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『幽香ちゃんは最強』 作者: 極楽
突き抜けるように青い夏の空。
吸い込まれそうな青空を見上げる、向日葵の花々。
平野全体を覆いつくした向日葵が、地上の太陽のように、黄色い波になって咲いていた。
空と地上を分かつ、青と黄色の境界線。
いつのころからか、太陽の畑と呼ばれている草原だった。
太陽の畑の上空、森林限界を超え、山頂を飛び越え、雲を足元に望む上の上。
空の色が黒くなり始めたところに、一人の少女が浮かんでいた。
瑠璃紺の長い髪に、桃の飾りの付いた帽子。
カスタムメードのエプロンドレスには、虹色の飾りを縁にあしらっている。
超高空には不釣合いな、華奢な出で立ちの少女だった。
薄い酸素も、凍てつく寒さも感じないのか、少女は平然とそこにいた。
中空に浮かびながら、サイコロ遊びでもするように、手のひらの小石をもてあそんでいる。
円錐状の石は、小さな注連縄が巻かれ、紙垂が垂らしてあった。
少女が腕を傾けた。
手のひらからこぼれた小石が、眼下の景色に消えていく。
くるくると回転しながら落ちる小石は、落下にあわせてどんどん大きくなっていった。
小石が岩になり、岩塊となり、小さな岩山となって、最終的には全長500メートルを超えた。
岩の成長に合わせて、注連縄の大きさも変化し、風きり音を上げる千本以上の紙垂は、
ロケット弾が連続発射されたような轟音をたてる。
少女は落下する岩を追って、地上に降りていった。
天から岩が落ちて来たとき、風見幽香は己の不注意を呪った。
向日葵畑で妖精たちと会話していた幽香は、突然日が陰ったとき、何事かと顔を上げた。
幽香は日傘を取り落とす。
自分のいる場所に向かって、巨大な岩が降ってくる。
「逃げなさい!」
叫びをあげて振り返った幽香が見たものは、すでに小さくなっている妖精たちの背中。
幽香に言われるまでもなく、危機を感じた妖精たちは、素早く逃げ出していたのだ。
「……」
幽香の頬を汗が伝う。
どうやら逃げ遅れたのは、幽香一人のようだった。
落下してくる岩塊から、幽香は必死に遠ざかろうとするが、いかんせん亀の歩み。
幽香は移動が遅いのだ。
逃げ切れないと悟ったとき、幽香は両手を広げて、岩を受け止めようとした。
ズゴン
向日葵畑に岩が着弾した。
山津波のように土砂が舞い上がり、千切れた向日葵が宙を舞う。
「うおおおおお!」
岩を正面から受け止めた幽香は、くの字に折れ曲がりながら、超重量に立ち向かう。
凄まじい衝撃に、指の血管が花火のように裂けた。
「ぐががががががが」
全身から血煙をあげながら、幽香は岩を受け止め続ける。
背骨がポキポキと音を立てて砕けた。
負荷の掛かりすぎた腕の骨が、肘の皮膚を突き破り、外に飛び出す。
瞬間的に妖気を集中させたため、幽香の身体はなんとか原型を保っていたが、ついに岩塊が圧倒的な質量で、
幽香の上に圧し掛かった。
後頭部から地面にめり込んだとき、幽香は何気なく踏み潰していた、蟻の気持ちが判った気がした。
「ぐぉほ」
血反吐を吐きながらも、幽香は負けじと力を振るう。
浮力の発生に妖気をつぎ込み、身体全体で岩を押し上げる。
ズ、ズ、ズ……。
1万トンを超えた重量を持つ岩が、少しずつ浮き始めた。
ボロボロと脱落する破片。
太陽の畑に刺さった岩が、再びその姿を地上に見せる。
天空を支えるアトラスのように、幽香は山ほどもある岩を持ち上げていた。
「うふ、うふふふふふ、どおだぁ!」
血まみれの顔で凄まじい笑顔。
己の力の偉大さに、幽香はギラギラとした笑いを浮かべていた。
岩が地面から1メートルほど浮き上がったとき、岩の上部から、更なる力が加わった。
巨大なハンマーを上から叩きつけたような衝撃が、岩を支える幽香に伝わる。
限界まで力を振り絞っていた幽香は、流石に耐えられなかった。
「メ゛ン!」
奇妙な叫び声をあげて、再び幽香は地面の中。
血が口元からゴボリと零れる。
