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『トレース』 作者: 紅魚群
※グロ注意
「で、できた!」
製作期間10年。アリスの魔術と呪術の集大成、自立行動人形第1号『MARISA-01』がついに完成の時を迎えた。
名前のとおり、姿や口調、行動パターンに至るまで、すべて霧雨魔理沙をコピーして作られたものである。
髪の毛や服の生地もすべて本物の魔理沙の物を使ってあり、呪いの力を借りて魔理沙の人格を人形にトレースするというアイデアだ。
唯一本物と違うところは、大きさが1/6であることと、アリスの命令に従うようプログラムされていること。
あとは各箇所に魔力を一定量送り込めば完成である。
苦節10年、さよなら理性。高鳴る心臓と鼻息を抑えつつ、アリスが魔力を込めようとした、その瞬間
「おう!アリス!邪魔するぜ!!」
バンッと、本物の魔理沙が勢いよく扉を開けて入ってきた。驚いて手元が狂う。
「あ、あ、あ〜〜〜〜〜!!!」
「ん?どうしたアリス。お、なんだそれ?私の人形か?」
「バカー!!失敗したじゃない!!!」
慌てて人形をチェックするアリス。中途半端に魔力を込めてしまったため、術式が壊れてしまったかもしれない。
そんなアリスの気も知らず、ひょいと人形を奪い取る魔理沙。
「あ!ダ、ダメ!返して!!」
「私の人形なんだから、肖像権は私にあるんだぜ…っと。…へえ、よく出来てるな。」
まじまじと人形を観察しながら、取り返そうとするアリスを適当にあしらう。
「なんか魔力の匂いもぷんぷんするぜ。」
「お願い!返してってば!」
「よし、これちょっと借りてくな。」
「ダメ〜〜!!ホント!お願いだからやめて!!」
魔理沙は制止しようとするアリスを振り切って外に出ると、箒に跨り空へと舞い上がった。
「人形がなくたって、本物の私がいるだろ?」
「う、うわ〜ん!魔理沙なんて大っ嫌い!!!!」
材料だけでも集めるのは相当大変だった。もう、あの人形が戻ってくることはないだろう。
颯爽と飛び去る魔理沙を見ながら、アリスはヘナヘナとその場にへたり込んだ。
一方の魔理沙は思わぬ戦利品(?)に鼻歌まじりだ。本来は魔道書を借りに行ったつもりだったが、そんなことはもう忘れている。
勿論、中途半端に込められた魔力によって、恐ろしい呪いが人形にかけられていたことなど、魔理沙には知る由もない。
風を切って自宅を目指す魔理沙。アリスの家からはそんなに離れていないので、家はもう目と鼻の先だった。
と、そこに突然の突風。バランスを崩しかける―――――ちなみにその反動でポケットから人形が落ちるが、あいにく魔理沙は気付かない。
旋風の中から現れたのは、幻想郷のブン屋、射命丸文だった。
「毎度お馴染み射命丸!清く正しい射命丸!どうも魔理沙さん、探しましたよ。ご機嫌麗しゅう。」
「…。(また面倒くさいのが来たぜ)」
魔理沙としては、早く帰って戦利品の鑑定をしたいところだ。できることなら相手にしたくない。
「早速ですけど、取材の方、よろしいですかね?例の宝船を追うそうですが、ずばりその決断の理由とは!?」
勝手にペラペラと喋りだす。これまた時間がかかりそうだ。
「悪いな、今急いでるんだ。後にしてくれ。」
「ちょ、ちょっと!お願いしますよ。早苗氏は5時間も取材を受けてくれたんですよ!?…正直そこまでは逆に困りますけど、せめて5分、5分だけでも!」
「"Time is heavier than life." 時は命より重いって、センセーが行ってたぜ。じゃあな。」
「あ、待ってくださ〜い!!」
文に背を向け去ろうとする魔理沙…。
―――この瞬間、先ほど落下中だった人形が地面に到達し、衝突した。
それと同時に、魔理沙の全身に巨大な板でブッ叩かれたような衝撃が走る。
脳が揺れ、平衡感覚が一瞬無くなる。あやうく落ちそうになるが、箒にしがみついてなんとか持ちこたえた。
「うぐっ…!?あ?え?―――――な、なにしやがる!!?」
「は…?あの、どうしたんですか?」
魔理沙は文を睨みつけるが、その様子を見ていた文も、きょとんとしている。
てっきり文が空気の塊でもぶつけてきたのかと思ったが、どうやらそうでもないらしい。では、今の衝撃は?
