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『こまちゃのアレ』 作者: 蓋の鍋
一。
上から人を見下ろして正論ばっかり言ってる奴は大嫌いだ。
そいつが誰かって、そんなの言うまでもない。
「小町、そんな所で何をしているのですか?」
そんなことを考えているそばから本人がやってきた。
噂をすればなんとやらだが、このお人は別に噂なんかしなくても現れるから質が悪い。
今日の分の霊魂は一通り捌き終わったんだから、あとはあんたの仕事(裁き)だろう、と喉まで出掛かった台詞を飲み込み、いつもの表情を作る。
気を抜いたら最後、このちんちくりんを今すぐにどうにかしてしまいそうだ。
「特にすることもないので。ちょっと物思いに耽ってました。けどもう帰りま――」
「貴女が物思い、ですか? それは珍しいですね。いったい、何を考えていたんですか?」
そんなのあんたに何の関係があるんだよ。。
職務怠慢で上に密告してやろうか、と考えつつ愛想笑いは絶やさない。
気を抜いたら最後、この妙に楽しそうな小さな唇を横一文字に引き裂いてしまいそうだ。
そんなことしたら、あたいの思い描くカタチじゃなくなってしまう。
「仕事のことですよ。まあ、大したことじゃないんですけどね。さてと、そろそろ――」
「仕事、ですか」
人の話を聞けよ、てめぇ。ホンッと空気が読めないやつ。
うむむ、なんてわざとらしく唸りながら口元に手を当てて、眉で八の字を描いてやがる。
ああ、もう。
「あのー、映姫さま? ……ぉぃ」
それから幾分か沈黙が続いた。
気まずさやイライラを通り越して、もはやあたいは嘆息を飲み込むほかに術がない。
あたいの仕事のことなんてどうでもいいから、一刻も早く他所に行ってくれないだろうか。
この人が考え事を始めると、こちらは別にやましい事など何もしていないのに妙に息が詰まる。
なにより思考時間が常人と比べて頭一つ飛びぬけているから、心労も倍だ。身長は頭二つくらい低いくせにね。
「ひょっとして、何か悩み事でもあるのですか?」
悩みだったらまさしく目の前のあんた以外に思い当たらないんだが。
せっかく早めに仕事を切り上げられそうだったって言うのに、何だって、こんなグダグダした空気に飲まれなくてはならないのだろう。
こんな所で油を売ってないで、あんたはとっとと自分の持ち場に戻れっていうんだ。
何なら、あたいがアレでお体をバラして部屋まで運んで差し上げましょうか?
「もし悩んでいる事があるなら、私でよければ相談にのります。部下の心配をするのも上司の役割ですから」
「そいつはどうもありがとうございます。でも、いいんです」
「何がです?」
「映姫様がそんな心配をする必要はありません。貴女のようなお人が、いちいち下々の連中の面倒を見ることないんですよ」
「下々だなんて、そんなこと言ってはいけません」
「自分のことをどう貶めようが勝手じゃないですか? それともなんですか、そんなことまでいちいち管理されてんですかねぇ、ここは」
「……小町?」
ハッとした。
危ない、アブナイ。危うく全部ぶちまけてしまうところだった。
有終の美を飾るにはまだまだまだまだ早い。
「すみません、口が過ぎました……。あたい、疲れてるのかなぁ」
アレを強く握り締め過ぎて赤くなった手をさすりながら、眼下の色白い顔を伺ってみる。
なんだその間抜け面は。
我慢が限界に達したみたいで、気がついたらアレを振るっていた。
二。
その晩、あたいは一人でアレの手入れをしていたのかというと、実はしてなかったのだ。
なぜかというと、途中でケツマンチョに飲みに誘われたからだ。
本当はアレの手入れを邪魔されて、ちょっと沸いたのだが、そこは持ち前の明るさで何とか事なきを得た。
「ったく、ホンッとに空気読めない奴だよね」
仕事仲間の一言に、皆が声をそろえて賛同する。
あたいは他の席に目をやり、どこの職場だって上司の悪口でうまい酒が飲めるというのは変わらないらしい、ということを実感した。
比較的年が若い奴らばかりで、上司らしき人物の影はない。おやおや、珍しく偽腋までいる。
