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『原因不明の病気』 作者: pnp
魔理沙がいつもと違うと感じたのは、紅魔館に着いてすぐの事だった。
門番である紅美鈴が立っていなかったのだ。
若干の違和感を感じながら、魔理沙は紅魔館へと入っていった。
「こんにちは」
「美鈴はどうしたんだ?」
入館早々、魔理沙は姿を現した咲夜に問うた。
咲夜は、肩をすかして首を横に振った。
「体調不良で療養中よ」
「へぇ。毎日毎日、外にいりゃそんなことにもなるのかね」
「どうかしら」
「その点、お前はいいな。治るまで時間を止めればいいんだから」
「よくないわ。苦しいものは苦しいし」
短い雑談の後、魔理沙はパチュリーのいる図書館へ向かった。
黴臭い図書館で、パチュリーは本を読んでいた。
「よお、パチュリー」
「魔理沙」
少し本から目線を逸らし、すぐにまた視線を戻すパチュリー。
黙々と本を読んでいたが、暫くして息をついて頭を摩った。
面白そうな本を見つけて、同じく横で読んでいた魔理沙までも顔を上げた。
「? どうした」
「ううん。少し、頭痛がしているだけ」
「頭痛? お前も体調不良か」
「かもしれないわね」
やれやれと言った感じでため息をつき、読書を再開した。
帰り際、せっかく来たのだから、と言う事で、魔理沙は美鈴に会いに行ってみる事にした。
広い館の一室で、美鈴は眠っていた。
緑のチャイナドレス姿しか見た事がなかった魔理沙にとって、寝巻き姿の美鈴というのは新鮮だった。
穏やかな寝息を立てている美鈴を見下ろす。
「何も持ってきてなくて悪いな。気持ちだけ受け取ってくれ」
寝ているのに、起こすのも悪いと思い、魔理沙はそれだけを囁いた。
そしてその後、美鈴と話をする事は永遠になくなった。
*
普段通りに門を抜け、エントランスに現れた咲夜から事情を聞かされた。
あまりに突然の凶報に、魔理沙は箒を取り落とした。
「……死んだ……? 美鈴が!?」
「ええ」
「な、何で!? 永遠亭には行ったのか!?」
「行った。薬も一応処方して貰った」
「一応?」
咲夜の引っかかる言葉に、魔理沙が反応した。
咲夜は、言葉を選び、言った。
「何の病気か分からない。分からないから、薬も上手くできないって」
「何の病気か分からない……」
咲夜は黙って頷いた。
魔理沙も言葉を失い、視線を床に落とす。
「と言う事だから、今日は帰って欲しいわ」
「……!」
踵を返そうとした魔理沙が、ある事を思い出した。
――いつか、パチュリーも頭痛を訴えていた。
最悪の事態が頭の中に広がった。
てっきり帰ってくれるものかと思って油断していた咲夜の横を、魔理沙が飛び抜けた。
咲夜の怒鳴り声も無視し、図書館目掛けて突っ走る。
自身の最高記録とも思える速度で図書館に到着した。
箒から転げ落ちるように降りて、図書館の扉を開け放つ。
「パチュリー!!」
魔理沙の叫び声が、広い広い密室に響き渡った。
本を読む彼女の姿はなかった。
変わりに、静かに、沈んだ表情で本の整理整頓をする小悪魔だけが、そこにいた。
呆然とする魔理沙の後ろから、咲夜がそっと呟いた。
「パチュリー様も、療養中よ」
*
博麗の巫女が、珍しく真剣な眼差しで虚空を睨みつけていた。
傍には魔理沙が付き添っている。
「……ここまでくると、病なんてもんじゃないわね」
「異変……なのか?」
「そうだと、私は思う。原因は分からないけど」
お茶もお菓子もない博麗神社も珍しい。
霊夢も、これは一大事だと感じているのだろう。
暢気にいつもの調子で、茶なんて啜っている場合ではないのだ。
「人里でも、同じような症状の者がちらほら出てきているらしいの」
「そ、そうなのか!?」
「みんな一緒。立ってられなくなるほど気分が悪くなって横になる。そしてある日突然動き出すの。そうなったら、既に狂っている場合がほとんど」