周りを見渡しても、他に誰もいない。何もない。
「…???………いや…、なんでもない…。失礼するぜ。」
気味が悪い。早くその場から離れたかった。
後ろで文が何かごちゃごちゃ言ってるのが聞こえたが、無視して飛び去る。
幸い、文がその後を追いかけてくることはなかった。
――――人形side――――
魔理沙人形が落ちた場所は森の中だった。
その人形に興味を示す、小さな影がある。
「なんだろ?これ?」
闇を操る能力を持った人食い妖怪、ルーミアだ。好奇の目で人形を拾い上げる。
「これは食べれる人間かな?」
胸の辺りをつついてみると、ぷにっとした。
彼女は人形という物を見たことがなかった。人の形をしたものは、妖気でも出していない限り全部人間に見えるのだ。
今度は人形の全身を撫で回してみる。触った感触は、人間とよく似ていた。ただ、ここまで小さい人間を見たのは、ルーミアも初めてだ。
「よくわかんないや。」
論より証拠。右腕にかぶりつくルーミア。
妙に弾力がある。ギリギリと歯ですり潰そうとするが、ゴムのような感触でなかなか噛み切ることが出来ない。
思い切り引っ張ってみても、グニュっと伸びて千切れそうにもない。
食べ応えは本物の人間とは似て非なるものだった。はっきり言って、マズい。
「何してるの?ルーミア。」
「あ、リグル。」
蟲の王リグルが、人形をかじりながら悪戦苦闘しているルーミアを見て、小首をかしげる。
「ねえリグル、この人間、食べれないよ。」
「食べられるわけないでしょ。それどう見ても人形だもん。」
「にんぎょう?」
「うん、人形。知らないの?」
「知らない。」
「…えーと、人形ってのは、人間の形をした作り物のことだよ。だからそれは、食べられないよ。」
「そーなのかー。じゃあいらなーい。」
ポイとルーミアはリグルに人形を投げてよこした。反射的に受け取る。
「うわ、ちょっと!?これどうするの?」
「あげるー。」
食べられないとわかると、ルーミアの興味はもう人形にはなかった。そのまま森の中へと去っていってしまう。
リグルも正直こんなものいらないが、人形なだけにそこら辺に捨てるのも何となく気が引けた。
――――魔理沙side――――
無事自宅に到着。中に入り鍵をかけ、帽子をベッドに放り投げる。
途中天狗や不可解な現象に水を差されたが、そんなことよりも今は人形だ。魔理沙はポケットに手を入れた。
「…あれ?」
魔理沙はポケットを探るが、あるはずの人形がそこにはなかった。もう一度探ってみるが、やはり、ない。
「…あのとき落としたのか?くそ、文のやつ…。」
どこまでも私の邪魔をする鴉だ。いまいましい。
さっきの衝撃だって、とぼけていただけでやはり文がやったのではないだろうか?
