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『さかな 2匹目』 作者: 紅魚群
※『さかな』の続編です。前作を読んでないとよくわかんないかもです。
※グロ注意、キャラ崩壊注意…も同様。
※タグには妖々夢とありますが、主にアリスです…
『アリス、元気にしてるか?突然の手紙でなんだが、もし私に会いたかったら、○月×日の夜12時、一人で博麗神社の前まで来てほしい。
私はそこで待ってるから、詳しいことはそのとき話す。念を押すが、必ず一人で来てくれよな。この手紙のことも誰にも言ったら駄目だぜ?
偉大なる魔法使い 霧雨魔理沙より』
「魔理沙…まだかな…」
神社の鳥居にもたれながら、アリスはポツリと呟いた。
夜11時50分。まもなく約束の時間だったが、魔理沙の姿はまだ見えなかった。
アリスはもう一度手紙を取り出し、内容を確認する。
"○月×日夜12時、博麗神社前"。月明かりのみでは薄暗かったが、紛れも無く魔理沙の字でそう書いてあった。
こうやって手紙を確認するのも何度目だろうか。日頃の彼女らしくもなく、落ち着きが無い。
『これは異変なんかじゃない。だって、それを解決する人間もいなくなったんですもの』
アリスの脳裏に、八雲紫の言葉がよみがえる。
謎の連続失踪事件。最初にいなくなったのは、博麗の巫女、霊夢だった。
それだけでも大騒ぎだったが、それから立て続けに魔理沙、山の巫女といなくなり、魔界の住民がいなくなり、紅魔館の住人がいなくなった。
最初の霊夢がいなくなってからもう2週間は経つが、いまだに解決の糸口は何も掴めていないらしい。
そんな中送られてきた魔理沙からの手紙。最初は紫に相談しようとも思ったが、やめておいた。
手紙には誰にも言うなと書いてあるし、万が一約束を破ったせいで魔理沙に会えなくなったら元も子もない。
魔理沙に会えない―――アリスにとっては、そちらのほうが大問題だった。
それにしても、そろそろ12時だというのに、魔理沙は一向に現れない。
魔理沙が約束の時間に遅れてくることなんて日常茶飯事だったが、今回ばかりはそれでは困る。
いや、遅れてでもちゃんと来てくれるのならかまわないが、待っているアリスにとっては気が気ではなかった。
空を見上げてみても、満月が煌々と輝いているだけで、鳥の影ひとつ見えやしない。
アリスは魔理沙が空から来ると思っていたので、神社の方から歩いてくる人影に気付くことができなかった。
「お、アリス。早かったじゃないか」
「あ…」
アリスが振り返ると、目の前の白黒エプロンドレスを着た少女は、にやっと悪戯っぽく笑ってみせた。
「……魔理沙」
「まりさ?いーや、違うな。私は楽園の巫女、博麗霊夢だぜ」
「魔理沙っ!!」
アリスは魔理沙の方に走り寄ると、そのまま飛びつくように魔理沙に抱きついた。
あまりに突然のことだったので、危うく魔理沙もバランスを崩しかける。
「うわっ!おいおいアリス、恥ずかしいだろ。あんまりひっつくなよ」
「ばか!ばか!ばかっ!!心配したんだからっ!!」
アリスがギュッと腕に力を込める。魔理沙もやれやれといった顔で、アリスの頭をポンポンと撫でた。
「な?アリス、もういいだろ?それよりも色々訊きたいことがあるんじゃないのか?」
「あ!そ、そう!!」
慌てて魔理沙から離れるアリス。冷静になってみると、言いたいことが雪崩のように頭に浮かんできた。
「魔理沙!今までどこいってたのよ!?こっちはホント大変な騒ぎになってるのよ!?知ってると思うけど、あっちこっちで人がいなくなって、
霊夢もいなくなるし、パチュリーも、レミリアも、咲夜も急に消えちゃったし、紫はこれは異変じゃないとかわけわかんない事言ってるし、
魔界のほうだって、魅魔とか、神綺様とか…」
「あー、わかったわかった」
たまらず魔理沙が両手で遮るポーズをしてアリスを制止する。