「狂ってるって、どういう事だよ」
「咲夜から聞いたけど、美鈴はね」
一度言葉を区切る。
「死ぬ直前、異様に高揚してたらしいわ。高笑いして、訳の分からない事を口走って」
「な、なんだよそれ!?」
「分かる訳ないでしょ」
冷たく言い放った霊夢が、フワリと空中に浮かんだ。
「幸い、私はまだ発症していないみたい。どうすれば発症するかも分からないけど」
「私もだ」
「どうにか原因を突き止めて、終わらせなくちゃね」
「私も、どうにかしてみるよ」
「……ええ」
当てもなく、霊夢が神社を飛び去った。
魔理沙も彼女なりに、いろいろと調べては見たが、何の手がかりも見つけられなかった。
いつ発祥するか分からない恐怖に苛まれながらも懸命に打開策を模索していた。
原因不明の病気は、幻想郷中に蔓延し始めた。
人間、妖怪を問わず、頭痛や吐き気と言ったよくある症状に苛まれ、悪化していくと吐血や幻覚、幻聴などの症状まで表れ、そして狂ったように死んでいく。
永遠亭ですら対抗する術を作りだす事ができないのに、有効な手立てなどある訳もなく、幻想郷は混沌に包まれた。
*
魔理沙は奇跡的に、まだ発症していなかった。
やることも、やる気も起きず、何となく紅魔館へとやって来てしまった。
到着まで、何者とも出会うことはなかった。
少しでも発症の率を落とそうと、皆、家に閉じこもっているのかもしれない。
紅魔館に着いたが、門番はいない。
エントランスに行っても、咲夜は来なくなってしまった。
彼女も遂に発症してしまったのかもしれない。
不気味なほど静かなエントランスで、魔理沙は頭を抱えた。
「何なんだ、何なんだよ、一体……!」
まるで今起こっているこの災いが、夢であるような気がしてきた。
悪い夢なのだ、と、魔理沙は必死に思い込もうとした。
しかし、次の瞬間轟いた轟音に、その妄想もかき消された。
立ち上る砂煙。破損した床。舞い上がる埃。映る影。
地下室にいたフランドールが、館を破壊してまで地下室から出てきたのだ。
「フ、フラン……?」
「ぁ……ま……まり」
名前を呼ぶ前に、フランドールが大量の血を吐いた。
外を知らない真っ白い肌が赤く染まる。
足元には血溜りができて、一歩歩くとビチャリと音を立てた。
「苦しい……苦しいの……」
「ひっ……!」
「死んじゃいそうなの……それくらい、くるじぃ……ゲホォッ……」
まるで救いを求めるように、フランドールは手を伸ばしながら、魔理沙に近づいてくる。
「うああ! く、来るな! 私じゃ何にも……!」
「まりさ、まりさ、まりさ……」
退いた魔理沙は、何かに当たってその動きを止められてしまった。
壁ではない。もっと柔らかい何かだ。
恐る恐る、後ろを振り返ると――
生暖かくて赤い液体が、魔理沙の顔目掛けて飛んできた。
匂いや、味で分かる。
血だ。
「レ、レミリア……まさか、お前も……」
「私は……吸血鬼なんだ……病気なんかに、病気なんかにぃぃぃ……!」
紅い悪魔と呼ばれるに至った由来と同じように、レミリアの服は真っ赤に汚れていた。
食事を零したのではない。
紛れも無く、彼女が吐いた血だ。
魔理沙は耐え切れなくなり、紅魔館から逃げ出した。
レミリアに吐かれた血を必死に拭い、自宅へと逃げ帰った。
鍵を掛け、服も脱がずにシャワーで血を洗い流す。
「私も、私もあんな風に死んでしまうのか……!? 嫌だ、絶対に……!」
野生の動物や妖怪も次々と同じように死んだ。
人里の人間も多くが死んでいった。
魔理沙だけが死なない理由は見当たらない。
「畜生、畜生!」
血を荒い終えてから、魔理沙は布団に潜り込んだ。
どうにかしなければいけないのに、どうすることもできない。
結局、祈る他なかった。
「そう言えば、霊夢はまだ発症していなかったよな……」
霊夢もこの異常事態を、全力で解決しようとしているようだったが、成果は無いようだった。