冷静になって考えてみると、なんだかその可能性が高いように思えてきた。今度あったら思い切り問い詰めてやろう。
落とした場所は大体分かる。脱いだ帽子をかぶり、魔理沙は再びドアノブを握った。そのとき、
『もみゅ』
「わっ!」
突然誰かに胸を揉まれた。慌てて振り向くが、誰もいない。服の中ものぞいてみるが、異常はない。
「き、気のせいか…?」
油断していると、今度は全身を撫で回されるような感覚が、魔理沙を襲った。
「が!!!…あはははは!!ひぃひぃ!や、やめてくれwひぃひひひあはははは!!!」
あまりのくすぐったさに、1人で笑い転げる魔理沙。
あやうく呼吸困難になりかけるが、そうなる前に撫で回される感覚はなくなった。
「―――はぁはぁ…。な、なんなんだよ…一体…!」
こればかりは気のせいではない。猛烈に焦ってきた。自分の体が何かおかしい。
毒キノコでもあたった?いや待て、キノコなんて今日食ってないぞ。でももしかしたら昨日食べたやつかも…。
念のため解毒薬を飲んでおこうと、右腕を伸ばし薬の入ったビンを手に取る。
直後、ガシャンという音とともにビンが割れ、解毒薬の粉末が床に散らばった。
魔理沙がビンを落としたのだ。手を滑らせたわけではない。あまりの腕の痛みに、持っていることができなかったのだ。
「う…ぐぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああ!!!!!!!!!!」
右腕を押さえて倒れこむ。万力のような力で右腕が押しつぶされている。
いや、実際は押しつぶされてはいない。
それこそ肉がつぶれ、血が噴出し、骨を砕くような激痛だが、右腕は無傷である。
しかも、それが断続的に襲ってきた。痛みに慣れることなどできるわけがなかった。
加えて、今度は腕が引き抜かれるような痛み。
肩が取れんばかりの強大な力で、腕の筋肉が裂けていくのがわかる。
勿論、実際は裂けてなどいない。するのはあくまで痛みだけだ。
「ぎぃぃぃぃいいいいい!!!!!やめ゛でえええええええ!!!!!あ゛っ…!!ごぼっ…!!――――――――…」
泡を吹く魔理沙。
実際に腕を砕かれるより、なまじ損壊しないだけ、痛さは数倍にも達する。
人間の防衛機能というべきか、魔理沙はその場で意識を失った。
――――人形side――――
リグルは巨大な蟻の巣の前にいた。
盛り上がった地面に無数の穴が開いており、そこから何万匹とも数え切れない蟻が行き来する。蟻のコロニーとしては、この森一番の大きさだ。
リグルは定期的に、こういった巣の点検に回っていた。
「よし、異常なし。みんな元気!」
満足げに微笑むリグル。
リグルはポケットから角砂糖の入った小瓶を取り出すと、蟻の行列の中にばら撒いた。
小瓶を取り出したときに人形も一緒に落としたが、これまた気付かない。
みるみる人形に群がる蟻達。
角砂糖を撒き終わったリグルは、ようやく人形を落としていたことに気付いた。
「あ、それは食べ物じゃないよ。」
その頃には、人形は這い回る蟻で真っ黒になっていた。
リグルはゆっくりと人形を拾い上げると、蟻を傷つけないよう丁寧にはがす。
蟻をはがしながら、リグルは思った。そういえばこの人形、どうしよう。
「チルノちゃんなら喜ぶかな…?それにしてもこの人形の顔、どっかで見たことあるなぁ…。」
魔理沙のことは、もう忘れたようである。
――――魔理沙side――――
「………うっ…。」
魔理沙はうっすら目を開けると、目の前に割れた薬ビンが見えた。
―――………!
バッと飛び起きて右腕を見る。腕には傷ひとつなく、痛みも嘘のようになかった。
「そうだ、げ、解毒薬…!!」
またいつあの激痛が起こるか、恐ろしくてたまらなかった。
本来は水に溶かして服用するタイプだったが、魔理沙は床に飛散している粉を掻き集めると、そのまま口へと流し込んだ。
凄まじい苦味に顔をしかめるが、魔理沙にとっての希望は、今はこの解毒薬が効いてくれることだけだった。
時計を見る。気絶してから、どうやら10分もたっていないようだ。
