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『幸福の報い』 作者: pnp
迷いの竹林の奥にひっそりと建つ永遠亭。
そこには、月の姫やその部下、それから沢山の兎が暮らしている。
その、住んでいる沢山の兎の長として君臨する化け兎がいた。
名前を因幡てゐと言う。
外界で長く行き過ぎた為、妖怪と化し、そのまま幻想入りを果たしたのである。
彼女には、見た者を幸せにする能力が備わっていた。
彼女の姿を一目見た人間は、何かしらの幸運に恵まれるのである。
しかしこの能力、どうも他人には理解されにくいものであった。
彼女は竹林の外へ出る事が少ない。
故に、もしも彼女を見る事があるとしたら、それは竹林の中での話となる。
竹林は高確率で道に迷う、名の通り、迷いの竹林である。
そして、竹林で迷って彼女を見つけた者は、どう言った訳か竹林を抜けられるのである。
それは、彼女の能力のお陰である。
その時点で、彼女を見つけた事で得た幸運を使い果たす。
故に人里では「竹林の案内人」とか、そんな感じで噂が広まっていた。
てゐは別にそんな事は気にしていなかったのだが、ある日、ほんの些細な事から、自身の能力を証明してやろうと決意した。
事の発端は、珍しく竹林の外へ出てみた時の事である。
出てすぐ、彼女は花の異変の際に出会った者達に遭遇した。
氷の妖精であるチルノと、夜雀の怪、ミスティア・ローレライ。
二人ともてゐを覚えていたらしく、あの時は凄かったねと談笑を始めた。
初めはいい雰囲気でいろんな話をしていたのだが、次第にてゐとチルノがヒートアップし初め、そして口喧嘩へ発展した。
あれだこれだと、売り言葉に買い言葉で喧嘩は進んでいたのだが、チルノのある一言が、てゐを揺さぶった。
「あるかないか分かんないような能力のくせに」
チルノは、てゐの見た人間を幸せにする能力と言うのを、まるきり信じていなかった。
てゐは嘘ではないと声を荒げたが、チルノ相手に無駄な事であった。
その場ですぐにさあ見てみろと見せ付けれる能力と言う訳ではない。
そんな事はチルノも分かりきっていた事だが、口喧嘩で優位に立つ為の絶好の口実と取り、それを認めようともしない。
その結果、てゐは、数日後に能力の効果を見せ付けてやるから覚悟しておけと宣言したのである。
*
口喧嘩から数日が経った。
永遠亭の入り口から、買出しのメモを眺める鈴仙が姿を現した。
永琳に頼まれ、今から人里へ向かうのだろう。
メモに書かれている物を反芻しながら、竹林を進む。
竹林の出口に差し掛かった所で、突如横からヒョイと影が現れた。
影の正体を見て、少し鈴仙は驚きを含んだ口調で、その名を呼んだ。
「あら? てゐじゃない」
「鈴仙。人里にお買い物?」
「うん」
「じゃあ、私もついてく」
てゐとこんなに竹林の外に近い場所で会うのも珍しかったが、人里へ付いて行くと聞いて、鈴仙は更に驚いた。
今までてゐと人里へなど、ほとんど行った事が無かったからである。
何か、良からぬ事を企んでいるのか、と鈴仙は思ったが、
いくらなんでも、博麗神社の巫女が出動するような大それた事はしないだろう、と思い、特に止めはしなかった。
一応、理由を聞いておく事にした。
「何でまた人里なんかに」
「ちょっとね。目に物を見せてやろうと思って」
「は?」
人里は、いつも通りの賑わいを見せていた。
誰もが、穏やかで平和な生活を営んでいる。
鈴仙はもうこの光景も見慣れたものだったが、てゐは新しい発見も多かった。
再び鈴仙がメモ用紙を取り出し、買う物を確認していると、突然叫び声があがった。
「あーっ! あれ、竹林の化け兎じゃないか!?」
