たち虫のことを理解してくれないんだね・・・でもこれからは一緒になるんだからすぐにわかるよ」
「やめてやめて!そんな物近づけないで!」
「ほら、お行き」
アリスの肩にそっと乗せた。
妖虫はゆっくりとアリスの肩から首へと上っていき、やがて耳の所まで来た。
「ひぃぃ!」
這いずる虫の感触と気味の悪さに全身を硬直させ震わせた。
耳を確認したのか妖虫は、その中へと侵入を始める。
グジュル!グポ!ジュルルル!ゴポポ!
耳の中に感じた事の無い感触と、聞いた事も無い不快な音が脳に直接響いてきた。
「きゃぁぁぁああぁぁぁぁぁ!!!やめて!入ってこないで!やめて!やめてぇぇぇ!」
全身に鳥肌が立ち、ガクガクと震え、汗が噴出す。
ジュルルルルウ!グジュ!
アリスの懇願も虚しく妖虫は更に奥へ奥へと進む。
「あ・・・あ・・・」
目を大きく見開き、口からは涎をダラダラと垂らし・・・
じょろろろろ・・・
ついには失禁までしてしまっていた。
グ・・・チャ!
「よっし!何とか入れたぞ。ここからが問題だなー、上手くできるといいけど・・・」
「や・・・めて・・・」
アリスの頭の中に何かが蠢く。
「ここからは慎重に・・・もうちょっと奥かな?」
「あ・・・頭の・・・中に何か・・・が」
「よし!ここだ!」
ビクン!
アリスの体が電流でも流れたかのように跳ね上がった。
「驚いたな、ここまで上手く行くとは予想外だ!」
リグルは近くの切り株に腰掛けると、パチンと指を鳴らした。
するとまたも蜘蛛の集団が現れ、アリスを縛り付けていた糸を切り離して行った。
「気分はどうだいアリス?」
その声は耳ではなく、アリスの脳内に直接響いてきた。
『あ、貴方私の体に何をしたの!?』
大声を出して叫んだつもりだったが、アリスの口からは一切の声が出なかった。
『・・・え?』
「無駄だよ。アリスの体は私が乗っ取っちゃったからね」
『ふざけないで!』
「ふざけて何かいないよ?疑うなら体を動かしてごらんよ?」
『・・・!・・・・・・!』
「ほらね?私だけがアリスの体を自由にできる様にしたの。ほら右手、左手、右足、左足」
リグルが指示するたびにアリスの体は動いた。
『・・・一体私の体に何を?』
「今こうして話してるのはアリスの頭の中と中枢神経に巣食った私の分身が居るからだよ。
直接アリスの脳に干渉してるから会話もできるし、目も見えるでしょ?でも体の自由は私のもの」
『嫌!嫌ぁ!そんな物今すぐ出して!私の体を返して!』
「それは出来無い相談だね。これからアリスには人形遣いではなく、私の人形として働いてもらうよ」
『嘘よ!嘘!こんな事・・・こんな事!』
「そういえばアリスの連れてる人形ってどうすれば操れるのかな?」
手を動かしてみたり、口で動けと命令してみるが全く動かない。
『当たり前よ!上海と蓬莱は私のパートナーよ!私以外の誰かに動かされてたまるもんですか!』
「仕方ない、じゃあ私流でやるか。君とそっちの子、おいで」
虫を2匹呼び寄せた。
そしてその2匹にリグルは魔力を与えた。
2匹は途端に十倍ほどの大きさになり、妖力を湛えた。
「君はこっち、そっちの子はあっちね」
2匹は指示されるがままにそれぞれ上海人形と蓬莱人形の中に潜り込んだ。
『私の人形達に何をするのよ!』
「操れない以上こうするしか無いでしょ?どうだい君たち?動けるかい?」
すると今までぴくりとも動かなかった人形がスゥーっと起き上がり、リグルに向かって頷いた。