とりあえず体中汗でぐっしょりだった。顔も涙や鼻水でベトベトだ。
「…シャワー、浴びるか…。」
のっそりと起き上がり、魔理沙は重い足取りで浴室へと向かう。
汗で肌に張り付いた服を脱ぎ捨て、浴室の扉を開けようと右手を伸ばす。が、やめておいた。左手で開け、中に入る。
浴室は2畳ほどの大きさで、半分は浴槽が占めていた。だがここでは水は貴重なので、めったなことがない限りお湯は張らない。
魔理沙は蛇口を捻り、シャワーを浴びる。
魔法でほどよい温度に調節されたお湯が、サァッと魔理沙の珠のように綺麗な体を包み込んだ。
心地よかった。
お湯の一滴一滴が、先ほどの苦痛を体から吸い取っていってくれるようだった。
魔理沙は、ふと、背中に違和感を覚えた。
本来水が流れ落ちていくだけの背中を、何かが上ってくる。
魔理沙はその感触の正体に気付いて、鳥肌が立った。虫だ。小さい蟻のような無数の生き物が、背中を這い上がってきているのだ。
反射的にシャワーを背中にあて、洗い落とそうとした。だが虫たちの感触は容赦なく肩や腹にも広がってくる。
「ひぃいい!!!―――いやだ!!いやだ!!気持ち悪いっ!!!!」
体中を虫が這い回るおぞましい感触。しかも数が尋常じゃない。瞬く間にそれは全身に広がり、皮膚の上を駆けずり回った。
半狂乱になって魔理沙は風呂磨き用のブラシを取り、全身を擦りまくる。
存在しない虫に対して、何度も何度も全身を擦った。それこそ皮膚がめくれ、血が流れようとも。
そんなことをしても当然虫の数は減らないわけだが、当の本人は全く気付かない。
見えないことが見えていない。あるいはこのとき魔理沙には、幻覚が見えていたのかもしれない。
虫の感覚が無くなる頃には、魔理沙は全身傷だらけだった。
珠のように綺麗だった肌はそこにはなく、擦り傷と血でグシャグシャの、見るも無残な姿だった。
「……いやだぁ…。なんで…なんでぇ………ぐすっ……。」
浴室の床に転がり、すすり泣く魔理沙。意識はあったが、束の間の幸せもむなしく、憔悴しきっていた。
――――人形side――――
霧の湖に到着したリグルは、チルノを探した。
チルノはすぐに見つかった。水辺で大妖精と座って話をしている。
「チルノちゃ〜ん!」
「うわ、リグルだ。」
リグルが手を振りながら、チルノの名前を読んで飛んでくる。
「あたいに何か用?」
「あー…、用っていうか、この人形あげるよ。」
チルノに人形を差し出す。見るからに精巧なその人形は、チルノの好奇心を呼び起こすには十分だった。
「しょうがないわね。仕方ないからもらってあげるわ。」
「あ、ありがとう。」
チルノの代わりに礼を言う大妖精。リグルは次の巣の見回りがあるからと、すぐどこかに行ってしまった。
残されたチルノと大妖精は、まじまじと人形を観察する。
「よく見たらこいつ、魔理沙に似てる!」
「ほんとだ。似てるね。」
とんがり帽子に黒白エプロン。
顔はよく覚えていないが、チルノと大妖精の知る魔理沙の特徴そのままだった。
「ちょうどいいわね。この前あたいをバカにした罰として、新技の実験台にしてあげるわ!」
「えっ!?」
「アイシクルフォール -Hard-!」
大妖精が止める間もなく、チルノの左右正面からおびただしい量の弾幕が放たれる。たちまち人形は氷塊に挟まれ、氷漬けになった。
「どんなもんよ!あたいったらサイキョーね!」
「なにしてんのチルノちゃん!お人形さんが可哀想だよ!」
大妖精が人形に駆け寄る。
「…そう?まあ、このくらいにしといてあげようかしら。人形に罪はないわ!」
やっておいてからなんという言い草。
人形はというと、バレーボールほどの凍りの塊になってしまっている。完全に固まってしまって割れそうにもない。
大妖精は悟った。この場所における人形の遊び道具としての役目は、これで終わってしまったということを。
そして、安易に人形なんて貰ってしまったことを、後悔した。
捨てようにも、凍ったままの人形なんて放置してたら、幻想郷では妖怪化してしまうかもしれないからだ。
もし妖精に恨みを持った妖怪でも生まれたら大変だ。