まるで石臼の間にいるような気分。
ごりごりと押しつぶされて、幽香の中身が身体の外に飛び出しそうになった。
幽香が走馬灯のようなものを見始めたとき、急に身体のつかえが取れた。
先ほどまで圧し掛かっていた岩が、薄れ始めたのだ。
やがて全てが、薄れて消えた。
岩塊はぼんやりと正体をなくし、始めから存在しなかったかのよう、空気に混ざって消えていった。
後にはクレーターだけが広がっていた。
地面に埋まった幽香は、放心状態で倒れていた。
虚ろな瞳に青い空が映る。
地上の様子が関係ないよう旋回する鳶の姿が、幽香の瞳を泳いでいた。
並んでいた向日葵は、押し花のように潰され、緑と黄色と茶色の混ざった、よく判らないものになっている。
太陽の畑全体が、緑色のくぼ地になっていた。
「ごきげんよう」
耳障りの良い高い声が、幽香の耳に聞こえた。
いつの間にか、瑠璃紺の髪をした少女が、幽香を覗き込んでいる。
甘く香る桃の匂いに、幽香はようやく我に返った。
ぱちぱちと二、三度瞬きしたあと、少女を見つめ返した。
幼い顔立ちの少女が瞳に映る。
幽香の知らない顔だった。
ボキボキと軋む身体を持ち上げて、幽香は起き上がろうとする。
「ああ、無理しないで。まだ寝ていてもいいのよ」
「……」
「ね、私の挨拶、どうだった? インパクトがあって、凄かったでしょ」
幽香は少女の言葉を聞き流しながら、何とか立ち上がった。
血に染まった土くれが、身体からぱらぱら落ちる。
「みんな岩が見えると逃げちゃうんだもん。下敷きになったのは、あなたが初めてよ」
「ぐっ……」
えへへと微笑む少女を、幽香は殴りつけてやろうかと思った。
幽香は移動がとにかく遅い。
戦闘ともなれば、敏感な反射神経を持って最小限の動きで避けるのだが、隙間のない面攻撃には弱かった。
幽香は最大戦速になっても、天狗の十分の一のスピードもでないのだ。
「あなたは凄い妖怪なのね。私の名前は比那名居天子。以後よろしくね」
「そう……私は風見幽香」
声を振り絞って幽香が答える。
ほんとうは答える力もなかったのだが、ここで無言で通してしまうと、舐められると思ったのだ。
気管から昇ってきた血が、口の中に溢れたが、気づかれないよう頑張って飲み込んだ。
天子はニッコリ微笑むと、腰に手を当てて、幽香の周りをグルグル歩く。
「そんなにボロボロになってまで、岩を受け止めてくれるなんて、偉いわ」
幽香は天子を目で追う。
天子は幽香から染み出した血溜りをぴょんと避けた。
「でも本当に大丈夫? あんなに大きな岩を、馬鹿正直に受け止めるなんて、普通しないわ」
ギリギリギリ。
奥歯を噛み締める音が響く。
幽香は全力で避けようとしたのだ。
少し間に合わなかっただけなのだ。
でも、そんなことは言えない。
「それとも自信があったのかな? こんな攻撃へっちゃらよー、ってね」
「そ、そうよ」
助け舟のような天子の言葉に、幽香はふふんと笑いを浮かべた。
顎を上げて鼻を鳴らす仕草をすると、頭がふらふらとして、幽香は思わずよろけそうになった。
震える膝に渾身の力を込めて、なんとか踏ん張る。
耐えることができた。
「凄い! 鬼も巫女もそうだったけど、やっぱりみんな強いのね」
ササっと幽香の正面にまわった天子は、血の滴る幽香の顔を、上目遣いで覗き込んだ。
賞賛の混ざった瞳。
幽香は引きつった笑顔で、天子を見ていた。
身体に損傷がなければ、八つ裂きにしてやるのに。
「……ホントに平気なのかしら?」
「ええ、あなたの攻撃なんて効かないわ」
ボロボロの服装に、ふらつく姿。
どう見ても満身創痍だ。
天子は悪戯っぽい視線で、幽香の身体を軽く押した。
「ほら」
「ああああ──」
バタリ。
手をバタバタと振り回し、幽香は地面に崩れ落ちる。
指で押されただけなのに、幽香にとっては銃弾を喰らったような衝撃に感じられた。
「やせ我慢しちゃって、もう」
大の字に倒れた幽香を見て、天子はクスクスと笑いを漏らした。
幽香は地面から、天子を睨みつける。
この小娘が!