「説明するより実際見たほうが早いぜ。今日呼んだのはそのためだからな」
「え?それってどういう……」
「まあついて来れば分かるって。ほらこっちこっち」
そう言って魔理沙は神社の境内の方へと歩みを進めた。アリスも仕方なく、その後に続く。
魔理沙は境内を迂回して神社の側面に回ると、靴も脱がずに縁側に上がって障子を開けた。
「アリスも靴は脱がなくていいぞ。大丈夫、霊夢の許可は取ってある」
「え?霊夢もいるの!?」
「いるいる。……よいしょっと。ほら、この下だ」
靴のまま部屋に上がった魔理沙が、畳を持ち上げた。
その畳の下には本来あるべき床板はなく、代わりにぽっかりと穴が開いていた。
薄暗くてよくわからなかったが、近づいてみるとそれが下へと続く階段であることがわかった。
魔理沙が先に降りるようアリスに勧める。
「おい早く降りてくれ。こうやって畳を持ってるのも疲れるんだ」
「で、でも…」
「ん?ああ、暗いのが嫌なのか」
別にそういうわけじゃ…と言おうとしたが、魔理沙が八卦炉に火を灯して渡してくれたので、おとなしく受け取っておいた。
八卦炉のおかげで幾分明るくなったが、それでもまだ階段の底は見えなかった。
光と闇のコントラストがはっきりした分、余計不気味になったかもしれない。
正直言って、降りたくない。
わけのわからない展開に困惑せざるを得ないアリスだったが、とりあえずこの階段は下りなければいけないようである。
アリスは覚悟を決めると、足元に注意しながら一段一段慎重に足を進めた。
階段はそれこそ地底にまで続いていそうな印象だったが、意外なことに十数段降りたところで行き止まりになっていた。
その突き当たりには、金属製だと思われる銀色の扉があったが、不思議なことに取っ手がない。
どうやって開けるのかとアリスが疑問に思っていると、畳を閉じて降りてきた魔理沙が、アリスの肩を叩いた。
「ちょっと火返してくれるか?」
「え?あ、うん」
魔理沙はアリスから八卦炉を受け取ると、扉の横の壁を照らした。
照らされた壁には、0から9までの数字が書かれたボタンのようなものがあった。
魔理沙が人差し指でそれらのボタンを何度か押すと、ピーっという音の後に、扉が静かにスライドして開いた。
「パスナンバーは312151だ。出るときも必要になるから、アリスも覚えといたほうがいいぜ」
そう言うと魔理沙は、扉をくぐってずんずんと進み始めた。慌ててアリスもその後を追う。
扉の先もまた、真っ暗な通路だった。
まっすぐなで長い通路。歩いていると、5メートルごとぐらいに通路には扉がついていた。
暗くてよく見えなかったが、扉には何かの書かれたプレートのようなものがついている。
魔法で光を出すことも勿論できたが、アリスは魔理沙に暗いのが怖いと思われるのが嫌だった。
別に魔法使いだもの。暗いのは、平気よ。
くだらないプライドのせいで、アリスは"死体置き場"や"拷問道具"と書かれたプレートの前を、素通りする羽目になった。
「ここだ」
急に魔理沙が止まるので、あやうく背中にぶつかりそうになる。
通路の突き当たりには、また銀色の扉があった。だがさっきと違い、今度はちゃんとドアノブが付いている。
魔理沙は2、3度ノックをした後、ゆっくりと扉を押し開けた。
「霊夢。連れてきたぜ」
部屋に入ると、椅子に座った2人の巫女の後姿がみえた。
魔理沙の声に、紅白の巫女が振り返る。
「あーあ、やっぱり来ちゃったのね」
霊夢はアリスの姿を見て、苦笑いをする。
「はじめましてアリスさん。私、東風谷早苗って言います。どうぞよろしく」
もう一方の巫女は、アリスに自己紹介をすると、ペコリと丁寧にお辞儀をした。
だが早苗の言葉は、アリスの耳には入っていなかった。
目の前に広がる光景が、アリスの思考を完全に停止させていたからだ。
ガラス越しに見える隣の部屋。その真っ白な部屋には、おびただしい量の、真っ赤な血。