「あそこまで空気が読めない奴も珍しいよね? 私だったらすぐに気づくけどなぁ……ああ、私嫌われてるんだってね」
「あいつ閻魔なんかやめて、竜宮の使いに師事した方がいいんじゃない?」
「無理無理ぃ〜。どうせ、言われたことに食って掛かって一日ももたないって。あいつの頭の固さって言ったら……ねえ?」
ホントそうだ、とか、うんうん、とか適当に相槌を打ちながら、あたいの心の中では舌打ちの嵐だ。
てめぇらに何がわかるんだよ。直属でもないくせに知った口利きやがって。
ああ、やっぱり来るんじゃなかったな。すみません、泡般若のお代わりください。
「この前、私、説教されたよ。し終わった後のあいつの満足そうな顔ときたらもう……あーっ、ムカつく!」
「説教が趣味なんだよ、絶対」
「「「「「「「「「「「「「あははは、はぁあは、ははははっ!!」」」」」」」」」」」」
何人いるかわかららないケツマンチョに混じって、あたいだけは鼻で笑っていた。
趣味じゃなくて、あれは習性なんだよ。
するとかしないとか、そういう次元じゃない。気がついたら説教されている、というまさに四季映姫の世界だ。でもま、それももうすぐおしまいだけど。
それにしても、何人いるんだこいつら? 初めて見る顔もいるが、いちいちケツマンチョの面など覚えていない。
「小町ぃ、あんたも何か言ったらぁ? ほら、あんたさぁ、一番じゃない?」
何が? とグラス片手に目で問いかけてみる。
無反応。やっぱりダメか。
「あたいの何が一番だって?」
「だーかーらぁ〜、えーき様のことだよぉ。あんたがさ、一番迷惑してるんじゃないのかってことぉー」
「ははっ、まさか」
「ん〜?」
すみません、泡般若のお代わりください。
「たしかに、皆が言うように映姫様は厳しいお人だし、時には、その……うん、まあ、お説教が長いのは認めるけど」
「長すぎだしぃぃ」
「あはは……でも、別にあたいはそんなに苦じゃないよ。むしろ、その都度、心の中では感謝してる」
「……はあぁ?」
「結局、それってさ、認めてくれてるってことでしょ? きちんと言えば物事を理解してくれるって」
「ええぇぇ……うーんぅ、まあぁ、そうだけどさぁ」
だーれが聞きたがるってんだ、あんな愚痴を熨斗でくるんだようなご高説を。
ああ、やっぱりだめだわ。うう、帰ってアレの手入れがしたいよ。
今更後悔してもしょうがないけど、やっぱり飲む相手は選ぶべきだなと思う。
同じ死神だと思って油断したなぁ。所詮、ケツマンチョはケツマンチョだ。
「空気が読めないっていうけど、それは裏を返せば外聞を気にしないってことだしさ。やっぱ、閻魔となると格が違うんだよ」
それにしても、あたいってこんなに口が巧かったっけ。
あまりにも心にも無いことが口から出てくるものだから、自分で気持ち悪くなってきた。
厠はどこだろう。
すみません、厠はどこですか? あと、泡般若のおかわりください。
。
……。
宴もたけなわになってしまった。ああ、もう帰りたい。
「ねぇぇぇ、こまっちゃんってばぁ」
相変わらずこのケツマンチョはあたいに絡んでくるし。
「ねぇってばぁ! ききたいことがぁ、あるんですってばぁ」
「はいはい」
「あぁー、なんかぁばかにしてるねー?」
「してないってば」
「ほんとにぃ? じゃあねぇ、あらためていうんですけどねぇ、おのづか氏にしつもんです!」
言ってみろ。
無論、返事などしなくても勝手に話し始めるんだろう。
「あのこ、なんでこないのぉ〜? こまっちゃんといっしょじゃぁ、なかったの……?」
「……あれ、あんたの連れだったの?」
ガクンガクンと、うなだれているのか頷いているのかわからない首肯。
ああ、やだやだ。
なんだか面倒なことになりそうだな。
「わたしのね、ゆいいつのぉ、し・ん・ゆ・う。きゃー、はずかしー」
なんだ、こいつ一人だけか。心配して損した。
でも、どうせ来るなら二人でまとめて来れば良かったのに。
さてと。
「ねえ、ちょっと厠まで一緒にいかない?」
「こまっちゃんつれってってー」
「はいはい」