かといってチルノの力で凍らせた物だ。自然解凍を待っていても、いつになるかわからない。
そういえば、人形好きで妖精にも親切な魔女が魔法の森にいることを、大妖精は思い出した。
彼女なら引き取ってくれるだろうか。
氷漬けの人形なんて持っていったら、それこそ怒られるかもしれないが。
「チルノちゃん、ちょっとここで待ってて。この人形を魔法の森の魔女のところに持っていくから。」
「え?あたいも行くよ!」
「ダメ…お願い、待ってて。」
「なんで…?」
チルノが寂しそうな顔をする。大妖精は胸がズキッとした。
「……それは…チルノちゃんがいなくなったら…、…誰がこの湖を守るの?」
「あ!そっか!わかった、大ちゃん。気を付けて行ってきてね!」
パァッと笑顔に戻るチルノ。
騙すようで悪い気もしたが、これもチルノちゃんのため…と、大妖精は割り切った。
チルノは妖精の中でも比較的強い力を持っていたので、森の妖怪に狙われる可能性もある。
加えて人形を凍らせた張本人だ。怒った魔女に何かされるかもしれない。
大妖精はすぐ戻るからとチルノに告げ、魔法の森に出発した。
アリス邸
『コンコン』
大妖精はアリスの家のドアをノックした。
しばらくすると、家主がドアを開けて姿を現す。なんだかひどく落ち込んでいる。
「あら…妖精さん。何かご用…?」
声も随分と元気がない。まずいタイミングで来てしまったかもしれない。
「あの…この人形を引きとってほしいんですけど…。」
大妖精は恐る恐る氷の塊を差し出した。
刹那、アリスの目がカッと見開かれる。その氷の塊の中に見えるのは、紛れもない、苦節10年『MARISA01』ではないか。
「あああああああああ!!!!!!!!」
「っ!!ひゃああああ!!!!!!!!」
いきなり氷塊を指差して大声を上げるアリスに、大妖精はびっくりして尻餅をついた。
終わった。やはり氷漬けはマズかった。大妖精は次の春まで土の下で過ごすことを覚悟した。
ごめんねチルノちゃん…。すぐ戻るって、約束守れなかったよ…。
ところが
「きゃー!!!ありがとぉぉぉぉ!!!!」
アリスは大妖精を抱き上げると、ぎゅーっと抱きしめた。
どうやら怒っているわけではなさそうだ。それどころか、物凄く喜んでいる。
「ぐうぅ。あの…苦しいんですけど…。」
「ああ、ごめんなさい。あんまりにも嬉しくて、つい。よくこれを届けてくれたわ。お茶でも飲んでいく?歓迎するわよ。」
さっきの落ち込み様とはうって変わって、まるで別人のように明るくなっている。
「いえ、友達を待たせてるので…。人形を引き取っていただければそれで十分です。」
「友達?そう…友達が待ってるのね。じゃあお菓子あげるから、お友達と一緒に食べてね。」
そう言ってアリスは家の奥に引っ込み、バスケットいっぱいのお菓子を持ってきた。
「はいどうぞ。」
「え、こんなに…?いいんですか?あ、ありがとうございます。」
「これからも何か困ったことがあったら、遠慮なく私のところに来ていいのよ。」
にこにこ顔で大妖精を見送るアリス。
大妖精は何故こんなにも喜ばれたのかよくわからなかったが、悪い気はしなかった。
霧の湖
「チルノちゃん、お菓子こんなに貰っちゃった。」
大妖精がバスケットいっぱいのお菓子を抱えて霧の湖に戻ってきた。
「わあすごい!さすが大ちゃんね!!どうしたのそれ!?」
「人形渡したら、なんかすごい喜んでこんなにくれたの。」
「へぇぇ!じゃあ今度あたいも人形作って持っていくわ!」
チルノが目をキラキラさせながら、クッキーの包みを開ける。
大妖精もキャンディを頬張った。
「ねえチルノちゃん。」
「なに?」
「私達ずっと友達だよね?」
「当たり前じゃん。なにいってんの。」
「えへへ。」
仲良くお菓子を食べる2人を、夕日が優しく照らしていた。
――――魔理沙side――――
寒い。
いや、冷たい。
まるで氷の中に閉じ込められたかのように、全身が冷たい。
魔理沙は八卦炉の火力を最大にした。湯船の水温はゆうに50℃を越えていた。
「寒い…寒い…。」
熱い湯船に浸かりながら、ガチガチと震える魔理沙。