「これが私流の人形操術ってとことかな。さてと。これで駒は揃った。じゃ、本格的に始めようかな」
『ううう・・・返して・・・私の体・・・あぁああ・・・私の人形達・・・うううううう・・・返して・・・』
/
【アリス】とリグルは人里へと降りてきた。
「時間も勿体無いしさっさと始めよっか」
『・・・何を・・・するつもりよ?』
「煩いなぁ、何も出来ないんだから黙って見ててよ」
言うとリグルは【アリス】に指示を出した。
アリスは人里の中に入っていき、里の中心にある広場で足を止めた。
そして【アリス】は【人形】を呼び寄せると、声を高らかに発した。
「さて皆さん、今からここで人形劇を始めたいと思います!」
人々がその声を聞くと、一斉にアリスの周りに人の輪が出来上がった。
娯楽の少ないここではちょっとした事でもお祭り事のように盛り上がる。
「ではこの人形にご注目ください!」
【アリス】が指示をすると、【上海人形】が浮かび上がり、人の輪の中を飛び回った。
「おおー!」
人々からは小さな感嘆が漏れた。
しかしその直後、人ごみからは違った声が響いた。
「え?何この糸?」
「この糸も人形の演出かい?」
「きゃ!ちょっと!この糸くっついて取れないわよ!」
「何よこれは!」
「きゃー!いやー!」
あっという間に悲鳴が漏れ始めた。
【上海人形】の中にはリグルから魔力を受けた蜘蛛が入っていた。
妖怪蜘蛛は、飛び回りながら非常に高い粘着性と強度の蜘蛛の糸で人々を捕らえていった。
騒ぎに気付き、その場から逃げ出そうとした者たちも居た。
しかし、その先には妖怪蜂が潜んでいる【蓬莱人形】が待ち構えていた。
逃げ惑う者達を的確に追いかけ、針での一撃を喰らわせる。
刺された者達はすぐに全身が麻痺し、その場にバタバタと倒れて行った。
『・・・酷い!何の罪も無い里の人に手をかけるなんて!』
「何の罪も無いだって?・・・本当に分って無いんだね・・・」
『一体この人たちに何の罪が有るって言うのよ!』
「どうした!?何の騒ぎだ!?」
騒ぎを聞きつけた慧音が駆けつけた。
「アリスじゃないか!一体これは何の騒ぎだ?」
「慧音様!あいつが・・・あいつが人形を使って後の皆を襲い始めたんです!」
「馬鹿な!そんな事をするお前では無いだろう!アリス、何があった!?」
「こういうことよ!」
慧音に向かって【上海人形】が飛び掛った。
しかし慧音もその程度のものを食らうほど低いレベルの者ではない。
軽く避けると、【アリス】に向かって戦闘体制を取った。
「動かないで!」
【アリス】は慧音が避けの動作に入った瞬間に、一人の人間を人質に取った。
「うっ!人間の人質をとるとは!そこまで落ちぶれたか!」
「好きに言って頂戴」
チクッ!
「むっ!」
慧音の背後から【蓬莱人形】が近づくと慧音の首元に毒針を打ち込んだ。
もちろん対妖怪用の猛毒だ。
途端に慧音はその動きを止め、倒れこんだ。
「き・・・貴様・・・何をした!?」
「麻痺毒よ。暫くの間そこでじっとして貰うわ」
『酷い・・・酷すぎる!あんまりよ!何故こんな事をするのよ!』
「これは私達虫たちからの仕返しなのさ!」
『私達に仕返しされる何かがあったの?ここまでの事に駆り立てさせたその理由は何!?』
「アリス、君は人を殺した事はあるかい?」
『そんなことあるわけ無いじゃない』
「では虫を殺した事は?」
『・・・』
「有るよね?では君が友達を殺されたらどんな感情を抱く?嘆く?悲しむ?憤る?