飲みかけの泡般若を置き、屈んで背中を見せたら、すっかりデキあがった赤ら顔ぶらさげてやってきた。
胸に触ったら殺すからな、という注意に「はーい」なんて酒臭い返事。
周りを見渡しても、誰もこっちのことなんか見ていなかった。
さすがはケツマンチョと行ったところか、それとも単にこいつが寂しい奴なのか。
せめて、最後くらいは仲の良い親友とやらの元に連れてってやろう。
「すみません、泡般若のおかわりお願いします」
三。
「小町、ちょっと来なさい」
仕事が終わったら間髪入れずに、映姫様がやってきた。
なんでも、あたいに訊きたいことがあるとかで、
「すみません、今日はこの後用事が」
なんて言ってみてもまるで聞く耳持たずで、気がついたら映姫様の私室にいた。
「小町、貴女に尋ねたいことがあります」
「それは聞きました。で、何ですかいったい?」
「貴女、五日前の晩、顕界で酒を飲んでいたそうですね?」
「それが何か?」
「何か、では無いでしょう。他の閻魔がどうかは知りませんが、原則として私は酒を飲むことを禁じています」
なんだ、そんなことかよ。
まったく、このお人は人の心配を無駄に煽らせるんだからなぁ、もう。
それより頭は大丈夫なのか、そこが気になる。
グッと足先に力を入れて脳天を覗いてみようと思ったが、ZUN帽のせいで見れやしない。
「貴女が私の元に就いた時に言ったはずです。まさか、忘れていたなんて言うつもりでは無いでしょうね?」
「そんなこと言うわけ無いじゃないですか。それ以降もあんだけ同じこと繰り返されれば嫌でも覚えますよ」
「小町!」
みりっ、と音がした。
手の皮が剥けていた。あまりにも強く握り締めたせいだ。
「くっ……わかりました。もういいです。これ以上、そのことについて、"いま"は言及しません」
「その言い方だと、他に何か仰りたいことがあるみたいですね」
「ええ、その通りです。むしろ、こちらが本題といっていいでしょう」
その、コホンってわざとらしく咳きするのやめろよ。
「……コホン」
「はっ?」
なんだ今の。人の考え見透かしたような態度しやがったな。
まさか、皮肉のつもりなのだろうか。
だとしたら、えらく可愛い皮肉り方があったもんだ。反吐がでる。
「貴女、五日前に顕界の居酒屋に行きましたね?」
「つい30秒前くらいに、そのことにはとりあえず今は問わないって言いませんでした?」
ダメだ、どうなってるんだろうこの中。見てぇなあ、もう。
「私が訊きたいのは、その後のことです」
「……………………後のこと?」
「はい。居酒屋に行き、他の死神と酒を飲み……で、その後、貴女は何をしていましたか?」
ぶふっ。
「何がおかしいのですか? そんな思い出し笑いが出るほど愉快なことでもあったのですか?」
ぶふぅぁぁ。
あー、あー……あはっっう。
横隔膜の辺りが痙攣してきちゃったよおい。
「いい加減にしなさい!」
我慢しようともダメだった。
決壊、というやつだ。
しばらくあたいはこみ上げる笑いで、映姫様に休憩の時間をいただいたのだった。
あー、ホントおかしい。
。。。
「いや、本当にすみません。もう大丈夫です、はい」
「……では」
「別に面白いことがあったってわけじゃあないですよ。あたい、過去の事にはこだわらない質なんで」
あなた様とは違ってね。
「行きましょう。英姫様が何を言いたいのかわかりますし、だったら直接現場を見てもらった方が早いんじゃないですか?」
「現場って……あ、あの、小町――」
二人で顕界に降りる。
人気の無い森まで一気に距離を縮めた。
でもって、見せた。
5日も前のことだったから、場所はおぼつかなかったけど、まあ、なんとか見つけた。
「こ、これは……小町、いったいどうして」
「どうしてって……やっぱり、そんな欠損したアタマじゃあ考えられません?」
「? いったいなにを――」
「あらよっと!」
「あっ」
帽を強く掴みすぎたせいか、ブチブチと何本か髪の毛が抜けちゃったようだ。
可愛らしい悲鳴まであげちゃってまあ。
「そんな数本抜けてくらいで大げさな……あれ?」
おかしい。
奇妙なことが目の前で起きている。幻覚ども見ているのか?