声にびっくりして鈴仙が顔を上げた。
チラリと横目でてゐを見ると、てゐは少しも驚いた様子がなく、むしろ不適に笑んでいた。
まるで、こうなるのを待ち望んでいたかのように。
叫び声を聞いた里の人間が、わいわいとてゐの周囲に集まってきた。
皆、てゐの能力を知っているのだ。
一目見て、その幸福に肖ろうと、里は一気に騒がしくなった。
人ごみをあまり好まない鈴仙は、てゐと少し距離を置き、その様子を眺めていた。
人によっては、手を合わせて拝む者までいる有様だ。
「一体何を考えてるのやら……」
ため息をつき、鈴仙は一人で買出しの為に歩みだした。
*
てゐが里を訪問してから一週間後。
里の活気が増した。
てゐの人を幸せにする能力の効果である。
ある者は病が治り、ある者は子宝に恵まれ、ある者は死に瀕した畑が奇跡的に命を吹き返した。
紛れも無く、里は幸せになったのである。
それは、里の人間や雰囲気から読み取れる。
吸血鬼の従者である十六夜咲夜も、この謎の活気に少し戸惑った。
いつもの食料品店の店員に、これの理由を問うた。
店員も、周囲の雰囲気と同じように、嬉々として答える。
「これはね、兎のお陰なのよ」
「兎?」
「竹林にいる化け兎の女の子が、この前にこの里に来たの。そしたら、本当にみんな幸せになったのよ!」
「なるほど」
「咲夜さんも、一度お目に掛かってみてはどう?」
「考えてみますわ」
本当に幸せそうな里の人々を見て、咲夜はふぅと息を漏らした。
実際の所、兎の力などに頼らずとも、咲夜は十分幸せだった。
だが、これを自分の主に言えば、きっと生け捕りにするだの何だの言い出すのであろう。
兎の能力に興味のない人間もいれば、逆に興味津々の人間だって存在する。
流行りもの好きな霧雨魔理沙は、すぐさまてゐの噂を聞きつけ、人里に現れた。
「へぇ。あいつの能力ってのはこんなにも効果絶大なものなんだな」
感心している魔理沙の横に、守矢神社の巫女である東風谷早苗も姿を現し、深いため息をついた。
「いいですよねぇ。幸せにするだけでこんなにも慕ってもらえるなんて」
「お前だって奇跡の力でこれくらいできるんじゃないのか?」
「そりゃできますけど、いまいち信仰集めの得点にはなりえないと言うか……餌で釣って集めた信仰は、餌がなくなると失せちゃいますし」
「なるほど。つまり、その場凌ぎじゃダメなんだな。神様の質で勝負しなくちゃいけない訳か」
「そういう事です」
「お前や神奈子も大変なんだな」
「ええ。……しかし」
幸せそうな里を見て、早苗は再びため息をつく。
「こんな幸せそうな人を見ていると……肖りたくなっちゃいますねぇ」
「そうか?」
「魔理沙さんは、そう思わないですか?」
「私はむしろ……」
魔理沙は、いつもの悪戯っぽい笑みを浮かべ、トンと自身の胸を叩き、こう言い放った。
「独り占めしてやりたいぜ」
「……独り占め」
「そう。私だけが超ハッピーだ」
「そんなのズルイです。世界全体が幸福になるまで、個人の幸福はありえないって、誰かが言っていましたよ」
「幻想郷は元々幸福だぜ?」
「……それもそうですね」
*
その後も何度か、てゐは人里を訪れた。
行く度に感謝され、拝まれた。
里の人々はどんどん幸せになっていく。
誰の目から見ても、その効果は明らかだった。
あと何度、人里へ向かう必要があるだろうか。
そんな事を考えていたある日の事だった。
「あのぅ」
後ろから控えめな声。
てゐが後ろを向くと、見慣れない人物が遠めに立っていた。
大きなスカートと、頭や手に巻いた真っ赤なリボンが印象的である。
「どちらさん?」
「あ、初めまして。私、厄神の鍵山雛と言います」
「雛さん」
