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『地獄の妖精コマンド part3』 作者: 極楽
魔法の森の中にある、妖精の住みか。
木の中に作られた家で、妖精たちが午後のお茶をしていた。
テーブルの周りには三人の妖精。
小さな身長も相まって、おままごとをしているような風景である。
ルナチャイルドは、時々むっと膨れながら、隣に座った妖精、スターサファイアと談笑していた。
「そもそもスターが悪いんでしょ。無茶な治療の仕方して……」
「ルナだって喜んでたじゃない。おかげで痒みは治まったでしょ」
「それはそうだけど……あんなのってないわよ」
「うふふ、ごめんね」
身体を小突きあいながら、きゃっきゃうふふと笑いあう二人。
じゃれあう恋人同士のように、親愛のこもった言葉を交しあっていた。
そんな二人をジト目で見つめるのは、三人のリーダーを自負する妖精、サニーミルクである。
面白くなさそうに口を尖らせて、ゆらゆら椅子を揺らしていた。
「何よ、もう」
ポツリとつぶやいたサニーの言葉も、二人には届かない。
盛り上がった会話は、サニーの言葉を自然にかき消してしまったのだ。
いつもは率先して話題を作るサニーでさえ、この扱いには閉口する。
まるで自分が邪魔者のよう。
一人でいたほうが、よほど精神的に良かっただろう。
サニーは腕を組んで考え込む。
椅子を反らせていったりきたり。
サニーの身体の動きにあわせて、ギッシギッシと床が軋んだ。
生まれてこの方、考え込むことなどなかったサニーだが、目の前で繰り広げられる光景は、
今まで経験したことのないものだった。
湧き上がってくる疑問。
なんでこいつらは、こんなに仲良しなのかしら。
私も混ぜなさいよ。
仲間はずれにして!
仲間はずれ?
私が……。
私……。
オロオロと揺れる青い瞳に映るのは、いちゃいちゃしあう二人の仲間。
活発な心は、逆境には弱かった。
サニーの心はがらんどうの洞窟のように、ぽっかりと穴が開いたよう。
自分がこの場に必要ないという、やり場のない憤りと寂しさ。
無視されるということは、心を深く傷つけるのだ。
楽しく話をする二人に、サニーは入りたくない、入れない。
このまま無視されたらどうしよう。
そうなったらサニーは、泣いてしまうかもしれなかった。
サニーは椅子を揺らしながら、二人の仲間を見つめ続ける。
わざと大きく椅子を軋ませ、構ってアピールを実行中。
ネガティブになったサニーの思考は、向こうから話しかけてもらうことにしたのだ。
椅子を揺らしながら、サニーは思い返す。
そういえば最近、面妖な動きを感じたことがある。
深夜のころ、サニーが寝ようとしていると、家の中が、まったくの無音になった。
おそらくルナが能力で音を消したのだろうが、理由が判らない。
夜に弱いサニーは、睡魔に負けて確認しなかった。
眠り落ちそうな視界の端に、横切るスターを見ただけである。
サニーは良くわからなかったが、仲間たちが、夜中に秘密の遊びをしていると考えたのだった。
仲間たちは談笑している。
サニーは無視されている。
寂しくなり過ぎたサニーは、ガマンできなくなった。
「ちょぉ……ちょっと! 二人ともおかしいよ! どうしてそんなに仲良しなのよ!」
サニーは緊張したのか、言葉始めが弱くなった。
両手でテーブルを打ち鳴らし、怒りの雄たけびを上げた。
サニーの姿を、二人はきょとんとした目で見つめる。
冷たくなったコーヒーが、衝撃でテーブルに広がった。
「どうしたのサニー? 焼餅は正月に食べるものよ」
「テーブル、自分で掃除してね」
「うるさい! 何でそんなに仲がいいのか聞いてるのよ!」
「サニーの考えすぎよ」
「そうね」
にべもなく返された否定の言葉に、サニーはテーブルをバンバン叩いた。
「何よ! 何よ!!」
「ちょっと、どうしたの?」
「ヘンなものでも食べたのかしら?」
「違うって言ってんでしょ! もう!!」
心配そうな仲間の声が、より一層苛立たしい。
頭がカッと熱くなる。
サニーの小さな脳は、憤懣でいっぱいになり、混乱した思考は冷静な考えを妨げた。
サニーはどうしたのかしらねというふうに、仲間たちは顔を見合わせて笑った。
笑い声の奥に、優しい気遣いが潜む。
サニーはそれが、なお気に食わないのだ。
「ウソよ。ルナもスターも様子が変だもん。変なんだもん!」
思考の渦巻きに囚われたサニーは、自分が何を言いたかったのか判らなくなった。
感情の緩急が激しい。
怒っているのか悲しいのか、サニーは判らない。
「サニーの考えすぎよ。……それに、サニーはねぇ」
「そうね。サニーにはちょっと早いかもしれないわ」
「ああもう……畜生!」