その血の発生源と思われる手、足、胴、内臓が、そこらじゅうにバラバラになって散らばっていた。
そして部屋の中央では、苦悶の表情を張り付けた生首が、こちらを見ている。
「ぁ……ぁ………」
「おーい、アリス。大丈夫か?」
目を見開いて固まっているアリスの顔を、魔理沙が覗きこむ。
「いきなり"コレ"はレベルが高かったかしら」
「そうみたいだぜ。霊夢、早いとこそれを片付けてくれ」
「え〜。もう片付けちゃうんですか?」
「早苗、肴の本分は死体にあらずとか自分で言ってたじゃない」
「…まあ、それはそうですけど」
霊夢は制御装置の"清掃"ボタンを押して、拷問部屋を真っ白な状態に戻した。
そうして目の前から死体が消えると、ようやくアリスの口から声が漏れた。
「……なに……いまの………」
「えーと、霊夢、今のは何だ?」
「レティ・ホワイトロックよ」
「だそうだ、アリス」
「………何なの……?……何なのよぉ!!??」
驚愕の表情を浮かべたまま、アリスが後ずさる。
そのアリスの様子を見て、霊夢が顔をしかめた。
「やっぱり駄目なんじゃないの?その子」
「まあ待てって。早苗も最初はこんなんだったろ?」
「そうでしたっけ?」
早苗が目をトロンとさせて言った。この日はまだ飲み始めて間もなかったが、早くも酔いが回ってきているようである。
一方の霊夢は涼しい顔でもう一度アリスの方を一瞥すると、ふぅっと溜息をついた。
「まあ邪魔しないならいいけど。アリスの面倒は、魔理沙がちゃんと看なさいよ」
「わかったわかった。ほら、アリス。突っ立ってないで椅子に座ろうぜ」
ひとまず固まったままのアリスを席に座らせようと、魔理沙が手を引く。
が、すぐにアリスはその手を払いのけ、魔理沙から遠ざかった。
「お、おい、どうしたんだよ?」
「魔理沙…。あなたここで何をやっているの…?」
「何って…その…なんだ…」
『虐殺を肴にお酒を飲んでます』なんて、今のアリスに言える雰囲気ではない。
なんとか婉曲的な表現でアリスを落ち着かせようと口ごもっていたが、早苗の余計な一言でその努力もむなしく砕け散った。
「アリスさ〜ん、こっちで一緒に飲みましょうよ〜。ほら、今度はあの化け猫が無様に死ぬとこが観れますよ〜」
「わっ!バカッ!そんな言い方があるか!」
「…な……なんですって…?」
アリスは隣の部屋の方を見た。その部屋にはいつの間にか、見覚えのある猫耳の少女がちょこんと座り込んでいる。
宴会で何度か会ったことがある。八雲紫の式の式、橙だ。
こちらの姿は見えていないのか、不安げな表情であたりをキョロキョロ見回していた。
「し…死ぬって……あの子に何をするの!?」
「アリス、とりあえず落ち着けって。次はもうちょっとソフト目にするからさ…。そうだ、お前の好きなワインもあるぞ」
「……魔理沙……あ…あなた………まさか…………」
アリスの体がガタガタと震える。
幻想郷の中でも、アリスは比較的賢い部類だった。
魔法使いという種族上それは当然のことなのだが、今の状況からその聡明な頭脳が導き出した結論を、アリスは認めることができなかった。
あの優しい魔理沙が、そんな酷いことをするはずがない。
あの優しい魔理沙が、他人が死ぬところを見て悦ぶはずが無い。
あの優しい魔理沙が……今までいなくなった人達を……殺す…はずが………
「う、嘘よね…?魔理沙…?魔理沙はそんな酷いことしないわよね…?神綺様も…パチュリーも…殺したりなんてしてないわよね…?」
「…アリス、そんな上っ面の良心なんか忘れて、一緒に楽しもうぜ。騙されたと思って観てみろよ。すげえ楽しいんだぜ、これ」
「あ……そ……そんな…………」
もはやアリスの精神は崩壊寸前だった。
そこへ追い討ちをかけるように、隣の部屋から悲鳴が聞こえた。
アリスがゆっくりと視線を送ると、先ほどの橙が火達磨になって部屋を転げまわっている。