話があるのなら、とてゐが雛に近づこうとすると、雛は退き、大慌てでてゐを静止させた。
「近づいちゃダメです。不幸になってしまいますよ」
「不幸に?」
「そうです。ですから、そこにいたまま、私の話を聞いていて下さい」
雛はそう言うと、一度大きく深呼吸をした。
そして、意を決したように、てゐを見据える。
「因幡てゐさん。今日私は、同じ人を幸福にする者として、警告に参ったのです」
「幸福にする?」
「私は普段は厄を集めています。遠まわしに人を幸せにしている訳です」
「へぇ。それでで、警告って?」
「……最近、何度も何度も人里へ向かわれているようですが……」
「うん」
「すぐに止めた方がいい、と私は思います」
雛はそう言い切った。
しかし、てゐは首をかしげた。
「何故?」
「無償の幸福など、人にばら撒きすぎない方がいいと思うのです」
「無償の幸福、かぁ」
確かに、今の人里はてゐを見る事による幸福に頼り切ってしまっている。
これでは、人は堕落してしまうと言う事だろうと、てゐは捉えた。
「警告ありがとう」
「はい」
雛の話を聞いた後、てゐはチルノの元へ向かった。
てゐが意気揚々と声をかけるとチルノは、嫌悪感全快の眼差しをてゐへと向けた。
「降参したでしょ?」
「な、何がよ」
「人里、見たわよね? 私の能力のお陰で、あんなに幸せになった」
「……ふん、まだわからないじゃない。偶然って可能性もある」
「あーあ。これだからバカの相手は面倒なんだ」
てゐは肩を透かした。
チルノはとても悔しそうだが、いい反論をする事ができない。
苦し紛れに、こう呟いた。
「あと一回……」
「ん?」
「あと一回、幸せにしたら、信じる」
「あと一回、ねぇ」
てゐがニヤリと笑った。
そして身を翻し、ぶんぶんと手を振りながら去っていく。
「私の勝ちは決まったようなもんよ。精々、小さい脳をフル回転させて最高の謝罪の言葉でも考えておくことね」
「あと一回くらいなら大丈夫だろう」
そう思い、てゐはその日も、鈴仙に着いて人里へ向かった。
*
チルノがてゐに、これ以上ない程の謝罪をしてから、数週間が経過した。
鈴仙が人里へやって来た。
が、すぐさま異変を感じた。
まるで生気や、活気が無い。
まるで凶作に見舞われた農村の如く、人里は沈みきっていた。
薄気味悪さを覚えながら、いつもの商店へと向かって歩いていると――
「な、なあ、あんた……」
「え?」
人里の青年に声を掛けられ、鈴仙は足を止めた。
青年は、疲れたような、待ち焦がれたような目をしながら、鈴仙に問うた。
「兎は? 化け兎はどうしたんだよ?」
「化け兎……。てゐの事?」
「そ、そうだ。あいつは、あいつはいつ来るんだ?」
鈴仙は、口に手を当て、唸った。
青年の問いへ対する答えはしっかり持っている。
てゐは、もう暫くは人里へは行かない、と言い切った。
何故、この青年がてゐを待ち望んでいるか、鈴仙は分かる。
故に、現実を知らせるべきか、否かに迷ってしまったのである。
青年の目は、あまりに弱弱しい。
――少し刺激すれば、戻るかもしれない。
そう、鈴仙は思った。
「……てゐは、もう暫くはここへ来ないと言っていたわ」
「な、何だって!? 何で!?」
「さあ。それは分からないけど。それじゃあ」
鈴仙が再び歩みだすと、青年は鈴仙の腕を掴んで彼女を止めた。
「ちょっと! 何するの!」
「なあ、頼むよ! あの化け兎をここへ……!」
「もうっ! 私が言っても、あの子がここへ来る訳ないでしょうっ!」
鈴仙は乱暴に手を振り解いた。
まるでこの世の終わりを迎えたかのような青年の表情。
哀れすぎて。可哀想過ぎて。
鈴仙は、慎重に言葉を選び、彼を励ました。
「……ただでは幸せになんてなれないから」
「……」