尻の青い小娘に、いいようにやられている自分が口惜しい。
平和ボケした幻想郷に馴染んだ幽香は、突然こんな目にあうなど思いもしなかったのだ。
「さあさあ、起き上がって。次は私と弾幕ごっこで勝負しましょ」
「……ぅぅ」
「どうしたの? これくらいの傷、たいしたことないんでしょ?」
「勿論よ!」
天子の挑発を受けて、幽香は無理やり身体を起こそうとする。
弾幕ごっこなど出来そうにもないが、妖怪のプライドにかけて、拒否することは許されなかった。
全身がこわばったように痛い。
少しは回復したのか、今度は全力を出さなくても起き上がれそうだった。
両腕を地面について、重力に抵抗する。
ゆっくりとゆっくりと、足に力を込めて、折れた骨を庇いながら……。
ノロノロと起き上がる幽香を見て、天子の視線に剣呑な光が射した。
あからさまな失望が浮かぶ。
地面に付いた幽香の腕を、天子が足で払った。
「きゃ!」
再び地面に倒れる幽香。
天子をきっと睨みつけるが、見下ろす天子の視線は冷たい。
「みっともない姿。私の勘違いだったかしら」
「このっ!」
「もういいわ。虐めちゃってごめんなさい。ゆっくり休んでね」
「待て! 待て! 待ちなさい!!」
幽香の頬に、さっと朱がさす。
興奮したため、頭部から流れる血の勢いが増した。
見下される事が何よりも許せない。
長年生きた妖怪の矜持にかけて、戦ってみせる。
背を向けた天子に、幽香は怒声をあげた。
「やるわよ! 勝負してあげるから、待ちなさい!」
必死に叫ぶ幽香の声に、天子が再び振り返った。
お尻の辺りで手を組んで、前屈した姿勢で幽香を見下ろす。
「ふーん、そう。だったら早く起きなさいよ」
小娘が! 小娘が!
幽香は内心毒づきながら、必死で身体を持ち上げる。
ノロノロと立ち上がり、膝を地面に付いたとき、天子が再び幽香を蹴った。
肩を突いた前蹴りに、平たくなった向日葵の上を、幽香の体が一回転。
「うあっ」
「ほら、何のんびり立ってるのよ。私を苛つかせないでちょうだい」
「ぎ、ぎ、ぎ!」
「ほらぁ、ゆーかちゃん、しっかりひとりでがんばって」
「畜生!」
幽香が起き上がろうとするたび、天子はそれを邪魔した。
踏みつけてみたり、払ってみたり、押し倒してみたり。
達磨の置物で遊ぶ子供のように、幽香を転がして、天子は遊んでいた。
「あー、弱いものいじめも、楽しいかも知れない」
幽香を踏みつけて、天子が楽しそうに呟く。
足元の幽香は、されるがままになっていた。
幽香は考える。
コイツだけは許せない。
でも、身体は回復していない。
あと少しだけ時間があれば。
あとほんの少し……。
見てろよ、この小娘め。
幽香の心は、楽しい復讐をひたすら考えていたのだった。
調子に乗った天子は、すまなさそうな表情で、幽香に語りかける。
「ごめんね、酷いことしちゃって。でも、あなたが構ってくれないからいけないのよ」
ハの字に曲がった眉毛と、嘲笑を湛えた口元が、幽香を見下していた。
天子は足をグリグリと動かす。
傲慢な天子は、幽香の身体を踏みつけて、次の遊び相手になる妖怪の姿を、想像しているのかもしれなかった。
突然、幽香が手を上げた。
くずれた手から、白い光が発射される。
幽香が時々使う、極太のレーザーとは程遠いが、天子の顔面を消し飛ばすには充分の太さだった。
幽香の上に乗っていた足が傾いて、地面に倒れた。
「愚かな小娘め」
全力を使い果たした幽香は、感情のない声で呟いた。
殺そうとするものは、殺される覚悟を持つということ。
不意打ちを喰らった幽香は、自分も不意打ちで返したのだ。
何のためのスペルカードルールなのかと、幽香はひとりごちる。
こんな方法に頼るしかなかった己を幽香は恥じた。
いよいよ全力を使い果たした幽香は、しばらく地面から動けそうになかった。
「今のが始まりの合図かしら?」
聞こえるはずのない声が、幽香の耳に入ってきた。
油のきれた機械のように、ぎこちなく首を傾けると、帽子の埃を手で払う天子の姿が見えた。