「あづい゙ぃ!あつい゙ぃい゙いい!!!らんしゃまああああ!!!!ゆかりしゃまあああああだずげでええええええええ!!!!!!!」
「あー!霊夢、何やってんだよ」
「うるさいわね。油ぶっかけて火をつけたことくらい、見ればわかるでしょ?」
あきらかに苛立ちながら、霊夢がぶっきらぼうに言った。
「全く…霊夢の奴なに怒ってるんだ?」
「…………」
「…まあいいか。アリスもまだ抵抗があるなら、少し休んでから……」
「…………」
「って、おい。なんで人形なんて出してるんだ?」
「…………」
アリスは無言のまま人形を数体繰り出すと、それらを霊夢の方へと向けた。
「な!?馬鹿!!やめろっ!アリス!!!」
遅かった。魔理沙が止める間もなく、人形達から一斉に霊夢へと弾幕が放たれた。
完全に無防備だった霊夢の背中に、それらが直撃する。
けたたましい音とともに机や椅子が倒れ、霊夢の体が前へと吹き飛んだ。
そのまま霊夢はガラス面に激突すると、ドサッと床に崩れ落ちた。
ぽかんと口を開けてあっけに取られている魔理沙と早苗。
そんな2人を無視してアリスは床に転がっている制御装置を起こすと、そこにあるボタン群に目を走らせた。
地雷、刺殺、毒ガスetc…
見るだけで吐き気がするようなボタンばかりだったが、その中の"水"と書かれているボタンを見つけ、アリスはそれを押した。
するとすぐに隣の部屋に雨が降り注ぎ、橙を焦がしていた炎が鎮火した。
「………にゃ……にゃあ……」
だが体中に負った火傷が酷く、早急に治療をしなければ危険な状態だった。
おまけに水を被ったため、式が剥がれてしまっている。
「…今助けてあげるからね…」
再びアリスはボタン群に目を走らせる。
だが、治療に役立ちそうなボタンは、当然というか、見当たらない。
次にアリスが目をつけたのは、部屋の隅、ガラス面左の壁に見える、ブレーカーのようなレバーだった。
レバーには上に"open"、下に"close"と書かれており、今はclose側にレバーが下りている。
アリスは急いでレバーまで駆け寄ると、それを持ち上げた。
するとアリスの予想通り、部屋を区切っていたガラスが、消えてなくなった。
しかしそこまでだった。
『バチィッ!!』
「ギャッ!!!???」
突然アリスの背中に跳ねるような痛みが走った。同時に体から力が抜けていく。
それ以上立っていることもできず、アリスは膝を折ってその場に倒れこんだ。
体が痺れて上手く動かなかったが、なんとか首を回して後ろを見ると、そこには背中を押さえて立っている霊夢がいた。
片方の手に、何か小さな機械が握られている。
「あんたねぇ…、いいかげんにしなさいよ」
霊夢は怒りに満ちた表情でアリスを見下すと、その腹を足で思い切り踏みつけた。
ぐぅっとアリスが小さく呻く。
「もうだめ。決めた。こいつ殺すわ」
「で…でもなぁ、霊夢……」
「何か文句でもあるの?魔理沙」
「ひっ!わかった!わかったから、それをこっちに向けるなって…!」
霊夢の持つスタンガンに、魔理沙がたじろぐ。
キレたときの霊夢の恐ろしさは、付き合いの長い魔理沙が一番良く知っていた。
もはや誰も霊夢を止めることはできない。もっとも、止めようとする者も、誰もいないのだが。
霊夢は倒れているアリスを蹴り飛ばして隣の拷問部屋の方へ転がすと、レバーを下げてガラスを閉じた。
こうして拷問部屋には、アリスと瀕死の橙が閉じ込められる形となった。
「あ…、もう大丈夫ですか…?」
早苗が倒れた机の影から、おずおずと顔を出して言った。
その早苗の頭に、霊夢がゲンコツを入れる。
「あいたっ!!」
「あんたも隠れてないで少しは止めなさいよ!」
「ふぇ…す…すいません…」
「あと魔理沙も!!」
「ああ、悪かったぜ…。まさかあんなことするとは思ってなくてな…」
「……まあいいわ…………いや、よくないわね。床が滅茶苦茶だし」