「それなりの苦労をしなくちゃ。あの子がここへ来る前は、あなただってがんばってたんでしょう」
「そりゃ、そうだが……」
「でしょう。それなら、初心に帰って、がんばればいいじゃない。一度できてた事なんだから」
らしくない、とか思いながら、鈴仙は買出しへの道を急いだ。
残された青年は、小さくなっていく鈴仙の背中を眺めていた。
「……ただでは幸せになれない……」
土のついた手を見る。
そして、それを握り締めた。
「やっぱ、そうだよな……」
青年は、決心し、自宅へと戻っていった。
*
竹林を、てゐが駆け抜けていた。
博麗神社へ遊びに行き、すっかり夜が遅くなってしまった。
門限はとっくの昔に過ぎている。が、門限を破る事などよくある事であった。
「急がなきゃ……」
あまり帰宅が遅いと、鈴仙がうるさい。
また、面倒な妖怪なんかに遭遇する事もある。
なるべく急いで帰りたかったが、暗い竹林を全速力で、と言う訳にもいかず、速度は緩やかだ。
しかし、竹林へ入って数分後。
もはやどうやっても怒られる事は確定だと感じた。
ならば、いちいち急がず、ゆっくりと言い訳を考えながら帰った方が効果的だと考え、てゐは走るのを止めた。
その瞬間、突然足元の土が、轟音と共に爆ぜた。
爆ぜた場所に手を当てると、固いモノが落ちていた。
闇夜の中でそれはよく見えないが、触った感じから分かる形、大きさ、そしてその前の音で、てゐはそれが何であるかを理解した。
――銃弾である。
理解すると全く同時。
さっきの音が立て続けに鳴り響いた。
反射的にてゐは身を屈めた。
「な、何? 何なのよ?」
誰に問う訳でもなく呟くてゐ。
遠くで何人かの人間の足音が聞こえた。
耳を欹て、人間たちの動向を探る。
「さっきあっちで何か動いた」
「化け兎を見つけたらすぐに撃て」
「殺してもいい?」
「構わない」
「幸せを勝ち取るんだ」
「そうだ」
「そうだ」
「そうだ」
動く事ができない。
相手はただの人間だ。逃げるのは容易い筈なのに。
ここまで明確な殺意を持っている生物と接するのは初めてだった。
つまり、見つかると自分は殺されてしまう。
この事実は、てゐを同様させた。
「に、逃げなきゃ……」
音を立てないように、そっと動き出す。
永遠亭へ逃げれば、きっと大丈夫だろう。
そう思い、いつもの帰路を辿ろうとしたが――
一歩踏み出した途端、カラコロと音がなった。
踏む事で音を鳴らし、獲物や敵の存在を知らせる、鳴子と言う罠である。
こんな古典的な罠に引っかかるとなると、てゐは相当動揺している。
そして、罠に掛かってしまったのが、余計にてゐを焦らせた。
上手く逃れられず、更に鳴子が鳴り響く。
人間達が、てゐに気付いた。
「いたぞ!」
「逃がすな!」
「撃て! 撃つんだ! 撃って仲間たちにも知らせろ!」
ガムシャラに放たれる凶弾。
てゐは頭を抱え込んでその場に蹲ってしまった。
そして次の瞬間。
耳が射抜かれた。
真っ白い耳を、真っ黒い銃弾が貫通した。
殺傷性のある銃弾の威力で、中腹から耳が千切れて飛んだ。
残った切れ端から、真っ赤な血がダラダラと流れ出る。
「いぎぃぃい!!」
敵は間近にいるにも関わらず、何とも情けない声を出してしまった。
弾幕勝負とは訳の違う痛み。訳の違う恐怖。訳の違う状況。
その全ての要因が、てゐを狂わせた。
逃げるのも忘れ、千切れ飛んだ耳の切れ端を手探りで探す。
まだ温もりを持ったままの耳の欠片が手に当たる。
大急ぎで傷口と傷口を合わせてやる。
くっつく筈も無い。
「いやあ、いやあ……くっついて、くっついてよぉ……!」
耳からの流血で片目が塞がれた所で、ようやくてゐは正気に戻り、すべき事を思い出した。
逃げなくてはならない。