暫く震えて過ごしていると、玄関の扉がコツンと音を立てた。
布団から這い出て、玄関のほうを見る。
「だ、誰だよ!」
返事が無い。
魔理沙は意を決して、玄関を開けた。
開いた扉の先にあったのは、血塗れの小さな人形。
それには見覚えがあった。
「……上海……!」
アリスの操っていた上海人形。
それが血塗れで自分の家の扉を叩いたのだ。
そして、それ以上人形が動く様子は無い。
それが物語ることは、唯一つ。
アリスが死んだと言う事だ。
絶叫しながら、魔理沙は上海人形を蹴飛ばした。
戸締りもせずに箒に跨り、ある場所を目指した。
*
魔理沙は迷いの竹林を抜けて、永遠亭へとやってきた。
途中、何人もの人間や妖怪の死体を見かけた。
きっと薬を求めて竹林に入り、到達できずに死んでいった者達だろう。
永遠亭に薬なんて無い事は分かっている。
それでも、ほんの少しの安心感を得たかった。
「鈴仙! 永琳! 輝夜!」
永遠亭の扉を開け、叫んだ。
扉の先では、見覚えのあるペンダントをつけた化け兎が死んでいた。
それに重なるように、沢山の兎が真っ赤になって死んでいた。
運よく永遠亭に辿り着いた人間や妖怪が、出鱈目に薬を飲んで死んでいた。
奥で物音がして、魔理沙は死体を踏みながら先へ進む。
「お、おい!」
その先に、四名の生きた人影があった。
鈴仙、永琳、輝夜、そして妹紅。
四人とも立っていて、何かを囲むようにならんでいる。
「みんな……?」
たった四人の足の隙間に、手が見えた。
魔理沙の背筋が凍りつく。
四人とも、手に手に凶器を握っている。
包丁、竹槍、箒、ナイフ。どれにも血はついていない。
魔理沙に一番最初に気づいたのは、鈴仙だった。
「あら、魔理沙さん」
振り返った鈴仙の服は、既に手遅れであることを物語る色をしていた。
鈴仙に習い、他の三人も魔理沙を振り返る。
「いらっしゃい」
「大変ね」
「もうちょっと早く来ればよかったのに」
「何を……してたんだよ……?」
「この病気の原因かなぁって奴を、ちょっとね」
四人が囲んでいたモノを、鈴仙が掴み上げて魔理沙目掛けて投げつけた。
「うああ……!!」
一見、ゴミにしか見えない。
だが、見覚えがあった。
「きっとそいつのせいなのよ」
永琳は言った。
「まあ、違ったら違ったでどうせこの呪い染みた病は解決しないし」
輝夜は言った。
「死ねないのに、苦しいし、気持ち悪いし……大変だわ」
妹紅は言った。
鈴仙が投げた魔理沙にモノは、四人の手で無残に貫かれ、破かれ、裂かれ、切り刻まれたメディスン・メランコリーだった。
「きっとそいつですよ。毒なんですよきっと」
「人形開放なんとかってのを企ててたし」
「そりゃ人形は病気になんてならないだろうしね」
「けど殺したのに全然楽になんないなぁ」
不死である三名は、死に際の状態で生き続けているのだ。
思考能力が落ち、狂ったように死んでいく、末期状態で。
本来の用件も忘れ、魔理沙はすぐに永遠亭を出た。
*
博麗神社になら霊夢がいる。
僅かな心の支えとなってくれる事を期待し、魔理沙は博麗神社へと向かった。
長い階段を飛ぶ。
鳥居が見えた。
普段は宴会なんかが行われるそこには、この事態でも四名の人がいた。
どいつもこいつも、見覚えのある奴だ。
その全員が、四つん這いになりながら、何かを囲んでいる。
異常な光景に、魔理沙は声を出す事ができなかった。
周囲の木々の中に身を潜め、その集団を凝視する。
緑色の長髪の巫女が、顔を上げた。
口の周りに大量の血液が付着している。
それを、強引に着ている巫女装束で拭う。
白と青の涼しげな巫女装束が、汚らしい赤に染まった。
「何をしてるんだ……?」
魔理沙は、囲まれている何かを凝視した。
そして、息を呑んだ。
人間の手が見えたのだ。
「足りないでしょうかねぇ」
「どうかしら」
「足りない足りない」
「もっと食べなきゃ」
