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『常識』 作者: 名前がありません号
早苗。鬼というのは高潔で誠実な妖怪だ。誰よりも純粋な妖怪だ。
早苗。鬼は妖怪であるが、人間と共にありたいんだ。彼らの勝負にはしっかりとした意味があるんだ
早苗。鬼は強い。とても強い。彼らは嘘をつかない。誰にも媚びない。それが鬼だ。
早苗。鬼という存在はとても気高い。その有り様は人間にはないものだ。
早苗。鬼には敬意を払いなさい。それが人間と鬼の間柄というものだよ。
はい、わかりました。八坂様。
私はそう教わってきた。
私はそれを信じてきました。
そして今日、私は伊吹萃香という鬼に裏切られました。
私は八坂様の命を受けて、博麗神社の様子を見に行った時の事です。
私には想像のつかないモノが写っていました。
「れ〜むぅ、一緒にお酒のも〜よぉ〜」
「昼間から、お酒なんて飲めるわけないでしょ、私には仕事があるのよ仕事が」
「仕事ったって、どうせ境内の掃除とお茶を飲んでるだけでしょ」
「立派な仕事じゃない」
理解するのに時間がかかりました。
私の眼前に広がっていたのは、境内の掃除をしている霊夢さんの姿と、
酒を飲み、ニヤニヤと表情を崩して姿相応の声で甘えている角の生えた人でないモノでした。
衝撃を受けました。眼前の光景は嘘ではないかと思いました。
何度も頭の中で否定しました。でも目の前の光景は現実でした。
あのような姿をしたものは私は一つしか知りません。
鬼です。理解したくないですがあれは鬼です。
八坂様から伝え聞かされた鬼とは余りにもかけ離れた姿でした。
「あら、早苗。いらっしゃい……どうしたの? 顔が真っ青よ」
「あ……ああ、大丈夫です…霊夢さん、そちらの方は?」
「ああ、あんたは初めてだったわね。ほら萃香、彼女がさっき言ってた幻想入りしてきた」
「ふぅん、あんたが新入りの人間か」
萃香という人でなしが語りかけてきました。
できれば鬼だと言って欲しくありませんでした。
しかし現実は非情でした。
「鬼の伊吹萃香だよ、よろしく」
「鬼……ですか?」
「ん、知らないのかい?」
「い、いえ……凄いですね。鬼だなんて」
萃香さんは自ら鬼と名乗りました。
最早、どう言い様もありません。
信じたくありませんでした。
八坂様から聞かされた鬼と真逆としか言いようのない様は、
私に酷い落胆と脱力感を生みました。
信じていたものと現実とのギャップの前で、
私はただただ、どうしようもなくなってしまったのです。
その後、霊夢さんと世間話や信仰の状態について話すと、
私は足早に博麗神社から立ち去りました。
霊夢さんはいつもと様子が違う私を心配して、
守矢神社まで送ろうかと言ってくれましたが、
大丈夫ですと断りました。
一刻も早く伊吹萃香という妖怪から離れたかったのです。
目に映したくもなかったのです。
存在を認識することすら、私には許せなかったのです。
それからの私は出来る限り、萃香さんと鉢合わせしないようにしました。
嫌な思いをするのなら初めから会わなければいい。
そう思っての行動でした。
そんな気配を感じ取ったかどうかは分かりません。
そんな私の思いを踏みにじるように彼女は私の前に現れたのです。
彼女は、何故私を避けるんだ、何故私の姿を見ようとしない、と何度も質問されました。
私は適当な答えではぐらかし、人里や守矢神社に逃げるようにして彼女を避けました。
そうした行動を続けていくうちに、萃香さんは煮え切らない私の態度に、
私を結界に閉じ込めてしまいました。萃香さんと二人きりの状態にさせられたのです。
彼女は何度も同じ質問を繰り返しました。
そして私は全てを諦めて言いました。
「―どういう意味だ?」
「もう一度言います。私には貴女が鬼とは到底思えないのです」
「へぇ、随分と大きな口を叩くね。礼儀も知らないのか」
「何度だって言います。私は貴女を鬼と認めない」
萃香さんの顔がどんどん険しくなっていくのが分かりました。
もしかすると殺されるかもしれません。
それでも私は言葉をとめることができませんでした。
「随分とはっきり言うんだね。じゃあ、お前にとっての鬼が何なのか教えてもらおうか」
その質問をされた時。
私はその質問に違和感を覚えました。
そして私はこう言ったのです。
「そうですね。もしあなたが本当の鬼だというのなら、服を脱いでください」
「な、何言ってるのよ! そんなこと出来るわけないじゃない!」
「じゃあいいです。鬼じゃないってだけですから」
「大体なんでそれで鬼の証明になるっていうんだ!」
「いいんですよ、脱がなくても。鬼じゃないんだから脱ぐ必要はありませんよね?」
「人の話を聞け!」
「聞こえませんね。人じゃないですし、ただの妖怪でしょう?」
「お前、殺されたいの?」
「殺すならどうぞ。でも私は鬼に殺されるわけじゃありません。鬼でもない妖怪に殺されるだけです」
「………」
「どうぞ殺すならお好きなように。でも残念です。鬼を騙るのにこんな程度の事で怒るとは、鬼の器も知れていますね」
身体はビクビクと震えていました。
死の恐怖が近づいていると分かっていました。
それでも私は言葉を放ち続けました。
どうせ死ぬのならば、ここで全てを吐き出してしまおう。
半ば自棄になっていたのかもしれません。
「……わかった、脱ぐよ。脱げばいいんだろ!」
その言葉を聴いた瞬間、私は伊吹萃香がなんであるかを理解しました。