耳の切れ端は持ったまま、ようやく立ち上がったが――
再びなった銃声と同時に、てゐはその場へ倒れこんだ。
「ひぃっ!!」
「見ろ。足を撃ち抜いてやったぜ。もう逃げれないだろう」
「よくやった」
「上出来だ」
てゐは自身の脚を見た。
細く白い脚の脹脛に、赤黒く醜い風穴が穿たれた。
闇夜の中であるにも関わらず、流れ出る血の赤さが妙に目立つ。
手で押さえたが、血も痛みも留まりを知らないようだった。
数名の人間が、てゐを拘束した。
拘束に携わっていない人間の一人が、腰に提げていた細長い道具を手に取った。
袋を取り去ると、銀色の板状のものが、僅かな月光を鈍く反射させた。
鉈である。
てゐはそれを見て、がたがたと震えながら尋ねた。
「ちょっと待って、それで何を……!」
「お前の脚を貰う」
「え!? あ、脚!? い、いやよそんなの!」
「昼間、ある奴に言われたんだ。……ただじゃ幸せになれないんだよ」
「いやああああ!! やめて!! お願い!!」
「悪く思うなよ。これも俺たちの幸せの為だ」
「お願いしますっ!! お願いしますぅ!! いくらでも、いくらでも、誰だって幸せにしてみせますっ!! だからお願いです!! 助けて、助けてぇ!!」
てゐの叫びは、
「無償の幸福の可能性」と言う魅力に憑かれた人間達に届く筈もなく、
ただただ、暗く、広い竹林に、吸い込まれるばかりだった。
*
「あ……かはぁ……っ」
意識がどうして途切れてくれなかったのか。
てゐは自身の体を呪った。
脚は両脚とも切り取られた。
鉈で強引に切った脚の断面は、あまりにも粗雑だ。
おまけに、その光景に欲情した人間達は、てゐの純潔をも奪った。
下賎な人間の子種が、口に、頬に、胸に、膣に付着している。
腕の力を精一杯使って動こうとしたが、もはや無理だった。
このまま、朽ち果てるのか。
竹と竹の間から覗ける空を見ながら、そんな事をぼんやり考えていると――
「あ!! いた!!」
聞き覚えのある声がした気がした。
そして、助かるような気もした。
薄れていく意識を集中させ、顔は動かさず、声だけを聞く。
「いましたかまりささん」
「いたぜ」
「で、どうですか」
「あーあ。さきこされてるぜ」
「そんなぁ」
「ざんねんだったなさなえ。あしはもうないぜ」
「それじゃあいみがないですよぅ」
「そうだな。じゃあ、べつのところもってかえればいいんじゃないか?」
「いみあるんでしょうか」
「さんたくろーすだってしんじてたほうがしあわせだろ。しんじてればきっとこうかあるぜ」
「それもそうですね。みなさーん、おすきなぶぶんをきってもってかえってくださいね。ころさないていどに」
「はーい」
「じゃあわたしはつめをもらうぜ。せんじてまほうのざいりょうにするんだ」
「ではわたしはゆび」
「おじょうさまのためにひじまでもってかえらせてもらうわ」
「じゃあわたしかた」
「かたみみのこってる。みみ」
「あしのゆび」
「むね」
「め」
「は」
「ほね」
「じんたいってなんぶんかんつでもいけるんだなあ」
「そうなんですねぇ」
「かいたいって、おもしろいおもしろい」
「ああしあわせー」
「ですねぇ」
「あはは」
「うふふ」
*
ある日、永遠亭の扉が開かれた。
店先には、本来、永遠亭には何の用もない筈の者が立っていた。
店番をしていたメディスン・メランコリーは、その来客に目を輝かせた。
「いらっしゃい!!」
「ええ。こんにちは」
「お姉さん、お人形!?」
「え? まあ、一応。流し雛です」
「私ね私ね! メディスン・メランコリーって言うの! ねえ、よかったら人形開放戦線にご協力……」
「メディスン。お客様に変な勧誘をしない」