己の境遇がいたたまれなくなったサニーは、勢いよくドアに向かった。
背中に向かって捨て台詞を放つ。
「死んじゃえ!」
家から飛び出したサニーは、空に向かって急上昇、あっという間に米粒大の大きさに消えていった。
「……何なの?」
「夕飯までには帰ってきてね」
開け放たれて扉に向かって、唖然とルナは視線をやった。
スターはヒラヒラと手を振って、サニーの出立を見送ったのだった。
***
森の住みかより急上昇したサニーは、どんよりと曇った昼下がりの空を、風を切って突き進む。
透明な風に梳かれて、サニーの羽が風きり音を上げた。
高く高く飛び上がり、雲の中に突入すると、氷の粒がパチパチとサニーの身体にぶつかった。
じわりと広がるむず痒いような痛み。
身体の内から沸きあがる破壊衝動を逆なでするような、情けない痛みだった。
「イライラする!」
怒りの雄たけびを上げながら、雲の中を、見事な背面宙返り。
がむしゃらに飛んで、サニーは怒りを爆発させていた。
半透明な楕円形の羽が、雲を切り裂く。
心の鬱憤を吹き飛ばすように、サニーは空を飛び続けた。
身体を通り抜ける風に乗って、怒りが消えていけばいいのにと、サニーは思った。
悔しさで涙が溢れてくる。
が、サニーは自分が泣いていると認めたくなかった。
認めてしまうと、自分の惨めさを認めることになるからだ。
サニーは飛び続ける。
十分も飛んだだろうか、サニーの視界に博麗神社の屋根が小さく映った。
いつも悪戯をしている、巫女の住みかである。
「……」
精神の動揺に囚われていたサニーは、巫女に挑戦されているよう感じた。
サニーは悪戯をして、鬱憤を晴らそうと考えた。
神社に向かって全力飛翔。
内側からわいてくる感情を、サニーはとにかく解消したかったのだ。
***
博麗神社の巫女、博麗霊夢は、縁側に座って庭を眺めていた。
花壇に咲いた薄紫の蘭や撫子、そして百合の花。
色とりどりの花弁が、昆虫をおびき寄せるため、甘い匂いを振りまいている。
薄暗い午後の時間。
しっとりと咲く花々を愛でて、霊夢はのんびりと過ごしていた。
「降ってきたわね」
霊夢の言葉に呼応するように、怪しかった雲行きは、ついに雨を降らせ始めた。
柔らかな雨が、境内に降りてくる。
温かいお茶が一層美味しく感じた。
お茶を飲みつつ雨を眺めていると、霊夢は弾幕ごっこを連想した。
弾幕を避ける興奮が、僅かに脳内にきらめく。
それは霊夢にとって、平穏な日常を彩る、興奮剤のようなものだ。
熱狂の心を思い出し、湯飲みを握る手に力がこもった。
メリメリと器が軋み、乱れた心をあらわすように、水面が僅かに波打った。
霊夢は興奮を追い払うように、ふるふると頭を振って、顔を上げた。
空の中に奇妙な空間が映った。
雨の弾いて進む透明な球体が、一直線に神社を目指して飛んできたのだ。
「はぁ……」
霊夢は軽くため息をついて、湯飲みを置いた。
懐から札を取り出し、虫を追い払うような仕草で、無造作に投げつける。
霊力のこもった札は、雨を切り裂き、球体に吸い込まれていった。
「あぢッ!」
甲高い叫びと共に、透明な球体が、赤い服を着た妖精に変わった。
速度を落とし、墜落していく。
時折神社にやってくる妖精、サニーミルクだと霊夢は気づいた。
「こんな日に来ないでよね」
呆れたように呟く霊夢。
やれやれと湯飲みを持って、霊夢は深く座り直した。
それがいけなかった。
サニーミルクの墜落角度は、霊夢に向かって一直線だ。
赤と白の弾丸が、霊夢の視界に広がった。
「ええ!? ちょっとぉ!」
予想外の事態に、霊夢は不覚にも慌ててしまった。
立ち上がりかけた霊夢の腰に、サニーミルクが着弾した。
チャージタックルを受けた霊夢は、あわあわと手を動かし、後頭部から床に倒れる。
吹き飛ぶ湯飲み。
床の固い感触が、霊夢の頭に食い込んだ。
「い゛!」
両奥歯を殴りつけられたような感覚に、霊夢は奇妙な声を上げた。
妙な形に顎が動き、こめかみの辺りがおかしくなった。
「う、ヴ、ヴ……」
二人は絡み合ったまま、しばらく床に倒れていた。
もぞもぞと動く妖精。
「こらぁ! 何すんのよ!」
後頭部をさすりさすり、霊夢は怒声を発した。
腹部に抱きついたサニーは、脳天に張り付いた札を剥がそうともがきながら、こちらも怒声を返す。
「何よ! いきなり攻撃するなんて、オカシイんじゃないの。バカ!」
「……はぁぁ?」
霊夢は素っ頓狂な声を上げた。
雨の中を飛んできたためか、びしょ濡れのサニーが重い。
霊夢は胸の前にあったサニーの頭を叩いた。
「いたっ!」
「アンタが全部悪いのよ。生意気言うと封印するわよ」
「何よいきなりブン殴って! 何よ! 何よ!」