床には先ほど机が倒れたせいで、割れたグラスや酒瓶が散乱していた。
霊夢はひとまず机と制御装置だけ元に戻すと、どかっと椅子に座った。
「とりあえずあいつらを殺してから、部屋の掃除よ」
拷問部屋に閉じ込められてからも、アリスはすぐに動くことができなかった。
スタンガンによる体の痺れがとれていなかったからだが、それでも懸命に身をよじって、橙の元へと向かおうとする。
橙はもはや虫の息だった。呼吸も浅く、全身の皮膚がとけて焦げた服に癒着している。
人間ならとうの昔に死んでいるが、妖怪である彼女の生命力が、かろうじて命を繋ぎとめさせていた。
しかし一刻を争う事態に変わりは無い。
アリスは重い体を引きずってなんとか橙に手が届く所まで行くと、その体にそっと手を当てた。
「ごめんね……これぐらいしか、今はしてあげられないけど……」
アリスの手から出た光が、橙の全身を包み込んだ。
治癒魔法はアリスの専門分野ではない。だから効果も効率も、ほとんど期待は持てなかった。
現にアリスの今ある魔力を全部吐き出しても、発赤を多少抑える程度しかできなかった。
だがそれでも応急措置としては十分効果があり、あと数時間は生きていられるぐらいまで、回復させることはできた。
「ねえ!魔理沙!聞いてるんでしょ!?お願い!この子を助けてあげてっ!!」
拷問部屋からはマジックミラーのため鏡にしか見えなかったが、アリスは魔理沙のいるであろう方向を見て叫んだ。
すると魔理沙でなく霊夢の声が、どこからともなく部屋中に響いて聞こえた。
『ホントおめでたいわね、あんた。他人の心配より、自分の身を案じたらどうなの?』
その後マイクに拾われて「どうせどっちも死ぬんですけどね」という早苗の声と、「ハハハ」と笑う魔理沙の声が聞こえた。
「なんで……なんでよっ!……どうしてこんなことできるの!?みんな…仲間だったんじゃないの…!?」
『なんでって、楽しいからに決まってるじゃない。仲間だろうが何だろうが、それは同じことよ』
ククッと、喉で笑いながら霊夢が言った。
もうアリスには、自分の耳が信じられなかった。
霊夢との付き合いも、決して短いわけじゃない。
そりゃあ多少他人に無関心だったりちょっと冷たいところもあるけど、それでもアリスの知っている霊夢は、こんなことは絶対にしない。
霊夢がいなくなるほんの数日前の宴会でも、一緒に酒を飲み交わして、笑いあった仲だった。
そうやって霊夢や魔理沙と宴会でお酒を飲んだのも、今のアリスには遠い昔の出来事のように感じられた。
アリスはもう一度橙の体に手を乗せた。もう魔力はないため、治療してやることはできない。
「霊夢……この子が苦しんでるところを見て何も思わないの…?あなたに良心はないの……?」
『ああ、その猫まだ生きてたの?邪魔だし、さっさと殺してあげるわ』
直後、ドシュッと軽快な音がして、アリスの顔面に生暖かい液体が降りかかった。
見上げると、橙が床から突き出した無数の槍に貫かれて、息絶えていた。
『これで私の良心も痛まなくてすむわね。もう苦しんでないから』
「ぁ……ぁ…………」
アリスが橙に手を伸ばそうとすると、槍が橙の死体ごと引っ込んで、床へと吸い込まれていった。
後には飛び散った血が、床に水溜りを作っているだけだった。
『さあ、アリス。次はあなたの番よ』
「…………全部………嘘だったのね………」
『は?』
「みんなでお茶を飲んだり…宴会をしたり…弾幕勝負をして楽しそうにしてたのも……全部……嘘だったのね……」
『そんなことはないわよ。お酒も弾幕勝負も好きだし』
「じゃあどうしてっ…!!!そうやって一緒に楽しんだ仲間を、簡単に殺したりできるのよぉっ…!!!!!」
『………』
しばらくの沈黙の後、今度は魔理沙の声が、部屋に響いた。
『でもな、アリス』
魔理沙………。
『私、お前のこと、本当は殺したくなかったんだぜ』
え………?
