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『Brixton Madness Party Generation』 作者: ガンギマリ
チルノの全身が音を立てて燃えているのである。
数年前に何処ぞの宴会で口にした大きなケーキ。
調度、あれに刺さっていた蝋燭の様に。
本来、炎という物は楽しげに揺らめく物なのだとレティは認識している。
住居を照らす灯り、上記で述べた宴会の料理の彩り、放火の野次馬。
感情のない赤色が有象無象を蹂躙する様が楽しくない訳がない。
自分が火に強い体質ならば、それに触れてみようとさえ思える程だ。
しかし生憎、冬の妖怪にとっての高温は他ならぬ天敵である。
その為に、先程から炎に包まれているチルノを確認するのも遠巻きに眺めるばかりでつまらない。
もっと近くで目に焼き付けてみたい(炎だけに焼き付ける。巧い)のだが、体質が体質であればそれも仕方がない。
遠くで温かく(炎だけに温かく見守る。巧い)見守ろう。
そういや久しぶりにケーキ食いたくなってきた。
後でケーキ買ってこようかな。
ぼんやりと先端を振るう火だるまを眺めながら、思い浮かぶのは遠い日の砂糖の味ばかりである。
この氷精が焼け死んだ後に、灰ではなく砂糖が残れば尚面白いのに。
チルノが「アタイが死んだら砂糖は風に乗せて飛ばしてね」と遺言を残す。
そして骨壷にぎっしりと収められた砂糖を寒風と共に撒き散らす。
ベトナムの餓えた餓鬼共のオヤツ代わりになれば尚良い。
オヤツといえばケーキ食いたいから後で買ってこよう。
しかし妖精は自然と共にあり続ける存在、彼女らに死の概念はない。
レティは舌打ちをした。
死の概念がないなど、考えてみればつまらない連中である。
物事に命を賭せない存在に何の価値があろう。
妖精らが代わりに賭すのは何か。
「精器(O-Manko)か」
レティはオマンコだと自己解決しました。
命よりも大切なをんなの黒ずんだ俗物。
これがなければ一人のをんなとして終わる所か生物としてのかちがなくなる、いや、ようせいはえっちしねぇような。
えっちしろよ!
しろよ!
「オメェどうせ見てねぇ所ぢゃいたしてんだろチルノ眼鏡相手にインバイしてたのは有名な話だぞテメェこら舐めてんぢゃねぇぞこらマラどころか私まで舐めやがって」
しかしチルノが答える事はない。
既に皮膚の大半が炭化し、渇いた身体をポロポロと溢すばかりで話にならず、レティは再び舌打ちをした。
では妖精にとっての\\\"生\\\"とは何か?
子作りをしない以上\\\"精\\\"という概念とはかけ離れている。
また、対局に存在する\\\"死\\\"という概念すら見据えていない。
もしかすると、目の前で炎上する馬鹿は生きてすらいないのだろうか。
そう考えると心なしか曖昧になってきた。
確かに氷精が炎に炙られた状態で此処まで活動出来るなど馬鹿げている。
炭化した身体で狂った様にコサックダンスを踊るチルノ。
この踊りを見ていると、生命活動を停止する以前の問題なのだという見方も強まってきた。
それにしても美しい。
時折弾ける様にして吹き飛ぶ肉片。
股間から溢れては蒸発する小水。
無意味に乱射される弾幕。
その美しさよ。
気が付いたら既に10年が経過していた。
10年もの間、この炎にずっと魅せられていたというのだろうか。
掌を見つめてみると、空白の10年の軌跡が数本の皺となり刻まれている。
炎に呑まれた10年の、真っ赤な色をした皺が掌に収まっていた。
「お腹空いたわ」
身体は痩せ細ってしまい、彼女本来のふっくらとした体型は今や見る影もない。
妖怪といえども、10年の断食は流石に堪える。
そろそろ限界が近い。
腹が減ったのでケーキを浴びる程食いたい。
朦朧とした頭で考えていると、未だ炎の勢いを落とさずに燃え盛っているチルノが歩み寄ってきた。
ZUN帽の隙間からパラパラと頭髪が溢れ落ちる。
紫がかった頭髪が風に流され、チルノの炎に飲み込まれてゆく。
空中で発火した紫色の糸は地面に落ち、チリチリと縮れ炭化する。
既に焼け蒸発した目玉、空っぽの眼孔がギョロリとレティを見つめた。
「チルノ、楽しそうね」
「そうでもないよ」
最早声にもならないレティの言葉は、掠れながら僅かに空気を震わせるだけに留まる。
しかし、チルノは炭化し崩れてしまった唇で確かにそれに答える。
そして、再び長い沈黙が訪れた。
時は刻々と進み、何度目かの月が地平の向こうに汚い顔を覗かせる。
レティは、今まで何故こんな天体如きに心を奪われていたのだろうかと疑問に思った。
春を迎える際の前夜はよく切なさに月と共に涙を溢したものだが、目の前の炎に比べ何とくすんで見える事か。
所詮天体に命はない。
ハナから死んでいる。
その証拠に、月は自分で輝いている訳じゃない。
実に馬鹿らしい。
馬鹿らしさよりも、目の前の馬鹿。
目の前の馬鹿が堪らなく愛しく思える。
何100年も自らと共にあり続けた天体、それにすら靄をかけてしまう真っ赤な火柱。
それに触れてみたい。
触れてみたい触れてみたい。
ローストされかけた意識の中でチルノがレティの服の一片を掴んだのは、調度レティの頭の中にも炎が燃え広がった時だった。
「チルノ」
「ん」
「命、って、何?」
「命?」
やがて炎は二人を包み、余す所なく細胞すら受け入れる。
足元の渇いた地面が微かに揺れる。
何度目かの月が再び顔を見せたが、その光は天を衝く火柱に掻き消されてしまった。
草花の慟哭、空を千切る煤煙。
一面に広がる炎の海。
その中を泳ぐ見知らぬ魚。
「さぁ…」
「そう」
「ねぇ、レティ」
「ん?」
「抱き合おうよ」
「もっと?」
「もっと」
「もっと、強く」
火の粉が新しい星になり、天体を喰い潰しながら宇宙をぐるぐると廻り始める。
二人の束の間の寄り道、軌道にない世界。
地上がなくなり空も消える。
見知らぬ魚達は餌が見当たらなくて結局炎の中で命を落としてしまった。
銃口から昇る硝煙の様に総てが霧散し、炎に巻かれながら宇宙の海の中に沈んでゆく。
物悲しい風景が不気味に光るばかりで、後は何もない世界。
時という概念すら炎の中に置いてきた二人は、\\\"命\\\"というあまりにも小さな世界の中で抱き合う。
やがて世界が狭まり始めた頃、そこには少しばかりの砂糖の小山が出来ていた。
作品情報
作品集:
1
投稿日時:
2009/05/01 14:12:24
更新日時:
2010/03/16 20:12:01
分類
チルノ
レティ
SHERBETS
表現しにくい何かがあるような気がする。
自分にとっては良い意味で。
文章がかっこよかったです。
どうしてくれるんだ。
だが今作はGJ
うまく表現できないけど愛を感じます。
これはよいレッチル世界……。
凄い。凄い。惚れました。
詩っぽい文、好きです。