駄々っ子のようにサニーが暴れる。
濡れた衣服がベタベタと、霊夢の服に絡みついた。
不快指数の上昇に、霊夢の目が据わっていく。
平和な午後の時間は終わり。
霊夢は静かに怒っていた。
「……」
グイとサニーの髪の毛を掴み、霊夢は憮然と立ち上がった。
「放してよ!」
サニーの叫びは聞こえていない。
霊夢は答えることなく、サニーを掴んで居間に入っていく。
罵詈雑言の聞こえる中、後ろ手に閉めた障子が、ピシャリと音を立てて閉まった。
境内には雨が降り続いていた。
***
五分後。
「それで、何? 私と勝負するのよね」
「そんなこと言ってな──熱ッ!」
霊夢の足元に、半裸のサニーミルクが転がっていた。
砕け散った衣装の切れ端が、畳の上のそこかしこに飛び散っている。
霊夢はサニーにオシオキした。
札を投げつけ破裂させることで、鬱憤を晴らしていたのだ。
サニーは逃げようとしたが、誘導性を持つ札は、サニーをどこまでも追いかける。
秒間三発の間隔で霊夢の手から飛び出す札は、サニーの全身を取り囲み、爆発する。
火傷の痛みと、内部を揺さぶられるような霊的な衝撃が、サニーの気力と体力を一気に奪ったのだ。
「じゃあ何なのよ? 死にに来たの?」
「違うわよ。いぎっ!」
いまだ反発心を見せるサニーに、札が飛ぶ。
唯一残ったサニーの下着に、札が張り付き、真っ赤に発光して砕け散った。
「熱い熱い熱い!!!」
「上品な姿になったじゃないの」
「畜生!」
霊夢は口を歪めて笑っていた。
圧倒的な力の差。
サニーは抵抗できようもない。
衣服で緩和されているとはいえ、赤い傷口は小さな針を常に刺し続けられているように痛む。
皮膚感覚がおかしくなり、痛みだけを伝える壁のように、サニーには感じられた。
「うう、あああ。何でこんなことするのよぉ」
「あんたが悪いんでしょ」
「悪くないもん。あううう……」
「ふん、寂しいからって神社に来られちゃ堪んないわよ」
「違うわよ!」
「違わない。いつも一緒の妖精たちはどうしたの? どうせ喧嘩でもしたんでしょ」
「う、う、う!」
やれやれと肩をすくめる霊夢の仕草に、サニーは歯軋りをした。
痛さと悔しさで頭が熱い。
自然に涙が溢れてきたが、サニーは泣くまいと堪えていた。
ボロクズになって抵抗力を失ったサニーを、霊夢は足で小突き始めた。
腹部を蹴り飛ばし、残った鬱憤を注ぎ込んでいく。
「強情な妖精ね」
「あふ! ぐぇっ! げぇ!」
潰れた声が、霊夢の足元から聞こえる。
蹴れば蹴るほど、霊夢は満足できなかった。
この妖精は、まだ謝らない。
痛めつけても痛めつけても、いまだ屈服しないサニーに、霊夢は苛立っていたのだ。
「謝りなさいよ」
「……」
サニーは涙を溜めながらも、多少は零れ落ちていたが、霊夢をいまだ睨んでいた。
サニーはサニーで、朝から嫌な出来事が多かったため、ここで巫女に謝るのは、絶対にイヤだったのだ。
「……」
「何よその目」
「……」
「何とか言いなさいよ」
サニーは答えない。
霊夢を睨み続けていた。
「ふーん、そう」
完全に座りきった目で、霊夢はサニーの傍にしゃがんだ。
札を取り出し、内出血で赤紫色になったサニーの腹部に、ペタリと貼り付ける。
何かが爆ぜるような音がして、闇夜を照らす照明弾のように、居間に白いきらめきが走った。
「はっ……がばぁ!」
サニーは鼻と口元から、大量の血液を吐き出した。
サニーの腹部にポッカリと、スプーンでえぐられたような穴が開いていた。
凄まじい勢いで、畳に血が広がっていく。
破れた腹の穴から、内臓が霊夢に挨拶していた。
霊夢は感心したように呟いた。
「妖精にも臓物が入ってるのね」
「うぶっ、げげげげ」
サニーは足をバタつかせ、畳の上を回転する。
まるで血まみれのメリーゴーランドのよう。
観客である霊夢は、サニーの上にまたがった。
巫女服が汚れるのにも構わず馬乗りになる。
口から血液を溢れさしたサニーは、もはや霊夢を見ていなかった。
飛びそうな視線は、走馬灯的な映像を、追っているのかも知れない。
「さぁ、お仕置きよ」
ヤル気満々の表情を浮かべて、霊夢は袖を捲くった。
開いたサニーの腹部に、ズブリと手を突っ込む。
妖精の体内を調査する、博麗探検隊の始まりである。
温かいサニーの中を、霊夢の手が進んでいく。
一つ一つの内臓の形を確認するように、時々手で握り締める。
ミミズの群れのようにうねる小腸を通り抜け、奥に隠れた腎臓らしき塊を手で確認。
横行結腸を掻き分け、厚ぼったい胃と肝臓の隙間に手を入れる。
サニーの身体の中は、小さな可愛い内臓が詰まっていた。
ぬたりと手に纏わり付く温かさに、霊夢は不思議な感動を覚える。
母親の胎内にいたときは、こんな温かさだったのかしら?