頭の良い君の事だ、もう理解したでしょ?」
『そんな・・・そんな・・・』
「魔理沙と霊夢についても、もういい加減何が起きたか薄々気付いてるでしょ?」
『・・・嫌よ!そんな事認めたくない!そんなこと絶対認めるもんですか!!』
「そう思いたけりゃそう思ってりゃいいよ」
『ぁぁぁああぁ夢よ!これは悪夢なんだわ・・・きっともう直ぐ目が覚める・・・目が覚めたら・・・きっと』
「ここまで来ちゃったんだから、アリスにも苦しみ味わってもらう事にしよう。妖怪代表としてね」
『・・・ぅぅ、ヒック!これ以上、ぐす・・・何を・・・しようって言うのよ・・・』
「こういうことさ!」
再びリグルは【アリス】を操ると、糸で絡め取られている村人の元へ近づいた。
「ああ、丁度良い物があった」
一人の男性の腰には薪割りに使うための鉈が吊るされていた。
それを取り上げる。
「アリス、よく見ておくんだよ。彼らが私達の同胞を無残に殺してきたように、これから彼らは無残に殺されるんだ」
『ふざけないで!そんな事やめて!』
「しっかりとその目に焼き付けてね」
男に向かって大きな鉈を振りかぶる。
『や・・・めて・・・やめて!やめて!やめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめ』
ドシュ!
鉈は振り下ろされ、辺りに真っ赤な血飛沫が舞った。
歪に歪んだ顔、生暖かいぬるりとした血の感触、耳に響く悲鳴・・・
『ア・・・あぁ・・・あ・・・』
その光景の全ては目を逸らす事さえ許されないアリスの脳裏に焼き付けられた。
『い・・・や。私じゃない・・・こんな・・・いや・・・』
「しっかり見たかい?」
ドス!
【アリス】の体に鈍い衝撃が走った。
「ア・・・リス!キ・・・貴様ぁ!」
慧音が渾身の力を振り絞り、投げた剣が【アリス】の腹部を貫いていた。
「ここまでかぁ。思った以上に慧音の回復が早かったのは誤算かな。あれだけの毒を打ち込んだのに・・・」
【アリス】の体がガクリと崩れた。
「仕方ない。アリス、体は返してあげるよ。もう今更どうにもならないと思うけどね。聞いてるのかいアリス?」
『私じゃない・・・私じゃない・・・返して・・・やめて・・・やめて・・・』
「壊れちゃったかな?仕方ないか。それじゃアリス、また会えたらその時はいつでも仕返ししてくれていいからね・・・」
リグルの思念がアリスから抜けていった。
「慧音様!大丈夫ですか!?」
「私は大丈夫だ・・・それよりそいつを・・・アリスを今のうちに縛り上げるんだ!」
「は、はい!」
やっと蜘蛛の糸から抜け出した男達が数人でアリスを囲み、一気に縛り上げた。
「よくもやってくれたな!」
「私じゃない・・・返して・・・返して・・・やめて」
アリスはただうわ言の様に呟くだけだった。
「何が返してだ!何が私じゃないだ!こいつ・・・こいつ!許せない!」
「火あぶりにしよう!」
誰かが言い出した。
「ああ!こんな奴生かしておけない!火あぶりだ!」
「河原に連れて行け!河原で火あぶりだ!」
「ま、待てお前達・・・ぐぅ!」
「慧音様!まだ無理されてはいけません!家まで私がお送りしますから、あの者の処理はお任せください!」
何とか引きとめようとする慧音だったが、それが精一杯だった。
そのまま村人に支えられるように意識を手放した。
「返して・・・返して・・・いや・・・私じゃない・・・」
「こいつずっと同じことばかり繰り返してやがる!」
「ふん!どうでもいいさ!もう顔も見たくない!さっさと火をつけようぜ!」
アリスの足元からゆっくりと炎が立ち上り始めた。
「返して・・・私の体・・・返して・・・私じゃない・・・私じゃない・・・わたし・・・・・・・・・じゃな・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
/
前作にコメント頂いた方ありがとうございます。
わかてた事だけど、アリス愛されすぎワロタw
そんなアリス愛に答えれたかどうかは分りませんが、
皆様の希望の星であるアリス様で書かせていただきました。
御眼鏡に適うといいのですが^^;
桜色
- 作品情報
- 作品集:
- 1
- 投稿日時:
- 2009/03/19 18:06:43
- 更新日時:
- 2009/03/25 00:02:30
- 分類
- アリス
- 残酷描写
- 虫
- リグル
魔女狩りちっくに死ねるなんて魔法使い冥利に尽きるだろうよ。本当に良かった
と思いきや寝てそう