「綺麗な血肉さえ食らえば、きっと治りますよね」
「病気のときは栄養とるべきだし」
「けど幻想郷中、病に冒されてて、綺麗な食べ物って少ないもんね」
「霊夢さん、ごちそうさまでした」
魔理沙は嘔吐した。
発症の所為ではない。
神社にいた四名が行っていた内容を知ってしまったからだ。
霊夢を食っていた。発症していない霊夢を、新鮮な食べ物として食っていた。
妖怪ならばまだしも、人間である早苗まで、霊夢を食っていた。
きっと四名がその場をどいたら、そこには残飯と化した霊夢がいるのだろう。
「狂ってる……狂ってる……!」
病気の末期症状を見せ付けられ、恐ろしくなった魔理沙は、泣きながら神社を離れようとした。
だが、次の瞬間、右肩に激痛が走った。
「うぎぃっ!!?」
「見つけた見つけた。うふふ」
「さ……咲夜……!?」
「お嬢様がご病気だからね。新鮮な物を食べさせてあげなくちゃね」
咲夜が魔理沙の右肩にナイフを突き刺していた。
そして、まるで肉でも解体するかのように、ナイフに力を込め、ゆっくりと刃を動かす。
「あがぁぁ……!」
「お嬢様の糧になってね、魔理……」
言い切る前に、強風が吹き荒れ、木々を揺らした。
それと同時に、ナイフに込められていた力が一気に抜けて行った。
何が起こったのか分からなかった魔理沙は、一先ず咲夜から距離を置く。
当の咲夜は、左腕を押さえながら何者かを睨みつけていた。
「ダメですよ、咲夜さん。これは私のです」
「射命丸文……どきなさい」
鴉天狗の射命丸文が、咲夜の狩りに首を突っ込んできたらしい。
「どきません。いいですか、これは私のなんです」
魔理沙はもはや品物程度にしか見られていない。
「未発症者の血肉で本当に病が治るのかは知りませんが、もう残された道は死しかないものでねぇ。何でも試してみなくては」
「いいからどけぇっ!!」
咲夜がズラリとナイフを構えた。
そして時間を止めようと懐中時計に手を掛けた。
が、止めるより速く射命丸が動いた。
超高速を生かした桁外れの威力を持つ蹴りが咲夜を吹っ飛ばした。
木にぶつかって止まった咲夜に、間髪入れずに近づき、追い討ちを掛ける。
「はははっ。弾幕勝負でなしに妖怪に勝てると思いましたか?」
木に凭れ掛かるようにしている咲夜を殴り続けながら、文が楽しそうに問う。
「愚かしい愚かしい愚かしい。こんなちゃっちいナイフで天狗を殺そうなんて思わないで下さいよ」
文が手加減無しで殴り、蹴り続け、原型が分からなくなるほどグチャグチャにしてやった咲夜にそう告げ、文が振り返った。
「さあ魔理沙さん。私の糧……」
言い終える前に、巨大な光線が文を吹き飛ばした。
偶然携帯していた、恋符マスタースパークだ。
しかし、このレーザーの所為で、霊夢を食っていた四名が、魔理沙に感づいた。
「魔理沙さん!」
東風谷早苗が明るい声を出す。
「そんな所で遊んでないで、一緒にどうですか、コレ」
嬉しそうに霊夢の右腕を掴んでぶんぶんと振り回す。
無論、食い散らかされた胴は地面に横たわったままである。
傍にいたのは、風見幽香、洩矢諏訪子、そして河城にとり。
「い、いや……」
「こういう綺麗な物を食べれば、この病も治るんじゃないかなぁって思いまして」
「神奈子は、どこへ?」
「神奈子様は死なれましたよ。とっくに」
平然と言ってのける早苗。
この異常な雰囲気の中でもどうにか平静を保ち、発症している振りをしたかったが……
「……あなた、まさかまだ綺麗?」
幽香が感づいた。
三人の目付きが変わる。
「ま、待て、もう私は……」
「だったら確かめさせてもらおうか」
にとりが大きな鉈を握り締めた。
「外はだめでも中は平気かもしれないだろう?」
「に、にとり! 正気かよ!」
「正気だよ」
にとりが一歩一歩、にじり寄ってくる。
飛んで逃げても、四対一では勝ち目はない。
恋符もさっきので最後だった。