「え、映姫さま……そ、そ、そのアタマ」
「ぅぅ……い、いきなり何をするのですか!」
映姫様のアタマが――
「切れてない……? そんな事って、ええっ? 意味がわかりませんよ」
たしかに、たしかにあたいは何日か前にアレを振るったはず。
なのに、映姫様のアタマは何ともないみたいだった。
ZUN帽の中を見ても、先ほど引き抜いた髪の毛意外は何もない。
おかしい。
となると、一体あたいは誰のアタマを……あっ。
「ケツマンチョだ。なんだぁ、あたいの勘違いだったのか」
木下から生えている脚は全部で六本。
よもやそんな壮大な勘違いの元にこの五日間を過ごしていたのかと思うと、無性に恥ずかしくなった。
恥ずかしさ紛れに、アレを振るった。
ドッ。
変な音とともに去りぬ。
「ぐぅぅぅぅ……ぅっぅ。ぅぅっぅっ」
「えっ……ははっ、な、なんだこりゃ……」
ずっしりと重みを手に伝えてくるアレの先に、目をまんまるにした映姫様が引っかかっていた。
「映姫様っ!」
「ぶふぅっ……ぐっっ……っう……」
刺し所がまずかったのか、唸る様に空気を吐き出してる。
最後まであんた様はあたいの神経を逆撫でするんですか、そうですか。
「こんなはずじゃなかったんです! ホントなんです!」
「っ……ぅ…………っ……………………っっ」
手に伝わる呼吸の感触が無くなった。
ああ。ああああ。
何かプツリと切れたような、本当にそんな音がしたのかは定かではない。
けれど、どうやらあたいの涙腺がそれで壊れてしまったのは事実らしい。
「ぅぅ……うわぁぁぁぁぁぁぁ!!」
視界がぼやける。
自分の絶叫で何も聞こえない。
あたいのアタマにはひたすら浮かぶ。あの情景。
こんなはずではなかった。なんでこうもうまくいかない。
なんでだろうと考えても、涙が出るばかりで、そのうち喉がヒクヒクと妙な動きまで始める。
ひざがガクガクと震えて、その場に崩れてしまった。
「ちっきしょうぅぅ……ちきしょう……」
……。
手始めは、精神を追い詰めるつもりだったのに。
お気に入りの私服を、褥を、正装をズタズタに引き裂き。
給仕を篭絡して、死なない程度の毒と媚薬を盛り。
顕界の豚共の巣に連れ込んで辱めて。
そして、そして。
その後だったのに。肉体的な終わりを迎えさせるのは。
閻魔の体は死ぬのか。関節ひとつひとつをアレで切り落として。
本人の目の前でそれを豚に食わせて。代わりに豚の栄養をかけてあげて。
そして最後に皆で拍手をしながら罵倒を浴びせて絶命させる。
ぼんやりとそんなことを思いながら、起き上がる。
過去のことにこだわらないなんて嘘八百だなと苦笑をもらして、あたいはうちに帰った。
あれ、鼻血?
スクラップヘブンが最高に気持ちいいですね、と思いながら初です。
それにしても、早苗ちゃんは万能な娘ですね。参拝タグでも付ければ可愛いと思いました。
蓋の鍋
- 作品情報
- 作品集:
- 1
- 投稿日時:
- 2009/03/22 17:01:06
- 更新日時:
- 2009/03/23 02:01:06
- 分類
- 小町
- 映姫様
- 早苗ちゃん