その瞬間、私は自らの淡い期待さえも裏切られた気がしました。
「え? いいんですよ、鬼じゃないんですから脱ぐ必要ないでしょう?」
「うるさい。私は鬼だから脱ぐんだ!」
半ば自棄になったように服を脱いでいく萃香さん。
そうしている様を見ていて、私は非常に空しくなっていました。
全ての服を脱ぎ、私の前に立つ萃香さんの姿を見て、さらに自分の中の何かが空っぽになるのを感じました。
「おや、本当に脱いでしまったんですね」
「これで私が鬼って分かったろ」
「ええ、良く分かりました。やっぱり鬼じゃなかったんですね」
「な、何を言ってるんだ! お前は脱げば鬼だと言ってたじゃないか!」
「ええ、言いました。でも良く考えれば変ですよね。鬼が人間の言う事聞くのっておかしいですよね。勝負すらしてないのに」
私はそう萃香さんに言い放ちました。
驚愕した萃香さんの顔を見て、さらに私は彼女に失望していきました。
失望と空しさを抱えながら私は彼女にさらに言い放ったのです。
「こうして服を脱いでまで、自分が鬼だと自称したかったんですね」
「私は二柱の神より古来より鬼は誠実で高潔な生き物だと教わりました。ですが貴女は鬼であることを自称したいがために服を脱ぐなんていう、高潔さに欠ける行動を取りました。その時点で貴女は鬼を騙る資格なんてないんですよ?」
「な、な……」
「貴女は鬼ではない。貴女は鬼の真似事すら出来ないただの妖怪です。鬼の面子に泥を塗るようなものだとわからないのですか?」
「お、お前ぇぇ……」
「私を殺しますか? 構いませんよ。私はあなたが鬼でないと分かった以上、私は貴女を恐れません。鬼を騙る事しか出来ずに神社に入り浸って腑抜けているような貴女など恐れるに足りない!」
「鬼としてのプライドもなければ、鬼であることを証明するがために人間に媚を売るとはどういうことです! 恥ずかしいと思わないのですか! 鬼ならば私の要求ごとき突っ撥ねるぐらいできるはずです! でも貴女はそれをしなかった! これ以上に貴女が鬼でないという証明がありますか!?」
「こ、このうそつきめぇ!」
「否定はしません。私は人間です。嘘をつく事だってあります。嘘をつかないなどとは言いません。しかし、その嘘で心を乱すなど鬼にあるまじき行為ではないですか! 貴女に私を断ずる資格などありません! 貴女は鬼の面汚しです!」
「貴女のような鬼など私は絶対に認めません! 貴女には鬼の高潔さも誠実さも何もかも足りていない! ただ力が強いだけのただの妖怪だ! これでもまだ貴女は鬼を名乗ろうというのですか!」
「自分の事を鬼だなどと一言でも私の前で口にしたら、私は全身全霊を持って貴女が鬼であることを否定します。たとえ貴女に殺されても絶対に否定します。たとえどんな罰を受けても!」
「もう、二度と私の前に現れないで下さい。これ以上、私の信じてきたモノを壊さないで下さい……」
早苗は勢いに任せて、萃香に対して言葉をぶつけていったが、最後には泣き出してしまった。
萃香はあれほど好き放題に言われて、プライドを傷つけられ、怒りに任せて目の前の早苗を形振り構わず殺してしまおうとすら思っていたのに。
最後の言葉を聞いてしまった時、自分の中から何かが抜け落ちる感覚がした。
否定できなかった。
早苗の言葉は感情的で主観的なモノでこそあったものの、彼女が思い浮かべる鬼とはとても高い位置にあるものなのだ。
それは彼女が信奉する神に教えられた事で、より強固になっていった。
今の自分と彼女のイメージ。
余りにもかけ離れていた。
薄々感づいてはいたのだ。自分がどんどん腑抜けていっている気がしてはいたのだ。
しかし、心のどこかでこのままでいいやという感情があった。
それは霊夢と共にいたことで、幻想郷という世界にいたことで、
よりその感情が強くなっていき、自分がどういうものであるかを失念しかかっていた。
そう考え始めると、萃香は早苗を殺すことは出来なかった。
強い鬼を、気高い鬼を、誠実な鬼を。
古き時代のあの鬼を求めてくれている人間が目の前にいるのに。
自分は余りにも不甲斐無かった。
彼女を殺す権利が自分にはない気がした。
そして萃香は何も言わずに霧になって、早苗の前から姿を消した。
それから萃香さんの姿を見たものはいないそうです。
風の噂では地底の鬼の国に帰ったとも、天界に入り浸っては酒宴を繰り返しているとも言われています。
萃香さんが私の目の前から姿を消しても、私の中の空しさは消えないままです。
子供の頃に八坂様が教えてくれた鬼の話。それがぽっかり私の中から消えたような気がしました。
その時、私は幻想郷を理解したような気がしました。
この幻想郷では常識(イメージ)に囚われてはいけないのですね。
萃香虐めがしたくて書きました。
よくネタにされてる言葉だけど、
こういう解釈をしてみると、なかなか洒落にならない言葉だなぁ。
名前がありません号
- 作品情報
- 作品集:
- 2
- 投稿日時:
- 2009/08/12 17:22:26
- 更新日時:
- 2009/08/13 02:32:42
- 分類
- 萃香虐め
- 早苗
- 常識
とりあえず俺も、服を脱いでくださいって言ってきますw
竜宮の使いであるイクさんも現実ではグロいよ。
戦わなきゃ、現実と。
萃香を精神崩壊させてスーパー早苗さんタイムが始まるかと思ったのに
萃香虐めは希少だし話も面白かったから満足
そういったものも見てみたいです。
早苗に悪意がなく真っ正直に否定した分萃香にゃ痛かったろうな