次第に魔理沙は、壁に追い詰められていった。
「うあああ……」
「大変な病気だよねぇ。私は生きたいんだよ」
「くるな、来るなぁ!!」
「いただきまー……」
鉈を振り上げたにとり。
だが、そこで突如大きな地震が起こった。
立っていた五人全員がバランスを崩すほどの大きな振動。
何事かと五人が周囲を見回す。
そして次の瞬間、にとりの足元にポッカリと大きな穴が開いた。
「あれ?」
言っている間ににとりは、その穴に落ちていった。
暗くて何も見えない、どこに繋がっているのかも分からない穴。
事態が飲み込めず困惑する発症者三名に対し、魔理沙は冷静だった。
「まさか、紫が……」
スキマ妖怪、八雲紫が、遂にこの病気に殺された。
境界を操る彼女と、結界を管理していた博麗霊夢が死んだ。
それは即ち、幻想郷が終焉を迎えた証である。
崩れ行く幻想郷に幾つものどこでもない空間が発生し、全てを飲み込みだした。
そして、にとりはその第一号となってしまったのだ。
元々発狂している三名は、この事態にヒステリックを起こし、叫んだり祈ったりするしかできなくなってしまっていた。
そうしている間に、幽香が空間に飲まれた。
「……私も、終わりなのか……」
魔理沙はその場に座り込み、空間が自分を飲み込むのを待った。
ふと視線を上げると、博麗神社が目に入った。
幻想郷と外界の境界である、博麗神社。
様々な思い出が走馬灯のように蘇りかけた瞬間。
「……幻想郷と外界の境界……」
魔理沙は立ち上がり、賭けに出た。
ここが外界と幻想郷の境界であるのなら、境界を統治する妖怪と結界を管理する巫女が亡き今、“外”へ出られるかもしれない。
「外界に……逃げれる……!」
僅かな希望を胸に、魔理沙が立ち上がり、神社を目指す。
霊夢曰く、結界さえなければ、神社のどこかに不自然な穴が開く。
そこが、外界への入り口なのだ、と言っていた。
突如現れる穴を必死に避けて、賽銭箱の前に辿り着くと……
そこに一つ、妙に形の整った穴があった。
「これ、なのか……?」
違ったら魔理沙は、どこでもない、訳の分からない所へ落ちる事になる。
それは、病気で死ぬより辛い事かもしれない。
だが……
「どこへいくんですか魔理沙さぁん?」
早苗が歩み寄ってくる。
迷っている時間はないようだった。
意を決し、魔理沙は穴へ飛び込んだ。
*
気が付くと、魔理沙は見知らぬ場所にいた。
病気が蔓延して皆が狂いだした幻想郷と違い、とても静かな場所。
大きくて、沢山の窓の付いた四角い建物。
鉄製のパイプの先で、三色のランプが付いている、用途不明の柱。
四つのゴムと鉄を組み合わせた車輪が付いた鉄の塊。
地面は黒く、白い文字で線や文字が書かれている。
「外界、なのか……?」
初めて見る外界。
しかし、あまりにも殺風景で、静かだ。
人がいない。
魔理沙は人を探して歩いてみる事にした。
暫く歩いたが、人はいなかった。
ここは外界じゃないのだろうか。
そんな不安が胸によぎりだした頃、見覚えのある物が無造作に置かれていた。
青い看板がかけてある建物の前のゴミ箱。
「これ、新聞って奴か」
幻想郷で天狗が書いていた新聞と言う紙と酷似したものを見つけ、開いてみた。
天狗のものとは違い、小さな字が長々と書かれている中に、大きな文字が書かれている。
それを読み、魔理沙は愕然とした。
「……原因不明……死者多数……?」
小さい所を指でなぞりながら必死に読んだ。
読めない字も時々あったが、大体を読む事ができた。
「何だよ……」
ガクンと膝を地面に付いた。
「幻想郷と、同じじゃないか……」
外界では、幻想郷より先に、あの謎の病が蔓延した。
外界の技術をもってしても、これに打ち勝つことはできなかった。
どうやっても、何をしても、この病気から逃れる事はできなかった。
そうして、人類は死滅した。この病気で。
外界は、この病気を忘れざるを得なかった。