『嘘じゃないぜ。私がここに誘ったのは、お前だけだからな。前から…ちょっといいなって思ってたんだ』
…やめて…いまさらそんなこと言わないで……
『でも分ってもらえなくて残念だ。今そいつを殺す瞬間も、お前と一緒に酒を飲んでたかったんだけどな』
嫌…いや…いやっ…!!
『じゃあな、アリス。悪いけど…』
聞きたくない!!魔理沙の声で、それ以上喋らないでっ!!!
『死んでくれ』
その言葉を最後に、魔理沙の声は聞こえなくなった。同時に、背後からカラカラと歯車が回るような音が聞こえ始めた。
振り返ると、鏡とは反対側の壁が、ゆっくりとこちらに向かって迫ってきている。
私は、あの壁に押しつぶされて、死ぬ。
そう瞬時に理解したアリスだったが、不思議と恐怖心はなかった。
どうせ生きていても、あの日常はもう二度と戻ってこない。
ひとりぼっちだった私に光を与えてくれたあの魔理沙は、もう二度と戻ってこないのだ。
「魔理沙…」
アリスはふらつく足取りで鏡の前まで行くと、鏡に両手を突いて目を閉じた。
アリスの記憶から、魔理沙との思い出が蘇る。
魔界でのこと。春の異変のこと。永夜異変のこと。地底でのこと…。
他にも一緒に研究をしたり、お酒を飲んだり、大図書館に遊びに行ったり、くだらない口喧嘩をしたり…。
アリスの頬を、つぅっと一筋の涙が伝った。
部屋には、カラカラという歯車の音しかしなかった。その音が、徐々に近づいてくる。
「魔理沙」
アリスはもう一度愛しの人の名前を呟いて、目を開けた。目の前には、泣いている自分の顔が、鏡に映っていた。
それと迫ってきている壁が自分のすぐ後ろまで来ていることも、鏡に反射して見えた。
壁が、アリスの背中を押した。
鏡とアリスの間に、隙間がなくなった。
「ぎゃあああ゙あ゙あああ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ!!!!!!!!!!!!!!!」
それまで黙っていたアリスが、突如目を見開いて絶叫をあげた。
壁がアリスの体を圧迫し、次々と肋骨が折れて何本も肺に突き刺さる。
内臓が破裂し、裂けた皮膚から水鉄砲のように血が噴出して、鏡面を真っ赤に染めた。
「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!!!!!!!!!!!!!!!」
壁が、アリスの頭を挟み込んだ。
アリスの頭の中をミシミシと頭蓋がきしむ音が響き、思考ができないほどの激痛が走った。
壁が閉じるにつれて、アリスの目玉が徐々に飛び出してくる。
「あ゙……――――――――――
そしてとうとう、圧力に耐えかねた頭蓋骨がバキリと砕けた。
アリスの顔面が縦にバックリと割れて、そこから脂肪とも脳みそとも分からぬ赤色の物体がドロリとはみ出た。
アリスの世界は、そこで終わった。
「だからあれほど言ったのよ。あんな協調性の無い奴呼んでも無駄だって。」
霊夢が箒で床を掃きながら、口を尖らせた。
それを聞いて、魔理沙が苦笑いをする。
「あそこまで頭が硬いとはなぁ…。ほんと、アリスだけにしといてよかったぜ」
「まさか、他にも呼ぶつもりだったんじゃないでしょうね?」