「……」
幽香は口をぱくぱくと開けて、天子の姿を呆然と見つめる。
完全に殺すつもりではなった攻撃に、なぜ小娘が生きているのかと、理解できないようだった。
「どうしたの? 弾幕ごっこ、やる気になったんでしょ?」
「そ、そんな……」
天子は冷徹な表情で言葉を紡いだ。
「無念無想の境地にいる私に、生半可な攻撃はきかないの。でも、帽子は飛んじゃった」
少しこげ後の付いた帽子を、天子はかぶりなおした。
「さぁ。次は私の番よね、ゆーかちゃん」
「い、いや。嫌!」
天子の視線に死の匂いを感じる。
耐え切れなくなった幽香は、いやいやをするよう両手で顔を隠した。
天子がいざ弾幕を発射しようとしたそのとき、天子の背後から幼い声が聞こえた。
「やめて!」
天子が後ろを振り向くと、小さな妖精たちが集まっていた。
幽香がよく向日葵畑で話をする妖精たちだ。
「あららら」
天子は嬉しそうに、驚きの声をあげた。
楽しそうにつりあがった天子の眉は、今度は何が起こるのかしらという、期待を湛えたものだった。
「お姉ちゃんを虐めるな!」
先頭に立った、少し身体の大きな妖精が強く叫ぶ。
大きな妖精の背中には、サイズの小さい妖精たちが、怯えの混ざった、しかし勇気のこもった視線で、天子を睨んでいた。
「妖精ごときが、何だって?」
「お姉ちゃんを虐める悪い奴は、許さないんだから!」
精一杯の妖精の叫びに、天子はたまらなく面白いという表情をした。
幽香と妖精を交互に見て、にやにやと意地の悪い微笑みを浮かべる。
「へぇ、どう許さないの」
「お姉ちゃんの代わりに、私たちが、た、たた、倒してやる!」
「わはっ」
天子は絶頂を感じたような表情だ。
ぞくぞくと震える身体を抱きしめて、幽香の傍にしゃがむ。
顔を隠した両手を広げて、怯えた幽香に一言。
「ねぇ、いまどんな気持ち? 妖精に庇われて、どんな気持ちなの? 教えてちょうだい」
心底楽しそうな天子とは対照的に、幽香は真っ青な顔をしていた。
真っ青な顔で、妖精たちを見つめていた。
自負心の高い幽香にとって、もっとも弱い妖精たちから、妖怪の自分が庇われるなんて、あってはならないことだった。
恥ずかしさと憤りで、頭の中がグルグルする。
いっそこのまま、死んでしまいたいと思った。
幽香の表情を見つめていた天子は、妖精たちを振り返ると、降参だというふうに両手を挙げた。
「わかったわ。今日のところはもう帰るわ」
「うん」
ほっとした表情の妖精を一べつして、にやにやと笑いながら、天子は足元の幽香を見た。
全てを承知したように、倒れる幽香の耳元にそっと言葉を注ぎ込む。
「強い仲間に庇ってもらえて、あなたは幸せモノね」
「うああ! うあああああああああ!」
「今日は許してあげる。また今度ね」
天子はるんるんとスキップするように、空のどこかに飛んでいった。
天子はきっと、ご機嫌で眠れるだろう。
地面に倒れた幽香は、違う、違うと呟いていた。
赤子のように丸くなって、膝を抱え込んだ。
「お姉ちゃん大丈夫!?」
妖精たちが駆け寄ってくる。
優しいいたわりの感情に触れて、幽香は本当に死にそうだった。
おわり
極楽
- 作品情報
- 作品集:
- 2
- 投稿日時:
- 2009/08/07 11:20:19
- 更新日時:
- 2009/08/07 20:20:19
- 分類
- 風見幽香
- 比那名居天子
- NDK
私にもありました
てんこかわいいよてんこ
強いお友達がいっぱいいるからゆうかりんは弱くないよね
しょうがないよね
まあいいか、低速だからしょうがない。
てんこの性格も天人だからしょうがないよね。
ところで「おわり」までの空白の6行で何が行われたのか……
自分はがんばった妖精さんがボッコにされる展開を想像してしまって
本気で辛い気持ちになってしまったのだが
こんな萌え作品に出会えるとは
まあ二次がアレなだけで実際これが実力差でも不思議はない。
過大評価No.1ゆうかりんvs過小評価No.1てんこちゃん。