大人びた女性の声に制され、人形の少女は口を尖らせた。
「もう。永琳のせいで貴重な戦力を逃しちゃうじゃない」
「はいはい。……いらっしゃいませ。お人形さんが薬屋を訪れるなんて、珍しいわね。ご用件は?」
「あ、あの……私は、厄神の鍵山雛と言う者なのですが……」
雛は目を泳がせた。
少し俯き加減で、声も控えめに、問うた。
「……因幡てゐさんは、いらっしゃいますか?」
永琳の表情が変わった。
その変化に、雛はビクリと体を震わせた。
「てゐに何の用?」
「そ、その、ですね……」
「あなた、てゐがどんな状態か知っている?」
「それを確かめに来たんですが。その様子だと、てゐさんは……」
「……まさか、あなたが犯人?」
「ち、違います!」
雛は首と手をぶんぶんと振った。
「しかし、警告した身として、一応と思いまして……」
「警告?」
「はい。無償の幸福をばら撒きすぎるな、と」
「……」
「それが……無償の幸福が途切れてしまった時、人間は、何をするか分からないから……」
雛が帰った後、永琳は、てゐのいる部屋を訪れた。
目、胸、腕、脚、耳を失ったてゐが、そこにいた。
「誰か……来てた?」
「厄神が」
「厄神……? ……あ……」
今更、てゐはあの警告を思い出した。
じわりと、包帯に涙が滲んだ。
恐怖からきたものか、後悔からきたものか。
小さな体を震わせて、
「うぅ……うぁあ……うぁあああぁぁ……」
てゐは、泣いた。
長きにわたって考え続けていたネタをようやく文章化しました。
ただで幸せになれるんだったら、それはそれは食いつきたくもなりますよね。
しかし、幸福って何なのでしょう。
それは、まだ大した年月を生きていない自分には到底理解できそうもありません。
(世界規模で見れば、日本に生まれた時点で相当幸せな気がしますが。)
作品の方は至って普通な虐待SS。
ウサギの足をお守りにする文化は実在する(した?)らしいです。(日本のものではありませんが)
『猟銃で撃たれるてゐ』と言うシチュエーションから発展していった作品です。何を考えていたんでしょうね。
てゐを人間如きが狩れるのか、と疑問があるかもしれませんが、切羽詰った人間は何をするか分からないものですよ。
火事場の馬鹿力と言ったところです。
後、雛って人形ですよね?
ご観覧、ありがとうございました。
今後もよろしくお願いします。
pnp
- 作品情報
- 作品集:
- 1
- 投稿日時:
- 2009/06/22 16:30:38
- 更新日時:
- 2009/06/23 01:30:38
- 分類
- 因幡てゐ
- グロ
無償の幸福ってのは、こういうのが一番丁度良い
その愚かな人間に魔理沙咲夜早苗が入ってるのもなんとも…
こいつらが次怪我や病気になって永琳の世話になるときが楽しみだ。
ある意味てゐの自業自得だな。
チルノがどうなったか気になったり
潜在的に幸福は不幸を含み、不幸は幸福を含んでいます。
だから人生に於いて大切なのは幸不幸ではないと思います。
それを直接的に目的にするのは、麻薬を求めるのと同じなのですから。
人々の堕落した狂気がストレートに伝わってくる、残酷な良い昔話ですね。
リスクがあるからこそ、相手に感謝することができる。
ある国では足と牙だけ取られた象が野に捨てられてることもあるとか
それは置いといて足から出血しながらレイプされるてゐ想像してチンコ勃った
弱々しい様子が劣情煽るのかな、とんでもない変態どもだ
可愛そうではあるけど、自分のすることがどういう結果を招くか考え付かなかったんだろうか
因果応報なてゐの後悔もよかった
由来は、ネズミ肉を兎肉と偽って出していた肉屋が多かったため、
兎肉の証拠として前足を貰ったのが始まりです。