サニーに入り込みながら、霊夢はそんなことを考えていた。
霊夢の指は、心臓の近くにまでたどり着いた。
トクン、トクン、トクン……。
サニーの小さな身体を体現するように、柔らかい鼓動が伝わってくる。
霊夢はほぅと息を吐くと、思わずサニーの顔を眺めてみた。
「……ガッ……カッ……」
サニーは息も絶え絶えで、時々血の飛沫を吐き出していた。
白目を剥きそうな瞳が、目蓋に出たり隠れたり。
まるで恥ずかしがり屋の女の子のような動きだ。
素直じゃないサニーを、あらわしているようだった。
「あはっ」
霊夢は思わず笑ってしまった。
この子、以外に可愛いじゃないの。
霊夢の挙動にあわせて、サニーの身体が反応を返す。
妖精の精神は、表面的な痛みには弱いが、ショック死することはない。
無駄に頑強な身体のつくりが、サニーを一回休みから遠ざけているのだ。
それに、サニーの心はいまだ敗北を認めていなかった。
死の淵にいようと、心が敗北を認めない限り、肉体の破損で死ぬことは遠い。
サニーは血を吐きながらも、歯を噛み合わせ、霊夢の力に抵抗している。
霊夢はサニーを少し見直した。
「それじゃ、行くわよ」
霊夢の指から神気がほとばしり、反省という文字を作って心臓を貫いた。
心臓が、ぶじゅりと潰れる。
血まみれのサニーの身体は、一度大きく跳ねたあと、静かになった。
やがてサニーの身体は、次第にぼんやりと薄くなり、消えていく。
何処ともわからない場所に、還ってしまったのだろう。
「これで反省してくれるかな。うん、してくれるわよね」
霊夢は満足げに伸びをすると、汗を洗い流すため、居間から出て行った。
***
いつまでたってもサニーが帰ってこないため、ルナとスターはめぼしい場所を探し回った。
サニーが家出するほど思いつめていると、二人は気が付かなかったのだ。
何処を探しても、サニーの姿は見つからない。
捜索を始めて一週間後、家で休んでいた二人の下に、異様に眼光の鋭いサニーが返ってきた。
諸手をあげて復活を喜ぶ二人。
開口一番、サニーが口にしたことは、こうだった。
「霊夢を痛い目にあわせてやる」
異様に低く呟くサニーの言葉に、二人は何も言えなかった。
サニーの心の空白は、霊夢に対する怒りで満タンだ。
仲間がいちゃいちゃしようが、除け者にされようが、今のサニーにはどうでもよい。
ただただ、暴虐な巫女を、酷い目にあわせてやりたかったのだ。
賛同してくれる仲間の気遣いが心地よい。
サニーはもう、寂しくなかった。
お読みいただき、ありがとうございました
三月精の服の下は、やはり子供のようにぷにぷに柔らかいのでしょうか
それとも鋼のような筋肉に覆われているのでしょうか
どちらにしても、とても素晴らしいですね
前作等々、感想をいただきありがとうございました。楽しく読ませていただいております
極楽
作品情報
作品集:
2
投稿日時:
2009/07/30 11:16:05
更新日時:
2009/07/30 20:16:53
分類
サニーミルク
博麗霊夢
暴力表現
2.今度はルナチャの番だな
3.いやいやサニーをお代わりです
リベンジ編に期待