何せ、覚える者が誰一人としていなかったから。
覚えていた者は皆死んだのだから。
そうして病気は幻想入りし、幻想郷も同じように滅んだ。
誰もいない外界。
風すらなかった。
本当に静かで無骨な世界が広がっている。
飛ぼうと思ったが、飛べなかった。
魔理沙は魔法使いではなくなっていた。
新聞に、赤い液が落ちた。
「あ」
間抜けな声の後には、大量のそれが新聞を塗りたくった。
字が見えなくなってしまった。
口の中に鉄の味が充満する。
「せっかく、逃げてきたのに……」
横になって、魔理沙は涙を流した。
孤独のまま死んでいくのは、辛いものだ。
「どうせなら、みんなと死ねばよかったかなぁ」
病気で苦しむ前に、魔理沙は舌を噛み切った。
再び、外界に生物はいなくなった。
久しぶりの投稿ですが、結局訳の分からない話に。
PS3のSIRENをやっていたら書きたくなった感じです。
原因不明。打開策なし。周囲は狂っていくばっかりだけど、自分はまだ平気。
そんな絶望的な世界に、魔理沙を放り込みたかった。
外界への出方とか、病気の事とかは完全にご都合主義の勝手な設定ですので、ご了承ください。
そもそも、病気がこんな感じで幻想入りするんでしょうかね。
慧音とかが歴史変えれば病気なんて大丈夫じゃない? とか、そういうのはなしです。
そういうのを気にしていると、話が書けません。少なくとも自分は。技量不足でしょう。
[追記]
よく考えてみたら、ここまで人が死ねば早々に冥界とかで異変に気づきますね。
完全に抜かっていました。申し訳ありませんでした。
ご観覧、ありがとうございました。
pnp
- 作品情報
- 作品集:
- 1
- 投稿日時:
- 2009/04/11 08:58:57
- 更新日時:
- 2009/04/11 21:57:12
- 分類
- 魔理沙
- 感染系?
まあ未発症の人の肉を食べると治るかも知れないとは、あながち間違ってませんよね。免疫能力がついている可能性が高いですし。
産廃冥利に尽きる、素晴らしい物語でした。
魔理沙は本当にどうしようもないゴミクズですね^^
残念ながらSDKは来なかった
魔理沙ってどこか小動物的なかわいさがあるよね
それにしてもなんでこう魔理沙って誰もいないところで無惨に孤独死するのが似合うのかしら
自分はこういうのが読みたかったんだなあと実感しました。
幻想郷にいる外界を知る者達もこの事態に対し必死に対処したが結局解決することは出来なかった。
そして幻想郷内で混乱が起きないように情報は外に漏れなかった…。
外界に生物は存在しないが幻想郷には不死身の3人が生き続けた。
逝き続けた、とも言うのかもしれないが。
と言う妄想が生まれた。
幽々子「忙しいわねー」
妖夢 「そーれすねー…。。」
で、きっと冥界は平和。妖夢の半身が死にかけてるけど。
生命が全滅したら輪廻転生とかいろいろのシステムってどうするんでしょうね。
人間が作った神が創ったシステム…諏訪子とかの神まで殺す細菌なら竜神などの創生神に近い神も死ぬのかしら。
とりあえず魔理沙はやっぱりかわいいということだけは解った
最近のバイオハザードっぽい
神を殺すってほどだから
病気じゃなくて多分なんかの呪いとかと自分で勝手に思ってたりする
そう言えばプリズムリバー三姉妹はどうなったんだろうか
まぁ細かいことは気にせずゴミクズかわいいよゴミクズ
神の神性すら上回る蓬莱の薬すげえw
まあ蓬莱人三人は結果的に一番悲惨かも試練が
しかし幽々子とか冥界の人は大丈夫なハズ。
えーきが過労死しかけるかもしれんが
とても怖くて、とても素敵でした。
・・・、よくよく考えてみるとこの状況って
小町と映姫様が過労死しそうな状況じゃね?
よくできた作品だと思った。
すさまじく面白かったよ
原因不明の病気で人類が死滅するという意味で
どんなコンプレックスから こんな妄想を………!