だが水温が60℃を超えた辺りで、湯の熱さが激痛に変わってくる。たまらず湯船から飛び出た。
全身がヒリヒリした。皮膚の薄い肘や太ももには、所々火傷して水膨れのようなものもできていた。
しかしこれだけ体が悲鳴を上げようと、湯船から出るとまた猛烈な冷たさが魔理沙の全身を襲う。
その冷たさから逃れるため、また湯船に入る。
もうこんなことを魔理沙は10回以上繰り返していた。
しだいに魔理沙の体力も限界に近づいていた。
今までの謎の苦痛は1、2分程度で終わっていたにも係わらず、今回は10分以上続いている。
―――永遠亭に行くしかない…。
あまりにも遅すぎた決断だが、今回ばかりは自然に治る気配がない。
湯船から上がり、決死の思いで浴室から出る。
冷たさで体が震えた。
1歩歩くだけでも、3秒はかかる。
寒い。冷たい。痛い。辛い。湯船に戻りたい。
魔理沙は苦痛と欲求を噛み砕き、1歩ずつ歩みを進める。
服を着ている時間などない。バスローブを羽織り、凍える手で箒を持ってなんとか外に出る。
外は春の陽気に包まれており、ウグイスの鳴き声もどこからか聞こえてきた。
だが魔理沙は1人、裸で雪山だった。
――――人形side――――
大妖精から人形を受け取ったアリスは、鼻歌まじりに作業机に向かった。
もう戻ってこないと思っていた分、喜びもひとしおだ。
とりあえず魔法で氷を解かす。
アリスが呪文を唱えるとすぐさま氷が解け、人形が外気に晒された。
「あーあ、やっぱり変な風に魔力が込められちゃってるわ。」
人形を手に取り、ふぅと溜息をつく。
とは言っても、人形を1から作る労力を考えたら、魔力を抜くくらいどうということはない。
アリスは引き出しからナイフを取り出した。
「魔力を抜くには、こうするしかないの。ごめんね。」
アリスはナイフを人形の腹に当て、スパッと切り裂いた。
パックリと人形の腹が開き、そこから湯気のような形で魔力が抜けていく。
完全に抜けたのを確認してから、アリスは人形の修復に取り掛かった。
「人形が暴走したりしなくて本当によかったわ。かなり複雑な魔術や呪術が仕込んであるから、まず何か起こると思ってたんだけど。」
アリスが胸を撫で下ろして言った。
――――魔理沙side――――
魔理沙は震える手で箒を握り締め、ふらふらと永遠亭を目指して飛んでいた。
普段のスピードとは比べ物にならないほど遅いが、飛べただけでも奇跡的である。
なんとしても永遠亭に到着しなければ。箒から落ちないよう、魔理沙はギュッと柄を強く握り締めた。
「あれ…?」
冷たくかじかんだ手で、柄を強く握ることなど、できるはずがない。
魔理沙は自分の手を見た。手は震えていなかった。
今度は体の感覚を確かめてみる。全身を包んでいた冷たさが、無くなっていた。
「や、やった!消えた!!」
体に温もりが戻ってくる。元気も湧いてくる。
同時に擦り傷や火傷が痛みだしたが、あの冷たさに比べたら全く気にならない。
今回は苦痛が引いても、魔理沙はもう油断しない。あんな苦痛はもう懲り懲りだった。
早くちゃんと永琳に診てもらおうと、加速しようとしたそのとき、
『スパッ』
「―――……えっ……………?」
腹部を何かが横切った。同時に、そこが燃えるように熱くなる。
その後、すぐさま襲い来る激痛。あまりの痛みに、何も考えられない。箒からずり落ちる。
万が一のことも考え低めに飛んでいたが、それでも高さは10メートル以上はあった。
魔理沙はそのまま自由落下した。みるみる地面が迫るが、飛ぶ力はない。バキッと側面から地面に激突した。
腕や肋骨が折れ、内臓が破裂する。今度は本当に折れ、破裂した。
ごろりと仰向けで転がる魔理沙。指1本動かすことができなかった。首の骨も折れたのかもしれない。
青い空が見える。
―――――――なんで自分がこんな目に
魔理沙はボロボロ涙を溢して泣いていた。
わからない。日頃の悪行の罰があたったのかもしれない。
悪戯もやめる。盗みもやめる。妖精をいじめるのもやめるから…。
だれか、誰か。助けて。アリスでも、文でも、早苗でも、霊夢でもいい。
誰か、私を見つけてくれ――――――――死にたくない…!!