「そうだな、にとりとか」
「論外。アリスより酷いことになるわよ、それ」
「冗談だよ」
そんなやり取りをしている2人に、新しいグラスを持ってきた早苗が口を挟んだ。
「そういえば何で霊夢さんは私を誘ってくれてんですか?あ、もしかして、私のこと好きなんですか!?」
「んなわけ無いでしょ。あんたがこういうの好きそうだから、呼んであげただけよ。せいぜい感謝しなさい」
「えへへ、ありがとうございます。私は霊夢さんのこと、好きですけど」
「そりゃどうも」
霊夢は集めた破片をチリトリに入れると、「休憩」と短く言った後、そそくさと部屋を出て行ってしまった。
その様子に違和感を感じた早苗が、「どうしたんでしょう」と魔理沙に視線を送る。
「脈有りかもよ」と魔理沙がニヤニヤしながら答えると、「それはそれで気持ち悪いです」と言って、早苗も部屋を出て行ってしまった。
魔理沙は1人部屋に残って、隣の拷問部屋を眺めていた。
今はそこには誰もいない。先ほどの惨劇が嘘だったかのように、部屋は曇りの無い白一色だった。
魔理沙は、目の前の制御装置に目を落とした。
制御装置の上には、小さな液晶画面がついている。
そこの例外リストと書いてある項目には、霊夢、魔理沙、早苗、アリスの名前があった。
魔理沙はその中のアリス・マーガトロイドにカーソルを合わせると、静かにデリートボタンを押して、アリスの名前を削除した。
前作たくさんのコメントありがとうございます!
元々続編を書くつもりではなかったので、そういう意味では今回は色々と悩まされました。
というか、アリスばっかだし……まだ妖々夢キャラ半分も出てないし……この後どうしよう……
通読感謝!
紅魚群
- 作品情報
- 作品集:
- 2
- 投稿日時:
- 2009/07/11 14:04:39
- 更新日時:
- 2009/07/11 23:04:39
- 分類
- 妖々夢
- アリス
- グロ注意
今回あまり酒の肴にならなかったからさらに次回に期待
しかも霊夢達は能力を使わずに機械だけで殺してるのはなんか意味があるのかな?
それと死に方が鏡の国のアリスへの皮肉っぽくて面白いなぁ
良作だと思う
霊夢が早苗さんを呼んだ理由は持ち上げてから落とすためか。いずれにせよ続編に期待。主に早苗さんの末路に期待
このシリーズの早苗ちゃん可愛いね。顔面陥没するまで殴ってあげたい
次あたり紫が召喚されて頭脳戦になったりすんのかな
または蓬莱人を不毛に殺し続けるか。楽しみにしてるよ
あ、蓬莱人の方々が居たっけ。蓬莱人なら死んでも生き返るから何度でも虐殺出来るね!
てっきりアリスを止めなかった早苗と魔理沙が霊夢にむにゃむにゃ
アリスが潰される時、鏡ごしの手を合わせているのがなぜか見えたり
亡霊って本体(死体)さえ無事なら滅びない上に動き回ってる方には実体があるから蓬莱人と同じようなことができそう。
呼ぶ候補に入ってた人→にとり
候補にも挙げられず普通に殺された人→パチュリー
まともがひ〜とり〜♪
か・・・
キャラのテーマソングかけながら順番に鑑賞したい
最終的にはこいつらのやってる事がばれて拷問になるといいな
良作うp感謝しますw
このサイトのアリスは比較的まともだな。