…誰かの気配がする。
魔理沙はその方向に視線を構えた。首が回らないため、まだその姿は見えない。
数歩の足音の後、魔理沙の視界に、闇妖怪ルーミアが現れた。
やった!助かった…!!魔理沙の心が歓声を上げる。
「……ルーミ…ア………。…たの…む……。たすけ…てく…れ………。」
折れた肋骨が肺に刺さり、呼吸も上手くできなかったが、なんとか声を絞り出して言った。
だがルーミアの次の一言が、魔理沙を絶望のどん底に叩き落した。
「―――これは、食べれる人間?」
忘れていた。こいつは人食い妖怪なのだ。魔理沙は必死で違うと言おうとしたが、もう声が出ない。
首も振れないため、否定の意を伝える手段がない。
しばらくは魔理沙の容姿を見て食べれるかどうか考えていたようだが、見ただけではわからないようだ。
わからないなら、論より証拠。
ルーミアは無抵抗の魔理沙の右腕にかぶりついた。今度は幻覚ではない、本物の傷みが魔理沙を襲う。
「がっっっっっ…!!!っ………!!や゛っっっっ……!!―――!!」
「あ、おいしい!!」
口の周りを真っ赤にして、ルーミアがうれしそうに微笑んだ。
よだれを垂らして、再び腕にかぶりつく。
「ヤメでエええええええええええええええええ!!!!!!!!!!!!!!!」
最後の力を振り絞り、魔理沙が絶叫をあげる。
その声が、ルーミアが一口でも食べる前に出せていたのなら、あるいは助かったかもしれない。
しかしもう遅かった。
肉の美味さを覚えた後のルーミアの食欲は、凄まじかった。
あっという間に魔理沙の右腕を平らげ、次に魔理沙の頭を掴んだ。
ルーミアは知っている。人間の脳みそは、それはそれは美味しいご馳走であることを。
グッと両腕に力を込める。メキメキと骨が軋む音が、魔理沙の頭の中に響いた。
直後、バキリと絶望的な音がして、頭蓋骨が砕けた。
横を向けていたため、脳みそがドロリと魔理沙の頭からこぼれ出る。
こぼれ出た脳みそを、ルーミアは美味しそうにすすり食べた。
――――人形side――――
「どうして!おかしいわ!!」
アリスは『MARISA01』の修復も完了し、今度は邪魔が入ることなく魔力を正確に込めることができた。
しかし、当の人形がピクリとも動かない。
「なんでよ!何も間違ってないはずよ!これで本物の魔理沙の意識がこれにトレースされて、動きだすはずなのに!!」
失敗の原因がわからず、苛立つアリス。
人形が動かない理由をアリスが知ったのは、それから3日後のことだった。
魔理沙虐め。ゴミクズかわいいよゴミクズ。
pnpさんの『お嬢様防衛網』に触発されました。
やっぱり魔理沙は、見えないところで酷い目に遭うのが似合ってると思う。
今回は今までと違って自分的にはキャラ崩壊は少なめです。
その分設定に無理があったり、意味不明なところが多かったりしますが…(公式ではチルノは氷を解かすこともできます)
駄文失礼しました。通読感謝!
紅魚群
作品情報
作品集:
1
投稿日時:
2009/04/03 15:41:55
更新日時:
2009/04/04 00:41:55
分類
魔理沙
アリス他
グロ
なんか大妖精に萌えた
あと早苗の痛さが(ry
いいねえ
次回作も期待させて頂きます。
というわけでハッピーエンドですね! 次回作があれば期待しておきます。
いやあよかったねルーミア、ご馳走が食べられて。
ドラえもんで人形壊そうとしたら元の人物が痛みに襲われる話あったよな。